【目は口程に物を言う】という諺がある。
【百聞は一見に如かず】という諺がある。
人の視覚情報は耳のそれよりもはるかに多くの情報を得る手段である。というものだ。実際のところ【アナライズ】は視覚情報に頼っている部分が大きい。噂話だけで大体の情報が手に入る場合もあるが、それらは所謂「情報から記憶などのデータを照合して存在を特定している」というものになる。
―――今回の結末はまぁ、そういう話である。
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「どなたか、私の配下になって“悪魔合体”に同意していただける方は居ますか?」
「―――では、私で良ければ」
すっと手を上げて前に出たのは池の前に集まっていたアズミの中の一人、ぱっと見は10代の若者のように見える男だった。
「私は独り身ですし、一族から離れても問題ありません。私で良ければ連れて行ってください」
「―――『では……契約を。祖の神とその名と、そしてローマに忠誠を』」
俺の口を奪って語るまざはろ様の声に「はっ」と臣下の礼を取り、アズミの兄さんが唄うように声を上げる。
「大いなる
「―――『許す』」
演目の一シーンのようなその光景を、周囲のアズミたちが喝采で迎える。
『―――さて、ここは結界があるから襲撃の危険はないが、愚図愚図しておると他の連中が犠牲になるであろう。お主がそれを嫌って居るのはさっきまでので分かった。正直我にはとんと理解できんが“そういうモノ”であるならばそれで良い。急ぎ、この池の主人に話をせんとな』
「池の―――主人??」
脳内で響いたまざはろ様の言葉を反芻して、つい口に出してしまったところ周囲のアズミたちの雰囲気が驚きに染まった。アズミの姉さんもびっくりした顔をしている。
「―――知っていらした……わけではないですね。となると、気づいていらしたのですか……慧眼、素晴らしきかな」
「アッハイ」
何のことかわからんが尊敬の目で見られてここで「いえ違います」とも言いづらいのでスルーしてみた。アズミの姉さんはなんか感慨深く頷きつつ池の傍へ向かい、何やらぼそぼそと小さな声で呪文めいた呟きを繰り替えし始める。
―――と、池の水が波打ち始めた。
ザワザワと風も無いのに水面が波立ち。それはやがて大波になり、波間が渦を巻き、そうして―――水が人型を作り上げた。
「―――ヒトの子……ではないですね。私を呼んだのは貴方ですか?異国の神の分霊よ。
―――わたしは【ウンディーネ】、水底で眠る主に代わりこの地を治めています。コンゴトモヨロシク」
「あ、はい。こ、コンゴトモヨロシク。女神フォルトゥナをやってます。現世の名は八月・花音と申します」
唐突にご挨拶から入る水の精霊様にこちらもご挨拶で返す。初対面の相手にいきなり『アナライズ』とかやったら不信に思われそうだからできないけど、確かウンディーネさん。作品に寄るけど大体Lv20台だったはずである。圧倒的に格上なのだ。
「―――それで、わたくしに何を求めておられるのですか?
「―――『アクアンズを1体、戴きたい。なに、分霊や残滓で構わぬ』」
まざはろ様が口を借りて応えると、ウンディーネ様が訝し気な表情になる―――が、やや考える素振りを見せた後で口を開く。
「―――よろしいでしょう。それであの悪魔の所業が収まるのならば」
言うが早いか水面の水を一掬いすると、何やら小声でぼそぼそとよくわからない言語で呪文めいた言葉を繰り返していくウンディーネ様。
「―――来たれ」
声に応えるように、一掬いの水がブクリと膨らんだ。そのままヒトの上半身のような形を大まかに整えるようにして、スライムよりもより透明度の高い水の塊がそこに現れる。
「―――【アナライズ】」
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名前:アクアンズ(残滓) 種族:精霊
属性:LIGHT-NEUTRAL MAG:-
Lv 10 HP 100 MP 80
力 7 魔 6 体 7 速 6 運 7
耐性:破魔・呪殺無効・氷結耐性・火炎弱点
スキル ブフ パトラ
スキル(種族)【精霊の身体】
各属性に応じた耐性を得る:凍結無効
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「―――アクアンズ。私の配下になってくれますか?」
「―――” ”」
声帯が存在しないのかブクブクと泡立つような音を立てる水の塊だが、どうやら肯定だったらしく、俺とMAGのラインが形成されていることが確認できた。
『―――では、最終工程に入るとしよう。ウェスタ、主の出番ぞ』
脳内に響く嬉しそうなまざはろ様の声が何とも判断に困る。
「結局これで何をしようって言うんですか?」
俺の問いかけにまざはろ様は「ふっふっふ」と含みを持った笑いでタメを作ってから、
「―――決まっておろう?“悪魔合体”である」
脳内でどや顔を展開しているであろう得意げな声でそう答えた。尊い(確信)
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埠頭のコンクリート素材の地面に、掌を傷つけて零れだす血液を使って魔法陣を描いていく。同じような文様の魔法陣を二つと、その行く先になるであろう二つの間にひとつ。あまり時間をかけずに二等辺三角形を描くように3つが並んで描かれた。
『よしよし、それで良いぞ』
『はぁ……これで悪魔合体ができるんですか?プログラムも邪教の館も使わずに?』
どうしても不安がぬぐえない俺。まざはろ様がここまで自信満々に言っているということはたぶんできるんだろうが、ゲームではCOMPや邪教の館での悪魔合体しか知らない俺からしてみれば、こんなので合体ができるかって言うと本当に不安しかない。
『―――お主は何というか、既知のものしか理解できぬのだなぁ』
心底呆れた様な声のまざはろ様の声が脳内に響く。
まざはろ様が言うには、【悪魔召喚プログラム】というのは元々の
そんで、悪魔という概念をデジタルに落とし込んで契約をしやすくしたのが所謂「DDS」、デジタルデビルサモンシステムというモノ。それをコンピュータにぶち込んだものを総称して「COMP」と呼ぶらしい。
―――とはいっても、現在の年代での文明レベルだとゲームパッケージの上に載ってるようなハンドヘルドタイプのクッソダッサいCOMPが精々なのだろうけれど……。
『しかしながらこの古式合体には弊害が付きまとう。悪魔同志をデータに変えて合体するデータ合体と違い、悪魔2体の人格が融合されるため、通常の合体でもお互いの自我が相反してしまい失敗する事例が多数存在したのだ』
なぜかウキウキと語っているまざはろ様にドン引きしたい。要するにそれ使えないってことじゃなかろうか?廃人にして使いつぶす予定だから平気とか?そういうやつ?やばくない?発想やばくない?
しかし俺のドン引きした思考を読んでいたのかまざはろ様は「くっふっふー」とウザ可愛い笑いで返す。
『さっきも言ったであろう?コレのネックは「悪魔が互いに自我を持つ場合、互いの自我がぶつかり合うから起こる」のだ』
「わかっておらぬなぁ」というニュアンスを含んだ揶揄う様な調子の声が調子に乗ってるお子様みたいでマジウザ可愛い。が、ここまでおぜん立てをされれば俺にだって答えにたどり着く。
『要するに、片方が極端に自我の薄い悪魔であれば―――』
『そう。全くノーリスクで悪魔合体が可能ということだ』
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―――運が悪かった。 結局はそういうことなのだろう。
汐留駅からほど近い位置にある新橋駅。其処から距離にして500mも離れていないような場所にある某TV局のビルディングから、撮影を終えて帰宅しようとしていたその女性は―――周りを包むスモークのような霧の塊に行く手を阻まれ、あてどもなく彷徨い続けていた。
「――――ハッ、ハッ、ハァッ……ハッ―――何よ……何の冗談なのよこれは……ッ!!!」
悪態をつきながら走る。撮影のために履いていた高いヒールの靴などではとても走り続けられないため、靴はどこかに脱ぎ捨てて素足でアスファルトの大地を走る。柔肌がところどころ傷になってジンジンと痛みを訴えて、ここが否応なく現実なのだと理解させて来ていた。
「冗談じゃないわ―――何なのよこれ、何なのよあれ……映画の撮影?!ドッキリか何か?!ふざけるんじゃないわよ!!」
ニュースキャスターとして売れ始めた矢先の事態に最初はドッキリを疑った。しかしそうでないことは悲鳴を上げて逃げ出した彼女の後輩の断末魔のような絶叫と、さっきから鼻を衝く鉄錆のような匂いが証明していた。
彼女の中の危機感が際限なく膨れ上がり警鐘を鳴らし続けている。
「―――ィヒヒヒヒヒヒィーホォォォーーーー!!!」
「―――!!ぁ……っ―――ッッ!!!」
足先に走った鋭い痛みに、キャスターの女性はその場に転がった。そのふくらはぎからかかとにかけてがザックリと切り裂かれ、動脈にも傷が入っているのかドクドクと勢いよく赤い血が溢れ出している。
―――私、ここで死ぬの?
止血の心得など知らない。放置しておくだけでも絶命に至るであろう深手の傷と、出血による体温の低下が、女性からあっという間に生きる意志を奪っていく。
血だまりの中をゆらゆらと、スモーク状の煙が揺れる。そのスモークの中でゆらゆらと髑髏が揺れる。ケタケタと笑う髑髏の面が、死神の様にゆっくりと近づいてくる。死を運ぶものだと、我こそがそうだと誇示するように。
「―――まだ……これからだったのに……」
小さく呟かれる諦めの声。足先の感触は既に無く、このままではどちらにせよ失血死、あるいは失血によるショック症状で死に至るだろうと理解できた。
ぎりりと強く喰い締める歯が軋み、掌を爪が破り血を流すほどに強く握りしめられた腕を縮め、失われていく体温と、恐怖から亀のように体を丸めて縮こまり―――
「―――死にたくない……死にたくないよぉ……」
年端もない子供のように、呟くことしかできない状況をただ嘆き、
「誰か助けて」
「―――『任せよ』」
静寂を切り裂いて空から舞い降りたナニカが、そう答えた。
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「―――それで?」
「だから!助けに来てくれたんです!おとぎ話のヒーローみたいに!!」
“KEEPOUT”のテープで遮断され隔離された新橋―汐留区間の街並みの一角。
警察の事情聴取を受ける女性は興奮冷めやらぬ様子で調書を取る刑事にまくし立てていた。ニュースキャスターの面目躍如と言わんばかりの語彙により溢れんばかりのリアリティをもって刑事に状況を報告していく。
「足の腱と動脈を切られて失血で死ぬかと思われた傷もこの通り、傷跡もなく完治してます。このままダンスのステップだって踏めるくらいに!ですがみてくださいこのストッキングの切断跡。切れ味鋭い刃物で切られたことがありありと理解できるでしょう!?」
毛布の裾から僅かに出していた脚を、毛布をたくし上げるようにして晒して見せる女性にまだ若い刑事のほうがなんだかよくわからない雰囲気を感じてドギマギとしてしまう。その様子にキャスターの女性は「あらはしたない」と脚を元に戻しコホンと咳払い。
「えぇ、もうこれでおしまいかと思った時に空から降りてきたその人は、大きなマントのようなものを身に着けていて、顔は良く見えませんでしたが、声の質から考えて、女性でした。それで―――」
「それで……“ガイコツを呼び出して戦った”んですね?」
刑事の質問に「はい」と頷くキャスターの女。再び瞳がぎらぎらと興奮に満たされていく。
「懐から投げた小さな骨のようなものが大きくなったかと思うと、骸骨の剣士に大変身!まるで手品の様でした。その骸骨の剣士と、私を襲ってきたドクロ面の殺人鬼が戦って、最後にドクロ面の男を押さえつけて―――」
「―――それで、その殺人鬼の持っていたヘンテコなナイフで逆に殺人鬼の胸を貫いた、と?」
「ええ、そうです」
狙った獲物をズタズタに引き裂くために造られたような『ジグザグにひん曲がったナイフ』。それを持っていた殺人鬼から奪い、逆に殺人鬼を切り裂いた。そうして、切り裂かれたドクロ面の男はきれいさっぱり消滅してしまった。らしい。
「―――一応聞いておきますけどね。
「……今のこの現場を見てどうしてそんな結論になるんですか!!?」
キャスターの女の正気を疑う様な刑事の物言いに、キャスターの方が激昂していた。その様子に「ですよね」と嘆息して調書のメモに書き足していく。
「―――ほかに何かありませんか?たとえばその謎の女性が、何か言っていたとか?」
「いいえ―――――あ、いや、ひとつだけ。よく覚えていることがあります」
刑事の言葉に思い出したようにキャスターが答える。
それは失血により意識が混濁していた時に聞いた言葉。痛みと死のカウントダウンを告げているような傷に手をかざした彼女がかけた短い言葉。
「――――――」
朦朧とする意識の中で、彼女の言葉を聞き取ろうと必死になった耳に届いた言葉。
「―――メディア……。たしか、そう言っていました!」
警視庁特務対策第0課―――後の通称【デビルバスター】と呼ばれる部署になるそこの事件簿に記録されたこの事件は、当時の資料室からの報告でこう表記された。
『築地―汐留間における連続殺人事件、推定“コルキスの王女”により解決』と―――。
「コルキスの王女メディア(メーデーア)って、ギリシャ神話ですよね?ローマが目立たなくて良かったんですか?」
マザハ『は?メーデーアの伝承は我がローマの誇る詩人オウイディウスによって編纂された物語に登場する王女であるぞ?』
ヘス『それは!ローマが!ギリシャ神話を勝手に編纂したんでしょうが!!』
マザハ『だいたいギリシャ神話のメーデーアは嫉妬に狂って間女の一族郎党を皆殺しにするような魔女であろう?ローマではそんな痛ましい事件なぞ起きておらぬ。王女メーデーアはコリントスを去り、ヘラクレスの狂気を癒し、テーセウスと政治的に争い、最終的にイタリア半島に流れてそこで幸せに暮らし、コルキスに帰還して王座を簒奪した伯父を倒して父を救う物語なのだぞ?わかるか?
【ローマで幸せに過ごした晩年がある以上、メーデーアもまた、ローマである!】ということだ!』
ヘス『捏造するんじゃありませんこのローマ!!!』