俺はオークの様なナース、看護師に起こされた。
急いでスマホにモバイルバッテリーを差し込み。
部屋にある……シャワールームで体を洗い。
用意された服。
下着類や靴下、ファストファッションっぽい服とジーンズを着用。
そして何故か防弾チョッキも着せられた。
靴は兵隊さんが履く感じのミリタリーな靴だ。
半長靴じゃないから、履きやすいので助かる。
「外でマギサ様がお待ちです。御案内します」
俺は迎えに来た、護衛の黒服に案内され。
マギサが待つ場所に向かった。
初めて外の光景が見え……俺は思わず声を漏らした。
「ここって飛行場?」
廊下の窓からは離陸する、戦闘機や輸送機が見える。
どれも、俺の世界では見た事もない形状……ステルス機の類いだ。
「いえ、基地の中です」
護衛の説明によると、ここは民間軍事会社の敷地内だそうだ。
確かマギサは、民間軍事会社の幹部だと名乗っていた。
ここは近未来の並行世界らしいが、名刺を渡す風習は廃れたのだろうか?
或いはPMCにそんな業界慣習はないのだろう。
などと思いつつ。
俺はマギサが待つ……黒塗りのリムジンに乗り込んだ。
前後は機関銃を積んだ、車両に護衛され。
上空には――ホバリングをする、警備用のドローンだろうか。
そんな飛行物体が編隊を組んで――車両の上空で飛行をしている。
「おはよう。ぐっすり眠れたかしら」
「凄い防音設備だ。外に飛行場があるのに、さっきまで気づかなかったよ」
「……あの施設はそういう場所だから……ところで朝食はまだよね」
「ええ」
「当然だけど、こちらで用意させてもらうわ。私も同席させてもらうけどね。それと私を呼ぶ時は、公私共にマギサでいいわよ」
その後、俺達は基地を離れ。
高速道路の様な、高架式の車道に入っていった。
車窓から外を眺めていると――廃墟がやけに多い。
廃墟が緑に覆われているのは、日本の植生故だろう。
ポツポツと煙が上がっているのは……人が居るのだろうか。
(人が住んでいるのなら、スラム街か?)
そして所々に壁で囲われた、高級そうな住宅街が見える。
高級そうな住宅街にはドローンが行き交い。
道路の上空にも、ドローンの飛行経路が何層かに分かれ。
存在するのが伺える。
まるで、空飛ぶクルマが行き交う。
……未来都市を見ているような感じだ。
外の光景を見る俺に……マギサが声をかけてきた。
「これでもだいぶ、復興が進んだ方なのよ」
「確か、第三次世界大戦があったのか」
「ええ……丁度、私がこっちに来た年には終結したから……十数年前ね」
「見たところ、俺の世界より露骨に貧富の格差どころか、安全にも格差がありそうだ」
「部分的には正解よ。ただもう少し、この世界を見たほうがいいわよ」
「確かに……俺はまだこの世界の事や、知らない事の方が多すぎる」
そのまま、俺達は廃墟群を抜け。
摩天楼だらけの都市部へ向かっていく。
案内表示を見ると『名古屋市』とあったので、ここも名古屋なのだろう。
見慣れた地名を見てからは……微かに安堵感も覚えた。
だが……やはり俺の意思で、望んで此処にいるわけではない。
異世界転移なんて、ラノベやウェブ小説。
どっかのオカルト掲示板の中だけだと思っていた。
だが、意外と慌てたりしないのは、俺の中での準備。
例の振り込み失踪事件を知っていたからこそ……心構えが出来ていたのだろう。
◇◇◇
「少し遅いけど、朝食にしましょう」
俺とマギサは何故か。
ピエロのマスコットでお馴染みのファストフード店に入店。
店の外や内部を護衛に囲まれながら……貸し切り状態で朝食の最中だ。
(つうかこっちにも……あるのかよ)
最も俺の世界じゃ例のピエロは、動画素材として幅広く扱われ。
企業活動を監視する、海外の市民団体に活動自粛を要請されたりしていたが。
……こっちでは普通に元気なようだ。
(しかも……何人かいるのかよ)
「気にしないで、ここは10時からの営業だから、一般客に迷惑はかけてないわ……後、一時間位はゆっくりできるわよ」
「分かった」
俺は微かに安心すると、朝食に手をつけた。
先ずは和風ドレッシングのキューブを掴み。
卵を割る感覚でサラダに垂らし。
見慣れないエビっぽいシーフードが入った、サラダをフォークで食べた。
(味はエビっぽいな……でもやけに大きいな? ロブスターか?)
俺はサラダの中のシーフードな食材に微かな既視感を覚えつつ。
熱々のチーズバーガーを食べる。
……肉汁と溶けたチーズが旨い。
そして揚げたてポテトのLサイズを食べ。
Lサイズのコーラを飲みほし……食後のコーヒーを飲み。
腹を満たし……心を落ち着け。
マギサがハンバーガーを食べ終え……コーヒーを飲み始め。
……互いに一息付いたタイミングで俺は話しかけた。
「ご馳走様。久しぶりに食べたが悪くない……人と一緒に食べる朝食は美味しいよ」
「……あなたなら、うちの子達と仲良く出来そうだわ」
「うちの子?」
マギサは笑顔で俺を見ているようだ。
「そう、うちの子達……今は参戦者……私の陣営の仲間として、自分の意思で参加した子供達よ」
「子供達、つまりそれは少年兵かな?」
俺は戦う子供達という、言葉が持つイメージに嫌悪感を覚えた。
出来るだけマイルドな口調で、今のうちに懸念を疑問として、マギサに問いかけた。
こういう懸念は早く潰すのが、先がどうなるかは分からないが。
信頼関係を作っていく過程では肝要だ。
「どうやら誤解をさせてしまったみたいね。参戦者になったのは皆、十五歳以上の子よ。こちらじゃ、戦時国際法や慣例、人権意識、成人の定義も違うの……そこは気をつけてね」
「……なるほど」
「だけど、その優しい心は忘れないで……」
◇
――約三時間前――
――名古屋市近郊の軍事区画――
廃墟に囲まれた名古屋市。
その近郊には行政機関から警察業務、軍事業務を受注する企業。
民間軍事会社(PMC)の関連施設が集まる区画が幾つかあった。
その中でも特に大きな区画を丸ごと一社で使用する、民間軍事会社の施設。
滑走路を備えた、基地と呼ぶに相応しい施設へ……ひとりの男が空路で到着していた。
◇
ステルス性を備えた有人、無人の大小様々な航空機が駐機する滑走路脇。
近くの車道を走る……対爆、対狙撃対策が施されたリムジン車内。
後部座席には黒いスーツを着込み、メガネをかけた中年男性。
メガネと連絡用のインカムを装着した女性、若い女性秘書が乗車。
中年男性は髪を短く刈り込んでいるが、所々白髪が混ざっている。
だが、筋肉質な体格と……整った顔立ち。
何より、見る者に好印象を与える顔。
メガネの下に隠れた、力強さと優しさを備えた目元が……男に実年齢の五十代を思わせない……若々しさを漂わせていた。
走行中のリムジンの車窓からは、基地内にずらりと立ち並んだ防爆格納庫が並び。
その中では、自社製の最新鋭ステルス無人戦闘機が翼を休め。
作業用ドローンの手によって――ミサイルやガンポッドなどの――爆装を施されていく。
そんな自分の庭を眺めている、中年男性の耳元には女性秘書の報告が響く。
◇
「会長、昨日マギサ様が転移施設付近に転移陣を介さず、緊急転移で帰還した件ですが、マギサ様が直々に出迎えた転移者は、イレギュラー転移を起こし、市警察のSWAT部隊を救助名目で転移先に展開、救助を完了しています」
「……他の転移者はどうなっている?」
女性秘書は中年男性、自分の雇用主である会長に用件を淡々と伝えていく。
「他の転移者は予定通り全て、環境体験型訓練施設の転移陣へ転移。チュートリアルを終えた順にメディカルチェックを受け、合同説明会までの間、外部との情報遮断をした、施設内の宿舎で順次、待機させています」
「そうか……マギサとその転移者は、朝食ついでに私が出迎えよう」
会長と呼ばれた男はそう言うと、装着したメガネ型デバイスを通話モードに切り替え。
「おはようマギサ。昨日は大変だったようだな」
マギサに通話モードで目覚ましコール。
『……ん……ああ、矢島…………おはよう』
名前を呼ばれた男、矢島はもうひとりの魔女(マギサ)である、小さな妖精族の少女と自分達が抱えている問題を思い出し……話を続けた。
「それより、君が直接連れてきた転移者だが、またツバメの相棒。パイロット候補なのかな?」
『しょうがないでしょ……こっちの人間じゃ、魔力上昇の速度が黒鉄を動かすのに全然足りないのよ……それに……何人も連れてくるのは疲れるわよ……今からシャワー浴びるから……』
「それは失礼した、ところで朝食を一緒に取らないか? 場所は子供たちがよく使っている店だ」
――そして現在――
◇
俺はお手洗いに来ている。
流石にトイレは俺の世界と大差がない感じだ。
「これじゃ、本当に並行世界に来たのか疑わしくなるな――?」
俺が用を済ませ。
手を洗い終えた直後。
……あり得ない事が起きた。
俺のスマホの表示は明らかに圏外。
だがブルブルと震え……マナーモードで着信しているのだ。
……かけてきた相手は明らかに文字化けして……正体不明な相手だ。
しかもメールが同時に着信して、件名が『声を出さずに聞け!』……となっている。
俺は心臓の鼓動をバクバクと感じたまま。
その着信を――ピッ――取ってみた。
『――絶対二声ヲ出スナ。其処カラ動クナ。其処ハ監視カメラガ無イカラ安全ダ。オ前ノ名前ハ――』
聞こえてきたのは可愛いボカロと違い。
明らかに、身代金でも要求しそうな合成音声。
『――デ間違イナイナ。ソウナラ歯ヲカチカチト鳴ラセ』
俺は氏名を呼ばれ――ガチガチ――と思わず歯を鳴らした。
というより、ビビッて……鳴らしてしまった!
心臓の鼓動。
歯の当たる音が絶妙な加減でシェイク。
俺の体と心に供給され。
合成音声の主は話を続けた。
『イイ子ダ。コノ後、オ前ハ、マギサ、魔族ノ女、魔女ト契約ヲ結ブカ否カ選択スル。ソウダナ? ソウナラ、Yesト小声デ言エ』
「イエス! 高――もごっ!」
俺は思わず某美容外科のCMで有名な言葉を口にしそうになった。
だが、何とか口を片手で押さえた。
『イイ子ダ。生キ残リタイナラ、契約ヲシロ。契約ヲシナカッタ奴ハ皆、マギサノ敵二殺サレタ――』
「マジかよぉお!?」
(ヤバイ! 叫んでしまった!)
『――叫ブナ馬鹿モノ! ソノ魔女ハ今ノ所ハ安全ダ。ソレト、私ガ送金シタ暗号資産ハ、オマエノ物ダ。好キニ使エ――』
(………………コイツはもしかして一昨日、掲示板で見た電波な奴か!?)
『――但シマギサ達二ハ悟ラレルナ。マタ時期ガクレバ連絡スル。私ノ今ノ力デハオ前ヲ救エナイノダ。次カラハ、ソノ端末ノ、ブルードロップモ使エル様二シテクレ。生キ残リタイナラコノ着信履歴トメールハ直グニ消セ――』
送信者はそう言い残し、一方的に通話を切った。
俺は急いでスマホを操作して履歴を消し――軽く顔に水道水を掛け。
そのまま……数秒の間を置き……外に出た。
「どうしたの?」
「……顔を洗おうとしたら、派手に失敗したわ」
「まぁこれでも使って」
マギサはそう言うと店員が持ってきた……熱いおしぼりを渡してきた。
「すまない――それとそちらは誰?」
俺はドキドキしたまま。
新たに増えた人々。
マギサの隣に座る知り合いと思われる――面々に申し訳ないと思いつつ。
俺は素早く――熱いおしぼりで顔を拭き。
顔と手に熱を感じながら、お手洗いの横にある返却コーナーの隅で湯気が昇る……おしぼりを置き……自分の席に戻った。
するとマギサが口を開いた。
「紹介するわね。こちらのナイスミドルは矢島とその秘書の新谷さん」
「どうも初めまして矢島です。一応、マギサの上司になるかな。これでも異世界帰りの経営者です」
「初めまして秘書の新谷です。それと会長、外では異世界関連の言動は謹んでください」
「おいおい! ここは我社の警備で固めているから問題ないだろ。それに世間に広まっている都市伝説的にも、私は異世界帰りだから問題無いと思うが?」
「それもそうですが、転移者の方が混乱される可能性も……」
なんか賑やかな人達だな。
俺はロングヘアーを纏めた如何にも、秘書といった感じがする。
メガネ美女の新谷さんからの視線を受け……話し始めた。
「お気遣いありがとうございます。自分も少しは、マギサから……大まかな事情は説明されましたが、何せ……初めての経験なのでどうか、まだ戸惑っている部分もありますが、よろしくお願いします」
俺は軽く頭を下げ……顔を上げた。
ナイスミドルな矢島さんが、優しい眼差しで俺を見ながら話し始めた。
「なるほど……マギサ、君が直接迎えに行くわけだ。マギサ、確か転移者の名前はまだ知らなかったな」
「ええ、流石に100人近くも、連れてきた契約者がみんな逃走したら……初めと違い……故郷の験担ぎ抜きでも、契約前に名前を覚える気は失せたわ。まぁ、その原因を作った張本人は今頃、研究所でまだ寝ているのでしょうけど……」
確かに名乗った覚えは無い。
というか、必要性が無かったというべきか。
だが、連れてきた人様の名前を覚えない。
その気持ちをサラッと愚痴を交え。
言葉にするのは酷いと感じたが――故郷の験担ぎ?
「……気分を悪くさせたわね……ごめんなさい。私の故郷には魔女が、参戦者を迎える際の験担ぎと、その元になった、諺があるのよ。それが――」
「――『女神との接吻まで名は聞くな』だったかな。正解かマギサ?」
「正解。誰に聞いたのよ?」
「向こうの酒場で飲んでいた時さ……酔っ払ったミリサとツバメに絡まれ、聞かされたよ」
「……それは大変だったわね。そう言えばツバメで思い出したけど、うちの子達が遅いわね」
(ミリサとツバメ? この感じだとこの二人は酒癖が悪い感じか?)
「ああ、それなら先に研究所の方に送迎しといたよ。単位は大丈夫みたいだから、今日は学校を休ませた……昨晩は後始末で、大変だっただろうしな。さて、我々も移動しようか」
矢島さんがそう言うと、俺達は席を立ち。
店の外に出る感じになった。
俺が店の外に出る寸前――矢島さんから話しかけられた。
「そうだ。転移者くん、君が仲間になるなら後で、いいものを進呈しよう」
その後、俺とマギサは矢島さんの護衛の車列とは別ルートを通り。
研究所とやらに向かっていくようだ。
途中、名古屋市警察SWATと車体にペイントされた、装甲車が車列の前後を固め。
パトライトを真っ赤に輝かせ。
サイレンを唸らせ始めた。
……俺はこれから向かう場所で決断をしなくてはいけない。
だが――果たして――何を信じるべきなのだろうか?
先程の不審な電話を疑うべきか? 信じるべきか?
マギサ達を信じるべきなのか? 疑うべきか?
俺が悩んでいるのを察したのだろう。
マギサは先程と違い……無口だ。
俺の中で生まれた感情。
不安と悩みは混ざって漂い。
姿が見えない霧に判断力という視界を塞がれ。
俺は先が見えない事や……決断を下せない自分に対して……歯痒さを噛み締めていた。
お読み頂きありがとうございます。
06話の投稿は02月13日16時36分になりますm(_ _)m