オリジナルサーヴァント、というところに注意。
___見上げた空は、僕の知る何時もの空じゃなかった。
ワイヴァーンなんて、空にはいなかった。
目玉みたいな化け物が浮遊していなかった。
トラック以上に大きな怪鳥が、悠々と空を回遊していなかった。
早朝の美観地区。
倉敷駅近くに位置する、日本有数の歴史的建築物立ち並ぶ観光地帯。
そこにはもう、幻想的な朝焼けに包まれた幻想的な白壁の景色はなく。
怪物の見本市と言ってまったく差し支えない
「ッッッ・・・・・・!?!?!?」
叫びたくなる衝動を抑えて、走る。一目散に。情けないというよりも、生きたいと願う気持ちの方が強かった。
なるべく、屋根が多い、狭い裏路地を通って、ジグザグに進んでいく。
幸い、近くには影の多く、隠れる場所も多々存在する阿智神社がある。
今が早朝で良かった。昼間になると僕みたいに散歩や観光目的でやって来る客でいっぱいになる。大パニック間違いなしの状況になっていただろう。
阿智神社の階段は段数が多い。早朝の冷たい空気が、疲れてきた肺に突き刺さり凍るような感覚がする。
でも、走るのをやめれば恐らく自分はへたれてしまう……その結末は、死。そのひとつしか在り得ない。
だから、階段を二段、三段と飛ばしながら駆け上がる。
そうして階段の中腹まで来れば、神社の周囲にある常緑樹の木々が僕の存在を全て覆い隠してくれた。木とは正に、自然のカーテン。空から僕の存在は、木の存在によって見えにくくなっている筈だ。
阿智神社は、門をくぐれば目の前に大きな建物があり、周囲には能などが披露される舞台が、御守りを売る場所の隣に併設されていたり、様々なお社があったりする。
古くはこの辺りが海だったことから、海や水関係の荒魂もまつられていたりする。
僕はお社のうちの一つの影に隠れて、ひたすら助けを祈る。
この場所が見つからないでくれ、どうか助けを。
そう、こい願う。そして、今ある空が、元の空に戻りますようにと神頼みをする。
現代ファンタジーは、ジャンルとしては好きなのだが、何も現在進行形で体験したくはなかった。
ああ、どうか助けてほしい。
神、仏、何だったら荒くれものの英雄でも構いはしない。この状況を打破する何かが欲しい。
だが、そんな僕の願いをまるであざ笑うかのように。
「Ge,Ge,Geiyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
僕の目の前に、数々の木々をなぎ倒して、空に浮かんでいた目玉やワイヴァーンよりも大きい巨体が咆哮、そして嵐とともに表れた。
感じる威圧は、僕のなけなしのプライドを一発でへし折る程で、何よりも禍々しく、何よりも雄大な姿をしていた。
ワイヴァーンなんかとは比べ物にもならない、神話や伝説なんかでも必ず敵として一度は表れる怪物。
___ドラゴンが、僕の目の前にいた。
思えば、先ほどから空を飛んでいた怪物たちの声がしない。危険を察知して逃げたのだろうか。
それとも、この巨躯の怪物が周囲一帯の怪物を食い荒らしてしまったのだろうか。
どちらかは分からない。わからないが、今完全にわかるのは、今、このドラゴンの餌になってしまうのは___僕だ。今僕は、お皿の上に乗ったハンバーグ状態で、ナイフが突きつけられているのだ。
いやだ。死にたくない。
そんな考えが先行する。
逃げようにも、腰が抜けて立てない。足に力を込めても、空回りするだけで、全然足腰が言うことを聞かない。
嗚呼、ここで人生は終わるのか。走馬灯のように巡り巡る数々の思い出。思えば走馬灯とは、思い出の中から迫りくる死を回避するためのものらしいが、今目の前のモノに対してそれは適用されるのだろうか。
僕は、何の変哲もない健全な男子中学生だ。中学三年生。そんなガキが、目の前の
大きな、ギラりと光る双眸が僕を睨みつける。餌として僕が上等かそうでないのか、見分けているようだ。
___既存の生物なら、目の直ぐ後ろに脳みそがある。
恐竜だってそうだ。目の後ろ側に脳みそがある。それを引き抜けばあの巨体はもんどりうって堪えるだろうか。
ドラゴンは、完全四足歩行で翼がある。大きな翼だ。羽ばたくだけで嵐が発生するんじゃないかとも思えるほどの大きな翼。
___死にたくない。でも、この状況を打破する手段も方法も何もない。
あるのはこの体ただ一つ。このままじっとしていれば必ず生きたまま食われて死ぬだろう。向かっていったらその巨体に九割九分九厘押しつぶされて嬲り殺されるか。
なんだ。後者は一厘も余裕が残されているじゃないか。
無数の負けの可能性がある。向かわずにいても、向かっていっても、僕は死ぬ可能性が無限大にあるだろう。でも、僕は死にたくない。食われたくない。
逃れられない危険事象から生き残ろうと考えて、いったいどうして何もせずにそのままなのか。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、という言葉の通りだ。時には、立ち向かわないと、逃れられない時もあるのだから___!
この時の僕は、後から思えばトチ狂っていたとしか言いようがない。生物が過剰なストレスを受けた際に至る自傷行為の前向きバージョンといったところだろうか。
通常の僕であればこんなことはしない。ああ、絶対にだ。
*
結局、結末は決まって。結果は敗北。
巨大な足に組み敷かれ、よだれをぼたぼた落とされている。
重たい。とにかく重い。
この超重量級の足に組み敷かれたときに骨の何本か逝っているだろう。体中が熱い。そして痛い。
このおデブをどうどけるか。このドラゴンをどう、この瞬間から打ち倒す?
結局、その答えは出ないまま。だんだんとドラゴンの大きな口が近づいてくる。
ああ、俺はこのままアッサリ食われて____
「たまるかってんだよ、この野郎がぁ!」
最後の最後。
悪あがきに放った罵声。
ただ、それが、僕の命を救ったとも言っていい。
瞬間、血しぶきが飛び散った。
僕に、ダバダバと血液がかかってくる。
「愚か者や身の程知らず・・・・・・と罵声を上げ、罵る人も居るでしょう。ですが私は貴方のような、意地汚く、最後の死が確定した瞬間でさえも上位存在に罵声を浴びせ、気絶、現実逃避に逃げない、生きることから逃げないその心構えを尊敬します。
そして、その輝く魂に惚れました」
ごとり、と僕の隣に何かが落ちてくる。
それは、先ほどまで僕を飲み込もうとしていたドラゴンの大きな口と、僕を押さえつけていた大きな足だった。
……思えば、体の上に乗った重みが消えている。
痛む体を引き起こす。
先ほどまで、ドラゴンが鎮座していた場所。そこには、細切れの肉片と血だまり。
そして。
「サーヴァント、セイバー。初恋にいてもたってもいられず押しかけました。ええ、一目惚れです。これから末永くお願いしますね。
そこには、大鎧をまとった女性がいた。
真っ黒い髪をポニーテールにした、スタイルの良い美人の女性。
今まで見た中で、最高に位置するほど完全な、「女」としてある意味完成したかのような容姿をしている、十代後半から二十代前半に見える、太刀を腰に下げた「武士」。
……が、一切光の無い瞳で、頬を染めて、空に舞ったドラゴンの血しぶきの雨が降る中、太刀を片手に微笑んで僕に自己紹介した。
____めっっちゃ怖いんですが。
真名ヒント1
日本じゃあ、めっちゃ有名