※この作品はR-18です。

マギサ・パラべラム   作:hidenyan

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05話~エピローグ

<05話 魔女とナイスミドル>

 

 俺はオークの様なナース、看護師に起こされた。

 急いでスマホにモバイルバッテリーを差し込み。

 部屋にあるシャワールームで体を洗い。

 用意された服。

 下着類や靴下、ファストファッションっぽい服とジーンズを着用。

 そして何故か防弾チョッキも着せられた。

 靴は兵隊さんが履く感じのミリタリーな靴だ。

 半長靴じゃないから、履きやすいので助かる。

「外でマギサ様がお待ちです。御案内します」

 俺は迎えに来た、護衛の黒服に案内され。

 マギサが待つ場所に向かった。

 初めて外の光景が見え……俺は思わず声を漏らした。

「ここって飛行場?」

 廊下の窓からは離陸する戦闘機や輸送機が見える。

 どれも、俺の世界では見た事もない形状……ステルス機の類いだ。

「いえ、基地の中です」

 護衛の説明によると、ここは民間軍事会社の敷地内だそうだ。

 確かマギサは、民間軍事会社の幹部だと名乗っていた。

 ここは近未来の並行世界らしいが、名刺を渡す風習は廃れたのだろうか?

 或いはPMCにそんな業界慣習はないのだろう。

 などと思いつつ。

 俺はマギサが待つ……黒塗りのリムジンに乗り込んだ。

 前後は機関銃を積んだ、車両に護衛され。

 上空には――ホバリングをする、警備用のドローンだろうか。

 そんな飛行物体が編隊を組んで――車両の上空で飛行をしている。

「おはよう。ぐっすり眠れたかしら」

「凄い防音設備だ。外に飛行場があるのに、さっきまで気づかなかったよ」

「……あの施設はそういう場所だから……ところで朝食はまだよね」

「ええ」

「当然だけど、こちらで用意させてもらうわ。私も同席させてもらうけどね。それと私を呼ぶ時は、公私共にマギサでいいわよ」

 その後、俺達は基地を離れ

 高速道路の様な、高架式の車道に入っていった。

 車窓から外を眺めていると――廃墟がやけに多い。

 廃墟が緑に覆われているのは、日本の植生故だろう。

 ポツポツと煙が上がっているのは……人が居るのだろうか。

(人が住んでいるのなら、スラム街か?)

 そして所々に壁で囲われた、高級そうな住宅街が見える。

 高級そうな住宅街にはドローンが行き交い。

 道路の上空にも、ドローンの飛行経路が何層かに分かれ。

 存在するのが伺える。

 まるで、空想科学の世界に出てくる、空飛ぶクルマが行き交う。

 ……未来都市の一部分を見ているような感じだ。

 外の光景を見る俺に……マギサが声をかけてきた。

「これでもだいぶ、復興が進んだ方なのよ」

「確か、第三次世界大戦があったのか」

「ええ……丁度、私がこっちに来た年には終結したから……十数年前ね」

「見たところ、俺の世界より露骨に貧富の格差どころか、安全にも格差がありそうだ」

「部分的には正解よ。ただもう少し、この世界を見たほうがいいわよ」

「確かに……俺はまだこの世界の事や、知らない事の方が多すぎる」

 そのまま、俺達は廃墟群を抜け。

 摩天楼だらけの都市部へ向かっていく。

 案内表示を見ると『名古屋市』とあったので、ここも名古屋なのだろう。

 見慣れた地名を見てからは……微かに安堵感も覚えた。

 だが……やはり俺の意思で、望んで此処にいるわけではない。

 異世界転移なんて、ラノベやウェブ小説。

 どっかのオカルト掲示板の中だけだと思っていた。

 だが、意外と慌てたりしないのは、俺の中での準備。

 例の振り込み失踪事件を知っていたからこそ……心構えが出来ていたのだろう。

 ◇◇◇

「少し遅いけど、朝食にしましょう」

 俺とマギサは何故か。

 ピエロのマスコットでお馴染みのファストフード店に入店。

 店の外や内部を護衛に囲まれながら……貸し切り状態で朝食の最中だ。

(つうかこっちにも……あるのかよ)

 最も俺の世界じゃ例のピエロは、動画素材として幅広く扱われ。

 企業活動を監視する、海外の市民団体に活動自粛を要請されたりしていたが。

 ……こっちでは普通に元気なようだ。

(しかも……何人かいるのかよ)

「気にしないで、ここは10時からの営業だから、一般客に迷惑はかけてないわ……後、一時間位はゆっくりできるわよ」

「分かった」

 俺は微かに安心すると、朝食に手をつけた。

 先ずは和風ドレッシングのキューブを掴み。

 卵を割る感覚でサラダに垂らし。

 見慣れないエビっぽいシーフードが入った、サラダをフォークで食べた。

(味はエビっぽいな……でもやけに大きいな? ロブスターか?)

 俺はサラダの中のシーフードな食材に微かな既視感を覚えつつ。

 熱々のチーズバーガーを食べる。

 ……肉汁と溶けたチーズが旨い。

 そして揚げたてポテトのLサイズを食べ。

 Lサイズのコーラを飲みほし。

 ……食後のコーヒーを飲み。

 腹を満たし……心を落ち着け。

 マギサがハンバーガーを食べ終え……コーヒーを飲み始め。

 ……互いに一息付いたタイミングで俺は話しかけた。

「ご馳走様。久しぶりに食べたが悪くない……人と一緒に食べる朝食は美味しいよ」

「……あなたなら、うちの子達と仲良く出来そうだわ」

「うちの子?」

 マギサは笑顔で俺を見ているようだ。

「そう、うちの子達……今は参戦者……私の陣営の仲間として、自分の意思で参加した子供達よ」

「子供達、つまりそれは少年兵かな?」

 俺は戦う子供達という、言葉が持つイメージに嫌悪感を覚えた。

 出来るだけマイルドな口調で、今のうちに懸念を疑問として、マギサに問いかけた。

 こういう懸念は早く潰すのが、先がどうなるかは分からないが。

 信頼関係を作っていく過程では肝要だ。

「どうやら誤解をさせてしまったみたいね。参戦者になったのは皆、十五歳以上の子よ。こちらじゃ、戦時国際法や慣例、人権意識、成人の定義も違うの……そこは気をつけてね」

「……なるほど」

「だけど、その優しい心は忘れないで……」

 ◇

 ――約二時間前――

 ――名古屋市近郊の軍事区画――

 廃墟に囲まれた名古屋市。

 その近郊には行政機関から警察業務、軍事業務を受注する企業。

 民間軍事会社(PMC)の関連施設が集まる区画が幾つかあった。

 その中でも特に大きな区画を丸ごと一社で使用する、民間軍事会社の施設。

 滑走路を備えた、基地と呼ぶに相応しい施設へ……ひとりの男が空路で到着していた。

 ◇

 ステルス性を備えた有人、無人の大小様々な航空機が駐機する滑走路脇。

 近くの車道を走る……対爆、対狙撃対策が施されたリムジン車内。

 後部座席には黒いスーツを着込んだ中年男性。

 メガネと連絡用のインカムを装着した女性、若い女性秘書が乗車。

 中年男性は髪を短く刈り込んでいるが、所々白髪が混ざっている。

 だが、筋肉質な体格と……整った顔立ち。

 何より、見る者に好印象を与える顔。

 メガネの下に隠れた、力強さと優しさを備えた目元が……男に実年齢の五十代を思わせない。

 ……若々しさを漂わせていた。

 走行中のリムジンの車窓からは、基地内にずらりと立ち並んだ防爆格納庫が並び。

 その中では、自社製の最新鋭ステルス無人戦闘機が翼を休め。

 作業用ドローンの手によって――ミサイルやガンポッドなどの――爆装を施されていく。

 そんな自分の庭を眺めている、中年男性の耳元には女性秘書の報告が響く。

 ◇

「会長、昨日マギサ様が転移施設付近に転移陣を介さず、緊急転移で帰還した件ですが、マギサ様が直々に出迎えた転移者は、イレギュラー転移を起こし、市警察のSWAT部隊を救助名目で転移先に展開、救助を完了しています」

「……他の転移者はどうなっている?」

 女性秘書は中年男性、自分の雇用主である会長に用件を淡々と伝えていく。

「他の転移者は予定通り全て、環境体験型訓練施設の転移陣へ転移。チュートリアルを終えた順にメディカルチェックを受け、合同説明会までの間、外部との情報遮断をした、施設内の宿舎で順次、待機させています」

「そうか……マギサとその転移者は、朝食ついでに私が出迎えよう」

 会長と呼ばれた男はそう言うと、装着したメガネ型デバイスを通話モードに切り替え。

「おはようマギサ。昨日は大変だったようだな」

 マギサに通話モードで目覚ましコール。

『……ん……ああ、矢島…………おはよう』

 名前を呼ばれた男、矢島はもうひとりの魔女(マギサ)である、小さな妖精族の少女と自分達が抱えている問題を思い出し……話を続けた。

「それより、君が直接連れてきた転移者だが、またツバメの相棒。パイロット候補なのかな?」

『しょうがないでしょ……こっちの人間じゃ、魔力上昇の速度が黒鉄を動かすのに全然足りないのよ……それに……何人も連れてくるのは疲れるわよ……今からシャワー浴びるから……』

「それは失礼した、ところで朝食を一緒に取らないか? 場所は君の子供たちがよく使っている店だ」

 ――そして現在――

 ◇

 俺はお手洗いに来ている。

 流石にトイレは俺の世界と大差がない感じだ。

「これじゃ、本当に並行世界に来たのか疑わしくなるな――?」

 俺が用を済ませ。

 手を洗い終えた直後。

 ……あり得ない事が起きた。

 俺のスマホの表示は明らかに圏外。

 だがブルブルと震え……マナーモードで着信しているのだ。

 ……かけてきた相手は明らかに文字化けして……正体不明な相手だ。

 しかもメールが同時に着信して、件名が『声を出さずに聞け!』……となっている。

 俺は心臓の鼓動をバクバクと感じたまま。

 その着信を――ピッ――取ってみた。

『――絶対二声ヲ出スナ。其処カラ動クナ。其処ハ監視カメラガ無イカラ安全ダ。オ前ノ名前ハ――』

 聞こえてきたのは可愛いボカロと違い。

 明らかに、身代金でも要求しそうな合成音声。

『――デ間違イナイナ。ソウナラ歯ヲカチカチト鳴ラセ』

 俺は氏名を呼ばれ――ガチガチ――と思わず歯を鳴らした。

 というより、ビビッて……鳴らしてしまった!

 心臓の鼓動。

 歯の当たる音が絶妙な加減でシェイク。

 俺の体と心に供給され。

 合成音声の主は話を続けた。

『イイ子ダ。コノ後、オ前ハ、マギサ、魔族ノ女、魔女ト契約ヲ結ブカ否カ選択スル。ソウダナ? ソウナラ、Yesト小声デ言エ』

「イエス! 高――もごっ!」

 俺は思わず某美容外科のCMで有名な言葉を口にしそうになった。

 だが、何とか口を片手で押さえた。

『イイ子ダ。生キ残リタイナラ、契約ヲシロ。契約ヲシナカッタ奴ハ皆、マギサノ敵二殺サレタ――』

「マジかよぉお!?」

(ヤバイ! 叫んでしまった!) 

『――叫ブナ馬鹿モノ! ソノ魔女ハ今ノ所ハ安全ダ。ソレト、私ガ送金シタ暗号資産ハ、オマエノ物ダ。好キニ使エ――』

(………………コイツはもしかして一昨日、掲示板で見た電波な奴か!?)

『――但シマギサ達二ハ悟ラレルナ。マタ時期ガクレバ連絡スル。私ノ今ノ力デハオ前ヲ救エナイノダ。次カラハ、ソノ端末ノ、ブルードロップモ使エル様二シテクレ。生キ残リタイナラコノ着信履歴トメールハ直グニ消セ――』

 送信者はそう言い残し、一方的に通話を切った。

 俺は急いでスマホを操作して履歴を消し――軽く顔に水道水を掛け。

 そのまま……数秒の間を置き……外に出た。

「どうしたの?」

「……顔を洗おうとしたら、派手に失敗したわ」

「まぁこれでも使って」

 マギサはそう言うと店員が持ってきた……熱いおしぼりを渡してきた。

「すまない――それとそちらは誰?」

 俺はドキドキしたまま。

 新たに増えた人々。

 マギサの隣に座る知り合いと思われる――面々に申し訳ないと思いつつ。

 俺は素早く――熱いおしぼりで顔を拭き。

 顔と手に熱を感じながら、お手洗いの横にある返却コーナーの隅で湯気が昇る……おしぼりを置き……自分の席に戻った。

 するとマギサが口を開いた。

「紹介するわね。こちらのナイスミドルは矢島とその秘書の新谷さん」

「どうも初めまして矢島です。一応、マギサの上司になるかな。これでも異世界帰りの経営者です」

「初めまして秘書の新谷です。それと会長、外では異世界関連の言動は謹んでください」

「おいおい! ここは我社の警備で固めているから問題ないだろ。それに世間に広まっている都市伝説的にも、私は異世界帰りだから問題無いと思うが?」

「それもそうですが、転移者の方が混乱される可能性も……」

 なんか賑やかな人達だな。

 俺はロングヘアーを纏めた如何にも、秘書といった感じがする。

 メガネ美女の新谷さんからの視線を受け……話し始めた。

「お気遣いありがとうございます。自分も少しは、マギサから……大まかな事情は説明されましたが、何せ……初めての経験なのでどうか、まだ戸惑っている部分もありますが、よろしくお願いします」

 俺は軽く頭を下げ……顔を上げた。

 ナイスミドルな矢島さんが、優しい眼差しで俺を見ながら話し始めた。

「なるほど……マギサ、君が直接迎えに行くわけだ。マギサ、確か転移者の名前はまだ知らなかったな」

「ええ、流石に100人近くも、連れてきた契約者がみんな逃走したら……初めと違い……故郷の験担ぎ抜きでも、契約前に名前を覚える気は失せたわ。まぁ、その原因を作った張本人は今頃、研究所でまだ寝ているのでしょうけど……」

 確かに名乗った覚えは無い。

 というか、必要性が無かったというべきか。

 だが、連れてきた人様の名前を覚えない。

 その気持ちをサラッと愚痴を交え。

 言葉にするのは酷いと感じたが――故郷の験担ぎ?

「……気分を悪くさせたわね……ごめんなさい。私の故郷には魔女が、参戦者を迎える際の験担ぎと、その元になった、諺があるのよ。それが――」

「――『女神との接吻まで名は聞くな』だったかな。正解かマギサ?」

「正解。誰に聞いたのよ?」

「向こうの酒場で飲んでいた時さ……酔っ払ったミリサとツバメに絡まれ、聞かされたよ」

「……それは大変だったわね。そう言えばツバメで思い出したけど、うちの子達が遅いわね」

(ミリサとツバメ? この感じだとこの二人は酒癖が悪い感じか?)

「ああ、それなら先に研究所の方に送迎しといたよ。単位は大丈夫みたいだから、今日は学校を休ませた……昨晩は後始末で大変だったろうしな。さて、我々も移動しようか」

 矢島さんがそう言うと、俺達は席を立ち。

 店の外に出る感じになった。

 俺が店の外に出る寸前――矢島さんに話しかけられた。

「そうだ。転移者くん、君が仲間になるなら後で、いいものを進呈しよう」

 その後、俺とマギサは矢島さんの護衛の車列とは別ルートを通り。

 研究所とやらに向かっていくようだ。

 途中、名古屋市警察SWATと車体にペイントされた、装甲車が車列の前後を固め。

 パトライトを真っ赤に輝かせ。

 サイレンを唸らせ始めた。

 ……俺はこれから向かう場所で決断をしなくてはいけない。

 だが――果たして――何を信じるべきなのだろうか?

 先程の不審な電話を疑うべきか? 信じるべきか?

 マギサ達を信じるべきなのか? 疑うべきか?

 俺が悩んでいるのを察したのだろう。

 マギサは先程と違い。

 ……無口だ。

 俺の中で生まれた感覚。

 不安と悩みは混ざって漂い。

 姿が見えない霧に判断力という視界を塞がれ。

 俺は先が見えない事や……決断を下せない自分に対して……歯痒さを噛み締めていた。

 

<06話 契約者>

 ――名古屋市郊外 山中――

 俺は車を降り。

 着いた場所の周囲を見渡した。

 目の前には……芝生に囲まれた……白い数階建ての建造物がある。

 周りは山だらけだが、少し下には溜池や建物が何棟と……グラウンドがあるようだ。

 そのすぐ麓には、奇妙な場所があった。

 何やら銃火器を持った方々や、荷台に機関銃を備え付けた、テクニカル車輌の類いが屯する、施設だ。駐車場の一角では、付近の山で仕留めたと思われる、イノシシやシカを解体。

 ドラム缶を改造したコンロで、モヒカン姿の方々が昼間から缶ビールを飲み。

 煙なんか気にせず……バーベキューをしているようだった。

 それに引き換え、ここは微かに涼しい風が……心地よい感じだ。

 時折、セミの鳴き声に混ざって、銃声や叫び声が麓から聴こえるが、気にしたら負けだ。

 遠くには摩天楼が何本も聳える、この世界の名古屋市が見える。

 そんな俺の横にマギサが立ち。

 ……静かに口を開いた。

「ついたわよ。ここが研究所……少し見覚えがある場所でしょ」

「確かにあるな。向こうで何度か来た事があるよ」

 ここはどことなく、見覚えがある場所だ。

 確か俺の世界では……山の上に造られた……大学だった筈。

 過去に何度か、俺は仕事の用事。

 資格関連の試験で来た事がある場所だった。

(となると、下のモヒカンの集う場所は道の駅かよ!?)

「こちらの世界での正式名称は……特別軍事法人NEET第七研究所よ……行くわよ。先ずはあって、欲しい人達がいるのよ」

 俺はマギサに案内されながら、建物の中に入っていった。

 既に矢島さんは先に、建造物の中で待っているようだ。

(あって欲しい人達という事は、複数人か? まさかモヒカンの集団じゃないよな?)

 護衛や市警察の方々は自動小銃を構え。

 周囲の警戒をしている。

 ミニガンを積んだ、市警察の装甲車両のハッチから身を乗り出しているのは――サングラスを装着した、タンクトップを着た黒髪ショートヘアーの若い女性だ。

(だけど、なんでこちらを視ている? ピザを食べているのかよ……チーズが美味そう)

◇

「鬼沢さん~護衛対象は施設内に移動完了~山でも見ながら二人でピザ食べましょうよ~」

「ガンナー、俺達は一応護衛任務中だぞ。気を抜くな。インカムは付けているか?」

「勿論ですよ~」

 鬼沢とガンナーは、昨日の賭けで勝手得た昼食。

 ロブスター風プリプリモビアック載せ、ピザを食べていた。

 ガンナーは外を目視で見張りながらなので、通信機能も備えたサングラスを装着。

 サングラスに搭載した小型カメラが捉えた映像や音声、その他の位置情報は市警察の分散型データベースとリアルタイムでデータ類を送受信。

 不審者やテロリストを炙り出す、目の一つと機能している。

「ガンナー、鬼沢さんの言うとおりだぞ。任務中の食事は中で済ませろよ」

 二人にピザを奢った一人。

 龍澤もハラペーニョピザMサイズと麓の『PMCセンター』世間での俗称は『ギルド』で調達した、特売品だった、焼き立ての串焼きを食べながら、言葉を発した。

 串焼きを売っていた、モヒカン賞金稼ぎの話によると。

 最近は対犯罪者や対テロリストの山狩りが多く、その関係で仕留めたジビエ料理だそうだ。

「なんですか~龍澤さん、たまにはコンクリートジャングル以外の自然も見ながら昼食を楽しみたくないのですか~その串焼き私にも分けて下さいよ~」

『若菜、スラム街は自然じゃないよ。人工物』

 少しだけ不満を交え、龍澤に反論するガンナーに対し。

 ガンナーの名を呼び。

 異議を唱えたのは、車内スピーカー経由で声を発した彼女。

 ドライバーだった。

「麗華先輩も一緒に外で食べましょうよ~」

 若菜もドライバーの名前を呼び。

 スラム街や自然へのツッコミは無視して、今度は外へ麗華を誘う。

 

『若菜、そのハッチから二人も身を乗り出すのは無理よ。二人分のバストが邪魔になるでしょ』

 

(……平和だな)

 

 鬼沢は若菜と車内スピーカーを使って話す、麗華の話を聞きながら、座席で横になっている。

 真ん中には昨日使った担架、人命救助ドローンがメンテナンスを終えて戻り。

 向かいでは同じように、龍澤がピザや串焼きを食べ。

 ゴロゴロしている。

 鬼沢達は昨晩、署に帰投後。

 上司から特別任務を命じられた。

 任務内容は要人警護。

 しかも警護対象はかつて、自分と龍澤がいた古巣。

 特別軍事法人NEETの……幹部連中だ。

 上司の話によると、何でも市長から直接下された命令らしい。

 故に通常の任務は全てキャンセル。

 翌日から月曜日までは、休暇でいいとの事。

 悪くない条件なので皆、この任務には満足している。

 少しだけ眠気が出てきた鬼沢の斜め目の前。

 上部ハッチの入口で足をブラブラさせる……若菜が鬼沢に話しかけた。

「そもそもここは、NEETの中枢施設ですよ。流石に昼間から襲撃する馬鹿はいないでしょ」

「……まぁ、可能性としては低いが、NEETの女性幹部と歩いていた若い男がいるだろ……あれ、昨日俺達がレスキューした奴だぞ」

 鬼沢のさり気ない一言で場の雰囲気が一気に変わった。

 直ぐに反応したのは、外を目視で確認している若菜だった。

「確かに警護対象の女性はデータだと、PMCの要人ですね。隣の男性も警護対象ですが、ああ! 確かに昨日救助した方ですね! でもそれだと、データ表示に出てこないのおかしくないですか?」

「あ、鬼沢さんも気付いていましたか」

 続いて反応したのは、同じ古巣の龍澤だった。

「龍澤も気付いていたか。あの女が出てくるとか、この任務は普通じゃないよな」

「ええ、あの幹部の女……確かマギサだったかな……あの女も謎が多いですよね……創業者の矢島と違い、決して表舞台には出てこないが、軍や警察の機密資料でよく名前を拝見する方の一人だ」

「そう言えば~鬼沢さんと龍澤さんも確か元NEETですよね! あの女の子もマジで幹部ですか?」

 若菜が思い出した事を『なるほど』といった感じで疑問も混ぜ、無邪気に発した。

『そういや、お二人さんはPMCの方が、明らかに金と装備がいいのに、なして市警察に来たの?』

 若菜に続いて、麗華も疑問を発した。

 その疑問に答えたのは、鬼沢だった。

「市警察のSWAT隊員だった、市長と昔からの知り合いでな」

 ――その頃 研究所内部――

 ◇

「ヘックシュン! 誰か私の噂をしているな~」

 小さな少女と見間違いそうな小柄な女性が、矢島の隣に並んでいた。

 その隣にはマギサが並んでいる。

 一見すると、親子が三人で並んでいる様にも見えるだろう。

 少し後ろでは矢島の秘書。

 新谷が静かに待機している。

「市長、ご協力感謝します」

「気にしないで矢島さん……マギサちゃんも大変だったね」

「ええ。正直なところ、彼でパイロットが決まればいいのですが」

「ツバメちゃんを見ている感じだと大丈夫じゃないかな?」

「ええ、だといいのですが」

 三人は並んで……豆腐一丁並みに分厚い防弾ガラスの向こう側。

 そこで、白衣を着た研究員や作業服をきた整備士に調整を施される兵器。

 マギサの世界、ツバメの里から持ち込んだ戦鎧『黒鉄』の姿を見ていた。

 黒鉄の胸部のコクピットには十数年経っても、相変わらず少女のままの妖精族。

 ツバメがパイロットスーツの様な服を着込み。

 音声は分からないが、研究員や作業員の見せるタブレットのデータ類を互いに確認。

 時に笑いながら、談笑をしたりしているようだ。

「――会長、所長が間もなく、こちらで今回の実験について御説明するそうです」

 秘書の新谷が話しかけた直後。

 防弾ガラスより分厚い対爆扉が開き。

 この研究所の所長が現れ第一声を発した。

「お待たせしましたぁあああああああ!」

 四人は振り向き。

 ボサボサの寝癖のまま。

 白衣を着た、少し残念そうなメガネを掛けた、理系美女。

「やぁ本田君、今回の実験は上手くいきそうだと聞いているぞ」

 矢島は笑顔で顔見知りである、本田所長に言葉を掛けた。

「どぉおおも! 会長! いつも予算工面してくれてサンクス! そしてマギちゃんと市長ども~」

 マギサと市長は軽く手を振り挨拶。

 だが、顔に少しだけ――不安と汗が浮かんでいる。

「いや~流石マギちゃんが例の並行世界から直輸入してきた人材は魔力反応がビンゴでしたよ! ご覧下さい! あのツバメちゃんの笑顔を!」

 確かに防弾ガラスの向こうのツバメは笑顔だ。

 皆、自然と横一列に並び。

 本田所長の解説は続いていく。

「昨日深夜、マギちゃんが直輸入してきた転移者。彼が転移する前に我が社の工作員に事前採集させた生体サンプル、要は血液を使い。黒鉄のコアに魔力反応するように、ツバメを搭乗させた状態で、擬似的にコアが動くか試したところ……矢島会長達が撮影していた『異世界動画』の通りに動きましたよ! まぁ三分間だけでしたが……これは大きな進歩ですよ」

「なるほど、ところで本田君――」

 矢島は疑問を抱いた。

 確かに三分間でも黒鉄が動いたのなら。

 支援体制さえ整えば、実験的な戦闘には投入が可能だ。

 後は、黒鉄のデータをベースに後継機の開発と量産化。

 実戦での戦術運用ノウハウの確立。

 そうすれば、マギサの世界で続く戦い。

 女神の代理人を決める戦いに、自分達は勝てる。

 その目処が立ったのだ。

 矢島は少し嬉しい気持ちだ。

「――見たところ……黒鉄の中身はどうした? 中身が空っぽじゃないか?」

 先程まで、ここで見た限り、黒鉄が実際に動いているところは見ていない。

 見たのは此処に来る途中、機密回線で送られてきた、記録映像だけだ。

 普段なら、ツバメやパイロットを保護するスライムの肉塊。

 改造するのに手間が掛かった、竜骨のフレームがある筈だ。

 だが、それが綺麗さっぱり無いのだ。

 矢島は一抹の不安を覚えた。

「ああ、中身は再利用しましたよ。それについては、責任者であるマギちゃんから、会長や市長に話した方がいいかな~」

 マギサは三人の視線を浴びながら……防弾ガラスに触れ。

 静かに口を開いた。

「これまで、私とツバメが選んだ転移者は、魔力反応値は平均以上で優秀だったけど……ツバメとの魔力接続の回数が増える度に、精神汚染が発生して、その後は錯乱して山中に逃走、他の参戦者に保護されて来たけど、その後色々と調べた結果。彼らには元の世界への後悔や現状への恐怖感が強く発生していたのよ」

「……マギサ、話を続けてくれ」

 矢島はマギサの話に聞き入っている。

 隣の市長や秘書の新谷も……真剣な顔で話を聞いているようだ。

 

「そこで、クラウゼに人材選定の基準を変更させたのよ『他者と魔力接続しても自我を保てる人材』にね……そうして、向こうの世界で収集したビッグデータから調べた結果、何百人か候補者を見つけたのだけど、例の妨害者。振り込み失踪事件を大規模に行っている、正体不明の誰かに9割近い候補者を失踪させられ……残った3人の内2人は自宅のドアに仕込んだ転移陣を使い。最後の一人は私が直接転移させてきた……黒鉄の中身は私が直輸――じゃなく、直接連れてきた転移者の改造手術に使ったわ。その辺の説明は本田所長や後日、本人も交えて、担当医がした方がいいわね」

 

 矢島は驚いていないようだ。

 何だか、予想通りといった感じの顔である。

 そんな中、話を聞く側だった市長が笑顔で口を開いた。

 

「なるほど、私にもこの件の話が矢島さんから、くるわけだ……いいよ! 市長の権限の範囲内なら、幾らでも協力してあげるから、マギサちゃんも頑張りな!」

 マギサは市長の協力的な反応に驚いているようだ。

 確かに転移に伴うモンスターの発生や転移。

 その後始末や事後処理、隠蔽工作には市警察も協力している。

 元SWAT部隊出身の市長でも、この反応は妙だと感じた。

 その違和感の答えは矢島が話始めた。

「マギサ、市長にも協力してもらう見返りに……ツバメの輝きを分けて、参戦者になって貰った。魔術や魔力、女神の代理人の概要についても、知っているよ」

「そういう事ですか……」

「……そうだよ。市長が私じゃなくても、矢島さんの提案には応じたと思うよ。死者の完全蘇生が出来る可能性があるのなら……当然じゃないかな」

 マギサは市長の経歴を思い出していた。

 彼女は第三次世界大戦終結後、創設間もない名古屋市警察の特殊部隊SWATを創設。

 だが、旦那と子供をゲリラ戦に巻き込まれ、失っていたのだ。

 マギサは愛する人を失い、それでも生き抜いてきた市長。

 この世界の人々の死生観を異世界人である、自分が汚した様な気持ちになった。

 だが、マギサが求める理想の一つは市長に近い。

 愛する人、恋人の生死の確実な確認。

 その為にも、女神の代理人になり、聖域で生死不明なまま、行方不明な自分の恋人。

 彼が生き返るか否か、女神の代理人が使える、手元に死体が無くても行える秘技。

 遠隔蘇生の秘技で調べたいのだ。

 最も、死者蘇生魔術が行い難い場所、聖域で彼が死んでいた場合。

 その死亡は確実に確認出来るからまだマシだ。

 マギサが嫌なのはハッキリしない状況。

 霧が立ち込めた様な、気持ちを抱えたままの自分が嫌なのだ。

「市長、今後ともよろしくお願いします。私は連れてきた転移者と話があるので、失礼します」

 マギサはそう言うと、部屋を足早に出て行った。

 ――研究所内――応接室

 ◇

 俺は応接室にいる。

 部屋の感じは周囲の山々が見渡せる。

 眺めのいいガラス張りの広間っぽい空間かと思ったが、違ったようだ。

 間近に近付くと、白い壁なのが分かった。

(流石に下のモヒカンさん達を考えると、ガラス張りは流れ弾とかが危なそうだもんな)

 出口の周囲にはマシンガンで武装した黒服姿の護衛がいる。

 トイレ以外は部屋から出ることはないので、とりあえず。

 スマホを触って……グレーのソファーで待っている状態だ。

「あ、そうだ」

 俺はソファーで仰向けになったまま。

 例の正体不明な着信を思い出し。

 スマホのブルードロップ機能をオンにした。

(ブルードロップ……って確か、周辺機器を繋ぐ無線でのメールや画像、音声を周囲の人間とやり取りする機能だから、異世界で使えるとは思えない――ぇぇええええええええ!?)

 まさかのメール受信。

 という事は、近くに送信者がいるのか?

 俺は念の為、カメラの視線も考え。

 さり気なく死角を作れる様に、この姿勢を選んだが、正解だった。

 メールの内容は――『其処まで行けばもう安全だ。お前の契約後に会いに行く。休日はブルードロップをオンにしたまま、この端末を持ち歩け。幸運を祈る。追伸・カメラの死角を気にして仰向けでスマホを弄るのは正解だ』

(一体何者だよ? もう異世界転移とか体験したから驚かないけどな!)

 俺は疑問と不安を覚えつつも、仰向けのままスマホの電源を切り。

 普通にソファーに座った。

「お待たせ。随分と待たせたわね」

 丁度マギサが入ってきたが、どうやら移動するようだ。

 俺は部屋を出て、研究所の奥へ進んでいく。

 途中何度も曲がり角が多かった。

 恐らく侵入者対策なのだろう。

 まるで、迷宮のようだ。

「着いたわよ。入って」

 俺が入った部屋で見たのは、壁際に並ぶ六人の男女。

 カラフルな髪をした美男美女の少年少女。

 そして、宙に浮く――小柄な人影。

 部屋の中央の床には……魔法陣の様な何かが描かれている。

「妖精?」

「マギサ! そいつがあたいの相棒ことパイロット候補か! よろしく! あたいはツバメ!これでもマギサと同じく、女神を目指す魔女の一人だ!」

「とりあえず、あの妖精、ツバメっていって、私の友人がいる魔法陣の中心まで私と一緒に進んでくれる」

 俺とマギサは二人で並んで魔法陣の中央。

 ツバメの目の前に立った。

「んじゃ! マギサと100何人目かの転移者君! 契約を開始しよう! いや~まさかマギサとあたいの妖精族特有の魔力、黒鉄の核が干渉した結果! 中の人が発狂していたみたいだからね! 初めからこうしていれば良かったのよね!」 

 ツバメという名の妖精は何やら、涙ながらに熱く語っている。

(内容は分からないが、なんか嬉しそうだな)

しかし、小さい体格。

 それも美少女フィギュア並なのに声量が普通の人と変わらない。

 ジャラ。

「ええと、このメガネを装着して、このペンダントも身につけてね。その結晶は私とツバメの結晶を半分ずつ、砕いて混ぜた物だから、あなたは私とツバメ二人と契約するのよ」

 マギサはそう言うと、ポケットから出したメガネ。

そして茶色の革紐で結ばれた青い結晶の付いた、ペンダントを渡してきた。

 俺はそれを身に付け。

 メガネには『魔女との契約について』と文字が表示され始めた。

 電子音も聴こえてきた。

どうやら、情報機器のようだ。

 此処まで来たら、後戻りは出来ない。

 それ以前に、着の身着のままで異世界に来た俺には他の選択肢などない。

(やるしかない)

「人が視界に入って、文字が見にくい時は壁や床に視線を移すといいわよ」

「転移者君、そいつの調整はあたいも後で手伝ってやるよ!」

 俺は頷き。

 宙に浮きでた目の前のカーソルに触れた。

「感触まであるのかよ」

「少しだけ脳波に魔力で干渉して、使いやすくしているのよ。」

 何となく使い方が分かった俺は表示を指先で摘み。

 出てきた契約項目を確認。

 大体が、女神の掟に関する事項とPMC(民間軍事会社)での雇用に関する、契約内容のようだ。給料はこの世界の法定通貨で支払うようだが、見たところ。

(こっちじゃ法定通貨が暗号資産化しているのかよ)

 どうも補足事項を見ると、この世界の日本では、第三次世界大戦の復興を進める為。預金封鎖後に高額課税を実施、デノミを実施して現金を廃止したようだ。

 今では暗号資産、この世界では『暗号通貨』という呼び方をする形態が、通貨の主流のようだ。

 そして俺は一番下まで項目を読み。

 全ての契約内容に同意するというカーソルを摘み。

 承認する場合はカーソルをペンダントの前で握り締めろと、表示され。

 俺はカーソルを胸元のペンダントの前で握り締めた。

 次の瞬間――足元の魔法陣が青く輝き――マギサ達が口を開いた。

「よろしくね。あなたの名前を聞いてもいいかしら」

「お、そうだったなマギサ! あたいも験担ぎで敢えてプロフィールを見てなかったから気になるよ! 転移者君、あんたの名前は?」

 

「俺は――――遠近義明だ。まぁ見ての通り、無職のおっさんだがよろしくな」

 

 こうして俺は、女神を目指す魔女達との契約を行い。

 女神を目指す戦いに参戦する者達の一人になった。

 だが、マギサとツバメの顔が固まっているのは何故だろう?

 

<エピローグ>

 

 マギサとツバメの輝きを分けられ、契約を済ませた数十分後。

 俺は先程いた応接室で……矢島さんから、あるものを贈呈された。

 それは銀色の刃のような大口径の回転式拳銃。

 彼曰く、グリップは樹脂ではなく。

 竜皮に交換したから、頑丈だそうだ。

 ◇

「まさか、あの二人も気絶する程……驚くかな。それ以前に気づくと思ったが……とはいえ、君は君だ」

 どうやらもう一人の俺。

 この世界で生まれ、第三次世界大戦中にマギサの故郷。

 異世界に転移した彼は、マギサの恋人だったらしい。

 そしてツバメも……彼には懐いていたようだ。

 だが、彼はマギサや矢島さんが地球に帰還する際の戦闘で生死不明。

 その時の映像は矢島さんが当時身に付けていた装置。

 ボディカメラに残っていたので、見せてもらった。

「自分の声はビデオで聞くと違和感が凄いだろ?」

「ええ、でも……彼は彼ですよ」

「そうだったな失礼。この世界で困った事があったら、いつでも私に連絡をくれ」

「ありがとうございます」

「……聞きたいのだが、君は今、どんな気持ちだ? そう、例えるならどんな状況が近いかな?」

 俺は少し悩んだが、何故か自然と口が動いた。

「今は迷いが少しだけ消えた感じです……ハッキリ言って、俺に選択肢は一つしか無かったですね。マギサ達と契約する意外には」

「君は意外と前向きだな」

「自分でも意外だと思いますよ。そもそも異世界転移なんて経験は、あり得ないと思っていましたから」

「……それは第三次世界大戦中に転移するまで私も同じだったな。だが、異世界転移の先輩である私からしたら、君はイージーモードだ。この意味が分かるかね?」

 俺は直ぐに意味を理解したので即答した。

「ええ、いきなりファンタジーな世界に転移せず、自分の世界と似たような世界に転移する、しかも、異世界転移経験者のサポートまである……おんぶにだっこかもしれませんが……」

 俺の中から漠然とした不安は消え去り。

 昔……一度は憧れたあるイメージ像が浮かび……口を開いた。

「この世界にも、外人部隊はあるかも知れませんが、俺の立ち位置はそういうポジションなのかもしれませんね」

 要は利害関係の外にいた異邦人なら、報酬で忠実に動く可能性が高い。

 しかも故郷と離れた異国どころか、異世界なら逃げ場は一切ない。

 俺もマギサや矢島さんの立場だったら、似たような手段を考え。

 行使をするだろう。

「理解が早くて助かるよ。まぁ、それも君や私みたいな異邦人が、あの世界……死者が完全に蘇生出来る魔術がある、世界で望まれる理由の一つなのさ。もう一つは君達の世界というか、日本では異世界転生や転移の小説、アニメが……異様に多いだろ」

「確かに多いですね」

 

 ただ単にテンプレや流行。

 無料で読める投稿サイトの登場と定着。

 出版社や編集者の好み、趣味趣向などの都合。

 それらや、社会情勢が複雑に絡みあった、その結果だと思った。

 だが、矢島さんは、意外な言葉を発した。

 

「アレを流行らせているのは私達だよ。まぁ情報操作というか、広告宣伝、プロパガンダの一種さ。事前にそういう渇望を生みやすくしておけば……転移後のトラブルも少ないからね……君の世界の編集者や作家の中には、異世界人も少なからず……紛れ混んでいるのだよ」

 

 俺は少しだけ矢島さんの言葉に恐怖を覚えた。

 だが、彼の表情は何かを懐かしみ。

 ……そして悲しんでいる様にも見える。

 

「…………それは経験ですか」

 言葉足らずだとは思ったが、直ぐに言葉が出てきた。

 言い直そうとしたが、矢島さんが直ぐに話し始めた。

 

「そうだね……私の世界。ここでは第三次世界大戦前や戦中は、異世界系の作品はさほど流行っていなくてね……いきなり転移した我々は、酷い目にあったものさ。特に地球に戻った私達は後悔したよ……フィクションの想定力は馬鹿に出来ないのだと」

 そう言うと、矢島さんは出口に向かって歩きだした。

「そうだ、契約をした魔法陣の周囲にいた子供達は、マギサの世界から来た子供達だ。癖が強い子達だが、仲良くしてくれ」

 

 応接室で一人になった俺の手元には、矢島さんから贈呈された大口径の回転式拳銃。胸元には参戦者の証のペンダント。

 ズボンの左ポケットにはマギサから渡された、メガネ型の情報デバイス。

 ズボンの右ポケットには俺の世界から共に転移した、傷だらけでも動くタフなスマホ。

 俺は応接室の壁に映る……燃える様な夕陽を視ている。

 この夕陽が本物なのか、合成映像なのかは分からない。

 ただ、異世界転移した俺がこの状況を楽しもうと……ワクワクしているのは確かだ。

 

 ◇

 

「私だ。クラウゼ聞こえるか?」

『はい矢島。なんでしょうか?

「昨晩のスラム街のゴブリンとリザードマンの大量転移は奴、ガルーシャの仕業で間違いないな」

『はい、その通りです。先週、九州北部国境周辺地域の難民キャンプで、ドローンや防犯カメラに映っていたレプティリアンと呼ばれている、竜人族の類いの中に、ガルーシャという、改造人間が紛れ込んでいるのは間違いありません。既にガルーシャと思われる個体が、海路で州内のスラム街にエルフと共に侵入しているのも、確認済みです。マギサ様、ツバメ様の精神面への影響を考慮して、お二人には情報を伏せております』

「やっと、もうひとりの義明を見つけたのだからな……義明を鍛えてガルーシャを始末するぞ……それが出来ないと、マギサ達は女神の代理人に近づけない。お前の計算でもそうだろ?」

『その通りです。私のプライマリーコマンドである『マギサを守る』その設定に基づく計算も同じ結果を示しています。私を一万数千年ぶりに発掘し、そのように再設計したマギサの母、ネリサが下した決断に対して、人工知能である私は逆らえません、その目的遂行の為の協力は惜しみませんよ矢島』

 

「ああ、よろしく」

 

<END>

 

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