―― 市警察東署 地下施設 廊下――
真っ赤に輝く非常灯が点灯してクルクル回り、一定の間隔で設置されたスピーカーが唸りを上げる。コンクリートの通路。
『――全署員に通達! 速やかに総員武装せよ! 署に向けて所属不明の装甲車輌群がPCを破壊しながら接近中! 被害は拡大中――』
そこには緊張感が漂う署員の放送をボーカルのように感じ、軽快に駆けていく一人と一匹がいた。
◇
「ワォオオン!」
マロンの奴は上機嫌だ。一体誰がマロンに装着したのか、SWATのワッペンが貼られた、警察犬用のベストハーネスも様になっている。俺達が速足で向かう先、そこは確実にクソッタレな現場。銃弾と殺意が飛び交い、銃声と叫び声が鳴り響く戦場だろう。
ズズズン!
しかも州軍と思しき装甲車がご乱心とは最悪の現場だ。そりゃ何かが派手に崩れる振動、不快で懐かしい、重低音が地下にも響くわけだ。
「たく、これじゃ戦時中みたいだぜ」
だが、ゴーグルに映された映像データを見る限り、あの車体、特に砲塔周りは見覚えがあるが……何処で見ただろうか。
『こちら龍澤! 鬼沢生きているか!?』
俺が一人で愚痴をこぼした直後、龍澤が焦り気味に無線で生存を確認してきた。
頭の中で嫌な予感が積みあがっていく、慣れた瞬間を感じながらも、俺は普段通りの口調で無線に応答した。
「こちら鬼沢どうぞ」
『こちら龍澤! 生身で外に出たら確実に挽肉だぜ! 素早い生存者は署内に撤退を開始! 松沢隊長が臨時で指揮を執っているが、戦況がヤバすぎる! 俺達は先に装甲車に搭乗するぞ――』
俺達は先に搭乗という事はガンナーとドライバーも無事か。
……ズズン!
『――ちくしょう! 格納庫が砲撃で吹き飛んだぞ! 敵の火力展開が速すぎる!』
不快な振動と最悪な報告が同時着弾した瞬間から、俺が装着したゴーグルにリアルタイムで表示される、戦況情報が更新されていく。まるで炎上してクソみたいなコメントで荒らされる、ネット掲示板の様な速さだ。だが……龍澤もプロなら、情報はもう少し慎重に確認してほしい。
「こちら鬼沢、ゴーグルのデータを確認しろ。俺達の装甲車は地下整備場だ。ガンナー聞こえているか?」
『はいはい! こちらガンナー聞こえていますよ! 鬼沢さん! マロンが酷いんですよ! ハーネスを装着しようとしたら! 暴れて私の下着を食い破って――』
「ウォオオン!」
そういやマロンも分隊内の無線は聴こえる様に犬用のインカム。受信専用の簡易装置を装着済みだ。ガンナーの声が聞こえたからだろう。嬉しそうに尻尾を振りながら叫びやがった。
『――あぁあああああ! マロンはそこにいま――』
若菜の通信が不自然に途切れ。
『――こちらドライバー! 割り込み失礼! マロンのおかげで私達は生き埋めにならなかったから、運が良いですよ。若菜! いつまでもメソメソしないの!』
ドライバーが通信に割り込んできた。
「――たく! こちら鬼沢! その話は後で聞いてやる! それよりガンナーとドライバー。久しぶりの対車輌戦闘だ! 特にガンナー、ゴーグルのデータを見ろ。お前には見覚えがある、車輌が相手だぞ」
そう言うと俺はゴーグルに表示された、触覚みたいに伸びるアイコンを脳波で操作。防犯カメラが捉え、ゴーグルが自動で抽出した、敵の車輌映像をガンナー達に送信……数秒の間をおいて……俺の予想通り、気付いたであろう、ガンナーも叫んだ。
『――ぁあああ! この車輌は私がスラム街で撃ち漏らした車輌ですよ!』
――数分後 地下整備場 装甲車内後部搭乗員スペース――
「なぁ流石に見間違いじゃないのか? システムには所属不明の表示だぜ? そもそも同系統の車輌は大戦前から世界的なベストセラーだぞ。ゲリラの連中も昔から保有している車種だ」
『龍澤さん! 搭載しているRWSの形状が旧式で特徴的だから、見間違えないですよ! ね! 鬼沢さん!』
「俺も若菜と同じ見解だよ。最も全周包囲をされたスラム街からどうやって、装甲車数両を鹵獲したのかは、未だに謎だけどな」
「……確かに記録上は州軍で配備数が少ない、陸自時代のRWSを搭載していた装甲車が春の暴動で敵側に鹵獲、盗難扱いされているから、これは二人の見立てが正しいかもしれないな」
『しかも数ヶ月も逃げ切った上で殴り込みとか! 私を舐め切っていますよ! へへへ! だけど、この装備があれば逃がさないですよ!』
『若菜、久しぶりに使う装備だけど、富士の演習場で習った要領で行くから、照準と発射のタイミングは、あんたが合わせてよね』
『了解! 麗華ちゃんの運転センスを私は信じます!』
車内スピーカーに響く若菜の声には整備班のおっさん連中から、サプライズで搭載された装備への喜びと、敵への怒りが混ざっている。プレゼントを受け取った際の喜び。逃げた獲物に対する執着、再度補足した際に抱く高揚感は、誰しもが抱く自然な感情だろう。攻められている側の俺達に必要な要素、状況を打開する勢いが今の若菜にあるのなら幸いだ。
「マロン、少し我慢しろよ」
「ワン!」
俺はマロンを隣りのシートに固定して、向かい側の龍澤とアイコンタクトで準備完了を確認。呼吸を落ち着かせてから……口を開いた。
「こちら鬼沢、ドライバー出撃しろ。地上に出る瞬間は煙幕弾を全方位に発射、地上に出たらドライバーの判断で戦闘機動を取れ」
『ドライバー了解』
「ガンナーは対戦車戦闘用意、敵車輌の撃破に集中しろ」
『ガンナー了解! 撃破スコアを更新しますよ!』
「龍澤は自爆ドローンを手動操作、先行して偵察を開始。RWSで軟目標を補足、攻撃してガンナーを支援。総員、敵は見つけ次第、各個撃破していくぞ。敵勢力の危険性を鑑み、本件にける逮捕は不要である以上」
「龍澤了解。自爆ドローンを自走モードで発射、偵察を開始する」
指示を出して数秒後、自爆ドローンの射出音が微かに響き。続いてエンジン音と振動、車体が動く加速が身体に伝わってくる。数十トンの装甲車が動き出したその直後、上司から通信が入った。
『こちらHQの松沢! 鬼沢聞こえるか!』
「こちら鬼沢どうぞ」
『もう直ぐにでも威力偵察を終えた敵が署に突っ込んでくるぞ! お前達はタイミングを見て、そのまま出口から署の隣の公園に突っ込め。意味は分かるな! 俺達が囮になるから派手に狩れ! この場で自走できる装甲火力は地下にいた、その一台だけだ。以上!』
俺は東署周辺の地理を思い出し、松沢隊長が考えた作戦の意図を理解した。
「……鬼沢了解。気兼ねなく狩らせて頂きます」
『頼んだぞ! くそ! 敵が煙幕弾を発射しているぞ! 各員サーモゴーグルに切り換えろ!対戦車戦闘用意――』
――同時刻 市警察東署前 路上 ――
威力偵察を終えた襲撃者達は被害が拡大中の市警察と比較して、僅かな損害を出しただけだ。襲撃者達の奇襲は単純に成功といえるだろう。その戦果に酔いしれる事なく、襲撃者達を束ねる者。異世界の軍人上がりである、エルフの隊長は戦闘を終わらせる局面……仕上げに取り掛かろうとしていた。
◇
『――こちら後続班、魔力弾で敵施設、装甲戦力の無力化を確認。引き続き支援を継続する』
「――突入班了解。我々はこれより敵施設への突入を開始する」
このまま敵拠点に向けて進行、突入すれば我々の勝ちだ。
「――各車の魔術兵に告ぐ! 対空担当の魔術兵はRWSに搭載した魔杖から煙幕弾を全方位に連射、対空警戒を怠るな! 対地担当の魔術兵は砲身同軸の魔杖から魔力弾で前方進路上の障害を破壊せよ! 各魔術兵は魔杖を繋ぐ魔線の断線に注意して魔力を注げ! 各車突入要員は下車戦闘に備えろ! 突入要員は魔力感知で蘇生した裏切り者を見つけ次第確保、若しくは抵抗するようなら完全に殺せ! 繰り返す! 蘇生しないように頭部を潰して確実に殺せ! 全車発進準備――」
敵施設の内部に突入すれば激しい銃撃があるだろう。市警察なら小銃弾の割合が多い筈だが、その程度の攻撃なら個人レベルで展開可能な小型の魔力障壁で容易に無効化できる。
銃での戦いに慣れた市警察の連中や賞金稼ぎなら、大口径の銃火器による近接距離での銃撃といった、非合理的な手段は選ばないだろう。既に我々の天敵、SWATとその足である装甲車も後続班の砲撃で格納庫諸共破壊した。我々が負ける可能性は限りなく低い。
それに万が一に窮しても……切り札と逃げ道は残してあるのだから……何も問題はない。
「――隊長! 全車何時でも発進可能です!」
「よし、全車突撃開始!」
加速が身体に伝わってくる。モニターには先行車輌の姿――路上に転がった死体や瓦礫――殺すべき敵が乱射している、無意味な発砲地点が次々と表示されていく。部下達も手際よく路上の障害を排除している。もう間もなく――――魔力弾と機関砲の有効射程――――これで終了だ。
「先頭車両! 発砲開――」
馬鹿な……先頭車両が爆発した!?
『せ、先頭車輌が爆発! て、敵の攻撃です!』
『――前方に新たな敵影発見! 車体に砲塔と砲身を確認! 一体何処から出てき――』
「――全車散開! 作戦変更! 突入要員は車輌から緊急離脱! 飛翔魔術で上空から突入しろ! 各車は戦闘機動! 敵車両を排除せよ!」
『了解!』
『――了解! 上部ハッチ全面開放! 突入要員飛翔開始――』
油断した! 敵は通常の市警察ではない。
砲撃を生き延びた我々の天敵、SWATが混ざっている!
奴らはこの国の軍とも繋がりが深い……先程我々が撃破した、火砲を載せた兵器モドキの重機と違い、この世界の軍用兵器を保有している可能性を失念していた。
だが、たった一両の敵や一門の砲が増えたところで、我々の圧倒的な優位は揺るがない。
「この死に損ないが! たかが一門の砲で何が出来る!」
増えた敵を罵倒した瞬間――――私の視界は閃光に包まれ――――身体が激しく揺れた。
今回は某所での晒し後、初の投稿です。
少しずつ文章や文体を弄っています。
次の投稿は応募作の応募完了後、仕事が落ち着いてから投稿しますので、よろしくお願いいたします。