自宅に駆け込み錠をかける。
途中同僚や仕事仲間とすれ違い奇異の目で見られたが気にする余裕なんてなかった。
ただひたすらにあの男から逃げたい一心で。
気を失って目を醒ました時あの男は最初に見た女の魂を犯していた。
彼の腰が素早くも大きく前後する。
その先が女の魂の臀部へと吸い込まれ、彼女はだらしなく脚を震わせながら甲高い声を上げていた。
あまりにも気持ちよさそうな声は下腹部の疼きを再発させるには充分だった。
そして疼きの原因を思いださせるほどにも。
「あああっ! あああああっ! はああっ! あああっ――ッは……ッ……ッふ……!」
女の魂が激しい快楽の連続に過呼吸のように声がでず、息だけが断続的に漏れる。
その姿を見て背筋に電気が駆け抜けた。
自分があんな過呼吸に陥っているにも関わらず責め立てられ続けたら死ぬ。物理的に。
息が吸えないのに半強制的に息を肺から掻きだされるのだ。
快楽による窒息死、恐ろしくもあり得なくはない未来に体が震えだす。
彼の動きが更に速まり、二人から聴こえるぶつかり合う乾いた音が感覚を短くした。
女の方はどうやら絶頂から降りられず抜き挿しの度に小さくだが彼女の中でなにかが弾けていくのが分かる。
男のピストンとともに小さい絶頂の点が間隔を狭めてやがて一つの線になった。
大きく断続的な痙攣と体中が粟立っている肌が少し離れた場所からでもはっきりと見えて、今までとは明らかに違う反応に、なにが起こるか分からないが直感が酷く恐ろしいことになると告げ、こちらも体の震えが激しさを増す。
しかし顔を逸らすことができなかった。
そして、とうとう一つの終わりが訪れた。
「あああっ! あはああっ! ぅあああっ、ああっ! だ、ダメッ、あはあああああああッ」
耳をつんざく咆哮のような絶叫が静寂に包まれている一体に響き渡った。
「……ッく」
小刻みに体を痙攣させながら男もあまりの快感に声を漏らして中で果てる。
女はがくんがくんと体が数回大きく上下して、そのまま無抵抗に動きが一番大きかった膝から地面に崩れ落ちた。
それにより男から離れた彼女だが地面に倒れたまま動かない。
以前は彼から離れた瞬間に元へと戻ったが、今回はその気配がないのだ。
一瞬喋ったということは彼女が限界を超えて悲鳴を上げ意識が覚醒した瞬間に魂が砕けたのだろう。
まさか満足したから用済みになり、処分として魂の中にある霊核を砕いたというのか。
魂、幽霊と呼ばれる存在は皆、無意識に生前の容姿を形成するためその形状を維持するために霊核が必要なのだ。
霊核によって魂たちはこの場に留まれている。
霊核はがなければ魂は形を作れず、更には輪廻の輪に入れなくなるのだ。
その霊核は無形の根核であり意図的に壊すことなど不可能。
それを簡単にやってのけた彼と自分の差は最初から歴然だったのだ。
相手の力量を見誤った自分が悪い。
犯されたのはその報いなのかもしれない。
だが満足してあの女の魂の霊核を壊したのならば、自分との情事は満足できなかったのか。
意識と反応なき魂よりも生身の体の方が気持ちいいとは思うが、彼の趣味かもしれないし考えても仕方ない。
今必死に考えなければならないのはそんなことではなく、自分との情事を満足していないならば今度は満足するまで犯されるのではないか。
女の魂のように呼吸ができなくなるほど深く速く突かれ、理性が碎け散るほどに狂いそうな快楽に体を浸され続ける。
そしてやがては。
満足させてしまった結果、目の前の光景に恐怖し後ずさる。
彼はぴくりとも動かない女の魂を見ておりこちらには気づいていない。
ここにいたら殺される。
今しかない、彼が背を向けている今疲れが取れておらず力が入りづらい四肢に踏ん張らせなんとか立ち上がり間髪いれずに飛び立った。
その瞬間、彼はまだ霊核を砕いた女の魂を見ていた。
そのまま魂が維持できなくなり存在が消えるまで見ているつもりなのだろうか、だとしたら悪趣味すぎる。
しかしそれを眺めている余裕たなどあらず、だせうる全速力で後ろを振り返っている時間はなく、とにかくより前へより前へと大気を掻き分けて不格好だが一歩二歩と少しでも前に進んだ。
自宅の鍵をかけてようやくあの男から解き放たれたと安堵する。
膝の力が抜け、玄関で崩れ落ちた。
「あっ、はは……」
思わず笑ってしまう。
咄嗟のことに反応できず崩れ落ちた膝が地面に当たり痛い。
しかしそれが今が現実だと認識し、あの悪夢から逃げ仰せたのだと実感させてくれた。
込み上げる笑みを逆らわずに浮かべる。
「……逃げた、逃げてやったんだっ。あいつから逃げきったんだ!」
言葉にすると更に確信が持て、流れ始めた涙など気にせず笑い上げる。
そこからはもう言葉などありはせず、ただひたすらに笑った。
もうあんな思いはしなくてもいい。
あの恐怖、あの屈辱、そしてあの快感を感じなくていいのだ。
ここにいれば大丈夫、もうなにも怖くない。
一頻り笑いそれが落ち着いてきた頃、どのくらい笑っていたのだろうかいつまでも玄関にいることを思いだし居間に向かおうとする。
だが膝が震え、腰が抜けたように動けない。
しかし今はそれすらも面白おかしく、腕だけで這うように今へと向かった。
「……んっ」
廊下を這いながら移動していると、床に服が擦れてその振動が股間を刺激する。
鋭敏になっている感覚から意識を逸らしつつ這い続け居間はもう目前となった頃。
股からなにかが滴り落ちた感じがした。
嫌な予感を覚え動きを止めて仰向けに体を翻してスカートを目く上げる。
下着は知らない間に彼に取られていたらしくはいていないことを今気づいたが、そんなことよりも思わず目を見開いた。
「なんッ……!」
なんだこれは、そう言おうとした矢先に思考が答えを生みだした。
秘所から流れ落ちる白濁の液体。
あの男に中にだされた精液。
快子宮の奥にまで注がれた感覚を鮮明に思いだし、一気に顔が青ざめる。
子宮に精液がだされる、それがどういうことなのか。
いくら魂だけの存在と言っても、意識があり言葉を話し相手の命を操る能力を持っているあの男なのだ。
射精する魂など前例はなくこの精液の中に魂から欠片を放出しただけなのか精子が入っているのかは分からない。
だが射精したのは他ならないあの男なのだ。
なにがあっても不思議ではない。
そう思うと居間に行こうとしていた気持ちは失せ、急速に込み上げた吐き気に口を押さえながらなけなしの力を使って浮き一刻も早く風呂場に向かう。
空になっている風呂桶に水道の栓を抜いて水を流す。
そして風呂桶のすぐ隣に設置された大きめの箱についている突起を押す。
河童が造った絡繰式の湯沸器だ。
これは先程押した突起を押すだけで風呂桶に貯めた水をお湯にする道具である。
従来のように薪をくんで火を起こす必要がなく非常に便利だ。
しかし外から流れ込んだ幻想郷にはない素材でしか造れないらしく代用の素材は存在しないらしい。
魔力や霊力、神力といった力を流すことで起動する仕組みのこれはあまりにも手軽であり、つくった河童も言っていたが確かにこれは幻想郷には過ぎた代物なのかもしれない。
素材がなくなったことによってある種先着順となったこの湯沸器は幻想郷の数ヶ所でしか使われていないのだ。
追い焚きという機能があるため湯が冷めることはなく、これを使って以来風呂に入る時間が段違いに長くなった。
突起を押して箱の中から絡繰の駆動音がなり始める。
後は自動で沸かしてくれるため後は大丈夫、そう思った瞬間に吐き気が限界を超えて決壊した。
四つん這いになり、風呂場に胃の中の吐瀉物を撒き散らす。
辛うじて排水口の上だったのが唯一の幸いだが、だからと言って落ち着くわけではない。
再び吐き気が押し寄せ、再度吐瀉。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
それだけが内心に響き渡り嫌悪感が頭を埋め尽くす。
あたいを犯したあの男が気持ち悪い。
女の体内に射精する男が気持ち悪い。
なにより、
穢されてしまったあたいが気持ち悪い。
両端を縛っている髪留めを無造作に引っ張って解き、未だに立ち上がれない体でゆっくりとしかし乱暴に服を脱ぎ捨てた。
壁に設置してある大きめの鏡が座り込む自分の姿を映す。
そこに映る自分があまりにも醜く見え、最早自分ではない全くの他人を見ている気分だった。
自慢だった赤い髪は穢れを知り酷くどす黒く見え、赤い目は犯されたあの男に屈服し彼の下僕となったことにより染まった、そう思えてきて仕方がない。
いつも上司から苦々しげな目で見られつい挑発するように見せつけていたこの大きな胸は、ただ男を悦ばせるためだけにあるかのよう。
そして鏡に映った自分の秘所から流れ落ちる白濁の液は、自分が男に犯されるためだけに存在している愛玩人形のように思えてこんな姿になった自分を更に嫌悪。
再びとめどなく涙が溢れる。
先程とは違う悲愴の涙を。
ふと思考を遮るように甲高い音が鳴り響いた。
湯沸器からであり、お湯が沸いたことを報せる音である。
風呂に入らなければ。
脇に置いてある小さい桶を手に取り、湯船からお湯を掬う。
どうやら足腰に力が入るようになってきたらしく、立ち上がり熱いお湯を頭から被った。
――ダメだ、こんなんじゃついた汚れは落ちない。
湯沸器の突起の横にある、数字が縦に並ぶ場所、その数字をおおっている枠を上に上げる。
四十二から四十五、まだだ、こんなんじゃダメだ。
四十五から四十七、こんなので落ちるわけがない。
四十七から五二。
数字に従って湯温が上がり、それを被ると熱湯が襲い身体中が悲鳴を上げる。
それくらいでないと穢れが落ちる気がしなかった。
桶で湯船の熱湯を掬い、白濁垂れる股間へと勢いよくかける。
あまりの熱さに激しい痛みが襲い歯を食い縛った。
我慢しながら新たにお湯を掬い、桶に手を入れて湯を掻き上げそのまま秘所に指を入れる。
中に入ったお湯は更に熱く感じのたうち回りそうになるが必死に中に入れた二本の指で膣内を掻き回す。
そして中に貯まっている精液を掻きだして再び熱湯とともに指を入れた。
最初は白濁とした液体が大量に流れでてきたが次第に少なくなり、やがて入れたお湯しかでてこない透明になる。
だが、中にまだ入っているのではと疑いが晴れず何度も膣内を掻き回す。
いつまで経っても、精液は落ちたがその先にある穢れが落ちない。
その思いが抜けず掻き回す指が激しくなる。
「……んっ、あぁ……ダメ……んんっ、まだ、あっ……落ちない……ああっ……」
掻きだしている最中にも関わらず感じてしまう自分にまた、まだ穢れが落ちないと更に激しさを増していく。
自分が穢れているから感じる、あの男に突かれていた時の感覚を思いだしてしまう。
「あっ……んっ、はぁっ……んんっ、ああっ、んくッ……あああっ!」
声とともに中を掻き回す指の動きが無意識に変化していく。
クリトリスのすぐ内側を集中的に擦り、快楽が頭を支配する。
彼に犯されていた時のあの熱、あの激しさ、あの気持ちよさを求めるように。
「ああっ、あああっ! はんんっ」
こんなことしていてはダメだ。
強姦されたばかりの記憶を肴に自慰。
それもつい先程のことでありいけないこと、強いて言えば常識的に考えればあり得ない。
自分とてそんな人がいたら確実に引く、寧ろ蔑むだろう。
それがどうだ、その蔑むべき相手がまるで自分ではないか。
知らない好きでもない男に初めてを奪われて悲しい。
抵抗が全くといっていいほど出来ずにいいように弄ばれて悔しい。
あの女の魂のようにあそこにいたら神経が焼ききれるほどの絶頂に発狂しながら殺されていたと思うと怖い。
だが、それがまた今生まれている快楽のスパイスとなっている自分が気持ち悪い。
しかしそれすらも、まるで自らの手で禁忌を犯しているような感覚が背徳的であり悦楽となって快感が跳ね上がる。
悪いことをしている自分に快楽を覚えている。
「あああっ、はああっ! 止めなきゃ……止めなきゃないのに、んんんっ! ああっ、ああっ、あああっ、い、イクッ――」
口では止めろと言いつつも止まらない指で絶頂。
いつもはイったらそこで終わりだった。
だが指は止まらない。
更に大きく激しさを増す。
「ああっ! ダメッ、イってるのに、あんっ、と、止まんない、ああっ――あはあああっ!」
気づかぬ内に伸びていた反対の手が中指の腹でクリトリスを転がした。
意識しない刺激に堪らず両膝をつき、膝立ちで上体が大きく仰け反る。
ダメだ、止めないと。
内心でそうは思うが、その理性すらも快感へと変換される。
ああ、こんな汚れた自分を上司が見たらどう思うか。
あの方は清廉潔白な身である。
確実に見放されるだろう。
蔑んだ目を向けてくる上司を想像し、微かに背筋に電気が走った。
誰かこんな穢れきった自分を裁いてくれないだろうか、もう自分ではどうしようもない気がする。
「あああっ! ッ、ま、またッ、ィッ……ッああああああッ!」
快感に拐われて全ての思考と感情が訳がわからずごちゃ混ぜになった瞬間、触れるクリトリスと膣内から強大な快楽が膨れ上がり我慢など皆無にイき果てた。
せっかく力を取り戻した足腰ががくがくと震えて支えが効かなくなり床に背中から落ちる。
誰かに裁いてもらわないと、自分自身を赦せそうにない。
盛大に、しかしなぜかどこかが足りない快感に意識がゆっくりと微睡みつつもそう思う。
目の前が真っ暗に染まる直前、風呂場の入り口に見えた緑色の小柄な上司は夢か幻なのか、それとも。
そういや湯船に浸かってない、そんなことを思いながら意識を失った。
小野塚小町SIDE OUT