Lower ~魔族に支配された世界の反逆者~ 作:瑠璃色砂糖月
鉄棒使いはキレていた。
自分を馬鹿にするような青年の態度、調子、その雰囲気に。何よりも気にくわないのはその優れた容姿である。女ならば誰しもが見惚れるようなその美貌を生まれ持つあの青年に、無性に腹が立った。
そんな醜い嫉妬を持ったまま、鉄棒使いは相棒を振り落とした。
それにより地面が縦に割れ、土煙を上げて裂ける。
大きな割れ目を作り出せば、周りから悲鳴があがり、国民は逃げ惑い出した。
それに溜飲を下げる男。きっとこの一撃、あの青年は避けているはずがないだろうと、鉄棒使いは鼻で嗤った。
しかし、青年は健在していた。
土煙の向こうから、斬擊が襲いかかる。
銀光一閃。真横一文字。
巻き上がった土の煙幕を切り裂くその一撃を、身を反らすことでなんとか避けた鉄棒使い。そして、背後の光景を見てゾッとする。
雲が割れていた。
真横にずっぱりと断たれ、上下に別れた雲が空にあった。
食らっていたらどうなっていたことか……想像に難くない。
鉄棒使いが体を戻したのは一瞬。しかし、青年から目を離したのは確か。
既に青年は鉄棒使いの間合いに入っていた。
美顔に嬉々とした表情を貼りつけ、腰に構えた細身の剣を振り上げた。
「ぐっ……!」
素早い一撃。受け止めたことでそれがどれほど重い一撃なのかを思い知る。甲高い音が鳴り響く中、地面が沈む。
「うおわっ!?」
青年の膂力に男が負けた。まだうら若い青年が、男よりも戦闘経験が無さそうなこの青年が、男を弾き飛ばした。
鉄棒使いが尻餅をつけば、細身の剣を携えた青年は楽しそうに笑う。
「あなた方が売った喧嘩ですよ。これで終わりにしていいんですか?」
とても無邪気な笑みを浮かべて、相手を挑発するように指をちょいちょいと折り曲げる。
ビキリと男達の額に青筋が浮かび上がった。プライドだけは一丁前である。
男達は鉄棒使いを合わせて4人。
1人は鉄棒を。
1人は大剣を。
1人は槍を。
1人は拳銃を。
それぞれが持つ聖剣を顕現させながら、男達は青年へと殺到した。
「マーリン、もうちょっと下がれ」
「了解」
「ふぉえっ!?」
マリアの肩を抱いたマーリンが地面を滑るように後ろへと後退した。飛び退くような動作もない、完璧なノーモーションで青年と距離をとるマーリンと呼ばれた謎の人物。マリアは目を白黒させた。
青年は4人を見事に相手取る。多対一戦闘に慣れているのか、特段苦しそうな場面も見せずに戦っていた。
繰り出される槍の刺突を掠めるように避け、後ろで大剣を構えた男へと同士討ちを誘う。近距離戦を得意とする3人から離れず、拳銃使いを苛立たせる。避けきれない場合は手に持つ長剣で上手くさばいて軽いステップで反撃を加える。
男達よりも精錬された動き。
それを見ていたマリアが隣の人物を見上げる。
この人物、中々背が高かった。
「あ、あの……」
「……何か」
「た、助けてくださってありがとうござい、ます。あの、その……今さら聞くのもあれなんですけど………どちら様ですか?」
「……ああ」
謎のフードマントの人物は「そういえば」と頷いた。
「私達は───」
明かされた正体に、マリアはあんぐりと口を開けて呆けた。
*****
王城、控え室にて。
ロキラは質の良いふかふかのソファーに腰をかけていた。足を組み、ぶすくれているロキラに部下であるフランケンシュタインは苦笑いしながら紅茶を淹れる。
「そんな顔しても意味ないですよ」
「うぅるっせぇ。黙ってろ」
相当機嫌が悪いようだ。声色がいつもより遥かに低い。わがままな子供のような彼女の姿にフランケンシュタインは黙る。これ以上機嫌を損ねてもらうと困る。下手したら城が崩壊する。
紅茶をロキラの前に差し出せば、それをすぐさま飲み干し「お代わり」とティーカップをフランケンシュタインに差し出す。もっと味わってください、なんて口を出せば睨まれるのは分かっていたので、何も言わずに次を注ぐ。
それが数回続いた辺りで、部屋の扉がノックされた。
もう話し合いが終わったのか、とフランケンシュタインもロキラも眉を寄せたが、部屋の前の気配でそうではないと理解する。
フランケンシュタインが部屋の扉を開ければ、そこには美男が立っている。
燃えるような赤髪に黒の三白眼。服装も赤いジャケットとズボンに黒のインナーという派手めの格好。どこか不良のようなオーラを醸し出す男だが、それよりも疲れきった雰囲気の方が断然強い。
彼はうっすらとクマができた目でフランケンシュタインを見上げた。
「よお、フランケン。ご機嫌うるわしゅー」
「どうも、ライオッドさん。どうかいたしましたか?」
彼の名はライオッド・R・クリムゾン。
彼は疲れきった表情で腕に抱えた書類に目を落とした。
*****
「……入っても?」
「ええ、どうぞ」
フランケンシュタインが巨体を寄せれば、ライオッドは中へと入った。そして、ロキラに軽く会釈をする。
「……ロキラさんが城に居るなんて珍しいっすね。何か事件でもありました?」
「別に。来客くらいだ」
ロキラはぐしゃぐしゃと苛立ったように髪をかき混ぜる。そして、立ったままのライオッドを見て
「……おまえが城ってことはあのクソ野郎も……」
「あの女たらしクソやろげふんげふん失礼……ヴァルさんは、一切の書類をオレに押し付けて娼館巡りでしょうねぇ」
「……その書類か?」
「今二徹夜目っす」
「ああ……」
ロキラが目の前のソファーへとライオッドを促せば、彼はすとんと腰を下ろした。そこへ、フランケンシュタインが紅茶を差し出す。
「カモミールティーでも飲んで落ち着いてください、ライオッドさん」
「お前の何気ない優しさがまじで身に染みるぜ、フランケン……」
相当苦労しているのだろう。目頭を揉んで天を仰ぎ見る姿がどうしようもなく憐れに見える。
そんな彼を見て多少不機嫌が解消されたロキラは、薄ら笑いを浮かべて頬杖をつく。
「おれの隊に来れば多少は厚待遇にしてやるぜ。第3中隊長でどうよ? あのクソ野郎よりかはマシだろ、おれの方が」
「……すっげぇ魅力的なお誘いなんすけどねぇ……」
ライオッドは苦笑いを浮かべる。
「……オレの後任が見つかったら、また誘ってください」
「クソ真面目だな、おい」
「それがライオッドさんの長所であり短所ですから」
「褒めてんのか貶してんのかどっちかにしろや」
ロキラもフランケンシュタインも彼の真面目さに苦笑い。それにライオッドは口元をひくつかせた。ライオッドは元来沸点が低い男なのである。
ロキラはフランケンシュタインを見てライオッドを指差す。
「シュタイン、おまえどうせ暇だろ。手伝え」
「どうせってなんです、どうせって。大体僕の仕事が増えるのはあなたが厄介事を引き寄せるからでしょう? まあそりゃあ……ヴァルフォーレさんよりかは多少楽な部類に入るかもしれませんが」
「失敬だな、おまえ。つーか、おれとあのクソ野郎を一緒にするな。次言ったらぶん殴るぞ」
「はあ……」
ロキラが顔を歪めて吐き捨てれば、フランケンシュタインがため息を吐く。その姿を見て、彼にどこか同情の目を向けるのはライオッド。上司に苦労している者同士、通じるものがあるのだろう。
「んで、ライオッド。おまえ、おれに何か用があって来たんじゃねぇの?」
「んあ?」
ライオッドが紅茶から顔を上げる。両手でカップを持ち、猫舌故にちびちびと飲む姿はどこかかわいらしいのだが、それを口にすると恥ずかしがりながら怒るので言わない。
ライオッドはカップを置かずに言う。
「いや、ロキラさんが珍しく城に居るから挨拶をしに来ただけっすけど」
「あっそ……真面目だなぁおい」
「……そうっすか? 普通でしょ?」
くつくつと笑うロキラに眉を寄せて不思議そうにフランケンシュタインを見遣るライオッド。フランケンシュタインはライオッドを優しい目で見つめ返すだけで意味が分からない。
「ああ、そういえば……」
「あん?」
ライオッドがふと思い出したようにロキラに告げた。
「最近メイドを雇いました? 人間の」
「? ああ。身のほど知らずに殺されたからな」
ロキラの言葉にライオッドが苦い顔をする。何を隠そう、その身のほど知らず共というのはライオッドの部下達だったのだ。勿論清算したし詫びも入れた。しかし、どうしてもロキラの訳アリメイドに手を出す愚かな輩がいなくならない。そのため結局どうにもならない。
「それがどうかしたか?」
「あ、いや……噂で聞いただけなので、本当なのかなって思っただけっす。お気になさらず」
「………ふぅん?」
「なんすか、その目。オレの所に連絡入ったら真っ先に教えますよ。うちのバカ共のせいなんすから……」
ロキラの疑いの目にライオッドは肩を竦めた。そこでふと、フランケンシュタインが窓の外を見た。何気ない動作だったが、ロキラは嫌なものを感じて彼を横目で見る。
「……ロキラさん」
「やばいか」
「マリアさんが襲われてます」
「ぶっ、ごふっ!」
ずず、と紅茶をすすっていたライオッドが紅茶を気管に逆流させてしまう。おそらく話の内容で例のメイドだと分かったのだろう。げほげほと咳き込んでいると更に嫌なことが……。
『ライオッドさん、ライオッドさん。なんか城下町でうちの部下が暴れてるみたいなんですけど、これってどうすればいいでしょうか。相手はどうもよそ者なんですけど、その傍にメイドさんいるんですよね。これ結構やばい方だと思うんですけど、どうでしょうか』
ライオッドの脳内に響く間の抜けた声。なんともタイミングの悪い報告。ライオッドが頭を抱えれば、ロキラはにっこりと黒い笑みを浮かべた。察しがお早いことで、という冗談も言えない。
「お互い、大変だなぁ?」
「……いやもう、ほんと…すいません」
フランケンシュタインは今度ライオッドに胃薬を買ってあげようと思った。
*****
そこは既に戦場になっていた。
周りには当事者達以外誰もいない。既に遠くに避難していたのだ。近くの建物はボロボロになっており、残念ながら廃墟のようだった。
「クソが!!」
もはや周りに目を配る余裕もない。槍使いが渾身の突きを繰り出す。それをすいっと避ける青年は、武器を突き出した状態のままの男の足元に這入り込み、軽く剣を振るう。服が破れて血線が引かれる。男は顔を歪めながらも次いで槍を振り払った。
それをバックステップで躱すと上から大剣が降り落ちてきた。大男が青年に向かって振り落としたのだ。それを今度は手に持つ長剣で受け流せば、男は面白いくらいに目を見開いた。怪力自慢だったのだろう。腕に浮き出た血管と筋肉でよく分かる。青年は笑顔で目の前の醜い顔面に前蹴りを放つ。ぐしゃりと嫌な音と共に男は白目を剥いて気を失った。
ふと、鋭く細い殺気が青年の首筋を襲った。しゃがみ込むようにそれから避ければ、建物で火花が数度散る。姿は見えないが遠くから舌打ちが聞こえてきたから、おそらく拳銃使いなのだろう。青年はお返しにとばかりに剣を振り抜いた。文字通り空を裂いた剣擊は建物を一刀両断に斬り伏せる。なんとか避けきったであろう拳銃使いの気配に追い打ちをかけるように、今度は斬擊の塊を放った。盾にした建物が粉々になり、拳銃使いの姿が
それに青年が吹き出していると横から鈍色の強襲。それを剣で受け止めれば甲高い音が鳴り響き、火花が散る。ギギギ、という不快な音がお互いの耳に入れば、直後攻防が始まる。鉄棒が鈍く輝きを放てば、長剣が銀色に煌めく。鉄棒が地面を抉りとれば、長剣が華麗に宙を踊った。
「こんのっ……!」
鉄棒が地面を再び割った。それに青年が距離をとれば追撃するように渾身の突きが放たれる。普段の魔物相手ならば一撃で心臓を射抜き、穴を開ける代物。しかし、それは青年の長剣を砕くのみで終わる。
「げぇっ……!?」
「!
「~~~っ!!」
青年は顔を盛大に歪めて、鉄棒使いがチャンスとばかりに苛烈な猛攻。それを青年は徒手で捌き始める。
むしろ長剣がここまで持ったことが称賛に値する。聖剣シリーズの武器と使い手の技量に対してかなり持った。
青年は最初の数擊は食らってしまったものの、その後はなんとか調子を立て直していた。しかし、青年は剣で互角を誇っていたのだ。このままだと平行線、もしくは押し負けるだろう。
「シィッ!」
「おわっ!?」
更に槍使い、乱入。鋭い刺突が混じり、相手の手数が倍増える。
青年は持ち前の身軽さとすばしっこさでなんとか避けて受け流す。
「ちょっ、マーリ、剣っ、剣くれ!」
「無理です。手元に手頃な刃物がありませんので」
「うっそだろ!? やば、うわ掠った!」
青年はまだ余裕があるのかお気楽なのか……。それが男2人の怒りを更にヒートアップさせているのが分かっているのか。攻めがより苛烈に激化していく。青年の体に引かれていく血線、抉れていく肉、軋む骨。
男達はそれを見て下卑た笑みを浮かべる。
小生意気なこの小僧をようやく殺すことができる。
そう思えばこれほど楽しいことはなかった。
「あ~~、ぐっちゃぐちゃじゃねぇか」
───この声さえ聞こえてこなければ。
戦闘中の3人共がその手を止める。それほどその人物は得体の知れない覇気を放っていた。
純白の美人。
赤いシャツ、濃い紺色のズボンという派手めの服装を純白のロングコートで隠している。
何よりもあの容姿。
肩まで伸ばされた白髪、宝石のような紫の瞳。柔らかな乳白色の肌は押せばどこまでも沈みそうで、思わず触れたくなる。優美なラインを描いた鼻梁、薄桃色の唇には同性でも目を奪われてしまう。中性的な美貌は完璧で埒外。
誰もが羨み、熱望する最高位の美の体現者がそこには立っていた。
彼とも彼女とも取らせない人物は、悪意と茶目っ気を含んだ笑みを浮かべて3人に笑いかけた。
「んで? おれのメイドに手ぇ出したのはどいつだ?」
*****
「ろ……きら………さん……………?」
誰かが掠れた声でその者の名を呼んだ。
ロキラ・オブコニカ=ミノルタ。
自由国「フリーダム」で知らない者がいない超有名人である。
曰く、純白の救世主。
曰く、絶世の美人間。
曰く、世界を揺るがす災害。
曰く、人類最強群の1人。
曰く、魔族を罰する白美神。
挙げ出すとキリがない噂でしか存在しなかった人物が、目の前に顕在している。
その事実並びにその美貌に目を奪われ、放心しても無理はない。誰でも有り得る状況だった。
ロキラはその呟きが聞こえていたのだろう。にっこりと黒笑を浮かべて口を開いた。
「おい、馴れ馴れしくおれの名前を呼ぶんじゃねぇ。殺すぞ」
「「~~っ!!」」
男2人が聖剣を置き
唯一、青年だけがその場に立ち尽くしていたが、それが目に入っていないようにロキラは視線を飛ばす。
「さて、おれのメイドは……と」
「そ、それは……」
足元の震える声も無視。ロキラは周りに目を向け、ようやく目当てのマリアとフードコートの人物を見つけた。マリアが目を輝かせて手を振れば、ロキラはおいで、と手招きをした。それに黒いフードコートの人物が青年に目を向けるが、彼にはその合図が届いていないらしい。その人物は少し考えたが、ロキラの有無を言わせない笑みに屈して、仕方がなく指を鳴らした。
途端、マリアとフードコートの人物の姿が青年の少し後ろに現れる。それにロキラは少なからず驚嘆の意を表した。
(魔術師……。珍しいな)
ロキラがフードコートの人物を眺めていると、マリアが動いた。
彼女は小走りでロキラの元へと走り寄る。
「ロキラさんっ!」
「よお、マリア」
男達がぎょっとする。まさか、あのメイドがロキラの使用人なのか、と。ロキラはそれに苛立ちつつも、マリアが無事だから、となんとか笑顔を続行する。これでマリアが
「大丈夫か? どこか怪我してねぇか?」
「だ、大丈夫だす! お、おらこう見えて頑丈ですだから!」
訛り全開で無事を訴えるマリアの姿に、ロキラは安堵を含む笑みを浮かべた。
そして、いきなり確信をつく。
「そりゃあよかった。で? 誰に襲われた?」
「そこの2人と、あの人とあの人ですだ」
平然とマリアは報告する。おそらく天然だろうが、それでも男達はマリアを恨まずにはいられない。
その言動のせいで、国の英雄とも言える人物に目をつけられたのだ。完璧な逆恨みだが、それに男達は気づけない。
「へぇ、そう。…あんれ、んじゃあいつとこいつは? こいつらの仲間じゃねぇの?」
ロキラはフードコートの人物と橙色の髪の青年を指差した。それにマリアが慌てて説明する。
「えっと、その、2人はおらを助けてくれてっ、だ、だからその、あのっ」
「……ふうん? 本当かよ」
猜疑心たっぷりの目をロキラが青年へと送る。しかし直後、形の良い眉を片方だけ上げる。
「ん……? ちょっと待て、おまえその髪と顔立ち……」
「やっと会えた……!」
青年は震えて掠れた声を出す。
その感極まった情を隠すことなくロキラに近づくと、彼女の足元に
「………は?」
それに呆けたのはロキラである。素早く悪意のない青年の行動に、珍しい表情をする。
青年はそんなロキラを、優しく、愛おしいものを見るような目で見上げた。
「私はアーサー・ペンドラゴン。キャメロット王国、国王ユーサー・ペンドラゴンの息子です」
そして、告げる。
「純白の御方、幼き日の約束を果たしに参りました。どうか私の花嫁に、后になってくださいませんか」
「………へあ?」
キャメロット王国、第一王子アーサー・ペンドラゴン。
彼は純粋な熱のこもった目をしていた。
*****
その後、ロキラに処理を任されたライオッドは、周りの光景をぐるりと見渡していた。よくもまあ、これほど派手にやらかしたものだとむしろ感心したくなる。支給される資金だけで元通りになるのだろうか、この後何人に頭を下げないといけないのか……想像ができないししたくない。胃の辺りがズキズキする。気持ちもげんなりしていた。
ライオッドは目の前で正座している4人を見てため息を吐いた。それにびくつく4人だが、自業自得だとライオッドは再び重い息を吐いた。禁忌に触れたこいつらが悪い。
「テメェらさぁ……大馬鹿だろ。いや、どうしようもねぇ屑だな、まじで」
「「「「っ……」」」」
「『ロキラさんの使用人に手を出すべからず』……自由戦士や騎士どころか、国民ですら知ってる暗黙のルールだ。知らなかった、とは言わねぇよな?」
「いや、あの……」
1人が言い訳しようとしたが、鋭い眼光を向けられて黙る。
「テメェら、今回命あるだけで奇跡なんだからな。そこんとこ分かってんのか? いつもだったらその場で死んでるからな? お前ら」
「「「「っ………」」」」
「あの王子様に感謝するんだな」
再びライオッドはため息を吐いて目頭を揉んだ。
「まあお小言はこの辺にして………とりあえずぶん殴るから、立て」
「「「「えっ………?」」」」
男達は垂れていた頭を上げる。呆けたような表情をしていた。これで終わりではなかったのか、と言いたげな顔だ。
ライオッドは既に立ち上がり、指の関節を鳴らしている。彼は男達の『もう許してくれるんじゃないのか』という反応が気に入らなかったのだろう、額に青筋を立てた。
「あ"? テメェらまさかこの程度で許されるとか思ってるんじゃねぇだろうな? この後オレがロキラさんに詫び入れねぇといけねぇんだぞ? テメェらみたいな社会の塵というかガラクタ共になんでオレが神経すり減らさなきゃいけねぇんだ? どんだけ身を粉にしなきゃいけねぇんだ? ど畜生のテメェらを今すぐひき肉にしてその辺にばらまいてやってもいいんだぞオレはよぉ……!!」
「「「「ひぃいいっ!?」」」」
「そこを一発で許してやるっつってんだろ? やさしいよなぁ、オレはよぉ……。良かったじゃねぇか、当たりどころが良けりゃあまだ生きられる」
かなり頭にキテいるらしい。ライオッドは怒気のこもった凄惨な笑みを浮かべた。4人の顔が青ざめ、ガタガタと震え始めた。
「並べ、すぐに。3秒以内じゃ無かったら殺す」
その後、肉の弾ける音が
*****
王国内、カフェ『Orange』にて。
そこには3人の人間で貸し切られていた。
3人の内の1人、ロキラが店長と知己だったことと客がいない時間帯だったため、カフェを貸し切ることができたのだ。
ロキラは出されたオレンジペコに口をつけながら、目の前に座る2人を観察した。
アーサー・ペンドラゴン。
橙色の髪と翡翠色の瞳を持つ快活な青年。先の戦闘で煌めく貴族服はズタズタだったが、大きな怪我は見当たらず、既に回復している。先程から悪意のない熱い視線をロキラに向けている。
その付き人、名をマーリン。
黒いフードコートを全身に纏って容態が全く分からないが、体の骨格と声色で女だと分かる。背は目測だが180㎝前後。ロキラよりも背が高く、寡黙な性格らしい。大体口を開けば、出るのはきつい言葉である。
「んで……アーサー。おまえがユーサーの息子?」
「はい」
「……なんで城に居なかった?」
「初めてフリーダムに来たので、とてもじゃないけどじっとできなくて……! それに、早くあなたと出会いたかったのです」
「……マーリンだったか? なんでこいつの暴走を止めなかったんだ」
「この人が後先考えずに行動するのはいつものことなので。ユーサー様も放置しています」
「言い方酷いな、マーリン」
「私はアーサー殿のお目付け役。よほどのことがない限り、私がアーサー殿の身勝手な行動にいちゃもんはつけられません」
「無視か、酷いな」
「いつもあなたに付き合っている私の身にもなってほしいのですが?」
「はっはっは、1本取られたなこりゃ」
「恐縮です」
「おーい、話を聞いてもいいかー?」
勝手に楽しそうな2人にロキラが声をかける。2人が会話を止めてロキラを見れば、彼女は少し疲れたようにオレンジペコを飲み干した。それを店長に向かって掲げれば、店長は察したようにカウンターから出てくる。
「おまえらがぶらぶらしてた理由は分かった。おかげでマリアが助かったからおれ的にはおまえらを罰する理由がねぇんだよな」
「結構派手に町を壊しましたが?」
「雑魚とはいえ自由戦士が暴れたんだ。全部そいつらのせいにしとけ。どうせ向こうから手ぇ出したんだろ? 正当防衛ってことで納めてやる」
「過剰でしたが」
「マーリンはそこまでして私に罪を被せたいのか?」
「滅相もない。事実ですので確認を、と」
「くく……」
楽しそうに喉を震わせたロキラは新たに出されたオレンジペコに口をつけた。
「で……おまえらはこの国に何をしに来たんだ? ユーサーから何かしらの依頼があることは知っている。まさか、おまえらだけ観光ってわけじゃないだろ?」
「父上とすでに会っていらしたのですか? うわ、我慢して父上と母上に着いていけばよかった……!」
「残念でしたね。お気の毒に」
落ち込むアーサーに心のこもっていない慰めの言葉をかけるマーリン。
それを面白そうに眺めていると、カフェの入り口の扉が開いた。
全員が目を向け、マーリンの口元とアーサーの顔が引き攣った。そんな中、ロキラはひらりと手を降る。
「シュタイン、マリアは送ってきたか」
「ええ。屋敷の中なら安全です」
醜い容姿の大男、フランケンシュタイン。
自身よりも小さい扉をなんとか潜り抜けて、フランケンシュタインはロキラの隣に来る。
「……ご一緒しても?」
「え、ええ。どうぞ」
「………アーサー殿がよろしいのなら」
「ありがとうございます」
フランケンシュタインが微笑むが、2人は苦笑いを浮かべた。これでも頑張っている方だ。普通なら顔を背けるため、初対面では及第点だろう。フランケンシュタインはロキラの隣に座ると、懐から帽子を取り出してそれを深く被った。相手に不快な思いをさせないための気遣いである。
「後の処理はライオッドさんが引き受けてくれるそうですね」
「くそ真面目だからな、あいつ。シュタイン、後で詫びいらねぇって言っとけ」
「分かりましたが……相手が納得するかは分かりませんよ? 真面目ですので」
「……ま、その時は何か奢るからいいか」
くつくつと笑いながらオレンジペコを飲み干したロキラ。そこに、マーリンの声が。
「ロキラ殿。そちらのお方は?」
「んあ? あー、紹介してないか。こいつはシュタイン、おれの右腕」
「はじめまして。フランケンシュタインと申します」
「……どうも」
穏やかな声色と共に彼が頭を下げるため、マーリンも反射的に会釈する。
「僕の登場で話を遮ったのでしたら、どうかお進めください。話を聞いていれば、ある程度予想はつきますので」
「あー、そうそう。もう一回聞くが、おまえらはなんの依頼でここに来たんだ?」
流石である。話の流れを戻した。
アーサーはそれに少し考えつつも答え始める。
「簡潔に申しますと、キャメロットに逆恨みしてきた国と魔族が結託したらしく……」
「ん?」
「それでキャメロットがピンチなのです。その国にドラゴンがいるみたいで、それを父上は私に倒させたいらしく……」
「おっと、ちょっと待て。ウェイト」
「はい」
たまらずストップをかけるロキラ。アーサーは口を閉ざす。
「………人間と魔族が同盟組んだって?」
「みたいです」
「いやそれはねぇだろ」
流石のロキラも驚いた。
魔族は人間を家畜以下、ごみくず程度にしか見ていない。対等なんて到底あり得ない。あり得るのは魔族がその国を乗っ取り、そこを拠点として近くにあるキャメロットも支配しようとしていることくらいか。
「新たに国が魔族の手に堕ちた、ということでしょうか」
「だと思うぜ? しかもドラゴンだと? あいつらドラゴンを殺した国にまたドラゴン寄越すとか馬鹿だろ。脳みそがねぇな、おい」
ロキラはからりと笑った。
キャメロット王国。別名『竜殺しの国』。
『竜殺し』の異名を持つユーサー・ペンドラゴンが納めるフリーダムの同盟国である。
投稿いたしました。
次回の投稿は未定ですが、できる限り期間を空けずに出せるようにしたいと思っています。
少し長引くと思いますし、R―18シーンもほとんどないと思われます。
エロが難しい……!
よろしければ長い目で見ていただけると嬉しいです。
それでは、失礼します。