『昏い部屋での共闘』
「ちっ、変な所に紛れ込んじまったな」
全部が真っ白な部屋。広さは六畳ほど。机に置かれたたくさんの硝子瓶と、壁に浮かぶ不思議な文字。
無限城で城ごと動くカラクリに巻き込まれ、カナヲと伊之助はこの部屋に放り出された。
「どうしよう、この部屋、出口がない」
壁を360度触って確かめたカナヲが、怒りと困惑を表している。
「壁を壊しゃあいいんだろ!!」
猪突猛進とばかりに何度も体当たりするが、白い壁はびくともしない。カナヲは呆然と、壁に浮かぶ不思議な文字を見つめた。
『相手と性交して、気を遣るまで出られない部屋』
性交?カナヲは恐れ慄いた。カナヲが今まで性交したことがあるのは、竈門炭治郎だけ。優しく愛してくれ、性交に至るまで何度もお互いの気持ちを確かめ合い、逢引を重ねての末の性交だった。
しかし今回はどうだ?嘴平伊之助は同期隊士で、顔と性格は見知っているが、恋愛感情は抱いた事がない。竈門炭治郎の友人としての視点しか持てない。その相手と性交?
猪頭を付け、筋骨隆々な上半身をカナヲは見つめた。猪頭の中の眉目秀麗な素顔も知っている。
恐怖、という感情は無い。嫌悪感も無い。ただ、信じられない、という事のみ。伊之助と性交をする、そんな事は想像したこともないし、ただただ青天の霹靂でカナヲは頭がくらくらした。
炭治郎とカナヲが恋仲になったことは大っぴらにはしていないが、仲の良い善逸と伊之助ならば当然知っているだろう。
「オイ、ハナオ!ヤルしか無えだろうが!」
伊之助は急いていた。イライラと猪頭を掻き毟り、部屋の外へ出られない事を怒っていた。白い壁をまだ何度も蹴っている。
カナヲと性交する事を、部屋から出る手段の1つとしか思っていない様だ。
「俺は、早く戦いてえんだ!あの上弦どもを蹴散らしてぶっ殺して、無惨とかいうクズにも俺様の強さを判らせてやりてえ!ハナオ、さっさとヤろうぜ」
さっさとヤろうと言われても、カナヲは戸惑うばかりだ。
「ここにある硝子瓶、これは媚薬ってヤツか?」
伊之助は机に何本も置かれている瓶を手にとった。小綺麗にカットされた茶色い瀟洒な瓶が、中身の淫靡さを際立たせていた。
『媚薬30本を飲み干して性交すること』
カナヲの目の前は真っ暗になりそうだった。
「媚薬だぁ?丁度いいじゃねえか。飲んだらムラムラするんだろ?俺はこんなモンいらねえけど、今は急いでるからな」
伊之助はゴキっと瓶の蓋を開け、5本をイッキに飲み干した。
「ハナオも飲めよ。全部飲まねえと出れねえんだろ」
10本程を手渡した。カナヲは媚薬を手に持ち、ヘタッとその場に座り込んでしまった。
炭治郎のおひさまの笑顔が、カナヲの頭に浮かんでいた。大好きな微笑み。恋に落ちた瞬間の笑顔。
炭治郎とは何度も肌を重ねた。優しくいたわるような情交。何度も我慢してくれて辿々しく最後まで遂げた最初の情交から、最近は段々と慣れて互いの気持ち良さを探ることができるようになっていた。
好きな人の顔を見つめて、大好きという想いに包まれながら、肌を重ね合わせる快感。自分の身体で好きな人が気持ちよくなってくれるという喜び。炭治郎、大好き。という想いが、身体を重ねるたび強くなってきていたところだった。
それなのに。
これを、飲めば、炭治郎を忘れて‥‥?目の前の美少年と性交をする‥‥?
茶色の瓶を呪われた物のように掲げる。
‥‥‥‥カナヲは空恐ろしく思った。
伊之助は、その育ちの野生の如く、カナヲと性交する事を何も思っていないのだろうか?
しのぶに対して母のような面影を見て好意を持っていたことは気付いていたが、恋愛感情という面は無かった気がする。
恋愛感情の末の性欲。愛し愛される者と心まで気持ちよくなりたいという性欲。それを、伊之助は知っているのだろうか?
性欲とはオスとメスが番う、それだけのことと捉えているのだろうか。野生の獣ならば、昨日別のオスと交尾したメスが他のオスと交尾することもあるだろう。それが繁殖というものだ。
もし伊之助が、性交をその程度と捉えていれば。カナヲは恐怖した。
「何モタモタしてんだ!上弦の弐を倒したからって、まだ倒さねえといけねえ鬼はたくさんいるだろうが!」
鬼殺隊隊士として諭される。カナヲは瞬時、背筋がシャンとした。
「紋逸も、紋次郎もどうなってるかわからねえだろ!最悪、死んだかもしれねえ。早く合流してやらねえと!」
『死』
その言葉が、カナヲを茶色の瓶に引き戻した。
そうだ、この部屋から出なくては。ここは無限城、敵の根城の中だ。鬼殺隊としての指示よりも、自分の感情を優先してしまったことを知力で詫びた。
伊之助が今思っていることは、きっと、仲間を助けること。無惨を倒す事。しのぶを失い、もう誰も失いたくないと憤っている。その想いの前ではカナヲの純潔など些細な事。
そうだ、この部屋を出なくては炭治郎に逢うことすらできないのだ。炭治郎に会いたい。炭治郎を、仲間を助けなくては。
この部屋から出ないとそれは叶わない。覚悟を決め、小瓶を口元へ持っていく。喉がキュッと鳴る。
「炭治郎、愛してる」
目をキツく閉じて、炭治郎の顔を思い浮かべ、瓶を飲み干した。2本、3本と。
10本目を飲み終わる頃、身体が疼いてきた。
カナヲの股間が熱を持っている。何もしなくても腰が左右に揺れる。隊服の下で、堅く尖った乳首がサラシに擦れ、身体を動かすたびに(んっ‥!)と声を挙げそうになる。顔は上気して、半空きの口からは艶かしく舌が見えかかっていた。
「あ‥‥」
「ハナオ、いい顔になったじゃねーか」
「違っ‥‥!」
目を閉じて伊之助の顔を見ないようにした。心の中は一途に炭治郎を想う。
媚薬の効果で、火照った上半身が熱い。隊服を脱ぎたい。カナヲは釦に手を掛け、隊服の前をはだけた。冷たい外気が気持ちいい。
キュロットスカートのホックに手をかける。こんなことならプリーツスカートにしておけば良かったと後悔した。キュロットは全てを脱がなければいけないが、スカートならまだ少しは隠せた。
ストン、とキュロットスカートが床に落ちると、下半身を覆うものは下着だけになる。
媚薬を20本も空けている伊之助は、もう腰の獣皮の巻物も脱ぎ、産まれたままの姿になっていた。赤黒い股間のモノもチラリと目に入る。
「‥‥ッ!」
カナヲは身震いした。
「脱げよ」
伊之助の声にカナヲのおまんこが熱くキュッと疼いた。
「脱がねえとヤレねえだろ。早くしろよ」
カナヲは歯を食いしばった。何故、炭治郎を愛しているのにこんな羽目になっているのか。
「くっ‥‥!」
白いレースのパンティを、自分で下げる。屈辱。そんな単語が頭に浮かんだ。
カナヲは炭治郎に逢いたいと思う気持ちのみで、伊之助に向き合った。
「‥‥そんな顔すんなよ。俺だって、紋次郎がハナオとツガイになってるのは知ってる」
不機嫌で面倒くさそうな顔。伊之助と知り合った当初によく見ていた顔だ。
伊之助はキスも愛撫も無しにカナヲを床に押し倒した。乱暴に足を開く。目前に迫った綺麗な顔面に、カナヲは抵抗した。
「駄目‥‥!お願い、後ろから、挿れて」
伊之助の顔を見ながら炭治郎を思い浮かべる罪悪感に、カナヲは耐えられなかった。後背位なら、伊之助の顔を見ずに済む。
くるりと体を入れ替え四つん這いになり伊之助に尻を掲げる。おまんこが興奮してヒクついている。
「俺の好きな格好じゃねえか」
媚薬に浮かされた伊之助は、ペロリと舌舐めずりをした。カナヲが恐怖に怯える顔は、伊之助には見えない。
「挿れるぞ」
伊之助はカナヲの中に無遠慮に挿入してきた。
「‥‥‥‥ぅぁ‥‥!」
炭治郎とは違う形に驚き、感情で頭の中がグシャグシャになる。
伊之助は空に向かって、部屋の主に叫んだ。
「オイ!!挿れたぞ!性交したぞ!出口の戸が開かねえのかよ!!」
伊之助は、やはりカナヲとの性交を進んで望んでいた訳では無かった。少しでも早く終わらせたい、それが炭治郎のためになると解っているのだ。
しかし、壁の文字が、不規則に歪んだ。
『気を遣らないと出られない』
「フザケやがって」
「気を‥遣る‥‥」
カナヲは背筋がゾクリとした。気を遣るという事は、伊之助がカナヲの中に精を吐くという事だ。
嫌だ。炭治郎がいい。炭治郎の精でないと嫌だ。孕むならば、炭治郎の子と決めている。駄目。今挿さっているものは炭治郎ではない。嫌っ!逃げたい。炭治郎‥‥!
繋がっているのを抜いて逃げようとすると、伊之助に手を掴まれた。逃げられない。もう、今更だ。
「俺が勝負に負けるのは許さねえ!ハナオが先にイけ!」
伊之助が腰を打ち付けながら怒号する。女よりも先にイクことは弱っちいヤツに負けること。それを何よりも嫌っている、そうだ伊之助はこういう性格だったと思い出した。
カナヲも伊之助でイクのは炭治郎に申し訳なく、気持ち良さをさっきからずっと我慢していた。カナヲの腰は無意識で小刻みに揺れ、奥を挿すチンコは気持ち良くて頭が呆けそうだが、理性で意識を保っていた。
しかしこのまま伊之助と根比べをしていても、部屋から出られそうにない。部屋から出て炭治郎に逢いたい。
カナヲは想いを手放した。
意識を快楽に集中してイクことだけを考えた。これは、炭治郎でも伊之助でもなく只の竿である。誰のでもない。太さと形を膣と脳内で辿る。側面を襞で味わい、カリで捲れる形を感じる。奥に当たるたびに感電する。
「‥‥‥あぁっ!」
全身に巡る快楽に溺れるだけ。
カナヲの目の前で、白い花火が幾つも挙がった。
「炭治郎には、絶対、言わないで、お願い」
服を着て身支度を整えたカナヲは、涙を浮かべながら懇願した。軽い調子でハナオとヤったぜ、と言われれば炭治郎にどんな顔をされるのか、想像することすら恐ろしい。しかし伊之助は、意外にも理知的な答えを返してきた。
「言わねえよ。これは無限城の闘いの傷だ。どうしようもねえ。俺だって、紋次郎の大切なモンを壊して傷つけたかった訳じゃねえ。あの部屋から出たかっただけのただの戦闘の1つだ。お前も紋次郎に言うんじゃねえぞ」
ウン、と頷き、伊之助の意外な一面に驚く。
カナヲも、伊之助も、炭治郎のことを大切に思っているのだ。その為の、共闘。絶対、有ったことを話してはいけない共闘。
扉が開いた今、逢いたいのは炭治郎だけだ。炭治郎は、きっと生きて、この無限城の中で闘っている。それを助太刀したい。行かねば。
隊士としての心の強さを取り戻した。身体の疼きは何処かへ行った。日輪刀を握りしめる。
「伊之助、敵に会うといけない。一緒に行動しよう」
日輪刀の柄に手を掛けながらキラリと鋭く光ったカナヲの眼差しには、同期隊士としての伊之助しか写っていなかった。
「おうよ‥‥派手に暴れてやるぜ!!!」
もとより無垢な伊之助はカナヲを炭治郎から奪ったという概念は無かった。
無惨を、倒しに行く。それのみに、心は一致した。
滅の一文字が、カナヲの背に大きく宿る。
炭治郎には決して知られてはならない、秘密の部屋の共闘。