※この作品はR-18です。

Lower ~魔族に支配された世界の反逆者~   作:瑠璃色砂糖月

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1章『犬面人』
1話「自由戦士の嘲笑」


 人間と魔族の戦争。

 敗北寸前の人間の数は著しく減っていた。

 魔族に支配された国では奴隷や食糧となる人間が絶命しないように、ある程度繁殖が許されている。

 また、支配から解放された国でも人間の数が増えるように法律が定められている。

 養えるのであれば、夫や妻をいくらでも作ることができる一夫多妻制や一妻多夫制といった制度。夫婦を増やすための見合いの場や出産時の手助け、子供を健康に育てるための施設。

 まずはパートナーを見つけ、子を成すこと。それが重要だった。

 勿論、その制度で良い思いをする連中は多く居る。それは貴族や下級王子といった者達。好きな女を味見と称して好きなようにできる。孕ましても何も言われない。好き放題だった。

 しかし、妻に、夫にするのならばやはり周囲に影響力がある者が良い。

 

 1番に挙げられるのは自由国「フリーダム」の国民達。

 

 その国の住民は全て歴戦の強者。

 1人でも家系に交われば安泰が約束される。そのため、国に戦士が派遣される度に様々な高貴な者が紹介されるのだ。1人でも国との繋がりを持たせることが出来れば、その立役者に地位と名声が約束される法律がある国もある。彼らも自身の身の安全と権力を確保するために必死である。

 だが、そんな連中が嫌いな自由国の住民も勿論居るわけで……。

 

 今回はそんな国に運悪く派遣されることとなった自由戦士の話───。

 

 

 

*****

 

 

 

 王宮にて。

 とある一室で事に及ぼうとする一組の男女がいた。

「巧いぞ、もっと口をすぼめろ……っ」

「んぶっ……んんっ……!」

 男は煌びやかな貴族服に身を包んでいる。髪は金髪、目は青色。顔つきは男前で彫りが深めである。

 女は給仕服を着た女性だった。つまり、メイドである。腰まで届く髪をツインテールにして丸い眼鏡をかけている。それが彼女のお茶目な可愛らしさを醸し出していた。

 そんな彼女は現在、ソファに座る男の目の前にしゃがみ込み、そそり立つ肉棒にしゃぶりついていた。可憐な唇が自身の口より大きいモノを頬張っている。

 その奉仕に熱い息を吐く男。メイドの後頭部を押さえ、逸物を奥までくわえ込ませた。

「ごっ……」

「射精(だ)すぞ……飲めっ」

 途端、欲望の熱が吐き出される。喉奥を打ち、食道へと流れ込むその液体を咽(む)せながらも何とか飲み込んでいくメイド。苦く男の匂いがする少し粘ついたそれをコクコクと、必死に。やっとのことで飲み干し、口を離せば唾液で口と肉棒の先端が繋がれ、切れる。

「ふう……中々良かったぞ」

「ほ、褒めていただき光栄でございます……」

 この2人、身分差の恋……という訳ではなかった。

 この貴族の男───ウェルゴは好色家として有名である。この国では知らぬ者がいない貴族、ジョルジュ公爵家の出で王からも頼りにされている。その美貌と地位で大抵の貴族の娘やメイドをお手付きにしていた。

「褒美を取らせよう。服を脱げ」

「っ……は、い」

 このメイドも好きで男に奉仕しているわけではない。ただ王宮に遠くから働きに来ただけの田舎の娘である。ここで王から信頼されている男に逆らえばどうなるのか……考えなくとも分かる。

 メイドが震える手でブラウスのボタンを外し、服を脱ごうとしたその時───

 

 バンッ。

 

 ───部屋の扉が開かれた。

「……あ?」

 足を掲げている所を見れば、蹴り開けたのだと容易に想像できる。品のない行動だが、それを咎める余裕が2人には無かった。

 

 美しい純白の人。

 

 肩まで伸びた白い髪、紫水晶(アメジスト)のような瞳。乳白色の柔肌には無意識に触れたくなり、薄桃色の唇には吸いつきたくなる。顔つきも端整、男女共に見惚れてしまうような中性的な美に愛された人だった。究極の「美」の前に性別は関係ないと言われているようなもの。

 赤いシャツ、濃い紺色のズボンには銀の留め具のついた革のベルトが巻かれている。ヒールの無い黒のブーツを履いていた。そんな派手な色合いを隠すように純白のロングコートを羽織っている。

「……この国にはモラルってもんが存在しねぇのかよ」

 美顔を嫌悪で歪める純白の人。それを見て忘我の彼方から戻ってきたメイド。彼女は顔を真っ赤にして胸元を隠すと、美人の隣を横切るように部屋から出て行った。

 残ったのは美人と貴族の男である。

「……おい、お前」

「あ?」

「お前のせいで興が冷めた。この始末、どうつけてくれるんだ?」

「………」

 ウェルゴの晒したままの下半身は今だに反り立っている。むしろ絶世の美人を目の前にして更に硬く大きくなっている。

 あいつのナカにぶち込み、子を孕ませたい。

 ウェルゴは自身のモノを指差しながら命令した。

「こっちに来て跪き、舐めろ。我が陽物を慰めろ。そうすれば今までの無礼を許してやる」

「てめぇの思考回路狂ってんじゃねぇのかふざけんなよ猿野郎」

 ウェルゴは暴言を初めて受けて驚いた。今まで断られたことが無かったのだ。

「……貴様、私が誰だか知って」

「知るかよてめぇみてぇなクソ野郎。モラルもクソもねぇジャリがごちゃごちゃと喚くんじゃねぇ」

 真正面から全て拒絶され、ウェルゴは絶句した。

 美人はウェルゴに背を向けた。

「ちっ、くそが。どいつもこいつも盛りやがって……」

「おい、待て。貴様の名前は……」

 ウェルゴの言葉を最後まで聞かずに美人は去っていく。その顔には軽く青筋が浮かんでいた。それを知らないウェルゴは軽く舌打ちをした。

 

 

 

*****

 

 

 

 ウェルゴは城の廊下を歩いていた。中途半端に滾っていた熱も冷める。

(あいつは惜しかった……無理矢理にでも押し倒していれば最後まで事を成せたものを……)

 ついていない。そう思いながらウェルゴは美人の姿を思い浮かべていた。

 あの白い髪を、顔を汚したい。あのきめ細やかな柔肌で出来た白魚のような指で撫でられたい。あの嫌悪に歪む顔を快楽で塗り潰したい。そう考えるだけで下腹部が膨らんでくる。

「あっ……ジョルジュ様っ!」

「ん?」

 廊下の向こうからやって来る男が1人。王の側近である中年だった。何やら慌てた様子で運動不足の体を必死に動かしている。

「どうしたのです? そんなに慌てて」

「じっ……実はフリーダムからやって来た派遣者が急に帰ると言い出しまして……!」

「何ぃ……?」

 ウェルゴは顔を少しばかり歪めた。

 

 派遣者。

 

 あの魔族をいとも簡単に撃退できるという凄腕ばかりが集う国の民。

 この国では派遣者を妻や夫にした者には莫大な資産と広大な土地、そして地位が約束されていた。

 貴族、王族からすれば派遣者を口説き落とせば将来が約束されるという一大イベントである。

 この男、ウェルゴ=キリュシュト・ジョルジュもそのために王宮へと呼ばれたのだ。

「何とかその場に留まらせていろ。私もすぐに向かう……案内しろ」

「は……はいっ」

 ウェルゴは側近の男に連れられる。その途中でどのように相手を思い直させるか考えていた。

 女なら色気と言葉で巧みに口説くか、男なら莫大な財宝や見目麗しい女を渡すか……。

 そんなことを考えている内に派遣者が留まっている場所……王宮の入り口に到着する。

 大勢の貴族達が派遣者が去るのを必死になって留めていた。派遣者の周囲に群がっているせいで、派遣者の姿が見えない。

「ど、どうか考え直してくださいませんか。我々は困った案件を抱えているのです。あなたではないと解決できないような問題を……」

「おれじゃないと? 違うな、派遣者なら誰でも解決できるような問題だ。おれじゃなくてもいい……違うか?」

「で、ですが……」

「何しも派遣者が来ない訳じゃねぇんだ。次に来るやつに頼めば良いだろう」

「そんな……せめてわたくし共の依頼を聞いてからでもよろしいのではないでしょうか? 国の莫大な財を差し上げても構いません。ですので、どうか……」

「くどい」

「っ……」

「こんな胸糞悪い国の頼み? おれに無礼を働いておいて謝りもしない連中の住まう国を助けろ? ……はっ、死んでもやだね。今度からおれはここに来ないって女王様にも伝えておくから、別のやつによろしく言っといてくれや」

「困ります、どうか話だけでも……」

 話し口調からどうやら男性のようだが、ウェルゴはその声に少し聞き覚えがあった。しかも、つい最近。

 ウェルゴはまさか、と思いながらも己の獣欲が滾るのを感じていた。そこでようやく貴族達がウェルゴの存在に気づく。

「ジョルジュ殿! どうかこの方を思い留まらせてください!」

「あー? ジョルジュだぁ? どいつが来たって結果は一緒……」

 ウェルゴと派遣者の間にいた貴族がいなくなる。2人は顔を見合わせた。

 派遣者の姿……それは、先程の無礼者と同じ容姿をしていた。

「……あなたでしたか」

「てめぇか、さっきの猿野郎」

 片方は歪な笑みを浮かべ、片方は舌打ちをして嫌悪を露わにした。

 

 

 

*****

 

 

 

 派遣者ことロキラは対面した男、ウェルゴを嫌そうな顔で眺めていた。

 盛りがついて手がつけられないような猿……それがウェルゴへの第一印象だった。顔が多少良かろうが所詮は二枚目面。ロキラは少なからず最上位の『美』を体現する者。そして異性に求める『何か』も一般より少し外れている。顔ごときで惹かれる訳がない。

 一方でそんなことを知らないウェルゴは自身の中で1番受けが良い笑みを浮かべていた。今更好感度を上げようとしても上がらないというのに。

「我らが何かいたしましたでしょうか?」

「ほお……? おまえが本気でそれを言ってんなら面白ぇ。あんな胸糞悪いもん見せられて気分を害さねぇとでも?」

 ウェルゴは心の中で舌打ちする。先程のことを根に持っている相手にどう言葉をかけるべきか、必死に頭を回す。

 ウェルゴは嫌々ながら頭を下げた。

「先程の無礼、どうか許し願いたく……」

「さっきは何も言わずにアレを慰めろだの何だの言っていたくせに?」

「………」

「別に責めているわけじゃねぇぜ? そんなことしたってしょうがねぇからな。何の徳にもなりゃしねぇ」

「………」

 ロキラは嗤いもしていない。ただ淡々と相手を粘着質に嬲るような口調と言葉。

 キレている証拠だった。

 不幸中の幸いと言うべきか、ブチ切れては(・・・・・・)いなかったようだが。

「……どれほど支払えばお許し頂けるでしょうか?」

「金貨5000。公爵なら出せなくはねぇだろう?」

 なんだその程度かとウェルゴはにこやかに了承した。

「後、おれに話をしたいなら相談料金貨5000だ」

「はい?」

 ウェルゴは一瞬理解ができなかった。

 今まで何度か派遣者を呼んだことはあったが、そんなことを要求されたことはなかったのだ。

「当然だろ。おれの貴重な時間を割いて嫌々ながらここに残って話を聞いてやるんだぜ?」

 心底面倒そうにため息を吐きながら言うロキラ。

「あ、あと前払いな。今すぐここで。それさえできねぇならおまえらの頭ぶち抜いて帰るわ」

「それは……」

「無視して依頼内容を喋り出したらそいつの口を貫く」

 初めてロキラが表情を変える。相手を嘲るような、馬鹿にしているような、見下しているような、侮蔑しているような。そんな笑みを浮かべ、ウェルゴを手で払う。

「さっさとしろ」

 ウェルゴは必死に笑顔を浮かべるしかなかった。

 後で犯して犯して犯し尽くしてやる。

 どう考えても実現不可能なことを考えながら。

 

 

 

*****

 

 

 

 ロキラの座るソファの足元には金貨10000枚入った大袋が無造作に置かれていた。

 機嫌悪そうに顔を歪めながら、ソファにもたれ掛かり、組んだ足をゆらゆらと揺らしている。

 そんな彼女と対面しているのは国王、そして国王の娘…つまり、姫君である。その周囲をメイド、バトラー、ウェルゴ並びにその他貴族が大勢で囲んでいた。貴族や給仕者達は、そろってロキラに見惚れている。

 神秘的で幻想的な美貌を目の前にしてうっとりとしていた。

 ロキラは目の前の机に置かれているお菓子をパクパクと食べる。どこかやけ食いしているように見えた。

「で? 話は?」

「実は……」

 王は言い辛そうに隣でロキラに見惚れている娘を見た。

「私の娘がどうも魔物に狙われているようなのです」

「気のせいだろ」

「真面目に話しているのです。茶化さないでいただきたい」

「はいはい」

 適当に返事をしたロキラ。

 王によると、最近から何故か姫だけがよく魔物に遭遇して襲われることがあるようだった。国外に出ると必ずと言っていいほど襲われる。それを不安に思った父である王が、今回自由国に派遣を求めたのだった。

 話を聞いたロキラは改めて姫を見つめた。

 長い金髪は艶やかで潤んだ碧眼と上気した頬はまるで恋する乙女。服装はあまり華美ではない清楚なドレス。しかし胸が布地を困らせるほどに豊かで、腰はきゅっとくびれている。臀部にはあまり肉がついていなかったが、それでも充分に魅力的な女性だった。

「で、おまえが姫?」

「は、はいっ。わたくし、アヤサと申します」

「聞いてねぇ。おれが聞いたことだけ答えろ。魔物に狙われるようになったのはいつからだ?」

「……3週間ほど前かと思います」

「襲われる魔物の容貌は? 簡単で良い」

「あ、えっと……身長は低くて、手に棍棒を持っていました。ぼろ衣を着ていて……。あ、顔が犬に似ていたと……」

「ああ、コボルトか」

「こ、こぼると……?」

「それは一体……」

「んん……これは中々良い。どちらかといえば甘いか苦いかが好みなんだが……ありだな、うん」

 王と姫が首をかしげる。一方でロキラは1人納得したように紅茶の風味と味を楽しんでいた。優雅な様子がまるで絵画のようだ。

「顔が犬の魔物だろ? コボルトだな。臆病で慎重、集団行動大好きな犬さんだ。となると……」

 ロキラは嗤った。まるでこの国を卑下するように。

 笑みの意味を知らない王は不安そうにロキラに問いかけた。

「な、何か強力な呪いでもかけられているんでしょうか……?」

「まさか。たかがコボルトだぜ? そんな高等な魔術が使えるわけがねぇ」

 ロキラはからからと笑う。

「では、なんの……」

「マーキング」

「……はい?」

 王が呆けて聞き直す。

 ロキラは紅茶を口に含むと、嗤いながらもう一度言い放った。

 

「ただのマーキング。コボルトが獲物を逃がさないようにする常套手段だな」

 

 犬面人(コボルト)。

 頭部が犬のような魔族である。基本的に臆病で慎重な種族で悪知恵がよく働く。戦闘は基本的に集団行動、しかしゴブリンほどの知能は無いため連携することは稀(まれ)。ちなみに年に数回発情期があり、気に入った他種族の異性がいると性的に襲いかかることがしばしば。その後巣へと連れ去る。

 しかし、その場で犯すことが出来ない、連れ去ることが出来ないと分かると───。

 

「まあ、簡単に言えば『この雌は俺のモノ。いつか必ず迎えに行くからそれまで俺の匂いを付けて待っていろ』ってこった」

 マーキング。

 本来は己の縄張りに匂いを付けて他の生物に理解させるもの。

 それを異性につけたということは……そういうことだ。

「大方、発情期のコボルトに舐められたか、子作り液をぶっかけられたか……」

 顔色を変えずにシモな言葉をかけるロキラ。

 ふと姫に顔を向けると聞いた。

「ちなみにどっち?」

「えっ……?」

「顔面舐め回されたかザーメンぶっかけられたか」

 堂々と下品なことを言うロキラに姫は隣に座る王と顔を見合わせる。彼女はもじもじと手遊びをしている。

「あ、あの……その……こ、後者で……」

「ぶっかけの方だな、りょーかい」

「っ……」

 恥じらいもしないロキラ。わざとである。下品な発言をすれば大抵の輩は寄ってこないのだ。現に貴族の中には眉を寄せている者がいる。いくら見目麗しい美人だろうが品のないことを言えば引かれるし、イメージをぶち壊す。それが本人の狙いだからどうにもならない。

「し、しかし……そのま、マーキングとやらが行われたのは数週間前のことです。何度も湯浴みもしているのに、どうして……」

「おいおい、相手は犬顔とはいえ犬の魔獣同然だぜ? ただの犬だって人間の何百倍もの嗅覚を持つ。コボルトだって自分の精液の匂いとマーキングした雌の匂いを嗅ぎつけられるに決まってる」

「は、はあ……」

 なんとなく納得した王。ロキラは紅茶を飲み干した。

 直後、言い放つ。

 

 

「じゃあ帰るわ」

「はい?」

 

 

「あー肩こった」

 ロキラが立ち上がる。大きく伸びをして首を回している。

「ま、待ってください! む、娘はどうなるんですか!?」

「さあ」

「さあって……」

 小首をかしげるロキラ。

「おれは相談に乗ってやっただけだ。依頼を受けるなんて言ってねぇ」

 確かにその通りだった。ロキラは相談料と慰謝料を貰ったから留まっていただけで、相談が終われば用はない。

「別にほっといていーんじゃねぇの? 発情期が終われば狙われなくなるんだし」

「その間娘は狙われ続けるんですよ!?」

「だから?」

 本当に意味が分からないと言うように目をきょとんとさせるロキラ。その目を見て王は息を呑んだ。本当にどうでもいいと言うような目。同じ人間なのか疑いたくなる、無機質な瞳だった。なまじ容姿が整っているせいで余計に不気味に見える。

「おれには関係ねぇよな? おまえらが魔物を大事なお姫様に近づけたのが悪いんだよな?」

「し、しかし……」

「余所者のせいにされても困るだけだぜ? 余所者におまえらは何を望むんだ?」

 これが最後だと言わんばかりに顎を少し上げて王を見下すロキラ。

「……どれほど支払えば、依頼として受けてくださりますか……?」

「ん~……」

 ロキラは嗤う。嗤いながら指を5本立てる。

「コボルト1匹につき白金貨(・・・)5000。それが払えるなら受けてやろう」

「なっ……」

 あまりの巨額に目を見開く王。

 周りの貴族や給仕者も目を見開いて息を飲んでいる。

 白金貨は製造方法や素材となるプラチナが少ないため、希少な硬貨なのだ。白金貨1枚で金貨数万枚に相当するほどの。基本的に個人で持つ者は居らず、国の資金が白金貨で蓄えられていることが多い。

「は……白金貨を5000枚なんて……それも1体で……」

「コボルト殲滅、1つの巣を潰すなら……まあ、100程度として白金貨500000くらい?」

「ご、五十万……そんなの」

「出せなくはねぇだろう? 国全体から金品巻き上げればそれに近い金は出せるはずだ。つーか、出せよ。国が大事なら」

「っ……」

 平然とそんなことを言うロキラ。そんなに金を渡してしまったら国の経済が破綻する。ただでさえ魔物とその対応に襲われ、色々と苦しいというのに。しかし、出さねば自由戦士は帰ってしまう。

 王の表情から葛藤を読み取ったのだろう。ロキラは小馬鹿にするように嗤いながら言う。

「安いもんだろ。巨額の金を支払うだけで国民が救われるんだから」

「そ、そうだとしても、そんな巨額を出せるわけがないっ……もう少しどうにかなりませんか……?」

 別に出せないことはない筈だ。全国民から絞り出せばどうにかなる金額。別に出せないなら出せないでさっさと帰っても良いのだが……王の必死な形相が面白かったため、ロキラは突っぱねて帰るのをやめた。

「んん? ……そうだなぁ」

 ロキラは周りを見渡した。

 貴族の冷や汗をかいた顔、強張った顔、放心している顔、ロキラと目が合って逸らす者……様々だった。

「どぉ~、しよっ……か、な……ん?」

「っ……」

 1人のメイドと目が合う。

 腰まで届く髪をツインテールにしていた。背が低いが、出るところはしっかりでている。小顔で整ったパーツ、不釣り合いな程に大きい丸い眼鏡をかけている。それがお茶目で可愛らしさを醸し出していた。

 先程、ロキラと出会(でくわ)したあのメイドである。

「んん……」

 ロキラは立ち上がるとそのメイドに向かって歩き出す。貴族並びに給仕者はざわめいた。ロキラがメイドの目の前に立つ。彼女は自由戦士が何故目の前にいるのか分からず、あたふたしていた。

「おまえ、名前は?」

「はひっ……! へ、あの、ま、マリアと申します、はいっ……!」

「マリア。ふぅん……」

 まじまじと下から上まで眺めたかと思うと、メイド───マリアの顎を掴んで引き寄せた。周りから黄色い悲鳴があがる。

「あ、あう……あ、の……」

 リンゴのように真っ赤になるマリア。超至近距離で紫の瞳が自身を見つめている。羞恥と緊張でどうにかなりそうだった。

「んん……いいな、その初心(ウブ)な感じ。……気に入った」

「へ……?」

 ロキラは嗤うとマリアの肩を抱き寄せる。そうしながら王へと振り向いた。

「王様、値引きしてやろう。コボルト1匹で白金貨1枚にしてやる」

「は?」

 かなりの値下げに王は目を丸めた。ロキラは嗤いながら肩を抱いていない方の手でマリアを指差した。

「その代わり、こいつをおれに寄越せ。それが条件だ」

 王は「それでいいのなら」と迷いもせず頷いて了承した。

 

 

 

*****

 

 

 

 王から手配された部屋でくつろぐロキラ。そして彼女から少し離れたところで直立不動のメイド、マリア。

「あ、あの……」

「あん?」

 ロキラが彼女に目を向ければ、もじもじと手遊びをして戸惑ったように眉を八の字にしていた。

「ど、どうして私を……?」

「……かわいいから?」

 首をかしげながら馬鹿正直に言うロキラにマリアはぽんっ、と顔を赤くした。

「そ、そんなこと言わねぇでほしぃですだ……おら、本気にするだよ……!」

「……ですだ?」

「はっ……!」

 ぶつぶつと呟くマリアの声を地獄耳で拾ったロキラ。マリアはロキラの呟きを聞いて顔を更に赤くした。

「すっ……すいません! おら……じゃなかった。わ…私、田舎生まれで、そこの方言が……」

「ああ、方言。なまりってやつか」

 ロキラは納得したように頷いた。

 

 確かに都市から離れ、地方出身の民はなまりを持つことが多い。特に貴族が治めていないような小さな集落や村では独自の言葉が生まれるのだとか。しかし、城下町や大都市では標準語が基本であるため、そうした方言やなまりは蔑まれるのだ。

 

 恥ずかしそうに顔を両手で隠すマリアを見て、ロキラはからりと笑った。

「かわいいじゃねぇか、普通に喋ってみろ。どんな言葉になるのか聞いてみてぇな」

「えっ……いいんですか?」

 顔を上げるマリア。それにロキラは頷くと、彼女はパッと顔を輝かせた。

「じゃ、じゃあロキラさんと2人きりの時は使わせてもらうですだ。とうどうへんてこな言葉遣いになるかもしれねぇだが……」

「そうしろそうしろ。そっちの方が面白い」

 既に少し言葉がおかしい。声のイントネーションも大分変わっている。

 ロキラがそれを聞いて笑う。ようやく機嫌が治ってきたようだ。

「あ、あの……ロキラさん。魔物退治はいつからやるんですだ?」

「そうさなぁ……。とりあえず今はだらだらするわ。それから考える」

「そうだか。……あ、この後昼食の時間になるだか、王様達と、か…会食?するですだ?」

「はあ? 会食ぅ? 面倒だからぱぁす。マリアが作ってくれや」

「えっ……ええっ!? おらがですだか!?」

「おう。おれはちょっと外に出てるわ。じゃ、後はよろしく♪」

 びっくりするマリアを放って、ロキラは部屋から出て行った。

 

 

 

*****

 

 

 

「んあああァあアアぁァぁンっ!! ひんっ! んあああっあ! うウンッッ、~~!!」

 薄暗い部屋で激しい情事が行われていた。

 ベッドの上でガツガツとバックから突き立てられるモノに背を反らす女。玉の汗が弾ければ髪が振り乱される。

「きゃふっ! ゥンッ! ンあああアアアアアアっ!! はひゅ、ぅぐ、ぅぅぅうううっ」

「ふっ……う……」

 ガツンと最奥を肉棒が叩けば、子宮口が先端に吸いつき子種を強請(ねだ)る。直後、望み通り孕ませ液が吐き出された。

「あひぃっ!? だめっ、ナカはっ、ナカはらめなのぉぉおっ!」

「はっ……何がダメだ。下の口は美味そうに子種を飲み込んでいるではないか」

 一層暴れる女性を抱え込み、男は嗤いながら白濁液を注ぎ込み続けた。ガッチリとホールドされた女に逃げ場はない。

「私の子を孕めるチャンスがあることに感謝しろっ……!」

「ホオ″ッッ!?」

 子宮口を押し潰すように更に体重をかければ、容易くオーガズムへと導かれる。亀頭がグリグリと子宮口をこじ開けるように抉れば、女は舌を突き出した。絶頂に次ぐ絶頂により膣内が痙攣している。

 女は絶頂の涙をこぼし、全身を震わせる。

「ごぇ、ごめんなさい、ごえんなざいっ……。わだ、わたし、この人に孕まされるぅぅ……っ! あなたより先にぃ、赤ちゃんっ……あがぢゃんできちゃうぅううっ! あひぃ、ああんっ!!」

 この女…メイドには既に愛すべき夫がいた。しかし、この男に無理矢理押し倒され、熟れた体を奪われたのだ。夫より逞しいモノで蜜壺を掻き回されれば体が屈服する。牝の本能が呼び起こされる。

 ゆるゆると最後まで精を絞り出した男は、再び腰を振り始める。

 女は悦びと哀しみの嬌声をあげた。

 

*****

 

 情事が終われば、男は余韻に浸らずすぐに身支度を整える。女は今だシーツを裸体でくるみ、ぐすぐすと啜り泣いていた。

 男は女を置いてさっさと部屋から出て行った。

 男───ウェルゴはある程度の鬱憤を晴らし、満足そうに王宮内を闊歩する。

(さて……多少欲は収まった。あの戦士をどうやって床に引きずり込むかを考えないとな……)

 ウェルゴはまだロキラを犯すことを諦めていなかった。むしろ彼女を必ず屈服させてやるという意気込んでいた。そんな獣欲を抱かせるほどにロキラは魅力的なのだ。

(とてもじゃないが無理矢理押し倒すことは出来ないだろうな……。男と女とはいえ、相手は鍛え上げた屈強な戦士……魔物すら倒せない貴族が敵うわけがない。かと言って相手は口説きや色気、金品、権力でオトせるような奴でもない……)

 なんともやりづらい相手。

 だからこそ、良い(・・)。

 そういう相手を攻略し、自身の下で喘がせたらこれ以上ない悦びが感じられる。

 ウェルゴは策を練ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……馬鹿だよなぁ、ウェルゴ公爵」

 

 

 

 

 

 それを、既に見破られているとも知らず。




 次回の投稿は未定です。
 見て下さる方が居て嬉しいです。
 亀更新ですが、これからも見て下さると嬉しいです。
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