狐月の誓い 作:じゃじゃじゃ
約束の日に、ぼくは、狐の子が死ぬための道具を蔵に持ってくる。
だけど、間に合わず、その日には既に狐の子は自分で死ぬことができなくなっているかもしれない。
その時には、道具を使って、ぼくが、狐の子を、殺す――。
◆ ◆ ◆
……それが、狐の子との約束だった。
思い出す。この約束をした時、狐の子の瞳には輝きが戻っていたことを……。
真剣そのものの、狐の子の切実な願いを、断ることが、出来なかった。
けれど。それを果たせば狐の子は死んでしまう。
道具を渡すのですら、できるはずがない。ましてや、直接殺すなんて……無理に決まっている。
好きな人を殺すなんて、絶対に嫌だった。
ぼくは、どうすればいいんだ……。
誰かが縄を持ってきて、狐の子の体を、複雑に縛っていく。
狐の子の三対、六つのおっぱいを囲むように縄はまかれ、すじの表面にも縄が一本走る。
誰かがそれを引っ張ればびくん! と狐の子の体が震える。
「どうだ? 縛られてみた感想は?」
「はい、とってもきつくって、びくんってなって、しゅごいです……!」
縄が引っ張られるとまんこがきゅっと刺激させられて狐の子の体が震える。
「乳首もびんびんに立ってるじゃねえか。あはは」
そして男が狐の子のおっぱいをひとつひとつ舐めまわしていく。
その度に強い刺激が襲うのか、狐の子は目を閉じて高い声を漏らす。
「このまま天井から下げてみようぜ」
そんな誰かの提案に、ぼくは立ち上がる。
「それは、流石に、危ないですよ……」
そんなことをしたら絶対に苦しいに決まってる。
止めようと前に出ようとすると、孫の介さんに頬を殴られる。
唐突だったから、訳が分からなくて混乱する。壁に頭を打つ。
鈍い痛みが走る。
ぼくの発言は舌打ちか無視をされて、何も意味は無かった。
狐の子は、ただ、ただ空を見つめていた。いや、きっとどこも見ていなかった。
そのまま狐の子は天井に乱暴に、うつぶせの姿勢のように吊り下げられ、おっぱいやすじを揉まれて触られる。
そしてまたまんこや口に挿れられて。淫乱だと罵声を浴びせられて。
縄が揺れるたびに自然とちんぽは根元まで入っていって……。
ぼくは目を閉じてひたすら頭の中の、そして外からの喧騒に耐えていた。
「お前の番だ。さっさとしろ」
肩を叩かれて顔を上げる。
……。
縄からほどかれた狐の子にゆっくりと近づいて、周りに包丁を持っているとばれないように、袂に入れたまま落とさないように着物を慎重に脱いだ。
周りから囃す様な雑音が聞こえてくる。
そして狐の子のそばに寄る。
狐の子が本当に、壊れてしまったのか――確かめるつもりだった。
だけど、ぼくは何もできずただその場に立ちすくんでいた。
狐の子と目が合ったけれど……。
「……どうしましたか……?」
狐の子がすがるような顔をして、まんこを指でいじって広げて見せたので、不意を突かれて泣きそうになって、それでただその場にかがんで狐の子の手を取った。
そのぬくもりは変わっていなかった。
けれど……。
涙が堪えきれなくなって、ぼくはただ誰にも見えないように、泣く。
でも、そんな時間はすぐに誰かに手首を掴まれて終わってしまった。
「いつまでだらだらしてるんだ」
「ごめんなさい、さっき見てただけでも精液を出しつくしちゃったみたいで……ちょっと今日は……もう、勃ちません……」
蔵に入る前から最初から言おうと決めていたセリフを、感情を噛み殺しながら言う。
本当は色んな他の感情に襲われてそれどころじゃなくて……、蔵に入ってから勃っていなかった。
「はん、情けねえな」
嘲笑を浴びながら再び蔵の奥へと退いた。
狐の子はすぐにまた次の男達を嬉しそうに迎え入れて。
ぼくは色んなものを堪えながら蔵の端っこに佇むしかない。
狐の子はもう、戻らない。絶望的な確信が襲い掛かってくる。
だけど、あの子の手は確かにあの時のままで、まだ暖かかった。
それは希望にならずにただぼくを苦しめる。
狐の子は帰ってこない。けれど。ぼくはそれでも何かを期待している。
約束を、破ろうとしている。
そんな奇跡は、もう起こらないのに。
だから、狐の子はぼくに託したのに。最後のお願いを。
なのに、それを裏切るのか?
どんな気持ちなんだろう。
永遠に、自分が自分でないままずっと、生きなきゃいけない気持ちは。
想像するだけでも、目の前が暗くなる。
それは、――なによりも怖い。
それでも、死ななければ、いいことがある。
なんて、生きてても死んでても同じような、どうでもいい存在のぼくが言い切れる自信がやっぱり無かった。そんな勝手なことを言えるほど、ぼくは立派に生きてなんかいない。
結局のところ、ぼくの自分勝手なんじゃないか?
約束を守れば、自分が狐の子を殺すことになるから、それが嫌だから、ぼくは狐の子に託されたお願いを無かったことにして、狐の子が苦しみを感じれなくなるほど苦しんでいるのを、かわいそうだと同情しながら、じっと遠くから眺めていたいんじゃないか……?
それは狐の子のためと言うよりも、自分が苦しみたくないから。
ぼくが傷を負いたくないから、嫌な思いをしたくないから。
誰かに対して怒るだけなら楽だから。
自分には何にもできないとか諦めているけれど、それは本当は、ぼくが自分を守るのを優先して、何にもしたくないからじゃないのか……?
狐の子の気持ちをまた、自分の勝手で踏みにじるのか――?
それならば、やっぱり……。
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――でも、それでも、狐の子が死んでしまうのが何よりも怖かった。嫌だった。
狐の子の命が、何よりも一番大切だった。
失いたくなかった。
……狐の子がこれ以上苦しむことが嫌だって、本当に思う。
狐の子もそう言っていた。
けれど、死ぬのだって、すっごくすっごく、ずっと、想像できないほどに苦しい。
楽になんてならない。ぼくは狐の子をそんなに苦しめることはできない……。
弱虫だと思うけれど、それだけは絶対にできない。
それに死んでしまったら、希望も何もない……。
ぼくは何もできない。
そんなのは勘違いで、実際には何にもしていないだけだ。
もう少し何か方法は無いかってもっと頑張らず、諦めてしまっていたのだ。
無理だなんて誰にも言われてないのに、絶対に無理だって言う訳でもないのに。
ぼくは悲しみにずっと浸っていたかっただけなんだ。
じゃあ、ぼくは今から、すぐに狐の子のお願いを叶えなきゃならないか。
それも間違ってる。
間違ってるかどうかなんて誰にも分らないけれど、それでも間違いだって信じたかった。
狐の子は願っていた。人の心を信じたいって……。
死にたいよりも、殺してくれよりも、そっちの願いの方がきっと、きっと、本当に狐の子が望んでいることだ……。
死ぬ方の願いの方が叶えるのは簡単だ……。
でも、それだと本当にすぐに終わってしまう。
終わったらそれっきりで、もうなにもないし、完全にどうにもならない。
だけど……もう一度狐の子が外に出れたなら、狐の子はまた元に戻ってくれるかもしれない。
消えてなくなったわけじゃないんだから、きっとやり直せる。
時間が沢山かかっても、ゆっくりと……。
――ぼくは、約束を果たすのを、踏みとどまった。
誰かの声が掛かる。
「じゃあ、一通り終わったし、そろそろ帰るか」
気が付けば随分と時間が経っていたみたいだった。それが合図となって、みんなは服をぞろぞろと着る。
「――!」
ぼくはその時、全身の血が引いたような気がした。
包丁。
包丁が、着物に包んだままだった。
あれを持てば、きっと狐の子は、
自殺してしまう。
――まずい!
慌てて自分の着物に駆け寄り、触って確かめる。
包丁の柄の堅い感触が、ちゃんと手に触れた。
……良かった……。
安堵して、そっと着物を着る。
虚ろな目をしたままの狐の子は、疲れてしまったみたいで、すうすうと息をしていた。
首輪をはめられて、鎖につながれて……。
その様子を見て、決意を固める。
待ってて。必ず、助け出すから。
ぎいい、と蔵の扉が開かれて、月明かりが蔵の中全体を照らす。
ぼくは誰よりも先に、蔵の入り口に立つ。
今しかない。狐の子を助けるために、みんなに一斉に声を掛けようとした。
その瞬間に。
「――――のう」
静かな声が、蔵の中に響き渡った。