狐月の誓い 作:じゃじゃじゃ
そして、狐の子との約束の日の夜。
扉が叩かれて、その時を予感していたぼくは深く息をはいて立ち上がる。
来た。玄関の扉を引けば、そこには彦八さんや権蔵さんや……人が何人も立っている。
「どうしましたか?」
用はもう分かっているけれど、そこを我慢して尋ねる。
「分かってんだろ? 狐だよ」
彦八さんが振り返ってさっさと歩き出して他の人もその後に続いていく。
残されないように扉を閉めて後を追う。
山を登っていく。空をふと見上げれば、きれいな満月だった。
それを見て無性に悲しくなってきて目を伏せる。
話題に上るのは狐の子のことだ。
「さあて、今日は何発入れてやろうか」
「まあそう急くなって。楽しいことは、皆でしなきゃな?」
「そうそう、まんこや口だけじゃなくて、手や足も使えるようになったし」
「しっぽでしごいてくれるのも、最高だぜ?」
「くそっ、とはいってもやっぱり俺はまんこが……」
「狐まんこの締めつけ、たまんねえよなあ……」
「あいつもようやく交尾の仕方を覚えたみたいだな」
「ああ、やっと利口になった。ずっと注いでやったのが良かったみたいだな」
「しぶとかったよなあ。もう何か月抵抗してたんだ?」
「ちんぽ口に咥えさせられて嫌がってる顔もあれはあれで悪くはなかったがな」
「あそこまで淫乱な雌になるなんて、笑っちまうな」
「あんなにちんぽ嫌いだったくせになあ! 今度は犬みてえにおねだりしてんだぜ?」
「所詮狐だから本能には勝てないんだよ。俺たちに捕まるまでも、ずーっと交尾してたんじゃねえか?」
「あはは。違いねえな。馬鹿みたいによだれ垂らして、その辺の草むらで一日中な」
「まさに『獣』だな」
全ての言葉を聞いてたら参ってしまいそうだった。
なるべく聞き流すようにして、耐える。
「あの、……どうして、ぼくが呼ばれたんですか?」
なるべく平静を保って、初めて話の輪の中に入った。
倉三郎さんたちの話からすると、少なくともぼくはもう一週間は呼ばれなかったはずなのに……。
今日呼ばれるはずだという予感はしていたとはいえ、気がかりだった。
何故狐の子との約束の日に偶然呼ばれたのかが……。
すると、ぼくが何か可笑しいことを訊いたのか、他の人たちは顔を見合わせて大笑いした。
「あの狐がよ、もっとちんぽ欲しいって四六時中言っててな」
「もうどうしようもないぐらいに淫乱で、いくらぶちまけてやっても全然足りねえってねだるんだよ」
「だから今日は望み通り村中の男たちで種付けしてやるってわけ」
「獣は頑丈にできてるからな。ちょっとやそっと乱暴に扱っても壊れねえだろ」
壊れてる。狐の子はとっくに壊れている。
いや、壊されたんだ。壊された、壊された、壊された……。
「お前も良かったな、あの狐とまた交尾することができて。他に相手がいねえから、手淫でもして、待ってたんだろ?」
ぽん、と馬鹿にするように乱暴に誰かに頭を撫でられる。
その手を振り払いたくなるのを我慢する。
「噂になってるぜ? お前があの狐のこと好きなんじゃねえかってな」
……!
そんな話、知らなかった。頷くことはできなかった。
だけど否定もしたくなかった。
ただ、表情に出ないように、平静を装うとする。
「村中の奴に訊いて回ってたんだろ? 狐と次いつヤれるのか」
「ああ、そう言えば俺にも話しかけて来たな」
どうやらみんなは、村中の人に訊きまわった時のことを言っているらしい。
この七日間のぼくの行動がばれている訳ではない……一瞬だけ安心するけれど、すぐに気分は暗くなる。
「みんな言ってるぜ? あいつとお前ならお似合いだってな」
「あんな獣を好きになるなんて、そんな奴がもしいたら、よっぽどの変態だぜ?!」
「狐と付き合うってか! そりゃあいい!」
もうこれ以上あの子が馬鹿にされるのは耐えられなかった。無理だった。
けれどそんなことはお構いなしに話は進んでいく。
「全く、あんな奴のどこがいいんだか」
「全身狐色の毛だらけで、牙が生えてて、しっぽも生えてて、そのくせ生意気にも人間の言葉は喋れて」
「確かにまんこは気持ちいいけどよ。それだけじゃねえか?」
「淫乱だしなあ。いくらぶちまけても足りねえし」
「ずっと下品にだらしなくねだってきて、こっちが参っちまうよな」
「ああ。人間の女の方がよっぽどマシだな」
「俺も絶対にごめんだ。狐なんてよ」
「でもまあ、お前がそんなにあの狐のことが好きなら、否定はしないぜ?」
「なんてったって、あの狐はお前の唯一の、大切な大切な」
大切な?
「お嫁さんだもんなぁ!」
「「「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」」」
―――!
あまりに大きな嘲笑の下で、ぼくは必死に混乱する頭を鎮める。
ここで怒ってもなんにも意味がない。それは分かっているけれど……!
手を着物の
「ぼくは」
一瞬の静寂。
「ぼくは、獣ですよ」
その言葉につられて皆が笑う。
夜を揺らす声に反応して、梟はばさりと羽ばたいてどこかへと飛んで行ってしまった。
袂には、小さな包丁が入っていた。
◆ ◆ ◆
蔵の中に入れて貰った時、部屋の壁に背中を預けていた狐の子と目が合った気がした。
けれど、それきりで、特に何かが有ったわけじゃない。
『来たよ』、と合図を送ったけれど、返事は無かった。
狐の子が戻っていないことだけは伝わってきてしまった。
どうやら今日は本当に村中の男が集まってきているみたいで、大きいはずの蔵の中は既に人でいっぱいだった。
「ほら、おねだりはどうした?」
「おねだりしないと、ちんぽあげないぞ?」
「そ、それはいやあ……! 今すぐおねだりします……!」
急かされた狐の子が悲しそうにして、皆におしりを向ける。
ふりふりと、狐の子はおしりを、しっぽを大きく振って。まんこをくぱあと見せつけている。「今日も……いんらん狐マンコにいーっぱい注いで、せーえきでおなかぱんぱんに、して下さい」
「よしよし、利口だな」
頭を撫でられると狐の子はくーんと鳴いて目を細め、しっぽを振って男のちんぽに頬ずりをする。
「えへへ、もうおちんぽびんびんですね……。いっぱいお口マンコでぺろぺろさせてくださいね」
それから狐の子はちんぽを咥えて。
そして他の男たちもちんぽをまんこに入れたり、手や足で撫でてもらったりして、狐の子を囲う。
そして全身にまた、精液がかけられて、それから狐の子はすぐに
「ん……」
男の残った精液を目を細めて丁寧に舐め取っていく。
そんなことが今日も変わらず繰り返された。
しっぽを使ってちんぽを撫でさせたり、小さな胸の間にちんぽを挟んで擦らせたり、横一列になった男のちんぽを狐の子が順番に舐めていったり。
ぼくは蔵の端っこでずっと座っていた。
狐の子はもう、全てを忘れてしまったかの様に、ちんぽをねだって、腰を振って、舐めている。
それを見るたびにずたずたに引き裂かれるような思いがした。
……ぼくは、それでも決められない。
無理だ。こんなこと、決めろだなんて。
でも……狐の子は、この先も、ずっと、このまま、昔を忘れて、嫌がっていたはずの、精液を、快楽を求めていくんだろう……。
狐の子が一番怖いって言っていたことが、今自分の目の前で繰り広げられている。
少なくともあの約束をした二度の時も、蔵の中を覗いて、頼みごとをされた時も……狐の子の瞳や、口調には嘘の気配が全く混じってなかった。
それどころか目には明かりが戻っていた。
分かっている。
それに、ぼくは約束をした。
狐の子とゆびきりをした右手の小指を眺める。
それは、狐の子が目の前で消えてしまった時、繋いでいた右手でもあった。
狐の子と別れた日のことを思い返す。
――あの約束には、続きがあった。
◆ ◆ ◆
「約束は……覚えておるよな?」
「初めておぬしと約束を交わした日から七日後、つまり、今日から数えて三日後の夜に」
「わたしが死ねるための道具を持ってきてほしい」
「でもな……。わたしは、約束の日にすら、もう間に合わぬかもしれぬ。既に堕ちてしまっていて、自分で死ぬことができなくなってしまっているかもしれない。――その時は」
「その時は……すまぬが、おぬしが道具を使い、直接わたしのことを――」