※この作品はR-18です。

魔女の天下取り   作:hidenyan

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<06話 契約者と経験者>

 ――名古屋市郊外 山中――

 

 俺は車を降り。

 着いた場所の周囲を見渡した。

 目の前には……芝生に囲まれた……白い数階建ての建造物がある。

 周りは山だらけで、ここは切り開いた、山頂の様だ。

 少し下には溜池や建物が何棟と……グラウンドがあるようだ。

 

 そして、このすぐ麓には、奇妙な場所があった。

 

 何やら銃火器を持った方々や、荷台に機関銃を備え付けた、テクニカル車輌の類いが屯する、ゲリラっぽいモヒカンだらけの施設だ。

 駐車場の一角では、付近の山で仕留めたと思われる、イノシシやシカを解体。

 モヒカン達はクーラーボックスから、冷えた缶飲料を取り出し。

 片手に握り締めて――ガブガブと飲み。

 煙なんか気にせず……バーベキューをしているようだった。

 ゴミの類いは、近くの空き地に集め。

 火炎放射器を使い、別のモヒカン達が焼却処分を行い。

 少し離れた別の空き地では、色と形状も様々なモヒカン達が横一列に並び。

 ……何かを叫びながら、射撃訓練をしていた。

 

 それに引き換え、ここは微かに涼しい風が……心地よい感じだ。

 時折、セミの鳴き声に混ざって、銃声や叫び声が麓から聴こえるが、もう違和感は無い。

 遠くには摩天楼が何本も聳える、この世界の名古屋市が見える。

 そんな俺の横にマギサが立ち。

 ……静かに口を開いた。

 

「ついたわよ。ここが研究所……少し見覚えがある場所でしょ」

「確かにあるな。向こうで何度か来た事があるよ」

 

 ここはどことなく、見覚えがある場所だ。

 確か俺の世界では……山の上に造られた……大学だった筈。

 過去に何度か、俺は仕事の用事。

 資格関連の試験で来た事がある場所だった。

 

(となると、下のモヒカンの集う場所は道の駅かよ!?)

 

「こちらの世界での正式名称は……特別軍事法人NEET第七研究所よ……行くわよ」

 

 俺はマギサに案内されながら、建物の中に入っていった。

 既に矢島さんは先に、建造物の中で待っているようだ。

 護衛や市警察の方々は自動小銃を構え。

 周囲の警戒をしている。

 ミニガンを積んだ、市警察の装甲車両のハッチから、身を乗り出しているのは――サングラスを装着した、タンクトップを着た黒髪ショートヘアーの若い女性だ。

 

(ピザを食べているのかよ……チーズが美味そう)

 

 ◇

 

「鬼沢さん~護衛対象は施設内に移動完了~山でも見ながら二人でピザ食べましょうよ~」

「ガンナー、俺達は一応護衛任務中だぞ。気を抜くな。インカムは付けているか?」

「勿論ですよ~鬼沢さん」

 

 鬼沢とガンナーは、昨日の賭けで勝手得た昼食。

 ロブスター風プリプリモビアック載せ、ピザを食べていた。

 ガンナーは外を目視で見張りながらなので、通信機能も備えたサングラスを装着。

 サングラスに搭載した小型カメラが捉えた映像や音声、その他の位置情報は市警察の分散型データベースとリアルタイムでデータ類を送受信。

 不審者やテロリストを炙り出す、目の一つと機能している。

 

「ガンナー、鬼沢さんの言う通りだぞ。気を抜くな」

 

 二人にピザを奢った一人。

 龍澤もハラペーニョピザMサイズと麓の『PMCセンター』世間での俗称は『ギルド』で調達した、特売品だった、焼き立ての串焼きを食べながら……言葉を発した。

 最近は対犯罪者や対テロリストの山狩りが多く。

 その関係で仕留めたジビエだそうだ。

 

「勿論ですよ~龍澤さん、お二人は偶には、コンクリートジャングル以外の自然も見ながら昼食を楽しみたくないのですか~その串焼き私にも分けて下さいよ~」

 

『若菜、スラム街は自然じゃないよ。人工物』

 

 少しだけ不満を交え、龍澤に反論するガンナーに対し。

 ガンナーの名を呼び。

 異議を唱えたのは、車内スピーカー経由で声を発した彼女。

 ドライバーだった。

 

「麗華先輩も一緒に外で食べましょうよ~」

 

 若菜もドライバーの名前を呼び。

 スラム街や自然へのツッコミは無視して、今度は外へ麗華を誘う。

 

『若菜、そのハッチから二人も身を乗り出すのは無理よ。二人分のバストが邪魔になるでしょ』

 

(……平和だな)

 

 鬼沢は若菜と車内スピーカーを使って話す、麗華の話を聞きながら。

 ……座席で横になっている。

 真ん中には昨日使った担架、人命救助ドローンがメンテナンスを終えて戻り。

 向かいでは同じように、龍澤がピザや串焼きを食べ。

 ゴロゴロしている。

 

 鬼沢達は昨晩、署に帰投後。

 上司から特別任務を命じられた。

 

 任務内容は要人警護。

 しかも警護対象はかつて、自分と龍澤がいた古巣。

 特別軍事法人NEETの……幹部連中だ。

 上司の話によると、何でも市長から直接下された命令らしい。

 故に通常の任務は全てキャンセル。

 翌日から月曜日までは、休暇でいいとの事。

 悪くない条件なので皆、この任務には満足している。

 

 少しだけ眠気が出てきた鬼沢の斜め目の前。

 上部ハッチの入口で足をブラブラさせる……若菜が鬼沢に話しかけてきた。

 

「そもそもここは、NEETの中枢施設ですよ。流石に昼間から襲撃する馬鹿はいないでしょ」

「……まぁ、可能性としては低いが、NEETの女性幹部と歩いていた、若い男がいるだろ……あれ、昨日俺達がレスキューした奴だぞ」

 

 鬼沢のさり気ない一言で場の雰囲気が一気に変わった。

 直ぐに反応したのは、外を目視で確認している若菜だった。

 若菜はデータベースから、数分前の動画を呼び出し確認。

 少しだけ驚いた感じで、話し始めた。

 

「確かに警護対象の女性はデータだと、PMCの要人ですね。隣の男性も警護対象ですが、ああ! 確かに昨日救助した方ですね! でもそれだと、データ表示に出てこないのは、おかしくないですか?」

 

「あ、鬼沢さんも気付いていましたか」

 続いて反応したのは、同じ古巣の龍澤だった。

「龍澤も気付いていたか。あの女が出てくるとか、この任務は普通じゃないよな」

「ええ、あの幹部の女……確かマギサだったかな……あの女も謎が多いですよね……創業者の矢島と違い、決して表舞台には出てこないが、軍や警察の機密資料でよく名前を拝見する方の一人だ」

「そう言えば~鬼沢さんと龍澤さんも確か元NEETですよね!」

 

 若菜が思い出した事を『なるほど』といった感じで無邪気に発した。

 

『そういや、お二人さんはPMCの方が、明らかに金と装備がいいのに、なして市警察に来たのですか?』

 

 その疑問に答えたのは、鬼沢だった。

 

「市警察のSWAT隊員だった、市長と昔からの知り合いでな」

 

 ――その頃 研究所内部――

 

 ◇

 

「ヘックシュン! 誰か私の噂をしているな~」

 

 小さな少女と見間違いそうな小柄な女性が、矢島の隣に並んでいた。

 その隣にはマギサが並んでいる。

 一見すると、親子が三人で並んでいる様にも見えるだろう。

 少し後ろでは矢島の秘書、新谷が静かに待機している。

 

「市長、ご協力感謝します」

「気にしないで矢島さん……マギサちゃんも大変だったね」

「ええ。正直なところ、彼でパイロットが決まればいいのですが」

「ツバメちゃんを見ている感じだと、大丈夫じゃないかな?」

「ええ、だといいのですが」

 

 三人は並んで……豆腐一丁並みに分厚い防弾ガラスの向こう側。

 そこで、白衣を着た研究員や作業服をきた整備士に調整を施される兵器。

 マギサの世界、ツバメの里から持ち込んだ戦鎧『黒鉄』の姿を見ていた。

 黒鉄の胸部のコクピットには、十数年経っても相変わらず、少女のままの妖精族。

 ツバメがパイロットスーツの様な服を着込み。

 音声は分からないが、研究員や作業員の見せる、タブレットのデータ類を互いに確認。

 時に笑いながら、談笑をしたりしているようだ。

 

「――会長、所長が間もなく、こちらで今回の実験について御説明するそうです」

 

 秘書の新谷が話しかけた直後。

 防弾ガラスより分厚い対爆扉が開き。

 この研究所の所長が現れ、第一声を発した。

 

「お待たせしましたぁあああああああ!」

 

 四人は振り向き。

 ボサボサの寝癖のまま。

 白衣を着た、少し残念そうなメガネを掛けた、理系女子。

 

「やぁ本田君、今回の実験は上手くいきそうだと聞いているぞ」

 矢島は顔見知りである、本田所長に笑顔で話しかけた。

「どぉおおも会長! いつも予算工面してくれてサンクス! そしてマギちゃんと市長ども~」

 

 マギサと市長は軽く手を振り挨拶。

 だが、顔に少しだけ――不安と汗が浮かんでいる。

 

「いや~流石マギちゃんが、例の並行世界から直輸入してきた人材は魔力反応がビンゴでしたよ! ご覧下さい! あのツバメちゃんの笑顔を!」

 

 確かに防弾ガラスの向こうのツバメは笑顔だ。

 皆、自然と横一列に並び。

 本田所長の解説は続いていく。

 

「昨日深夜、マギちゃんが直輸入してきた転移者の救助時、ドローンで採取させた生体サンプル、要は血液を使い。黒鉄のコアに魔力反応するように、ツバメを搭乗させた状態で、擬似的にコアが動くか試したところ……矢島会長達が撮影していた『異世界動画』の通りに、黒鉄が動きましたよ! まぁ三分間だけでしたが……これは大きな進歩ですよ!」

 

「なるほど、ところで本田君――」

 

 矢島は少しだけ嬉しくなった。

 確かに三分間でも、黒鉄が動いたのなら。

 支援体制さえ整えば、実験的な戦闘には投入が可能だ。

 後は、黒鉄のデータをベースに後継機の開発と量産化。

 実戦での戦術運用ノウハウの確立。

 そうすれば、マギサの世界で続く戦い。

 女神の代理人を決める戦いに、自分達は勝てる。

 その目処が立ったのだ。

 矢島は少し嬉しい気持ちだ。

 だが、同時に疑問も抱き……口を開いた。

 

「――見たところ……黒鉄の中身はどうした? 中身が空っぽじゃないか?」

 

 先程まで、ここで見た限り、黒鉄が実際に動いているところは見ていない。

 見たのは此処に来る途中、機密回線で送られてきた、記録映像だけだ。

 普段なら、ツバメやパイロットを保護するスライムの肉塊。

 改造するのに手間が掛かった、竜骨のフレームがある筈だ。

 だが、それが綺麗さっぱり無いのだ。

 矢島は一抹の不安を覚えた。

 

「ああ、中身は再利用しましたよ。それについては、責任者であるマギちゃんから、会長や市長に話した方がいいかな~」

 

 マギサは三人の視線を浴びながら……防弾ガラスに触れ。

 静かに話し始めた。

 

「これまで、私とツバメが選んだ転移者は、魔力反応値は平均以上で優秀だったけど……ツバメとの魔力接続の回数が増える度、精神汚染が発生して、その後は錯乱して山中に逃走、他の魔女に保護されて来たけど、その後、色々と調べた結果。彼らには元の世界への後悔や現状への恐怖感が強く発生していたのよ……」

 

「……マギサ、話を続けてくれ」

 

 矢島はマギサの話に聞き入っている。

 隣の市長や秘書の新谷も……真剣な顔で話を聞いているようだ。

 

「そこで、クラウゼに人材選定の基準を変更させたの『他者と魔力接続しても自我を保てる人材』にね……そうして、向こうの世界で収集したビッグデータから調べた結果、何百人か候補者を見つけたのだけど、例の妨害者。振り込み失踪事件を大規模に行っている、正体不明の誰かに9割近い候補者を失踪させられ……残った約60人の大半は、自宅のドアや通勤通学系路上に事前に仕込んだ、使い捨ての転移陣を使い、最後の一人は私が直接転移させてきた……黒鉄の中身は私が直輸――じゃなく、直接連れてきた転移者の改造手術に使ったわ。その辺の説明は本田所長や後日、本人も交えて、担当医と私がした方がいいわね」

 

 矢島は驚いていないようだ。

 何だか、予想通りといった感じの顔である。

 そんな中、話を聞く側だった市長が、笑顔で口を開いた。

 

「なるほど、私にもこの件の話が矢島さんから、くるわけだ……いいよ! 市長の権限の範囲内なら、幾らでも協力してあげるから、マギサちゃんも頑張りな!」

 

 マギサは市長の協力的な反応に驚いているようだ。

 確かに転移に伴うモンスターの発生や転移。

 その後始末や事後処理、隠蔽工作には市長や市警察も協力している。

 少しだけだが、異世界や並行世界についても存在を把握、理解している数少ない政治家。

 元SWAT部隊出身の市長でも、この反応は妙だと感じた。

 その違和感の答えは矢島が話始めた。

 

「マギサ、市長にも協力してもらう見返りに……ツバメの輝きを分けて参戦者になって貰った。これまで話していなかった、女神の代理人の概要についても、知っているよ」

「そういう事ですか……」

「……そうだよ。市長が私じゃなくても、矢島さんの提案には応じたと思うよ。死者の完全蘇生が出来る可能性があるのなら……当然じゃないかな」

 

 マギサは市長の経歴を思い出していた。

 彼女は第三次世界大戦終結後、創設間もない名古屋市警察の特殊部隊SWATを創設。

 だが、旦那と子供をゲリラ戦に巻き込まれ、失っていたのだ。

 マギサは愛する人を失い、それでも生き抜いてきた市長。

 この世界の人々の死生観を異世界人である、自分が汚した様な気持ちになった。

 だが、マギサが求める理想の一つは市長に近い。

 可能なら愛する人、恋人を女神の奇跡で蘇生させ、それが不可能なら、生死の確実な、確認を行いたいのだ。

 その為にも、女神の代理人になり、聖域で生死不明なまま、行方不明な自分の恋人。

 彼が生き返るか否か、女神の代理人が使える、手元に死体が無くても行える秘技。

 遠隔蘇生の秘技で調べたいのだ。

 最も、死者蘇生魔術が行い難い場所、聖域で彼が死んでいた場合。

 その死亡は、確実に確認出来るから、まだマシだ。

 マギサが嫌なのはハッキリしない状況。

 霧が立ち込めた様な、気持ちを抱えたままの自分が嫌なのだ。

 

「市長、今後ともよろしくお願いします。私は連れてきた転移者と話があるので、失礼します」

 

 マギサはそう言うと、部屋を足早に出て行った。

 

 ――研究所内――応接室

 

 ◇

 

 俺は応接室にいる。

 部屋の感じは周囲の山々が見渡せる。

 眺めのいいガラス張りの広間っぽい空間だ。

 間近に近付くと、ガラスは分厚い防弾ガラスなのが分かった。

(流石に下のモヒカンさん達を考えると、流れ弾とかが危なそうだからな)

 出口の周囲には、マシンガンで武装した、黒服姿の護衛がいる。

 トイレ以外は部屋から出ることはないので、とりあえず。

 スマホを触って……グレーのソファーで待っている状態だ。

「あ、そうだ」

 俺はソファーで仰向けになったまま。

 例の正体不明な着信を思い出し。

 スマホのブルードロップ機能をオンにした。

 

(ブルードロップ……って確か、周辺機器を繋ぐ無線機能で、メールや画像、音声を周囲の人間とやり取りする機能だから、異世界で使えるとは思えない――ぇええ!?)

 

 まさかのメール受信。

 という事は、近くに送信者がいるのか?

 俺は念の為、カメラの視線も考え。

 さり気なく死角を作れる様に、この姿勢を選んだが、正解だった。

 

 メールの内容は――『其処まで行けばもう安全だ。お前の契約後に会いに行く。休日はブルードロップをオンにしたまま、この端末を持ち歩け。幸運を祈る。追伸・カメラの死角を気にして仰向けでスマホを弄るのは正解だ』

 

(一体何者だよ!? もう異世界転移とか体験したから驚かないけどな!)

 

 俺は疑問と不安を覚えつつも、仰向けのままスマホの電源を切り。

 普通にソファーに座った直後。

 

「お待たせ。随分と待たせたわね」

 

 丁度マギサが入ってきた。

 

「……今なら全て忘れて、元の世界に戻れるわよ」

 

「…………マギサ」

 

(……例の不審な着信を信じる事になるが。仕方ない……)

 

「契約するよ」

 

「そう……なら、私について来て」

 

 どうやら移動するようだ。

 俺は部屋を出て、研究所の奥へ進んでいく。

 途中何度も曲がり角が多かった。

 恐らく侵入者対策なのだろう。

 まるで、迷宮のようだ。

 

「着いたわ……」

 

 俺が入った部屋で見たのは、壁際に並ぶ六人の男女。

 カラフルな髪をした美男美女の少年少女。

 学生服を着ているようだから、学生だろうか。

 部屋の中央の床には……魔法陣の様な何かが描かれている。

 そして、宙に浮く――小柄な人影。

 

「妖精?」

「マギサ! そいつがあたいの相棒ことパイロット候補か!」

 

(喋った!)

 

「よろしく! あたいはツバメ!」

 

(しかも日本語ペラペラ!)

 

「これでもマギサと同じく、女神を目指す魔女の一人だ!」

 

 俺が驚いているのも分かっているのだろうか。

 マギサは俺の肩を軽く叩き。

 話しかけてきた。

 

「とりあえず、あの妖精、ツバメっていって、私の友人がいる魔法陣の中心まで私と一緒に進んでくれる」

 

 俺とマギサは二人で並んで魔法陣の中央。

 ツバメの目の前に立った。

 

「んじゃ! マギサと100何人目かの転移者君! 契約を開始しよう! いや~まさかマギサとあたいの妖精族特有の魔力が、黒鉄の核に干渉した結果! 中の人が発狂していたみたいだからね! 初めからこうしていれば良かったのよね!」 

 

 ツバメという名の妖精は何やら、涙ながらに熱く語っている。

 

 内容は分からないが、なんか嬉しそうだ。

 だが……。

 

(これまで100人以上が発狂とか、マジで不安になるよ!?)

 

 しかし、ツバメと名乗った、妖精さんは小さい体格。

 それも美少女フィギュア並なのに。

 声量が普通の人と変わらない。

 

 ジャラ。

 

「ええと、このメガネを装着して、このペンダントも身につけてね。その結晶は私とツバメの結晶を半分ずつ、砕いて混ぜた物だから、あなたは私とツバメ、二人と契約するのよ」

 

 マギサはそう言うと、ポケットから出したメガネ。

 そして茶色の革紐で結ばれた青い結晶の付いた、ペンダントを渡してきた。

 俺はそれを身に付け。

 メガネには『魔女との契約について』と文字が表示され始めた。

 電子音も聴こえてきた。

 どうやら、情報機器のようだ。

 此処まで来たら、後戻りは出来ない。

 それ以前に着の身着のままで、俺は異世界に来た。

 

(そんな俺に……他の選択肢などない)

 

 俺は再度……覚悟を決めた。

 

「人が視界に入って、文字が見にくい時は壁や床に視線を移すといいわよ」

「転移者君、そいつの調整はあたいも後で手伝ってやるよ!」

 

 俺は頷き。

 宙に浮きでた、目の前のカーソルに触れた。

 

「感触まであるのかよ」

「少しだけ脳波に魔力で干渉して、使いやすくしているのよ。」

 

 何となく、使い方が分かった俺は、表示を指先で摘み。

 出てきた契約項目を確認。

 大体が、女神の掟に関する事項とPMC(民間軍事会社)での雇用に関する、契約内容のようだ。給料は当然。

 この世界の法定通貨で支払うようだが、見たところ。

 

(こっちじゃ、法定通貨が暗号資産化しているのかよ)

 

 どうも補足事項を見ると、この世界の日本では、第三次世界大戦の復興を進める為。

 預金封鎖後に高額課税とデノミを実施。

 通貨単位の切り替えを行い、日本円をデジタル通貨にもしたようだ。

 一応、日本円の紙幣や硬貨の現金は、まだあるようだ。

 今では暗号資産、この世界では『暗号通貨』という呼び方をする形態が、決済の形態としては、主流のようだ。

 そして俺は一番下まで項目を読み。

 全ての契約内容に同意するという、カーソルを摘み。

 承認する場合はカーソルをペンダントの前で握り締めろと、表示され。

 俺はカーソルを胸元のペンダントの前で握り締めた。

 次の瞬間カーソルが手の中で砕け。

 足元の魔法陣が青く輝き――マギサ達が口を開いた。

 

「よろしく。あなたの名前を聞いてもいいかしら」

「お、そうだったマギサ! あたいも験担ぎで敢えて、プロフィールを見ていなかったから気になるよ! 転移者君、あんたの名前は?」

 

「俺は遠近義明だ。まぁ見ての通り、無職のおっさんだがよろしく」

 

 こうして俺は、女神を目指す魔女達との契約を行い。

 女神を目指す戦いに参戦する、者達の一人になった。

 だが、マギサとツバメの表情が固まっているのは、何故だろう?

 

 ◇◇◇

 

 ――数時間後――

 

 俺は先程いた応接室で……矢島さんから、あるものを渡された。

 それは銀色の刃のような、大口径の回転式拳銃。

 彼曰く、グリップは樹脂ではなく。

 竜皮に交換したから、頑丈だそうだ。

 

 ◇

 

「まさか、あの二人も気絶する程、君に驚くとは……それ以前に気づくと思ったが……とはいえ、君は君だ」

 

 どうやらもう一人の俺。

 この世界で生まれ、第三次世界大戦中にマギサの故郷。

 異世界に転移した彼は、マギサの恋人だったらしい。

 そして妖精さん、ツバメも……彼には懐いていたようだ。

 だが彼は、マギサや矢島さん達が、地球に転移する際の戦闘で生死不明。

 その時の映像は、矢島さんが当時身に付けていた装置。

 スマホを改造した、ボディカメラに残っていたので……見せてもらった。

 

「自分の声はビデオで聞くと違和感が凄いだろ?」

「ええ、でも……彼は彼ですよ」

「そうだった失礼。困った事があったら、いつでも私に連絡をくれ」

「ありがとうございます」

「……聞きたいのだが、君は今どんな気持ちだ?」

 

 俺は少し悩んだが、何故か自然と口が動いた。

 

「ハッキリ言って、俺に選択肢は一つしか無かったですね。マギサ達と契約する意外には」

「君は意外と前向きだな」

「自分でも意外だと思いますよ。異世界転移なんてあり得ないと思っていましたから」

「……それは第三次世界大戦中に転移するまで、私も同じだったな。だが、異世界転移の先輩である私からしたら、君はイージーモードだ。この意味が分かるかね?」

 

 俺は直ぐに意味を理解したので即答した。

 

「ええ、いきなりファンタジーな世界に転移せず、自分の世界と似たような世界に転移する、しかも、異世界転移経験者のサポートまである……おんぶに抱っこかもしれませんが……」

 

 俺の中から漠然とした不安は消え去り。

 昔、一度は憧れた、あるイメージ像が浮かび……口を開いた。

 

「この世界にも、外人部隊はあるかも知れませんが、俺の立ち位置はそういうポジションなのかもしれませんね」

 

 要は利害関係の外にいた異邦人なら、報酬で忠実に動く可能性が高い。

 しかも故郷と離れた、異国どころか異世界なら、大使館も無い。

 つまり逃げ場は一切ないのだ。

 俺もマギサや矢島さんの立場だったら、似たような手段を考え。

 ……行使をするだろう。

 自然とそう考えるのは、様々な視点や立ち位置から描かれた、フィクション作品。

 異世界転生、転移などの小説や漫画、アニメに慣れているからだろうか。

 

「外人部隊か……理解が早くて助かるよ。まぁ、それも君や私みたいな異邦人が、あの世界……死者が完全に蘇生出来る魔術……女神の奇跡がある、世界で望まれる理由なのさ。もう一つは君達の世界というか、日本では異世界転生や転移の小説、アニメが……異様に多いだろ」

 

「確かに多いですね」

 

 ただ単にテンプレや流行。

 無料で読める投稿サイトの登場と定着。

 出版社のレーベルカラー、編集者の好み、趣味趣向などの都合。

 それらや社会情勢が複雑に絡みあった、その結果だと思った。

 だが、矢島さんは意外な言葉を発した。

 

「アレを流行らせているのは私達だよ。情報操作というか、広告宣伝、プロパガンダの一種さ。事前にそういう渇望を生みやすくしておけば……転移後のトラブルも少ないからね……君の世界の編集者や作家の中には、異世界人も紛れ混んでいるのだよ」

 

 俺は少しだけ、矢島さんの言葉に恐怖を覚えた。

 だが、彼の表情は何かを懐かしみ。

 悲しんでいる様にもみえる。

 

「……それは経験したからですか」

 

 言葉足らずだとは思った。

 だが、他に言葉が浮かばなかった。

 言い直そうと思ったが、直ぐに矢島さんは……話し始めた。

 

「そうだね……私の世界。ここでは第三次世界大戦前や戦中は、異世界系の作品は、さほど流行っていなくてね……いきなり転移した我々は、酷い目にあったものさ。特に地球に戻った私達は後悔したよ……フィクションの想定力は馬鹿に出来ないのだと」

 

 そう言うと、矢島さんは出口に向かって歩きだした。

 

「そうだ、契約をした魔法陣の周囲にいた子供達は、マギサの世界から来た子供達だ。癖が強い子達だが、仲良くしてくれ」

 

 応接室で一人になった、俺の手元には、矢島さんから贈呈された、大口径の回転式拳銃。

 胸元には参戦者の証のペンダント。

 ズボンの左ポケットには、マギサから渡された、メガネ型の情報デバイス。

 ズボンの右ポケットには、俺の世界から共に転移した、タフな圏外のスマホ。

 俺は応接室の窓ガラスに映る……燃える様な夕陽を視ている。

 この先、俺がどうなるのかは分からない。

 ただ、異世界転移をした俺が、この状況を楽しもうとワクワクしている。

 

 この感情と……燃えるような夕陽の輝きだけは……確かだ。

 




お読み頂きありがとうございます。
続きはストックが溜まってから投稿します。
不定期更新になるとは思いますが、よろしくお願いしますm(_ _)m

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