――同時刻――
――麓のPMCセンター 通称ギルド――
「こちら鬼沢。龍澤、もうそろそろ帰るぞ」
『こちら龍澤了解。聞き込み中ですので、少々お待ちを』
「鬼沢了解」
俺達SWATは市長の護衛を同行していた連中。
市警察本部警備課所属のSP達に任せ。
珍しく予定通りの帰投だ。
今は麓のギルドなどと呼ばれる、賞金稼ぎの集う場所で巡回を行い。
同時に買い食いタイムの最中だ。
実際、この手の場所では喧嘩や殺傷事件も起きやすい。
俺達みたいな、組織をバックに持つ警官がうろつくだけでも。
ある程度、抑止力は働くものだ。
俺は珍しく順調に進む、日常に違和感を覚えつつも……。
山間部から響く――銃声に何故か――安堵感を覚え。
そのまま装甲車に乗り込み。
山間部に降り注ぐ、迫撃砲弾の着弾。
照明弾の閃光、曳光弾の軌跡を花火代わりに眺めつつ。
……インカムで仲間に話しかけた。
「こちら鬼沢、ガンナー、周囲に異常はないか?」
『こちらガンナー、異常なしですね~周りはモヒカン7割、フリーランスの賞金稼ぎが3割ですよ~山間部の方では銃弾の豪雨と時折、迫撃砲弾が着弾する感じです~』
「こちら鬼沢、了解」
俺が交信を終えた直後。
美味しそうな香りを漂わせ。
串焼きの入ったパックを抱えた、龍澤が装甲車に搭乗。
ドライバーが搭乗を確認したのだろう。
坂道になっていた、後部ハッチが素早く閉じた。
「ほらよ! 鬼沢さん!」
美味そうな肉汁が……パックに程よく溢れている。
猪肉だろうか。
(それに……香りも悪くない)
何やら珍しく、龍澤が自主的に奢ってくれた。
明日は雨かもしれない。
「なんだ、気前がいいな。ドライバー出してくれ」
『ドライバー了解~このまま署に帰投します!』
(順調なのが……久しぶり過ぎて……変な感じだぜ)
鬼沢は順調に進む日常に再度、違和感を覚えつつ。
……串焼きを食べ始め。
その視線は車内モニターを見つめている。
カーブミラーに映る、パトライトの輝きが、モニターを真っ赤に染め上げ。
装甲車はモヒカンを夜戦会場へ出荷する、テクニカル車両とは反対車線の路上へ進入。
そのまま速度を上げ――沈みゆくオレンジ色の夕陽を追いかけ――走り去っていく。
◇
――約一時間後――
――名古屋市内 市警察東署――
――装甲車駐車スペース――
◇
「あ~あ、ガンナーとドライバーに分けても、串焼き余っちまったな~」
俺と龍澤は装甲車が並ぶ。
駐車場の歩道を歩いている。
向かう先は俺達、SWAT第四分隊の詰所。
俺の隣では、龍澤が買い過ぎた串焼きを食べながら、悩んでいる最中だ。
既にガンナーとドライバーは署に隣接する、女子寮に帰投。
これから女子二人で、飲み会だそうだ。
「晩酌のツマミにでもすればいいだろ。龍澤」
「まぁ、それでも余りそうだから――お! 丁度いい奴が来ましたね」
俺達に駆け寄ってくる、四足歩行の影。
奴は舌を出し。
尻尾を振りながら俺達の前で停止。
『ワンワン!』
「よっ! お土産だぞ! マロン!」
『ワン!』
龍澤は警察犬に昇格した、雑種の元野良犬。
どことなくシェパードっぽい、マロンの頭を撫で。
串焼きの肉を一口食わせ。
詰所に歩いて行く。
因みにマロンの名付け親はガンナーだ。
丸まっている感じが、栗っぽいからだとか。
そんな一人と一匹のやり取りを眺める俺に……龍澤が振り返り。
話しかけてきた。
「鬼沢さん、この串焼きを買ったモヒカンから、面白い情報を入手しましたよ……あの辺、出るらしいですよ」
「まさか幽霊とかじゃないよな?」
「そんな可愛いものじゃないですよ。ちょっとこの後……仕入れた情報を見てみませんか」
――同時刻――
――特別軍事法人NEET第七研究所 宿舎共有ラウンジ――
「さぁ! 義明くんも飲みな!」
俺は妖精のアゲハに酒を勧められ。
カクテルを軽く飲んでいる。
アゲハは俺に酒を勧めると、仲間の妖精達が溜まっている、宙へ飛んで行った。
俺とアゲハは数十分前。
迎えに来た、黒服の護衛に案内され。
バーカウンターのある空間へ到着。
魔法陣の近くにいた、カラフルな髪と瞳をした少年少女達や。
先程知り合った、由美達にパーティー用のクラッカーで歓迎された。
既に由美や少年少女達も料理を食べたりしている。
どうやら今日は……俺達転移者の歓迎会のようだ。
見た感じ、立食パーティーみたいだ。
そう『俺達』というからには、複数人どころか。
数十人の転移者がいる。
当然のことだが、複雑な表情をした連中の方が多いだろう。
だが、中には料理をガツガツと食べ。
笑いながら話している、メンタルがタフな連中もいる。
そんな一人に俺は話しかけられた。
「やぁ! 君は湖畔では見なかったね。君も転移者かな?」
彼は白いスーツを着こなした。
ホストっぽい茶髪の好青年。
小柄のイケメンだ。
「そうだけど、湖畔?」
「そうさ、ここにいる大半の連中は、同じ穴から出てきた者同士さ。君はどんな感じで転移したの?」
彼と話した限り、他の転移者達はどうやら。
何処かの湖畔に安全な形で、転移していたようだ。
俺は少し不機嫌な気持ちに苛まれそうになったが、会話を続けた。
「俺はヒモ無しバンジーで池ポチャして、緊急搬送だったよ」
「……申し遅れましたが……私はこういう者です。ま、この世界じゃ意味がないけど、オレの名刺ね」
俺の転移方法が酷すぎたのだろうか。
……数秒の間を空けて、名刺を渡された。
(やはり、ホストか)
名刺には源氏名だろうか。
如何にもそれっぽい名前が、エレガントな感じで印刷されている。
「本名は別にあるけど、気に入っているからさ……その源氏名。神谷秀樹です。よろしく」
「俺は遠近義明です。よろしく」
俺と神谷は軽く会釈を済まし。
その場を離れた。
神谷は他の転移者に呼ばれ、色々と話している。
ホストなだけあって、社交的な感じだ。
「義明さん!」
俺は由美に呼ばれ
バーテンっぽい人型ロボットがいる、カウンター席に近付いた。
由美達も料理を食べ。ソフトドリンクを飲んでいるようだ。
俺が近付くと、オレンジ色の学ランの少年が笑顔で俺に近付き。
握手を求めながら一言。
「改めて自己紹介をします。誠です。よろしく義明さん」
俺は握手をしながら返事を返した。
「よろしく。君達は魔法陣の近くにいた子達だね。矢島さんから話は聞いたよ……よろしく」
「此処では同じ異世界から来た異邦人同士、お互い仲良くやりましょう」
意外な反応だった。
だが、そうなるだろうか。
確かに彼らも俺と同じ立場。
異世界からこの並行世界に転移してきた……者達なのだ
俺は少し胸が熱くなる感じ。
不思議な昂揚感を覚え。
口を開いた。
「ああ、よろしく。ところで君が飲んでいるのは、カクテルかな?」
「ええ、こっちは18歳以上なら法律上、飲酒がOKですよ。向こうは20歳からですよね」
「よくご存じで、俺も同じのを貰おう」
俺はバーテンロボに誠の髪と同じ色のカクテル。
スクリュードライバーを頼んだ。
ロボは軽く頷き。
素早くカクテルを作り――自然な動作で――差し出してきた。
(今日は久しぶりに……いい酒が飲めるかもしれない)
俺は口元に……オレンジの香りを漂わせ。
カクテルを飲み始めた。