※この作品はR-18です。

Lower ~魔族に支配された世界の反逆者~   作:瑠璃色砂糖月

6 / 10
※自慰表現(男)があります。
 苦手な方は飛ばし読みしても構いません。


3話「嫌いだから殺す」

 マリアは怯えていた。

 後ろで手を縄で縛られ、ベッドの上で目を見開いていた。

 彼女の目の前にはウェルゴだけではなく、ウェルゴと親しい貴族達が3人いた。その3人もロキラの美貌に目がくらみ、体だけでも堪能したいと思っていた。

「ウェルゴ殿、本当に派遣者殿はここに来るのか? こんな田舎から来たメイドのために」

「来なかったらこのメイドを好きにして良いんだよな?」

「っ……」

 ねっとりと体を視姦され、マリアは体を強張らせた。

 一方でウェルゴはにやりと笑う。

「勿論だ。派遣者殿はこのメイドを大層気に入られていてな」

「ほお……? もしかしたら、派遣者殿は女が好きなのかもしれんな」

「ははは、違いない」

 貴族達は嘲笑した。

 そのロキラを馬鹿にするような言葉と笑みにマリアは表情を厳しくさせた。

 ロキラはそんな人ではない。貴族達のように自らの性欲のために動くような人間ではない。そう言いたかった。しかし、メイドごときが貴族に楯突くのは許されないことだった。だから、マリアは心の中で罵倒するだけで留めた。

 

 扉が叩かれる。そして、開いた。

 

「ロキラさん……!」

「よう、マリア。まだ何もされてねぇな?」

 

 天上音楽のような声が鼓膜を優しく揺らす。マリアは涙ぐみながらコクコクと頭を縦に振った。感動で声が出ないのだ。本当に助けに来て貰えるとは思っていなかったから。

 マリアの様態を見てようやく安堵するロキラ。しかし、後ろに居た貴族達から押されて、再び顔を歪める。舌打ちしながら前へと歩み、部屋の中へと入った。これで貴族はウェルゴを含めて6人。

「これはこれは派遣者殿。魔物の討伐、お疲れ様でした」

 ウェルゴが実に良い笑みでロキラに話しかけた。周りの貴族も笑っていたが、目が血走っている。

「さぞかし疲れたでしょう。……どうです? 我々があなたを楽しませ、疲れを癒して差し上げましょうか」

「おい、おれが来たんだからいいだろう。マリアを解放しろ」

「それは聞けないお願いですね」

「……あ?」

 ウェルゴは圧倒的優越感を感じていた。笑ったまま出来の悪い子に教えるようにゆっくりと話し始めた。

「我々の戦闘力では太刀打ちできないことは分かっています。仮にもあなたは自由国から派遣された自由戦士。力の差は歴然。そんなあなたと我々だけでは少々不安が生じる」

「人質、ねぇ……」

 ロキラはため息を吐いた。それを見たウェルゴは更に頬を吊り上げる。

「分かりますか? だからあなたはここでそこのメイドに見られながら我々の相手をしなければいけないのですよ」

 ロキラの体を舐め回すように見つめる全員。テントを張ったズボンは興奮が隠し切れていない。

 ウェルゴは丁寧な口調は崩さず、マリアがいるベッドを指差した。

「お分かり頂けたら、服を脱いでベッドの上へどうぞ。一応媚薬も用意していますので、そちらの方も服用なさってください」

 机の上に小瓶が置かれている。中に入っているのは桃色の液体。ただの媚薬ではない。一般人なら一滴摂取すれば乱れ狂う、強力な媚薬である。しかも、誰かの精液を飲まなければ媚薬を中和できない最悪な代物。これを一口でも飲めば精液を飲むまで体が敏感になって仕方がない。

「………」

 ロキラは少しの間目を瞑って沈黙していた。そして、ゆっくりと深呼吸をする。抱かれる覚悟をしているのだろうか。貴族達はロキラの様子を見て楽しんでいた。

 ロキラはゆっくりと目を開くと、まずマリアに微笑みを向けた。

「マリア、目ぇ瞑ってろ」

「……へ?」

「おれが良いと言うまで絶対に瞑ってろ。いいな?」

 念を押すようにロキラが言えば、マリアは頷いて目をギュッと瞑った。それを確認して、ロキラは腕を上げる。

 ようやく脱ぐのか。メイドに目を瞑らせたのは恥ずかしいからか。焦らされるような感覚に全員がロキラの動きを注視する。

 ロキラが赤いシャツのボタンに手をかけ───

 

 ───何かを弾いた。

 

 プツッ。プツッ。プツッ。

 

 貴族達が奇妙な音に首をかしげる。ウェルゴの後ろに居た3人の貴族が胸に違和感を感じて自身の体を見下ろすが、特に異変は無い。

 しかし直後、胸から血を吹き出して3人が倒れた。

「なっ……!?」

 ロキラはシャツのボタンを外す振りをしながら服に付着していた砂粒を骨と筋肉の隙間を通して3人の心臓……大動脈に向かって放ったのだ。大動脈に穴を開ければ、後は自身の拍動と血流圧で勝手に裂け目を広げてくれる。その結果、大量出血で貴族の3人は絶命したのだった。

 しかし、それが分からない貴族達は突然倒れた仲間に目を向け、見開く。

 ロキラは死んだ3人に全員が注意を向けている内に、後ろに居た2人の無防備な頸に指を添え、爪で(・・)頸動脈を切った。邪剣の身体能力向上の加護は馬鹿には出来ない。武器が無くともその身1つで人間を殺傷できるのだ。

 2人も頸から大量の血を吹き出して、地面に倒れ伏した。大量出血で間もなく死に至るだろう。

 一瞬にして仲間を失ったウェルゴはただ目を見開き唖然としていた。

「き、貴様おぶぅっ!?」

 ロキラがウェルゴの瞬(まばた)きの瞬間間合いに入り、顔に軽い一撃を加える。相手は戦闘のせ(・)の時も知らない貴族で彼女は戦士。いくら軽いとは言え、相手の顔面をへこませるだけの威力はあった。が、気絶をさせるには至らない。殺さず、気絶させないようにかなり手加減されていた。

「ぶほっ……ごっ……げほっ、げほっ!」

 顔から血を垂れ流して地面に伏せるウェルゴには目をくれず、ロキラはいまだに目を固く閉じているマリアの元へと向かう。

「っ!」

「マリア、まだ目ぇ開けんなよ」

「っは、い…!」

 ロキラがマリアを抱き上げれば、彼女は身を強張らせる。声をかければ明らかに安堵してロキラに身を委(ゆだ)ねた。

 マリアをお姫様だっこしたまま、ロキラは部屋の外へと出る。マリアを降ろした後、「目を開けていいぞ」と許可を出した。

 マリアはすぐさま目を開いてロキラに抱きつく。体は震えていた。

「……悪かった。あの猿野郎がまじでここまでする奴だとは思ってなかった。おれのミスだ」

「だい、じょうぶだっ。だって、ロキラさんが、助けに……!」

 イントネーションがおかしい。口調を気遣う余裕はマリアには無かった。ロキラはマリアを抱きとめたまま、彼女に提案する。

 彼女を見たときからそうしようと思っていたことだ。

 

「おれと一緒に来ねぇか?」

 

 その言葉にマリアは涙で潤んだ目をパチクリさせた。ロキラは続ける。

「おれの屋敷でメイドとして働かねぇか? 休みも取らせるし村にも帰りたいときに帰らせる。おれの屋敷に居る執事もメイドもまあ……ちと変わり者が多いが、それでも身の貞操を狙われることはねぇ。給料も支払う。……どうだ?」

 マリアの髪を梳きながらロキラが聞けば、マリアは大粒の涙をこぼしながら大きく頷いた。

 断る理由が無い。

「ぉ…おそばに、おいでくだざいっ……!」

 マリアの答えにロキラは破顔した。

「そう来なきゃな」

 ロキラはマリアを離すと、元来た道を指差した。

「先に部屋に戻ってろ。あ、身支度も済ませてな。王様にはおれから話を通しておくから気にするな」

「ロキラさんは……?」

 不安そうにロキラを見上げるマリア。ロキラは部屋を指した。

 

「おれはまだやることがある」

 

 マリアはそれ以上何も言わず、ただ頷いて廊下を小走りした。

(サンキュー、ウェルゴ公爵)

 マリアの後ろ姿を見ながらロキラは小さく嗤う。

(思い通りに動きすぎて逆に怖くなるぜ。おかげで良いメイドが1人、楽に手に入った)

 全て分かっていた。

 ウェルゴが仲間を集めていることも、マリアを1人にすればウェルゴが接触することも、貴族をメッセンジャーとして部屋に置いておくことも、ウェルゴが人気(ひとけ)が全くない場所で自身を犯そうとすることも。

 全て見通していた上で、ロキラは彼のシナリオに乗った。

 最終的に全て自身の好きなようにできると知っていたから。

 小さくなるマリアの後ろ姿をしばらく眺めていたロキラだが、すぐに部屋の中へと戻った。

 最後の工程だ。

 いくら思い通りにいったとはいえ、ウェルゴに苛ついているのは事実。どのように殺そうかと思いながら、彼女は扉を開ける。

 

*****

 

「ぶぁ……っぐ、ぶ、ぶれいもにょっ…! ゎ、わたひを、だれだと……!!」

「権力と地位高めの万年発情期牡猿野郎だろ?」

 ロキラは扉を閉めた後、顔を押さえるウェルゴを見下ろした。ウェルゴの顔を押さえる手の間から血がだらだらと流れている。鼻は潰れ、前歯が逝って地面に白い欠片が落ちている。

 絶対零度の眼差しを受けてウェルゴは怯えたが、それでも彼女を睨んでみせた。顔がへこんでいるため間抜け面ではあるが。

「ぉ、おぼえていりょ、ひょ……! あ、あとでかにゃらじゅ、おうにつげて……!!」

「なあ、1つ聞いていいか?」

 ロキラは机の上に置かれたままの媚薬の小瓶を手に取り、弄(もてあそ)びながらウェルゴに近づく。

「これからもお世話になる自由国の戦士であるおれの言葉と、国の防衛もできない換えなんかいくらでもきく貴族の1人……どちらが王にとって今後の徳になると思う?」

「なっ……」

「猿だから理解できるか心配だなぁ? 自分の立場を鑑みられるかなぁ?」

 ウェルゴは愕然とし、ロキラはくつくつと喉で嗤いながら小瓶の蓋を開け、匂いを嗅ぐ。そして、苦笑する。

「……これ、相当強い媚薬だな。一口でも飲んだら1日は腰振りっぱなしになるやつじゃねぇの? これと似たやつをおれの悪友が持ってた気がするわ」

「にゃっ……なに、を……ぉごっ!?」

 ロキラはウェルゴの顎を掴み上げ、無理矢理口を開けさせた。

「なぁに、大したことじゃねぇよ」

 その顔には笑みが浮かんでいた。悪企みを考えているような、悪寒がする笑みを。

「これにどんだけの効果があるか試すだけだ」

「は、はひゃか……ごぉおっ!?」

 ロキラは蓋が開いたままの小瓶をウェルゴの口の中に突っ込んだ。桃色の液体が彼の口内に落とされ、喉奥へと侵入する。

「ごあっ、ご、ぉお! ごぼぉっ!?」

「あは。なんて言ってんのか全く分かんねぇ。頼むから人語を喋ってくれよ」

 ウェルゴが手に渾身の力を入れてやめさせようとするが、全く意に介していない。顎を掴む手に外れる気配も無いし、暴れても相手はにこにこと嗤っているだけだった。ロキラは自由戦士なのだ。筋力なんて一般人より並外れている。

 吐き出そうとするが顎の関節は上手く押さえられ、天井を向かされているので零れることも無い。

「ほら、飲めよ」

「ごぼっ!」

 更に鼻を摘ままれると飲む以外に選択肢は無い。

 苦しみから逃れるため、ウェルゴは駄目だと分かっていながら媚薬を飲み干した。ウェルゴが口呼吸をしているのを見て、ようやくロキラは手を離す。

「げぇっほ! ごほっ! ぐふっ、ぅぐ…!」

「さてさて、どれだけエグい効果の媚薬をおれに飲ませようとしたのか……」

 空っぽになった小瓶をポイと捨てながら呟くロキラ。

「はっ……ふっ……ぉ、あ」

 ウェルゴは全身が火照るのを感じる。少し経てば大量の汗を掻き始めた。次いで、全身が敏感になった。

「ぁ、ぐ……ぅ、うう……!」

 汗で体に纏わり付く下着にもどかしさを感じ始めた。ざらついた生地の感覚が気持ち悪いのか気持ちいいのか……判断がつかなくなってくる。

「ふっ、ふっ、ふぅぅ………」

 熱が増し、それが股間に集中し始めた。亀頭がズボンを押し上げれば、先端と下着と擦れた快楽に腰が跳ねた。そのまま腰がカクカクと無意識に動き出せば、それをベッドに腰かけ見ていたロキラが嗤う。

「はは、気持ち悪ぃ」

「うっ……っ~~! っっ!」

 天上音楽のような声で嘲りの言葉がかけられると、ウェルゴの全身に電流が奔った。いまだズボンに収まったままのソレの先端から白濁液を噴き出した。じわりとズボンが濡れていく。数度彼の体が痙攣した。

 それを見てロキラは小首をかしげる。

「……まさか、もう射精(だ)したのか?」

「~~~っ! っはぁ、ああっ……!」

「早漏だと嘲るべきなのか、それともクスリが凄いと感心するべきなのか……分かんねぇな」

 ロキラは足を組みながら考えるように顎に指を添えるが、すぐに手を離して腕を組んだ。

「まあいいや。この調子ならどうにかなりそうだし」

「はふっ……ふぅぅっ、ふーっ」

「どうした。まだ体がつらいんじゃねぇのか? イかなくていいのか?」

 悪魔のような囁きがウェルゴの耳から脳に染み渡った。ロキラは嗤いながら更に告げる。

「おれ以外だぁれも見てねぇよ。イきたきゃイけ。咎めはしねぇ」

「~~~っ!!」

 プツン、と。

 ウェルゴの頭の中で糸が切れる音がした。理性の糸が切れる音が。

「っあああ″!?」

 ズボンから己の逸物を取り出そうとすれば、全身に快楽が駆け巡った。服が擦れた快感を敏感な肌が拾い上げたのだ。ただでさえ汗で密着している下着。ざらりとした感触に体が跳ね、数秒後には再び絶頂の波がやって来る。

「ふひゅっ、はひゅっ、ぅううう″うっ!」

 何度もイきかけながら、ウェルゴは必死に自身を取り出そうとする。

 ……ようやくブツが露出された。

 ウェルゴは急ぐようにソレを掴む。

「ッッッッオ″!!」

 途端、脳天を貫くような快楽がウェルゴを襲った。下着での快楽よりも、やはり直に触れた快楽の方が強い。今までイくのを耐えていたせいもあったのだろう、ウェルゴは射精しながら背中を反らし体を痙攣させた。何度かに分けて吐き出される精液が高級そうな絨毯を汚す。

「……しごくどころの話じゃねぇな」

 媚薬の効果に感心しながら、ロキラは指を軽く回した。

「………あ?」

 異変を感じたのはウェルゴ。絶頂の余韻に浸っていると、突然指先がピクリと動いた。自身で動かした訳ではない。痙攣が起きるには動きが大きすぎる。ぼやけた頭でそれを眺めているウェルゴ。

 すると突然腕が動き、逸物を握り締めた。

「ア″ッッ!?」

 ビクリと体が痙攣する。ソレの先端から白い液体が一度噴き出す。

 そのまま手は自身をしごき始めた。精液で濡れた亀頭をこねくり回し、竿を何度も擦り、先端から付け根まで往復させる。

「ふおっ、ぐ、っ……ぎ、アアアっ!? な、なじぇえっ!? んぐ、ッ~~!!」

 ウェルゴは目を見開きながら喘いだ。陰茎からはびゅるびゅると白濁液が迸っている。

 自身で動かしているわけではない。腕と手が勝手に動いているのだ。

「おーおー、出てる出てる」

 くつくつと嗤っているロキラはくるくると指先を回していた。

 

 洗脳魔術。

 

 対象の脳に自らの魔力を浸透させ、掌握。そして、脳に直接、自由に命令を出すことができる。

 一口に洗脳とはいえ、意識ごと奪う魔術や今やっているように体の操作権だけを奪う魔術など様々だ。

 

 ロキラはウェルゴの痴態をある程度眺めると、徐に立ち上がり、扉の方へと進んだ。

「はひゅ、ぐ、ぁ……ま、ま″で、ど、どこにっ、ぃぃぃい~~~ッ!」

「え、帰るけど」

 何を言ってるんだ、と言うようにロキラが首をかしげれば、ウェルゴは涎塗れの口を必死に動かした。何度もイったはずだが、少し理性が戻ってきているのかもしれない。竿を擦る腕の動きは止まっていないが。

「げっ……げどくぉ……び、びぃ…やぐ、の″ぉ」

「ああ? 解毒だ? 好きにすればいいじゃねぇの」

「あぇ……?」

 焦点が合わない血走った目、舌と涎が垂れている顔で、ウェルゴがロキラを見上げた。

 

 

「自分の精液飲めばいいじゃん」

 

 

 なんでもないように言うロキラにウェルゴは固まった。直後、吐精感がこみ上げてきて亀頭から白濁液が飛び出した。

「思い出したぜ。おれの知り合いの槍(やり)馬鹿(ばか)種馬(たねうま)野郎が同じ媚薬持ってたわ。んで、確か人間の愛液とか精液を栄養にしている魔物が生成する媚毒液の原液。理屈はうっすらとしか憶えてねぇけど、その媚薬って誰かの孕ませ液とか愛液を飲まねぇと中和できないやつだよな?」

 

 悉(ことごと)く、見抜かれていた。

 

「じゃあ丁度良いじゃん。自分で精液出してんだし、それ。飲めば媚薬の効果も無くなる。どんだけの量を飲めばいいのかは知らんが」

「そ、んな……っ」

「そのままいけば著しい体温上昇と脱水で死ぬぜ。もしくは快楽で狂い死にするか……」

 悪魔のような笑みと言葉を吐き出して、ロキラは嗤う。

「ま、好きにすれば良い。おれには関係ねぇ」

「ま……まっ」

「それじゃ、お楽しみを邪魔して悪かったな」

 快楽のせいでろくに動けないウェルゴはそれを見ることしかできなかった。

 

「邪魔者は退散するぜ」

 

「ま……て! まっでぐれ″……!」

 無情にも扉は閉じられた。

 竿を擦る動きは止まらない。

 誰も居ない部屋。

 数度目の孕ませ液を無駄撃ちしながら、ウェルゴは悦楽の雄叫びをあげた。

 

*****

 

「これで良し、と」

 ロキラはウェルゴが居る部屋の扉に認識阻害魔術をかけるとロキラは大きなあくびをした。

 いくら魔力を持っているとはいえ、その量は魔族より遥かに劣る。魔力量が少ない人間でも使えるように改良してあるとはいえ、魔術をあまり使いまくるとすぐにガス欠を起こす。

「すぐ眠くなる……駄目だなほんと。さっさと帰って寝よう……ああいや、待てよ……」

 ロキラは再び魔力を消費する。

「よう。聞こえるか、シュタイン」

『……ロキラさん。どうしました?』

 ロキラの頭の中で穏やかな男性の声が響いた。彼女は壁に寄りかかりながら片耳に手を当て、彼に報告する。

「新しいメイドを見つけた。これから連れて帰るから他のやつらによろしく伝えといてくれ」

『またあなたは……。仕事先でスカウトするなとは言いませんが、もう少し時間を置いて人を選んで……』

「あー、はいはい。小言はご勘弁。おまえはおれの母親か」

『部下です』

「ジョークだよ、全く……真面目だねぇ」

『………。それは褒めているのでしょうか、貶しているのでしょうか』

「褒めているともさぁ。おまえほど素晴らしい人材は存在しねぇ」

『そうですか……』

 ため息が聞こえてきたが、優しい声色だった。ロキラはそれを聞いて許可が降りたことを感じ取って小さくガッツポーズを取った。

『歓迎会の準備は何時(いつ)までに?』

「んん……。明日の夕方でいいんじゃねぇ? 人間だし、今日は疲れてるだろうからな」

『人間? ……ロキラさん』

「おう」

 訝しげな声が聞こえてきた後、彼女の名を呼ぶ彼の声。

 

『……まさかとは思いますが、本職のメイドをスカウトしたんですか?』

「せいかーい。マリアって言うんだ。めっちゃかわいいのよ」

『あなたって人は……!』

 

 ロキラには通話相手の頭を抱える姿を容易に想像できた。おそらくこの後胃薬を飲むのだろう。何かをやらかすことが多いロキラの後始末をするのは大抵この男なのだ。

『はあ……。またクレームが来ますよ。横暴だ、と』

「は? なんで? おれは王様から言質(げんち)取ったぜ? それで文句言うのはおかしいだろ。本当に来たら国ごと殺していいか? クレームあったら教えてくれ、一発で更地にしてやるから」

『あなた、本当に後先考えませんね』

 確かにロキラはその気になれば国を1人で滅ぼすだけの力を持っている。だからこそ、彼女の発言が恐ろしい。本当なのか冗談なのか判別がつきにくいからだ。本当にそんなことをされればたまったもんじゃない。

「あ、そうだ。それで思い出した。シュタイン、おまえ今城に居るだろ」

『はい』

「今後一切この国からの依頼はおれに通すな。後……なんつーの? 自由戦士に交際を申し込むように法律が成されている国もお断りだ」

『前者はまだしも後者は約束できませんね』

「はあ? なんで?」

『そういう法律がある国が一体いくつあると思っているんですか? それに、あなたはフリーダムでも結構上の方に立つ権力者であり実力者なんです。必要な時には嫌でも行って貰わなくちゃいけないんです。……というか、この話何度目ですか?』

「4桁近くありそうだな」

『理解してください』

「嫌なもんは嫌なんだよ」

 ロキラは顔を少しばかり歪めて吐き捨てる。

「もう切るぞ。魔力が底をついてきた」

『お気をつけて戻ってきてください』

「ああ。準備よろしく」

 頭の中でプツンと何かが切れる音。それが聞こえてきたと同時にロキラに眠気が襲ってきた。

「あー、くそ。便利だけど燃費悪ぃな」

 自身の魔力量と魔術に舌打ちしつつ、ロキラはマリアが待つ自室に向かった。

 

 

 

*****

 

 

 

「あ、あの……本当によかったのだか?」

「……何が?」

「……城に居る全員に、何も言わずに来ちまった……」

「いいんじゃねぇの? 別にそのくらい」

「……そうだか」

「そうだなぁ」

 馬車を待つマリアは隣に佇むロキラを見上げた。

 非常に眠そうである。

 目が半目で少しでも気が抜ければ熟睡しそうな雰囲気であった。

「………何か、あったんじゃ」

「あったことにはあったが……おまえが気にすることじゃねぇ」

「……そうだか」

「ああ」

 それ以上2人は喋らなかった。

 馬車がやって来る。

 まずロキラが乗り、次にマリアが乗った。

「すぴー……」

「えっ……?」

 マリアが馬車に乗り込んで、つい驚きの声をあげた。

 ロキラは既に寝ていたのだ。

 無防備な寝顔をマリアに晒(さら)し、腕を組み足を投げ出して静かに眠っていた。

 マリアはその姿に見惚れつつ、音を立てないようにロキラの隣に座った。小さく「失礼します……」というのを忘れない。

 

 馬車が動き出す。

 

 

*****

 

 馬車に揺られながら、マリアは外を眺めていた。

 良い天気である。

 魔物が闊歩(かっぽ)するような時代でなければ、ピクニックにでも行きたい気分だった。

「はあ……」

 ついため息が漏れる。

 今日は色々と激動の1日だったのだ。何もない時に思わずため息が漏れるほどの。

 貴族に貞操を奪われそうになり、それを助けられた自由戦士から気に入られ、最終的には雇われた。

 激動過ぎる。

 どういう奇跡が重なればこうなるのか、マリアには分からなかった。

 

「んん……よく寝た」

 

「ロキラさんっ」

 声に反応したマリアが隣に顔を向けた。そこにはあくびをして狭い馬車の中で背伸びをしているロキラがいた。

「よお、マリア」

 紫の瞳に浮かんだ涙を拭いながら、ロキラはマリアに眠そうな目を向けた。容姿や表情は勿論、仕草にも胸がときめいて、マリアは胸を押さえて悶えた。真っ赤になった顔を逸らす。

「ちょっと出るわ、ここで待ってろ」

「えっ……?」

 マリアがもう一度目を向けた。しかし、そこにはロキラは居なかった。代わりに先程まで閉まっていた窓が開け放たれており、新鮮な空気が風となり馬車内へと入ってくる。マリアは慌てて窓に近寄り、顔を窓から出した。

「な、なにやってるんですだか!?」

「ん~?」

 馬車の屋根の上にロキラは居た。かなり揺れるはずだが、落ちることなくそこに立っている。見事な体幹とバランス感覚だ。

「ちょっと、色々……なぁ」

 ロキラは笑みを浮かべていた。

 彼女の目には馬車を追いかけてくる犬面人(コボルト)の姿が映っていた。

 どうやら生き残りがいたようだった。

 おそらく巣の中に残っていたロキラの匂いを追ってきたのだろう。

「どいつもこいつも盛りやがって……。あー、やだやだ」

 ロキラはコボルトの表情を見て肩をすくめながら嗤った。

 明らかに発情していた。目が血走り、走っているだけではない荒い呼吸をしている。中には腰布すら巻かずに全力疾走しているコボルトもいた。コボルトが疾走した後の地面には何かが点々と滴っていた跡がある。

 ロキラの残り香だけでこうも牡は滾(たぎ)る。彼女は存在自体が媚薬なのだろう。どんな者でも堪(たま)らなくなるような、そんな存在。

 

「……後であの王様に請求しなきゃなぁ」

 

 自身を狙う馬鹿な阿呆で愚鈍で素直な獲物を見て、邪剣を顕現させるロキラ。

「ボーナスステージ、スタートォ♪」

 肉食獣な笑みを浮かべて、ロキラはトリガーを引いた。

 1体の魔物(コボルト)の頭が弾けた。

 突然仲間が死に、驚くコボルト達の頭部に銃弾がめり込んだ。

 距離はかなり開いている。マリアが肉眼でコボルトを見ようとしても、豆粒ですら見えないほど離れている。

 だが、ロキラはそれをしっかり視認して正確にコボルト達を射貫(いぬ)いていた。

 距離は関係ない。

 どれだけ離れていようが、銃剣(バヨネット)の射程距離、弾丸速度には関係ない。

 音速を超えた光速の一射。ただのコボルト如きが避けられる訳がない。

 

 撃った瞬間には当たっている。

 それが『法則』なのだ。当然なのだ。

 ロキラはただただ嗤っていた。

 

 これからもロキラは殺し続けるのだろう。

 己を狙う馬鹿な獲物を。




 次の投稿は未定です。
 お気に入り登録やしおりをしてくれている人がいました。感謝しかありません。
 これからも時々投稿していきたいと思いますので、どうか長い目で見てくださると幸いです。
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