※この作品はR-18です。

魔女の天下取り   作:hidenyan

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<08話 目覚めた者達 08>

     ――中部州北部 反政府ゲリラ支配地域 湿地帯と森林の境界――

 

 水面の底で陽光に照らされ。

 静かに揺らめく……水没した草花と泳ぐ魚影を抱える。

 ……若木の水没林。

 

 ヴィイイイイイン!

 

 その静寂をウォータージェットの水流でぶち壊し。

 水中芝刈り機と化した、一台のジェットスキーが水飛沫を巻き上げ。

 

「ひゃっほぉおおおおおおおおおお!」

 

 一人ノリノリになったサングラスの男。

 金髪碧眼の筋肉マッチョ。

 びしょ濡れのルガスを載せ――――水上を疾走していた。

 ルガスの向かう先は何度も水没を繰り返し。

 樹齢数百年から数千年の大木が乱立する地。

 陽光が遠のき……苔類が地面を覆う……緑の摩天楼。

 樹海の深部だ。

 

         ――樹海深部 反政府ゲリラ基地 桟橋――

 

 微かな木漏れ日が差し込む水辺。

 陸地から水辺に伸びる桟橋には……ゲリラ達が使う水陸両用車や小型船舶が停泊。

 物資類の積み降ろしを行う、旧型の作業ドローン達が桟橋の上を動き回り。

 少し離れた砂浜では、迷彩服姿のゲリラの小隊が汗を流し。

 朝練のジョギングを行っている。

 その一角、桟橋と砂浜の中間に位置する、水面に向けて伸びる大木の根元。

 天然の桟橋で釣りに興じる……老人がいた。

 

  ◇

 

「今日の朝練は歩兵小隊だけか~」

 

 いつも一番乗りで朝練をしている連中。

 同じ世界から来たエルフ共。

 奴らは夜明け前から慌ただしく。

 やけに騒がしかった。

 今日は基地の外で演習かの?

 

「なんじゃ? 騒がしいの~魚が逃げ――――アレはルガスか!?」

 

 ◇

 

「ウヒョォォォォォ!」

 

 クイッ――バシャアア!

 

 やべ!

 朝練の連中に水飛沫を浴びせちまった!

 お返しの野次も相変わらずだ。

 だが、大きくターンを決め。

 減速の為に距離を稼がないと。

 俺が砂浜に突っ込んでいたのは間違いない。

 減速した俺は浴びた水で頭を冷やしつつ。

 ……桟橋に接舷した。

 

 ◇

 

「さて、急がないと――お」

 

 同じ世界から来た仲間が釣竿を振り上げ。

 駆け寄ってきた。

 

「ルガス! 朝食の魚が逃げたぞ!」

「ボルス済まない!」

 

 俺は医療魔術の専門家である、衛生兵のボルスに謝ると。

 懐から未開封の箱。

 ボルスもよく食べる、カロリーバーを投げ渡し。

 ボルスが笑顔でキャッチするのを見てから。

 再度話かけた。

 

「司令は地下壕か?」

「なんじゃ、急ぎか?」

「そうだよ」

「今日はエルフ共といい。忙しい奴らが多すぎじゃ」

「それだよ! それ! だから俺が忙しいんだよ!」

 

       ――――数分後 ゲリラ基地 地下壕――――

 

 モニター類が立ち並ぶ、薄暗い墓所のような冷えたコンクリートの空間。

 此処に勤務するゲリラ達が此処に来るまでの道。

 かつて、この地を切り開いた先人達。

 僧兵達によって壁に掘られ。

 或いは埋め込まれた、地蔵の道を通る度。

 無意識に感じる印象は概ね、墓所の類いだ。

 

 それは今ここを歩く者達。

 死生観の違う世界。

 異世界から来た者達にとっても差はあれ。

 戦いの場に身を置くのなら尚更……似たようなものだった。

 

 ◇

 

「早かったな。ルガス」

「藤堂一佐! なんでエルフ達が白昼堂々と市内に殴り込んでいる!?」

「原因はコレだよ。ボルス氏、私も一本いいかね? 私も腹ペコだよ」

「しょうがないの。半分やるわい」

「失礼……寄り合い所帯は人心掌握が難しいですな。ボルス氏」

「藤堂よ。エルフの連中は我々と目的の優先順位が違ったのだ」

「そうでしたな」

「これは色々と面倒な事になりそうじゃわい」

 

 片手に握ったコーヒーの湯気で……メガネのレンズを白く曇らせ。

 サクッ……。

 ボルスから貰った、カロリーバーを齧り……目元を輝かせる男。

 反政府ゲリラの創設者にして、指導者の藤堂がモニターを見るよう。

 俺を促してきた。

 見たところ検死を行う警察施設。

 俺達の天敵である、SWATの隊服を着た男がいる様子からして。

 市警察内部の防犯カメラの映像だろう。

 

「エルフの死体か…………おいおい!」

 

「昨晩ネット上に流出した映像だ」

 

「…………なんだよ…………これ」

 

「私も驚いたよ。我が家の伝承で聞いていた様式と違い……まるで、ゲームの蘇生魔術を彷彿とさせるな。だが、コレが君達の世界では当たり前なのだろう?」

 

 藤堂に問いかけられ。

 俺は言葉に詰まった。

 確かに女神の奇跡と呼ばれる魔術。

 死者完全蘇生魔術は俺達の世界じゃ当たり前だ。

 冒険者連中が冷気の漂う、冷凍魔術で保冷した棺桶や死体袋を伴って並ぶ。

 教会前の行列は、どの国や地域でも昔から日常の光景だ。

 

 だが、俺が見せられた防犯カメラの映像。

 そこには教会にお馴染みの復活の祭壇もなく。

 蘇生魔術を行う司祭もいない。

 …………そんな異常な死者蘇生。

 俺は見た事も聞いた事もない。

 

「ほう、事前装填の蘇生魔術とは古式ゆかしいの。コレなら魔力検査でも発覚せず、どの陣営の懐にも潜り込める筈じゃ」

 

「ボルス氏。ルガスの反応からして、そちらでもコレは珍しいのかね?」

 

「かなり昔に廃れた蘇生魔術じゃよ。コスパが悪いと言えばいいかの……こりゃエルフ共が慌てて殴り込むわけじゃ」

 

「ボルス! 同郷の俺にも分かるように説明してくれ!」

 

「焦るでないルガス。要はお前さんの様に生まれがいい者達の為に作られた魔術じゃ」

 

 俺の生まれは人間で西ドルアの貴族だ。

 ……そういう事か。

 

「つまり……エルフの貴族向けか」

 

 俺達と行動を共にしているエルフやハーフエルフ。

 南エルフの残党は共和制時代の軍人だ。

 共和制を転覆して、数百年ぶりに南エルフに返り咲いた者達。

 貴族階級は連中にとって敵。

 その中でも……倒すべき優先順位は最上位だろう。

 

「そうじゃ、エルフの貴族連中が大昔に使っていた、高級な蘇生魔術じゃよ。ただ難点があってだな、この魔術を装填する際の魔力が桁違いに多い事。後は使える対象や発動条件の設定が――――藤堂! 画面を見ろ! なんか大変な事になっておるぞ!」

 

 ボルスが藤堂の背後。

 メインモニターを釣り竿の先で差し。

 驚いている。

 モニターの向こう側。

 名古屋市内で派手に爆発が起きているようだ。

 オフィス街に急降下していくのは、ゴーレ――ムじゃなかった。

 ……この世界の攻撃機か。

 

「これは宜しくないな。ルガス」

 

 藤堂がメインモニターに映る、爆炎を見ながら懸念と俺の名を漏らした。

 ……となると。

 

「君にエルフ達の始末を頼みたい。此処まで公の場で暴れられては隠蔽工作も不可能だ」

 

 当然そうなるよな!

 

「エルフ達がNEETに捕まって情報を漏らせば、NEETに本格的な武力介入の口実を与える事になる。そうなれば我々が共有する戦略目的……『ニキティスの鍵』の作成が外部……NEET側に露見、破綻する可能性が高くなるのは避けたい」

 

 俺が此処にいる存在理由。

 それはニキティスの鍵などという、俺達の世界に伝わるおとぎ話の類い。

 鍵の実現性を帝国お抱えの学者たちが立てた、大胆な仮設を基に検証を行い。

 俺達に共通する目的達成から得られる成果を得る為だ。

 故に目的の破綻は俺や姉御達の任務失敗……後がない俺達の死を意味している。

 それだけは絶対に……何が何でも避けねばならない。

 

「藤堂、直ぐに出撃するから地底湖の簡易ゲートを使わせてもらうぞ」

「そうしてくれ。帰りは好きなセーフハウスを使え」

「そうさせて貰うよ」

 

 確かにエルフ達がNEET側。

 マギサ達の陣営に捕まれば、余計な事を喋る可能性が高い。

 これまでも脱走者の類いは散々始末してきた。

 だが、男女ペアのエルフかハーフエルフは…………始末した覚えが全く無い。

 

(別の奴が始末したのか? そんな事より急ぐか!)

 

「ルガス!」

「なんだよ。ボルス」

「カロリーバーもまとめ買いして来いよ! こっちじゃ高すぎるわい!」

「分かったよ」

「ボルス氏、ここの物価は物流コストが適正に反映されていると思うが」

「藤堂! このカロリーバーの名古屋市内との価格差は3倍じゃ! さっさと地底湖のゲートを相互通行可能にせねば、わしの懐が空っぽになるわい!」

 

 映画館の様な爆音。

 爆炎の映るメインモニターの輝き。

 藤堂とボルスの物価に対する会話を背にして。

 俺は部屋を後にした。

 

              ――――地底湖――――

 

 照明に照らされた、鍾乳石の岩肌とコンクリート壁のコントラスト。

 水面を囲むように照明郡の輪が輝き。

 まるで、夜の港街の様にしている最大要因は水上に浮かぶ幾つかの船影。この空間の半分近くを満たす膨大な水だ。

 かつて、その水を全て抜けば『此処には小規模な地下都市が出来るだろう』その様に考え、此処に莫大な資金と資材を超法規的に投入した者達の大半。タカ派の官僚や政治家の大半は、先の大戦の混乱時。

 消息不明や戦死で消え去り……ここを引き継いだのは転移者を祖先に持つ者。

 反政府ゲリラを生み出した、一人の男だけだった。

 

 ◇

 

 俺は藤堂のご先祖様が残した遺物。

 俺達の世界でも希少な制御可能な状態で動く、古代兵器。

 この世界、地球でいうところの戦艦の内部。

 片道専用の簡易ゲートを生み出す部屋。

 その入り口の前で完全武装の体制でいる。

 

「たく、完全武装は重たいから嫌なんだよ。しかも慣れた得物は使えないし最悪だぜ」

 

 それでも俺はエルフ達を始末するしかない。

 ガチャ……扉を開けた先には青く輝く円形の水面。

 にしか見えない、簡易ゲートが飛び込む者を待っているようだ。

 

「よし、行くか」

『ルガス待て!』

 

 飛び込もうとした寸前。

 藤堂に無線で呼び止められた。

 

「おいおい藤堂! 急いだほうがいいだろ!?」

『どうも事態は更に深刻なようだ。君、傍受した警察無線を流せ』

 

 どうやら藤堂は脇に控えるオペレーターに指示を出したようだ。

 俺の無線にも警察無線が流れ出した。

 

『――――展開中の市警各部隊に告ぐ! コード033が発令!』

 

 確かコード033はNEET絡みでよく使われる、市警察の緊急コードだ。

 

『――――対象はNEETの要人救出! 対象はオフィス街で爆発に巻き込まれ意識不明! 繰り返す! コード033が発令! 至急座標――――』

 

(おいおいおいおいおいおいおい。ちょっと待て)

 

「おい藤堂……………………NEETの要人って誰だ?」

 

 NEET側の要人の動きは可能な限り。

 普段から動向をチェックしていた筈だ。

 …………嫌な予感しかしない。

 

『――――ニキティスの鍵候補のマギサだ』

 

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