※この作品はR-18です。

魔女の天下取り   作:hidenyan

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<00話 参戦者>

「やぁああああああ!」

 

 若い叫びが何度も鳴り響く。

 夕焼けに染まる砂浜……そこには冒険者を思わせる集団。

 百数十名近い若者達が、敵を相手に戦っていた。

 彼らや彼女達が手に握り、振りかざす武器は長さやデザインも様々だ。

 それは剣や槍に始まり、火球や氷塊、光球を撃ちだす長杖や短杖。

 エネルギー兵器を連想させる、魔力矢を撃ちだす魔弓など。

 武器の種類や、殺傷能力の幅も多様だ。

 その一方、若者達が戦う相手。

 それは異世界でお馴染みの存在。

 スライムやゴブリン、オークなどといった。

 殺すのに躊躇が不要な、モンスターではない。

 同じ赤い血を流す『人間の兵士達』だ。

 銀色の金属製甲冑を装着した、完全武装の訓練された兵士達。

 その総数は数百名。

 兵士達の手に握る武器は、同型の剣や短槍が二割。

 樹脂感漂う黒い警棒の八割で統一。

 最前列の兵士達は、全身を隠せる長方形の盾を構え。

 防御体制は万全。

 まるで暴徒を制圧する、治安部隊の様な装備だ。

 だが、若者達と戦う決断をした指揮官が、戦場において攻者に求められる条件。

 攻者三倍の法則を満たした上で、戦術的に若者達を攻めている事は変わらない。

 そんな決断を下した指揮官の声が、夕焼けに染まる……戦場に鳴り響いた。

 

 ◇◇◇ 

 

『ぼ、冒険者達に警告する! す、速やかに武装解除して、と、投降せ、せよぉお!』

 砂浜に鳴り響く。

 拡声術式で増幅された、震える中年男性の声。

 その声を出したのは、兵士達の後方に控えた。

 数メートルはある人影。

 銀色の装甲を甲冑の様に装着した、ゴーレムだった。

 中には兵士達を指揮する隊長が、部下の若い隊員と二人で搭乗。

 隊長は只今、ガクガクと内部で震えている最中だ。

 そんな隊長が軍から受けた任務。

 それは隣国と帰属や宗教関係の問題で、係争中の島嶼部において発見された存在。

 魔力探知が困難な木造船に乗った、正体不明な武装集団の捕縛だった。

 この手の任務自体は、彼の部隊も持ち回りで担当しているので、受領した当初。

 ……さほど違和感はなかった。

 どうせ、昔自分が対処した対象と同じ、信仰心を試す為に騒いでいる狂信的な信者。

 高値で転売できる、古代兵器の残骸目当ての盗掘に来る輩。

 危ない稼業に手を染めた、冒険者の類いに違いないだろう。

 そう考えていた。

 だが、偵察部隊の報告を聞いた時。

 彼は違和感に気付いて……寒気を感じた。

 規模が百数十名と、これまで聞いた事もない規模だったからだ。

 しかも、百近い同様の武装集団が、同時に近隣の島嶼部でも相次いで発見されたからだ。

 その後の彼の行動は、オークの様な体格と違い。

 実に素早かった。

 彼は即座に指揮官の権限を最大限に行使。

 部下の装備を防御が充実した、暴徒制圧用に急遽変更。

 暇そうな他の部隊からも、応援を呼べるだけかき集めた。

 部隊の規模も当初の規模から、数倍の数百名に増員。

 自分は念の為、増加装甲を付けたゴーレムに搭乗。

 部下の冷たい視線に耐えながらも、安全かつ万全を期して出撃したのだった。

 その後は状況に危機感を覚えた、上層部も他の出動部隊に同様の措置を行い。

 準備が整い次第、出撃させていった。

 それは現場から叩き上げた彼の判断能力、行動の正確さを物語っていたといえるだろう。

 

『く、繰り返し警告する! 諸君の行動は、我が西ドルア帝国への敵対行為であるぅうう!』

 

 ドガガガン! 

 警告への挑発であろうか。ゴーレムには小型の火球が何発も着弾。

 冒険者達はゴーレム内部にいる、隊長の耳元に騒音をお届けしていく。

 だが、増加装甲の前では、その程度の攻撃は……威力不足もいいところだ。

 

『ぁあちくしょう! お前らどこの国の冒険者だぁああああ! こっちが下手に出ているからって調子に乗るんじゃねぇええ!』

 

 流石に内部の隊長は怒り。

 言葉も荒くなっていく。

 だが次の瞬間。

 ゴーレム内部に大量の警告音が鳴り響いた。

 その警告音は、彼の感情のベクトルを別の方向へ急転換。

 

『警告! 高魔力反応を検知! 大型魔力弾来ます!』

 足元の席で職務に励む部下の報告も危機を伝え。

『いやああ! そこの武装魔術士さんお願いだからぁあああ! 爆発系の魔力弾は撃たないでぇええ! よろしかったら我が軍に入隊しませんかぁあああああ!』

 

 隊長の生存本能を言葉という形で表層に引きずり出した。

 ゴーレムに目掛けて放たれたのは、白い光球。

 それもゴーレムを一撃で葬れる、魔力弾であった故。

 ゴーレムに搭載した、魔力警報装置も反応したのだ。

 ……隊長は死を覚悟した。

 だが、魔力弾はカクっと軌道を下方へ変換。

 

 グゥウウウン!

 

 魔力弾は、兵士達の構える盾スレスレを掠め。 

 軌道を上空へ変更。

 

 チュドォオオオン!

 

 ……盛大に上空で炸裂した。

 それが合図になったのだろうか。

 火球や氷塊、ビーム兵器っぽい攻撃。

 魔力矢も兵士達の盾に殺到。

 ボカスカと盾に弾かれ。

 上空で次々と炸裂。

 最早、この砂浜は花火大会の様な光景だ。

 

 ――ゴーレム内部――

 

(死ぬかと思ったじゃないか! てかよ……なんで逃げ場のない『聖域』に冒険者連中がこんなに集まっているのよ!? マジで勘弁してくれ……訳わかんないよ。モンスター退治や盗掘……ましてや参戦者なら、大陸で派手にやってくれないかな! 海軍はお隣のマウラーレ王国と何世期も揉めているから忙しいのじゃぁああああ!)

 

 複座式の搭乗席の後部座席には、疲れきったオークっぽい物体。

 人間のおっさんがいた。

 おっさんは拡声術式で、叫ぶ事に疲れた隊長。

 隊長は映像術式で、外部の花火大会な状況を見つめ。

 頭の中で――情報を整理して、ある事に気付いた。

 

(…………これは囮だな…………『本命』はどこだ?)

 

「隊長! 上空を通過する友軍の機影を確認。数は30機! 速度や魔力反応のパターンからして、特殊部隊の強襲ゴーレムと思われます」

 前席の若い搭乗員が、ゴーレムの光学センサーが捉えた報告を上げた。

「あ~あ、そっちが本命だろうな……ったく、仕事熱心な連中だぜ」

(強襲ゴーレムって事は……戦闘狂の巣窟じゃないか……上は本命の目標を殺す気満々だな)

 

 色々と察しのいい隊長。

 彼が見る映像、それは彼が司令部に頭を必死になって下げ。

 何とか兵士達に持たせた装備。

 高レベルの魔力防御措置が施された盾に魔力弾が弾かれ。

 打ち上がる花火大会。

 その遥か上空を横切る……強襲ゴーレムが刻む。

 30本の白い軌跡が映っていた。

 この時、上空を通過する強襲ゴーレム。

 白い軌跡の矢尻とでも言うべき、先端部。

 そこでは察しのいい隊長の読み通り。

 殺意をフル充填した、戦闘狂達が獲物へ向かっていた。

 

 その頃、別の島嶼部では冒険者と兵士達が……文字通りの死闘を繰り広げていた。

 

 ◇◇◇

 

「ぎゃぁあああああああ!」

 

 短弓を握っていた一人の兵士が絶叫。

 ジタバタと砂上で転げ回っている。

 その傍らには持ち主を失い。

 砂上に落ちた短弓が転がり。

 そこに張り詰めていた、赤い光の弦は霧になって、消え失せていく。

 兵士は何かに腹を貫かれ――腹部が爆破。

 腹から…………ブスブス…………脂を含んだ煙を昇らせ。

 真っ赤な臓物を……乾いた砂上にぶちまけていた。

 

「うぎょぁああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 兵士は赤子の様に足掻き。

 吹き飛んだ甲冑を臓物や血潮。

 砂と混ぜ合わせ。

 乱雑さという衣に包まれ。

 亡骸へと近付いていく。

 産声がこの世に秩序が増える、響きだとすれば。

 絶叫は秩序を壊す響きだ。

 普段は人も訪れない静かな島。

 この世界で聖域とされる島の砂浜は、人型の秩序を壊す事に特化した空間。

 乱雑さの生まれる舞台。

 戦場という名のゆりかごへと変貌していた。

 

 ◇

 

「そいつはもうダメだ! 負傷者を優先しろ!」

「了解!」

 

 爆音と叫びの混ざった、戦場。

 そこで五体満足に動く二人の兵士。

 周りは仲間の死体と肉片だらけである。

 

「急げ! ここだと『本当に』死んでしまうぞ!」

 

 前線では兵士達に死傷者が続出。

 何とか動ける二人の兵士達は、この世界では簡単な通信手段。

 魔力波を使った、兜に装填された受信専用術式で後退命令を受け。

 行動を開始していた。

 腹部や下半身が吹き飛び悶え。

 血塗れで死にゆく、数名の仲間を見捨て。

 なんとか四肢が残り、負傷して意識が混濁している、一人の仲間を引きずり。

 ……退避行動を取る、二人の兵士達の視線。

 その先には、この世界で軍艦の装甲にも使われる素材。

 海竜の鱗を重ねて貼り付け。

 砂上に構築された、黒い砦が映った。

 

「なんで冒険者如きが……野戦築城している!?」

「どうせ軍人崩れが、混ざっているとかだろ! 急げ!」 

「ちっ! あんな砦如き……ゴーレムが在れば砲撃で潰せるのに!」

 

 兵士達は軍の主力兵器である、大型の人型機動兵器。

 ゴーレムの火力支援がないまま。

 この戦場に対人戦用の装備で投入されていた。

 

「それにしても! 連中がここ(聖域)でボカスカ魔力弾や魔力矢を撃ってくるのは、例の捕獲対象が原因か!?」

 

 兵士達は装備した甲冑に装填したエネルギー源。

 魔力を攻守共に使っている。

 特に魔術兵の類である、弓兵は魔力消費が激しい。

 ましてや兵士達だけでなく、冒険者達も恐れている聖域と呼ばれる場所。

 そこでの魔力消費の激しさは尚更だ。

 だが、この冒険者達は何かが違う。

 特に火力が桁違いだと、兵士達は戦場の渦中で、身を持って感じていた。

 

「ああそうだろうよ! 女神になりたい何処かの『魔女』が湯水のように魔力を分けているとか……参戦者どもは贅沢だぜ!」

 

 兵士達の作戦目標は、一人の魔女を生け捕りにする事。

 魔女の捕縛命令を受けてこの砂浜。

 聖域とされる、島嶼部に派遣されていた。

 何も殺すだけなら、こんな面倒な上陸作戦など不要だ。

 軍艦やゴーレムが発射できる、大型魔力弾による艦砲射撃、砲撃で殲滅すればいい。

 だが、上の命令は軍人にとって絶対だ。

 例えそれがどんなに理不尽で、矛盾があっても、守らねばならい掟だ。

 

「もたもたするな! 冒険者の魔力矢に――!?」

 

 兵士達の視界に赤い光線が走ったその直後。

 ズドン!

 

「ぎゃぁああああ!」

「大丈夫か!?」

「くそ! これじゃいい的だぜ!」

 

 砦に潜む、冒険者の魔弓が放った攻撃。

 魔力矢の爆風が負傷した兵士に痛覚を与え。

 苦痛の中で意識を目覚めさせ。

 兵士達に砂塵の波を被せていく。

 

「げほっげほっ! ゴーレムや戦艦の支援砲撃が在れば、あんな砦一発で潰せるのに……なんで戦艦が……即効で沈められているんだよぉおおおおおおおお!」

 

 兵士達が向かう先の洋上。

 そこでは黒煙を上げ…………沈みゆく影があった。

 戦艦が四隻、揚陸艦二隻と搭載した機動兵器である、主力兵器のゴーレム約百機。

 何とか発艦したのだろうか。

 上陸前に敢え無く撃破されたゴーレム約数機が……漁礁にクラスチェンジの最中だ。

 生き残った乗組員は救命艇に満身創痍で満載。

 仲間の水死体がプカプカ浮かぶ中……………………敗北の空気が洋上に漂う有様だ。

 ただ、その空気は上陸した兵士達の多くも味わっている最中だった。

 彼らは後退を余儀なくされ。

 浅瀬の水面を仲間の血潮で真っ赤に染め。

 凹み潰れ、抉り取られた、無残な甲冑の一部をプカプカと波間に漂わせ。

 母艦を失ったが……ギリギリ安全圏内にある、野戦病院状態になった小舟。

 揚陸艇の群れに引き返していく。

 戦況は守る側である、冒険者が数の面で不利だが。

 冒険者達は強襲揚陸艦隊を撃沈させ。

 上陸された砂浜では、事前に設置した冊や障害物を使いこなし。

 兵士達の持つ数の威力と、突破力を削ぐことに成功している。

 そう、冒険者の側は事前に色々と準備。

 対策を用意していたのだ。

 

 この瞬間。

 策に嵌った者が、一隻の揚陸艇の甲板上で、苦痛を味わっていた。

 

 ◇

 

 ――揚陸艇内部――

 

 ズドン!

 

「ぎゃぁああああああああ!」

 

 波音に紛れ。

 砂上で発生する爆音と悲鳴。

 遠くから剣戟が聞こえる、揚陸艇の群れ。

 その一隻は血塗れになった、顔以外の全身を緑色の鱗に覆われた重傷者。

 一人の女を治療する為に使われていた。

 甲板には彼女が着用していた、深緑色の仮面が割れた状態で右半分を残して転がり。

 体を覆う緑色の鱗も所々が無残にも砕け。

 彼女の流す、真っ赤な血潮と肉片が混ざったまま…………転がっている。

 

「体重を乗せて抑えろ!」

「了解!」

「姉御しっかりしてくれ!」

 

 兵士達に混ざって動く、青い鱗で覆われた大柄な男。

 彼が姉御と呼ぶ女と同じく、顔以外の全身を鱗で覆われている。

 青い鱗で覆われた男は暴れる重傷者の女を、兵士達と一緒に数人がかりで、甲板に抑えつけていく。

 彼らが抑えつける女は、顔面が血塗れになった重症の女だ。

 その傍らでは水色の魔導甲冑を纏った。

 初老の魔術衛生兵が女に向けて叫んだ。

 

「ガルーシャいい加減にしろ! これじゃ貴様の治療に専念できんぞ! それとオルーシャ! 救援要請は届いたか!? この調子じゃ艦隊の連中は宛にできんわい!」

 

 初老の魔術衛生兵は、隣でしゃがみこむ人影。

 長杖型の魔杖と魔力繊維を接続した、ウェルテックスを操作する水色の鱗で覆われた女。

 少女を思わせる童顔の……オルーシャに確認を求めた。

 

「問題ありません! 増援がこちらに急行中です!」 

「わかった! 連絡の調整は頼むぞ!」

「了解しました!」

 

 衛生兵は確認を終え。

 無言で右腰のベルトに差し込んだ――短杖を左手で握り締め。

 短杖の先端には小型魔法陣を幾層にも、飛竜の角のスライスに刻み。

 魔液として精製利用される、地竜の血で球体状に固めた結晶。

 緑の魔結晶を……ガルーシャの傷口に向けた。

 

「さて、始めるかの」

 

 この特殊な環境、聖域で使えるように自ら最適化した上。

 左腕に頑丈な海竜の髭でグルグル巻にして付けた装置。

 ウェルテックスに装填した、回復魔術を宙に浮き出た光る文字。

 ……魔術項目から選択。

 

(この術式でいくか)

 

 右手人差し指で項目に触れ。

 左手で握り締めた短杖、魔術の発動媒体に魔力を注ぎ。

 女に――回復魔術を照射。

 緑色に輝く霧が…………重症の女に降り注いでいく。

 

「ぎゃぁあああああああああああ!」

 

 だが回復魔術は彼女に苦痛を与えてしまう。

 その答えは心当たりがある、魔術衛生兵が口から漏らした。

 

「やはり此処も聖域の中じゃからの~鎮痛術式は壊れて使えんの~おい! そこの青い大柄な男! 煩いからその辺に転がっている甲冑でも咥えさせておけ!」

「ルガスだ! 名前くらい覚えろ!」

 

 甲冑を拾い。

 握力で粘土の様に甲冑の形を整える、青い鱗の男。

 ルガスが兵士から渡された布で甲冑を包み。

 

「姉御! 頼むから暴れないでくれ!」

 暴れるガルーシャに咥えさせた。

「ちくおおおおおおおもぉおごぉおお!」

 

 回復魔術と一緒に痛みを味合うガルーシャ、そしてオルーシャとルガス。

 この三名は西ドルア帝国の国教、正ドルア聖人教会が保有する軍事部隊。

 汚れ仕事全般を非公式に行う、特殊部隊に属する者達だ。

 顔以外の全身を覆う鱗は、後天的に生体改造を施され……生き残った証。

 三人の任務は、女神の代理人を支える国際組織『救済教会』に悟られてはいけない隠密任務。禁じられている、女神の代理人を決める戦い『救済戦争』に参加する、参戦者への事前妨害工作だ。

 

 その中でも三人は、敵陣営の中核になる者、主に女性の参戦者である魔女。

 女神を目指す者達、その可能性のある者達への……暗殺が任務だ。

 

 だが今回、その任務は盛大に失敗した。

 

 それは工作対象が生まれた時から、参戦した女性以外で、自他ともに魔女(マギサ)と呼ぶ存在。女神の代理人を決める戦いへの参戦を掟で自主規制している、この世界で最強の種族……魔族の少女であった事。

 そしてその少女が、人々の間では禁呪である、転移の魔術を使い。

 異世界から召喚した仲間、異邦人と徒党を組み。

 参戦の妨害を試みた、三人の仲間達である特殊部隊を毎回、返り討ちにしては一年以上も逃走。

 

 遂には女神の代理人を決める、戦いに参戦してしまったのだ。

 この結果に業を煮やした、正ドルア聖人教会の上層部は、特殊部隊の中でも精鋭部隊。

 切り札である、三人の属する部隊を投入。

 遂に三人も私の出番、仲間達を殺した連中への報復も出来る流れに喚起。

 だが、下された命令内容は三人の得意分野、暗殺から外れたものだった。

 魔族への敵対行為を恐れた、正ドルア聖人教会の上層部が躊躇した結果。

 殺傷行為を厭わない対象の『身柄の確保』という……無理難題であった。

 その結果、満足な武装も出来ずに投入され、三人の部隊も見事に返り討ち。

 揚陸艇で待機していたオルーシャやルガスと違い、前線に向かったガルーシャは異邦人が笑いながら発射した、武器の連撃と爆発で全身に重症を負い。

 ……………………鎮痛無き治療の最中だ。

 

「ぎゃぁあああああああ!」

 ガルーシャは足掻き。

 歯形が刻まれた咥えた甲冑を吐き出し。

 血涙を流し絶叫。

「抑えるのじゃ!」

「了解!」

「姉御ぉおおおお! しっかりしてくれぇええ!」

 

 洋上でも爆音が激しさを増してきた。

 魔力弾や魔力矢が洋上にも、着弾を始めたようだ。

 揚陸艇は激しく揺れ始め……ガルーシャの身も心も揺れまくった。

 

(ちくしょぉおおおお絶対にあの魔女だけは! 私がぁああああああああ!)

 

 痛みと憎悪にも内部から揺らされ――――――――ガルーシャは暗殺対象の名を叫び。

 

「マギサぁああああああああああ絶対に殺してやるからなぁああああああああああああ!」

 

 白目を向き……口を開いたまま。

 痛みに耐えかね意識を失った。

 

「姉御ぉおおおおおおおおおおお!」

「大丈夫じゃルガス!」

 

 衛生兵はルガスにガルーシャから離れる様に促し。

 驚くルガスが離れるのを確認すると、口を開いた。

 

「……やっと静かになりおったか……元々改造人間は魔術が効きにくいから、治療に手間が掛かりすぎるわい!」

 衛生兵はそう一言漏らし。

 ガルーシャの傍の甲板に片膝をつき。

 阿鼻叫喚の顔芸をした……ガルーシャの治療を続けていく。

 

 その頃、砂上の一角でもまた、別の悲鳴が上がっていた。

 

 ◇

 

「うぎゃぁああああああああ!」

 冒険者が設置した、障害物の岩影から獲物を狙い。

 片手剣を構えて飛び出した一人の兵士。

 だが――兵士は体を穿つ複数の火球の直撃を受け――内部から人体発火。

 断末魔の叫びを上げ。

 炭と脂混じりの煙を上げる肉塊に変じ。

 悶え苦しみながら踊って……ドサッ……砂上に崩れ落ちた。 

 兵士は神々の残した技術。

 攻撃魔術の餌食になったのだ。

 それは飛び出してきた兵士を冒険者の眼が捉え。

 兵士の斬撃より早く右腕を構え。

 敢えて近接攻撃用に威力調整した上で、腕に事前装填した魔術。

 戦いに慣れた上級冒険者や賞金稼ぎが使う、少し危険な手法。

 暴発寸前にまで魔力を込めた、火球(ファイアボール)数発分を無言で同時発射した。

 ……ブシュゥウウ……当然の結果だった。

「ああ、ああああ!」

 神々も多用した、攻撃魔術で兵士を瞬時に殺害した者。

 それは震える細い左腕で片手剣を持ち。

 剣士系の冒険者の少年に偽装していた。

 ……黒い短髪をした魔術士の少女だった。

「うぉおおおおおおお!」

 砂塵の舞う中。

 岩陰からは、仲間を殺され。

 編成員数を減らした者同士が集まり、臨時編成した数十名の兵士達。

 およそ一個小隊規模が叫び。

 片手剣や短槍を構え。

「舐めやがってぇえええ!」

「ぶっ殺してやる!」

 まともな指揮統制もないまま。

 少女めがけて突入。

「きゃぁああああぁあああああああああああああああ!」

 少女は叫び。

 片手剣を投げ捨て――――笑顔で――――後方に走り出した。

 少女が走るのは後方の両脇で山積みになった障害物。

 木箱の作り出した谷間の空間。

 一本道目掛けての全力疾走である。

「うぉおおおおおおお!」

 兵士達は集団となり、突破力を生み出しつつある。

 だが、その突破力に意味は無かった。

 ズボン!

 兵士達は木箱の作り出した、狭い空間に駆け足で踏み込んだ瞬間。

 彼らの視界には砂塵と小さな白い欠片が舞い。

 自分達の視界の――上で真っ直ぐに伸び……砂粒がこぼれ落ち。

 太い丸太の上を走っていく――元気な少女の後ろ姿が映った。

 そして、自分達が落とし穴に落ち。

 網に絡められながら、将棋倒しになっていく事を感じ。

 穴の先にある、小さな丸い穴から……閃光が明滅を始めたのだった。

 

 ◇

 ――数十秒前――

 ◇

 

『――――各員に戦況を報告する。我々を追撃してきた暗殺部隊は、遊撃隊が殲滅。一名だけ逃げ延びたようだが、グレランの爆風で吹き飛ばされ、生死不明――――まて、こちらHQ、帝国兵がラビットに食いついた。大穴に直行中。歓迎してやれ。戦果は我々が目視確認する。大穴まで5,4,――――』

 

(…………マジで来たか!)

 

 俺は骨伝導スピーカーでロボット物のアニソンを聴き。

 ヘッドセットから聴こえる、HQの戦況報告をラジオ替わりに戦意を高めたまま。

 木箱を椅子がわりに使い……この瞬間を待っていた。

 今の俺は宛ら、夜の海で釣り糸を垂らし。

 獲物を待つ釣り人……だろうか。

 色々な思考が始まるが――先ずはやるべき事が……俺にはある!

 バリバリ! ズシャァアアア!

 前方の天井だった、発泡スチロールが砕け。

 砂粒と擦れる音が波の様に響いた。

 俺が覗く穴の先に伸びる緩い坂道。

 穴の底には砂煙と地上の光が差し込み。

 転落した兵士達が見え。

 俺はそれを合図に――――ビカッ! チカチカ!

 小さな丸い穴に向けたフラッシュライトを何度も明滅。

 兵士達は思わず眩しさで目を閉じ、手が動く者は顔を隠してしまう。

 

「すぅ……」

 

 俺は大きく息を吸い込み……グッ……腹筋に力をいれ。

 装着したヘッドセットと無線LANで接続した機械。

 小さな丸い穴『銃眼』の下に設置した、拡声機で英単語混じりの日本語を叫び。

 彼らを盛大に歓迎した。

 

『兵隊さんゴールぅううううううううう!』 

「!?」

 

 多数の敵を仕留めようと試みる際。

 敵の群れの動きを一瞬でも長く。

 怯ませるのは重要だ。

 だが、既に便利なスタングレネードの類い。

 待ち伏せ攻撃に最適な兵器。

 クレイモア対人地雷は、ここに上陸する前の戦い。

 戦災孤児を拉致して、人身売買をしていた生ゴミ。

 異世界のエロ豚枠でお馴染みの存在。

 オークの犯罪組織相手のクソッタレな市街戦で品切れだ。

 

 敵を怯ませる必要性、残り少ない銃弾で無駄弾を撃てないからこそ。

 俺の頭と闘争心は敵との遭遇。

 一期一会の挨拶をするべく。

 余った発泡スチロールの箱と、現地調達した漁網をスタングレネードの代用品に変える工夫……罠の設計図を脳内から捻り出した。

 

 その設計図である元の記憶は、昔見た深夜のお笑い番組。

 間違った選択をした、タレントが発泡スチロールの壁を突き破り。

 泥沼に突っ込むといった、内容だっただろうか。

 

「くそったれがぁああ! 眩しすぎるぞ!」

「――――間違いない例の異邦人だ!」

「いてぇえええ! 腕の骨がぁあああああ! お前ら全員――――」

 

(……魔女に施された翻訳魔術で連中が何を言っているかは……大体分かった)

 

 だがそんなのは全て無視だ。

 俺は翻訳していない状態で一方的に叫び。

 

『無事ゴールした皆さんにはぁああ漏れ無く! 地球の特産品をプレゼントだぁあああ!』

 

 俺は銃眼に銃口を突き出した銃――ジャキィイン! 

 銃身下部のハンドガードに装着した、フラッシュライトが猛烈に自己主張する銃。

 軽機関銃のボルトを引き。

 ガングリップを握り締め。

 銃爪を――グッ――人差し指で絞込み。

 機銃弾の豪雨を放った。

 

 タタタタタタ!

 

「ぎゃぁあああああああ!」

『残さず受け取れや糞共がぁああああああああ!』

 

 マズルフラッシュの閃光。

 フラッシュライトの明滅を浴び。 

 発泡スチロールと破片混じりの砂塵の中で踊り狂い。

 肉片へ変わりゆく兵隊さん御一行。

 彼らはこの世界で大国に相当する『西ドルア帝国』の兵隊。

 世界の半分は今のところ、彼らの『友達』だ。

 

 ……俺達はそんな連中を相手に喧嘩を売っている。

 

 そう、ここは剣や魔法、モンスターが当たり前の異世界。

 そして俺達はこの異世界に迷い込んだ、地球からの漂流者達……その生き残りだ。

 だが漂流者なのも『色々あって』今日で終わりだ。

 

「こちら大穴、攻撃終了。ラビットと合流後、広場に後退する」

 攻撃の終わった俺は、HQに状況を報告。

 微かに震える指先で……フラッシュライトのスイッチを切った。

『HQ了解。義明さん、ここからの眺めは最高ですよ。軍艦が漁礁になっていくのが絶景だ!』

 

 俺は悦に浸っている、HQの連中に不安を覚えたが交信を続けた。

 

「了解、後で録画映像を見せてくれ」

『HQ了解、帰るまでが遠足だ。通信終了』

 

 小規模とはいえ、俺達は部隊行動をしている。

 故にHQの略称で呼ばれる、本部の類いは必要だ。

 その辺は特殊部隊並みの経験と技能をお持ちの仲間。

 上級冒険者達も手際がいい。

 俺達に合わせて、無線機の使い方を覚え。

 積極的に連携してくれるので助かっている。

 彼らもリアルタイムの通信と連携の重要性に関しては、過去の経験を通じて実感しているのだろう。

 無線と似たような道具、魔力波通信機もあるそうだが、高価すぎる上。

 各国の軍が製造と流通に規制をかけているから、先ず冒険者程度では使えないそうだ。

 それ以前に『敵に居場所を知られるような道具は』使いたくないとも、軍人上がりの上級冒険者の一人が、酒の席で言っていた。

 なんでも話によると、地球の対レーダーミサイルみたいな、遠距離攻撃魔法があるようなので、違法な魔力波通信をしていると、自殺志願者と変わらないとの事だった。

 

「よいしょ!」

 

 俺は起き上がり。

 メタルリンクで繋がった機銃弾を収めていた箱。

 ボックスを捨て――ガチャ――念の為にと、仲間に持たされた予備弾倉。

 自動小銃用のボックスマガジンを装填。

 俺は軽機関銃を抱え。

 匍匐前進で後ろのトンネルに後退。

 トンネルの先には……丸い光が見える。

 このトンネルは円柱状に出来ている。

 素材は現地調達した、よく分からない金属素材のスクラップだ。

 冒険者連中が言うには、大昔の神々が使っていた船の素材らしく。

 運ぶのに手間取るが、高く売れるそうだ。

「しかし……なんだ……これじゃまるで俺が」

 

(……………………弾丸みたいだ)

 

 そう思った瞬間、俺は外の夕陽を浴びた。

 砂まみれになった、砂漠戦仕様の迷彩服と防弾ベスト。

 腹部のポーチには予備の弾帯が数百発。

 そして背中には予備の弾薬約1000発を満載した、アイアンマンシステムを背負い。

 デザートブーツを履いた。

 30代も半ばの、無精髭の生えた男が――バシャ! 

 海水と砂に薄く包まれた、磯臭い石畳の空間に降り立った。

 ……水深は足首まで位だ。

 

(結構な重量の装備だが、全然重さや疲れを感じない……筋力増強魔術と結晶に感謝だな)

 

 俺は仲間の魔女が掛けてくれた、筋力増強魔術。

 そして俺の意思で、参戦者の集う場所。

 この世界の教会の大神殿に今も残る……黒き炎に手を入れ、掴んだ青い結晶。

 茶色い飛竜の髭でペンダント状にして……胸元に忍ばせた参戦者の証『女神の欠片』などと呼ばれる、魔術結晶が持つ効果。

 魔術装填の性質に感謝した。

 魔術を覚える素養が無い者達の大半。

 俺達みたいに異世界からの転移者は、過去の参戦者が残した未回収の証や、神話時代の魔族が残した、似たような道具を使うそうだ。

 俺は過去にどんな奴らが、参戦したのかを思いつつ。

 ……目の前に広がる廃墟群を眺めた。

 

(ラグーンの中に建てられた……………………摩天楼が聳える水上都市の廃墟か)

 

 この辺りの島嶼部は、この世界で聖域と呼ばれている、大昔の戦場跡だ。

 魔力が使いにくい環境であり、人々から畏敬の念を持たれながらも、復活無き本当の死が訪れる『死者完全蘇生魔術などというチート』が使いにくい環境特性から、恐れられているそんな場所の一つである。

 地球人の感覚で言えば、地雷原やネトゲのPKゾーンみたいな場所だ。

 国や地域によっては、死刑制度の変わりに、こういう場所に意図的にモンスターを放流して、凶悪犯の流刑地として、積極的に利用しているとの話である。

 逆に凶悪犯やテロ組織が逃げ込み、拠点を構えたりするのも、自然な流れみたいだ。

 場所によっては、未知の亜空間と不定期に繋がるようで、更に危険度が高い場所もあるそうだ。

 

 蘇生魔術は一万数千年前、この世界で起きた、神々や魔族の戦争が終わる際。

 優しい神々の生き残りである神様、優しい女神様とやらが原材料……蘇生魔術の触媒になって、この世界に生まれた魔術らしい。

 

(各種族で全く同じ神話を共有しているのは……不思議だが……要は)

 

 国民的なRPGでお馴染みの光景。

 棺桶を引きずって教会まで行って、有料で復活させるか。

 僧侶の運と確率に任せる中途半端な呪文か。

 賢者のレベルをガンガン上げて、確実に復活させる呪文。

 或いは一枚しか手に入らない、復活が確実な葉っぱ。

 別のRPGなら道具屋で売っている、不死鳥の羽的なアイテム。

 そんなチート能力の類いが現実として、生活の一部になっているのが、この世界だ。

 

 そんな歴史的経緯と秩序がある故。

 この世界の人々が、こういう場所で戦う事は本来なら、最大限避けられている。

 だがそれも……世界規模で決着をつけないといけない状態。

 深刻な事案が発生すれば別だそうだ。

 

 チート能力である蘇生魔術の管理をする組織。

 救済教会のトップである、新たな女神の代理人を決める、戦いの期間。

 救済戦争と言う名の、世界規模の大戦を除いての話だ。

 其の辺の事情は、平時と戦時の倫理観の違いといった、そんなところだろう。

 確かにいつまでも戦争していたらダメだし、ケリをつけるなら自然と――ん?

 

「義明さん! 私マジで怖かったよ!」

 背後の頭上から俺を呼ぶ少女の声がした。

「ツカサ、お前は元陸上部で、日本人初の魔法少女だろ。ビビリ過ぎ」

「違うぅうう! 私は魔術士です! 魔術士!」

 

 この元気な少女は、松沢ツカサ。

 

 約一年前に起きた、同人誌即売会の夏期会場で起きた事件。

 原因不明の『コミバ参加サークルブース消滅事件』で消えた、行方不明者の一人だ。

 実際には、今では俺達の仲間になった、魔女が使った魔術。

 異世界転移魔術の実験に巻き込まれた、被害者の一人である。

 

 俺や他の仲間も異世界転移に巻き込まれたのは同じだ。

 だが、ツカサの場合は事故に近いと、異世界転移の実験を行なった張本人。

 魔女が申し訳なさそうに語っていた。

 因みに俺やツカサ以外の仲間は事故ではなく。

 仲間になった魔女が、笑顔で『狙った』と言っていた。

 

「それより広場に急ぎましょう! みんなが――」

「そうだったな。急ぐぞ」

 

 俺達は敵兵を罠で始末したら、摩天楼の残骸が何本も聳える。

 水上都市廃墟の入り口。

 広場まで後退する事になっている。

 そう、仲間達。

 魔法少女とでも言うべき、女神を目指す魔女達。

 彼女達と合流してそのまま……地球……第三次世界大戦中の日本に転移する。

 手筈なのだ。

 正直なところ、この世界よりは、地球や転移先にある。

 とある場所……魔族の伝承に残っている『亜空間』の方が、遥かに安全圏内の可能性があるのだ。

 

「あ! 師匠ぉおお!」

 

 ツカサが会話を中断して足を止め。

 満面の笑みで、両腕を喜ぶ犬の尻尾のようにブンブン振り出した。

 俺達には夕陽を背に飛行してくる人型。

 セクシーな女性のシルエットが映り。

 ……スタッ……パシャ! 目の前に美女が降り立った。

 美女は双剣と見違える、ピンクのツインテールを従え。

 銀糸の刺繍が施され、黒いチャイナドレスに似ているデザインのドレスを着込み。

 同じく黒いヒール状の靴を履いている、雪のように透き通る肌と真紅の瞳をした。

 俺達の仲間の一人だ。

 彼女はツカサに攻撃魔術を教えている師匠だ。

 ニコッ――彼女は笑顔で俺達や、周囲を見ると――話しかけてきた。

 

「二人共無事なようね。さてと、ちょっとどいてなさい!」 

「ミリサ、敵なら俺が――」

「手緩いわよ義明! 火力不足は私が補うわ!」

 

 そう言い放つとミリサは俺達を押しのけ。

 俺が這い出てきた穴に片腕を入れ。

 口を開いた。

 

「爆ぜろ!」

 

 俺がその声に震え。

 ミリサの瞳に急激な鋭さを感じた。

 次の瞬間。

 穴が――カッ――白い閃光を放ち。

 ズガァアン! 轟音が生まれ。

 火柱が穴の向こう側で立ち昇った。

 

「うぉっ!」

「師匠やり過ぎですよ!」

「いいのよこの位で……これで時間稼ぎにはなるでしょ……それにしても、聖域は魔力が使いにくいから嫌ね~二人共、ここは私に任せて、お嬢様のいる広場に行きなさい!」

 

 ◇

 

『こちらHQ、ミリサの火力支援開始を確認。各員は警戒を維持しつつ、転移への準備を――』

 

 轟音の直後。

 水上都市の廃墟と化した、摩天楼に潜む地球人の仲間。

 観測班も兼ねた、HQの通信が翻訳魔術を介し。

 ……私の脳内に流れてくる。

 彼らの使う言語。

 今では日本語が、翻訳魔術無しでも少しは分かるが、漢字が厄介だ。

 種類が多すぎる上に書くのが大変だ。

 地球人の彼ら、日本人も読むのは慣れているが、いざ思い出して漢字を書けと言われたら悩み……彼らの携帯型端末である、スマホを使って漢字を調べていた。

 故に私は翻訳魔術とその開発者である、神々に感謝する次第である。

 それにしても、この広場からでもよく見える程……砂丘の方では馬鹿でかい。

 火柱が出来ていた。

 私と同じ魔族で、魔力量に余裕のある、私の乳母。

 ミリサの攻撃が始まったのだ。

 こうなると、帝国兵が全滅するのも、時間の問題だ。

 

 バリボリムシャムシャ! 

 

 時間の問題といえば、こちらもそうだった。

 ……甘い香りを漂わせ。

 ゴブリンの様に菓子を食べる、隣の友人の咀嚼音。

 その響きの変動から察するに菓子の残量も時間の問題だ。

 確かに彼……義明達の故郷。

 地球のお菓子は美味しい。

 そして何より包装用紙の絵が……かわいい。

 私としては、保護した戦災孤児の心の傷を癒すのに、役立っているのも有難い。

 

「ごちそうさま~」

 

 私は菓子を食べ終えた、小さな友人と視線が交差。

 友人はかわいい笑顔を浮かべ。

 唇の周りに口紅のように付いた、チョコを地球人提供の道具。

 ウェットティッシュをゴシゴシ使って拭い。

 口を開いた。

 

「マギサ~荷物は転移完了だよ。後は人員を送るだけ~」

「ツバメの魔力量はどの位余裕がある? 戦闘が可能ならミリサに加勢してきたら?」

「う~ん」

 

 私の隣の宙には、身体のラインが浮き出る、際どい意匠の民族衣装を着た。

 黒髪の短髪がかわいい、小さな妖精族の少女。

 ツバメが無音で浮いている。

 

 床には食い散らかした、お菓子の破片や包装用紙。

 炭酸飲料の空き缶やペットボトルが散乱。

 この辺は義明達の武器である、銃も使うと空薬莢が散乱するから似ている。

 お菓子であれ、武器であれ。

 同じ世界の生まれである事を感じてしまう一瞬だろう。

 

 ツバメは私の学友で腐れ縁。

 今では共に同じ陣営で、女神の代理人を目指す、魔女仲間だ。

 

 彼女の里が壊滅した後は、だいぶ落ち込んでいたが……今は私の彼。

 遠近義明に懐き……だいぶ元気になったから……安心だ。

 今のところ、私達の陣営が勝利を取った際、誰が女神の代理人。

 救済皇の座に一番初めに誰が着くかは、まだ決めていない。

 過去の歴史では、勝利した陣営内で少人数、しかも短命な人間しか魔女が残らず。

 人々が四半世紀も待たずに、再び戦乱に突入した事もあった。

 

 中には、人々の間では禁呪である、転移の術を使い。

 異世界に転移したまま……未帰還の参戦者や陣営も存在する。

 

(きっと……帰り方を考えてなかったとか、なんだろうけど。それが原因で転移の術が禁呪になったとか言われているけど……真相は分からない)

 

 さて、そんな参戦者の一人である――私達が片手で触れ。

 魔力を注ぎ込むのは、広場の中央部で青く輝き。

 静かに回転を続ける魔法陣。

 神々の残した太古の魔術……異世界へと通じる転移陣である。

 私は魔族だから、人々の定義から若干外れると認識しているので、禁呪だろうがお構いなしだ。

 勝つ為の手段は選ばないとツバメと……転移の術を授けてくれた亡き母に……私は誓ったのだ。

 

「そうだね~」

 

 ツバメが声を漏らした。

 ツバメは背中から生えた、虹色の四枚の羽を少しばかりパタつかせ。

 妖精族特有の悩む、仕草をすると口を開いた。

 

「流石にミリサと一緒に戦う程の魔力量は残ってないな~後は人の転移に使うので限界かな。やっぱり~里から持ってきた兵器類、特に『黒鉄』を転送するのに魔力を使いすぎたのが、大きいよ~」

 

 確かにツバメの里から、私達が持ってきた珍しい兵器。

 売りに出せば確実にひと財産築ける、使用可能な古代兵器は転移させるのが大変だった。

 余程強力な未知の対魔力対策が施されているのだろう。

 転移させるのに、私達は魔力をかなり消耗した。

 それ故……ツバメや私がお菓子を大量に食べるのも……仕方ないのだ。

 

 パリッ! ゴクゴク。

 

 私は軽くポテチを齧り、炭酸飲料を飲むと話を続けた。

 

「確かに馬鹿でかいゴーレムの基本素材と、人間サイズの鎧が同等の魔力消費って滅茶苦茶よ」

 

 本当は洋上で沈めた軍艦が一番無防備な状態。

 軍港で停泊中に軍人上がりで、多少は汚れ仕事も請け負う、上級冒険者を使い。

 強襲して軍艦を奪取。

 ゴーレムを何体か鹵獲した後。

 先に私達がゴーレムに乗り込んで、この聖域まで飛行させ。

 ゴーレムを分解してから、先に地球に転移している仲間に届け。

 そのまま私達も地球に転移するのが、作戦だった。

 

 だが、軍港近くの研究所付近のスラム街のゴミ捨て場で、山積みになった……内蔵を抜かれた形跡がある、戦災孤児の遺体を多数発見。

 同時にまだ生きている、戦災孤児達が研究所に運び込まれていくのを見つけた事で、作戦は急遽変更。私達は人命救助を優先した。

 だが、既に過ぎた事は仕方ない。

 

 子供達を助けると言い出したのは、強襲作戦を立案して急遽変更した彼。

 地球人側のリーダーが言うように『子供を守るのは大人の責務』だと私も思う。

 実際、上級冒険者の面々も賛同して、その後は私達の陣営に参加しているのだ。

 先を見据えれば、彼の決断は最適解なのかもしれない。

 

「ツバメ、貴方は子供達を先に転移させて」

「まぁそうなるよね!」

 

 ツバメはそう言い残すと、近くの廃墟の壁の間に貼られた、天幕に向かって飛んでいく。

 そこは、保護した子供達が積み重ねた土嚢の近くに集い。

 義明達が提供した、非常食用のお菓子を……笑顔で食べている。

 その中心ではアクシデントにより、黒い猫耳と鍵しっぽを生やした、ポッチャリした人影。

 メガネをかけた黒髪の地球人の青年。

 私達の仲間の一人、通称猫くんに子供達が笑顔で群がっていた。

 

 子供達は生まれつき、魔力生成能力が高い為。

 赤青黄緑といった、目立つ髪の色と瞳の色をしている。

 

 親は高い確率で人間の娼婦と、何処かの戦場を放浪する。

 無責任な魔族の男達だ。

 稀にだが、魔力関係の重大災害に巻き込まれた、人間の夫婦。

 母体内にいる胎児が変異して、半魔族の子供が生まれる事はあるが……その様な事例での生存確率は、この世界の人間の持っている、魔力の質や体内での生成量。

 種族間で微妙に質が異なる魔力の関係で低い。

 そのような半魔族の出自故。

 

 この子達は戦場で暗躍する、オークの人身売買組織に不幸にも狙われてしまい。

 その後……私達と出会ったのだ。

 

 そういえば。

 この子達を助けると言い出し。

 助けた張本人は、そのすぐ奥の地下室。

 予備の転移陣がある場所で、今は静かだ。

 その張本人とは、私が彼らの活動拠点ごと転移させた、レジスタンス組織の創設者。

 矢島だ。

 

 彼、矢島は戦況を確認しながら時々。

 HQに指示を出したりしている。

 矢島は今回の作戦でも、冒険者と共に前線で戦う事を熱望した。

 だが矢島の師匠でもあるミリサが一言。

 

『貴方は私達の奥の手だから、戦況を私の代わりに眺めた上で、いつでも出撃できるように準備ね』と念を押して、押しとどめていた。

 

 だが、それも仕方ない。

 矢島の装備している、西ドルア帝国製の鹵獲した兵器類が露見すれば、私達の命は西ドルア帝国に確実に狙われてしまう。

 万が一にも、矢島が戦う様な事態を避ける為、私達は数千人の冒険者達に大金を払い。

 この周辺の島嶼部に似たような、上陸者の一団をわざわざ囮として用意したのだ。

 だが、揚陸艦隊がピンポイントで此処に来たのは想定でも最悪の範囲だったが、あくまでも想定内だ。

 

 私達は事前に海中に敷設した罠。

 地球製の爆発物で、西ドルア帝国海軍の艦船を沈め。

 発艦したゴーレムは地球製の兵器。

 陸揚げしたハンドミサイルや自爆ドローンを全て使い。

 間一髪で何とか、撃墜する事は出来た。

 

 ヒュゥウウンズガシャァアアン!

 

「きゃあああ!」

「うわぁ~!」

 風切り音と衝突音の後に続き。

 子供達の悲鳴が響いた。

「!?」

 私は転移陣への魔力注入を中止。

 飛来物が着弾し。

 土煙を上げる――土嚢目掛けて走っていく。

 そんな私の耳元にはHQの焦った声が、ヘッドセットに届いた。

 

『こ、こちらHQ! 洋上からの攻撃で砦が大破! 敵の増援を目視と赤外線反応で多数確認!』

「こちらマギサ、敵の数と種類は?」

『数は不明! 敵は――うぁあああああああああああああああああ!?』

 

 ズドォオン!

 

「くそっ!」

 

 HQとの通信が途切れた。

 彼らが陣取っていた、観測所も兼ねていた、先史時代の高層建築の廃墟。

 その一つが魔力弾を撃ち込まれ。

 木っ端微塵に崩れていくのが見えた。

 その直後、私達の頭上を高速で飛行する――――私達が鹵獲しようとした、西ドルア帝国の主力兵器。

 竜の臓器、魔力発生や増幅を司る部位である『竜核』を取り出して搭載した、戦場の王者、竜核搭載ゴーレム、通称ゴーレムが飛行形態になった姿。

 矢尻状の機影が数機――禍々しく映った。

 

「げほっげほっ! お嬢さま! 急いで転移して下さい! 敵の増援です!」

「ミリサ大丈夫!?」 

 

 土嚢に突っ込んでいたのは額から流血した……ミリサだった。

 ミリサは子供やツバメ、猫くんの無事を確認すると――ニコッ――笑顔で離陸。

 ゴーレム相手に空戦を開始。

 魔力量が豊富で戦闘経験がある魔族なら、ゴーレムを空中戦でもそれなりに倒せる。

 だが、それも相手の部隊規模や交戦高度……経験次第だ。

 今の私は……数百年は生きている……彼女。

 ミリサを信じるしかない。

 タタタ! ズズン! 

 私の中で不安と期待が交差した瞬間。

 耳に銃声と炸裂音が聞こえ始めた。

 広場には私が見慣れた、二人の焦った声が反響気味に響いた。

 

「マギサ逃げろ!」

「マギサさん! 師匠がブッ飛ばされました!」

「義明! ツカサ! 大丈夫!?」

 

 フラッシュライトを作動させた、軽機関銃を構えた義明。

 腕から火球魔術を連続で撃ちだすツカサ。

 砂まみれになった、二人が駆け足で現れたのだ。

 

 タタタ!

 

 義明は持っている軽機関銃を発砲。

 フラッシュライトの閃光で何かを威嚇している。

 

 ボボン!

 

 ツカサも両腕に一週間近く掛け。

 魔族の禁呪で数万発も装填した魔術。

 攻撃魔術の火球を四方にボカスカ惜しみなく。

 撃ちまくっている。

 

 しかもツカサの両腕にはツバメの里を襲撃していた敵、帝国軍の将校達から奪った術具。

 ミリサの手によって改造された、ウェルテックスが装着されている。

 周囲の魔力を集め、ツカサへ圧縮供給する、ウェルテックスを使うのは緊急事のみ。

 確実に敵を殺す必要がある時だけだと。

 そのように、ミリサがツカサに教え込んでいたのは、私だけなく……皆が知っている。

 どう考えても、この状況は普通じゃない。

 

 何か――ドクドクドクン――嫌な予感がする。

 

 だが、ここで動かないと待っているのは『本当の死』だけだ。

 私は不安を振り切り――口を開いた。

 

「義明! ツカサ! あなた達も急いで転移させるから――」

「マギサ伏せろ!」

「きゃっ!」 

 

 タタタタタタ!

 黄金色の空薬莢が宙を舞い。

 瞬く間に火薬の臭いが拡散。

 義明は空になった弾倉を投げ捨て。

 背中の弾薬補給システムから伸びる帯を掴み。

 軽機関銃への弾薬の補充を始めた。

 ズズズドォン!

 

「ぉおおおおおお義明さん! 弾薬の補充急いでぇええ!」

「分かっているよ!」

 

 ジャラジャラ――ガチャガシャン! ズダダダダ!

 銃声と火球の爆裂音がやばい。

 ヘッドセットで私の耳元は守られている。

 だが、今の私は義明が私そっちのけで故郷の歌。

 アニソンを聴いている時と同じ。

 ヘドバン状態だ。

 二人は残った土嚢を盾に使い。

 周囲に向かって、とにかく撃ちまくっている。

 

「マギサ! お前たちは子供達と一緒に地下室に行け! ヤバすぎる!」

「敵は私と義明さんで食い止めますから!」

「二人共何を言っているの!?」

 

 それ以前に二人は一体『何と』戦っているの?

 

『こちら義明! 矢島出て来ぉおおい! 緊急だ!』

『こちら矢島、今ちょうど、地上に出たぜ』

 

 私の耳元には義明と矢島の交信が聞こえ。

 通りの先にある、地下室の入り口を見ると……赤い人影が出てきた。

 それは私達が、戦災孤児を人体実験の素材にされるのを防ぐ為。

 西ドルア帝国の研究所を襲撃した際。

 偶然にも鹵獲した、実戦試験に投入寸前だった、試作兵器の一つ。

 

 人間が着用して扱える、西ドルア製の小型竜核搭載甲冑の動く姿。

 左腰には西ドルア製の片刃造りの魔剣、右腰には刃と見間違う飛び道具。

 銀色の銃身をした、50口径の回転式拳銃を装備して……戦場に立つ……矢島がいた。

 

 矢島や義明はその魔剣を、彼らの故郷の剣と同じ名称の『カタナ』と呼び。

 その甲冑を纏った、矢島を故郷の空想上の存在。

『オニ』のようだと言っていた。

 私は未だにオニの立ち位置がよく分からないが『怒ったミリサ』を引き合いに出され。

 オニの側面の一つはこんな感じだと言われ、少しだけ腑に落ちた感じはする。

 後、鬼を表す漢字は見た目が気に入ったので、すぐ覚えた。

 

 そんな戦う鬼と化した、圧倒的な殺傷力を秘めた矢島の横を――――砂まみれの子供達が、同じ境遇の赤子を……必死に抱えて駆け抜けていく。

 矢島は駆けていく子供を見て、兜の外からも分かる……優しい目元を浮かべ。

 彼の脇で滞空するツバメ。

 自動式散弾銃を構えた猫くんを見て口を開いた

 

「ツバメと猫くん……子供達を頼んだぞ。マギサはさっさと地下に――!?」

 

 ズドン! 直ぐ上空で爆発音。

 空間と私の頭も不愉快に揺れた。

 

「何なのだなぁああ!?」

「これって上がやばい感じ? ミリサぁああ頑張れ! 頑張れ!」

 ビリィイズガシャァアアン! 

「きゃあああああああ! ミリしゃああああああ!」

 

 ツバメの悲鳴に近い驚きが轟く中。

 灰色の天幕がビリビリに引き裂かれ。

 衣服が所々で破れ、傷だらけになった私の乳母。

 ミリサが目の前に墜落してきた。

 

「みんな早く逃げて! ツバメと猫くんは地下へ!」

 涙を流し……悲愴な形相のミリサが叫んだ。

「わ、分かったのだな!」

「了解です姉御!」

 

 ダッ!

 次の瞬間――――矢島は無言のまま通りを駆け抜け。

 私はミリサに抱えられ――――地下室へ運ばれていく。

 運ばれていく私の視界。

 そこには義明とツカサの少し後ろで――矢島が垂直上昇。

 義明の機銃掃射とツカサの火球が突き抜ける空間。

 広場の中央部。

 回転が止まり、術式が崩壊して青い霧になった。

 ドスン! 転移陣の残骸の上に矢島が降り立った。

 矢島はカタナを右手で抜刀。

 ヒュン! 

 演舞の様に刃を素早く高速で振り――刃に周囲の魔力を喰らわせ。

 片手で斬撃を開始した。

 

 ガギィイイン! 

 

 青い魔力を纏った、真紅の刃の斬撃が何度も火花を散らし。

 

 ダダン! 

 

 矢島が銃爪を絞った――回転式拳銃の銃口が閃光を放った。

 矢島の繰り出した、魔力を載せた斬撃。

 50口径弾による至近近距離からの銃撃を受け。

 隠れていた敵が呆気無く。

 ……何体も浮き出る様に顕れた。

 緑色の血飛沫を吹き出し。

 全身を覆う緑色の鱗と二本の角。

 両手に握るのは金属質な竜の牙を鍛え。

 双剣や槍状にした武器。

 黄色い瞳が特徴的な種族。

 ……………………幼かった私の目の前で母を殺した『竜人族の暗殺者集団』だ。

 

「ぁああああああああああああああああああああ! ミリサぁああああああああ下ろしてお願い! 私を戦わせてよ! お願いよぉおおおおおミリサぁあああああああああああああああ!」

 私はミリサに抱えられたまま暴れた。

「…………」

 

 ミリサの表情は分からない。

 だが、私を抱える腕が震え。

 力が優しく強まるのを感じた。

 ◇

 その後、私は地下室へ運ばれ。

 泣きじゃくり暴れる私は、空中戦で魔力の残りが少ないミリサに睡眠魔術で眠らされ。

 そのまま――――矢島や義明、ツカサ達の故郷である異世界。

 地球に転移して……十数年の時が過ぎた。

 

 ◇◇◇

 

 ――西暦2030年代末――4月初頭 日本国内。

 

 中部州――――名古屋市郊外――――某所。

 

『――先週、硫黄島沖で行われた、海軍の総合火力演習中の事故について、国防省の駆逐艦が誤って撃墜したのは、演習に複数参加していたPMC(民間軍事会社)の内、一社が開発していた、無人の実験機であり、犠牲者はいないとの公式声明が国防省広報局からありました。また、現在も行われている、現場海域に流失した燃料の回収作業や、漁業関係者への補償は――』

 

 私はタブレット端末から流れる、朝のニュースを目覚めのBGM替わりに使い。

 私が内容に注目する情報を発するのは、別の媒体だ。

 それは部屋に置いた、スマートスピーカーが読み上げる報告。

 その声は今では亡き人になった、私の恋人。

 彼の声に似た、大人の男性特有の低い声で……大変気に入っている。

 

 既に私は自室内のシャワールームで体を洗い。

 着替えを済まし。

 

 ソファーに座って、湯気の登るブラックコーヒー片手に持ち。

 スマートスピーカーと連動した、壁際の大型モニターに映る。

 ……仕事関連の映像を見ている。

 

 壁際の窓には私の家族。

 猫達がゴロゴロと喉元を鳴らし……寝転がっている。

 この部屋の窓から見える庭には、植えた桜が満開だ。

 

『――以上が防犯カメラ、ドローンが捉えた、名古屋市郊外のスラム街で昨晩発生した、暴動の映像です。今現在は市警察と州軍部隊、幾つかのPMC、不特定多数の賞金稼ぎが、現地の治安維持に参加しています。他にも確認しますか? マギサ』

 

 私は名前を呼ばれ。

 意識を報告へ向け、コーヒーの香りを微かに感じつつ。

 ……口を開いた。

 

「どこも似たような映像ね。クラウゼ、現場のガンカメラの映像を出して」

『了解。市警察の業務記録分散サーバーにアクセス開始……関連映像を抽出完了。表示します』

「……クラウゼ、暴徒の中に紛れている、亜人種の種類と数を解析」

『了解……解析完了。種類と個体数はデータで表示します』

 

 【エルフ 151体】

 【ハーフエルフ 263体】

 

「……射殺したエルフとハーフエルフの数。それと隠蔽工作の進捗は?」

 

 尖った耳は、整形手術を施さなくても、身体偽装の簡易魔術で簡単に誤魔化せる。

 だが、エルフやハーフエルフ特有の高体温。

 人間より平均値で2~3度の高さは、サーモグラフィーで見る限り。

 偽装が無理なようだ。

 もっと無理なのは個体レベルで、魔力反応を誤魔化す魔術だろう。

 それを生身でやると、魔族以外の種族は、反動で死んでしまう可能性が高い。

 魔力の根源とは己の存在を糧に現世と異界を結び。

 異界に働き掛けて『流れ』を得る危険な行為。

 この認識は魔術を扱う者達の間では、基本的な共通認識だ。

 過去の回想に入りそうな、私の耳にはスマートスピーカーの声。

 クラウゼの声が響いた。

 

『――ハーフエルフ35体を市警察が射殺しましたが、残りの個体は全て逃走。市警察の検死は我社から派遣したスタッフが行っているので、隠蔽工作は既に完了しています。整った魔力反応のパターンや、検死解剖結果から、正規の軍事訓練を受けている、ハーフエルフと推測され、何れかの国家、参戦陣営が地球に送り込んできた、工作員の可能性が高いです』

 

「逃走したエルフ達の身柄を確保出来たら、最優先で尋問を進めるように」

『了解。それと第七研究所のツバメ様からメールが届いています』

「読み上げて」

『パイロットがまた山中に逃げた。折角だから有給を使い――』

「――私が直接研究所に出向くから、ツバメをそこから動かさないで。警備隊と賞金稼ぎも使って、付近の山狩りも実行開始」

『了解。山狩りの依頼をPMCネットに発注しておきます』

 

(……たく。ツバメも何やっているのよ! これで逃走者は何人目よ!) 

 

 私は友人が抱えてきた問題にも、悩みそうになったが、優先順位を考え。

 直ぐに意識を切り替えた。

(それよりも今は――こっちだ!)

 この世界に来た、私達の仲間にもエルフやハーフエルフは何人かいる。

 だが国家という枠内では、私達の陣営の敵勢力だ。

 エルフ主体の国家となると、その数は大国規模で一つ。

 中小の衛星国が10あるかないか位だ。

 とはいえ、エルフ達も救済戦争に備え、転移魔術の研究をしている眉唾物の噂。

 都市伝説や陰謀論はあった。

 結果からして……その噂は正しかった可能性が高い。

(しかし、これはなんだ?)

 

 【不明 3体】

 

「クラウゼ? この不明3体は?」

 不明3体として分類されたのは3人。

 映像で見る限り、暴動に巻き込まれた。

 怯えた一般人男性に見える。

 

『該当する種族の情報が、データベースにありません。外見と話している言語から、日本人男性に見えますが、魔力探知センサーから得られた簡易反応が、他の平均的な地球人の値とは、異なります』

 

「不明3体の魔力反応を詳細に解析して」

『了解、本社の魔力解析システムにアクセス――――』

 

 もしかしたら、ご先祖様に異世界人の血筋がある人かも知れない。

 偶にいるのだ……魔力を浴び。

 望まずに魔力関係の力に覚醒してしまう地球人が。

 状況からして、日本に潜入しているエルフが先導した工作。

 暴動に巻き込まれたみたいだ。

 事後処理は出来るだけ、穏便にしておきたい。

 私がいるこの場所、この国は……今は亡き人。

 私の愛した彼、私からは遠い存在になった、遠近義明の故郷である。

 だからこそ私は、この世界の人々には、不必要な迷惑は掛けたくないのだ。

 

 それ故、私達の陣営の基本方針はステルス重視。

 

 私達『異世界人の存在はフィクションの産物』と世間に信じ込ませてきた。

 その為には、あらゆる手段を使い。

 社会的な認識を操作する事で、私達は余計な軋轢を避けて本来の目的。

 私達の世界で、私達が女神の代理人の座を手に入れる為の力。

 独自の自己完結した軍事力の構築と保有。

 …………故郷の世界で女神の座を手に入れる準備、日本で言うところの『天下取り』の準備に専念できるのだ。

 私は不必要に高揚しそうな気持ちを落ち着ける為。

 カチャ 

 コーヒーを口に含んだ……苦味と熱さが心地良い。

 

『――――解析完了。魔力反応値は活性値が平均的な地球人の約五百倍から、数千倍程の間で不安定化して非常に危険な状態と判断しま――――緊急です。スラム街の治安維持に出動していた州軍歩兵中隊が『鬼化した不明3体』並びに武装ゲリラと交戦状態。交戦している歩兵中隊の被害は甚大――――』

 

 ブシャアアアアア!

 

 私は思わずコーヒーを吹き出し。

「げほっ! げほっ!」

 不覚にも二度目のシャワーを浴びる事になった。

 窓の外では強風が吹き始め…………桜吹雪が舞っている。

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