※この作品はR-18です。

魔女の天下取り   作:hidenyan

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<08話 目覚めた者達 01>

 ――深夜――

 

 ――特別軍事法人NEET第七研究所 宿舎エリア――

 

 数時間前……。

 矢島さんに突如。

 転移者だけで、ゴブリンを倒せと言われ。

 俺達、転移者数十名は、人外の敵を相手に戦い。

 

 何とか勝利した。

 

 勿論、ゴブリンに食われそうになった奴。

 ケツを掘られそうになった奴。

 顔射をされた奴。

 

 心身共にダメージを負った……転移者達も少なからずいる。

 

 だが、異世界転移という名の拉致をされ。

 人外の畜生に再度、身も心も殺されそうになった方々。

 他の転移者達の怒りは収まらず、ゴブリンを仕留めた勢いのまま。

 自分達を転移させた首謀者にマジギレ。

 ゴングは鳴らないが、代わりに転移者達は罵詈雑言を高速詠唱。

 そのまま第二ラウンドである、ゴブリンの解体ショーを実演した方。

 矢島さんとの乱闘を開始。

 

 逆に俺やホストの神谷。

 その他数名の転移者は割りと……諦めがいい方なのだろう。

 何やら腹を空かせた司会のシスターと、アゲハの仲間達。

 食いしん坊で賑やかな、妖精達も自然とカウンター席に集い。

 周囲から無事なツマミ類を集め。

 カウンターをバリケード代わりに使い。

 酒を飲みながら……ゴブリン戦より更に、迫力満点になった。

 物と罵詈雑言が飛び交う、乱闘を肴に見物していた。

 どうしても後味は悪いが。

 死者がいないのは……幸いだ。

 

「……たく」

 

 矢島さん、素手でも強すぎだろ。 

 たった一人で、怒り狂った転移者達を全員。

 ノックダウンしやがった。

 

(思い返すと……ハリウッド映画の乱闘シーンみたいだな)

 

 それでも何とか俺は生き延び。

 こうして、この世界で得た新たな自室。

 その中の一室で寛いでいる。

 

 間取りは、シャワーとトイレ付きの3LDKだ。

 如何にも寮といった、そんな感じの雰囲気が漂う部屋だ。

 だが、少しだけ不安もある。

 

 残りの2室の入口には『名古屋市警察』と文字が表記された、立ち入り禁止のトラ柄テープが張られ、入口には菊の造花が置かれ……DKの床には人型の白線が2体分。

 円形の全自動掃除機が無言のまま、縄張りを徘徊していたりする。

 

 どう見ても、理由アリの物件だ。

 

 DK側から出入りする、ベランダ側の入口は分厚いシャッターが降ろされ。

 壁に『防弾シャッター』と表記された、操作パネルが設置されているから、シャッターは防弾 仕様のようだ。

 その横には丁寧に『流れ弾注意!』の紙が張ってある。

 どう考えてもここに着弾する、流れ弾は高い確率で、麓でバーベキューをしている方々が、発生源だろう。

 

(これじゃ……事故物件にもなるわな)

 

 流石に異世界転移。

 モンスターとの戦闘も経験した後だ。

 新居が事故物件など、些細な事である。

 

 因みに自室内の窓は、壁を錐台状にくり抜き。

 少し厚めのガラスを使った、お洒落なデザインの小窓だ。

 よくラノベの文章に出てくる『…』点々の記号の様に小窓が並んでいる。

 その窓枠の下には『銃眼使用時の注意~』と書かれたプレートが埋め込まれ。

 そういう使い方も考えた、居住環境のようだ。

(宿舎にガンポートも常備かよ)

 まるで抗争対策……いや。

 ここは軍事施設だから、当然なのかも知れない。

 

 などと、思い返しつつ。

 俺は服を脱ぎ始めた。

 

(シャワーも浴びたし、切り傷も回復魔術で治療すると完治が速いな。どれ……)

 

 寝る前に体の状態を確認するのは当然だ。

 

「もう傷跡は無いのか……」

 

 俺はトーチカとでも言うべき安全地帯。

 分厚い引き戸に守られた、自室内で全裸になり。

 身体中を等身鏡で確認中だ。

 例の緑色の髪の少女に回復魔術を施されたが、痛みも全く無い。

 完璧だ。

 俺は満足感を抱えたまま。

 ベッド脇の小型冷蔵庫を開け。

 見たことがない、メーカーの缶ビール。

 ナッツ類のパックを取り出し。

 プシュ!

 ゴクゴク……。

 ビールを軽く飲み。

 そのままベッドに座った。

 

「……ふぅ」

 

 目の前には黒いテーブルと空のゴミ箱。

 卓上には未使用の箱ティッシュが1箱。

 薄いリモコンが置かれ。

 ナイロンに入ったままの未使用の着替え一式。

 歯磨きセット一式。

 先程一緒に酒を飲んだ、エルーナというシスターから、善意で支給された装備。

 研究所内の警備用備品の在庫だという、フリーサイズのガンホルスターとサスペンダー。

 俺の私物やゴーグルを収めたプラ製の箱。

 矢島さんから貰った……大口径の回転式拳銃が置いてある。

 

(あのシスター……確か自分で教官だとか、言っていたな……明日の朝は確か――)

 

 シスターこと、エルーナ教官の話によると、俺は迎えが来るまで。

 ここで待機らしい。

 

 テーブルの先には……襖の様に薄く。

 大きなテレビがドンと陣取っている。

 

「……そうだ。目覚ましを合わせないと」

 

 とりあえず、リモコンを手に取って電源を入れ。

 ニュース番組にチャンネルを合わせ。

 時刻を確認。

 俺のスマホの時刻を合わせ。

 アラームを朝の六時にセット完了。

 スマホをテーブルの上に置き。

 目覚める準備は完了だ。

 

「……」

 

 カチャ。

 俺は回転式拳銃を手に握り締め。

 カシャン。

 空の弾倉をオープンさせた。

 

(……まだ、実弾は撃てないか)

 

 流石に実弾は規則の関係上、支給されていない。

 だが、この銃に実弾は『不要』かもしれない。

 

(……この拳銃……使えはしたが、その『仕組み』がよく分からいな)

 

 一応、俺が矢島さんから貰ったこの銃。

 ぶっつけ本番の戦いで『鈍器以外の武器として』も立派に使えた。

 それも渡した本人の反応からして、折り込み済みだったようではある。

 他の転移者も一瞬驚いていたが……ゴブリンとの戦いが必然的に優先され。

 その後は矢島さんとの殴り合い、といった流れだ。

 矢島さんの発言や、転移者達の反応からして。

 他の転移者達は俺より先に、実戦で魔術を使う。

 そんな局面も経験していたのだろう。

 何れにしろ、仲間になる者達の適応が速いのは、いい事だ。

 それにしても……。

 

「一体、何をさせたいのやら」

 

 今更、悩んでも無駄だな。

 テレビでも見て寝るか。

 俺は回転式拳銃をテーブルに戻し。

 再度リモコンを手に取った。

 

(――お)

 

 チャンネルを変えると画面には、この世界のコマーシャルが映った。

 俺の世界にも存在する、飲食品メーカーや企業の宣伝。

 見た事もない、企業の商品宣伝。

 それに漫画やアニメグッズから……中古銃器すら扱う。

 怪しげなリサイクルショップの宣伝などだ。

 

(タレントの子。かわいいな)

 

 メーカーの宣伝では、由美や紅菜の様な少女。

 ストレージチルドレンを数多く使っていた。

 確かに美形だし、モデルやタレントとしての需要もあるのだろう。

 

(番組は……深夜アニメか)

 

『プリティキュンキュンZZ! 始まるよぉおお!』

 

 ――同時刻 研究所内VIPルーム――

 

 ◇◇◇

 

「たく! 矢島ぁあ~あんたは昔からやりすぎなのよ!」

「エルーナ、飲みすぎだぞ」

 

 エルーナと矢島はVIPルームでソファーに座り。

 ……ナッツ類を盛った、木製ボウルに手を伸ばし。

 ツマミ類を食べながら、小一時間程。

 酒を飲みながら話している。

 

「そもそもあれじゃ! 全然説明になってない!」

 

「ははは! あの場を見ていたらさ……説明より先に、データ収集を優先したくなってね。その方が君達の仕事も後が楽だろ?」

 

 二人の座るソファーのサイドテーブルには、酒とツマミ類だけでなく。

 パッド型端末が置かれ。

 転移者達の顔写真、経歴、特徴等の情報。

 そして、何かのパラメーターやグラフが表示。

 二人は時折、パッド型端末を手に持ち。

 データ類に目を通していく。

 二人は打ち合わせの時間を使い。

 ……昔から飲み合う仲だ。

 

「まぁ……そこは否定しないけど、教官としては……転移者達との信頼関係構築が大変よ! それに訓練標的に使う、養殖ゴブリンは数が少ないから……予定外の使い方をすると困るわ。ゴブリン課の連中からクレームが来るのは、教導部隊の責任者である私なのよ」

 

「どんな選択にも、メリットとデメリットの両面が、表裏としてあるのは当然さ。標的といえば、ここの裏山に顕現した、撤去不可能な片道専用の転移陣……そこから沸いて出る、異世界直送のモンスターや冒険者を標的に使う案はどうなった?」

 

「ダメよ、相手が危険すぎるわ。それに万が一にも、通信魔術に長けた冒険者がいた場合。こちらの手の内、存在を他の参戦陣営にわざわざ露呈する事になるわよ。余計な面倒は避けたほうがいいわね。これまで通り……麓の賞金稼ぎや、モヒカンさん達に狩らすのが利口かな。そういえば隠蔽工作の方はどうなっているの?」

 

「諜報部を例のモヒカンの会社に潜り込ませているから問題ないさ。状況によっては、あの会社を買収するだけだ。ところでエルーナ……やはり捕虜は取れないのか?」 

 

「先ず無理ね……地球に来るって事は、亜空間専門の上級冒険者よ。蘇生魔術が不可能な亜空間に入って、冒険者をやっている連中は種族に関係なく、女神の奇跡なんて元から宛にしてないから……戦闘能力と同じ位にプライドが高いのよ。だから敵に捕まれば自害……と言うより……最後は自爆テロよ」

 

「……確かに自爆する連中から、得られる情報は少ないな。春先の暴動以降、所属不明のハーフエルフの死体が市内で何体も発見されているが、参戦者じゃないから、こっちでの蘇生は無理だったし、困ったものだよ」

「今更嘆いても仕方ないわ……それにしても、貴方の拳銃を渡した彼、何者?」

「ツバメのパイロット候補だよ。だからこそ、先にデータが欲しかったのさ……凄かっただろ?」

「……装填詠唱を省いた上に、銃を媒介に直接魔力を弾丸にして発射する素人なんて……完全に予想外よ」

 

 最も今、この二人が注目しているのは、目の前にある大型モニターに映る人物。

 転移者の一人、遠近義明が行った戦闘の映像だ。

 ゴブリンとの白兵戦の最中。

 ゴブリンにタックルで押し倒された義明。

 彼は矢島が渡した銃。

 弾倉が空のままになった鈍器。

 大口径の回転式拳銃を懐から取り出し。

 咄嗟の判断と動作で――銃口をゴブリンの口に押し込み。

 

『ズドン!』

 

 偶然にも銃爪を引いた際の映像だ。

 ゴブリンの頭部は閃光を放ち。

 轟音を生み出して――木っ端微塵に粉砕。

 脳漿や血潮も残らず消え失せ。

 絶命するゴブリン。

 グロ要素ゼロの……攻撃が行われた瞬間だ。

 

「エルーナ、何度も聞くが、無詠唱での魔術の発動は本来、有り得ない筈だよな」

 

「私の知る限りではね……原因はあの銃か、それ以外の何かが詠唱の代わりになっている。その可能性もあるし、ここの研究所で調べたほうがいいわよ。有効な手札が増えるのなら、私は何でもいいわよ。それこそ、本当に仕事が楽になるわけだし」

 

「そうだな……俺以外にも同じ事が出来る奴がいる。それが分かっただけでも朗報だ。今後、その仕組みが判明して……再現が容易なら、確かに後が楽だな」

 

「ねぇ矢島……彼、子供達が『ヨシアキ』とか呼んでいたけど、偶然ってすごいわよね。名前だけじゃなく、あいつと似過ぎよ」

 

「いや、もう一人の義明だよ。手元の端末で見てみろよ」

「……は?」

 

 エルーナはパッド型端末を片手で手に取り、そこに視線を移した。

 大型モニターの映像は切り替わり。

 二人の話題に登った人物。

 遠近義明の全裸が映った。

 生まれたままの姿で、箱ティッシュに手を伸ばす。

 その瞬間を映した……リアルタイムの映像である。

 

「お、プリキュンの時間か。カメラを背後に変えて、俺も視聴――」

 

 

 

「なんじゃこりゃぁぁぁあああああ!?」

 

 

 

 エルーナは驚き。

 パッドを両手で握り締め。

 思わず叫んだ。

 彼女の手元を離れた、木製ボウルは放り投げられ。

 ナッツ類が……パラパラと宙を舞った。

 

 ――翌日早朝 遠近義明の自室――

 

 エアコンの冷房が吹き付け。

 丸くなった、使用済みティッシュがコロコロと転がる。

 ……微かにイカ臭い空間。

 この部屋の住民、遠近義明は転移後初となる性行為。

 自家発電を実行。

 安眠効果を信じて十数年間行っている、賢者モードからの睡眠導入を平然と行い。

 発電時の振動でパイプが凹んだ、ベッドの上で愚息を屹立して大の字。

 今も……夢の中だ。

 

 だが、防弾ガラスで守られた、ガンポートに朝日が差し込み。

 顔面に照射され……。

 彼のスマホがアラームを鳴らした数秒後。

 夢の中から……義明は目覚めた。

 

 ◇◇◇

 

「あ!」

 

(…………夢だったかぁあああああ!)

 

 仕方ない。

 今の内に起きよう。

 俺は気持ち良さと悔しさを噛み締め。

 体の欲求に従い。

 スマホのアラームをオフにして起床。

 

「……酒が入るとダメだな」

 

 転がるティッシュの残骸をゴミ箱に放り込み。

 そのままシャワー室に直行。

 熱いシャワーを浴びた。

 

(……コミケの時に泊まった、民泊を思い出すな)

 

 もしかしたら俺は、夢を見ているだけかもしれない。

 このシャワー室を出たら、あの拳銃とメガネもなく。

 着替えたら外に出て、そのままコミケに向かう。

 

「そんなわけないか」

 

 などと、自分の体をタオルで拭きつつ。

 頭に浮かんできた妄想。

 淡い霧の様な現実逃避は陽光を浴び。

 自室のテーブル上で輝く、銀色の塊を視た瞬間。

 ……かき消された。

 

 ◇◇◇

 

『――本日未明、州北部の高原地帯で、大規模な爆発を伴う火災が――』

 

 俺は渡された衣服。その中から、同じ種類の上下が複数着あった服。

 グレー色のミリタリー的な衣服に着替え。

 ……外からセミの鳴き声と銃声が聞こえ始めたので……念の為に防弾ベストを装着。

 水と軽食を冷蔵庫から取り出し。

 早足でベッドに座った。

 俺は銃声とセミの鳴き声を聞きながら、ミネラルウォーターを飲み。

 黄色い紙箱のバランス栄養食。

 カロリーバーを齧って……朝のニュースを見ている。

 

『――逃走する集団を目撃した、地元ハンター達のガンカメラには、爆発前のホテル跡から出てきた、数十名規模の武装集団がピックアップトラックに搭乗して、逃走する姿が映っており、州警察は、武装集団の捜索を州軍と合同で行い――』

 

 ドタドタ!

 

「……上の住民か」

 

 ここは寮だ。

 上にも住民がいるのだろう。

 朝だし、通勤の時刻も近いか。

 

『――また、爆発の現場からは、複数の死体と銃火器、違法薬物が発見されており、対立組織による、抗争の可能性も――』

 

 ピンポーン♪

 

「?」

 

 迎えだろうか。

 俺は自室を出て、玄関に向かった。

 ガチャ。

 

「おはようございます!」

「義明さん朝食の時間ですよ。上に行きましょうか♪」

 

 俺を迎えに来たのは、赤い髪の美少女が二人。

 涼しげな夏用の制服に着替え。

 朝日に照らされた……笑顔の由美と紅菜だった。

 

 




次回の投稿は来週末になると思います。
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