長門の和室に寝るキョンと朝比奈さんが致してしまう話
長門の和室に寝るキョンと朝比奈さんが致してしまう話
「まさかとは思うが……。ここで寝ろっていうのか?」
長門は掛け布団を抱えたまま俺を振り返った。アメジストのような瞳が俺と朝比奈さんを映している。
「そう」
「ここで? 朝比奈さんと? 二人で?」
「そう」
横目で窺うと、朝比奈さんは及び腰になって、ついでに真っ赤に顔を染めていた。そりゃそうだろうね。俺も例外じゃなく、顔が出火したように熱い。
しかし長門は構うことなく、
「寝て」
そんな単刀直入な。
「寝るだけ」
まあ……そのつもりだけど。俺と朝比奈さんはどちらからともなく顔を見合わせた。朝比奈さんは顔を赤くして俺は朝比奈さんに背を向ける。朝比奈さんの顔をこれ以上直視できなかったし、俺ですら鏡を見たくないのに、今の自分の顔を朝比奈さんに見せるなんて到底無理な話だった。ここは長門にすがるしかない。寝ろというなら寝てやろうじゃないか。これも時間の迷子になっちまってる俺たちを元の時空へ戻そうと協力する長門の策に違いないんだから。
長門は壁際の蛍光灯スイッチに手を掛けて、何事かを呟いた。おやすみではなかったと思いかけた時、パチリと音がして電気が消えた。
しゃあない寝るか、と布団を被ったが、俺の目はエナジードリンクを二十本飲んだみたいに開ききっていた。寝られるわけがない。隣に寝てるのは妹とか修学旅行の晩のクラスメイトとかじゃない、朝比奈さんだぞ。緊急事態でもなければこんな状況絶対あり得ないんだ。本来なら俺は目が覚めたら元通りの世界にいたっていう簡単な想像をすべきだが、もうそんな台本は頭から吹き飛んでいた。
頭の中はそんなことばかりがぐるぐる駆け巡り、無理やり瞼を閉じたところで寝相は仰向けになったり横に向いたりと落ち着けない。一応これ、寝てるって言うよな? 長門の時空修正はまだか?
「……っう、ひぅ、う」
妖怪か、雪女の類か? とでも言いそうなすすり泣きが聞こえてきた。ってンなわきゃない。時空修正も難しいことではない長門が護衛するこの密室に、どう入り込める奴がいるってんだ。
「ぁ、朝比奈さん? 起きてるんですか?」
「う、うううっ。キョン、くん……」
隣の布団妖怪から聞こえる嗚咽で、俺の頭はいつもの沈着冷静を取り戻した。未来人と言い張る割に長門とは対照的でなにも知らず、大人版朝比奈さんの姿も見ずに簡単に眠らされTPDDまで抜き取られてしまう、いつも危なっかしい人。
朝比奈さんも不安なんだ。
「大丈夫ですよ、朝比奈さん。長門は見栄を張ったりするやつじゃありませんから。あいつの言った通り眠れば、次起きたときはちゃんと元の世界になってますって」
「ぅっ、ううん、違うの、ひっく。あた、あたしっ、なんにも知らない、っ」
朝比奈さんが布団から頭を出したときはうつ伏せで、抱き締める枕で目元をごしごししながら、
「あたし、っう、自分の任務のためにこの時代に来てるのに、キョンくんとか、長門さんとか、古泉くんにだって迷惑かけてばっかりで、あたしは意味も知らないで未来から言われたことをやるだけで、キョンくんに大変なことが起こったときだって、ぐす、あたしはなにもできることがなくて、っ」
「……」
「今日だって、あたしは上からただ三年前に跳べって言われただけでっ。そこでなにをしてきなさいとか、なにを持ってきなさいとかっ、なんにも言われてなくて、ひっ、今回だってっ、TPDDなんて大事なものもなくしちゃうし、失敗ばかりでっ。うう」
学生が就活で喜び勇んで入社できたと思ったら聞いていたのと全然違う会社だったなんてのはよく聞く話だが、どうやら未来でもそういうことは起こり得るらしい。が、朝比奈さんが今の立場に至るまでの経緯などなにも知らず社会にも出ていない俺が、そこへねじ込める言葉を持っていないのは確かだった。
「こんな自分が嫌になってっ。ひっく。もう、なにも考えたくありません、うううう」
「朝比奈さん」
そんな俺が掛けられる言葉は、朝比奈さんを欠片でも知る一人の人間として朝比奈さんがどう見えているかだけだ。
「朝比奈さんは確かに色々と自分の思うようにうまくいってないのかもしれません。でも、朝比奈さんもさっき言ってたし知ってると思いますが、俺は普段からハルヒの我が侭と古泉のけったいな暗躍に付き合わされてへとへとなんです」
くそ、また顔が熱くなってきた。朝比奈さんの自己嫌悪を取り去るためなのに、なに一人で勝手に恥ずかしくなってんだ俺。言い出したんなら多少とちってでも口を動かせ。
「そんなとき朝比奈さんがそばにいるだけでも俺は癒されるし、朝比奈さんがなにか一生懸命になってるのを見たら俺も嬉しくなってくるし、その、ええとですね、俺にとって朝比奈さんは大事な人なんです」
「キョン、くん……」
「だから、自分が嫌だなんて言わないでください」
漏れる嗚咽は収まる気配もないが朝比奈さんは顔を見せてくれた。顔が涙でぐしょぐしょでも唇だけは笑っていた。
「あの、キョンくん。あたしが大事な人っていうのは本当なんですよね?」
「はい」
「じゃあ。そっち、行ってもいい?」
どきりとした。部屋が密室一部屋でも一応布団は二組なのに、まさかそれは。そんな。
とどぎまぎしながらも了承すると予想通り、ずりずりと俺の布団に潜りこんできた。しかもこれは予想外なことに、俺は抱き枕にまでされた。
「ありがとう。……っ、う。ふぇええん……」
今度はさっきまでと違い自らの意思で流すような涙を俺のシャツに押し付ける朝比奈さんを、俺は夢見の悪かった妹をあやした経験に基づいて背中をやわやわ叩いて宥めていた。
それも少しずつ収まってくるとまた布団の中からぶつぶつ聞こえ始める。
「キョンくん。キョンくん。……だめ。もう、あたし。抑え、られません」
なにか独り言の垂れる布団の中身を覗こうとする俺へ、彼女は逆に中から這い出てくる。
「朝比奈さ、――!?」
「ふみゅ、はぅ、ん」
なんだ、これ?
部屋が真っ暗とか関係ない。俺の鼻の先には朝比奈さんの目を閉じた顔。一瞬歯にかちりと衝撃が走ったすぐあとの、唇を包む柔らかい感触。
どんぐり眼を見開いて俺は天を隠す朝比奈さんを仰いでいた。
「ふぁ……。ん、やっちゃい、ましたぁ……」
キス、されちまったのか。俺。朝比奈さんに。
まだ目の端に涙光る顔を紅潮させる朝比奈さん。初めて肩を並べて歩いたとき、彼女は俺にあんなことを明かしたのに。
「い、いいんですか? そんなこと、時代の違う人間相手に」
「言わないでください。禁則です、私の、最大の……んっ」
朝比奈さんはバレた隠し事を否定する子供みたいに首を振ると、また目を瞑った。俺の首は朝比奈さんの腕が巻き付き、普段の恥ずかしがり屋もどこかへ行ったようで凹凸な全身が密着する。
「ひょんくん、ちぅ、はぁ、んっ……、っふぅ。ひょんくん。ひょんくんっ……」
唇が啄まれる。吸い付かれる。ただそれだけの、とても経験のあるとは思えない朝比奈さんらしい口遣い。今度は鼻息も当たる。俺もどうだか分からん。
「キョンくん……。んぷ、ふあぁ、んっ、ん」
今間違いなく、俺は彼女に惹かれつつあった。さっき以上の否定の言葉も重ねないで俺は、彼女が求めてくるのを受け止め続けた。
「ぷぁ。キョン、くん」
繋ぎ止めようと何度も俺を呼ぶ朝比奈さんに手を出す俺を、いったい誰が責められるというのか? 朝比奈さんからすればこれは禁忌なのに、それでも自分のやりたいことを優先して踏み越えた。それでいいじゃないか。未来の組織とやらに命令されてばかりでも、朝比奈さんにだって自分のしたいことはあって、それが珍しく今表に出ただけなんだ。そんな女の子と意思を重ねるのが悪いことだとは、これっぽっちも思わない。
一枚の布団の中で俺は、朝比奈さんの服を肌蹴させていった。
「朝比奈さん。綺麗です、本当に」
俺が触れてしまっていいのか、ってくらいに。
「キョンくんに触ってほしいんです。お願い、触って……?」
未来から来た割に体のどこか一部が機械部品になっているはずもなく、間違いなく朝比奈さんは穢れのない一人の女の子だった。
普段制服からでも主張していたのを今、惜しまず零れさせる胸へ吸い付いた。
「ふぁあっ、あっ。おっぱい、そんな吸って、はぅん」
逆に布団にもぐる俺の頭が、もっと押し付けるように抱き締められる。一方で俺も別にお返しでもなんでもなく、ただ俺がしたいから、俺も彼女を求めたいから、彼女をできる限り俺へ引き寄せ体温を交換する。
温かくて柔らかくてふにゅふにゅして、舐めたり吸ったりしても特になにも出ていないのにひどく甘く感じた。掌も使って、ふにゅんと押し返してくる胸に俺は虜になって、吸い付くのと揉みしだくのを同時にした。
「んふぁっ、はぅ、キョンくぅん。ふあ、キョンくん。あたし、すごい、切ない、んっ。切ないですっ……」
もはやここがどこなのかも忘れていた。今俺と彼女は二人きりで閉じこもった世界にいる。やがて俺は布団の中で下も肌蹴た彼女と横向きで対面し、取り出した棒を彼女の入口へあてがった。
朝比奈さんはふるふる震えていた。
「こわい、ですか」
「初めてだから……。でも、キョンくんにしてほしいの。お願いです。私と、……」
見つめる朝比奈さんの言葉の最後は、ただ口がパクパクするだけだった。こんなところにまで未来人の禁則は及ぶらしい。だったら俺が行動するまでだ。
「んっ! いっ……! ぁ、ひ……! んっ」
歯を食いしばり耐える朝比奈さんの表情。彼女の膣に亀頭だけ埋まったのを、それと棒に伝わる熱い肉壺の感触で確認してから、俺は力の限り彼女を抱きしめ、腰をゆっくり彼女へ押し込んでいった。
「ふぁ、――っ!」
言葉にならない悲鳴だった。
注意していなければ多分気付かなかっただろうが、膜を破る感触が一瞬あとに残ってからは、現実離れした感覚に襲われていた。ナメクジともヘビとも形容できない、とにかく濡れてうごめき俺の棒を締め付ける肉壺。俺の足に絡みつく彼女の太腿。普段彼女を護らんと考えて動くこの俺が今、この人に苦痛を与えている光景。
漲る達成感。征服感。今俺は確かに、この人の純潔を奪ったんだ。未来人がどう言おうと、このときこの人は俺のものになったんだ。
「すみません、っ痛いですよね」
「うぅん」
俺が射精感を堪えて歯を食いしばり気味に言うと、彼女は布団の上で懸命にずりずりと首を振る。
「っい、ぅ、痛くても、キョンくんと、こうしたかった。ひ、う、ううう。キョンくんと、こう、したかった……っ」
朝比奈さんは泣き出しながら笑顔を浮かべていた。
俺は彼女からもらう想いの丈を知った。朝比奈さんは泣き虫だが、破瓜の激痛を受けながらでもここまで笑顔を懸命に表明するのは見たことがない。いったいいつから想って、いつから蓋で押さえつけてきたのだろう、それは分からないが、そんな彼女をしのぶと殊更愛しい感情が胸に込み上げてきた。
ところが不意に朝比奈さんはそれも影を落としてこんなことを言い出す。
「……ごめんね。あたし、未来人失格です」
「考えすぎです。朝比奈さんが俺と同じ時間に生きる人だろうと、人にはいつか必ず別れが来るでしょう? それが早いか遅いかだけの違いじゃないですか」
懺悔する彼女の葛藤は分からんでもない。もしかしたらその未来は俺たちが卒業するときの可能性だってあるのかもしれない。もしそうなったら俺は喚いて絶望に嘆き悲しんじまうだろう。それでも俺は。
「どのみち別れが来るなら俺は、それまでの間に思い出を作る方を選びたいです」
「……うん、あたしも……」
笑顔を取り戻したのを見て俺は、小さく腰を動かし始めた。
「ん、んっ。んっ、キョンくん。はあ、キョンくん、はあ」
拙くも中挿運動をやわやわ加速させていくのに比例して、布団に熱気がこもってくる。温かいを通り越して俺も朝比奈さんも全身が熱い。毛細血管しかない足も例外じゃないし頭なんかとっくに沸騰し、朝比奈さんを全身で感じることだけに全神経を稼働させる。
「あん、キョンっくんっ、っふ、あ、あん、痛いはずなのに、きもちい、ふあぁっ」
じゅくじゅくと朝比奈さんの膣はとろけていき、俺の棒は加減なく抉ることだけを考えるようにどんどん反り返っていく。
「苦しい、キョンくんっ、んあっ。きもちいっ、ぁ、あ、キョンくん――ちゅぷ、ひょんくん、ちゅる……」
俺も朝比奈さんの唇へ同じものを重ねる。俺たちは新しい知識をつけた子供みたいに抱き締め合って、口の中も舌を絡ませ合う。唾液も全身の汗も、あたかも自分の形見を交換し合うように。
「ぷあ、っいっしょにいたい、あ、あう、ずっといっしょがいいのっ、キョンくぅんっ」
朝比奈さんっ、俺だってそうですっ、朝比奈さんっ。
「名前――んちゅ、くぷ、名前――っ、ふぁ、ちうぅ」
みくるさん、みくるさん――っ。
「あ、い――! んふぇ、あ! ――ぅんんんんんっ!!」
割合、長くは持たず、俺は朝比奈さんの最奥へ熱の塊をぶつけた。それは五秒だったかもしれないし、五分だったかもしれない。俺には時間の感覚がなくなっていた。
それから二人ともぐったりして抜くことも考えずそのままになり、切れた息を共に整えた。
「キョンくん。――」
彼女の決死の言葉はまたも声にならなかったが、唇の動きを捉えていた俺はまた一粒涙を零す彼女の耳にへばり付けるように返した。
俺もです――、と。
※以下蛇足
あの後乱れた服装を整えはしたものの、俺と朝比奈さんはずっと同じ布団で身を寄せていた。あわよくばこの時間がずっと続きますように、と願っていたのだが、それは突然覆された。
「……」
「ひゃっ!? わわ……」
襖の動く音にびびって朝比奈さんが自分の布団へ転がり込んでいく。まるで合わせたかのように、そのあとでパチリと電気が点いた。俺が首を動かした先には長門の姿があった。
俺はばれてやしないかと強張る体に鞭打って平静を装い、俺たちは元の時間に戻ったのかと聞こうとしたが先に口火を切ったのは長門だ。
「ちゃんと寝て」
「な、なにを言ってるんだ? 俺たちはちゃんと寝てたぞ。そうですよね朝比奈さん?」
「ふぁっ、はいっ」
朝比奈さん、顔が真っ赤ですよ……。と言いたいところだが俺も同じようになっていやしないか心臓が痛い。
「私が伝えたかったのは意識レベルを低下させてほしいという意味。性交渉の意味は含んでいない」
ここがまだ三年前の世界のままからなにも動いていないのが信じがたいくらいには、長門の無表情から不満が読み取れた。