――特別軍事法人NEET第七研究所 屋外訓練場――
『ここにいる転移者の皆様! その大半は転移直後の戦闘で、既にご覧になっているとは思いますが! 私が発射したのは魔力で作った魔力矢と言われる、攻撃魔術の一種です。訓練すればこんな芸当も出来ますよ♪ さて由美ちゃん、一般的な魔力矢を撃ってみようか――』
◇
「神谷さん、アレってクレー射撃の標的ですよね」
「だな。それにしてもあの子、上手いな~全部撃ち落としているよ」
「弓って言っても、銃と変わらないだろ」
「速射性能だけでなく、矢に誘導性能とかもありそうですね」
「それじゃ昨日、俺達が食堂でしていたスマホのゲームと一緒――」
隣の神谷達が言うように。
紅菜はノリノリでステージの床から飛び出してくる物体。
クレーを魔力矢で静かに撃ち抜き。
……残骸を唖然とする転移者達の上。
グラウンド全体に撒かれる様に射抜き続けた。
『皆さん! 今から通常の魔力矢を発射します!』
由美がそう言うと、ステージの下から透明の物体。
ショーケースがせり上がってきた。
中にはカラフルな剣や槍に杖。
そして由美が素早く掴んだ。
弓の類いが飾ってあった。
「おい、こっちを狙ってないか?」
転移者の誰かが呟いた瞬間。
由美の構えた弓から――赤い光の矢が放たれた。
――同時刻 市警察東署 周辺上空――
◇
「対空攻撃! 全機回避!」
やべえ! 撃ってきやがった!
既に低空を飛んでいた攻撃ヘリ。
護衛ドローンは撃墜!
残っているのは俺達。
3機編成のAC10だけだ!
『本部とのデータリンク途絶!』
『隊長! なんですかアノ装甲車!?』
「分からん!」
クソッタレ! データリンクへの妨害だと!?
電磁パルス効果がある弾頭か!?
『反撃の許可を!』
確かにさっさと反撃をしたい。
だが――アレは州軍の装甲車だ。
それ以前に装甲車の攻撃目標は『我々の護衛対象』なのか!?
やはり識別装置は切って――くそ!
本格的にこっちを狙いはじめたな!
……仕方ない。
「全機! 交戦開始! 目標はバイパスを降りた装甲車六両! 全機俺に続け! ワイバーン交戦開始!」
『了解! マッドハッター交戦開始!』
『了解! サラマンダー交戦開始!』
俺達は高層ビルの谷間に向け――急降下。
……反撃開始だ。
◇
「クラウゼ。状況は?」
『多数の魔力反応を感知。魔術兵器特有のパターンと一致』
「推定される攻撃目標は?」
『第一射で我々の車列を攻撃しない事から別目標と推定。推定される攻撃目標は蘇生したハーフエルフを保護している、市警察施設とハーフエルフ二名』
「ありがとう。エルーナとツバメ。準備は大丈夫?」
「いつでも殴り込めるわよ。ツバメは私に随伴して側面援護」
「オッケー! 久しぶりだね! 私達だけで戦うなんて♪」
エルーナとツバメは既に戦闘態勢だ。
私は久しぶりに戦闘。
それもクラウゼと一緒に戦う。
戦場に立つのは十数年ぶりだ。
『マギサ。間もなく手前のオフィス街で我々の車列は停車する。そこからは徒歩で市警察東署まで行軍だ。魔力強化は大丈夫か』
「大丈夫よ。クラウゼ、貴方も側面援護をお願いね」
『了解。先に私と護衛が降車する――降車開始』
ウィイイバシュ!
クラウゼが窓から外に向け飛翔。
車両スレスレの上空で旋回を開始。
別の車両からは護衛達が銃火器を構え。
周囲に展開。
続いて――私達も車外へ飛び出し。
ビルの谷間を伝い。反響する爆音と銃声。
緊急車両のサイレンと拡声器から流れる怒号。
夏と戦場の熱気が……私達を包み始めた。
――同時刻 中部州北部 ゲリラ支配地域――
「ねぇルガス! 湖だよ!」
「ブルナ、今の時期は水量が増えてこうなるんだよ。冬場は一面が雪原だけどな」
「へぇ~それも見たいな」
俺達の部隊で最年少の少女。
元実験体のブルナがお供の妖精族と一緒にはしゃいでいる。
それに引き換え。
他の元実験体の少年少女達。
ブルナの兄や姉に相当する彼らは大人しい。
……今では廃絶された国教の糞共が……人体実験で彼らの自我を潰した結果だろう。
ブルナは奇跡的に自我を取り戻したが。
彼らの自我がどうなるかは俺にも分からないし。
俺が悩んでもしょうがないだろう。
俺達は食事を済ませ。
雪解け水で水量が増え、湖に近くなった湿地帯に乗り込み。
乗り換えた大型の水陸両用車。
オルーシャが運転する。
クルーザー並みの車体で水上を進んでいる。
荷台にはバーベキュー用の道具。
そして、ブルナが興味深く見ていた。ジェットスキーが積んでいる。
後でブルナを乗せてやるか。
そんな俺の隣には上官である。
「姉御、どうしたんですか?」
鱗が無くなり金髪美女になった。
色々あって、今では俺の義理の姉でもある。
ガルーシャがいる。
「此処は綺麗だな」
「元はこの国の保護地、帝国北部の避暑地と似たような場所ですからね」
「そうか。なら暫くは満足な休息が取れそうだな」
「流石の姉御も、亜空間の突破は堪えましたか?」
「出来れば二度としたくないな。遠征打撃軍の演習に紛れての亜空間入りなど、二度と御免だ。味方の魔力弾に殺されそうになるのは不快だ」
「そりゃそうだ。ちょっと失礼、着信だ」
(そういえば、この辺は通信圏内か)
俺は姉御に一礼をしてから。
スマホの着信を見た。
送信者の表示はこの世界で俺達の協力者。
反政府ゲリラの司令官。
「もしもし。どうしました藤堂一佐」
元はこの国の防衛組織、自衛隊の幹部だった男。
俺達の世界からの転移者の子孫でもある藤堂一佐からだ。
『ルガス、緊急だ。ニュースをチラ見したら直ぐに基地まで来てくれ。その方が速い』
そういうと藤堂一佐は連絡を切った。
俺はスマホのニュースを確認。
『#速報! 市警察東署を武装集団が強襲!#』
「糞がぁああああああああ!」
俺にはニュース速報の見出しと。
よく見知った連中。
南エルフ軍の残党が映った映像だけで十分だった。
「どうしたルガス!」
「すみません姉御! 急用です! オルーシャ! 後は頼んだぞ!」
俺は急いで荷台に向かい。
ジェットスキーに跨り。
水面に飛び出し――ずぶ濡れになりながら。
藤堂一佐の待つ基地へ急行した。
――約一時間前 市警察東署 留置所の一角――
◇
『――ご覧下さい! 署の周りは祭りの様な状態です!』
『では一旦スタジオに戻します。ご覧の映像は昨日深夜、ネット上に流出した市警察東署内の映像です。一部、過激な映像がございますので――』
「鬼沢~どうするよ。俺達ニュースに出ているぞ」
「しょうがないですよ。松沢さん」
俺と松沢隊長を含め。
あの死体安置所に居合わせた面々は揃って畳の上。
バイオハザード対策で隔離中だ。
防護服を着た署員に囲まれた瞬間。
次のスケジュール内容が分かりきっていた方。
バイオハザードのマニュアルを作った方の一人。
松沢隊長が無理矢理持ち込ませたブツ。
テレビを視聴中だ。
「そりゃそうじゃ、完全に後の祭りじゃからな」
「珍しく誰も死んでないから、この程度の情報流失なら始末書で終わりでしょ」
「龍澤! 不吉な事を言うな!」
「こりゃ失礼」
龍澤の立てたフラグを源さんがへし折り。
情報流失を起こした張本人。
女二人と巻き添えの一匹は向かい側の房でゴロゴロしている。
(たく二人共、パンツ丸見え)
水色のパンツが丸見えの麗華がヒョイと起き上り。
声を発した。
「ねぇ隊長。私達どうなるんですか」
「指示があるまで此処で待機だ。のんびりしていろ」
「了解です」
チラ。
麗華は隣で丸まってピンク色のパンツを見せる……相棒の肩を揺すりながら話しかけた。
「若菜、いつまでも落ち込んでいちゃダメよ」
「だって」
「いいじゃない。私達のパンチラや乳首が少しネットに出たくらいで」
「……これじゃ……お嫁に行けない」
「あんた、動画の再生数伸ばしたいって初詣でお祈りしていたけどさ。偶然とはいえ、叶ったじゃない!」
そう、俺達がここにいる原因の発端。
それは俺の分隊の隊員。
若菜と麗華が官給品のスマートゴーグルを使い。
アニメの実況動画をしていたのを忘れ。
そのまま俺達と合流。
生き返ったハーフエルフと殴り合い。
取り押さえるまでの一部始終が動画でネット上に生中継された。
そういう事だ。
「……こんな伸び方、不本意……」
休暇を潰された俺も不本意だよ。
君達のパンチラでチャラにしとくわ。
ガチャ。
「朝食お持ちしました」
顔を知っている若い警官がダンボールを抱え。
房の入り口に入ってきた。
バイオハザードで隔離中と言っても、それは名目上だけだ。
今入ってきた警官も防護服など着ていない。
軽装の夏服だ。
何せ元になっているマニュアルが『対ゾンビ戦用』なのだ。
そして、そのマニュアルを作った原因。
松沢隊長が隣にいるのだ。
俺達が此処にいるのは、お役所の事情という事である。
「お、やっと朝飯って――レーションかよ!」
「この渋滞で出前は無理ですよ。売店のサラダも残っていたので、サービスで入っています」
「そこのワンちゃんには、ドッグフードがありますよ」
『ワン!』
腹が減っていると漏らしていた松沢隊長。
畳の上に置かれたダンボールに見事な匍匐前進で一番乗り。
我先に物色を開始。
「どれどれ」
ガサガサ。
「お、これはイイな」
「麗華、若菜! エビサラダとサーモンサラダどっちがいい! 先に取っちまうぞ」
「すぐ行きます!」
麗華がエビの様に丸くなっている相棒。
若菜の分のサラダとレーション、マロンのドッグフードを取りに来た。
俺も朝食を手に取り。
サーモンサラダを食べ始めた。
――数分後――
「隊長、そういえば例の二人はどうなったんでしょうね?」
テレビを間近で見たかった麗華も加わり。
朝食を食べながらの雑談が始まった。
若菜は朝食を食べるとマロンを抱き枕にして。
向こう側で寝てしまった。
「そうだな。公安が身柄を拘束したいみたいだから――連中の基地に連行だろ」
「連中?」
「NEETだよ。今更だが、俺も何度か妙な連中をNEETの基地に連行したからな」
「妙な連中?」
「魔法使いや騎士みたいな格好をした連中だよ。その時は笹穂耳の連中はいなかったけどな……なぁ鬼沢と龍澤」
「なんですか松沢さん」
松沢隊長の問いに龍澤が反応した。
「お前らの古巣は『何を相手に』戦っているんだろうな」
俺は向かいの龍澤にアイコンタクトで促され。
口を開いた。
「それが何かは俺には分かりませんが。ただ」
「ただ?」
「分かっているのは、国内最大の民間軍事会社のNEETが隠しきれない程の脅威になっているのは間違いないですよ」
「だろうな。俺達も忙しくなりそうだから、今の内に休んでおくか」
俺達は手早く朝食を済まし。
会話から生まれた、微かな緊張感を纏い。
ニュースをBGMにして、久しぶりに感じた感覚。
戦う前特有の胸騒ぎを抱え……休息を取り始めた。