神様、感謝します。
どうやら、ここは女子寮だったようだ。
由美と紅菜に案内され。
角部屋である、俺の部屋の上の階。
すぐ真上の部屋に向かう道中。
「おはようございます」
爽やかに挨拶をする、制服姿の女の子達と、通路ですれ違っていく。
みんな、由美や紅菜と同じストチルなのだろう。
……髪の色がカラフルだ。
ここで黒髪なのは、俺くらいだろうか。
黒と言えば、俺の片手には黒い樹脂ケース。
ガンケースがある。
何でも昨日、エルーナが俺に渡し忘れ。
先程、紅菜から渡された物だ。
俺は一度、玄関から自室に戻って、回転式拳銃をケースに収納。
そして忘れそうになった、メガネとスマホもポケットに入れて、持ち出した。
(何かしら、書類に記入する可能性もあるから、スマホは無いと困りそうだな)
最早、文章も端末入力に慣れた現代人は、スマホが無いと漢字が抜けた。
ネイキッドな文章を書く、恥ずかしい事態は避けられないだろう。
出来れば、そうなるのは避けたい。
(ネイキッド。裸といえば、この銃も剥き出しじゃないのは一安心だ)
銃を使わない間は、このケースに収納して持ち歩く格好だ。
今日の夕方にはガンロッカーや弾薬ロッカーも自室に届き。
それ以以降、使わない時はそこに保管する様に言われた。
訓練を受けたら、原則として拳銃の類いは護身用での携行が許可され。
……それとセットで外出も出来るようだ。
この世界の日本が銃社会じゃ、それも仕方ないだろうか。
「一応、ここの研究所は、私達みたいな学生も多く住んでいますよ♪」
隣の由美が陽気に話し。
「学生が多いのは色々と、訓練部隊の再編とかで、市内の女子寮の部屋が足りなくなったので、無人だった、この棟を私達が使い始めたからですね」
少し前を進む紅菜が時折。
差し込む、陽射しのように振り返りつつ。
笑顔で経緯を説明してくれた。
中庭横の駐車場には、引越し業者のトラックが何台か駐車。
作業員はパッド型端末を操作。
その周囲では荷物を背負った、四足歩行のドローンが荷下ろしの準備を始めている。
他にも清掃業者の車や白い防護服を着た人。
白衣を着た、学者も集まっている。
恐らく……他の空き部屋も俺の部屋と同じ有様。
人型の白線や造花。
名古屋市警察と表示された、トラ柄テープが貼ってあるのだろうか。
(……俺の部屋の空き部屋も早く……掃除してくれないかな。何も言われてないけどさ)
制服を着た女子学生達とすれ違い。
由美達と話ながら進んでいくと――――少し傾斜が高い。
階段の踊り場に到達。
……カツカツ。
――――ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!?
前を進む紅菜の――美脚と真っ赤な――パンチラが見えた。
……ボソボソ。
「お姉ちゃん鈍いから」
「……マジ?」
由美が人差し指を唇に当て『ナイショ』と俺にレクチャー。
そのまま俺達は階段を昇り。
(う~ん……やはり……ここにもあるのか)
恐らく踊り場付近で、眼下の駐車場を狙い。
芋スナをしていたと思われる、狙撃手と観測手の痕跡。
……二人分の人型の白線が描かれた場所を歩き。
補修した弾痕の跡が……ドア周辺の壁に残る部屋。
目的地に着いた。
ガチャ。
「ただいま~」
「お邪魔します」
部屋の間取りは真上なので、俺の部屋と同じだ。
だが……。
(くん……くんかくんかくんか……)
間違いない。
これは女の子特有の香り!
……と……コーヒーかな?
「おかえり~」
ガラガラ……バタン。
「ふぁ~おはよう~朝食まだ?」
「ちょ! エルーナさん! パンツだけで歩かないでくださいよ! 義明さんを呼ぶように言ったのは、あなたじゃないですか!」
何やら由美達とは違う、制服の上からブチ猫柄のエプロンを付け。
キッチンに立ち。
鉄製のフライパンで手際よく。
コーヒー豆を炒る……緑髪の少女。
昨晩、回復魔術を施してくれた少女が。
エルーナを……紫色の大人っぽい下着一枚の……教官を怒っている。
因みに乳首は――ブロンドヘアーが垂れて拝めず。
だが、見事な下乳だから眼福である。
(やべぇ! 異世界転移マジでやべぇえよ! ラッキースケベ多すぎでしょ!?)
「あちゃ~! いやぁあ~ごめん葉菜ちゃん! 着替えてくるわ。義明くんも席に座っていてね♪」
◇◇◇
「お姉ちゃん、今日の夕御飯、私達の当番だよ」
「そうね。肉と魚どっちにしようかな~」
由美と紅菜は両脇のイスに着席。
今日の夕飯の献立をどうするか。
向かい合って、相談している。
「お待たせ~♪」
髪を整え、シスター服に着替えた。
エルーナ教官が笑顔で登場。
俺の向かいの席に座って……口を開いた。
「葉菜ちゃん、お客様にサラダ作ってあげて♪」
「……だと思いましたよ。ちょっと待ってくださいね」
そういうと葉菜は、俺を見て一言発すると。
戸棚からステンレスのボウル。
一緒に取り出した、透明のパックから黒い粒を……パラパラ……とボウルに入れ。
少しだけ、ボウルに蛇口から水道水を注ぎ。
ボウルを片手でお腹付近に抱え。
俺の横まで歩き……止まった。
(何故に調理を止めて横に来るの?)
「義明くん、葉菜ちゃんに注目~♪」
「あ、はい」
「じゃあ、スプラウトいきますね」
葉菜は片手をかざし。
緑色の輝き――回復魔術をボウルに照射。
次の瞬間――――まるで自然番組の早送りの様に種が発芽。
ウネウネと伸び。
僅か数十秒で……ブロッコリーの新芽が出来ていた
やべえ……昔……テレビ番組に出演していた方。
(グラサンのマジシャンを思い出したわ!)
あれ?
でも、あの人は光を出してなかったから、純粋に手品なのかな?
(どっちだぁああああ!)
「……やっぱり、向こうの世界の人は、驚かないのですね」
「…………似たような手品を…………テレビで見た事があるからね」
「グラサンのおっさんですね。名前は言わなくていいですよ」
(――――――――衝撃が強くてリアクションに困るんだよぉぉおおお!)
その後、俺の脳内の驚きなど知らない少女。
葉菜は台所に戻り。
切り分けたトマトや茹でたアスパラや。
ちぎったレタスや、サラダ用の千切りキャベツを添え。
先程、目の前で発芽したスプラウトを使い。
……手際よくサラダを完成。
木製ボウルに盛られ、テーブルの中央に置かれた。
他のメニューは焼きたてのトーストや目玉焼きにソーセージ。
コーンポタージュのようだ。
「それじゃ! いただきます!」
「いただきます!」
「いただきます♪」
「いただきます」
「……い、いただきます」
俺は衝撃の余波が脳内に残ったまま。
……朝食を食べ始めた。
ドレッシングは和風のボトルがあったので、そいつをチョイス。
シャキ。
(あ――――このサラダ美味しいわ)
――――十数分後――――
「コーヒーどうぞ」
「どうも」
美味しい朝食を食べた後。
葉菜がコーヒーを淹れてくれた。
(…………美味しい…………)
先程、コンロで炒った豆を使っているからだろう。
挽きたてで香りもいい。
皆……椅子に座り。
飲む事に集中している。
香りと味が生み出す。
見事な静寂。
今、この瞬間。
(外で騒ぎ出したセミの鳴き声に……銃声や爆発音は……スイカに塩とでも言うべき状態だ)
ごちそうさま。
皆、飲み終えると一言いい。
由美と紅菜は自室に戻っていく。
葉菜は食器を食器洗い乾燥機に放り込んでから。
由美や紅菜とは別の部屋に戻っていった。
(……由美や紅菜に葉菜……この三人は登校しないのかな?)
DKには俺とエルーナ。
場に残った、コーヒーの香りだけだ。
「美味しかったね。義明くん」
「ええ、美味しかったですよ」
「今日は由美と紅菜、葉菜の三人も、君達の訓練補助で行動を共にするからね。そうだ――」
(ああ、だから三人は他の学生と違い。登校していないのか)
「――葉菜ちゃん! 先に義明くんを訓練場に案内してあげて! 私達は準備があるから、後で合流するわ!」
「は~い。今行きますね」
葉菜が返事を返し。
白衣を羽織った、葉菜が自室から出てきた。
「んじゃ、行きますか義明さん」
「よろしく」
ガチャ……バタン……。
「よし、二人とも行ったようだ」
ガラガラ。
「……エルーナさん」
「ん? なんだい由美」
「なんで葉菜姉ちゃんに案内させるの? わたしらの方が、手が空いているよ」
「そっか、由美は……赤ん坊だったから、もうひとりの義明さんを覚えてないよね」
「アハハ! 確かに由美はミリサのお乳に夢中だった頃だね~」
「?」
「やっぱり紅菜は覚えているようだね」
「そりゃそうですよ! 空爆の中を! お菓子を食べながら、赤子の由美を抱えて、走ったのは、この私ですからね!」
紅菜とエルーナの二人が合点を得ていく一方。
困惑気味の由美に気付いた姉。
紅菜が由美の頭を優しく……撫で。
話し始めた。
「由美……葉菜姉ちゃんはね……もうひとりの義明さんに懐いていたからさ。色々と思うところがあるのよ」
◇◇◇
――研究所内 菜園エリア――
「へぇ~見事な菜園だ」
「さっき食べたトマトもここで収穫したんですよ。この先が訓練場――」
私は彼と一緒に菜園の小道を歩き。
訓練場に向かっている。
菜園には真っ赤なトマト。
紫色のナス。
緑色の胡瓜。
黄色い実をギッシリ詰め込んだ……トウモロコシが実っている。
チラッ……。
昨日、マギサ姉ちゃんが連れて来た男性。
隣の彼を見た瞬間。
あの人に似ていると感じた。
だけど――。
(――――もう一人の義明さんだったなんて――――どう反応すればいいのよぉおおおお!)
寝る前に、エルーナさんから説明されたけど。
不安と浮ついた気持ちが混ざった感じ。
この感覚は一体なんなのだろう。
ああ女神様! 地球で頑張る葉菜に御加護をお願いします!
「――葉菜さん――」
「はぃいい!」
「あのさ、訓練場は……こっちで大丈夫?」
「あわわ! すみません!」
最悪だ。
考え事をしながら歩いてしまった。
目の前は芝生で覆われた草原。
訓練場とは真逆の方向。
既に研究所の出口周辺だ。
「案内版を見ると、真逆だね」
「……ハイ」
◇◇◇
俺は葉菜と二人で来た道を戻っていく。
綺麗に手入れをされた菜園は、周囲の自然とは違うが。
独特の美しさを醸し出し。
心に潤いを与えてくれる。
蝉の鳴き声に混じって、響く銃声や爆発音も。
かわいい美少女と一緒なら。
車の騒音や街の喧騒と大差がないのではいか。
そう感じ始めた俺は……葉菜に話しかけた。
「葉菜さん」
「え! はひゃぃい!」
かわいい子だ。
だが、緊張しているようだ。
よし。
「緊張しなくていいよ。それに……ありがとう。散歩をして、だいぶ不安と緊張が和らいだよ」
「……そうですか」
「うん、そうだよ。」
そのまま俺と葉菜は、菜園の小道を抜け。
砂漠の様なグラウンドを越えて。
木々に囲まれ、コロシアムの様な造りをした。
半地下型の円形の訓練場へ到達した。
――その頃 義明の自室――
義明の部屋には、白い防護服を着た集団が入室。
何らかの携帯型検査機を手に持ち。
電子音をピコピコと鳴らしている。
彼らは髪の毛等のサンプルを採取。
パイプが曲がったベッドは、既に新品と交換。
運び出されたベッドは厳重に梱包を施され。
四本足と作業アームが付いた、2体の作業ドローンの共同作業によって。
運び出されていく。
当然……使用済みティッシュも……。
全てを丁寧にピンセットで採取されている最中だ。
◇◇◇
『真希、なんで春先の銃撃戦で、死者が出た、現場に彼を住まわせるかな~』
『エルーナ。だからこそ、ここを選んだのよ』
『はぁ~学者さんは、人の気持ちとかへの配慮はないのかしら?』
『それは貴方達が配慮する事よ。私は研究者だから』
『あ、そう。で……説明よろしく』
私はこの研究所の所長、本田真希と自室の真下。
遠近義明の自室を封鎖。
魔力遮断をした、防護服を着込み。
調査の立ち会い中だ。
真希が――ピンセットで――摘んでいるのは、昨晩。
彼が自慰行為をした残滓だ。
……微かに魔力が……湯気の様に見える。
そのサンプルをガラス容器に詰めながら、真希は話し始めた。
『ここは、魔力発生源になりそうなDNAサンプルも、死体清掃業者が清掃しているし、3ヶ月以上無人なら、微弱な魔力反応も消滅して、残っていないから、転移者の魔力反応を調べるには最適な環境なのよ。それに真上の貴方の部屋には、対魔力弾用の結界も全体に張ってあるから、尚更よ』
『なるほどね~』
今、思い出したけど。
向こうの世界で、魔力を使った、実験をしていた連中。
魔術学園の学者や学生も結界を張っていたや。
(研究か……懐かしいな)
私も学生時代は、自由研究をマギサやツバメと共同で行い。
上級冒険者達に紛れ込み。
亜空間に生息する、ゴブリンやオーガの強化種を仕留め。
全身標本を採取していたな。
『最も、いきなり深夜アニメを見ながら、ベッドのパイプが曲がるほど、ハードな自慰行為をするのは、転移者の中でも、彼が初めてだけどね……よし。サンプルの反応を調べてみようか。どれどれ――』
そう言うと真希はサンプルの一つ。
丸まった使用済みティッシュを検査機器に挿入。
検査機器のモニターは……真っ赤な……反応を表示した。
『うひゃぁ~マギちゃんが連れてきた彼、すげぇえわ♪』
『……どんな感じ?』
『エルーナは私と違い、目視で魔力反応を見られるでしょ~逆に魔族である、あんたの見解を聞きたいわよ~』
そりゃそうだ。
魔力は私達、異世界人。
魔族の十八番だ。
私は素直な見解を述べた。
『そうね……彼を絶対……敵に回さない方がいいわね』
『でしょうね~魔力反応の簡易数値で、あんたやマギちゃん並の転移者とか、ワクワクしてきたわ~♪』
私は使用済みティッシュから立ち上る魔力。
魔族並の強さの証。
青い波長の魔力を見つめ……考え始めていた。
先程、一緒に朝食を食べた男。
マギサの連れてきた転移者、遠近義明。
彼の素性や生い立ちは、矢島に見せられたデータで判明している。
だが、そうなると、私もよく知る彼。
十数年前に起きた、地球への転移前の戦闘で、消息不明になった者。
もうひとりの遠近義明は一体……『誰が』……生み出したのだろう。
十数年前、私達と共に戦い。
消息不明になった男『もうひとりの遠近義明』彼は、情報を整理する限り。
私達、魔族が使役用の労働力を生み出す、体細胞クローン体と同じく。
誰かの意思と思惑で生み出され。
この世界で『遠近義明』として、育ったのだろう。
だが、彼を――――生み出し。
同じ生年月日と氏名を与え、この世界で養父母に育てさせ。
私達の故郷で、マギサに召喚させる様、何らかのお膳立てを行い。
仕向けた者の目的は、何なのだろう。
私は…………全身の毛穴が開き…………汗で下着を濡らし。
心臓の鼓動と言い知れぬ、不安を感じながらも。
この後、直ぐに自室に戻って、シャワーを浴びようと考えていた。
――同時刻 訓練場 観客席――
「やほぉ! 葉菜ちゃん! 義明くん!」
「アゲハさん、おはよう~」
葉菜に案内された、観客席には、アゲハや他の妖精達が集まり。
朝食の最中のようだ。
おそらく、朝食はファーストフードだろうか。
ナゲットやポテトを抱える様に齧り。
ストローに吸い付き、シェイクを吸っている。
(割りと、俗っぽい連中だな。でもなんか、こうして見ると可愛いな)
「お代わりキター!」
しかも飛行ドローンを使い。
買い出しに行かせていたようだ。
(いや。あのピエロのロゴマークとWのロゴがあるから、デリバリーか!?)
ドローンは空いている、座席の上空でパタパタとホバリング。
プラ製のコンテナを繋いだ、ワイヤーを緩めて徐々に降ろし。
ドカッ!
ブツの入った、ダンボールをコンテナから吐き出し。
『御利用ぉおありがとうございましたぁあ~♪』
などと……何処かで聞いた事のある、陽気なピエロの声色で挨拶を終え。
飛行ドローンは素早く、ワイヤーとコンテナを機体に収納して、デリバリーを完了。
陽気なBGMを響かせ。
大空へ飛び去っていった。
「二人共、こっちにおいで!」
アゲハに呼ばれてしまった。
俺と葉菜は、他の妖精さん達が空けてくれた、スペースに着席。
両脇と前後は妖精さん達、周囲は揚げ物の香ばしい匂い。
ストロベリーな……甘い香りで溢れている。
(まるで、祭りの時の屋台の近くみたいだ)
「義明くん~肩いいかな」
「どうぞ」
「え!?」
「ん? 葉菜さん?」
「いえ、余りにも珍しいので……アゲハさんが男性の肩に乗りたがるのは」
なんだ?
周りの妖精達も俺と、右肩に止まったアゲハを見ている。
余程、珍しいのだろうか?
「お~す!」
俺と葉菜が来た、反対側の入り口から。
男性が数名現れ。
手を振っている。
(あれは、神谷か?)
他の数名も昨日、カウンター席で一緒に避難して、飲んでいた連中だ。
皆、俺と似たような服装をしている。
彼らもまた、妖精達が空けたスペース。
俺達の隣に詰めて、並ぶように座った。
神谷を含め、5人のようだ。
「どうも遠近さん!」
「おはよう。君達もここに来るように言われたの?」
「まぁ、そうですね。俺達はみんな、同じ棟ですよ」
話によると、神谷達は黒服さん達のモーニングコールで起床。
食堂で朝食を食べた後。
行き先を告げられ。
此処まで、歩いてきたようだ。
(男子寮があるのね)
「――遠近さんは、別の棟ですか? 食堂でも、見かけなかったし」
「そうだね」
(流石に、女子寮とは言えないな。ん? そういえば)
「あのさ、他の連中はどうなのかな?」
俺は話題を少し逸らしつつ。
気になった話題を神谷達に振ってみた。
「そういえば、見かけないですね」
どうやら神谷達にも、他の転移者の所在は分からないようだ。
「葉菜さんや、アゲハさん達は何か知らない?」
「いえ、私は治癒魔術を掛けた後は、警備の人に引き継いだので、何も分からないですね」
「私も分かんないな~みんな、なんか知っている?」
アゲハの呼びかけに、大半の妖精が首を振った。
だが、一人だけ。
心当たりがあったのだろう。
ナゲットを抱えたまま。
陽気に話し始めた。
「私の部屋がさ~山道側だけど。深夜だったかな? 私服を着た男性達が~集団でバスに乗って、下山していくのが窓から見えたよ~なんか、市警察のパトカーが先導していたから、それじゃないかな? 隊員の人なら、私服で集団移動なんて先ずないし~」
そう言い終えると、妖精はナゲットを食べ始め。
隣の神谷達は不安が混ざった。
表情で話し始めた。
「となると、別行動なのか?」
「ですかね」
「人数多いし、有り得なくもないか」
「……まさか、反抗的だから……元の世界に送り返すとか」
神谷の隣に座る。
金髪でポッチャリした、青年が不安げに言葉を漏らした。
おそらく、神谷と同世代だろうか。
だが、その不安は俺の隣。
「それは無いですね」
俺の左側の席。
通路側の席に座る、葉菜がキッパリと否定した。
「そうそう♪」
「有り得ないね~♪」
「(*´・ω・)(・ω・`*)ネー」
続いて妖精達も否定した。
流石に、その根拠が気になったので。
俺も聞いてみた。
「どうして?」
俺の疑問に応えたのは、右肩に座る。
アゲハと、周囲の妖精達だった。
「だって、君達一人を転移させるのに必要な魔力量は膨大だよ♪」
「(*´・ω・)(・ω・`*)ネー♪ 転移はマギサちゃんの魔力だけじゃ足りないからね~」
「電力も使って~魔力生成を無理矢理しているから~転移者さんは、交通費がお高い(・ω・`*)ネ~♪」
俺や神谷達は無言だ。
故に気持ちは同じだろう。
神谷達の視線が俺に向き。
アイコンタクトに促され。
俺は口を開いた。
「ち、ちなみに……一般家庭の消費電力に換算すると、どの位かな」
その疑問に応えたのは葉菜だった。
「電力換算の詳細は分からないですが、エルーナさん達の話からすると……義明さんの世界から転移者一人を転移させるのに、国防軍の主力戦車一台分くらいの金は、掛かっているみたいですよ」
次の瞬間。
俺達の周囲には、妖精達の咀嚼音。
揚げ物の香りだけが、強烈に残った。
相変わらずの不定期更新ですが、完結を目指して頑張ります。