仕事終わりの週末の夜。
ようやく得られた束の間の自由時間だったが、特にやることも何かをする元気もなかった。
そんな俺のいつもの過ごし方が、動画配信サイトで見つけた適当なものを眺めながらのネットサーフィンだ。
モニターの中では、アイドルたちが姦しく騒ぐだけのバラエティ番組が流れている。
何かの罰ゲームで少女が宙吊りにされている真っ最中で、ひっくり返った体操着から大胆なヘソチラを見せつけていた。
罰ゲームというよりはむしろサービスシーンと言った方がいいかもしれない。
『幸子はんも逆さまやとあんまし可愛いないどすなぁ』
『何言ってるんですか! ボクは宙ぶらりんでもカワイイに決まってます!』
『そないならもうしばらくそのまんまでも……』
『それとこれとは別ですよね?! 早く下ろしてくださーい!』
違う美少女が毒だか天然なんだかわからない発言でさらりと笑いを取る。
口は災いの元というが美人は得だな、多少のことなら周りが都合のいいように解釈してくれる。
似たようなことを俺が言っていたら心象は真逆だっただろう。
俺も、もしこんな風に生まれていたらもっと違った人生を歩めただろうか……
そんなつまらないことを考えていたらキリのいいシーンになり、広告が流れ始めた。
5秒待たないと飛ばせないソレから意識を外し、カーソルをスキップの位置に動かす。
しかし、いつまで経っても音すら流れてこなかった。
いくら待っても変化がないことに疑問を感じようやく画面に意識を向ける。
真っ黒な背景に白字で、たった一行の文字が書かれていた。
《貴方は誰になりたいですか?》
その言葉を読み終わった瞬間画面が切り替わり、見覚えのある人々の顔写真がズラリと並ぶ。
たまたまカーソルのあった位置の写真がポップされ、その人物の全身画像が表示された。
先ほどまで見ていた番組で司会をしていた女性の写真だった。
少女と見まごうばかりの童顔と、それに似つかわしくない巨乳の女性。
その全身画像と共に彼女の、十時愛梨の簡潔なプロフィールが表示されている。
彼女も画面に並ぶ他の人間も、服は着ておらず全裸だった。
一糸纏わぬ姿でいるのが当たり前とでもいうように恥じらいの表情は一切なく、虚ろな目で柔和な笑顔を浮かべている。
(ウイルスでも踏んだか?)
そう思ったのもつかの間、画面の1番左上にいたその人物に目を奪われた。
「お、俺?!」
そこにあったのは風呂場でよく見る俺自身の画像だった。
慌ててカーソルを動かす。
表示されるプロフィールも記憶の通りだ。
「どうなってんだよこれ……」
最初に出てきた美人に目を奪われて気がつかなかったが、画面には見覚えのある人物も並んでいた。
身内、友人、知人、顔だけ知っていて名前も知らないやつ、テレビで見たことがあるやつ。
少しだけスクロールすると先ほどまで見ていた番組に出演していた美少女達の画像が並んでいた。
こんな状況であるというのに、生まれたままの彼女達の姿を舐め回すように見つめてしまう。
ゆっくりとカーソルを動かし、彼女達の肢体を目に焼き付けていく。
ふと、1人の少女に目を奪われ手が止まった。
小早川紗枝。
先程どうでもいいことで思いを馳せていた彼女である。
それと同時に最初に書かれていた言葉を思い出す。
《貴方は誰になりたいですか?》
なれる?
俺が、彼女に?
クラスに1人はいた、顔がいいというだけでチヤホヤされ、順風満帆な人生を謳歌していた女達の姿が脳裏に浮かぶ。
もちろんわかっている。
可愛いだけでうまくいくなんて、そんなことあるはずがない。
そんな都合のいいことがあるはずが──
《本当によろしいですか?》
無意識に彼女の画像をクリックしていた。
微かに震える手で『はい』と応じる。
「はぁ、何やってんだ……ん?」
押した瞬間ふと我に帰る。
クリックした瞬間から真っ白になった画面を見て、どう考えてもヤバい類のものだという当たり前の結論にたどり着く。
手遅れかもしれないがそれでも最悪を避けるためLANケーブルを引っこ抜こ抜くべく立ち上がろうとした。
だが、できなかった。
足に全く力が入らなかったのだ。
足だけではない。
マウスを握っていた手も指一本動かせず、ただの肉塊と化した腕と共に重力に引っ張られてぶら下がる。
あらゆるところに力が入らないのに、首だけは何かにつかまれたように動かせず、前だけを見つめざるを得なかった。
白い画面の光度が増し、直視できないほどの明るさになっていくのに瞬きひとつすることもできない。
真っ白になる視界と共に身体の感覚がなくなっていき、意識も朦朧としていく。
眩しい、それ以外なにもわからなくなる。
白い画面が太陽のように輝く。
それが俺の、俺としての最後の記憶だった。
女子寮の一室に少女が入ってくる。
風呂上がりだろう愛らしい顔をさくらんぼのように染め、しっかりと乾かされた濡羽色の長髪はほんのりと熱を持っている。
「メール?誰からやろ……」
件名も差出人も書かれていないそれを不審に思い開きもせずに削除しようとし──できなかった。
彼女の嫋やかな指が画面に触れる直前、勝手にメールが開かれる。
画面が切り替わった瞬間、彼女の脳裏に知らない男の名前が思い浮かんだ。
「ふぇっ、なんや今の?」
戸惑っている間にも、彼の生年月日が、身長が、体重が、利き腕が、沼の底から湧き立つ泡のように浮かんでくる。
「何これ、知らへん。こないなの知らへん……」
恐怖だけではなく何か超常的な力で縛り付けられているように、画面から目をそらすことも手を離すことも彼女にはできなかった。
彼女の頭の中に朧気な男の像が出来上がっていく。
初めはなんとなく人の形をしているとしか認識できなかったそれは、彼の情報が流れ込んでくるにつれはっきりと形を成していった。
勝手に思い浮かぶ人相に気を取られていた彼女は画面の変化に遅れて気づいた。
何も書かれていなかった画面に次々と薄紅色の文字でとある少女の、小早川紗枝の個人情報が綴られていく。
(小早川紗枝……?)
それが彼女自身のことであると、彼女はすぐに認識できなかった。
(あれ? なんでうちん名前なのにわからへんかったんやろ……)
頭の中を塗りつぶしていくなにかによって思考に靄がかかる。
身も心も彼女のものでなくなっていく。
(嫌や、消えとうない。うち……俺、あれ?)
生い立ちから何から何まで書かれた画面に、最後の文字が綴られる。
《寮の自室にて身体を乗っ取られる。》
読点が打たれるや否や、画面が燃え上がったように薄紅の光を放った。
その光が虚ろな目に反射すると、彼女のわずかに残っていた意識が完全に掻き消える。
携帯が床に落ちる音が、やけに大きく響いた。
気がつくと、知らない天井を見つめて立っていた。
あの白い閃光とは比べ物にならないほど優しい光を放つ蛍光灯から目を逸らし、視線を少し下ろす。
見たことのないはずなのに既視感のある不思議な部屋だ。
頭がやけに重たいが特に頭痛は無く、意識も普段より冴えているくらいだった。
1Kのマンションだろうか?
軽く首を動かし辺りを見回すと可愛らしい家具や調度品が置かれた、自分の住んでいるのより随分立派でやけに天井の高い部屋が目に入る。
それと同時に首筋の周りを何かが流れたように空気が動き、頭皮が僅かに引っ張られた。
(ここは……女子寮のうちの部屋?)
疑問に思った途端、どこかで聞いたことのあるような少女の声がする。
「今のはっ──なんだこの声?!」
立て続けに起こった不可解な出来事に驚き思わず独り言つ。
そして再び驚愕せざるをえなかった。
自分の喉から、たった今脳内で響き渡ったのと全く同じ声が出ているのだ。
喉元に手を伸ばせば、髭なんて1本も生えていない玉のような肌にしっとりと指が沈み込む。
それと同時に、胸元に触れた腕から伝わる微かな、だが男では決してありえない柔らかな感触。
餅のように柔らかな肌が、絹のように滑らかな長髪が、マシュマロのように膨らんでいる胸が、俺の身体が今どうなってしまっているのかを訴えかけてくる。
《貴方は誰になりたいですか?》
忘れようのないその言葉が脳裏を駆け巡る。
予想が確信に変わっていくにつれて鼓動がどんどん早くなっていく。
「そうだ、鏡っ!」
部屋の隅の、自分のほぼ真後ろに置いてある姿鏡のことを“思い出し”、駆け寄る。
頭から伸びる、かつての自分とは比べ物にならないほど長く重い黒糸のせいでバランスが狂う。
寝間着のくせに必要以上に身体に纏わり付く浴衣が、そんなに大股で歩くなんてはしたないと言わんばかりに踏み出す足を引っ張ってくる。
そしてこの華奢すぎる身体が刻める一歩は信じられないほど短く、いままでの自分の感覚との差異でおかしくなりそうだった。
動かす足にシンクロして反転した大和撫子の像が千鳥足で近づいてくる。
たった数歩でたどり着くはずの距離なのに倍近い歩数でもまだ足りなかった。
何度も転びそうになりながらなんとか姿鏡の前にたどり着き、かぶりつくように鏡面を覗き込んだ。
可憐な少女が、磨き上げられた銀板に映り込んでいた。
自らの瞳が驚愕で見開かれると目の前の少女の瞳も丸々と見開かれ、動揺しさらに近づけば目と鼻の先にいた彼女の端麗な顔も詰め寄ってくる。
困惑と訳の分からない昂りで口から溢れた吐息がガラスを曇らせる。
跳ね返ってきたその温もりは、今この身に起きていることが夢ではないと自覚せざるをえないほど生々しかった。
「は、ははっ……。俺、マジで紗枝ちゃんになっちまってる……!」
自らが発する言葉に合わせて目の前の少女の口が動き、そこから生じた鈴を転がすような声が部屋に吸い込まれていく。
鏡縁を鷲掴みにしていた手を頬に伸ばせば鏡像の紅椿にも手が添えられ、手のひらに人肌の温かさが伝わってくる。
だが、その手は震えていた。
心当たりのない痙攣だったが疑問はすぐさま氷解する。
胸の奥底に渦巻き抑えきれず溢れ出しているこの感情が、身体を無意識に動かしているに違いない。
これは歓喜だ。
もうあの顔が良い女を露骨に贔屓する禿頭に、無駄話ばかりしているやつらの仕事を押しつけられなくていいんだ───
もう毎日人生が即終了する恐怖に怯えながら満員電車に乗らなくていいんだ────
むしろ自分がそれをできる立場の存在に─────
──────成り代わっているんだ。
我が身に舞い降りた僥倖を受け入れるにつれて、口角が勝手に釣り上がっていく。
紅潮した玉肌の熱を感じながらその部分に、唇に、人体の中でも特に神経が集中している部分に指先を這わせた。
「ふふっ……」
しなやかな指先が敏感な唇の端にあてがわれた瞬間、子犬に舐められたようなくすぐったさがそこから広がっていく。
それと同時に心の底に沈んでいた澱が、今まで女に生まれたというだけで優遇されてきた連中を見るたびに滲み出し心の深淵に溜まって淀んでいった羨望と称するにはあまりにも浅ましい嫉妬心が裏返り、喜悦へと変わってそこから溢れ出していく。
「そっか、俺、羨ましかったんだ。でも、もう……くふッ、クスッ、ヒヒュ、フヒヒヒヒヒヒッ!!」
三日月に歪んだ紅唇を愛おしくなぞれば、蛞蝓が這いまわるような怖気にも似たべっとりとした快感が歓喜とともに広がっていく。
それに合わせて、腹部を引き裂かれた緑眼の怪物から零れだす臓腑のようなベットリとした醜い情念が反転した清々しい感情が溢れてきて笑いが止まらない。
白魚のように変わった手で花唇を犯すたびに、身体だけでなく心まで新しい自分になれるような気がして、何度も何度も繰り返す。
指を動かすだけで嬉しくて、気持ちよくて、嬉しくて、爽快で、嬉しくて、心地良くて、嬉しくて、快哉で、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて──────────────嬉しかった。
ひとしきり笑い尽くし顔を上げると、憑き物が落ちたように晴れ晴れと微笑んでいる少女と目があった。
鏡の中の微笑につられて口元を緩めれば、眼前の少女の顔もいっしょに微笑んだ。
「こんな可愛い娘を俺のモノにできるなんて……」
この満開の梅の花を彷彿とさせる大和撫子を自分の思うがままにできるという現実にようやく理解が追いついくと、屈託のない笑顔だったものがみるみる卑俗な薄ら笑いにすり替わっていく。
「髪も、声も、爪の先まで全部、全部全部俺の物……」
犯したい、汚したい、穢したい。
誰にも見せない蕩けた顔が見たい。
この整った顔を羞恥と快楽で歪めさせたい。
このあらゆる男から劣情を向けられる女体を自分の色に染め上げ、消えない証を、自分だけのものであるという烙印を押し付けたい。
欲望の発生源たる男根がなくなってもなお魂に刻み込まれていた、雄の獣欲と邪心が沸々と湧き上がってくる。
その気持ちの赴くまま、彼女の自慢だった腰まで伸びている濡羽色の髪を掻き寄せる。
よく手入れされた流れると表現するに相応しい質感の黒髪は、ひっかかる所どころか枝毛の一本すらない。
光沢感たっぷりのそれは、まるで一本一本が輝きを放っているかのように艶めいていた。
マフラーのように巻きつけた髪に顔をうずめ思いっきり息を吸い込めば、シャンプーと思しき椿の香りと年頃の女の子特有の乳臭い甘い匂いの入り混じった、とびっきりの少女臭で胸がいっぱいになる。
誰にも渡さないと言わんばかりに自らを抱きしめれば、華奢に成り代わった我が身の柔らかさが、腕だけではなく触れたそこかしこからも伝わってくる。
「いや、違う。これが俺なんだ……。」
身体に触れ、声に出してようやく自分がこの身を焦がす情炎をぶつけられる側であると自覚する。
だが、一度火がついた婬情は止まらない、止める気などさらさらない。
こんこんと湧き出る淫欲を再び自身にぶつけだす。
肩を抱いていた手を鎖骨に、胸元に、乳房に、その先端に、下乳に、肋骨に、脇腹に、纏わりつく蛇のように腕を這わせ、変貌した我が身を確かめていく。
新しい自分の造形を忘れまいと、魂に刻み込むように執拗に上半身をさすり回し、女体の曲線美を、新しい身体の形を、全身で覚え込む。
乙女の柔肌に生まれ変わった手と腕で触る少女の、自らの身体の感触は、かつて泡風呂屋で自由恋愛した女とは比べるのがおこがましいほどしなやかで、それなのに控えめながらも柔らかな女性らしい肉つきも兼ね備えていた。
薄絹のように変わった肌は浴衣の上からでもわかるほど滑らかで、そしてとびっきり敏感だ。
そんな玉肌を欲望の赴くまま無遠慮に触ったせいで、そこかしこがくすぐったくてたまらない。
だが、こそばゆさの中に潜む何かに誘われるように手の動きはいやらしさを増していく。
くびれに、お尻に、太ももに、目的地が近づくにつれ手遣も仕草も淫靡になっていく。
その姿が一層劣情を煽り立て、邪な気持ちが増していった。
卑猥な連鎖が止まらない。
鼠蹊部を目指して内腿を執拗に撫で回していくとゾワゾワとした怖気にも似た気持ち良さがそこから共に駆け上がり、全身が総毛立った。
「触られるのってこんなに良かったんだ……」
愛撫し、愛撫され、身も心もどんどんと昂ぶっていく。
そして股間に、意図的に後回しにしていたゴールに手を伸ばす。
最後の抵抗とばかりに立ちふさがる股の間の布地をそのまま軽く引っ張り上げ手を押し込めるだけのゆとりを作ると、持ち上げられた裾から脛とふくらはぎがひょっこり顔を出した。
半分ほどだけ見えたそれらがやけに艶めかしく感じられ、より一層劣情が煽られる。
期待と興奮のままいよいよ本命に、秘所に手をかける。
邪魔するものなど何一つない恥丘を踏破し、そのまま尻肉にまで指先が届いた。
「ハハッ、あるわけねぇよなチンコなんて」
先ほどから身じろぎするたびに、ソコにナニがないことをわからせるように食い込んでくる下着のせいでわからさせられてはいた。
だが、改めて事実を噛みしめるように声に出す。
その卑俗な言葉も、喜色の隠しきれない口調も、少女の口から出る琴の音のような声で紡ぐにはあまりにも似つかわしくなかった。
「あはっ無い、無い! 本当に女になってるんだ……くふっ、ふふふっ」
長年連れ添ったモノが無い違和感を塗りつぶすように股間を撫でる、撫で回す。
2枚の布越しに伝わってくる女性の陰部の感触はとても柔らかで、ただ自分の身体に手を当てているだけなのに背徳感が湧き上がってくる。
のっぺりとした股間は触れているだけで自分が女に、庇護される側の性なっていると自覚できて、それもなんだか嬉しかった。
肉体的な喜びと精神的な喜びを感じながら、手使いがどんどんエスカレートしていく。
「んぅっ♡」
撫でるというより揉みしだくと言った方がいいような動きにシフトして程なく、痺れるような気持ち良さが胴体の1番下から広がった。
ワレメの表面から響いてくピリピリとした甘い疼き、これが意味することなど一つしかないだろう。
名残惜しげに手を離すと、汗ではない液体で浴衣に小さなシミができていた。
九分九厘あっているであろう淫欲にまみれた予想を確かめるべく、浴衣の帯に手をかける。
「見せてね、紗枝ちゃん……いや、聞かなくていいか。だって俺がっ───」
帯を引きちぎるように解き、浴衣をはだけさせる。
続くはずだった言葉は圧倒的な美によってかき消された。
顔や手と同じ色の雪のような肌が、少女から女に変わりつつある肉つきの太ももが、へそより上部で引き絞るように形作られている女性的なくびれが、艶やかな女体美を引き立てる緋色のTバックが、前からでもわかる桃尻の肉が、濡れて張り付いたクロッチに浮かび上がる一本のスジが、そして小ぶりながらも形のいい乳房とその双丘の頂部で精一杯存在を主張する桜色の小さな乳首が、鏡に映し出されたありとあらゆる女性の肉体美が、惜しげも無く目に飛び込んでくる。
和服故かそれとも寝るときはつけないタイプなのか、ブラジャーもなにもつけていない男の目を引くために膨らんだ胸部に目線が吸い寄せられてしまうのはどうしようもないことだった。
手の届くはずのなかった財宝を目の前にした高揚と生ゴミを押し付けられたような不快感が胸に溢れかえる。
見ているのに見られている、不思議な感覚だった。
これがいわゆる生理的に無理というやつだろうか。
好きでもない相手に性的な目で見られるというのがここまで気持ち悪いとは想像していなかった。
だが愛撫で昂り半勃ちになっていた乳首に下卑た視線が注がれ、反射したそれが質量を持ったかのように愛らしい突起をつついてくると、乙女の防衛本能はいともたやすく劣情に飲み込まれていく。
見つめているだけで半勃ちだった乳首がみるみる硬くなり、触って欲しいと言わんばかりに鼓動に合わせてズキンズキンと存在を主張する。
すっかり劣情に呑まれた身体は視姦されただけで犯されるための、俺の女になるための下準備を終えてしまった。
どんどん強くなり、痛いほどにまでなった疼きが両手をそこに吸い寄せる。
小さくなったに手にちょうどすっぽり収まる膨らみに触れるとしっとりとしたもち肌が犯されるのを待ちわびていたかのように自ら吸い付いて、沈み込む手のひらにあわせて形を変えた。
だがその禁断の果実の柔らかさを堪能できた時間は一瞬にも満たなかった。
マシュマロのような小山の中で唯一硬い最頂部から未知の、男子禁制の淫楽が溢れ出す。
「んぅっ♡」
軽く触れただけの、それも大部分は脂肪のクッションに吸われ弱められた刺激だったのに、包み込まれるような快感が胸いっぱいに広がり思わず声が漏れた。
「女の方が気持ちいいっていうけど、こんなに違うのか……」
胸の先に触れるだけで射精するクソザコチンポが2つもくっついているみたいだ。
いや、一度出したら終わりの肉棒なんかと比べることすらおこがましいかもしれない。
手の下で疼き続ける乳頭は心臓の鼓動や手のひらを流れる血潮の微弱すぎる刺激でさえ快楽に変換してしまう。
触れているだけで射精とは全く違う、脳が蕩けるような気持ち良さが胸の内に流れ込み続けてくる。
溢れ出る快感の余波が頭に届く、それだけで思考が色欲に塗りつぶされていくのがわかった。
僅かに残っていた良心と理性がこれ以上はいけないと、これは危険だと警鐘を鳴らす。
だが乳首から発し続けている触れているだけで男なら吐精してしまいそうになるほどの快楽の前では、そんなものはあまりに無力だった。
身体がひとりでに快感を求め動き出す。
「はぁっ…♡はぁっ…♡あっ♡♡ふぁっ……♡」
嫋娜たる女掌と雄の目を奪うためだけに膨らんだ乳房の間で転がされる乳首から、身体の芯を蕩かすような快楽が迸る。
手を動かす度に快感が強くなっていき、大きいとはいえない胸はあっという間に快感に包まれ、収まりきらなくなった快感が溢れ出すように体内に広がっていった。
蝸牛が這うような速度で快楽が身体を縦断し、身も心もグズグズになっていく。
葦のように伸びていた背筋が丸くなっていき、呼吸もつられて荒くなる。
半開きになった口からか細い吐息と共に喘ぎ声も溢れてしまう。
その嬌声が、鏡に映る快楽に振り回されながら自慰に耽る少女の像が、そしてなにより本人にしかみることが許されない視点から見るその姿が、より一層性欲を駆り立てる。
「あふっ♡はぁんっ♡エッロ……♡んぅっ♡」
燃え盛る淫情に呼応して手に力が入ると、揉みしだかれる両胸から伝播する快感の粘度が上がっていく。
だが気持ち良さが背筋を迫り上がり垂れ下がる速度はあいも変わらぬ牛の歩みで、一度快感で焼かれた箇所を炙り直すだけだった。
ゆっくりと、だが着実に広がり続け深みを増していく女体の快楽。
順調に絶頂へと上り詰めていたかに思われていたそれに突如として待ったがかかった。
首筋とへその裏側あたりで快楽の波が極端に遅くなる。
少女の最後の抵抗というかのように何かが脳へ向かう快感を塞き止め、おどろおどろしい雌獣が快楽の雫を啜り尽くしてしまったかのように下半身に快楽が届かない。
そんなことがあるはずない、足りていないだけだと言い聞かせるように手の動きは激しさを増していく。
もはや揉むというより押し潰すと言った方がいいくらいだった。
弄ばれるおっぱいからこれまで以上の、だが痛みも入り混じった気持ち良さが広がっていく。
しかし、そんな痛痒混じりの快感では当然のように壁を越えることはできなかった。
焦げ付くような気持ち良さに炙られ続けた上半身が痛いと錯覚するほどの熱に苛まれ、胸の鈍痛と混ざり合い焦燥が募っていく。
「なんでっなんでっ♡こんな気持ちいいのに、イけなぁっ、ひっ♡」
さらなる快感を得ようともがくほど痛覚も増していき身体を蝕む淫熱と共にもどかしさが高まっていく。
だが幸運なことに、その負のスパイラルはそう長く続かなかったた。
乱暴に動かしすぎた両手の指の間に、同時にふたつの乳首がまろびでる。
絶えず快感を生み出し続けていた乳首からの供給が途絶えた瞬間、身体の内側を覆っていた気持ち良さがお腹の奥へと吸い込まれ消えていく。
身体の表面は間違いなく熱に浮かされたように火照っているのに、薄皮一枚下ではその熱さが感じられなくなる。
空っぽになり痛みだけが残った身体がその苦痛から逃れるように衝動的に、逃げた乳首を、快感の発生源を、指と指で押し潰す。
「あっヤッ、あっ────♡♡!!!」
身体の内側に快感が噴き出した。
散々捏ねくり回され快感の火を灯し続けていた乳首に突如与えられた強い刺激。
突沸した快感が焦らされ続けた体内を容易く駆け抜け、脳天に、そして雌の中枢を通り抜け膣の入り口にまで響き渡った。
一瞬視界が、思考までもが白く染まり、身体中が性感を受け止めるだけの器官に変わる。
全身の筋肉が硬直し、すぐさま快楽で弛緩する。
立っていることすらままならずその場に崩れ落ちた。
イッたはずなのに身体の昂りが治らず、射精後とは真逆の後を引くような気持ち良さが体にまとわりつき続けている。
乳首から生じる快感はすぐに弱くなっていったが完全には無くならず、それどころか引いた快感は理性を蕩かす甘い疼きに変わっていった。
物足りない気持ち良さとどんどん強くなる疼き。
生殺しの快感が再び両手を乳首に吸い寄せる。
「ひ、あっ♡♡♡」
軽く摘んだだけの乳首から先ほどと同等の快感が送り込まれ、再び視界が曇った。
そして理解させられる。
さっきのは絶頂でもなんでもなかったのだと。
そう、男には強すぎたこの快楽は、女のこの身体にとってはちょっと感じただけに過ぎなかったのだということを。
「そんなっ、はぁっん゛ぅ……♡」
弾く、気持ちいい。
引っ掻く、喘ぎ声が抑えられない。
抓る、快感を得ることしか考えられなくなっていく。
与える刺激に比例して快感を返してくる2つの突起に身体を支配され、快感が思考をも支配していく。
「あぁっ♡♡はぁっ♡♡あ゛っ♡♡♡」
乳首を摘む指に力を込めるだけで未曾有の快楽に包まれ、迫りくる快感が身体を蕩かし指の力を奪って逃げていく。
身勝手な緩急がついてしまう快楽の波に翻弄されながら夢中で乳首を弄り回し、快感を追い求める。
「あぅ゛っ♡♡♡はっ♡♡もっと、もっと……♡♡♡」
今でさえ信じられないほど気持ちいいのに、ちっとも身体は満足しない。
力が入らなくなるなるたび遠ざかっていく快感が、まだまだ先があると言わんばかりに女体の神秘に引き摺り込もうとしてくる。
だが、嫋嫋たるか細い指先と未開発の生娘の乳首が生み出せる程度の快楽では、それはあまりにも力不足だった。
少し昇っては引き戻される、蟻地獄のような気持ちよさに囚われ続ける。
そんな身体に異変が起こっていたことに気づいたのは、もはや手遅れになってからだった。
股間の疼きと、お腹の奥から湧いてくる経験したことのない奇妙な感覚。
初めての女の乳首の気持ちよさに夢中で気がつかなかったそれらは快感が引くたびに強くなり続け、いつのまにか無視することができないほど大きくなっていた。
下腹部の内側が締め付けられるような感覚がするたびに、股間の触って欲しそうなジクジクとした疼きが増していく。
これが雌の性欲に支配された女の身体なのだと身をもって理解させられる。
女としての本能が、雌の衝動が、肉欲を満たそうとして大声で叫んでいるようだった。
乳首と性器、どちらがより多くの快感を得られるかなんて考えるまでもない。
だが、それでもまだ両手を乳首から離せなかった。
男だった俺にとってはこれでも気持ち良すぎたのだ。
未知の女性器の快感より、既知の、自分にとっては十分すぎるほどに気持ちいい乳首の快感でいい。
そんなどうでもいい執着を嘲笑うかのように、股間の疼きとお腹の奥の焦燥感が増していく。
男だった時の判断基準という、今の身体にはなんの役にも立たないそれが盛りのついた雌獣にズタボロにされるまでそうかからなかった。
「やだっもっと、もっとぉ♡♡でも、もう無理ぃっ♡♡♡」
抑えきれなくなったリビドーが身体を突き動かし、ぐしょ濡れになっている下着をずり下ろす。
布切れ1枚で隠されていた、遊んだ形跡どころかシミのひとつすらない処女性をひけらかすかのように綺麗な恥部があらわになる。
だが、それを鑑賞する余裕などこれっぽっちもなかった。
男も穢れも知らなそうなソコに不釣り合いなほどの堪え難い淫靡な疼きが手を惹きつける。
服の上から触った時でも十分柔らかかった恥丘は快感でさらに蕩かされ、添えた手が沈み込んでいくほどになっていた。
「んぅっ♡♡♡」
ぐちょぐちょの女性器に触れただけでジンジンとした痺れるような気持ち良さが広がっていく。
撫で回せばその気持ち良さはさらに増し、股間が麻痺し快楽しか感じられなくなってしまったようだった。
快感の余波は股間だけに留まらず腰に、脚にまで伝播していく。
性器の周り全てが性感器官に作り替えられていくみたいだ。
快感に流されるまま股間を弄る。
着物の上から触っていた時とほぼ同じ動きのはずなのに、得られる感覚は全然違った。
気持ち良すぎて腰に力が入らない。
満足するまで立ち上がるなんてできそうにもないし、こんな中途半端なところで止めるなんてできるはずもなかった。
「なんだよこれ……♡♡ぁんっ♡まんこ、まんこヤバすぎ、ぃ゛ぅ゛っっ───♡♡♡♡♡!!!!!」
先程までとは違う、色に狂った女の身体を堪能しようと意気込み手に力を込めた瞬間に、身体が跳ねた。
女陰の上の方にあった小さな突起。
手首のあたりのちょうど力の入りやすい位置にあったそこを強く刺激してしまった途端に全身がいうことを聞かなくなり、チカチカと明滅する視界に入ってくる光景は何の意味もない光情報としか認識できなくなる。
陰核から生じた、暴発寸前の肉棒を思いっきりシゴいた快感を何十倍にも濃縮したような気持ち良さ。
それが自分が絶頂させたのだと気づいたのはしばらく経ってからだった。
あれだけ求めていたはずなのに、いともたやすくもたらされた女のアクメ。
だが、一瞬で身体を満たしてしまったそれのせいで、心が、理性が追いついていかなかった。
達したはずなのにイく前とあまり変わらない火照りを保ち続ける女体も拍車をかけ、まだイッていないと勘違いした心が勝手に、無意識に身体を操りだす。
「あっ♡♡♡ん゛ぁ♡♡♡ダメっ♡♡あかんっ♡♡♡ぁはっ♡♡♡♡」
勝手に動く指先が、より敏感になったクリトリスを刺激し続ける。
妙に手慣れた動きでおマメにフェザータッチされるたびに、強すぎず、されど弱すぎないちょうどいい快感が身体の内側に溜まっていく。
でも、愛液の粘度と量が“いつも”と違う。
普段より多く溢れ出しベタつくソレで手先が狂うたびに灼かれるような快感が爆発し、身体の中心を駆け上がる。
何度もイキかけ、視界が霞む。
その度に知らない記憶が浮かび上がってくる。
友達に聞いて初めて股間を弄った時の記憶。
生理前のムラムラした身体を慰めた記憶。
嫌なことを忘れようと快感に手を染めた記憶。
今自分がしている行為に関連した淫らな記憶の扉が開き、彼女の知られたくない破廉恥な情報の数々がつまびらかになっていく。
そしてそれほど多くない淫らな思い出にくっついて浮かんできた彼女のオカズ。
知らない男に抱かれている紗枝の、自分の姿。
だが今の俺には不要なその妄想は、快感で曇った視界が晴れた瞬間消え去った。
もっと素晴らしいものが目の前にあったからだ。
眼下に広がる自らの女体美と鏡に映る耽美な姿が劣情を爆発させ、邪魔だった女の子の可愛らしい願望を吹き飛ばす。
限界寸前まで昂りきった官能がさらに煽られ、奇妙な体験を疑問に思う間すらなく絶頂へと身体を引き摺っていく。
「なに今の、ぁはっ♡♡♡♡あ゛っ♡♡♡あぁ゛っ♡♡♡らめっ♡♡♡くりゅっ♡♡♡♡きてりゅっ♡♡♡♡」
陰核に触れるたびに広がり、離れると少し縮む快感。
余波が脳に届くだけで達しかけるほどのそれが、気がつけばとんでもない大きさになって身体のほとんどを埋め尽くしていた。
あとほんの数回膨らめば、もうどこにも入らなくなってしまいそうだ。
さっきよりも、"いつも"よりもずっと気持ち良い絶頂がすぐそこまで来ているのがわかった。
こんな風にまでなってしまった身体を突き落とすのに特別なことは何も要らない。
変わらない、敏感すぎるソコに触れるか触れないかの優しすぎる指使い。
それで十分だった。
「き、ぃい゛っっっっ──────♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!!!」
少しずつ溜め込まれ、いつのまにかいっぱいになっていた快感が軽く小突かれただけで破裂していく。
頭の中で気持ちいいなにかが爆発し、快感で狂わされた脳がデタラメな信号をばら撒いた。
それを受け取ってしまった身体のいたるところがビクビク痙攣し、快感が全身をシェイクする。
制御不能となった指が、クリトリスを激しく刺激し続ける。
快感が供給され続け、気持ち良いのが止まらない。
制御できず無秩序に動く指が陰核を離れるまで、女の快楽に溺れ続けざるを得なかった。
気が狂いそうな快感がどれだけ続いただろう。
十数秒か数分か。
どれだけ続いたかはわからないが、一瞬で終わる男の射精とは長さも強さも比べ物にならないことだけは確かだった。
ゆっくりと、少しずつ快感が引いていく。
ようやく少し落ち着いたがまだ頭はぽわぽわしたままで、この余韻に浸ることしか考えられなかった。
「はぁ……しあわせ……♡」
これが女の快感、女の幸福、女としての幸せ、そのほんの一端。
それを与えてくれた性器に手を添えたままでいるとまた、知らない思い出が浮かび上がってくる。
346プロダクションの合格通知が届いた時のこと。
人気が出るにつれ増していった羨望と嫉妬の視線のこと。
満員のドームで歌い踊る自分に合わせて揺れる数多の光のこと。
勝ち組の女としての輝かしい記憶が溢れ出して胸がいっぱいになり、身体の火照りとは違う温かさに包まれる。
ポカポカが溢れかえるその胸にもう片方の手を乗せれば、先ほどはあまり堪能できなかった柔らかさとともに少し早い心臓の鼓動が伝わってきた。
乳房と女性器、すっかり変貌しきった身体の中でも特に変化した箇所に触れながら女の喜びと紗枝の幸せな思い出に浸り続ける。
浮かんでは消える少女の思い出は劇的なものから些細なものまで様々だ。
次々流れる少女の何気ない青春の1ページ。
かつての自分では関与することすらおこがましかった奇跡のような輝きを放つ日々。
自分のような小市民にはむしろそちらの方が眩しく思えた。
でも、明日からは自分がそこに、その中心にいることができるのだ。
身体が震えたのは火照りが冷めてきたからだけではなかった。
今のこの幸福な時間が終わって欲しくないという気持ちと早く明日になって欲しいという気持ち。
相反する2つの思いを抱えながら、身体を抱きしめるようにはだけていた浴衣の前を閉めた。
その裏地がイったばかりの敏感な肌にはこそばゆくて、思わず顔が綻びる。
こんなに朝日が待ち遠しいのは生まれて初めてかもしれない。
ゆっくりに感じるのに気がついたら過ぎ去っている不思議な時の中で、胸いっぱいの希望と幸福を噛みしめた。