――市警察東署 留置場の一角――
「おいおい。なんで俺が記者会見をする事になるんだ? あのハゲにやらせろよ!」
「松沢警視、本部から戒厳司令が来ていますので、ハゲ――失礼しました。署長は其方の対応に追われています。鑑識の責任者である源さんも、専門家の立場から――」
どうやら松沢さん達はこれからハゲ。
署長の代わりに記者会見をやるようだ。
若い婦警がパッド型の端末を二人に渡し。
松沢さんと源さんは説明を受けながら、パッドで内容を確認している。
「それじゃ仕方ないわい。松沢行くぞ」
「そうだな。まだ時間はあるか?」
「ええと、三十分はありますね」
「先に行って準備をしてくれ。鬼沢、ちょっとついてこい」
「……? はい」
――市警察東署内 廊下――
「急げ! 急げ!」
多くの機動隊員が慌ただしく。
装備を纏った身体の駆動からガチャガチャと音を鳴らし。
団体で行きかう廊下。
暴徒制圧用の装備をした機動隊の隊列。
隊列の進行方向とは逆方向に向かう。
二人の男がいた。
「敬礼!」
機動隊から流れるように敬礼を受けていく二人の男。
それは市警察SWATの頂点である松沢。
SWAT隊員の鬼沢だった。
◇
ピー! ガチャ。
「鬼沢。中に入れ」
「はい」
俺は松沢隊長のオフィスに初めて入った。
だが、ここはまるで……。
「まるで武器庫……ガンショップみたいですね」
「退職後は銃器店を開業したいからな。その練習さ」
襲撃対策で窓がない壁。
そこには大量の銃火器が種類ごとに掛けられている。
弾薬や予備弾倉もすぐ下の弾薬ロッカーを兼ねた収納スペース。
……ショーケースに入れているようだ。
「俺の場合、東署で来客の対応はしないからな。折角だし、ここは好きに使わせて貰っているよ。因みに全部、整備済みの鹵獲品だぞ」
「鹵獲品ですか」
「それもここ一年で鹵獲した銃火器の一部だけで、この量だぞ。鬼沢、お前はどう思う?」
「……やはり北ですか」
「そうだ。北部のゲリラが出処だが、連中の装備……最近やけに良くなっているよ」
「確かに、これなんて――」
俺は松沢隊長に確認してから、サプレッサー内蔵のライフルを手に取った。
暗視機能からサーモグラフィー、各種センサー等の機能を搭載した、火器管制装置とでもいうべき、多機能型スコープを搭載した上で、各部に改造が徹底的に施されたであろう逸品。
鰐や竜のような存在感を放つ…………折り畳み伸縮式銃床の狙撃銃だ。
「……俺達(SWAT)でも予算を考えたら、此処までの改造は無理ですよ」
「だよな。だから今後は鹵獲品も俺達の元祖であるロス市警に倣い、ガンガン使って有効活用していくぞ。お前は元々マークスマンだろ? それが気に入ったのなら、下の弾薬と一緒に持っていけ」
確かに最近は人員不足でなし崩し的に。
ライフルマン状態だったが。
マークスマンとして……仕切り直すいい機会だ。
「頂きます」
「鬼沢、それを直ぐ撃てる様にしておけ…………なんか嫌な感じがする。お前には屋内射撃場での射撃訓練、武装待機を命じる」
「了解」
俺は松沢隊長の命令に従い。
狙撃銃と弾倉、弾薬を手に取り。
屋内射撃場へ向かった。
◇
「…………さて、鬼沢に渡したい物は別にもあったが、今はこの情報を出さない方がいいか」
デスクに座った松沢は引き出しをスライド。
中にあるスイッチを押し。
天井裏にある、網目状の収納が……ゆっくりと……目の前に降下してきた。
収納の中身は玩具の様に、無造作に収められた異世界の武器だ。
「……」
松沢は鹵獲した魔弓や魔剣に魔杖や魔槍を眺め。
「一度に与える情報量が多過ぎると、現場での判断が鈍るだけだからな~」
ぼそりと悩みをつぶやき。
様々な方面へ思考を巡らせ。
無言のまま……頭を悩ませ始めたのだった。
――同時刻――
――特別軍事法人NEET第七研究所 屋外訓練場――
◇
ズドォオオン!
「うぉ!?」
「なんだ!」
「バリアか!?」
突然、俺達の眼前は由美の放った魔力矢が弾け。
轟音と赤い閃光の膜に包まれた。
閃光といっても視力が奪われるほどではない。
遊園地のアトラクションに近い光量だ。
「きゃはは! 始まったね!」
「ねー!」
俺の肩に座るアゲハ。
周囲の妖精達は何やら、はしゃいでいる。
口振りからして、これから何が起こるか。
知っているのだろう。
ん?
「おい、下の奴ら倒れてないか?」
「本当だ!」
神谷達が騒ぎ始め。
その疑問に周囲の妖精達が勝手に応え始め。
「これで選別も完了~」
「今回のパイロット候補は君達だけみたいだね!」
「でもさ、どっちかって言いうと~君達は操縦される側の比率が高いかな?」
「ちょっと待って! 下の連中はどうなる!?」
俺達が抱いた疑問を神谷が素早く口にした。
「ん? 記憶を消して元の世界に戻るか、訓練を終えたら冒険者として私達の世界に送り込まれるかの二択だよ。君達も選べる道は一緒だけどね~!」
「うん! スタート地点が圧倒的に違うから~君達はこのチャンスを逃さない方がいいよ!」
――数十分後――
――中部州東部 上空――
◇
私は約数十分前。
秘書の新谷に体を揺さぶられて機内で目覚め。
転移者達を研究所に運ぶ道中、普段通りに新谷から報告を聞いていた。
午後からの予定は、都内で国防軍上層部と会談。
その筈だったが……全てキャンセルだ。
◇
「状況はどうなっている?」
「はい。今現在、マギサ局長達が向かった市警察東署周辺が、魔術兵器を使う武装集団の攻撃を受けています。市警察の応戦や賞金稼ぎの乱入で現場は混戦状態。隠蔽工作も困難になりつつあります」
荒れてきた上に、隠蔽工作が困難になるのは不味い。
……ならば仕方ない。
「私も直接介入するぞ。私の護衛名目で『対魔術戦部隊』に出撃命令だ。先に現場に展開させておけ」
「承知しました。本部へ至急、対魔術戦部隊に――」
対魔術戦部隊、構成員は地球帰還時の異世界からの同行者。
或いは亜空間で遭難の末に地球に迷い込み。
我々に救助され。
我々の陣営に参加する事を選んだ、冒険者連中で構成される、特殊部隊だ。
だが――。
「それだけじゃ手勢が足りないな。寄り道をするか」
――同時刻 中部州 名古屋市内 戦災孤児院跡――
無人の自律型大型重機が轟音と土煙を巻き上げ。
鉄骨剝き出しのコンクリート片をロボットアームで掴み。
次々に無人ダンプトラックの荷台に放り込む。
水道ホースと接続した、自律型作業用ドローンが土煙に散水をする場所。
ここは誤爆を受けて誕生した瓦礫の山。
戦災孤児院の跡地だ。
幸いにも誤爆による、死者は皆無だった。
だが、ここに住む子供達の友達。
縫いぐるみ達は犠牲になってしまい。
そこら辺で白い綿を出し。
昇天している。
その傍らで瓦礫の撤去作業を手慣れた手つきで行うのは、災害派遣をされた州軍の兵士達。
その中に一人混ざって作業をする、作業用の安全ヘルメットを被り、作業服を着た。
オレンジ色の髪をした少年がいた。
彼は水分補給の為、給水所になっている白いテントに向かい。
顔見知りの少女からスポーツドリンクが入った、冷えた缶を受け取り。
プシュ!
……ゴクゴクと飲み始めた。
◇
「うめぇえ!」
「誠~お疲れ~!」
「春菜サンキュー」
「誠、あんたもいい汗かいたね。少し休みなさいな」
「ありがとう婆ちゃん、そうするよ」
白髪でも着物姿が似合う。
背筋が凛とした老女。
この婆ちゃんは育ての親も同然。
矢島の婆ちゃんだ。
この人が育てた男に俺達は命を救われ。
俺達も育てられているのだから、人の縁というものは不思議だ。
「おや? なんか空が騒がしいじゃないか?」
ポンポン!
「花火大会の準備かな?」
「そういえば、もうすぐだったな」
「もうすぐといえば、州軍の人達も帰る頃じゃなかったかい?」
「だよね。お婆ちゃん私、隣のテントで聞いてくるね!」
「頼んだよ」
春菜が元気に走り出した直後。
俺は懐に振動を感じ。
テントの奥に移動。
俺の携帯端末には育ての親である男。
ボソボソ。
「もしもし矢島さん、どうしました?」
『おはよう誠。ちょっと手伝いに来てくれ』
矢島さんから連絡が入った。
「今はボランティア活動の課外実習中ですよ。おばあちゃんも一緒で」
『マジか……婆ちゃんも一緒かよ……まぁ大丈夫だ。学校には後日、私から連絡を入れておく。今は緊急だ。春菜と装備を持ってその場で待機していろ。もう直ぐ真上だ』
「へ?」
「誠、誰から連絡だい?」
矢島の婆ちゃんは察しがいい。
噓は逆効果だ。
どうせすぐここに来るのだから。
正直に話そう。
「……婆ちゃんのお孫さんの、お兄さんの方からです」
「あのバカ孫! 何処をほっつき歩いているんだい!? 誠ちょっと代わりな!」
ガチャ!
「ちょ! 婆ちゃん!」
「もしもし! またあんたは無茶をやっているんじゃないだろうね!」
『ハハハハハ! やぁ婆ちゃん、元気そうで何よりだ。今からその無茶をやるんだけどね、相手側が無茶苦茶だから勘弁してほしいなぁ~空でポンポン爆発が起きているでしょ? それの始末を迅速につけなきゃ、そこの孤児院みたいな場所が増えちまうんだ』
「たく! 後でマギサちゃん達も連れて夕飯は私の所に来なさい!」
『ハハハハハ! そうさせて貰うよ』
――数分後――
戦災孤児院跡の運動場。
そのど真ん中にある仮設のヘリポート。
そこから飛び立つ民間軍事会社の輸送ヘリに乗る。
少年少女を見送る人々がいた。
災害派遣でここにいる州兵達。
そして、メガホンを構えた眼光の鋭い老女だ。
◇
「お婆ちゃん! いってきまぁああす!」
『春菜! 男連中を弾除けにしてでも生き延びるんだよ!』
「うん! そうするぅ~!」
相変わらずの毒舌だ。
それも婆ちゃんが元気な証拠だ。
孫としても一安心である。
だが、問題はここからだ。
「誠、春菜、君達はブルーオンブルーの可能性が低いから私に同行してもらう」
「ブルーオンブルー……って! 同士討ちの可能性ですか?」
「誠、此れを見ろ」
私は新谷から渡された、パッド型端末の画面を誠に見せた。
「…………敵はエルフですか!?」
「そうだ。我々の陣営でも魔術戦に強いハーフエルフの部隊を身体偽装も施さず、そのまま出動させれば、現場で同士討ちになる可能性が高い。身体偽装も時間が掛かるからな。それと――」
私は離陸していく機体の窓を指差しつつ。
脳内に染み付いた魔術の装填を解除。
特撮ヒーローと違い。
音と光もなく、真紅の魔導甲冑を瞬時に身体に纏い。
……カチャカチャ。
戦場に同行させる、二人に向けて口を開いた。
「二人とも空を見れば分かると思うが、敵は魔術戦に長けた連中。エルフの軍人崩れだ。既に対魔術戦部隊を出撃させたが、私も直接出向く」
「なんで矢島さんが直接出向くの?」
「あのど真ん中で、我々の総大将。マギサが戦いに巻き込まれているからだよ」
相変わらずの不定期更新ですが、お読みいただきありがとうございました。
完結を目指して執筆中です。