※この作品はR-18です。

魔女の天下取り   作:hidenyan

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<01話 勝利の女神を求める者>

 ◇◇◇

 

 一人の青年がいた。

 彼は穴が大好きだ。

 物凄く大き過ぎて、誰も見向きもしない穴が好きだ。

 頭に1~9の数字を据えた後に000000000000000が大量に並ぶ。

 

 そんな数字で表現される大穴が好きだ。

 

 彼を知る人々は皆、大穴が好きな彼を馬鹿だと思っていた。

 勿論、彼自身も馬鹿な事をしている自覚はあった。

 心理学で言うところのサンクコスト効果。

 執着や依存症の怖さも知っていた。

 それが原因の歯車の一つとして動き。

 人々が様々にして悲惨な末路を迎え。

 苦しみ、死ぬ事も、報道レベルとネット検索で見る程度には知っている。

 大穴を選ぶ事で自分が失うモノも知っている。

 大穴を得る為に自分がどれだけの時間。

 気力と体力。

 労働で得た対価。

 機会を差し出したかも、分かっている。

 

 彼もそんな自分を駄目だと思い。

 苦しんだ時期もあった。

 

 こうなる前の日常に戻ろうと、何度も取り組み。

 挫折した回数も一度や二度では収まらない。

 だが彼には、退屈と日常は最早、同じだった。

 大穴という美味を知った、彼に日常は余りにも――――フラット過ぎたのだ。

 彼はまるで、心停止したかの様な毎日に恐怖した。

 彼は大穴が恋しかった。

 だが彼は何とか、その疼きと恐怖に耐え。

 数年をかけて……日常を取り戻しつつあった。

 

 その結果、彼は爆音が轟く、日曜朝のヒーロータイムのアニメを目覚ましに使い。

 美少女戦士の活躍が映る頃には、パンツ一丁か全裸で視聴。

 平日の起床時は、それらの録画したアニメを目覚ましに使い。

 日曜日は当日放送される、最新話をそのまま使う感じだ。

 そしてベランダ近くに集う……観葉植物への欠かさない水やり。

 ホットケーキを作って食べる……静かな朝。

 平日はそのまま会社へ出勤

 休日は好きな読書を嗜み。

 或いは仲間達と共に、宇宙の危機を救うネトゲ三昧。

 

 だが、その日常は程なく。

 ネトゲで親しんだ、クエスト名の冒頭と同じく『終焉』に向かい始めた。

 

 初めは運営側の不手際で、ワームと化したネトゲの更新データで愛機を喪失。

 ゲーミングPCとエロ画像やエロ動画の全てを失った。

 トドメは世界経済の景気悪化。

 大量解雇という、大規模な強制イベントで呆気無く終わりを迎えたのだ。

 その後、彼は不安を抱えたまま……ある決断を下した。

 そこは大地震を観測する地震計の如く。

 集う人々の感情が喜怒哀楽の間をシャープに乱高下。

 集った人々の懐から無駄弾が飛び交い、無価値になった紙屑が舞う空間だ。

 そこへ……青年は勝利の女神が微笑む事を信じ。

 自己批判という苦い膜に包まれた、微かな希望と甘い期待を懐に忍ばせ。

 ……大穴の待つ場所へ舞い戻ったのだ。

 

 ◇◇◇

 

 ――西暦2020年代前半――12月末 午前―― 

 

 ――名古屋市内某駅前――

 

 平日は通勤や通学に利用する、人々が行き交う、とある私鉄の駅。

 だが、季節が年末だからだろうか。

 行き交う人影の中に、通勤者や学生の姿は少ない。

 代わりに私服を着た若者や、本日まで市内で開かれる、大規模な催し。

 同人イベントの影響だろうか、コスプレ姿の人々が増えている。

 

 そんな人々の流れの一部が留まる、入江のような空間。

 そこには……何とかの叫びっぽいロゴの外資系カフェがあった。

 店内に幾つか並んだ、カウンター席の端では、一人の青年が上機嫌でコーヒーを啜っている。

 

 青年は数日物の無精髭を……片手のスラっとした指で時折触れ。

 

 灰色のニット帽を被り。

 黒い皮のジャケットを羽織っている。

 何年も着ている感じの漂う、色が所々落ちた青いジーンズで足を覆い。

 靴底が磨り減った白黒のスニーカーを履いた。

 身長175センチ弱の一人の青年が『この瞬間』確かにそこにいた。

 

 青年の姿は、店内の防犯カメラがリアルタイムで捉え。

 ここに来るまでの姿は、テロ対策で駅構内や、周囲に張り巡らせた防犯カメラが捉え。

 街中に増えた電子機器の瞳は、カウンター席でコーヒータイム中の青年を捉え。

 この世界で青年が過ごす…………最後の姿を記録に残していた。

 

 ◇

 

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」

 

 店員がトレーに乗せた、ブラックコーヒーを持ってきた。

 カチャ 

 これで三杯目だが、再度確認してみよう。

 

「……ふぅ」

 

 間違いない。

 この香りと苦味は現実だ。

 

 自分にそう言い聞かせる様に再度。

 コーヒーを少し飲み……カチャ……。

 白いソーサーにコーヒーカップを戻す。

 俺は数十分前。

 いや、今朝ある事に気づいてから……気持ちを落ち着かせようと、何度も試みている。

 その手段は白いカップに注がれ。

 白い湯気の柱が立ち昇る……真っ黒な輝き。

 その内部に熱量を凝縮した存在。

 小宇宙とでも言うべき黒い液体……ブラックコーヒーを少しずつ飲む事だ。

 何故このような事をするかは、大いに原因がある。

 俺は昨日。

 

 大金を手にいれたのだ。 

 

 懐の財布から感じる不自然な重み。

 未だに札束を握り締めた……感触が残っているから夢ではない。

 せめて心の中では叫びたい。

 

(ウヒョォォォオ! 勝利の女神様ぁあああざぁああああす!)

 

 興奮が冷めやまないのも無理はないが、今は……落ち着くのが先決だ。

 しかも俺は夏季連休前。

 会社に人員整理の名目で解雇。

 存在を否定された、クソッタレな元非正規社員の身の上。

 

 単なる無職……だ。

 感情的になるのは危険でしかない。

 

 だが今月で失業給付も終了する、やばい状況下での大金ゲット。

 棚ぼたであろうが、素直に喜ぶ。

 それが、勝利の女神への感謝にもなるというものだ。

 因みに手に入れた手段は、昨日行われた、馬が走る公営ギャンブル。

 財布の中だけでも諭吉が百人程、軽く入っている。

 ……今朝拝んだ朝日は、素直に最高だった。

 

(さて、これからどうしたものか)

 

 とりあえず、俺はスマホを左ポケットから取り出し。

 指をスイスイと動かし。

 送金用のアプリを起動。

 先月、お金を貸してくれた、兄夫婦の口座に先ずは返済だ。

 使うのは数年前から爆発的に拡がり始めた、ネットでの送金手段。

 自称サトシさんが十数年前に公表した、ブロックチェーンとやらを応用したサービス。

 

 大手SNSが構想を発表した段階でも、色々と批判が多かったが、結果的に20億人近い人類が使い始めた、広義における暗号資産の一種。

 価値が乱高下する、ビットコインや他の暗号資産と違い。

 その価値を法定通貨や、短期国債を根拠に安定させた真逆の存在。

 ステーブルコインを金融と情報技術の融合した、フィンテックサービスを使い。

 

 俺は諭吉数人分のステーブルコインを秒速で、兄のアカウント口座に送り込んだ。

 

 人によってはスマホでの送金や決済を嫌い。

 大手SNSが世界各地、特に日本ではコンビニを中心に設置した、ステーブルコインを購入、現金化する事もできる、ATMで発行される、QRコードの付いたカードと生体認証を組み合わせた、簡易な形がある媒体を好む人も多い。

 交通系のチャージカードに慣れ、現金が大好きな日本人の趣向なら尚更だろう。実際、このカフェで、そのカードを使っている人も来る度に……何人か見かける。

 

 既にアフリカなどのインフラが整っていない地域。

 そこでは、ステーブルコインを管理する組織。

 複数の多国籍企業が資金提供をして、創設した非営利団体が、先行して新たな活動を開始。

 太陽光パネルを鱗の様に張り巡らせた、空飛ぶ鯨を何百と空に泳がし。

 飛行船の母船から離陸したドローンが、僻地でも大手通販会社の日用品無人配送サービスなどの一部と併せ、送金決済サービスを行っている程だ。

 

 それらの情景は宙に浮く運搬用のロボット。

 レンタルドローンと共に大自然やサバンナを歩く人々。

 ユーチューバーの動画やSNSの呟きなど、様々な角度から拡散され。

 新たな領域の出現を世界に知らせている。

 

(最も……価格帯が海の家価格なのは、まだ仕方無いのかも知れないな)

 

 因みにカードや決済を利用する際は、テロやマネロン対策で生体認証を条件にしているようだが、今でも偶に読む作品。

 監視社会化が進んだ設定の近未来を舞台にした、SF小説みたいに死体の一部や偽造した指紋を使えば、抜け道になりそうと、不謹慎にも思ったが残念。

 同時に複数の生体認証を登録した上で、その後の状態も多角的に追跡するので、その難易度は桁違いである。

 しかも、ブロックチェーンで紐づけすれば、改竄も困難だ。

 既に海外では新たな身分証明手段としても、その信用が認知される存在になりつつある。

 海外旅行の際にわざわざ発行していく人もいる程だ。

 

 よってダークウェブなど行われる、アングラな取引には、サトシさんがどう思っているかは、誰にも分からないが。

 今でもビットコインなどの暗号資産が、送金経路や送金先を暗号化する、ミキシングサービスなどと併用され、使われている。

 

 俺の持っている仮想通貨いや、暗号資産はこのステーブルコインを除けば、草コインと呼ばれるジョークで造られた類いのが複数種類だ。

 昨日もゲーム関連のSNSツール内の掲示板で、自称異世界で頑張っている電波な人から『コッチではかなりの額だが儲かったからやるよ!』……などと、俺のSNSのウォレットに対して、一方的に草コインが送付されてきた。

 

 いわゆる投げ銭、ばら撒いて遊ぶ。

 そんな草コインの一面を久しぶりに体験したが……(流石に異世界で使える云々は、胡散臭いが、当人はそういうノリが楽しいのだろう……何故かこっちの世界に帰りたいと、悲痛なコメも多かったが……)

 因みにゼロが沢山あるので、少しだけ嬉しかったりするのも事実だ。

 

(……次は)

 

 俺の目の前をガラス越しに、若い親子連れが笑顔で通り過ぎ。

 次の行動を閃いた俺は……通販サイトのアプリを起動。

 兄夫婦の甥っ子と姪っ子に密林な通販サイト経由で何か。

 プレゼントを贈ってやろう。

 

「童話の詰合せと……」

 

 童話がいいかな。桃太郎に一寸法師、浦島太郎、マッチ売りの少女。

 こんなところか。お? ラッキー!

 何やらキャンペーン中で購入した童話の電子版を無料でダウンロード出来るようだ。

 

(しかも勝手にダウンロードしているし! まぁスマホの容量的には大丈夫だしいいか!)

 

 俺は先程コンビニでPETボトル飲料一本。

 カロリーバー、板ガムを買うついでに数万円分のギフト券を購入。

 既にアカウントにチャージ済みだから、プレゼントも余裕だ。

(ニヤッ)

 俺は指先を動かし。

 プレゼント用のラッピングを選択。

 少し口元がニヤっと動く感触を覚えつつ。

 注文を完了した。

 

(さて、どうしよう……兄夫婦への借りは返したし、一応、叔父らしい事も出来たかな)

 

 そうだ、このまま風俗街に向かい。

 いい女を侍らせ。

 勝利の宴を朝から、楽しむのも悪くないか!

 

(そう、先程目の前の雑踏を優雅に歩いていた、黒髪ロングの女子高生の様な女を――!?)

 

「お隣宜しいでしょうか?」

「ど! どうぞ」

 

 ……何という事だ。

 微妙に混みだした店内に……自分が脳裏に思い浮かべた人物。

 

(先程目の前を歩いていた、黒髪ロングの女子高生が――颯爽と登場!)

 

 しかも隣に来て、話かけてきたじゃないか!

 俺は昨晩読んだWEB小説の主人公の如く。

 召喚スキルでも、身に付けてしまったのだろうか?

 

(いや、召喚出来ても使役出来な――マズイ!) 

 

 俺の脳裏に一瞬だけ浮かんだ、煩悩全開の如何わしい光景。

 それは股間のジュニアが元気を通り越し。

 暴発するかもしれない危惧と――明日以降の朝刊の一面に載った自分の顔写真。

 某掲示板で晒し者にされる危惧を思い浮かべ。

 俺の危機意識が自動的に強制起動。

 ガタッ!

 席から離脱する事を促し――俺の足を駆動させた。

 

(仕方ない! このまま店を出て風俗街にでも――?)

 

 俺が出口に視界を向けようとした刹那。

 

「すみません……少しだけお話よろしいでしょうか?」

 

 隣に座った、女子高生に笑顔で話しかけられていた。

 俺は速やかに着席……状況を読み。

 言葉を急いで装填――ジェスチャーも交え。

 口を開いた。

 

「いいけど、もしかして……お嬢さんも、このニュースが気になるの?」

 

 俺がジェスチャーで指さした先は、通行人が行き交うガラス壁の少し上。

 そこには、学校の黒板サイズに匹敵する、大型有機ELモニターがあった。

 モニターには多くの人が気にしている、ニュースが報じられている。

 この巨大モニターと、カウンター席の組み合わせ。

 それもこのカフェが賑やかな要因だろう。

 実際、俺もこの巨大モニターを眺め。

 手元のスマホで馬券を選ぶ愚行が、失業期間中の習慣になったのだ。

 その客寄せ効果はかなりのものだろう。

 

「はい。とても気になりますね……特に事件への各々の見解が、気になるのですが……毎週、掲示板やSNSのサーバーがダウンしていたら、つい……話が合いそうで、話しやすい感じのする方、あなたに話しかけてしまいました」

 

 女子高生は俺の質問に笑顔で答えてくれた。

 そして俺は気付いた。

 

(このお嬢さんはアレだな……冬休みで暇だから、おそらく背伸びがしたいのだろう……仕方ない! 幸い俺は懐が豊かで上機嫌だからな……話を合わせてあげるか!)

 

「なるほど。では、何か飲みながら話そうか……」

 

 俺はそう言うと、手を上げて店員を呼び。

 お嬢さんの分と合わせて、飲み物を頼んだ。

 俺はエスプレッソを一つ。

 お嬢さんはブラックコーヒーを頼んでいた。

 俺はコーヒーを飲む……お嬢さんを片目で見守りつつ。

 もう一度、ニュース映像を眺める。

 スピーカーからは、見慣れた女性アナウンサーの声が漏れてきた。

 

『――警察から発表があった、連続振り込み失踪事件の失踪者は、先週だけでも、百数十名弱が失踪しているものと思われ、金融庁は該当する口座の――』

 

【連続振り込み失踪事件】

 

 事件の発生当初は主に、現役の自衛隊員が口座に多額の入金を何者から行われ、行方不明になるという前代未聞の事件であった。

 

 それだけでも前代未聞の事件であるが、振り込まれる金額も前代未聞の金額だ。

 入金される金額は、複数回に分けられ、一人あたり千万単位。

 多いもので億単位という、凄まじい金額が振り込まれている。

 なお、演習中や作戦行動中に部隊単位や艦船単位で、行方不明になっていない点から、戦国時代や、先の大戦中のミッドウェー海域に転移している。

 

 その手の可能性は早期に排除され。

 今現在、ネット上では異星人によるアブダクション説。

 秘密結社や某国工作員によるアブダクション説。

 異世界転移説など、多くの真偽が疑わしい。

 様々な説が飛び交っており、最近ではその手の議論の加熱具合に合わせ。

 某掲示板や大手SNSのサーバーは、増強を繰り返してもダウンする。

 焼け石に水の状態である。

 この事件は規模こそ当初、数十人程度だった。

 だが、今では既に自衛隊経験者も行方不明になり、約十万人弱が極めて短期間で行方不明になるという、世界的に見ても全く前例がない事件だ。 

 これが日本で起きている、連続振り込み失踪事件に関して、一般人が知り得る概要だ

 

(俺の中では、何で銀行口座に金を振り込むのかが、一番気になる部分かな……そもそも単なる誘拐目的なら、金を振り込む犯人の行動が意味不明過ぎる)

 

 当然ではあるが、世界中のマスメディア、諜報機関。

 国内外の各種人権団体、政治団体。

 何処かの掲示板の住民達もこの事件には注目している。

 今も国会前では左右問わず、デモ隊が年中無休で集結する異常事態だ。

 

(なんだ……アナウンサーの表情がおかしいぞ?)

 

 何やら引きつった表情になった、アナウンサーが読み上げる最新の情報によると、どうもここ最近、行方不明になる人間は警戒レベルが上がった自衛隊関係者から変化。

 サバイバルゲームが趣味の人間や、FPSゲームが趣味の所謂。

 軍事オタクなどに変わり、既に先程の自衛隊関係者を上回る勢いで、行方不明になっており、振り込まれる金額も既に総額が数十兆円に達し、行方不明者の総数が百万名に近づき――ん?

 

(ちょ……失踪者多すぎ!)

 

 だからだろうか。

 アナウンサーの声色までも、震え始めている。

 急いでADに渡された、手書きのメモを持つ。

 マニキュアで彩られた指先や手元も震えている。

 失踪者の劇的な増加。

 それに伴い、失踪者関連の特別措置法で警察庁に設置された、特別捜査本部の名称も【自衛隊関係者振り込み連続失踪事件対策本部】から【自衛隊関係者及び軍事オタク等振り込み連続失踪事件対策本部】に変更されたようだ。

 放送は別の特設スタジオに変更。

 専門家っぽいおっさん達の解説が、事件の参考映像と共に流れていく。

 

(てか、捜査本部の名称長すぎだろ! あ……だから天空に浮かぶ、お城のアニメ映画の放送日でも無いのに、SNSがサーバーダウンしていたのか。そりゃ情報の拡散を制御しないと、大変だとは思うが、此処まで来ると、対応に無理があるな)

 

 しかし、明らかに尋常でない規模の国民が失踪。

 それと同時に莫大な金が、不自然な形で急激に動いている状況。

 流石に国会でも、この事件は度々、問題視はされていた。

 そして遂に与党と野党がこの事件の議論から、ついさっき。

 殴り合いの乱闘をしてしまう、異常事態になってしまったそうだ。

 既にその国会中継の映像を素材にした、MAD動画が既にSNSや動画サイトへ大量にアップロード。

 ランキングの上位を占める緊急事態に突入。

 

(今のところ……海外の格闘の技試合っぽく、字幕と効果音やBGMを調整している動画が一位か)

 

 動画サイトのサーバーが、非常に深刻な危機的状態である事も速報で何故か伝えている。

 この状況でもダウンしにくいネット環境は、先程俺が送金したフィンテックサービスにも使われている、ブロックチェーン技術を応用して、先祖返り的に復活を果たした、ファイル共有ソフトと、昨晩電波な人と遭遇して、草コインを貰ったゲーム関連のSNSや。

 その繋がりが構成する、P2Pを使った、玉石混交のカオスな群れぐらいだろう。

 

(たく犯人はどこの誰だよ……金バラマキすぎだろ)

 

 それにしても、失踪した人達。

 彼らは振り込まれた金を使えない。

 大変残念な状況だろう。

 いや、それ以前に自分のものじゃない、大金を手にいれても。

 使う気にはならないか。

 

(そもそも…………それって、一体どんな状況だ?)

 

 失踪者が誰ひとり、未だに発見されてないのも、想像が膨らむ要素ではある。

 だが……今の俺は自由に使える金を手に入れ。

 こうして、逆ナンしてきた女子高生とカフェで、会話を楽しめる立場だから――おっと!

 俺は下衆で甘い悦に入りそうだった、思考を切り替え。

 エスプレッソの残りを……少しずつ飲む。

 隣のお嬢さんも、白い湯気の昇るブラックコーヒーを飲み。

 白いソーサーにコーヒーの入ったマグカップを置き。

 話し始めた。

 

「あなたはどう思いますか? この失踪事件で消えた人達がどこにいるか……」

 

 何やら、お嬢さんの顔は笑顔だが……雰囲気が違う。

 まさか、このお嬢さんは社会人……いや。

 顔が若すぎる。

 だが、街中でよく見かける女子高生よりは、落ち着いた雰囲気だ。

 服の感じや、着こなしなどから察するに。

 数日前から駅前に大量発生した、コスプレの偽女子高生とも違う感じを受ける。

 なんか普段着のように気慣れた。

 そんな感じを……このお嬢さんから感じるからだろう。

 それに何より、他人に無関心な都市部で逆ナンをしてくる。

 女子高生という構図……それ自体も珍しい事だ。

 気のせいかも知れないが、この制服はこの辺りでは見たことがない種類だ。

 それに何より、このお嬢さんは小顔で目鼻立ちの整った顔立ち。

 スタイルもいい……つまり似合っている。

 何かしら矛盾や違和感があるが、流石にこのルックスで、悪質なキャッチセールスや宗教の勧誘はしてこないだろう。

 それにここは……そもそも店内だ。

 

(しかもカウンター席だからな。いざとなれば、店を出て行けばいいだけだ!)

 

 などと微かに、最悪なケースを想定した直後。

 俺も画面を見ながら、言葉を繋いだ。

 

「そうだね……」

 

 俺の会話に合わせてお嬢さんは軽く頷き。

 再びコーヒーを飲み始める。

 俺もその動きに合わせ……昨日某掲示板で見た情報を交え。

 言葉を紡いだ。

 

「未だに失踪した人々は、誰ひとりとして発見されていない……まぁ自称失踪者で、今は異世界で、わがままな魔女と一緒に女神の座を手に入れるために、仕方なく戦っているとか、ゲーム関連の掲示板で主張している人もいるけど、実に嘘臭い――」

 

 そういやさっきも思い出したが。

 昨晩は、そんな電波な輩がいる事を寝る前に発見したのだった。

 貰った草コインの名称が確か『NEET』で桁は9の後に00000000が一杯付いていたから、嬉しかったけどな。

 

「ぶっ!」

 

 だが何故だろう? 

 俺が言葉を全部出し切るその前に、お嬢さんはビクッと身動ぎ。

 コーヒーを吹き出しそうになっていた。

 

「大丈夫?」

「ゲホッゲホッ!」 

「失礼しました! それと宜しければその掲示板を教えてくれませんか」

 

 俺は電波な書き込みがされた、掲示板をスマホでお嬢さんに閲覧モードで見せ。

 お嬢さんは始めから終わりまで見終え。

 何やらスレッドの内容に思い当たるところがあるのだろうか。

 驚きと非常に不味そうな気持ちが混ざった、複雑な表情をしていたが、直ぐに笑顔になって口を開いた。

 

「……ありがとうございます。すみません話の続きをお願いします」 

 

 俺は若干の疑問を抱きながらも、そのまま話を続けた。

 

「後はどこから金を用意したのかなぁ~とか、自分もサバゲーが本格的に趣味だったら、行方不明になっていたのかな~なんて、考えながらこのニュースを見ていたよ」

 

「よく調べているようで驚きました……貴方はこの事件に興味があるようですね」

 

「まぁね。毎週テレビで特集も組んでいるし、ここ一年くらいは、この話題で某掲示板のサーバーダウンも恒例の現象だから、どうしても気になるかな」

 

「ところで……お尋ねしますが」

 

 お嬢さんはそう言うと、ブラックコーヒーの残りを飲み干し。

 真っ白な底が顕になった、カップをソーサーに置き。

 数秒の間を置いてから……口を開いた。

 

「あなたは幾らなら、もしくはどのような願いを叶えてくれるのなら……別の世界で戦う決断をしますか?」

「別の世界で戦う? ああ、行方不明で音沙汰ないってことは、そういう状況かもしれないね。そうだね~」

 

 俺は引き続き例の行方不明事件の特集をしている……モニターを見ながら考える。

 

(このお嬢さんはアレだ……少し中二病気味だな……失業中の俺は暇だし合わせてやるか)

 

「最高の装備と互いに信頼できる仲間と上司、金は手に入るなら億単位で欲しいし、健康で若く長生きできて、毎日うまい食事に酒が飲めて、いい女が手に入れば最高だね」

 

(しまった!)

 

 最後の部分は、女性相手には失礼だったか!?

 ……でもないようだ。

 何やら真剣に考えている顔つきになっている。

 これが本物の中二病なのだろうか?

 しかし、目の前のお嬢ちゃんは可愛い。

 だからこそ、まだ許せるのだろうなと、ふと俺は思う。

 

「他にも何かありますか……その願い事は?」

 

 ……どうもお嬢さんの中二病は深刻なようだ。

 だが、懐が諭吉達で豊かになって優しい俺は、話を合わせてあげる事にする。

 

「そうだね、戦うって前提なら、死んでもゾンビや吸血鬼とかじゃなく、人間として若く元気に無制限で何回も復活できる、そんな特典があればいいかな~」

 

 俺がそう言うと、お嬢さんの目は何故かパッと見開き。

 …………俺を見つめている。

 お嬢さんの中二病を刺激しすぎたのだろうか?

 何か……お嬢さんにとって、意外なことを言ってしまったのだろうか?

 なんかのってきたので、今度は逆に俺が質問してみよう。

 

「君が仮に、願いを叶える側の立場だとしよう。君は他者の願いを叶える事で何を望む?」

 

「女神になる事、それ以外望まないわ」

 

(即答かよ!)

 

 まてよ……女神って、それじゃ昨日の掲示板の書き込みと一緒?

 俺の質問に答えたお嬢さんは、何か嬉しい事でもあったのだろうか。

 口元に微笑を浮かべ……再び口を開いた。

 

「気に入りました採用です」

 

(はい?)

 

「貴方のその願い事も一緒に叶えましょう」

 

 お嬢さんがそう言うと耳鳴りが始まり。

 次の瞬間――――目の前は――――真っ白に輝き。

 俺の視界は光で塞がれた。




お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m
次話の投稿は02月12日午前10時22分です
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