突然だがこの俺、橘淳之介の誕生日は12月31日である。
そして世界一可愛い俺の彼女、糺川礼の誕生日は2月13日だ。
普段は1歳差の後輩と先輩なのだが、その間は同い年になる。
これは・・・祝わねばなるまい!
なぜ祝うのか?
ふっ、それを聞くのは無粋というものだ。
「俺と礼が同い年」という期間はかけがえのないものだ。一年の間に2ヶ月半しかない。
少し前までは何かにつけて記念日~と騒ぐカップルを冷ややかな目で見ていたものだが、今はその気持ちも分かる。
彼女との時間って本当にちょっとしたことでも祝いたくなってくるんだな。
「淳之介、このお皿持ってってくれ」
「あいよ」
そして今日がその12月31日。礼に誕生日を祝ってもらいながら一緒に年が越せるという夢のような日だ。
「ありがとな。アサちゃん、文乃」
最初は二人も含めた4人でのパーティーを 考えていたが、二人が俺たちに気を遣って家を空けてくれた。
『別にいいよ、最近B地区に新しいネカフェが出来て気になってたところだったし。文乃にネットリテラシーってやつをみっちり叩き込んできてやるよ』
『どうか私のことはお気になさらず、糺川さんとごゆっくりお過ごし下さい』
とのことだ。
妹流のネットリテラシーが当てになるかはともかく、今は二人に感謝だ。
「よし!これで揃ったな」
机の中央には大きな鍋が鎮座している。
二人ともあまり凝ったものは作れないため今夜は鍋パーティーに落ち着いた。
「淳之介は年末ってテレビ何見るんだ?」
「基本はガ○キ使だな。好きな歌手が出る時間だけ紅○白に変えてる」
「そうか、SHKが作ったメスガキ使と本家どっちがいい?」
「本家で頼む」
メスガキ使は既に録画済みだ。
シュウくんのデータによればこれを見ながら年が明けると同時に射精をするのが恒例行事らしい。
来年はもっとマシなデータが手に入るように初詣で祈ってあげようと決めた。
「それじゃあまずは、淳之介、お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
二人でグラスをぶつけ合う。
「これで礼と同い年だな」
「 そうだね。何か不思議な感じだな」
「礼の誕生日まで2ヶ月半、いっぱい同い年っぽいことしような!」
「同い年っぽいことって具体的に何するんだ?」
「そりゃあ同い年なんだしいろいろな」
いろいろな・・・
「・・・何をすればいいんだ?」
「いや私に聞かないでくれ」
完全に盲点だった。
同い年の期間は特別だが、だからと言って何をするわけでもないのか。
くそ!このままでは貴重な2ヶ月半を無駄にしてしまう!
「あーん、とか」
「デートの度にやってないか?」
「一緒にお昼食べたり」
「ほぼ毎日してるね」
タメ口、名前の呼び方、その他諸々。
そもそもこれまで特に先輩後輩らしいことをしてこなかったじゃん。
「俺はバカだ!」
橘淳之介一生の不覚!
「あー落ち込むな淳之介!・・・そうだ!」
すると礼が鍋から肉を取り出し目の前に差し出してきた。
「ほら、あーーん」
「ん、あーーん」
訳も分からぬまま口に入れる。
「どうだと言われても美味いとしか」
そうかそうかと礼は満足気だ。
「別に変なことなんかしなくていいんだよ。同い年が特別ならその間にやることは全部特別だろう?」
目から鱗が落ちる音がした。
「さっきのは『同い年あーん』だ。他にも『同い年デート』『同い年手繋ぎ』とか色々あるぞ」
可愛さが天元突破している。
いつか礼力の高まりを恐れた反礼生命体が青藍島を侵略してくるんじゃないだろうか。
「まあそうなったら俺がこの身に変えても守るけどな」
「・・・・・・?」
礼はきょとんとした表情を浮かべていた。
「えーと、じゃあ俺からもお返ししなきゃな。あーーん」
「あーーーん。・・・うん、美味しいよ」
礼は幸せそうに微笑んでいる。
可愛さの福袋か?
これ俺の彼女なんだぞ?
「俺の彼女なんだぞ・・・!」
「・・・・・・・・・???」
食後はテレビを見ながらまったりイチャコラしながら過ごした。
同い年Hはそのまま寝てしまいそうなのでお預けだったが、共に過ごしているだけで驚くほど心が満ちるのを感じた。
一年の振り返りをしていたらあの『酔いどれおもらし動画』が出て来て新年を迎えられなくなりそうにもなったが、それも俺たちらしさだろう。
そして夜は更けていきーーー
「3...2...1...」
「「新年明けましておめでとうございます!」」
1月1日、お誕生日おめでとうから明けましておめでとうへ。
「まさか本当に一緒に年越し出来るとはなぁ。何だか夢みたいだ」
「夢だと困っちゃうな」
「そうだね。改めて、今年もよろしく。淳之介」
「こちらこそ、今年もよろしく」
こうして礼と新年を迎えられただけでいい一年が過ごせそうだと思えた。
更に数時間後。
元旦と言えば初日の出、ということで俺たちはヌーディストビーチにやって来た。
SHOも観光資源として売り出していたらしく、既に大勢の人々が集まっている。
「ここにくるとあの日のことを思い出すな」
礼が懐かしむように呟く。
あの日、と言ったらここで俺が2回目の告白をした日で間違いないだろう。
「そうだな・・・あの時は必死すぎて頭が麻痺してたけど結構とんでもないことしたよな」
「まさか空から淳之介が降ってくるとはな。しかもパイプ椅子を足場にしながら」
「もしかしてヒナミが不思議な力で後押ししてくれたのかもな」
俺たちを結ぶ架け橋になったのがパイプ椅子というのも不思議な縁を感じざるを得ない。
「あれでよく死ななかったな俺・・・」
「ほんとだよ。見てるこっちはハラハラしっぱなしだったんだぞ」
「まあ全身を勃起させたり射精で空を飛んだりするよりはまだ現実的だよな」
「それ大分感覚が麻痺してきてるからな」
「確かにそうかもな」
二人で笑い合う。
時刻は7時手前、もうそろそろだ。
「・・・淳之介、ちょっとあっちを見てくれ」
礼に促されるままビーチの方に目を向ける。
日の出を待ちながらドスケベSEXをする人、カメラを構えて今か今かと待ちわびる人、家族で楽しそうに話している人・・・。
皆それぞれ違う形で楽しんでいる。
「こうして皆が笑っていられるのも、全部君のおかげなんだ」
礼は優しげな笑顔でそう告げる。
「前にも言っただろ。NLNSとSSとSHOと、皆の協力あってこその満願成就だって」
「それでもだよ。本当に、本当にありがとう」
今日の礼はいつになく感傷的だ。
「・・・三ヶ日が終わった辺りで母さんに会いに行くって話を前にしただろ」
礼の瞳は水平線のもっと向こうを見ているようだった。
「淳之介も来てくれるんだよな?」
「ああ、一緒がいいな」
俺が付いていった所で礼と母親の関係がすぐどうにかなるわけでもないのは百も承知だ。
それでも共有したいのだ。
どんなに辛く苦しいことでも二人で一緒に歩んでいきたい。
「ありがとう。・・・・・・来るぞ」
再び視線を海に戻すと、水平線の彼方から光が差し込んでくるのが分かる。
「おぉ・・・」
他の観光客も自然と動きを止めていく。
言葉を失ってしまうほどの絶景だ。
「綺麗だな・・・」
礼の口からも感嘆の言葉がこぼれる。
朝日に映える長い髪が風に揺れる。
・・・正直に言うと初日の出より綺麗だと思った。
静かな波音だけが響くなか、ゆっくりと時間だけが過ぎていった。
ピークも越え人もまばらになってきた。
未だにSEXを続けている人もいるようだ。風邪ひかないのかな?
・・・ひかなそうだな。
「そろそろ帰るか」
「ああ。・・・淳之介」
「ん?」
呼び止められて振り返った、その刹那ーーー
「んーー」
俺は礼に唇を奪われていた。
ほんの一瞬、唇と唇が触れあうだけのキス。
普段はもっと激しいキスをしてるのに俺の頭は一瞬で真っ白になってしまった。
「・・・どうだ、新年初キスのお味は?」
「おま・・・そんな、礼お前・・・!」
心臓がバクバクしている。
ニヤニヤといたずらっぽく笑っている礼を見ていると他人の目なんか気にせず叫びたくなってくる。
「キレそう・・・!」
「えぇ!?何だよぉ・・・そんなに嫌だったのか・・・?」
「めっちゃくちゃ嬉しかった!!!最高!!!」
「お、おぉ。そこまで喜んでくれたなら何よりだ」
新年早々情緒が不安定すぎる。
「よし!帰ったら10倍返しだからな!楽しみにしてろよ!」
「10倍か。ふふっ、それは相手をするのが大変そうだ♪」
どちらからという訳でもなく自然に手を繋ぎ歩き出す。
やっぱり俺たちの間に赤い糸なんてなかったのかもしれない。
それでもこうして二人で一緒にいられるのは、その道を選べたことは、とても幸福なことなんだと思う。
「淳之介」
「何だ?」
「いいや、何となく呼んでみただけだ。淳之介がいるなーって」
「そうか。・・・礼」
「んー?」
「呼んでみただけだよ」
「そうか。ふふっ、私たち似た者同士だな」
あぁ、きっと
きっとこれからも、二人で一緒にーーー。