オリジナル:ファンタジー/ノンジャンル
タグ:R-18 暗殺者 セックス 恋愛 パートナー オヤジが主人公 エリオット エリオット・レム オリジナル作品 性交渉 凌辱 レイプ 異世界 ファンタジー 拳銃 剣 ヤンデレ 純愛 愛のないセックス
小説家になろう・ノクターンノベルズ連載中の小説の主人公過去を描いた短編小説です。同じく小説家になろう・ムーンライトノベルズでも掲載しております。
アサシンドクター。とある世界に存在する表向きは、とある街で評判の医師として働き患者の生命を守る男が、裏の稼業として人間の生命を奪う暗殺者として生きる者がいた。
美しい灰色がかった銀髪の医師、エリオット・ノアール。ただし、彼はその名前はあえて伏せて、”エリオット・レム”という偽名を使い医師としてある街に滞在している。
その街は新緑の平和都市、ジオニックシティ。森の国と呼ばれる国の首都で、有数の大企業の本社や小学校、中学、高校など様々な施設が建ち並ぶ有数の大都市である。
潤沢な森の恩恵を受ける大都市に、この物語を紡ぐ男性が経営するクリニックがある。レムクリニック。内科、外科、小児科専門の個人病院である。
そして、この大都市から離れた郊外の一軒家では、今、女性が悲痛な叫びを上げて彼の強引なセックスに無理矢理付き合わされている光景があった。
だが、女の声は既に悦びに満ちた嬌声じみた声になって、この暗殺者の身体を求めている。ベッドが彼ら二人の体重で軋み、シーツは女の愛液と男の愛液でしっとりと濡れ、暗殺者はこの女の大輪の花びらを夢中で犯している。
薄暗い彼のベッドルームに女の嬌声が響く。この女は今、暗殺者の報酬として抱かれている。前金として法外な額を絞り取った後、「依頼」を果たした後で請求される「もう一つの報酬」。
だが、愛のないこのセックスに快楽に溺れるのは、いつも”彼”ではなく”女”の方だった。強姦のような荒々しいこの上ない行為。だが、男の表情は険しい。まるで、それに嫌がる様子で、抱いている女を無理矢理、快楽の絶頂へあげさせた。
寝室に響くまるで喘ぎのような激しい呼吸。女は快楽の絶頂へあげさせられ放心として余韻に浸っている。この女は暗殺者に自らの夫を殺させた。彼女の夫がよりにもよって不倫の末に他の女を寝取ったのが原因だ。
そして、暗殺者である彼は法外とも呼べる額の現金を契約金としてもらい、そして始末した。もちろん警察などには絶対にばれないように秘密裏に。
そして、今、最後の報酬を受け取り、彼は素肌の上に灰色のインナーシャツを着て、下着を穿き、ズボンを穿いていた。不機嫌そうに着替えた男は最後にこう呟く。
「用が済んだらさっさとここから去るんだな。安易に暗殺など頼まないことだ」
この暗殺者が、最後の報酬を貰った後の決まりの台詞だった。女はまだ、快楽の余韻に浸って黙っていることしかできないでいた。
そして、夜が更け、朝日が昇った。
そして、今日も、彼の”医師”としての生活が始まる。
森の国の郊外に住む彼は、整った背広姿になると、しっかりとネクタイをきちんと巻き締めて、最後にコートを羽織って、鞄を片手に出勤する。
割とおしゃれなその姿は、大都市でも評判になるほど、端正な男性だ。落ち着いた渋い大人の男の佇まい、軽く纏わせる独特の”色気”を感じる顔と空気。どこか飄々とした言葉遣いと話術はどれもこれも魅力的な要素として”彼”という人間を演出していた。
郊外から都市部へ入ると、彼は大通りを歩いている。心地よい澄んだ空気の朝には、小学生や中学生が通う姿も見える。悪くない普通の光景だが、何故か彼には眩しく見える。
それは、彼には過去、自分の愛娘がいたことがある。生きていればこの通りを歩く子供たちと同じ年齢になっていたはずの女の子。だが、その子はもうこの世にはいない。愛妻もこの世にはいない。
その前に処刑されてしまった。過去に自らが犯した過ちで。彼はいつも毎日のように子供たちの姿を見ると想ってしまう。愛しい妻を、娘を。
「だけど……もういないんだよな。君も、あの子も」
口癖のように呟く言葉に、かき消され、無邪気にはしゃぐ子供たちを見て、少しうらやましい気持ちが湧いた。
すると、無邪気にはしゃぐ子供たちの間で、彼の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「レム先生!」
「その声は、アニーか?」
「おはようございます、レム先生」
「奇遇じゃないか。アニー。今日も一段と綺麗だね」
「何を言ってるんですか?レム先生の方が素敵です」
「照れるね。最大の褒め言葉だね」
道すがら、彼の相棒を務める看護師、アニーと出会う。
彼女は美しい金髪のロングヘアーの美女で、通勤姿はまるでオフィスレディの姿と変わらない。整えられた女性用のスーツに、通勤用のショルダーバッグを左肩に下げ、足にはパンプスが履かれている。
スーツの色は黒に近い灰色。目には眼鏡をかけている。黒ぶちの知的なメガネの奥の緑色の瞳がとても柔らかい輝きを宿していた。唇には軽く薄いピンクのルージュが引かれている。
知的なウーマンという印象を与える女性であった。実際、彼女はまさに知的な相棒だ。採血の腕もプロフェッショナルだし、様々な”医療”に携わった技術の腕も本物。
自らの”相棒”として彼女はなくてはならない人だった。女性としても。
通勤途中の道で彼らはしばらく世間話に花を咲かせた。
「最近、乳がん検診で有効な機械が導入されたって話は聞きました?」
「マンモグラフィー検査だろう?うちの病院にも導入しようか検討しているんだよね」
「でも、あれ、かなり高額な施設ですよ。レムクリニックに導入するのは難しくないですか?」
「資金の目処は立っている。後はどこにそれを入れるかだよな」
「目処は立っているって、もうそんな資金が用意出来たんですか?」
「まあ、ね。裏稼業では随分と荒稼ぎしているからな」
「……そんなに”依頼人”が増えているのですか…?」
「こんな平和な街なのに、”依頼人”が増えるのは人間の性がそうさせているのさ」
ここは公共の場なので、彼は言葉を選んで、その”依頼人”が増えている現状を報告した。
実際、彼の下には、数件の”依頼”が舞いこんでいる。その、どれもこれもがいわゆる男女関係のもつれから来ている内容なのだ。
彼は実は女性の依頼人しか受け付けていない。男からの依頼を受けないのは、色気がないからという理由と単純に女の方が憎悪が大きいからそれを利用しているという理由だ。
一見、平和なこの街も、男女のもつれはどこにでも存在する。この世に男と女がいるだけで、それは起こる。
自分はそれを利用しているだけなのだ。ちなみにその法外な値段は人間一人につき、彼は80万は貰っている。二人目で160万。三人目で240万と跳ね上がる。
それが彼が決めた”人間の命の価値”だ。それを契約の時に全て現金一括、その場で支払ってもらっている。晴れて契約金の支払いがされると一日か二日には仕事を終わらせて標的を始末する。
この手際の良さが裏評判となり、”依頼人”が増えているという現状だ。
「手際が良いというのも考えものですね。先生」
「まあ、手際が良いのは医師の世界では重要だからね」
そんなことを話していたら、彼の個人病院に到着する。
「それじゃあ……今日も1日、よろしく頼むよ」
「はい。レム先生」
そうして、彼らコンビの1日も始まった。
彼がまず初めにすることが一つある。それは夜の間にその裏稼業の”依頼”が舞いこんでいるかの確認だ。
それは警察にばれないように”特別検査”と称して、窓口を用意している。決まり事は「依頼は全て手紙で送ること」。手紙の方が状況はわかりやすいし、女の心情を読むうえでも便利なツールだ。その手紙には憎しみに燃える、もしくば悲しみに沈む女の心情と状況が事細かに書かれている。
あまり読むとこちらの心にも”負の感情”がすりこまれてしまうので、1通か2通で彼は終わりにしている。まあ、依頼人が増えていると言っても、彼は暗殺業界ではかなりの法外な値段の暗殺者だ。そうそうくるわけでもない。
だが、どうやら、その”依頼”が来ていたのだろう。ホストに投函されていた。封筒を見ると”特別検査依頼”と書かれている。つまり、”暗殺”の依頼だった。
「どうやら、”依頼人”がいるようだ。院長室にいるから、君はいつもの開業準備を頼む」
「はい、先生」
院長室に入ると、彼はコートを脱いで、ハンガーにかけ、テーブル越しの椅子に座ると、通勤鞄をテーブルの上に載せ、手紙の封を開けた。手紙がしたためられている。
彼はその手紙を読み始めた。依頼人はもちろん女性。どうやら、手紙の内容からして最愛の恋人が寝取られた様子だ。その寝取った女を殺して欲しいという依頼だった。
「やれやれ。世の中の男性も女性も「寝取り」が好きな様子だな。最近、その手が流行っているのか?」
呆れつつも返信用封筒が同封されていたので、彼はそこで契約の日程などを記載して、速達で届くように切手を貼って、いつも来る郵便局の職員に渡している。
レムクリニックではかなり速達を利用するのが業務上でもあるので、別段、疑われる心配もない。
そうして、彼の”医師”としての1日が本当に始まった。
医師としての彼の性格は、まさにフレンドリーで親身に患者に寄りそう医師だった。
実際、その手際が良い治療はこの国ではナンバーワン。すぐに最善の治療を施してくれるし、けがの治療も出血が少ないうちに済ませてくれる。
この森の国では実は野生の魔物が多く生息しており、森でその魔物に傷を負わされて担ぎ込まれる患者が多い。
また温暖な気候だが、インフルエンザはやはりはやるのか、ワクチンの注射も予約なしで受けられる。
きちんと患者のアフターケアもしてくれるのが評判になり、レムクリニックは森の国で一番という評価を貰っていた。
そんな忙しい医師としての1日も終わり、郊外の家に帰るのが彼の日課だった。
時にはアニーの家にお邪魔して2人で酒も飲むこともしている。患者からは差し入れにケーキが来たり、酒をプレゼントされたりするので、密かな楽しみとして2人で楽しむのだ。
そして、最後はお休みのセックス。愛のないセックスを交わす彼のひと時の本当の愛の営みはいつも彼女の家でする。そうして暗殺によるすさんだ心を潤しているのだ。
だが、今夜は、とりあえず明日、暗殺の正式な契約が来るので、彼は郊外の一軒家に帰った。
暗殺の契約は彼の自宅。そこで契約が成立すれば、後は手際よく殺せばいい。それだけで裏稼業はいい。その稼いだ金は自らの趣味と病院運営の資金として使用しているのだ。
そうして、約束の日程を記した本日。
宵闇と静寂が支配する彼の自宅にその”依頼人”が姿を現した…。
「こんばんは。エリオットさんは御在宅でしょうか?」
チャイムと共にその”依頼人”の声が聞こえた。彼は真っ黒な服装でその”依頼人”の前に姿を現す。
「君が手紙に書いてあった女性、シーナさんかな」
「はい……」
「どうぞ。中に入ってくれ。早速だけど、契約の話をしよう」
彼女は大きいバッグを持ち姿を現した。あのバッグの中には現金が入っているのだろうな。それだけ思って、彼は奥の客間に案内する。
「それじゃあ、契約といこうか。現金80万ギルダ。すべて一括で用意してきたかな」
「はい……」
彼女、シーナはバッグから80万ギルダの札束を、ガラスのテーブルの上に載せた。彼はその札束を見て、確認する。
きちんと80万ギルダぴったり用意されていた。
「ピッタリだね。契約は成立だな。これだけは付け加えておくけど、この金と事が終わり次第、「もう一つの報酬」を君からいただかせてもらう。いいな?この街から一歩でも外に出たら君を永遠に続く地獄に落とさなければならない。私としてもあんまりしたくないんだ。大人しくしていてくれ」
「はい……」
「外に出られるとも思うなよ?君の背中を追う者がいつもそばにいることを忘れるな」
「は、はい……」
「契約はこれで締結だ。さっさと帰ってくれ」
「あなたは不愛想な人なんですね。昼間はあんなに優しいのに」
「…これもまたビジネスだからね」
彼は目を閉じ、腕を組んで、ソファに寄りかかる。彼の漆黒のシャツの胸元が少し開かれている。そこに微かな色気を感じた依頼人は彼を見つめた。
纏わりつくような視線を感じた彼は、胸のボタンを閉めて、彼女に帰るように促した。
「それじゃあ……帰ってくれ。標的はここ一日か二日で始末する」
彼女は名残惜しそうに彼の自宅から、大きなバッグを持ったまま帰った。
帰り道を寂しそうに戻る彼女に、ふと疑問が走る。
(あなたは不愛想な人なんですね。昼間はあんなに優しいのに)
その言葉に彼女は自分の昼間の姿を知っている人物なのかな……と思った彼だがそこでやめた。
「どうせ……一回限りの関係だろうからな」
そうして、彼はおもむろに身支度に入った。あの暗殺者への装束に姿を変えるために。
服は漆黒の割と洒落たシャツ。インナーに灰色のシャツを着て、ズボンは革製の漆黒のズボン。靴は戦闘用の革靴。最後に上に黒いコートを羽織り、そして裏側に拳銃を忍ばせた。
ちなみに彼は二丁拳銃の使い手で、普段の暗殺では主に左側の拳銃「サイドワインダー」という拳銃を使用する。その弾丸は彼独特の猛毒性の即死弾が装填されている。
彼は毒の知識は並外れた才能を持ち、それを応用して猛毒の即死弾を独自の技術で弾にしている。その「サイドワインダー」にはサイレンサーを取りつければ、身支度は終わり。
後は真夜中の街を標的を探して殺すだけだ。そうして「アサシンドクター」となった彼は自宅からまるで影のように去り、今宵の生贄を求め夜の街へと消えた。
標的となった女は今宵もその新しい浮気相手と夜の楽しみをするために、明らかに男を挑発するようなあからさまなドレスを纏い、鼻歌混じりで夜を闊歩する。
その後ろにはアサシンドクターが宵闇に隠れて観察している。そして、静かに銃を向けると何も躊躇せず発砲した。サイレンサーのおかげで音は全くならず、その女の胸に撃ちこまれた。
女が倒れる。彼は最後の追い討ちにもう一発、即死弾を撃ちこみ、今宵の仕事を迅速に終わらせた。
彼は振り向くこともせず、そのまま背を向けて、夜の繁華街から、比較的暗い場所を歩いて、自宅へと帰った。
「ふうっ……」
帰宅する頃には、真夜中の2時を回っていた。
でも、何だか今日は、酒でも飲んで寝酒をあおってから寝たい。そのままの格好で、コートと拳銃をいつもの場所に置いて、度数の高い酒を用意する。
アイスピックで氷を割って、グラスにカランと入れると、そのままボトルのウィスキーを開けていれて、一気に飲んだ。
そして、アニーを想う。この仕事を知っているのもアニーだけ。
今頃、彼女は何の夢を見て、眠っているのかな。そんなことを想って、グラスのウィスキーを飲んで、程よい酔いが回ったところで寝ることにした。
彼のベッドは品が良い黒いベッドだった。薄めの毛布は白い。仰向けになって思いにふけった。傍らには手紙が置かれている。
「考えるだけ無駄かな」
一言だけ呟いて深い眠りへ、その意識を落としていった。
そうして、朝が来る。まだ眠り足りないのか身体が少しけだるかったが、起きて、シャワーを浴びる。
昨夜の寝酒で汗ばんだ身体を流して、また昼間の医師の格好に戻った。
「後は、仕事の報告をして、最後の報酬を受け取り完了だな」
何気なく流しているテレビ番組のニュースでは、昨夜、彼が始末した女のニュースが流れている。
ただの殺人事件がありましたというあっさりとしたニュースが流れるだけで、それだけである。世間からは殺人事件があったんだという意識だけ向けられて忘れ去られるのが常である。
翌日の営業時間に、シーナが現れた。
彼女は体調を崩していた。昨日から頭痛がして熱もある。風邪でも引いたのかと思い、レムクリニックを受診した。
そこで彼女は昨夜の「アサシンドクター」に出会う。
彼は患者がシーナであることを顔には出さず、フレンドリーに診察を開始した。
「昨夜から頭痛が?熱はありますか?」
「37度8分くらいあります」
彼は医師の白衣を着て、ちょうどいい漢方薬があると彼女に話しかける。
「イライラとかありますか?昨夜は眠れました?」
「いいえ。このところ、なかなか寝付けなくて」
「やはり、その不眠からきているのでしょうね…。丁度いい漢方薬がありますが、飲んでみますか?」
「どんな効果があるんですか?」
「不眠からくるイライラの緩和、頭痛の緩和、解熱作用、それから貧血にも効果がありますよ。効果が出るまで一カ月近くかかりますけど、お好みであれば処方しますが」
「お願いします。先生」
「それじゃあ、試しに3週間分出しておきましょう。何が異変を感じたらまたこちらへかかってください」
「ありがとうございます」
診察室から彼女が出ていく。彼女が去った後、彼はアニーと会話を交わした。
「あの子……大丈夫かしら?」
「まあ、とりあえずは身体が調子悪かろうと来てもらうがね」
「彼女は気付いているのかしら」
「あの調子だと気付いているな……アニー」
「わかっているわ。もしもの時は…」
「そういうことだ…」
その夜。シーナが体調を戻して彼の自宅へと来た。チャイムを鳴らす。
すると、夜の格好である漆黒のシャツ姿で、彼が玄関に出た。
「こんばんは」
「やあ…。待っていたよ。どうぞ」
彼は和やかに迎え入れる。昨夜の不機嫌そうな雰囲気とは一転して、どこかそれは”妖艶”な空気を纏っている。
昼間に”医師”として接していた彼は、少し体調の心配をしつつも、最後の報酬をもらうための話をするために客間へと案内する。
「昼間はだいぶ調子が悪そうに見えたけど、元の体調に戻ったようだね」
「あの後、少し横になって休みました」
「そうか。なら、今夜の報酬はきちんともらえそうだな」
そして、ガラスのテーブルをはさんで向かい合うように座った。今夜の彼はどことなく座り方が色っぽい。ソファにどっかり座って足もリラックスして組んでいる。
軽く開いた胸元も直そうとしない。そのままだった。
「これで俺との契約は終わるね。最後の報酬をいただこうか。……どうした?」
「ここでするのですか…?」
「どこでも好きな所でいいがね。ベッドでもいいし、ここでもいいし、何なら…シャワーでもいい」
彼が意地悪く囁く。ありったけの色気を込めて。
「それとも、俺に無理矢理迫られたいかな……。容赦はしない。本気で君を奪うけど」
彼女は物欲しそうな目で彼を見る。彼はその目で「なるほど…」と静かに呟いた。
「その目は俺が欲しい目だな。なら……とことん君を味合わせてもらおうか」
彼はシーナに近づくといきなり左腕を掴んで、後ろに回させて、ソファにうつぶせに倒させた。
彼女の真後ろで身体を密着させ、後ろから唇が首筋に触れそうなくらいに近づいて、掠れた声で囁いた。
「さあ……どうしようか……ふふっ」
「待って…!」
「待つ気はない。君の目は自分を犯して欲しいと言っている。楽しませてもらうとしよう」
左腕を右手で掴んで固定したまま、器用に左手で彼女のワンピースのボタンを外し始める。そして肩から露出させてふくらみをいじりだす。
ふくらみを完全に露出させると、今度は後ろから両手でワンピースを腰まで下ろして半裸にする。そして感度の良い乳首を擦り出した。彼の口から甘い吐息が吐かれる。
背中に彼の唇が這う。舌先で線をなぞるように舐めて、豊かなふくらみを両手で覆って、揉み解す。
彼女が喘いだ。今度はそのまま右手がそっと下半身を確かめるようになぞりながら花びらへといく。左手で揉みながら、ワンピースの下の更に下、パンティー越しに触り出す。
「微かに濡れている…。さっさと取り払うか。これ」
ワンピースを一気に下半身を通して脱がした。床に落とす。パンティーのみになってしまったシーナ。その秘裂を右手でなぞった。
「はあぅっっ!」
「その悲鳴はいいね」
シーナが自分と向かい合うようにソファに横になり仰向けになる。まるでまだ服を纏ったままの彼に覆いかぶされた格好になっている。
すると、彼女が自分のシャツに手を伸ばして、ボタンを外し始めた。彼が細身の筋肉を少し見せた。そのまま彼女の唇が自分の唇に触れそうになると
「キスはダメだ。こんな男でも心はある。俺は心まで君には売らない。例え、身体を売ったとしてもね」
「何で……?キスを……キスをください」
「ダメだと言っているだろう」
そのままパンティーを穿かせたまま、彼は早々に己を花びらに入れる。
そのまま、激しく腰を使い責め立てる。服を半分纏ったまま、ズボンを穿いたまま、己だけを出して荒々しく攻めた。
「あうっ!はあっ!あう……はぅ……!」
「イカせてやるから抱け。俺を。抱き締めるくらいならする」
彼が彼女の上半身を起こして自分の抜きかけた服の身体に密着させた。彼女がしがみついてきた。
その顔は理性を保ったまま、冷めた情熱で女を抱く顔があった。そうして、彼女、シーナは絶叫をあげて、彼の冷めた快楽の絶頂へと上がった。
「……こんなことをしている時点で…俺は身体を売っているのかもな……女の金と他人の命を買って……」
「どうして……」
「どうして……か。俺も聞きたいよ」
一通りの行為を終わらせて、彼女は纏っていたワンピースを着る。彼もまた乱れた服を整えている。無言のままお互いが服を整える時間が過ぎた。
そうして、彼はあっさりと契約の終了を告げ、自宅から彼女を見送って、素直に帰らせた。
「これで俺との契約は終了だ。もう赤の他人同士だ。お帰り、お嬢さん」
彼女、シーナの悲しそうな目は当分、忘れられないだろうなと思いつつ、そう告げてドアを閉めた。
そうして、時がしばらく流れる。それでも、ものの2週間も経過しないうちにまた”依頼”が届いた。差出人はあのシーナだ。いつものように”特別検査依頼”と、見慣れた筆跡で書いてある。
それに対してレムは驚きの声を院長室であげていた。
「一体、どういうことだ?彼女にはまだ恨みを持つ人間がいるのか…?」
そうして手紙の封を開けると、彼女のしたためられた可愛らしい字が彼の目に飛び込む。
その内容は、ある男を暗殺して欲しいと書かれている。今度は男か…。彼はその文章を追うと標的となる男はシーナの恋人という匂いを嗅いだレム。
(一体、どういうことだ?この間の暗殺で寝取った女は始末したから、彼女にとっては和解してもいい男性のはずだ。それなのに、その男性を殺せというのか?何故…そんなことを頼む…?)
(何か怪しいな。この女)
そう思った彼は、アニーを呼んだ。
「どうしたのですか?レム院長」
「アニー。この女の身辺調査をお願いできるか?」
「この間、あなたに暗殺を頼んで契約が終了した子ね」
「ああ…。だが、どうも怪しい。この子はもしかしたら…」
「ワザとあなたに会いたがっている節があるってことね」
「そういうこと。やってくれるか」
「任せて頂戴」
「助かる」
二回目の契約を結ぶ前に、シーナの身辺調査をすることにした。こんな狭い街で、しかも法外な80万という金を払って、次が160万ということを知っているのだろうか?
80万ギルダはこの世界でも現実世界と同じくらいの価値があるのだ。それこそ、このジオニックシティに企業を置く本社の社員ですら毎月この金額を貰うのは重役クラスのみだ。
一般社員では一か月の給与としてせいぜい良い所で40万ギルダを貰えれば一流と言える。それをたったの2週間で160万ギルダの現金一括を用意できるのだろうか?
彼の疑問は、更に深まった。
夜の品のあるベッドに仰向けに横になりつつ、彼は手紙を見て、そして、彼女の悲痛な質問が聞こえた。
『何で……何でキスを……キスを……くれないのですか』
「何で……?か。俺は売り男だから……。そうとしか言えない」
自分で呟いた言葉で胸が締め付けられる程、痛いのは何故なんだろう……?
彼も、そう疑問を抱いて、毎夜を過ごした。なかなか眠れない夜がしばらく続きそうだな…そんな風に感じて。
グレーに近い黒のシーツの上で身体を横たわらせて、ふと手にしている手紙を読む。
「彼女は一体、何を考えているのだろうか…?」
その疑問ばかりが頭から離れないで宙を漂っていた。
シーナの身辺調査を依頼して1週間。アニーは全ての調査を終えて、院長室のドアをノックした。
「レム先生」
「アニーか。入ってくれ」
彼女は通勤で着る濃い灰色のスーツ姿で姿を現した。そして、茶封筒に身辺調査の結果の書類をまとめて、それを彼に手渡した。
早速、その調査報告書に目を通す。彼女が”暗殺”を依頼した男の分まで彼女は調査をしてくれた。気が利いた気遣いに彼は礼を言う。
「あの男の調査もしてくれたのか。助かるよ。アニー」
「いいえ。これも何かの役に立つと思ったからついでにしただけよ」
「十分に役に立つよ」
そうしゃべりながら彼は書類に目を通す。そして”やはりな”と思った。
シーナは今の恋人でもある”暗殺”を頼んだ男性とは、関係の修復を図ったのか、いさかいは無いに等しい。むしろ、仲は修復されてよくカフェで彼とお茶をしたり、ラブホテルなどで男女の関係もしている。
その暗殺を対象となっている男性も別段怪しい人物でもない。しっかりと会社で働き給与も貰っている正社員だ。
だが、シーナはワザとレムに会いたがっているのも事実だった。毎日という訳ではないが、彼の勤務時間を聞いて回る様子をレムクリニックで見かけられたのだ。
何故、俺に会おうと思うんだ?それも”暗殺者”としての自分に?
彼には理由は思い当たるものはない。ますます謎が深まった。
ただ一つ、言えること。それはシーナがワザと自分という男との逢瀬を楽しんでいる。それだけがわかった。
そこで、送られてきた返信用封筒に契約の日程を書き込んだ、彼はその席で何を企んでいるのか、この際問いただしてみることにした。
二回目の契約がなされる夜。シーナは約束通りの指定した時間に彼の自宅へと来た。チャイムが鳴る。
「また、お世話になります。エリオットさん」
彼女は大きなバッグを片手に姿を見せた。少し以前よりも重たそうに荷物を抱えている。それに対して彼は何も言わずただ家の中に招き入れた。
客間のガラスのテーブルをまたいで、彼らが二回目の面談をする。
彼女は早速、現金を出そうとするが、それを止めた。
「待ってくれ。その前に二、三、確認したいことがある」
「何でしょうか?」
「今回の標的の調査をさせてもらったが、彼はあなたにとっては殺す理由がない人物ではないかな」
「……それは……」
「だが、わざわざ、私に法外な契約金を君は嬉々として渡そうとしてくれる顔が見えた」
「何故、そこまで、私に関わろうとする?君にとっては敵意もない男を殺したいその心が知りたい。納得できる説明はできるかな」
「私はただ……あなたに会う口実を探しに来たんです。あなたは、昼間の太陽の下では優しい医師。でも、月が浮かぶ夜は誰よりも美しい狩人になる。その落差が魅力的なんです。そんなあなたを独占するには”生贄”を用意しなければならない。だから、今回の暗殺を頼んだのです」
「それで、”生贄”を私に捧げて”供物”まで捧げて、私にどうしてほしいのだ?」
「一度でいい。その夜の姿で私のすべてを奪って欲しい」
「全てを奪う?全て、この間奪ったじゃないか」
「この口は奪われていません。それにその綺麗な肌も」
「……君は自分で何を言っているかわかっているのか?私がするセックスは単に”快楽”のためだけの関係。極端な話、私が満たされてしまえばそれで終了の関係だ。そんな関係のどこがいい?」
「それを味わう最高のスリルと背徳感……といえば納得しますか」
「あまり火遊びするのも、ほどほどにしないと火傷をするぞ」
「君が私に欲するものは、そのスリルと背徳感という”快楽”か。単に快楽の関係では埋まりそうもないな」
「契約は悪いがパスだ。そういう目的で、人を殺害してもらおうなんて腹の女性の依頼は受けないよ」
「契約金は1ギルダも足りてはいません。きちんと160万ギルダをご用意しました」
彼女は意地になり、ガラスのテーブルにその札束を置いて見せる。確かに本物の1万ギルダ札がある。偽札ではなさそうだ。
「あなたはプロの暗殺者ですよね?なら、プロならプロらしく、契約金を払う依頼人の依頼は受けるべきではありませんか?」
「……それは私に対する”挑戦”か。後悔するなよ?プロらしく振る舞えというならその”依頼”を受けようじゃないか」
「それでこそ、アサシンドクターのあなたです」
「ふん。それは褒め言葉なのかな」
彼は目の前にばらまかれた1万ギルダ札を手にして、きちんと最後に勘定した。確かに160万ギルダ、ある。
「契約は成立だ。シーナ。標的はいつも通り、一日か二日で始末しよう。それで君が悲しもうが、君が望んだ結末だ。後で泣いて悔やむなよ」
彼はそこでソファに背中を預け、軽く腕を組んで、その危険な目を光らせた。
そこには、一匹の獣が宿った彼の姿があった。あの漆黒のシャツの胸元も軽く開けられたまま、微かに覗いたその肌の艶やかな色が彼女の目に焼き付いて離れない。
この日は契約成立までだいぶ時間を割いた影響で、既に真夜中の3時を回っている。
今夜はこのまま寝る時間にあてて、明日の夜、例の暗殺者の装束に着替えて行動を起こすことにしよう。
そう思い、彼はいつものベッドに横になり、眠りへとついた。
あんな自分に惚れる女性がいたというのは意外だなと意識の底で思いながら。
その日は珍しいレムクリニックの休診日だった。レムクリニックの休診日は毎週水曜日。他の日は営業をしている。出来る限りの患者の治療をするため土曜も日曜も彼は営業をこなす。
そんな自分でも息抜きはしたい。ので、水曜日を定期休診にしている。
午前中にはシャワーを浴び、そして徐々に空が茜色の染まり出す頃、身支度を整え始める。
身支度を整えた後は拳銃のメンテナンス。いざ仕事をする時、目詰まりしては死活問題だ。きちんとクリーニングして、拳銃を組み立て、最後に特製の即死弾を装填して準備が整う頃には闇夜が支配していた。
まるで血に飢えた狼のように、彼は夜のジオニックシティへと向かった。
標的の男性はこの時間はたいてい、自宅にいる場合が多い。真面目を絵に描いたような青年で、死んでは欲しくないが、この際そんな私情は持ちこまない。
冷徹に己の仕事を全うするのがプロだと言い聞かせ、標的の自宅アパートへと向かう。
全く普通のどこにでもあるアパートだった。その2階に住んでいる。
さて、どうやって狙撃したものか。なかなかその男は窓際に来ない。単に愛でるような景色などないから、窓なんか覗かないのだろうな。男の心情を察し、さてどうしたものかと考える。
ここは大胆なやり方をするか。彼はニヤリと笑う。客人と見せかけて、ドアを開けた瞬間、撃ち殺す。そして階段から飛び降りて暗闇に消える作戦を練った。
彼はアパートの階段を上った。規則正しい音が響く。そして程なく彼の居室のドアの前に来る。チャイムを鳴らした。すると、男性がドアを開けた。
どこにでもいる普通の青年サラリーマンだ。青年は目の前の黒い男性が誰なのかわからない。
質問を投げかけたその時。黒い男性は拳銃を軽く握ると消音装置でその音が全くしないで青年の胸に一発、即死弾を撃ちこんだ。青年が倒れる。
彼は確認すると、時間がないのでその場から階段を降りずに飛び降りて、宵闇へと消えていった。
「今回はちょっとした冒険だったな」
無事に逃げ切った彼は自宅に帰るなり、思わずため息をついた。そうして、毎回のように祝杯のつもりで酒をあおり、眠りへと入る。
朝が来てアパートの2階で青年の隣に住む女性が何気なく外に出ると、ドアを開けたまま青年が事切れているのを発見する。女性は悲鳴を上げ警察を呼んだ。
夜は彼の時間。無事に始末を終えた彼はシーナに報告する。
そして、またこの艶やかな時間が来た。この美しい男性を独占できる時間が。
今夜の彼女は少し露出が多めのキャミソールワンピース姿であった。キャミソールワンピースの胸の部分にはブラジャーは着られていない。深い青のドレスだった。
彼も品が良い黒いシャツ姿である。ズボンは黒より薄い濃い灰色のズボン。
シーナがワザと自分の腰の上に座りこんできた。彼の目の前には豊かなふくらみが薄い布の下にある。
彼は肩紐を下に下ろして、ふくらみを露出させる。少し期待しているのか、薄紅色の乳首が尖ってきていた。彼はそこで獣のように舌を使い激しく舐め始めた。
衣服を纏ったまま、彼女の細い腰に腕を回して、胸に顔をうずめる。執拗に乳首を噛み、吸い、転がす。
「あうっ…!気持ちいい…っ!お願い……もっと、舌を使って舐めてぇ…!」
「そう、そうなの。先生……先生…!」
彼の灰色がかった銀髪がニーナの手でぐしゃぐしゃに乱される。この暗殺者は髪までをも艶がある。不思議な輝きを放って夢中になって自分の胸を責めている。
その度に銀髪が乱れ、顔が動く。彼の両手が背後から青いキャミソールワンピースの下のパンティーに伸びて、ビリビリに破いた。そこはシーナの欲望で熱く濡れている。
そのまま自らを出した彼は彼女に跨がせるように入れ、天井に向かって突き上げる。乱暴なくらいに。残酷な笑みを唇に浮かべて。
シーナがそのまま胸を露出したまま、騎乗位で彼を受け入れ、彼女も下へ動く。今度は肩に手を触れて腰を動かしていた。
「随分と……情熱的じゃないか。そんなに俺が欲しいのか…?」
腰が勝手に動きながら、彼は沈黙を破って質問攻めをする。
「私は……あなたを独占したい…!」
「悪いが…それはやめておいた方がいい」
「何故…?」
彼らはセックスを交わしながら、事情を話す。
「俺はもう誰とも結婚する気はない。俺に関わる女性は不幸になるから。君もその一人。俺に夢中になっている時点で不幸になってしまっているんだよ……」
「こちらから質問するけど……あの160万ギルダ、どうやって用意した?君のここの感触は、誰か一人の為に解放している場所じゃない。夜に何本も咥えている感触がするな」
「もしかして、身体を売って稼いだのか?」
「……!ち、違う……」
「そうかな?」
ぐいっと奥に入ったレム。電撃のような快感が全身を支配する。
「この”快感”の与え方とかプロとしか形容するしかないがね」
冷めた口調と打って変わって最後のフィニッシュにかかる。ソファに倒れ込み、最後は一気に加速して、”快楽”が全身を支配した瞬間。
彼はシーナの腰を掴み、己の愛を怒濤の勢いで流した。その後にくる強烈な脱力感が今度は彼に襲った。
「……ふうっ。今回の最後の報酬、確かにいただいたよ。これで契約は終了だ。さよなら」
「何で、セックスを交わしたのに、そんなに冷めていられるのですか…?」
「冷めている?そうだね。俺はいつも、この報酬を受け取る時は冷めているよ。だが、人肌が時に恋しいからこの報酬を受け取ることにしたのさ…」
彼はそこで苦笑混じりで笑みを浮かべた。
「その行為に浸っている時だけ、俺は辛い現実から逃げられるから」
そこで彼女に本音を少し話してあげて見せた。心地よい脱力感の後のおしゃべりは何だか、けだるいが悪くないものだから。
「もうお帰り。今日は割と楽しめた。報酬として申し分ないね。良かったよ」
そこで珍しく彼女、シーナに向けて彼は注意を促した。この台詞を添えて。
「3回目の依頼の契約金はとても一般の方では出せない金額だ。それを支払えないのなら、私にそもそもの依頼をするのは忘れてくれ。金額は契約書を見ればわかるけど、3人目は240万ギルダを貰う」
乱れた服を直した彼女は、宵闇へと姿を消して、消えていった。
後で思ったのは、あんな話をした自分は少し焼きが回ってきているのかと思った。
それから……2カ月が経過した。レムクリニックは最新の乳がん検診が出来るマンモグラフィーを導入することが出来て、規模が大きくなってきた。
患者の数も増えている様子だ。それに伴い”特別検査”専用の窓口も増設した。
そんな、ある日。シーナから3回目の”依頼”が舞いこんだのだ。
「おかしい。どこにそんな、240万ギルダもの大金を現金で用意出来るんだ?」
しかも、たった2カ月の間で。彼女の身辺調査をしたが、いわゆる出資者と呼ばれる男の存在は確認できなかったし、この間の暗殺で恋人は死んだ。
そんな彼女が、どこから240万ギルダもの大金を用意できる才能があるのだろうか?
そんなことを想いながら、いつものように手紙の封を開けると見慣れた字が目に飛び込む。文章を追うと衝撃的な依頼が舞い込んでいた。
次の標的はアニーである。
「アニーだと?彼女を殺せというのか」
大切な相棒であるアニー。ジオニックシティに来てからずっと、自分を支え、共に苦楽を共有してきた彼女。
彼の顔が蒼白になる。これは引き受けるべき依頼なのか、断るべき依頼なのか。プロ意識と自分自身との葛藤はすぐに決着がついた。
いや、アニーを殺すことはできない。それをする理由もないし、シーナの手紙の内容も、アニーが邪魔だから殺せという文章になっている。
完全にシーナは自分にのめりこんでしまっている。そして、とうとう自分のパートナーを務めるアニーを邪魔な女と思うようになったのだ。
女の嫉妬心を手紙で感じたレム。しかし気になる部分もある。本当に彼女は240万ギルダを現金一括で支払う力はあるのか?ということ。
それも確かめたい。彼はそれを確かめるべく、返信用封筒に同封してある日程の場所に明日夜8時、自分の家に来るように記載して速達で届くよう切手を貼り送った。
そうして問題の夜が来る。
この夜は一段と静寂が支配する夜だ。どこからか狼が吠える声が聞こえる。
狼の遠吠えと共に3回目の依頼人が、この間とは大きいバッグを抱え、彼の自宅へ姿を現す。
「まさか、本当に来るとはね。中に入ってくれ」
そうしていつもの商談で使用するガラスのテーブルを囲む二人。ソファに軽く座り沈黙を守る。
すると、彼女は自分から、抱えてきたバッグから現金、240万ギルダを一括で用意して、テーブルの上に積んで彼を見た。
「君は本気か?どうして、そこまでして私に頼る?」
「あなたの相棒と聞きました。アニーは」
「それを知った上で、私に彼女を殺せと?君は残酷な仕打ちをしているな、私に」
「これが、私の本気です。わかっていただけたでしょうか?」
「……女の嫉妬心というのには敬服するね。その根性は認めよう。だが、この契約は破棄だ」
「何故ですか!?」
「この依頼は私には受けられない。わかってくれ。アニーは失ってはならないパートナーなんだ。私にとっては唯一無二の」
彼は積み上げられた金の束を見て、こうシーナを評価した。
「その金額を集めるのに、どれだけ君が苦労したかはわかる。それだけ、俺という人間を大好きということも。アニーが邪魔だという話もわかるよ…。でも……君とアニーでは決定的に違うものがあるんだ」
「決定的な違い?何ですか?聞かせてください!私とアニーの決定的な違いって?」
「俺は彼女に初めて”愛”を感じている。君とは2回身体を重ねているけど、君とは本当に”快楽”だけの関係だ。だが、アニーと俺は”愛”で持って関係を築いている」
「これが”答え”。君にとっては残酷な答えだろうけど真実だ。わかってくれ。君とはその”愛”は築けない」
茫然と聞いているが、彼女がだんだん怒りの感情が噴き出しているのを察知するレム。だが、これだけは譲れない。
彼女はテーブルの上に積んだ札束をバッグにしまい、そして彼の自宅から出ていった。そこには彼に対する失望とアニーに対する憎悪が渦巻いている。
その夜のうちにシーナは別の暗殺者の下に向かい、そしてアニー殺害を依頼した。
あの暗殺稼業業界でも高給取りの彼の相棒殺しは、そいつを暗殺者業界から消すことも意味する。
アサシンは快く快諾し、そして、そこには歪んだ笑みと愛を抱く依頼者がそこにいた。
朝の街をいつものように軽い足取りで歩くアニー。今日の通勤途中でも、あの彼に会うことは出来るかしら。もし会えたら、今日も最高の一日になるわよね。
彼と顔を合わす度に自分の恋が日に日に大きくなっているのを実感するアニー。彼のあの微笑みが自分に活力を与えてくれている。彼が笑うと自分も嬉しい。
メガネの奥の緑色の目は自然と彼を探す。来た。いつものように整ったコートを羽織って、にこやかに自分に近づく。
「やあ。おはよう。アニー」
「おはようございます。レム先生」
「そろそろ病院の外では”エリオット”って呼んでくれよ」
並んで通勤路を歩く二人。そこに、アサシンの魔の手が伸びてくる。向かい側の道路から彼女を狙う銃の赤外線が、彼の横を歩くアニーに向けられる。
会話を交わす途中でその赤い光が見えたレム。刹那、銃弾が発砲され、アニーを庇う為に盾になるレム。彼の左腕の銃弾がかすった。
「無事か!?アニー!」
「エリオット!その傷!」
「こんな朝から、アニーを狙うとはいい度胸をしている。身を隠そう」
その間も銃弾がアニーに向けて次から次へと放たれる。彼が彼女を守るように盾になり、細い路地へと逃げ込む。
「エリオット!」
「ぶ、無事か?アニー。……ううっ!」
「左腕に銃弾が。すぐに応急処置を」
アニーが自分の手に持っているハンカチや様々な物を使って、彼に応急処置を施した。急いでハサミでスーツのシャツの袖を切り、急いで止血する。
そのまま、彼女は別の医療機関に、けが人として彼を運んだ。
医療関係者はその人物が「レム先生」という敬称がついた医師であることに気付いて、最優先ですぐに手術を開始する。
彼の左腕から2発の銃弾が摘出される。そして、傷口を縫い、手術は無事成功した。
「一体、どうしたのですか?レム先生とも方が銃弾を受けてしまうなんて」
「アニーを狙っていたのだろうな。凄い精度で彼女を狙撃していた」
「アニーさんは幸い無傷です。でも、レム先生。あなたの傷は相当なものです。しばらく左腕を動かすと激痛が走るでしょう…」
「助かったよ。近くに総合病院があってさ」
(しばらく、左腕は使えないけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。アニーを狙った奴は、奴だな…!あの狙撃は奴の仕業だ)
彼は非常に険しい表情をして、左腕は包帯が巻かれて自由に動かすことは困難だった。
だが、今夜にでも、アニーを狙ったアサシンを殺すことに決めた彼は、早々に手術後。アニーを連れて自宅に帰る。
彼の一軒家に初めて訪れたアニー。
彼女はそこでまだ負傷して間もないのに、例の黒装束に着替える彼の姿を見て、そして言った。
「まだ負傷したばかりなのに、仕事に行くことはないでしょう?」
「仕事じゃない。明らかにこれは、君を狙ったものは俺の同業者だ。それも俺を目の敵にしている奴のな。そんな奴を生かしておくわけにはいかない。奴は俺が殺す」
「せめて、傷が癒えてからでも遅くないの?」
「それじゃあ……遅すぎるんだよ。この状態で君がもし狙われたら守り切ることはできない。だから……今始末するんだ」
「片腕だけで勝てるの?あなたは?」
「無理かも知れない。でも、それも燃えるな。片腕というハンデを負いながらそいつを殺せば俺の株が上がる」
「そんなこと、言っている場合では、ないでしょう?……私……私……あなたに死なれたら」
「死なないよ。アニー」
目の前で泣き崩れる恋人を残った右腕だけで抱いて胸に寄せる彼は、最後にこれだけを忘れてはならない武器として、アニーの唇に己の唇を重ねた。
深いキス。まるで貪るように舌を絡めた後、呟いた。
「これがあれば、俺は片腕だけでも勝てる」
「エリオット……」
「行ってくるよ。君はそこで隠れていて?絶対に君を狙った奴は殺す」
そのままジオニックシティの奥に広がる深い森へと足を向けたレム。しばらく歩くと、奴らの根城が見えてきた。
森の木の中に特徴的な印がある。クルミの木の側、樫の木を二本見つけて、サンダルウッドの木で曲がれ。
その先に、アニーを狙った暗殺者ギルドの根城がある。彼と暗殺者ギルドはまさに犬猿の仲だ。法外な値段で生命を狩る暗殺者を彼らは疎ましい目で見ている。
彼もまた、徒党を組んで暗殺稼業など最初からするつもりもない。まさに意見は水と油である。
そんな男がそのアサシンギルドに姿を現した。
「何だ?てめえは?」
「ザコか。ザコはザコらしく引っ込んで、奴を出しな」
「奴って誰だ?名前を言えよ。アサシンドクター」
「ガーランドだ。奴を出せ」
「わしを名指しとはついに現れたか。アサシンドクターのお前が。何をしに来た」
「アニーを狙ったのは貴様らだな?」
「何を根拠に言う?」
「寝ぼけたことを。アニーを狙ったあの狙撃は、お前らの得意技中の得意技だろうが。とぼけても無駄だ、言え。誰に依頼された」
「依頼者のことは一切聞かない。それは我々、暗殺者の暗黙の了解のはずだ。答える義務もない」
「そうかい。なら、ここで貴様らを全員、殺すしかないな」
「出来るのならやってもらおう」
そこに艶やかな声色の女性の声が聞こえた。横目で彼は女を見る。あの女は確か”魔女”というあだ名の女、イデアという名前だったか。黄金色の目が危険な輝きを宿してアサシンドクターを見下ろしている。
「イデアか。お前もそう言えばこいつらと組んでいたな」
「その様子ですと、あなたは今、左腕が全く使い物にならない状態に見えますね。違う?」
「片腕だけでわしらを殺そうなどと自惚れも大概にしろ」
「やってやるさ。片腕だけでもお前たちを殺してやるさ」
「その傲慢な言葉、後悔させてやるとしよう…」
「この暗殺者ギルド総動員でな!」
周囲を取り囲まれたエリオット・ノアール。他のアサシンたちが銃口を向け彼へと照準を合わす。
「どうする?まだ強がるか?」
「好都合だ。全員まとめてかかってこい」
「いいだろう……。その言葉、地獄で後悔するのだな!」
「やれ!」
戦いが始まった。彼は二丁拳銃の右側の拳銃「ブルーローズ」を取り出し、そして恐るべき身のこなしで、彼らを華麗に撃ち抜いていく!
その間もイデアとガーランドが彼らに華麗な戦いを挑んできた。
「射貫け!」
魔女の指先から紫色の針のような槍が無数に解き放たれる!ガーランドの変幻自在の剣が彼を追いこむ。
だが、この男は華麗な身のこなしで避け、飛び跳ね、片腕のブルーローズ一丁で、戦いを繰り広げる。
「なかなかやりますね。褒めてあげましょう」
「貴様に褒められても嬉しくないな」
「あら?美女に褒められているのですよ?」
「魔女の間違いじゃないか?」
「負け惜しみを。逃れられない、絶望を刻んでやろう!」
「遅い!」
アサシンドクターが拳銃から剣に武器の持ち替えをしている。その剣は赤い剣で「レッドクイーン」の愛称で有名だ。
人間離れした速さで一気に斬りこむアサシンドクター。引き金の引く深さで様々な効果を生みだすトリガー「イクシード」を実装した剣で彼は重力を武器に使った。
イクシードを二段階まで引いて、重力の力で斬撃に重さを乗せて力の差をなくす。
間合いを侵略された魔女が、アサシンドクターの斬撃を連続で受け、呻き声をあげる。
「絶望を刻むのはお前だったな」
レッドクイーンが魔女の心臓を深々と刺さり、真っ赤な血が彼女のドレスを赤く染める。
「イデアを殺したか」
「待たせたな。ガーランド。決着をつけよう」
「勝負といくか。貴様の剣とわしの剣。どちらが上なのか」
アサシンドクターは剣を一旦、背中の鞘に納めると抜刀術の態勢に入る。
「なるほど、居合抜きで勝負か。なら」
ガーランドも変幻自在の剣を捨て、身に付けていた刀で抜刀態勢に入る。刹那の沈黙。彼らは共に走り抜刀術を仕掛けた。
アサシンドクターのレッドクイーンがガーランドの喉をかすめる。ガーランドの刀が彼の喉に触れそうになった、その時。
「があっ!!」
叫びを上げたのはガーランドだった。アサシンドクターは左手にもう一本の剣を持ち、ガーランドの心臓をとらえていた。
「貴様……左腕が使えない……はずでは」
「温存していたのさ。この瞬間の為に……」
「切り札は最後まで取っておけ。昔、暗殺稼業を教えた貴様が、俺に教えた言葉だったな」
「ふ……不覚」
そうして、彼はたった一人で暗殺者ギルドを壊滅させたのであった。
闇が支配する黒い森の奥から、シーナが出てきた。一部始終を見ていたのであろう。彼女は潔く負けを認めた。
「私の負けです。エリオットさん。この組織を持ってしてもあなたを殺せなかったなんて……」
「そうか……。依頼人は君か、君だったのか……ふふふ……はははは……」
「負けは、俺の方だ。今夜だけは君の望んだ方法で俺を抱けばいい。でも、アニーがいるかな。彼女が何というかわからないけどとりあえずは、戻ろう」
そうして、彼は、シーナを連れて、深く黒い森から去り、郊外の一軒家へと戻った。
彼がその一軒家に戻ると、ドアに張り紙があった。それを手に取るレム。そこにはアニーの筆跡でこう書かれている。
”私が襲われた理由……私にはわかっていたわ。シーナさんの仕業よね?何となくわかるかも知れない、彼女の気持ちを。だから……今夜は彼女の希望を聞いてあげて?私はその邪魔になるといけないから、先に自宅に帰るわね。それじゃあ……良い夜を。アニー”
「アニーはわかっていたのか。それなのに……彼女を憎むことをしないで……アニー。君の”覚悟”もここまでくると敬服するしかないな」
「どうしたのですか?」
「いや。何でもない。入ろう」
ドアの鍵を開け、彼らは彼の自宅に入った。
随分と激しい戦いをしたためか、汗がだいぶ滲んでいた。彼はシーナに先に自分がシャワーを浴びるから、心の準備をしておくように促した。
「すまないが、先にシャワーを浴びさせてもらうよ。こんな汗臭い身体で、君を抱くのは気が引ける」
とシャワールームへと姿を消したエリオット。左腕を動かした影響か先程から激痛が走っている。気がつくと包帯に彼の血が滲んでいた。
すぐにシャワーで傷口を洗って、消毒液をかけ、化膿を防いだ。あまりの激痛がシャワールームにいる彼をその場で座らせる。
「しばらく……本当に左腕は使えないな……。動かすだけで激痛が走る…!だが、せめて今夜だけは使わせてくれ……頼む」
左腕を抑えて喘ぐように痛みと戦う彼の姿がシャワールームにあった。
彼女は、シーナは、彼がいつも寝ているベッドを見た。キングサイズの黒に近い灰色のシーツが印象的だった。照明は薄暗い。
彼女は黒づくめの服を着ていた。足に穿いていた黒いストッキングを外す。そこに彼が寝室に、黒いシャツを着て現れた…。
「待たせたね…。今夜はここは君のベッドだ。君はどういう風に抱いてほしい?」
「あの、これを使ってください……」
「ストッキング…?今さっき外したものだよね…?」
「私が絶頂に上がったら、それで首を絞めて殺してください…」
「死を選ぶというのか」
「せめて、理由を聞かせてくれるかな……?身体を交えながら、君を抱きながら、聞きたい」
彼が自らシャツを脱いだ。黒いズボンのみになる。彼女は仰向けに寝て、そこに彼が覆いかぶさるように膝を立て優しく見つめた。
そして、彼は徐々にシーナを抱き始める。目を閉じて体重を彼女の身体に預けるように倒れ込み、そして首筋を舐める。
そして、彼女が何故、彼に固執するのか、語られた。
「私…初めて先生にあった時から……好きでした。とても親切だし……患者のことをけして見捨てない態度で……憧れていた…。毎日のように…あなたの顔が見たい…。でも、あなたは医師…。それは無理なのはわかっていた……」
シーナの話の最中、彼はシーナの服を脱がして、あらゆる性感帯を刺激していた。沈黙を守って、ただ精一杯の愛情を込めて、舌を這わす。
「そして、噂であなたがあの”アサシンドクター”であることを知った……。最初に依頼したのは……本当に憎い女だった。自分の美しさに酔って、大事なあの人を寝取って……!」
「それは、間違いない復讐の暗殺だったんだね」
「そして……あなたが最後の報酬として要求したセックスが……最高に気持ち良かった…!本当は嬉しかった……!あんなふうに情熱的に求めてくれて……でもキスをくれなかった」
「知っている……」
彼はふくらみを責めて、薄紅色の乳首を口に含んで、自らの唾液を絡める。噛んで、吸って、舐めて、吸う。
「あなたの虜になった瞬間だった……。2回目の契約まで……実は身体を売って、工面したんです……あのお金」
「2回目は君の大事な男だった。何故、標的を彼にしたの?」
「こんな……汚れた私を彼は黙って愛してくれた。それが……悲しかった。だから……せめてあの世でもう苦しまないでほしいと思った……。その時でした……。私も死のうと思ったのは」
「……3回目のアニーを標的にしたのは、当てつけだったんだね。俺への」
その言葉を口にする頃には舌はおへそから下半身へと伸びている。そして、彼女の望む花びらが濡れている場所を舌で愛する。
「悔しかった。いつもアニーさんと通勤路を楽しそうに歩いている姿を見て……。本当にアニーさんは嬉しそうに歩いていた……。あなたも嬉しそうに笑って……あの時のセックスでは絶対見せない顔だったから……」
「それは…油断していたな。足の指も舐めるよ…」
「そこは汚い……」
「汚くないさ……話を続けて……」
「どうしたら……あなたに振り向いてもらえるか……身体を売りながら考えました……。でも結論は出ていた……」
「既に死を選んでいたからだよね」
「はい……!そんな……気持ちいいです、そこっ……!」
「足の甲が性感帯だったんだ……。今更な発見だね。ここを舐めてあげるよ。せめて」
「結局……私は……何の為に生きていたのかな……。恋人を殺して、憎い女を復讐して、自分は男に金で抱かれて……」
「なら、せめて、俺が君を苦しまないように、殺してあげる……俺個人として」
「だから……溺れるんだ。この生涯最期のこれに。俺も限界を超えてつながり続ける。せめて、君への罪滅ぼしとして」
彼が自らズボンを脱いで、下着も脱いだ。彼はそこを欲望でいきり立たせている。ベッドに散らばるように置かれた衣服。
彼がシーナの顔を見つめて、己を鈍く深く貫く。彼女の中は狂う程に待ち焦がれたように熱かった。
「さあ……いくよ。君が壊れるか、俺が壊れるか、勝負をしてみよう」
「はあん!あうん!凄い……エリオットさん!そんなに突かないで……壊れちゃうよ!」
「余計な枷を取り払って俺に溺れろ……生涯最後のセックスくらいは……!」
「そうじゃないと……このストッキングで首を絞めながら……突くぞ」
「そうして…!私を殺して……セックスの合間に……地獄へ行きたい」
「わかった」
黒いストッキングを手にした彼は思い切り首を結んで、ぐいぐい端を引っ張りながら、首を絞める。花びらが収縮して何倍もの快感が彼の脳に届いた。
「あうっ…!くううっ…!」
「もっといこうか」
「い、息が……!」
「それくらいでは死なないな……!情けを捨てるしかない」
「あううっ!!」
もっと激しく首を絞める。彼女が喘ぐように、最期の言葉を絞り出す…。
「愛している……!わ……私が愛した……アサシンドクター…エリオット・レム……」
その言葉を聞いた彼は不意に力を緩めると、彼女の乱れた髪を顔からどけて……瞳を覗き込み、深い口づけをした。
「そ……そんな……ずるい……よ、エリオット……さ……ん」
そんなシーナに彼は微笑みそして首を絞めながら、セックスを交わし続けた。彼女の息が少しづつ切れていく。そして死んでいった。
それを一部始終ずっと見つめて彼女は逝ってしまった。せめてその瞳を手で覆いそして安らかに閉じてあげた。
そして首を絞めて彼女は事切れた。望んだ形で、彼女もアサシンドクターに、殺されて安らかに逝った…。
花びらからはもう……熱は帯びていない。
最後に彼は漆黒のシャツを喪服代わりにして、近くの丁度、桜が咲く木へと向かい、抱き上げて、向かった。
深い穴を掘り……人間が収まる穴を掘った後、そこに彼女を埋葬した。
彼の目には涙が一筋、流れる。そして、また土をかぶせ始める。そうして最後は彼なりに神へ祈り、せめて地獄より天国へ向かって欲しいものだと祈りを捧げた。
「もうすぐ……この桜も咲く頃かな……」
毎年春になると、その桜は桁違いの綺麗な花を咲かせる。それはジオニックシティで話題になるほどの綺麗な桜だ。
その桜の美しい理由を、この庭の持ち主である彼はけして誰にも語らない。
そして、今日も、その桜は、美しい花を咲かせて、春の風に吹かれると、儚く散っていった。この世界に儚く散った女性のように。
THE END