――死体安置所 入口――
「困りますよ! 源さんと松沢さん!」
松沢隊長は両脇に警備ドローンを従わせた若い男。
「――ここは民間人の立ち入りは禁止ですよ!」
警告を発する、警備員に笑顔で接近。
バン! 壁ドンスタイルで話しかけた。
「この嬢ちゃん達は内の隊員だよ。この新品の白衣貰うぞ。お~い、二人ともこれを羽織っておけ。中は少しだけ冷えるぞ。それと――装着な」
松沢隊長は壁際のテーブルに置かれた、ビニールに入った新品の白衣を二人。
ガンナーとドライバーに渡し。
右手の人差し指で自身が装着したゴーグルを指し示し。
ガンナーとドライバーに、非番時もSWATの規則で携帯している装備の一つ。
メガネ型情報デバイスの装着を指示。
俺は既にメガネを装着済みだ。
よって次の手順を開始。
ホルスターからハンドガンを抜き。
銃口を床に向けたまま。
装弾状態を示す表示。
スライド後方の赤く丸いポンチ。
ストライカーピンの位置。
そして安全装置を確認。
(……ピンが入っているから、薬室内は空……安全装置もよし)
俺は何時でも、体に叩き込んだ動作。
射撃スタイルでハンドガンを抜き。
発砲可能な状態を確認。
……ハンドガンをホルスターへ戻した。
その間も、松沢隊長と源さんは引き続き。
死体安置所を管理しているスタッフ。
検死や死体処理を行う、PMC関連の業者と交渉中だ。
二人の後ろでは、大口径ハンドガンの確認を済ませた男。
龍澤が鍛えた筋肉質な腕を組み。
ガムをクチャクチャと噛んでいる。
「きゃ! 麗華ちゃん! 私達女医さんみたいだよ♪」
「若菜、これから仏を見るのに……あんたはお気楽ね……マロンもそう思う?」
『ワォオオン!』
尚、白衣を渡された二人は、胸の谷間からメガネを取り出し装着。
(たく二人共……ブラどころか……勃起した乳首が見えているぞ!)
足元で尻尾を振る。
マロンと一緒に盛り上がっている。
陽気なものだ。
「今から耐性訓練……と言っても無理があるか……お前さん、例の仏は何体増えた?」
「……今週だけで23体ですよ。源さん、もう30体も来れば、ここも満杯です。上の連中も素直に、NEETや市警察に報告すればいいのに……」
「此処に集まる例の仏は、知る人ぞ知る存在じゃからな。お前さんの上司達も、扱いにも困っておるのだろう。一応、名目上は耐性訓練の教材作りで、記録にはわしのIDだけで、問題はなかろう」
源さんは鑑識の長老枠。
だからこそ、多少の無茶が可能だ。
どうやら、警備員も仕方ないといった感じで、ドアのロックを解除。
死者の寝室側から……微かに白い冷気が……俺達に吹き付けてきた。
「……恐らく、源さんからの要請って名目なら、上も何も言って来ないから、好きなだけ見てください。但し、解剖はダメですよ」
「そんなの分かっておるわ! 解剖データは中の端末で閲覧出来るな?」
「ええ、源さんのIDなら閲覧は大丈夫ですよ。それでは、ごゆっくりどうぞ――」
――数分後 死体安置所内部――
「――で、源さん、この仏達のDNA鑑定は終わっているの?」
「終わっておるぞ」
「結果は?」
俺達の目の前には、白い手術着の様な死装束を着た。
エルフっぽい男女の遺体が二体。
霜が張り付いた……アクリルガラス、蒲鉾状のカバーが付いた容器。
棺桶の様な密閉型担架に収められたまま。
検死台の上に並び。
……ライトを浴びている。
髪は男女ともに茶髪の長髪。
体に痣や切り傷があるのは、ここの住民である証だ。
特に手足に抵抗した際に出来る傷。
防御創が酷い有様だ。
(まるで、コールドスリープでもしているみたいだな……いや、永眠中だったか。だが……)
いきなり現物を見せられた二人。
ガンナーとドライバーは、驚きすぎているのだろう。
先程の陽気な感じと違い。
唖然とした状態で話を聞き。
目の前の遺体を見ている。
マロンはお座りの姿勢で、二人の足元だ。
そんな二人の反応の中でも、源さんの説明は続き。
俺の耳と頭の中へ……情報を届けている。
「少なくとも、こいつらは純粋な人間じゃないぞ……恐らく、人間と亜人間の交雑種という表現が、適切じゃ……学校で習った、ネアンデルタール人みたいな生物との間の子じゃ。馬とロバが交雑して生まれるラバ。トラとライオンの間で生まれるライガー……そのような感じになるかの」
「つまり、人間とのハーフですか?」
「そうじゃ龍澤。ところでお前さんは数年前から、この手の連中を知っていたようだが。と言っても、様子からして、DNA鑑定の情報までは、NEETから知らされていなかったようだな」
「戦場に遺伝子情報が必要かといえば、不要でしたからね」
「……当時はどのように説明されておった?」
「上や諜報部の連中からは、お前たちが始末したのは『九州共和国』の国教関係者や、猿を改造した生物兵器って言われたら、例の偽札に出会うまでは、概ね納得はしていましたよ。それに元々あそこは、支離滅裂なカルト宗教のイメージが強いから……まぁ……こんな感じで整形とかもしているのだろう。初めはその程度の認識でしたね」
「確かに九共の国教の母体になった、戦前の新興宗教は、この手のファンタジーなプロパガンダ……をしておったからの。じゃが……今にして思えば、全てが『嘘』では無かった事になるのかもしれんな」
「俺も未だに信じがたいですが、こうも物証がポンポン出てくるなら、ゴシップ扱いや、オカルトネタにされている、異世界の類いや転移者も……可能性の一つとして、認めざるを得ませんよ」
龍澤と源さんが話を終えると、若菜と麗華が口を開いた。
「ねぇ麗華ちゃん……偶然って凄いよね」
「うん……見た目もさっきまで観ていたアニメの……酒場で酔い潰れた、ハーフエルフさんみたいな感じだよね」
「確かに、そこの嬢ちゃん達が言うように『ハーフエルフ』とでも云うべき存在が、この遺体じゃ」
(……ハーフエルフね)
俺も少し気になったので、源さんに聞いてみよう。
「源さん、他に人間との違いは?」
「違いか? 骨格や内蔵の配置などは、人間と殆ど同じだが、春先の暴動で入手した、射殺前のデータを見ると……こいつら体温が高い上に、身体能力もアスリート並じゃ。それに免疫関係とか、その辺は全く未知の領域じゃから、バイオハザード対策で念の為、こんな感じでカチコチに保管しておる。検死解剖は密閉空間の確保が出来る、専用のNBC作業車両の内部で行っておるから――これ! そこのお嬢ちゃん達も心配するな!」
バイオハザードと聞いて一瞬。
顔から血の気が引いた二人。
ガンナーとドライバーに源さんが、フォローの一言を入れた。
それを聞いて、二人にも笑顔が戻り。
少し不安だった俺も内心安堵。
そのまま口を開いた。
「つまり、サーモグラフィで識別が可能と」
「そうじゃ。他に見分けるなら、耳を出していれば丸分かりだが、こいつら髪が長い上に――」
源さんがタブレット型の端末を操作すると、検死映像やデータ類が。
俺達のメガネの視界に出てきた。
映像に映る、検死解剖中のハーフエルフの遺体。
片方の耳は……人間と同じ形状だ。
「ちと、グロイが、此処に運び込まれた遺体。まぁ見た目から内々で、前からエルフとは呼んでいたが、DNA鑑定を考慮したら、今後はハーフエルフと呼ぶべきだな。松沢、お前さんは何か質問はあるか?」
松沢隊長は、死体安置所のタブレット型の端末を使い。
別のデータを黙々と見ていたようだ。
「……ところで源さん、この仏の山の中に、その『元になったエルフ』に相当する、個体の遺体はあるか?」
「残念ながらDNA鑑定の結果、全部ハーフエルフじゃ。だが、人間と交雑が可能なら然程、見た目はコイツらと変わらないと思うが……ちょいと面白い映像を見せて――」
源さんが話し終えようとした瞬間。
俺達の耳元に警報音と放送が響き。
『緊急配備! 繰り返す! 市内全域に緊急配備!』
『ワォオオオン! ワォオオオン!』
釣られたマロンの遠吠えが響き。
「全員! 注目!」
松沢隊長が号令をかけた。
源さん以外の俺達。
SWAT隊員の視界には――緊急配備の概要が直ぐに表示。
#【コンビニ強盗発生 犯人は民間人6名、警官15名を殺傷。スラム街方面に逃走】#
「なんじゃ? 事件か?」
「単なるコンビニ強盗だ。俺達の出番はないな……源さん説明を続けてくれ」
「そうじゃったな。続けるぞ――――どうじゃ」
俺達のメガネに映る映像。
そこには片方だけ、人間っぽい耳をした、ハーフエルフの遺体の耳元。
人間っぽい耳が突如。
水分を吐き出して変形。
お馴染みのエルフ耳に早変わりしていた。
「……ちょっと待てよ! こんな事まで出来るの!?」
龍澤が少し驚いている。
「そういう事じゃ、おそらく此処まで見事な偽装なら、体温や外見の方も何らかの方法で、偽装をしている可能性が高いぞ。此処に運び込まれた、ハーフエルフの遺体は発見時から、既に仏だ。先程言った、射殺前の体温の高さだが、おそらく戦闘時や興奮時は、偽装が困難なのだろう。まぁサーモグラフィでの判別は、ある程度の目安にはなろうが……」
「街中で職質掛けて、逮捕とはいかないか。しかも身体能力が高いとなると、厄介だな」
「じゃろうな。松沢、現状で生け捕りは難しいぞ」
「あの、すみません」
「ん? なんじゃ嬢ちゃん方?」
「さっき話したアニメを思い出して、気づいたのですけど――きゃ! マロンどうしたの!?」
『ゥウウ! ワン! ワワン!』
マロンは突如、遠吠えを止め。
身構える様に――――吠え始めた。
――同時刻 特別軍事法人NEET第七研究所 ラウンジVIPルーム――
「やほぉ~矢島くん!」
「ハハハ! 市長も飲んでますな」
「こういう場所じゃないと~自由に飲めないもの~最近はマスコミの張り込みが酷いのよ」
「パパラッチの類は厄介ですからな」
市長は秘書の新谷に相手をさせていた。
元々、飲み過ぎる傾向のある、市長のブレーキ役だ。
酒が好きな上に酒豪の新谷なら適任といえる。
「矢島くん! 新谷ちゃんうちに頂戴!」
「それは困りますよ。自分が動けなくなります」
新谷は嬉しいのだろう。
ビールをジョッキで飲み。
口元に泡を残し……笑顔になっている。
「あれ? 矢島くんは飲まないの?」
「ええ。私は下の方で彼らに対して、戦いに巻き込んだ『説明責任』がありますので、一発かましてきますよ」
◇◇◇
「ストレージチルドレン?」
「それが正式名称みたいものかな……僕達、異世界人みたいな髪や瞳の色をして、この世界で生まれ、育った戦後世代の子供達。表向きは大戦時に消滅した、多国籍兵器メーカーの研究施設から流出した、ナノマシンの影響を受けた事になっていますが、実態は――」
「――僕達が十数年前、地球に転移した際、この世界に生じた魔素の影響を強く受けた胎児や幼児……俗称でストチルと呼ばれる、主に戦災孤児を指す名称ですね。ストリートチルドレンと語呂も似ている上、子供達の置かれた実態も同じ。その上、魔素がナノサイズで、現実世界に魔力を顕現する際の形状、機能も、ナノマシンみたいに使えるから、そのまま情報操作でも、Nストレージって専門用語から、拝借しているみたいです」
俺は誠とカウンター席に並び。
カクテルを飲み。
軽くナッツ類や生ハム。
オリーブをツマミにして食べ。
酒が入って、饒舌になった誠から話を聴いている。
……誠の隣には赤い髪の少女。
いや、由美より年上の女性が寄り添い。
髪の色を思わせる赤いカクテルを飲んでいる。
その隣ではピンク髪の少女。
回復魔術を使った、緑髪の少女達が集まり。
ソフトドリンクを片手に軽食を食べ。
由美達と会話に興じている。
学生服を着た者達と一緒にアルコールを飲む。
その状況に俺はどうしても、違和感と背徳感を覚えてしまう。
だが、ここが倫理や社会規範、法が異なる場所。
並行世界の日本だと自分自身に言い聞かせ。
ガリッ!
俺はナッツを強く齧り。
ゴクッ!
噛み砕いた種子の欠片を儀式の如く。
カクテルで胃袋に流し込み。
口を開いた。
「……魔力の影響を受けた子供か」
「どうしました? 義明さん」
「俺の世界じゃ魔力なんて、オカルトや空想の類いだからさ……」
「大丈夫ですよ。これから魔力や魔術、異世界も『日常』になりますから!」
「……慣れるしかないな」
(これから……魔力や魔術、異世界……そして銃声が俺の『日常』になるのか。だが――)
「慣れるしかないよ!」
「君は――」
「私は紅菜! よろしく!」
「……よろしく」
誠を間に挟み。
カウンターテーブルにヒョイっと、笑顔を出してきた紅菜。
こういう仕草は、まだ大人というより少女だ。
色気より可愛さの方が勝るだろう。
「ねぇ義明さんは、使う武器決めたの?」
「武器?」
(ん? ああ、それなら矢島さんから――)
「紅菜、義明さんや他の人達は、まだ説明も――」
突然、照明が薄暗くなった。
そして空間を揺らす……微かな空気の動き。
スピーカーに電気が通った、独特な音に続いて声が響いた。
『――転移者の皆様~お楽しみ頂いているところ、恐縮でございますが、只今より皆様を転移させる事を決めた、最終的な責任者。特別軍事法人NEET会長の『矢島』より、ご挨拶と説明がございますので、バルコニーの方にご注目下さい!』
突如、俺達の会話を遮るように聞こえてきたのは、よく通る女性の声。
駆け足でラウンジに駆け込んできた、シスターの姿だった。
◇◇◇
私はこのラウンジに急遽呼び出された。
役目は矢島の演説前のアナウンス。
そして、間違いなく飛び交うであろう。
質疑応答に対応する役割だ。
せめて……私にも料理食わせてよ!
シャワー浴びる寸前で呼び出しとか最悪よ!
(あ、野郎~出てきた)
スポットライトに照らされ。
スーツ姿の矢島が出てきた。
頭にはヘッドセットを装着。
『転移者の諸君! もう一つの地球へようこそ!』
左手には鞘に納められた矢島の剣。
彼が『カタナ』の愛称で呼ぶ。
真紅の魔剣が握られている。
これから転移者達にプレゼンをする気満々だ。
◇◇◇
「誠、矢島のおっさん、カタナ持っているよね……それにエルーナ教官も来てるよ」
「あ~あ、これは今回も実演をする気だね。とりあえず義明さん、水を飲んで動く準備を」
「おお」
俺も矢島さんの片手で握られた赤い物体。
日本刀の類いがある事に違和感を覚え。
誠が口にした『実演』のフレーズに危険を感じた。
俺は直ぐに手元の空いたグラスへ手を伸ばし。
セクシーなデザインの水差しから水を注ぎ。
俺の唇とグラスは再び接吻。
グラスから乱暴に水を奪い。
気休め程度の水分で体内のアルコールを薄め。
動く準備を開始。
「ところで、実演って――」
「……初めてだから、痛いかもしれませんが……頑張って下さい!」
「もう契約しているから大丈夫よ!」
二人に疑問を聞こうとした瞬間。
その様に返事を返され。
俺は危険を確信。
「――あ」
俺が手放したグラスが、カウンターの内側に滑り込み。
バーテンロボの足元で、ガラスの砕ける音に変化。
音に釣られ。
屋内の視線がカウンターに集中した瞬間。
ガシャァアアン!
夜景を映す。
ラウンジのガラス壁が木っ端微塵に粉砕。
何かが屋内に向けて突入。
部屋全体が激しく揺れ。
『グギャァアア!』
緑色の化けもの達が叫びを上げた。
『大半の転移者の諸君は既に『ゴブリン』とは! ご対面済みだったな!』
「ぎゃぁあああああああああ!」
『よし! 今度は君達だけで倒してみよう!』
「……」
「じゃ、頑張ってね!」
「ご武運を!」
「!?」
そう言い残すと、誠と紅菜達の姿が消え。
カウンター席から離れていく足音が響いた。
光学迷彩的な装備でもしているのだろうか。
微かに輪郭が見える。
『シャアアア!』
入れ替わるように向かって来る。
ゴブリンの禍々しい輪郭。
叫び声。
「おらぁ!」
「テーブルを盾にしろ!」
既に他の参加者達も動ける者は戦闘を開始。
テーブルをひっくり返し。
ビール瓶やイスを使い。
ゴブリン達を相手に戦っている。
妖精達は天井に避難して応援を開始。
先程雑談をした、アゲハちゃんは両手を合わせ。
俺に向けて『ごめん』と言った感じの仕草をしている。
バルコニーに登ったゴブリン達は――矢島さんが日本刀で切り捨て。
黒服の護衛が手際よく射殺。
(ああ…………ちくしょう!)
「クソッタレ!」
俺は座っていたイス。
一本足のスタンドチェアのパイプ部を握り締め。
「うらぁあああ!」
向かってきたゴブリンに向け。
分厚い円盤状の底部を振り下ろした。
◇◇◇
――同時刻 中部州北部高現地帯 廃墟――
グシャァアア!
かつては、スキー客で賑わったホテルの跡地。
そこに集った、二つの集団が衝突した。
先に廃墟を根城にしていた集団は、反政府ゲリラ組織の武装民兵。
練度と武装も中の下といった感じだ。
そんな彼らの食い扶持を稼ぐ手段は、海になった琵琶湖の向こう側。
西日本から密輸される品だ。
国外から持ち込まれる、違法薬物、銃規制の厳しいエリア。
東日本に流す、銃火器の密輸などだ。
そんな彼らにとって、賄賂が効く中部州警察は便利な協力者だ。
逆に賄賂も効かない上、管轄を超えて、実弾訓練の名目で気まぐれに訪れる天敵、名古屋市警察のSWATは理解不能な恐怖の対象でしかない。
だが、彼らが賄賂を払う事も、SWATの襲撃に備える……その必要性はもう無い。
「姉御、終わったぜ」
彼ら、150名近い銃火器で武装した民兵は死んだのだ。
……後からここに来た集団。
異世界から来た、武装集団に虐殺されただけである。
◇◇◇
パパパン!
「ち、生きてやがったなぁあああああああ!」
「うぎゃぁあああ!」
「隊長、脅威の排除、部隊の集結共に完了です」
「ご苦労、オルーシャ」
この世界の人間に偽装した、先遣隊のオルーシャとルガス。
そして、私が率いて、モンスターだらけの亜空間を突破した、強襲部隊。
総勢、三十数名は予定通り。
誰一人として欠ける事が無く。
この異世界……敵地である……地球の合流地点で合流できた。
相変わらずルガスは、魔斧を使っているようだが。
以前より、魔斧の全長が短くなっているのは、現地改造をしたからだろうか。
「オルーシャ、子供達はどうした?」
「ハッ! 屋上で周囲の警戒に当たらせています」
「そうか。各員、早朝の移動に備え、交代で休憩を取れ」
「了解です姉御」
「ルガス、貴様はその死体を片付けてから休め」
「ち……了解です!」
――屋上――
「ねぇ、下で悲鳴と銃声がしたね」
「うん……ルガスは悲鳴が好きだから分かりやすいよ」
「一撃で仕留めないのはわざとさ」
「ルガスは悪趣味だもん」
「……汝ら戦友の悪口を言う前に装填せよ」
「魔術士の古い諺だね。その通りだ……装填しよう」
私は星空の元。
相棒の妖精と装填詠唱の準備を始めた。
装填するのは、魔杖から発射する魔術。
夜空で綺麗に輝く、異世界の天体。
月の様な光球を発射する、攻撃魔術だ。
「ねぇ、作戦会議で見た映像よりこの天体『月』の実物は綺麗だね」
「そうだね。でも一番綺麗なのは君の羽かな」
「ありがとう」
「此処にいたのか」
「あ! ガルーシャさん!」
「……お久しぶりです隊長……鱗を捨てて、植毛したんすか」
「其の辺の死体と仲良く寝たいか? 糞妖精」
「遠慮しときます。ところで何用ですか?」
「宜しい。寝る前にお前たちの歌を聴いておこうと思った。それだけさ」
「あの、ガルーシャさん……」
「なんだ?」
「その……マギサや転移者達に誘拐された、私の家族達は……」
「……大丈夫さ。私達がマギサや転移者を倒して、全員助けてやればいい」
「はい! 頑張りますガルーシャさん!」
そう言うと、口の悪い妖精族の元姫君と、私の部下になった少女。
十数年前、マギサと転移者達の襲撃で壊滅した我が国の施設。
軍事研究施設の被験者の生き残りである、青い髪の半魔族の少女は――魔杖を片手で夜空に掲げ。
空いた手で懐から取り出した、竜の髭を杖に繋ぎ。
張りを確認すると、指先で弾き。
軽快な音色を鳴らしだした。
その音色に合わせ。
相棒の妖精が杖の先端に降り立ち。
魔力糸を指先から生み出し。
優雅に舞いながら、杖の先端部に蜘蛛の巣の様に貼り。
矢尻の様な魔力を羽を色っぽく震わせ。
何個も生み出し。
二人で詠唱を唱え。
いや……歌い出した。
周囲の魔素が二人に吸い寄せられ。
淡い光を放ち始めた。
後、数時間程度なら我々が纏った魔素。
亜空間の影響を受けた、魔素の特殊効果。
周囲の魔力反応を打ち消す、隠密効果が残っている。
その希少な効果故、この島国を縄張りにする敵。
マギサ達に魔力反応を悟られないのは、先遣隊が数年前に確認済みだ。
敵に悟られず、敵地に侵入が可能だと知ったからこそ。
我々は改造手術を行い、厳しい訓練に耐え。
凶悪なモンスターや、自律型古代兵器の跋扈する、危険な亜空間を突破してきたのだ。
「~♪」
「……」
私は仲間を殺した敵。
マギサへの憎悪に何年も悩まされた。
だが……もうすぐ……仇を取れるのだ。
「~♪~♪~♪」
だからこそ、私は業火の様な感情とは真逆の二人の歌。
そよ風のような、詠唱を敢えて聴き。
憎悪を鎮め、殺意を研ぎ澄ます。
……奴等を殺すその日まで。