――同時刻――
――特別軍事法人NEET第七研究所 所長室――
◇
「矢島会長、マギちゃんが直接連れて来た転移者が、彼氏だって事。いつから知っていました?」
「数年前にあの並行世界を見つけた、初期の調査段階からさ……可能性としては、もう一人の自分が、並行世界にいる可能性も考慮していたが、まさか義明の方が、ドンピシャで存在したのは……意外だったよ……最も自分の家系は、影も形もなかったけどな」
本当に意外だった。
向こうの日本からマギサが連れて来た彼。
遠近義明……と俺のよく知る、もう一人の遠近義明。
今は生死不明で行方不明になったままの、遠近義明の持ち物に残っていたDNAサンプルと、彼のDNAサンプルを比較してみたが、ほぼ同じという結果が出た。
流石に指紋などは、発生の過程が違うからなのだろう。
一致はしなかった。
医学的な結論としては、一卵性双生児と言っても、問題はないそうだ。
「……だが本田君、妙だとは思わないか? 歴史の進捗状況や人の移動や出会い。誕生や生死のパターンが、マクロレベルで違う並行世界でだ……ほぼ同じDNAパターンをした人間が、しかも同じ氏名で生年月日まで同じ状態で、誕生して成長。存在している……これは明らかに異常だよ」
念の為、こちらと並行世界の義明の両親と親族、家系も調べてみた。
並行世界の義明の両親や親族は健在で、DNAサンプルも工作員を使い。
採取出来たので調べた。その結果、何ら医学上の矛盾。
経歴上の矛盾も無かった。
彼はあの世界で生れ、育った両親から生まれた、実子だ。
だが、問題は俺のよく知る……この世界で生れ育った義明の方だ。
両親や親族は全員、第三次世界大戦で死亡か行方不明になっている。
経歴などについても、戦災で細かい情報の収集は不可能だ。
当然のことだが、DNAサンプルの採取も不可能だ。
だがその必要は全く無かった。
苗字こそ遠近となっていたが、残っていた写真を見た限り。
とても親子関係がある、顔つきではなかった。
案の定、戸籍情報を調べたら、俺のよく知る義明は『養子』となっていたのだ。
……故に答えは分かり切っていた。
「本田君、どう考えても、我々より先に並行世界で『対人工作』をしている奴がいるよね」
「でしょうね~そう考えるのが、一番合理的ですよ。目的は何でしょうね?」
「それが分かれば、苦労しないよ。さて、私は説明会もあるから……ラウンジの方に行ってくるよ」
「矢島会長、マギちゃんとツバメちゃんは――」
「あの二人は、人前に出られる状態じゃないよ。心の整理が必要さ」
――同時刻――
――特別軍事法人NEET第七研究所 医務室――
◇
「……マギサ起きている?」
「起きているわよ……ツバメ」
私は医務室のベッドで寝ている。
ツバメは妖精族特有の睡眠状態の姿勢。
宙に浮いて、漂っている感じだ。
「ねぇ、マギサ……あの新人君さ……あいつと同じ臭いがしたよ」
妖精族は他種族より嗅覚が鋭い。
私とは違う見方で、彼を定義分類しているのだろう。
だが、私の中での彼への定義。
……分類はどうなのだろう。
少なくとも、彼の魔力の帯び方は、私の愛した男。
遠近義明のそれと、よく似ていたが、その程度の相似性はよくある事だ。
だが、私が懐かしさと同時に、彼に対して『何かを』期待したのは間違いない。
「……思い出して見るとさ……顔つきや目元、鼻筋とかもそっくりだよね」
確かに顔つきもそっくりだ。
私の携帯端末やタブレット。
その待ち受け画面は、既に数ヶ月前から、隠し撮りした彼だ。
部屋には会社の機密費をマネーロンダリングしてから、複数のダミーカンパニーに流し。
業者に発注した、等身大ポスターを貼っている。
寝室の壁と天井は彼のポスターと写真で固めた。
……これは誰にも話していない。私だけの秘密だ。
この世界の倫理観だと私の行動は、完全に危ない人に分類されるだろう。
だが、私の故郷の世界では、好きな人や好みの殿方の写真を密かに愛でる。
それは殿方には到底理解出来ない、乙女の密かな嗜みだ。
その手の乙女や貴婦人向けに特化した、喜劇や文学も数千年前からあるのだ。
同時に批判も同じ位存在するが……嗜みや芸術とはそういうものだ。
少なくとも、他人に迷惑を掛けていない以上、問題はない。
笛ペロをする奴らや下着を盗む、この世界の犯罪者よりは、遥かにマシな筈である。
「マギサ……私にもポスター分けてくれないかな」
「だ…………誰から聞いたの…………」
「猫達から聞いたよ。ご主人様は男のポスターに夢中になっているニャーと騒いでいたからね……猫とかさ、一部の動物が考えている、概念を鳴き声経由で翻訳出来る、妖精族の秘密……話しちゃったや! 里があった頃なら重罪になるけどね! マギサ、私達……新人君と仲良くなれるといいよね!」
羽の動きを見るに、ツバメは嬉しそうだ。
彼女も彼には懐いていた。
……気持ちは一緒だ。
「そうね。だけど、ポスターの件は私達だけの秘密よ」
「……だね。今のうちに寝室も掃除した方がいいよ……」
そのまま私達は何も話さず眠りについた。