大変長らくお待たせ致しました。
相変わらず不定期での更新とはなりますが、少しでも楽しんでいただければと思います。
どうぞお楽しみください!
上白沢慧音SIDE
人里の守護者。
そう呼ばれて幾久しく。
その名に恥じぬよう、背かぬように今まで生きてきた。
自負出来るほどに。
人間を愛し里の住人たちを愛し、それ故力ある自分が防人となって人里の防衛に当たってきた。
褒美や報酬などはいらない、無償の愛。
だが。
だが、その結果がこれか。
自宅の寝室。
昼間から布団の上に寝そべる自分。
それを見下ろす男。
私は今、犯される。
事の始まりは一体なんだったのか。
いつも通り寺子屋の仕事を終えて自室で明日の授業の準備をしていた。
そこに駆け込んできたのは里の青年たち。
十人ほどいる彼らは皆、行事などの時に率先して手伝いをいつも買って出てくれる誠実な者たち。
良く手伝いをしてもらっているため顔は良く覚えている。
そんな彼らが血相を変えて尋ねてきたのだから、それは一大事に違いない。
落ち着かせて話を聞こうにも、冷静さを欠いており一緒に来てくれとの一点張り。
状況が把握できず腑に落ちない点はあるが、それを突き詰めていたせいで取り返しのつかないことになってはそれこそ悔やんでも悔やみきれない。
とりあえずは現場で判断しよう、そう決めて引っ張られるように連れていかれる。
連れて来られたのは里の中央付近。
住人のほとんどがいるのではないかと思うほど人が集まっている。
その光景に事の重大さを再認識。
人々で隠れているその先、そこには一体どんな光景が広がっているのか。
僅かな緊張に固唾を飲み、歩き始める。
野次馬となっていた人々が徐々に私に気づき始め道を開ける。
やがてその先が開けた。
そこには博麗の巫女。
なにやら落ち込んでいる風だがどうしたのだろうか。
それよりも気になるのはその横にいる、皆の中心に位置する場所に佇む男。
見憶えのない顔、印象の薄い顔立ち。
私が彼を捉えるように彼も私を視線に捉えた。
「……マジか」
小さく呟かれた言葉、それは一瞬私を呆けさせるには充分。
その一瞬は彼が動くには充分だったらしい。
五歩ほどあった距離。
気づけば男に手を取られていた。
この男は一体何者なのか、今ここでなにが起こっているのか。
疑問が思考を埋め尽くす。
反射的に手を離そうとしたが、力が入らない。
「そ、それでは早く天女様を……!」
不意に聞こえた声。
顔を向けると、なにやら必死そうな住人たちの顔。
「そ、そうです! 慧音先生をやったんですから!」
続いた他の者の言葉に愕然とした。
人を物のように扱う言葉、それよりも。
その言葉を鑑みる。
天女、とはもしや向こう側に倒れている女のことか。
女は倒れたまま死んでいるかのように動かない。
昼間に寺子屋で子供たちが言っていた話は彼女のことだったのか。
天女が里に現れそれを救えば里に安寧がもたらされる、だったか。
細かいことは定かではないが確かそんな感じだったはずだ。
天女である彼女を住人たちは助けたいのか。
人助けはいいことだ。
彼女を助けられるのはこの男。
そして彼女を助ける条件、それが私。
つまり彼女を助けるために私が生贄としてこの男に差し出された、そういうことか。
人知れぬところで勝手に生贄に祭り上げられた怒りよりも、この男が本当に彼女を救えるのかという疑念が浮かぶ。
疑念というより、胡散臭さ。
この男からは強者の気配も異能の感じもない。
寧ろ端にいる博麗の巫女が救うといった方がまだ信憑性がある。
「さ、家に行こっか」
「……は?」
不意に喋った男の言葉に呆けた言葉を返してしまう。
家、家とはなんだ。
「慧音、だっけ? 君の家だよ」
内心を見透かした様な男の言葉に思わず肩が震えた。
なぜこの男が私の名前を知っているのか、なぜ私の家に来る必要があるのか。
「ま、待て! お前は一体誰」
「流石に犯されるのを皆に見られるのは嫌だろ?」
今度こそ二の句が継げなかった。
この男はなんと言ったのか。
おかす、とはどういうことだ。
おかす、犯す。
体が大きく震えた。
おかす、その言葉の意味を理解したから。
犯す。
つまりはこの男に襲われるということか。
なぜ私が、その思いと同時に引っ張られる体。
男が動きだした。
引っ張られながらも後ろを振り返る。
手を振る者、両手を握り拝む者、涙を流し相方と抱き合っている者、仕草は違えど全てが全て期待に満ちた表情を浮かべていた。
その姿に里の守護者としての自分、そして女として自分が生まれたのを自覚する。
住人が一体となって希望に満ち溢れている、ならばそれを叶えてやるのが私の使命ではないか。
私が今から見知らぬ、好きでもない相手に犯されるのをなぜそんなにも堂々と見送れるのか。
二律背反な思いは思考の中で混ざり合い、考えることを放棄させようとする。
どうしよう、どうしようもない。
思考が停滞する中、引っ張られていた力がなくなる。
男が立ち止まったのだ。
「……あ、そうだった」
なにかを思いだしたような男の声。
「レイ、いつまで寝てんだ? 起きないと置いてくぞー」
親がいつまでも遊んでいる子供にかけるように、或いは飼い主が動物にかけるような呑気な声。
誰に向けられたわけでもない言葉を発した男をただ見る。
一体なにがしたいのか。
「うわああああっ!」
その途端に上がった悲鳴。
私を連れてきた青年の一人の声だ。
声に反応し振り返る。
「なっ……!」
驚愕の声を上げる。
立っていた。
人形の様に身動き一つせず、死者の様に生気を感じなかったあの女が。
周りが動揺に固まる。
あの巫女ですらいつも通りの半目だが眉は僅かにつり上がり視線は女への一点から動かなかった。
周囲の雰囲気に気づいていないのか、女は一点から目をそらさずにこちらへと歩いてくる。
初めて見たその容姿は整っており、長い黒髪と感情の一切を伴わない表情は浮世離れした一枚の絵画のよう。
一瞬にして辺りの空気を引き込んだ彼女は静かに歩み寄り、やがて私の向かい、男の背後で足を止めた。
あまりにも近すぎるその距離は初め進路を妨害する男に向けての威嚇のようにも思えた。
だが違う。
彼女の目は男の顔だけを捉え、そこから離れることはない。
そして無機質なその瞳は感情こそないがなにかを待っている、そのように思えた。
「んじゃ、行くか」
この雰囲気にそぐわない軽い声色。
誰もが言葉を発せぬ空気の中、能天気に喋ったのはやはりこの男。
言葉と同時に再び腕を引っ張られる。
男の後ろにつくようになった位置。
すぐ隣を天女が歩いている。
抵抗出来ずに引っ張られながら、横目で彼女を捉える。
近くで見ても、動いている今でも感じない生気。
だがその姿は人形といえば人形とも思えるが、やはり死者、幽霊と言った方が妙にしっくりくる。
本当に天女なのだろうか。
男は彼女をレイと呼んだ。
つまりこの男は天女の仲間なのか。
天女がこの男の仲間なのか。
天女ならばこの男の、彼女を生き返らせた異能も信じられる。
だが天女と見せかけた女が男の仲間だった場合、男に異能などはなく催眠などで一時的に仮死状態かなにかにさせ、その言葉を鍵に彼女を目覚めさせただけのペテン師。
後者ならば里の人々はまんまと騙され、私は無意味にこれから男に犯されることになる。
しかし逃げようにも男の手を振りほどく力が湧かず、なされるがままに引っ張られる。
「ほら早く、慧音んちに案内してよ」
その言葉と同時に体に変化が訪れた。
体が勝手に前へと歩きだす。
引っ張られているのではない、自分の力で彼を追い抜く。
そのまま今度は男を引っ張るようにして歩きだした。
進む先は自宅、望んでいないのに拒否したいのに体が言うことを聞かず少し早い速度で歩みを進める。
男に対して聞こえてきた仏にでも祈っているような崇めたてる声たちはいつの間にか聞こえなくなっており、やがて着いてしまった私の家。
男も気づいたのだろう、歩く速度が早まった。
一歩、また一歩と自宅が近づく度に高鳴る鼓動。
煩いくらいに心臓が脈動している。
それはまさに処刑台へと向かわされる死刑人の心境。
背筋が粟立ちそうなほど確信とも言える警鐘が心で鳴り響いていた。
玄関先、出た時は事が事がなため施錠はしていない。
何の抵抗もなく玄関の戸が開き、中へと足を踏み入れる。
自宅に異性を入れる。
その行為がこれほど苦痛だとは思わなかった。
男を導くように足が勝手に進む。
意思とは裏腹に辿り着いた部屋は居間。
着いてしまった、その反面寝室でないことに密かに安堵する。
この後はどうなるのか、想像しつつも逃れようと必死に思考を巡らせた。
「……あっ」
その瞬間、思い切り腕を引っ張られた体は男の両腕に掴まれてゆっくりと畳の上に寝かされる。
「くっ、こ、こらっ、やめないかッ……!」
胸元を掴まれ、抵抗するが全くの意味をなさずまるで薄紙でも裂くように衣類が破かれた。
露わとなった胸部が露出される。
隠そうと腕を動かしたが、力が入らないように全く動かない。
胸を晒け出し、男はなにをするわけでもなくただ私を見下ろす。
そこにあるのは胸を晒け出し男に組み敷かれる私、そんな光景。
思わず顔の温度が上がる。
例え襲われているとはいえ、人にものを教える立場の者がこんな破廉恥な姿を晒していいわけがない。
なんとか抜け出そうと全力を出すも、結果は変わらず組み敷かれたまま。
ずっとだ、ずっとこの男に掴まれていると全く力が入らず、ましてや彼の言葉に勝手に体が従ってしまったこともあった。
人を操る、催眠術のような力がこの男の能力だというのか。
そうだとしたなら私は既に術中に嵌っていることになる。
「そういや、慧音ってまだ処女?」
突然の男からの問いかけ。
「だッ、誰が教えるかそんなことーー」
顔に温度が集まるのを感じながら言い返す。
しかし。
「なんだ、処女なんじゃん」
意思とは反対に頭が勝手に頷いた。
「ッ、ち、違う! これはお前の催眠術に操られたせいで」
「催眠術? いや、慧音の本音が聞きたいっては思ったけどさ」
言葉を被せるようにして男が返す。
見当違いな発言をされたような表情、あくまで惚ける気か。
どこまで人を辱めれば気が済むんだ。
「えーと、じゃあキスは? 接吻」
そっちもまだ、何気ない会話のように再び尋ねてくる言葉に頭が熱くなる。
羞恥ではなく怒り。
説教をしてやろうと口を開きかけたが慌ててつぐむ。
案の定というのだろうか、再び頭が勝手に頷いた。
それを見た男の笑み、それが更に怒りを燃え上がらせる。
体が小さく震える。
堪えきれない怒り、そしてそれ以上の悔しさ。
催眠術に操られているとはいえ、答えた内容は全て真実。
拒絶したい相手に内なる秘め事を曝け出している情けなさ。
この男へと同時に自分自身に対して感情が反発する。
「そういや、慧音って教師なんでしょ?」
突然の話題転換。
里の者に聞いたのだろうか、またしても頭が勝手に頷いた。
意に反した体の動きに顔を顰める。
「そっか」
軽い反応。
「……じゃあ悪いけど優しくは出来そうにないから」
その言葉に思わず目を見開いた。
当然、その言葉の内容はこれからのことを示唆している。
だがそれ以上に気になった男の表情。
表情が抜け落ち、感情の一つも窺うことが出来ない。
しかし目だけは、瞳だけは薄暗い感情を灯しているように感じた。
これから始まる私への陵辱、女としての尊厳を奪われるであろう行為。
今すぐに逃げだしてこの男から離れたい女としての私。
だが、それ以上に。
「……お前は、教師になにか因縁があるのか……?」
内容を聞かなければならない、その思いに駆られる教師としての私がいた。
私の言葉に男は呆けた表情を浮かべてこちらを見る。
初めて見せた間の抜けた表情にしてやったりといった感情は出てこない。
直感として、教師として接しなければいけない、そう思った。
「……いや、なにもないよ」
やがて口角だけを少し上げる程度に軽く笑う。
それが妙に痛々しく見えたのはなぜだろう。
彼は私から顔を逸らし目を瞑る。
少しの間を置いて、今度はちゃんと笑みを浮かべた。
苦笑とも見える笑みを。
「なにもないよ……学生だった十二年間、毎日説教だと言って代わる代わる教師たちから殴られ蹴られの暴行を受けてたなって思い出して、八つ当たりだけどちょっと悪戯しようなって思ってね」
よく骨折して入院してたなぁ、懐かしそうに笑いながら話す彼に、背筋に雷が落ちたような衝撃が走る。
人を導く者である教師が、導くべき者を傷つける。
信じられなかった。
「……それは、お前が悪事を働いたから、だろ……?」
やっと言い返せた言葉は弱々しく、よほど衝撃が大きかったのだろうと自覚する。
私の言葉に彼は目を開き、静かにこちらと目を合わせた。
そこに浮かぶ表情はやはり笑み。
「やっぱ慧音も同じこと言うのね」
苦笑を漏らし「ま、確かに俺が悪事を働いたのかもな」そう言って更に笑みを深めた。
「そうだな『お前と同じ空気を吸ってるだけで虫唾が走る、お前がここの生徒じゃなかったら殺せたのにな、屑の癖に俺の視界に入ってくんな』そう教師とか他の奴らに思わせたことが俺が働いた悪事なのかもな」
彼の言葉、今度は瞬間的に意識が飛んだ。
それほどの衝撃。
人を導く者の放つべき言葉ではない。
いや、人として発してはいけない暴言の数々。
そして彼の、教師を毛嫌いするような言動に納得する。
唖然、驚愕、やがて怒りへ。
それは彼にではない。
彼は人格が壊れているのではない、壊されたのだ。
彼の人格を形成した環境への怒り。
教師の心はやがて彼を一人の生徒と認識する。
この男がこうやって人を罪悪感もなしに襲う、そんな彼を作り出したのが教師。
ならば彼を更生させてやるのもまた、教師なのではないか。
そう思うと、彼に対しての恐怖や拒絶、嫌悪などは浮かんでこない。
我が寺子屋の問題児。
そう思えば愛着も湧き始めるというもの。
「……なあ」
いつの間にか不思議そうな顔をしている彼へと声をかける。
想像していたよりも穏やかな声。
声色の違いに彼もまた気づいたのだろう、目を細めて訝しむ。
この男は何者だ。
抗えぬ運命に翻弄された可哀想な青年。
それだけだ。
ならば教師として私がしてやること。
「私を犯せ」
その言葉に彼は目を見開く。
その姿は妙に滑稽でどこか可笑しい。
だが、私の方がおかしいのだろう。
自ら犯せなどと、狂っているとしか思えない。
それは女としての私。
彼を更生させるためなら、どうせ使う予定もないこの体、それで人一人を正しい道に戻せるのなら使ってしまった方がいい。
教師としての私がそう思う。
教師としてもおかしな考えだとは思うが、何故か今はこれが私の、そして彼の運命を変える行為だとそう思えた。
この感覚、博麗の巫女ならばこう言うだろう。
勘よ、と。
「だが私を犯したなら、私の寺子屋に生徒として入ってもらう。そして私が認めるまで卒業は出来ないものと思え」
彼が私を穢すための対価。
私が彼の心を治すための対価。
見たところ、高く見積もっても二十代半ば。
まだ十分にやり直せる歳だ。
彼は学校、寺子屋というものに酷く傷つけられている。
だからまずは第一歩。
寺子屋に通うことを自ら選択させる。
性行為という邪な餌で釣っているかもしれないが、これで彼が頷けば私という教師になんらかの関心を抱いてくれたということだ。
興味を持たせる、まずはそこから始める。
万が一彼が約束を違えて私を犯して逃げたならば、幻想郷の強者に頼み込んででも寺子屋に通わせる。
どこまで強力か分からないが相手を催眠で操る能力だ、強者たちが興味を抱かないわけがない。
いくつか要求はされそうだが、割とすんなり了承がもらえそうな気がする。
彼は私を見下ろしただ見つめてくる。
さて、どちらを選択するのか。
「……よろしい。ならば陵辱だ」
なにやら妙に厳かな声色で頷いた。
最初の難関は成功した、そう思い安堵と喜びが心に灯る。
さて、初めては痛いとよく聞くが実際はどうなのか。
教師として彼を救うために必要な犠牲。
自身に言い聞かせるように内心で何度も呟く。
そういえばレイと呼ばれた天女が見当たらない、どこに行ったのか。
だが、その方がいい。
覚悟を決めたとは言え、流石に陵辱される場面を第三者に見られるのは耐え難い。
犯したいと思ったいる彼のことだ、自己満足に私の体を弄ぶのだろう。
痛く、辛い。
逆に言えば自己満足故に早く終わる。
痛みさえ我慢すれば、彼が満足した後に捕まえる。
そう決めて彼と視線を交錯した。
彼の目の色が変わる。
いよいよか。
痛みに耐えるように体に力を入れる。
次の瞬間。
「……なッ!?」
驚きの声を上げる。
いつの間にか衣類を全て剥がされ、四つん這いになり彼に背を向けていたのだった。