――特別軍事法人NEET第七研究所 応接室――
「――もうしばらく、こちらでお待ちください。それでは」
矢島さんが去った数分後。
護衛の黒服が、俺に要件を口頭で伝え。
……退室していった。
どうやら俺は今日から、この研究所に併設する施設。
宿舎に住む事になった、
だが、受け入れ準備があるそうなので……。
それまでは、応接室付近のエリアなら、自由に散策していいそうだ。
(とりあえず、この大型拳銃は防弾ベストのポーチに入れとくか)
俺は防弾ベストの左脇の収納スペースを――宛ら鞘の代わりに使い。
刃の様な大口径の回転式拳銃を差し込こみ。
……歩いてみた。
(歩くと少し、銃が動くか……専用のホルスターじゃないから、仕方ないか)
因みに俺と契約した、二人の魔女。
マギサとツバメの両名は気絶した後。
担架にマギサを乗せ、その上にお人形さんっぽく。
気絶したツバメを乗せ。
仲良くセットで運ばれていった。
倒れた直後は、俺が思わず二人を受け止め。
少し無理な姿勢になってしまい。
腰や脹脛に嫌な感触と……痛みが走った。
幸いにも、魔法陣の近くにいた、カラフルな髪と瞳をした少年少女が駆けつけ。
直ぐに救命措置を行おうとしていて、その素早い行動に感心した。
中でも、緑色の髪と瞳をした、少女の対応が……凄かった。
少女の両手が緑色の輝きに包まれ。
緑色の輝きをした……霧が……マギサとツバメに降り注ぐ。
本物の回復魔術を目の当たりにしたのだ。
外傷がなかった、二人への効果の程は分からないが。
近くにいた俺は若干、身体が軽くなった感じを覚え。
腰と脹脛の違和感と痛みが、無くなったのを感じた。
その際、オレンジ色の髪と瞳をした、学ランを着た少年に。
この輝きの正体が、回復魔術だと……説明された。
その後のマギサとツバメは、矢島さんや護衛の話によると。
二人とも今は医務室で安静にしており……問題はないとの事だ。
……というわけで、する事が無い俺は応接室の外。
廊下にある場所、自販機コーナーに来た。
そしてある事を確認したいのだ。
「やっぱりな」
予想通り過ぎて、俺は声を漏らした。
缶飲料の値段はやはり、一円数十銭~二円代だ。
デノミをしたと、先程知ったから、当然の結果である。
つまり百円が一円になり。
それ以下の単位は銭という事か。
(それに……これは)
何やら他にも、暗号通貨っぽい単位も幾つか、表示されている。
恐らく色んな決済手段が、重なる様に……この世界で経済圏を構成しているのだろう。
それに、この自販機の見た目は、俺の世界で見慣れた代物じゃない。
見慣れた缶飲料のサンプルは無く。
……全面が液晶画面だ。
俺の世界でも似たような、自販機を設置する動き。
そういう試みは、ニュースなどで知っていたが、実物を見るのは初めてだ。
画面を見ると、缶飲料の映像。
そして何やら、マスコットキャラクターみたいな小動物が動いている。
(そもそも、見に来ただけだからな。ん?)
なんだろう……歌声だろうか?
少女の声が聞こえる。
◇
――中庭――
「由美ちゃん! あと少しだよ!」
「うん……そうだね……アゲハちゃん」
私は久しぶりにツバメさんの妹。
妖精のアゲハさんと二人で、休憩を挟みながら……詠唱中だ。
場所は何時もの中庭。
傍から見ると、私達二人は歌っている。
その様にしか見えないだろう。
だが、私はこの魔弓を使い。
魔力矢の元になる魔力。
棒状に顕現させた魔力を生み出し。
魔力矢として使える、術式に整え。
魔弓に装填している最中だ。
私が魔弓として使う、迷彩柄のコンパウンドボウに装着した、白い弦。
この弦は、春先に硫黄島沖に迷い込み。
地球に転移してきたモンスターの一種。
飛竜を矢島のおじちゃんが仕留め。
手に入れた白い髭だ。
この弦は棒状の魔力を生み出し。
魔力矢を装填、発射するのに欠かせない。
大半の魔弓手にとって大切な道具。
アゲハさんの羽が棒になった、魔力の端に触れ。
飛行術式になる魔力……妖精族の羽由来の魔力を棒に付加していく。
それを終えたら、私は魔力矢を魔弓の中……亜空間に戻していく。
この繰り返しだ。
元々、異世界で幼少期を過ごし。
魔力生成量が多い、半魔族である私の兄や姉達。
大好きな紅菜姉ちゃんなら。
魔族のマギサ姉ちゃんからの魔力補充も不要な上。
飛竜の髭も使わずにサクサクと、一摘みで蕎麦の束みたいな、魔力矢を生み出し。
ツバメさんと組めば、一時間位で数万本は魔力矢の生成から装填といった。
魔力矢の大量生産が行える。
だが、魔力が乏しい、この世界で成長した者。
私は週一で……一時間掛けても数百本が限界だ。
この作業をしていると、偶に思い出してしまう。
参戦者になる前。
エルーナ教官やマギサ姉ちゃんに言われた言葉だ。
(……『あなた達はこの世界で育ったのだから、よく考えて道を選びなさい』……)
確かに私達は、この世界で育った。
生まれが異世界なのも、物心が着く頃には、何となく分かっていた。
だけど、偶にどうしても、私はモヤモヤとしてしまう。
(……自分は何者なのだろうと……ん?)
◇
俺は歌声に釣られ。
中庭に足を踏み入れた。
そこは綺麗に整った、芝生の上に白いベンチが置かれ。
壁とガラスの壁面を夕陽に照らされ。
芝生に差し込まれた、キノコと見間違いそうな、小型照明が輝き始めた空間だ。
白いベンチには、赤い髪と瞳の少女が座って、弓の弦を弾き。
赤い光の棒とハープの様な響きを生み出し。
汗を流し……一生懸命に何かを行っている。
少女の手元付近には……羽をパタパタさせ宙に浮く。
妖精がいた。
「ごめん……お取込み中だったかな。失礼しま――」
(これは邪魔をしちゃったかな?)
「い、いえ! 大丈夫です!」
「姉御の新たな相棒ちぃ~す!」
そうでもないようだ。
何やら妖精さんが、俺を手招きしている。
挨拶がてら、少女達と話でもしてみるか。
「綺麗な歌声だね」
「ありがとうございます。でも、歌じゃ無くて……詠唱なんですけどね」
赤い髪と瞳の少女は、はにかみながら、笑顔で答えてくれた。
この子も確か、魔法陣の近くにいた、少年少女の一人だ。
しかし……俺には妖精と少女が歌っている。
そんな感じにしか見えなかったが……それもそうだろう。
理解できない言語が、歌に聞こえる一面。
それは過去に何度か見た動画。
怒った外国人の動画に、ヒップホップなBGMをつけてみたなど。
噓字幕の発展系がある程度、再生数を稼いでいる事からも、人間の言語中枢や、生理的な機能が持つ、側面の一つなのかもしれない。
確かに俺は詠唱の意味も分からない。
歌に聞こえても当然か。
だが、詠唱ということは、先程の回復魔法と違い。
発動している感じがしない。
(練習なのかな?)
そういえば……回復魔法も手をかざしているだけだったな
ということは……。
「それって魔法の武器なのかな?」
俺は少女が膝の上に置いた、弓の用途。
詠唱や弓の弦の間に……吸い込まれる様に消えた……光の棒。
赤く輝く棒の正体が気になったので聞いてみた。
「正確には、攻撃魔術を装填して発射する、魔弓ですね」
「装填? 光の棒を?」
「ええ、さっきまで私達が唱えていたのは、魔力矢の装填詠唱です」
「そうだよ! 姉御の相棒くん!」
「すみません、自己紹介がまだでしたね。私は由美です。こちらはツバメさんの妹のアゲハさん」
「どうも、遠近義明です」
何やら妖精のアゲハさんの羽の動き。
それはまるで、猫が振る尻尾の様な印象を受ける。
実際、二人とも笑顔だし。
上機嫌なのだろう。
だが、少し気になったので、聞いておこう。
「あのさ、戦うときに詠唱とかしないの?」
「…………いえ、そんな危ない事しませんよ」
「え?」
「はは~ん。なるほどね~義明くんは魔術というと、ゲームやアニメのイメージが強いようだね~」
「ええ、本物は先程見たのが初めてですので。もしかして、無詠唱とかもあるのかな?」
(そういえば、例の女神の掟や……異世界の情報を見せられた時も、魔術の詳細には触れず)
剣と魔法の世界という、抽象的な説明だけだった。
だが、矢島さんに先程見せられた映像。
そこに出てきた、黒髪の少女は何やら。
両手から無詠唱というのだろうか。
そんな感じで、ボカスカとファイヤーボールっぽい火球を撃ちだしていた。
「いえ、私が知る限りですけど、魔術に詠唱は必須ですよ。分かりやすく説明すると……そうですね……銃だって、銃弾が無いと単なる鈍器ですよね。それと同じです」
確かに種と仕掛けが無いとダメだ。
因みにその鈍器が俺の懐にあるので。
その言葉の説得力と重さを一緒に感じている。
「……確かにその通りだね」
「ええ。それに、戦闘の最中に詠唱をしていたら、直ぐに射殺されてしまいますから。マシンガンで銃撃戦をしている現場に、火縄銃で乗り込むようなものです」
そりゃそうだ。
吞気に敵も待ってくれないよな。
分かりやすい例えだ。
俺がファンタジー世界の戦いに抱いていた印象。
それはサンタクロースの正体と同程度だった。
その様な甘さと現実の苦さを味わいつつ。
俺は話を続けた。
「魔法も銃とそんなに変わらないか……今、話題になった、その鈍器を矢島さんから、丁度一丁もらったけどね」
俺はジャケットの内側をゆっくりと……開いて見せた。
この世界の日本は、麓のモヒカンを思い出す限り、間違いなく銃社会だ。
いきなり懐に手を入れたら、俺がこの少女と妖精に殺される。
その可能性もあるだろう。
俺は最悪な場面も考え。
ゴクリ……動いてみた。
「……あ、すみません! その銃、見せて貰ってもいいですか!」
「………ほぉ~あの矢島が、私物をプレゼントか~」
良かった。
攻撃はされないようだ。
コミュニケーションの成功である。
安堵した俺は由美の言葉に応じ。
懐の大型拳銃を取り出し。
銃身を掴み。
回転弾倉を開放した状態で、瞳を輝かせた由美と……。
何やらニヤニヤする。
アゲハに見せた。
「お、この銃は義明くん~魔力を帯びているね~」
「いいな~この魔力の帯び方」
「魔力?」
「さっき貰った、メガネを掛けてみな」
俺は片手でポケットから、メガネを取り出し装着。
装着すると、メガネのシステムが自動起動。
そして何やら。
大型拳銃が微かに……白い光を帯びていた。
「これが魔力? あ! その弓と羽もぉおおお!」
俺は興奮した。
由美の弓は赤い光を帯び。
……アゲハさんの羽は虹色の光を帯びている。
「フフフ! あんたも契約したろ~暫くしたら、裸眼でも集中すれば、訓練次第で魔力は好きな時に、見れるようになるよ。そうだ! 由美ちゃんは準備があるだろ? 赤菜達の所に行ってきな~」
「ぁああああ! アゲハちゃんありがとう! 失礼します」
何やら由美は、アゲハに忘れているであろうことを言われ。
俺とアゲハにお辞儀をすると、俺が入ってきた入口とは別の入り口へ。
バタバタと元気に走っていった。
「元気な子ですね」
「……そうだよ。私達が赤子の頃に助けて……此処まで育てたんだ。まぁ座りな~ちょっと、今の君は緊張しすぎかな~」
どうやら見透かされていたようだ。
俺はアゲハに促され。
ベンチに座った。
そして、アゲハは甘い香りを漂わせ。
俺の右肩に……座って……口を開いた。
「私も座らせてもらうよ。もう一人の義明くん」