「あちらが『汐留近辺で』と言っていましたから」
編帽子を傍らに、僧服でロックグラスを傾ける虚無僧の男はそう言って洋酒を呷る。「それに――」と続ける。
「“異界”だからこそ、あの人は喜ぶかもしれませんしね」
ニコニコと笑顔でロックグラスを空にしてそう呟いた。
「まぁ―――あそこは色々と特殊な場所ですけれど」
「どう考えても事故物件です本当にありがとうございました」
俺たちの戦いはこれからだ!!(ご愛読ありがとうございました!)
『終わるな終わるなまだ終わっとらんぞ』
「いやこれどう見ても中に入ってったら死亡するフラグじゃないですかー」
JOJO音が深層意識に働きかけてくるこの状況、迂闊に中に入った瞬間「俺たちは既にスタンド攻撃を受けているッッ!!」となって戦闘不能(リタイヤ)ってなるに決まっている。俺は詳しいんだ。
『中々粋な計らいをしてくれたというべきではないか?異界が構築済みならば“
やだ……発想が蛮族ゥ……ッッ!!
『――ローマの言うことに同意するのもやや癪な部分がありますが、“異界”を制圧することは貴女にとって重要なメリットがある話です』
「kwsk」
ヘスティアー様からも無情な制圧推しに説明を求める俺。
――そして始まる“サルでもわかる楽しい異界説明”
異界とは、“悪魔たちの世界”が現世に漏れ出た結果生まれたモノで、大体は“強すぎる悪魔が、GPに見合わない自身を護るために造り出す”らしい。
要するに異界というのは一種の別次元であり、存在しているだけで周囲にマグネタイトをばら撒いて悪魔を活性化させる場所である ということ。
それはつまり――“異界の中にいる間はMAGの消費をあまり考えないで良い”ということである。神対応かな?
『無論。異界の主の気質にMAGが左右される以上、取り込み続ければどんどんそちら側に引きずられて行くがの』
前言撤回、ろくでもねぇ罠だった。
改めて雑居ビルを外から見上げてみる。
日本の商業地でよく見かけるそこそこ大きめの長方形をした鉄筋コンクリート製の味気ないビルで、外観こそクリーム色の塗装でごまかされているがそれがまた安っぽい印象を受ける。この見た感じ普通の雑居ビルって感じの建物の中に、いったいどんなとんでもないボスが待ち受けているのか……?
一先ずいつでも撤退できるように【銀の鍵】を首から下げたまま、【人間変身】を解除してフォルトゥナの姿に戻っておく。いざという時に変身解除するまでのタイムラグが致命傷になるのはこれまで地霊相手のレベリングとジャックリパーとの戦いで流石に身に染みていた。
正直ここで逃げだせるのなら逃げたい。でもどう考えても逃げられるモノではない上に、脳内のまざはろ様とヘスティアー様がGOサイン出してるし無理筋である。
「そんじゃ、行きますか―――コボルド」
「オン!!行きやすぜ、アネサン!!」
地面をトントンと爪先でノックして名を呼ぶとズルリと地面から飛び出すようにコボルドが現れる。スパルトイも呼んでおきたいところだが、合体で作り上げたスパルトイを維持し続けるにはMAGが地味にカッツカツだったりするため、いざという時の切り札として省エネモード(骨の欠片)で胸元に忍ばせたままにしている。必要だったとはいえ、強力な悪魔に厳選しすぎたのが悪い方向へ出ていた。
現状、強い悪魔を使役するためには俺自身が今の二倍三倍は強くなって保有するMAGを多くしておかないとならないらしい。
そんなこんなで、俺とコボルドで雑居ビルの入り口をくぐったのだった―――。
>>>
――雑居ビルの入り口を通って、まず最初に感じたのは『清潔感』だった。
人が手入れをしていない、生活感の無いビルの中であれば、数日で埃が積るし空気中もごみごみした咽るような煙たさ、埃っぽさを感じるものだ。だというのにこのビルの中には“それらが無い”というよりも“むしろ清潔に保たれている”。
「異界の主人は綺麗好きなんですかね?」
『わからぬのぅ。穢れを厭う悪魔となると女神や妖精、地母神などに多いが……』
『穢れの神というならば―――トラソルテオトルでしょうか?』
怪訝そうな顔のまざはろ様に追従するようにヘスティアー様の声。
トラソルテオトルと言えばアステカの地母神であり、メガテニストにとっては『便器』で認知されてると思われる。実際クッソインパクトあったから仕方ない。
トラソルテオトルとはアステカのナワ語群の言語で、日本語に直すと「穢れ(トラソル)の神(テオトル)」という意味になる。その名の通り穢れを癒す権能を持ち、特に性犯罪などによる性病関連を司る神様である。そのせいか悪魔絵師の御方に便器と一体化した姿で描かれてしまった。
「――やっぱり便器と一体化してる姿なんですか?」
『悪魔はヒトのイメージ、信仰によりその姿を変える。とだけ言っておこう』
――つまり便器女神だった場合そういうイメージを持たせた人の責任という意味だろうか?
「マヤ文明の神々も日本で勢力範囲を広げてるんですかね?」
『いや、彼奴らが勢力を広げているのはマヤンカレンダー次第だからのぅ……日本にマヤンが進出しない限りこちらに出てくることは無かろう』
『逆説的に言えば、マヤの神々が日本に点在する可能性をここの悪魔の正体で推理できるということです』
つまるところこの場所に居るのがトラソルテオトルだった場合、マヤ神族が日本に進出してきている証拠になりえるということ。気分は前世で海外ゲームでやってた幽霊とかを調査する調査員になるゲームおそれである。UVライトとかヴィジャ盤とかあったら倍率ドンだっただろう(妄想)
なお、俺がここまで余裕を崩さず行動している理由は、まざはろ様の『この異界のレベル帯はさして強いわけではない。ボスであっても精々がお主と同じかそれ以下よ』という言葉を聞いていたからである。
――最近戦ったのがレベルと物理でゴリ押ししてくる相手だったからだろうか、俺はこの時完全に忘れ切っていた。
“
>>> 【異界雑居ビル:1階】
1階は雑居ビルによくあるエントランス的な部分で、入り口の狭い玄関口を抜けたら壁のないワンフロア1部屋の空間になっていた。部屋の端っこには簡易エレベーターと、その隣に階段が備わっている。
「古典的なやつだとエレベーターで移動すると途中で止まるとかそういうフラグがありますよね」
『階段も段数にちなんだ都市伝説などがあるから油断はできぬがな』
そんな感じの掛け合いを脳内で行いつつ、初めてのダンジョン探索である。実のところ内心でダンジョン攻略に入ったタイミングからややワクワク気味だったりする。現代でも『リアル脱出ゲーム』だの『東京ダンジョン』だのリアルで存在する迷宮(駅)をあてどもなく迷う時、不安はあるけど若干ワクワクするものだ。みんなそうじゃないだろうか?
地鎮祭を行ってたのだろうか?1階の中央には注連縄で囲われた部分があり、その中央には小さな組み立て型の社のようなものが鎮座していた。そこに一枚の紙が垂れ下がっていて、そこに何か書いていたのだが―――読めん(迫真)
「まざはろ様、このライダーキックかジョジョ立ちみたいな形の字、読めます?」
『梵字。サンスクリット文字だの。つまるところここにおるのは仏教由来の神か、或いはインド原典の神ということであろう』
簡単に説明してくれるまざはろ様だが、それが何なのか教えてくれないあたりまざはろ様にもわからない可能性が高い。つまりこの場の悪魔の情報は全くないと言っていいわけだ。
とはいえ全く情報がないままというのもアレなので、さて二階にと前に踏み出そうとしたところ、“バチィ”と何かに遮られた。感電こそしなかったけどこの音はトラウマを想起して心臓に悪いんでやめてもらえませんかねぇ……?
「オン!アネサン、この異界は階層ごとに守護者がいますゼ!」
「守護者……?」
初めて聞く用語ではあるが、コボルドにオウム返しで返しつつもだいたいの事情は呑み込めていた。RPGダンジョンの鉄則だものな!!つまりあれだろう!?
ダンジョンボスみたいなのがいて、倒したら次の階ってやつだろう!?テンション上がるなぁ~~~!!!
『緊張感を持て。この間死にかけたばかりであろうに』
まざはろ様の言葉も耳に入らない俺は、高まるテンションのままにそこいらをペタペタと調べて回った。が、そもそもこの階、何もないと言っていい。唯一あるのが注連縄と祭壇のように置かれた簡易社だが、そこにすら神聖な力も感じない。あと見ていないのは―――
「トイレかぁ……」
『定番ではあるな』
悪魔の肉体になってから、排泄というものがほぼ無縁である。“人間変身”している間は人間の臓器を使っての食事がメインになっているのか、『あ、トイレ行きたい』と思うことはあった。が、その状態で悪魔の姿に戻ると、胃の中や腸内の余剰な食べ物やウ●コ予備軍は全部体内で消化され還元率100%でエネルギーになってしまうのだ。めっちゃ効率いいな悪魔の肉体。
昔、悪魔に戻るというのが億劫だし、女の肉体というものに慣れておくべきだろうなとあまり考えずにそのまま尿意と便意に任せてトイレに向かってみようと思ったことがある。余談だが、俺は元男であり、男には当然、女にはついていない部分がある。あれは生殖器であり、生殖のための器官であると同時に“蛇口から伸びているホースのようなもの”だったのだと理解したのは―――思い出したくないからこの話終わり!ともかく、俺はそれ以後悪魔に戻ることで便意キャンセルを会得したのだった。
閑話休題。
フロアの端っこにあるドアの向こう、トイレの区画に足を踏み入れると独特の臭気が鼻を衝いた。芳香剤なんぞおいてないんだからしょうがないと言えばしょうがない。人が手入れしなくなったというのにコンクリに劣化が無いあたり、異界ということを思い出させてくれた。
トイレには個室が2つあり、男子側にはそれとは別に小便器が2つ壁に鎮座していた。ただ……
「どこにもいませんね。悪魔」
『トリガーが引かれておらぬのやもしれんな』
脳内のまざはろ様と二人でそんな風に相談し合う。少なくとも、悪魔を倒さない限りは次の階層を攻略できない。
「とりあえずできることは全部試してみるべきでしょうけど……」
とはいえ手詰まりである。トイレのドアをノックして「はなこさーん」とかやってみたが反応はなかった。これ以上何をしろというn『よし、そこのトイレを使ってみよ』おファッ!?
『他に思いつくものもないからの』
「いや・・・でも・・・なぁ・・・」
別に忌避感があるわけでもない。が―――
『女神は排泄などしません』
脳内でそんな感じの“圧”がすごいんです。はい()
―――と、いうわけで
「ほら、がんばれコボルド」
「―――ッス」
何とも言えない表情で便器に座って用を足しているコボルドを、ドアの向こうから応援している俺 という構図が生まれたのである。何だこれ(素)
『ほれ、応援してやれ。頑張れ♡頑張れ♡』
「がんばれー、がんばれー」
何やってんだろう俺……と思わんでもないが、これ確実に中のコボルドの方が“何やってんだろ俺”状態だろうからとりあえず応援してみる。正直これで何ができるかってレベルなんだが……
「がんばれー、がんばれー」
『頑張れっ♡頑張れっ♡』
「がんばれぇーーー!!もう少しだ!頑張れぇーーー!!!」
俺のがんばれボイスに連動するように声が重なったのはその時だった。
声の位置から下を見下ろしてみれば、体長1mくらいの大きさの子供サイズの悪魔がそこにいた。
顔にあたる部分は足の形になっていて、足の裏の部分に目鼻口が付いている。踵から足首にかけての辺りが首になっていて、胴体と手足が伸びていた。ナンダコレ……
「と、とりあえず【アナライズ】」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
名前:カンバリ 種族:秘神
属性:NEUTRAL-NEUTRAL MAG:223
Lv 27 HP 262 MP 131
力 21 魔 17 体 23 速 20 運 20
耐性:剣撃弱点・銃/物理半減 破魔・呪殺無効
スキル テトラカーン・二分の活泉(パッシブ)・マハンマ・八百万針
スキル(種族)【神隠し】 通常エンカウントでは遭遇しない
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『なるほど、“がんばり入道”か。盲点だったの』
まざはろ様の言葉も耳に入ってそのまま出て行っている状態。このレベル何なの?マジ何なの・・・?強くない・・・?
スパルトイを出しても倒せるかわからんこの状況をいかにして解決するかと心に冷や汗がダラッダラ状態の俺に
「オン!出やしたゼ!アネサン!!」
そんな声が響いて、うんうんと満足そうな顔でカンバリがスーーーーッと消えて行いった。
『――どうやら、二階のギミックが解除されたようだの』
『女性一人で探索に来たくないギミックですね』
脳内でそんな声を聴きながら
「――――はぁぁぁぁ………」
その場に腰を抜かして座り込む俺だった。
―――っていうか……悪魔なのにそもそも出るもの出るのか……魔獣
文字数短いし座りが悪かったので2話分を1話に合体()
次も校正したら即投稿予定()
天秤のてこ入れ(一段階進みます)
-
ギリシャに寄せる
-
ローマに寄せる
-
どちらでもない