『マギサ・パラベラム』を改稿した、連載版の作品になります。
更新は不定期になるかもしれませんが、お読み頂ければ幸いです。
かつて神々が戦った、過酷な世界があった。
その戦いを終わらせたのは、一柱の優しい女神の犠牲。
女神は自らが属する陣営の神々。
優しい神々が創造し、その存在に恐怖を覚え、地上に追放した人々。
魔族と呼ばれる人々の軍勢と、魔族を哀れみ、手を差し伸べた神々。
賢き神々が送り込んだ援軍、多様な亜人種を相手に長く続く戦い。
戦争の早期終結を願い……最前線で戦っていた。
だが、女神達の陣営は魔族に敗北。
女神達の世界は、賢き神々の導きと支援を受けた者達。
魔族の中でも戦いに秀でた、戦士達の総攻撃で滅ぼされてしまう。
地上で唯一生き残った女神は、自らの血を分けた眷属の戦士達。
人間が魔族の手によって、自我に目覚めた事で、女神に反旗を翻し反乱。
女神は人間と魔族に捕まり、激戦地となった場所の一つ。
……荒野と化した戦場跡。
そこに佇む丘の上で磔にされ……女神は最期の時を迎える事になる。
女神を捉えた魔族と賢き神々は、世界に新たな秩序を生み出す為。
それまで不可能とされていた、ある『魔術の創造』を行った。
それは本来なら決して、人々の目に見えない力。
世界を静かに燃やす炎。
黒き炎を束ねて顕現させ。
磔にした女神を燃やし尽くし。
生じた遺灰……世界に光り輝く灰を撒き。
世界に新たな秩序を生み出す……礎としたのだ。
その後、戦争を勝利で終えた賢き神々は、この世界から立ち去る際。
かつて神々が協力して生み出し、争いの火種の一つになった建造物。
異界を互いに繋げる、空の果てにある、巨大な門を封じる事にした。
だが、賢き神々は万が一に備え、門を開く鍵の半分と、神々の残した膨大な兵器。
神々の世界の知識を若き魔族の皇帝に託し。
神々の世界の側から門を封じ。
この世界から神々の姿は消え去った。
その後、人々は新たに創造された、魔術を秩序の中心に据え。
人々が生み出し、抱える業と戦いながらも……独自の歴史を紡いでいた。
そして時は流れ、女神の犠牲から一万数千年後。
魔族と神々が生み出し、世界を動かす要になった魔術『死者完全蘇生魔術』が蘇生や救済などと縮めて呼ばれ『女神の奇跡』などと敬われ、人々の社会秩序に定着した時代。
女神の奇跡を統べる存在、女神の代理人を務める者が、最後の一人となった年。
来るべき、次世代の女神の代理人達を決める、避けられない戦いに臨むべく。
人々はその手に武器を持ち、様々な思いを抱きながら、動き始めた。
それは望む、望まずに関わらず、自分の属する種族や陣営の存続、利害の為に戦う者達。
これを期に自陣営の版図拡大を新たに狙う者達。
或いは種族の垣根を越え、同じ目的の為に徒党を組む者達。
既存の国家だけでなく、躍進を目論む、諸勢力も軍備の増強を進め。
世界を巻き込んだ…………戦いが始まろうとしていた。
――中央大陸西部 大森林地帯 妖精族の里――
――深夜――
「はぁ! はぁ!」
私は夜の大気に漂う……焦げた臭いを嗅ぎ。
背中の羽に魔力を送り――全力で飛んでいる。
「ゲホッゲホッ!」
時折、焦げ臭さに苦しむ。
私の視界に映る光景。
それは闇夜を照らす業火と…………舞い上がった火の粉。
そして敵の姿だ。
『ぐぉおおおおおおおおおおおおお!』
『ひゃっはぁああああああああああ!』
雄叫びを上げる敵は銀色の甲冑を纏い。
戦斧や大剣を振るう。
背丈の巨大な人影だ。
甲冑の群れの中には、真紅の仮面を被り。
全身を真紅の鱗で覆われ――大槌を振るう女がいた。
女が振るう大槌の一撃は大木を木っ端微塵に粉砕していく。
『フハハハ! 総員に告ぐ! 存分に害虫の駆除を楽しめぇえええ!』
悦に浸った女の声が……大音量を放つ魔術。
拡声術式で何度も荒々しく。
周囲に響いている。
『――――兵士諸君! 奴等は人に牙を剥く! 羽の生えた害虫! 害虫である! 奴等は我々の敵ですらない! これは来るべき聖戦! 女神の代理人の座を我が西ドルア帝国が手にする為の予行演習である!』
私達を害虫呼ばわりする巨大な人影。
その正体は私達の里と敵対する人間の帝国……西ドルア帝国の兵士達だ。
銀色の甲冑を着込んだ、帝国兵が雄叫びを上げ。
燃え盛る大樹と家々を打ち壊し。
帝国兵達は希少な魔力繊維で作った、これまで見た事もない道具。
妖精捕獲用に考案、造り出されたと思われる、網の付いた棒を使い。
『見つけたぞぉおおおおおお!』
私の同族、同じ年代の少女達を……次々と何人も捉えていく。
「きゃぁあああああ!」
今も大木の幹の穴に隠れていた……姉妹に……命乞いをさせている。
「お姉ちゃん! 怖いよ!」
「嫌だ! やめて人間さん! 私がなんでもしますから! 妹だけは――」
妹を守ろうと、泣き震えながらも妹の盾になる姉。
「……二匹かよ」
だが、その懇願。
姉の願いは叶わなかった――パシン!
「きゃっ!?」
ガシッ――ビリビリブチブチブチッ!
「ぁああぎゃああああああああああ! 痛いよぉおおおお姉ちゃん! ぎゃぁあああああ! 助けて女神さまぁあああああああ!」
「い、いや! や、やめてください! お願いだから――――うぎゃぁぁぁあああ!」
願いと羽を絶たれた姉の嘆きが木霊して……私の心に抉り込んでくる。
帝国兵は手馴れた手つきで、先に姉を平手で叩き。
素早く姉妹を掴み。
衣服と羽を剥ぎ取っていく。
帝国兵はむしり取った、姉妹の羽を腹部のポーチに放り込み。
クスリ漬けにした、虚ろな眼差しの配下。
養殖ゴブリンが抱える檻。
網目状の箱へ私の同族を放り込んでいく。
箱の中は張り付いた血糊からも……………………ポタポタと血潮が垂れ。
怯えきった妖精族で溢れている。
だが……今の私には同族を助ける力がない――!?
「きゃっ!」
私は燃え盛り、倒れてきた大木を避け。
私が向かっていた場所。
そこに通じる円柱状の連絡通路に着地ではなく。
――飛び込む形で到達した。
「いたた!」
私は業火に包まれた……丸い出口を一瞬だけ見つめ。
両足を床につけ。
ペタペタと……先に進んでいく。
朝から逃げ回って、此処まで来たが。
身体中が……羽がとても痛い。
家族の安否も気になるが、それでも私はこの先。
格納庫にある兵器。
私達、妖精族がこの世界の秩序の根幹である『女神の代理人の座』を手に入れる為。
神話時代の戦場跡から発掘して、復活させた古代兵器。
私はそれを動かし。
里を蹂躙する……帝国兵と戦わないといけない。
私の目の前には、月明かりに照らされた。
巨大な岩壁で囲まれた円状の空間。
昨年までは神殿だったが、今では格納庫と訓練場も兼ねた空間が拡がっている。
天井は半球状に織り込んだ、光学特性と魔力特性が特殊な、私達の体の一部。
羽を私達妖精族の羽が生え変わる時期の行事。
年に一度の祭りの度、何世代も掛けて…………数層に分けて覆ってきた。
この天井は羽の状態を制御して、陽の光と月の灯りだけは照明として内部に通し。
外部には光や魔力の類いも、一切漏らさない代物だ。
定期的に幻術も施し。
里の中に点在する、岩山に偽装しているここは今や。
我々妖精族の軍事拠点である。
壁面の一角には、攻め込んできた敵が振るっている武器。
それらと同じ大きさの巨大な、各種の人間用の武器が置かれている。
訓練で使い慣れた大剣、長槍、双剣。
破壊力に優れた魔力弾を撃ちだす魔杖。
速射性に優れた魔力矢を放つ魔弓。
それらの武器が……段差のある壁際の席に置かれ。
見栄えよく、観客の様に丁寧に並んでいる。
月明かりにその姿を照らされた武器達。
彼らが使われる時を待っているのなら、今がその戦時であろうか。
私はペタペタと……………………床を足で歩き。
それらの武器を操る際、私が乗り込む……兵器の置かれた場所に到達。
そこは巫女達が祈りと舞踊を女神に供えた祭壇だ。
(お姉ちゃん…………元気かな)
私にとってここは、人間の男と駆け落ちした身内。
姉が数年前に舞踊を舞った……因縁深い場所でもある。
そんな私は月明かりに照らされ――――無言で鎮座する人型兵器を見上げていた。
この兵器は用途不明な、油臭くゴツイ遺物を大量に見つけた場所。
同じ遺跡で数年前に発掘された、戦鎧の類いだ。
胸部には我々妖精族が後付した、小さな乗り込み口が開いたままになった。
直立不動の黒い甲冑。
コイツの名称は……今は里の近郊で、同じ遺跡を探索中の私の友人。
今後、魔女仲間になるかも知れない、魔族の少女。
マギサと彼女が召喚した者達、異世界人の協力で解読された。
神話時代の文字の解読が確かなら、それは神話に出てくる『賢き神々の軍勢の精鋭』と同じ『クロガネ』だ。
だが、訓練通りに――私はクロガネを動かし。
「……うまく戦えるかな」
ズズン!
私が不安を漏らした直後。
格納庫全体が激しく揺れた。
私の視線は素早く。
敵が侵入してくると思われる場所。
格納庫に作られた出入り口――分厚い扉に向いた。
ドガン! ズガァン!
どうやら帝国兵が……この場所に気付いたようだ。
いくら神話時代の遺跡から拝借した、未知の金属で出来た頑丈な扉でも安心は出来ない。
私はふらつきながらも舞い上がり。
クロガネの胸部に設けられ。
突き出た板状の胸部の装甲に着地。
冷たい装甲の上を歩き。
私は乗り込み口に搭乗。
カチャ。
装甲が城門の様に閉じ……私を守る盾に変わった。
私は里の周りに生息する、スライムの肉塊を使った、背もたれに背中と羽を預け。
両腕や両足、つま先も……柔らかい背もたれに埋め込む感じだ。
同じ様にクロガネの内部もスライムの肉塊を使っている。
スライムが種類によっては、微弱ながらも魔力を生成して蓄えて動き。
その肉塊が精神感応もする事は、今のところ妖精族だけが知っている秘密だ。
クロガネの内部には、鍛えて人骨型に整形した骨。
金属質な竜骨の骨格に沿って、スライムの肉塊を筋肉状に魔力糸で繋いで覆い。
……内部に詰め込んでいる。
実戦は初めてだが、武装した人間の兵士相手にも……戦える性能。
重量は十分にある筈だ。
「それと……コイツも動かさなきゃ」
カチャ――私は異世界人達から渡され。
クロガネ内部に設置した道具。
魔力波を使わない……奇妙な通信具を起動させた。
道具にはヒカリゴケのように淡く輝く、板に黒色の奇妙な図形や文字が表示され。
葉の擦れる様な雑音しかしないが……これで異世界人から呼びかけが在れば。
私に……聴こえる状態だ。
この通信具を設置した異世界人の青年。
彼とは翻訳魔術無しで、この通信具を使う練習をした。
だが、お互いにカタコトしか通じず。
素直に便利な翻訳魔術に頼る事にした。
この通信具を間に挟み、翻訳魔術を使う場合。
最低でもどちらかに、翻訳魔術を施す必要があるのも分かった。
異世界人は、学者みたいに細かい事まで調べるようだが、少なくとも。
彼らは学者の類では無いと、自称していたのが意外だ。
「あっ……ん!」
私は背もたれから伝わる……振動と優しい感触に包まれ。
里が蹂躙されている最中なのに……不謹慎にも変な声を漏らした。
後は無防備な真正面を背もたれの一部が形状を変化させ。
私の下半身と――上半身を――身体に添って包み込み。
ガチャ――クロガネ胸部の装甲が閉じて、私を守る準備の大半が完了。
「……ん!」
暗闇の中で形状を変化させた、背もたれが震え始めた。
震えが収まると、輝き出すクロガネ内部は真昼のように……外部の光景を映し。
「よし……腕も足も動く」
感覚が一体化したのを確認する為。
私はクロガネの両掌と腕、足を自分の体の一部の様に動かし。
……歩き始めようとした瞬間。
ドガシャァアアン!
扉が派手に倒れた。
扉上部に異世界人の助言で仕込まれた罠。
侵入者対策の仕掛けも起動した。
ブシュァアア!
罠は単純な構造だ。
魔力が蓄積した粉。
スライムの粉末を詰めた袋を床に叩きつけ。
空気中に漂う微弱な魔力と反応する、それだけだ。
瞬く間に白く湿った濃霧が……スライムの亡霊の如く。
…………格納庫内部を覆った。
これで視覚聴覚の感覚を拡張、増幅する索敵用の補助魔術。
攻撃魔術や魔杖、魔弓に組み込まれた照準、誘導魔術。
外部との通信魔術は妨害を受け……まともに使えない。
この罠を考えた、異世界人達の世界では突入時、似たような戦術を使うようだ。
煙幕の吹き出る筒と閃光や音を放つ筒を投げ込み……一気にケリをつけるそうだ。
(……妖精の霧で……少しは時間が稼げるか)
私は直立不動の状態で動きを止め。
クロガネ越しに侵入者を視認。
私にはどういう仕組みかは分からないが、クロガネは補助魔術や照準魔術を使わずとも、全天候下で…………外部を見渡せる。
だからこそ、妖精の霧と言われる現象。
本来なら諸刃の剣になり兼ねない素材。
スライムの粉末も防御や妨害工作だけでなく。
異世界人の助言を得た事で、魔術兵相手の戦闘でも、有利な条件で積極的に使える。
新たな可能性が出てきた、その矢先だった。
だが……敵の侵攻の方が速かった。
(魔術兵が数名……か)
私の視界には魔杖と魔弓を構え。
紫色の魔導甲冑を装着した兵士。
完全武装の魔術兵5人の輪郭が……霧の中に見えた。
状況からして、魔術兵が放った攻撃。
爆発魔術が頑丈な扉を押し倒したのだろう。
周りには姿勢を低くした護衛。
銀色の甲冑を着込んだ歩兵が展開。
片手剣と丸い盾、短槍を装備した歩兵が両脇に15人。
計30人程が魔術兵を護衛している。
更に後方から同じ装備をした歩兵、魔術兵がゾロゾロとアリの様に侵入。
素早く両翼を形成。
こいつらは皆、今現在進行形で里を襲撃している。
帝国兵で間違いない。
(数が多い……それにアレが指揮官か)
『げほっ! げほっ! 生き残っている妖精の捕縛は後続に任せろ! 我々は古代兵器の探索を開始する!』
「ハッ!」
『くそっ……この霧……魔素を混ぜてやがるな! 各員魔術に頼らず肉眼で敵を補足しろ! 魔術兵は直接照準で陣形維持! 制圧急げ!』
中央の魔術兵の背後には、歩兵よりも動き易い感じが漂う。
銀色の甲冑を着た男が1人。
男は霧に咳こみながらも、拡声魔術を使い。
大声で指示を出しているのが……ハッキリと聴こえた。
男は咳に苦しみつつも呼吸を整え。
一度拡声魔術を停止後……再起動させて指示を再開。
『ここは敵の軍事拠点だ! 罠と襲撃に警戒しつつ前進しろ!』
男の左腕には神話時代の魔族が生み出し、この世界にばら撒いた道具。
下級魔術なら属性を問わず、数十個は装填と発射。
同じ系統の装置同士なら距離を問わず、遠距離通信も出来る装置。
甲冑の装甲に偽装した、魔術装填射出及び魔力波増幅装置の携帯型。
通称『ウェルテックス』を使って、文字情報を宙に浮かび上がらせ。
……指揮官と思しき男が指揮を取っていた。
指揮官はウェルテックスを甲冑に組み込み……使用しているようだ。
歩兵の甲冑なら、魔力を供給する簡易な装置があるから、合理的な組み合わせといえる。
この指揮官と魔術兵は、クロガネの基準で脅威度が高いと判断。
……赤い輪郭で浮かび上がった。
クロガネ越しに、帝国兵の典型的な突入陣形を見る私の中。
…………そこでは沼の底から這い出る、泡のように…………殺意が沸いている。
その感情の根源。
それは……。
同族を殺され。
同族を捕獲され。
里を破壊され。
日常を奪われ。
衣服を剥かれ。
羽を奪われ。
笑顔を奪われ。
家族を奪われ。
平和を奪われ。
尊厳を奪われ。
自由を奪われた……それだけでない。
一番の根源はここが武器庫であり。
私が敵を殺せる兵器に搭乗している事。
牙を手に息を潜めている事……それが一番大きな要因だ。
(ゴクリ!)
私は喉元にこみ上げる衝動を抑えつつ。
霧の中を歩む敵。
ジリジリと正面に近付いて来た――歩兵を捕捉。
(……………………くっ!)
私は訓練通りに右足を掲げ――――グシャ!
歩兵の頭部を兜ごと踵落としで潰し。
ヒュン! グチャバキバキ!
唖然とする歩兵数名の首を回し蹴りで粉砕。
ブシャァアアア!
同時に私は――――血飛沫の源泉を掘り当てた。
(……こんなものなの?)
初めて人の類いを殺したが……余りにも呆気ない。
これなら里の周りにいる、スライムの群れや。
演習で標的替わりに使ったモンスター達。
数百年前に滅んだ、人間の帝国の管理から解き放たれ、野性化した人工生命。
生体兵器を起源に持つ、オークやリザードマンの方が反応も早く。
肉体は屈強だろう。
「て、敵襲だぁあああああああ!」
『各員防御体制を取れ!』
血飛沫を浴びた帝国兵が叫び。
指揮官の指揮が続いた。
私は霧と混乱に紛れ。
ジグザグに駆けていく。
向かう先は――――観客席にいる、ここの先住民の武器達だ。
私は駆ける最中も何人か――――ヒュン! バキボギグシャ!
歩兵を殴り殺し。
「うぁああああああああ!」
恐怖に負けた魔術兵達が叫び。
ギキキィイイン!
魔術兵の武器も叫び始めた。
魔術兵が武器に装填した、攻撃魔術の装填詠唱を急速開放。
連続で魔術攻撃をする際に取る措置だ。
だがそれをやると術式は、装填という保存状態から離れ。
そのまま放つか。
数分以内に起こる宿命。
術式の自然崩壊の二者択一しかない。
辺りには飛竜の鳴き声を連想させる――――鋭い音が立て続けに響いた。
『――――馬鹿野郎! 撃つな!』
「ぎゃぁあああああああ!」
歩兵の一部は音に耐えられず武器を落とし。
耳元を抑えている。
魔杖や魔弓に搭載した詠唱音を処理する、減音機構が相互干渉を起こし。
耐久値を超え。
壊れた……当然の結果だ。
『撃つなぁあああ! 同士討ちになるぞ!』
指揮官の指揮が響く。
だが――――もう手遅れだ!
私は帝国兵の中に悲鳴と恐怖の軌跡を生み出し。
逆に私の中では殺意と闘争心が満ち。
加速していく。
カカカッ! チュドドドォオン!
混乱した魔術兵達が攻撃魔術を乱射。
周囲は閃光と爆煙に包まれ。
敵側だけ視界が狭まって――私の姿を隠してくれる。
私は神々の残した戦鎧。
クロガネの中で生まれたばかりの……煮え滾る感情。
……憎悪と殺意を抱え。
クロガネの拡声機能を使い――――――――――――言葉に出来ない叫びをあげた。
『こ、後退しろ! ぜ、全隊後退だ! 後退しろぉおお!』
私の叫びに続く――怯んだ指揮官の指揮。
乱射される攻撃魔術の詠唱音。
爆音と爆風。
だが――どれも私が望むものではない
(――――誰か――――)
私が泣きそうになった刹那。
タタタァン!
乾いた音が断続的に響いた。
その音が響く度。
兵士の頭部は真っ赤に弾け。
次々と兵士達は―――糸の切れた木偶。
昨年まで此処で舞った、祭り後の舞踊人形の様に崩れ落ちていく。
天井からは、木偶を操るには不釣合いで太い線。
縄が何本も垂れ。
詠唱音より勢いと数を増した乾いた音に併せ
…………黄金色の筒が雨粒のように降り注ぎ。
キィインキィイン!
金属の筒と床が奏でる……雨音を生み出し。
翼なき彼らが縄を伝い―――真っ直ぐ―――迷いなく地上に舞い降りた。
彼ら異世界人は武器を突き出す様に構え。
彼らの人差し指が動き。
武器の先端が閃光を放った。
タタタァアアン!
統制された武器の咆哮。
閃光の明滅が場を覆い。
武器から放たれた―――牙の群れが兵士達に群がっていく。
咆哮が狂った詠唱音をかき消す中。
異世界人の設置した通信具から……声が聞こえた。
『―――聞こえるか! 応答しろ! こちら義明! 黒鉄(クロガネ)に搭乗しているのはツバメか!? 聞こえるかツバメ! 助けに来たぞ! 全員撃ちまくれ!』
聞き間違いようもない……無線機を設置した彼の声だ。
彼の声を聞いた瞬間。
私は涙を流し。
無線機から溢れ出た銃声に包まれ……その場に崩れ落ちた。
◇◇◇
――約一年後――
――赤道付近 島嶼部――
◇◇◇
夕焼けに染まる砂浜。
そこには血潮を滾らせ。
闘争心が駆け巡る躰を扱い。
戦う者達がいた。
攻める側は見るからに、夕陽を反射する装甲の群れ。
お揃いの銀色の甲冑を着込み。
お揃いの片手剣や短槍を構え。
刃と穂先に覚悟を宿した群れは……陣形を組んだまま。
砂上を駆けていく。
その後方には腰に備え付けた筒。
銀色の筒を左手で取り出して握り締め。
間隔を維持しながら駆けていく集団が……兜から耳元に届く。
……………………声に耳を澄ましていた。
◇
『――――後衛は射撃準備開始。各自の魔力残量に注意』
カシャ! カチャカチャ! ブブゥウン!
『構え!』
集団は下された号令に従い。
変形機構を備えた射撃兵器。
うっすらと赤い霧を纏い……赤い光の弦を張りつめた。
お揃いの短弓を構え。
弓と弦の間に浮き出てきた――赤い光の矢を番え。
『撃て!』
ヒュヒュン――赤い光の弦からは宛ら。
エネルギー兵器を連想させる。
炸裂する赤い光の矢を――ズガガン!
撃ち始めた。
『弓兵は歩兵を援護! 各自の判断で機動射撃開始!』
弓兵達は砂上をジグザグに動き。
赤い光の矢を撃ちまくる。
ズガガン! 炸裂音が鳴り響く中。
群れを構成する、全ての個体を喚起させるには些か、単純なフレーズだが、全ての個体が望む……魅力ある言葉が兜に響いた。
『総員突撃! 帝国に栄光あれ!』
「うぉおおおおおお!」
それは精神操作魔術と訓練の成果。
体と精神に染み付いた習慣で、効率的に脳内麻薬を分泌させ。
戦意を高揚させた…………総勢、数百名規模の兵士達の姿だった。
逆に守る側は見るからに、雑多な格好をした、軽装備な者達である。
その武装は兵士達と違い。
雑多で賑やかな装いと言える。
長さや使い込み具合、装飾も様々な剣や槍。
兵士達と同じく、炸裂する色彩豊かな光の矢を放つ弓。
火球や氷塊、雷撃を撃ちだす、魔法使いの使いそうな杖。
各々が使い慣れた武器を巧みに扱い。
各々が戦いの中で培った経験と戦技。
手際の良さで兵士達を相手に……冷静に交戦していく。
そんな彼らや、彼女達の正体は、神々の戦いが終わった後。
この世界の復興を進める為、誕生した職に携わる者達だ。
難易度も様々な、モンスター類の退治。
学者達の間でも、神々の戦いの影響なのかは、意見が分かれる場所。
不定期に亜空間と繋がる遺跡や戦場跡の調査。
そしてそこに生息する、更に凶暴凶悪な、モンスター類の調査や退治。
高額で取引される、神々の残した兵器類の残骸を発掘し。
一攫千金に夢と希望を見出し、危険や見返りの幅も広い『冒険』を生業とする者達。
百数十名規模の冒険者、それも信頼と実績がある存在。
実力と経験を備えた……上級冒険者の徒党だ。
本来冒険者が主に交戦する相手は、モンスターや神々が残した遺物。
終戦を知らない、神々の残した自律兵器など。
国家やその意思、思惑とは因果関係の少ない、遥か昔から世界に存在する脅威が相手だ。
故に人間やエルフなどの亜人種を含む、広義における人々は、主な交戦対象ではない。
希に冒険者が賞金首を捕らえる為、傭兵稼業や対人戦を少人数で行う事もある。
ただ、大規模に徒党を組んでの対人戦となると……その意味はだいぶ異なる。
それはこの世界の秩序の軸が、大きく移り変わる、節目の時期。
女神の座を目指す者達、その中でも女神になれる魔女(マギサ)と呼ばれる、女性達を中心に志や野心を抱いた参戦者達が、徒党を組んで世界中が戦う。
……戦国の世へ入る際の特徴だった。
今のところ(2020年02月11日時点)六話までは完成済みで、web小説として読みやすい様に調整中です。七話は現在執筆中になります。