母娘三代育児ックスするやつです

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沃野のハングリィガァルズ

 

 

 

 沃野のハングリィガァルズ

 

 

 

 日に二度のフェルマータの食事は、浴室で行われます。そうでなければ、ベッドが血で汚れてしまいますから。

 浴室は狭く、浴室は、フェルマータの個室に設えられています。浴室は、食事のためだけに用いられます。

 メイドのサウレは、自分の身体を覆う泡を洗い落としました。石鹸は肉に匂いが移らないよう、無臭。

 殺菌処理済みの柔らかなタオルで、純白の羽根から水分を落とします。銀糸の長髪を後ろで縛ります。デッキチェアに背を預けます。

「お嬢さま、お食事の準備が整いました」サウレは、虹色の虹彩でじっと自分を見つめていた痩躯の幼竜――フェルマータに声をかけました。

 フェルマータは無言で歩み寄り、サウレにまたがりました。鱗に覆われた腕を伸ばしました。サウレのよく実った乳房に触れました。指を食い込ませ、掻き分け、肋骨のありかを探りました。乳頭を口に含み、吸いつきました。

 サウレは一瞬、身を強張らせました。その直後に訪れる痛みを、嫌というほど知っていましたから。

 乳頭に牙を突き立てられます。牙が皮膚を突き破ります。噛み千切られます。咀嚼され、嚥下されます。乳房にも牙を突き立てられます。牙が皮膚を突き破ります。噛み千切られます。咀嚼され、嚥下されます。

 サウレは涙を流して指を噛みました。声など上げて、フェルマータの食事を中断させるわけにはいきません。

 フェルマータは乳房をかじりながら、鋭利な爪で胸郭を切り裂きます。漿液でぬめる体内へ無造作に両手を突っ込み、こじ開け、裂傷を破って広げます。傷口が鱗で荒くささくれます。滲んだ血が白い肌の上を滑ります。

 小さな舌が、その血を舐めとります。すすり、顎を濡らしながら、腹腔に鼻先をうずめます。水っぽい音が浴室に響きます。侵入に感極まってこぼれそうになる嬌声を噛み殺します。空っぽの腸が飛び出ます。牙で寸断されます。フェルマータはのべつまくなしに、臓器をむさぼります。

 腹膜を歯できれいにむしり、肋骨にむしゃぶりつくフェルマータの頭を撫でます。肝臓をついばみ、肺胞を噛みしめるフェルマータの顔にかかった黒髪を耳にかけてやります。フェルマータは身体に触れられることを嫌がります。フェルマータが接触を許すのは、食事に夢中になっているときだけです。

 心臓が大気に晒されます。陽臓が大気を温めます。

 意識が薄れます。身体は重く、痛みはもうありません。フェルマータが陽臓を吸う姿に、ただ、熱を感じるだけでした。サウレの羽毛は真っ赤に染まっていました。

 腹を満たしたフェルマータが身体を起こしました。血を洗い、腹を開けたサウレを一瞥しました。浴室から出て、防火扉を閉めました。

 フェルマータは、臍より下には触れようともしませんでした。フェルマータがサウレの子宮と卵巣に手を出したことは、一度もありません。

 サウレは知っていました。フェルマータは、サウレの子宮を何より恐れています。フェルマータは、サウレの卵子を何より欲しています。

 今日はひどく食い散らかされました。サウレは指一本動かせませんでした。フェルマータの食欲は、夜毎に増大しています。

 ですがフェルマータの胃袋は、どれだけサウレの肉を詰め込んでも、空虚を訴えていることでしょう。フェルマータの血潮は、今も熱量を失い続けていることでしょう。やがて凍てつくでしょう。竜が心臓の雷火は、星の核によってのみ、くべられるのです。

 タイルの隙間を縫って流れる鮮血が白煙を立ち上らせます。火を吐きだします。サウレの身体を包みます。瑕疵をすすぎます。

 浴室が炎で充満します。浴室の汚穢が炎で洗い流されます。炎のなかで、サウレはフェルマータの髪を乾かしていないことを思い出しました。

 乾かさないと、菌が湧くのです。

 

 

 

 

 

 

 エプロンドレスを身に着けなおします。

 髪を結います。サテンのリボンを巻きます。

 爪を切ります。爪を研ぎます。爪を磨きます。マニキュアを塗りなおします。眉を描きます。グロスを引きます。太ももにコロンを付けます。手首にも。両の手首を擦り合わせます。コロンはメリュジーヌが好む、バニラの香り。

「今日は、念入りですのね」メイドのユハが眉をひそめました。

 サウレは薔薇の飴玉を口に含みました。「……三日ぶり、ですから」

 ユハは鼻を鳴らしました。

 ユハやほかのメイドは、サウレは夜伽のために買われた奴隷妖精だと思っています。サウレを見下しているのです。

 ユハは竜でした。ほかのメイドも竜でした。鳩はこの屋敷にも、島にも、サウレただひとりしかいません。赤い血を流すのはサウレしかいません。

 だから、サウレは身体の隅々まで磨き上げます。つくり上げます。整えます。食べられるために。夜伽のために。

 サウレは主人を出迎えるためにテラスに出ました。潮のなかで月が滲んでいます。今日は細菌が多く、結晶霧が濃くけぶっています。

 十分と経たないうちに、晶気を引き裂き、サウレの目の前にひとりの成竜が降り立ちました。

「おかえりなさいませ、お屋形さま」サウレは成竜――メリュジーヌから結晶雪がこびりついたコートを受け取りました。「いかがでしたか、外の様子は」

 メリュジーヌはくたびれていました。自室へと戻るメリュジーヌの歩みは早く、長旅で翼膜は痛々しくひび割れていました。「……デルファイが落ちたそうよ。つまり、不浄大陸最大のマスターサーバーを乗っ取られた――ってのに、信じられる? 亀と鰐の爺婆どもはうちが貸し付けてる子たちを使って、相変わらず捕鯨船を沈めた数ばかり競ってたわ。もう、やんなっちゃう」メリュジーヌは肩にかかった黒髪を払いました。長い回廊の上に、凍み凍った鱗が落ちました。「唯一まともな議題を提出してきたのは、蛇の頭だけかしらね。悪性腫瘍のミサキっていう港町に艦砲射撃を決行するんだってさ。……ま、あの連中も結局はダイヤの利権しか眼中にないんでしょうけどね。どいつもこいつも、不浄大陸の妖精たちから愛国心というやつを学ぶべきだわ」

 不浄大陸と東晶極は現在、戦争状態にあります。発端は、不浄大陸の連邦国家が保有するサイマト――サイコマトリックスなる通信技術でした。サイマトはその核に、鯆や鯨の脳を使うのです。

 不浄大陸の原住民――妖精どもは、サイマトのために鯆を狩りまくりました。それで、水のなかに住まうものたちは怒り狂いました。細菌と猛毒エーテルにまみれた大陸に這い上がり、妖精どもを狩りまくりました。戦争が始まりました。

 ですが東晶極の理事たちは真因を知っています。不浄大陸にサイマトを敷衍させたもののことを。サニー・ジャーメインのことを。

 サニー・ジャーメイン。ペンデュラムクォーツグループのCEO。東晶極クレセント領のルート218――通称ペンデュラムブールヴァードの伯爵。結晶検疫官どもの統領。

 サニーは狂人です。サニーは細菌で家族を失くしました。サニーは細菌を電子と呼ばわり、憎んでいます。サニーはジプシーとアルケミストの秘術に傾倒しています。

 サニーは資産家で、時計屋で、科学者で、結晶の天才でした。サニーは秘術を技術に昇華させました。ダイヤの傷を消す秘法、魂を四つに分かつ秘法、砕けた魂を結び付ける秘法、魂を保存せしめるミスリルなる金属を得ました。エーテルの炎とエメラルドの相関性を発見し、高伝導エーテルを開発しました。長寿をもたらす丸薬を生み出しました。不死身になりました。

 サニーは神なる概念を信仰しました。火を信仰しました。サニーは言いました。原初に、極光なる神が地平線なるもの、太陽なるものを完成させることなく原野に火を灯したせいで、細菌とエーテルが大気に満ちたのだ、と。車輪が残ってしまったのだ、と。悪魔が車輪を見つけてしまったのだ、と。

 サニーは言いました。東晶極に地平線なるものはありません。だから、東晶極に太陽なるものは昇らないのです。だから、細菌は増え続けるのです。エーテルは潤い続けるのです。車輪は廻り続けるのです。

 サニーは今、地平線を探しています。細菌を殺し、エーテルを乾し、車輪を砕くために。そのために、妖精どもにジプシーとアルケミストの秘術の最たるサイマトを与えたのです。エメラルドを授けたのです。

 サニーはサイマトで、妖精どもの意識収斂を目指しています。妖精どもに地平線を探させようとしています。不浄大陸には、サイマトによるサニーの支配が及びかけています。

 東晶極の理事たちはそれを許しませんでした。理事たちはサニーを疎ましく思っています。東晶極そのものを奪われないか恐れています。不浄大陸に眠るダイヤと、サニーの秘法を喉から手が出るほど欲しがっています。

 だから、安全保障理事会は鯆をだしに不浄大陸を叩きました。サニーの支配を阻止するために戦争を仕掛けました。その戦争はもう、十年続いています。命を落とした竜の数は、百からになります。

 竜は貴重です。竜の血は青く、竜は長命ですが、受胎率が低く、空胎期間が長いのです。竜の数は多くありません。メリュジーヌ・アルバニー・ブルトン公が治める竜の島ランゴは、戦争による労働力の不足から食用鉱物の採掘もままならず、衰退の一途にありました。

 ランゴはもう後には引けません。一刻も早く不浄大陸を落とし、サニーを失墜させ、クレセントが抱える大量の水晶を奪わなければ、竜たちは飢えて滅ぶのです。血が絶えるのです。

 部屋に着くなり、メリュジーヌはドレスを脱ぎ捨てました。天蓋付きのベッドに身を投げ出しました。伸びをしました。

 サウレはドレスを拾い上げました。不浄大陸産の香を焚いて、水晶灯をつけました。香で碧く着色された柔らかな光が、メリュジーヌのひび割れた翼膜を突き刺し、竜の血によってさらに青ざめて、シーツの上で翻ります。

「お疲れのようで」

 メリュジーヌは微笑みました。「かわいい娘の顔を見たら、疲れなんて吹き飛んじゃうわよ」メリュジーヌは欠伸をしました。目を擦りました。「あの子は、ご飯、食べた?」

「いえ、お屋形さまが理事会に出席なさっている間も、召し上がってくださりませんでした。申し訳、ありません」

「一度、ショック療法でも試してみたほうがいいかしらね」メリュジーヌは肩を竦めました。「でも、仕方ないわ。本能でわかってるんでしょうね、本当に大切な、自分の根源ってやつ。自分がどこから来たのか――なんてね」

 鳩は首を振りました。「わたしには、わかりません」

 竜も首を振りました。「あたしには、わかってるわ」

「エメラルド、ですか」

「ダイヤではないわね」尾を持ち上げました。腹を晒しました。すべらかで、白い肌です。「――あー、で、さ」メリュジーヌは咳払いしました。視線をそらして、指先でシーツを擦りました。「あたしもお腹が空いたんだけど」

「かしこまりました」サウレはためらいませんでした。晶気が素肌を撫でました。バニラが香ります。

 メリュジーヌは頬を膨らませました。「……顔を赤らめるぐらいしたら?」

 

 

 

 

 

 

 凍み凍った鱗の上を、赤い舌が這っていきます。鱗に触れるたびに舌は裂け、血が滲み、血を沸かし、鱗を溶かします。

 生殖器のふちを舌でなぞります。入り口をほぐし、粘膜を掻き分け、体液を舐めとります。柔らかく、熱く、甘く。

 メリュジーヌが熱い息を吐きだします。甘い声が漏れます。シーツを噛みます。甘い声が漏れます。「ッく、……も、もお、いッ、いい、サウレ、もう、きちゃッ、きちゃうか、ら――」

 メリュジーヌが手を突き出します。サウレの頭を押しのけようとします。手を握り締めます。強く吸引します。メリュジーヌがのぼりつめます。長身が仰け反ります。体液が飛び散ります。

 メリュジーヌは脱力しました。「もう、いいって、言ったのにぃ……」

 サウレはタオルで口元をぬぐいました。「冷え切った身体では、満足に消化できないでしょう」

 メリュジーヌは唇を尖らせます。「そういうおまえは、ちゃんと準備できてるんでしょうね?」サウレを突き飛ばします。脚を開かせます。「うっわ、なんでもないような顔して、相変わらずぐちょぐちょね」サウレのリボンをほどき、髪を下ろさせました。手首を縛りました。

「……これも、お勤めですか、ら――ッ!」声が裏返りかけます。メリュジーヌが長い舌を陰核に絡めています。しごきあげられます。

 サウレはすっかりできあがっていました。瞬く間に達しそうになります。胎内で鋼鉄が充填し、蠢きます。歯を食いしばります。身構えます。メリュジーヌが舌を休めます。達し損ねます。息を整えます。メリュジーヌが舌を絡めてきます。達しそうになります。達し損ねます。サウレは身悶えします。

 メリュジーヌは笑いました。サウレは言いました。「……食べ物は……粗末にしては、いけないんでしょう」

 メリュジーヌは目を細めました。「……覚えててくれたんだ、それ」

 サウレは口をつぐみました。メリュジーヌも口をつぐみました。顔を伏せました。陰核を強く吸引しました。

 腹のなかで、いかずちとほむらが弾けました。サウレは仰け反りました。陽臓によって圧縮された晶気が、重金属へと変換され、卵巣から排出されて、収縮する子宮をくぐり、蕩けた膣粘膜の上を滑りながら、メリュジーヌの犬歯にぶつかり、小さく、そして、尖鋭に響いたからです。

 メリュジーヌがサウレの体液をすすります。飲み干します。重金属の卵細胞を喉で転がします。卵細胞が雷火にくべられます。メリュジーヌはため息をつきました。微笑みました。

 サウレは妖精の身体を持っています。東晶極には晶気が満ちています。晶気のなかで、妖精は生きていけません。晶気のなかで、竜たちが生きていけるのは、鱗を持っているからです。鱗で晶気を泳動させているからです。

 晶気は無色の雷火、すべての火を縒り集めて書き込まれた気相石英ですから、晶気のなかでは、妖精の肌はたちまち雷に引き裂かれ、火に爛れ、エーテルをまき散らしながら、自らの毒に犯されて絶命するしかありません。

 サウレは妖精の身体を持っています。ですが、エーテルをつくる精臓を持ちえません。その代わり、精臓を基盤に、水晶を核に備えた炉心、陽臓ステラを持っているのです。

 陽臓ステラは体温を動力として、永遠に円周率を算出し続ける完全螺旋の炉心です。円周率は整数を不規則的に無限生成していますから、あらゆる整数を含んでいます。その整数のなかから、精素回路の上に載せた逆最適回路が解を導出し、吸いえた晶気を熱で圧縮して任意の質量に変換させ、サウレの肉体を内側から補償しているのです。

 サウレの身体は妖精として、沃野の泥雷でありながら、遺伝子の縮図そのものでもあるのです。

 サニー・ジャーメインはその補償要素を、第六界への門と呼んでいました。サニー・ジャーメインはその技術をジプシーとアルケミストの秘術から編み出しました。サニー・ジャーメインはその設計図を、永久不滅のかがよう悪魔とともに、エメラルドのなかに刻んでいました。

 サニーは地平線の設計図を完成させていたのです。陽臓ステラこそ、エーテルをすすぐために不可欠な、地平線の一辺だったのです。

 サウレは知っています。サニーにジプシーとアルケミストの秘術をもたらしたのが誰なのかを。サニーからエメラルドの設計図を奪ったのが誰なのかを。

 車輪を作ったのはジプシーです。ジプシーの先天性こそ、車輪にあります。

 星から神話を編み上げたのは羊飼いです。濾過と浸透――すなわちあらゆる文化の先天性こそ、羊飼いが魂に帰納されます。

 羊飼いこそ、ジプシーが祖です。共産主義を発明し、羊どもに植え付け、原初、乳海の外から悪魔の炎を熾したのです。

 大陸を持ち上げているシシなるものどもを見つけたのは、羊飼いだけです。猛毒エーテルの源泉が、不妊の砂漠で焼かれなかった蛇の毒だと知っているのは羊飼いだけです。

 その羊飼いももういません。羊どもはエメラルドをもってして、根の国を成しました。悪魔の炎で犬どもを焼きました。

 鹿はもはや口伝でのみ命脈を保ち、その媒介はもう、長命の竜たちが紡ぐ祝詞しか存在しません。

 サニーに秘術をもたらしたのは、メリュジーヌでした。妖精どもがエメラルドの設計図を奪ったかのように見せかけたのは、メリュジーヌでした。車輪の魂を祝詞から掘り起こしたのは、メリュジーヌでした。

 すべては、サニーに陽臓ステラをつくらせるためでした。陽臓ステラによって、血の濃さに引き裂かれた魂を甦らせるためでした。

 サニーは奪われたエメラルドを探し出すために、不浄大陸にサイマトを敷衍させました。戦争が始まりました。竜どもは飢餓にあえぎました。

 メリュジーヌは責任を感じています。けじめをつけようとしています。

 ですが、陽臓だけは手放せませんでした。陽臓さえ手放せば、戦争は終わるでしょう。竜どもは生きながらえるでしょう。

 メリュジーヌはサウレの下腹部を人差し指でくすぐりました。「ここも、治ってくれればよかったんだけどね」

「……不具で、申し訳ありません」

「おまえを責めてるわけじゃないわよ。持ってっちゃったのは、あの子だから」

 サウレの子宮は魂の器たる鋼鉄こそ孕めど、魂の伝導する肉を身篭ることは二度とありません。領主の血は濃く、それが同じ血をかけあわされたものならば、その濃度において、産み親にさえ勝るでしょう。血を負かし、ひとたび腹を食い破ったならば、畢竟、その血肉の一片に宿るいかずちとほむらの一粒は、より原型の色濃い方に引力されるものです。

 メリュジーヌの娘は、ひとりではありませんでした。フェルマータには、姉がいました。

 エグレ・スプルース・ブルトン。エグレは竜であり、フェルマータの姉であり、母でもありました。

 それが、サニー・ジャーメインが秘奥、エメラルドによって成型された、サウレの魂だったのです。

 サウレの魂には子宮の記述が欠けています。ゆえに、万物の泥である陽臓でも表現することはできないのです。

「お嬢さまは、悪くありません」

「わかってるわ。悪いのは、愚かにも、自分の娘を愛することをやめられなかったあたし――そうでしょ?」

「そんなことは……」

 結晶は時を刻みます。結晶は時を止めます。

 メリュジーヌが求めているのは、記憶でしかありません。

 サウレが求めているのは、フェルマータとメリュジーヌです。

 サウレのなかにエグレの記憶はありません。自分がエグレだったという自覚はありません。エグレが何を想い、何を感じていたのかを知りえません。

 サウレは妖精です。サウレは鳩です。サウレの遺伝子はメリュジーヌの配偶子に具象されていたものではなく、エメラルドの結晶転位に描かれていたものです。竜の血は、ブルトンの血は、エグレの血は、一滴たりとも巡っていません。

 フェルマータはサウレを食事します。サウレの血とししむらをむさぼります。

 メリュジーヌもサウレを食事します。サウレの卵細胞で食いつないでいます。

 ふたりの体温には、サウレの一片がくべられています。

 サウレはフェルマータとメリュジーヌを求めています。サウレはふたりを求めてやみません。それが、エグレのものかどうかは別として。

 メリュジーヌの唇が、サウレのそれに落ちました。サウレは応じました。メリュジーヌの手の平に乳房を押し付けました。伸長し、露出したメリュジーヌの外性器をさすりました。濡れそぼった陰唇に導きました。ひとつになりました。熱い息が漏れました。メリュジーヌの舌が歯列を這いました。

 腰をゆすりながら、接吻の合間に、メリュジーヌが言いました。「あたしが留守にしてる間、あの子、何してた?」

「ずっ、と……っ、お休みして、いた……よう……ッ、です」歯の根が合わなくなりそうなのをこらえます。

「あの子は、口利いてくれた?」

「……い、え……ッ」

「あの子は――」

 メリュジーヌはいつも交わりながら、フェルマータのことをたずねます。フェルマータの話をします。

 メリュジーヌはひと月に一度でさえ、フェルマータと顔を合わせません。今までフェルマータに声をかけた数よりも、今月サウレを抱いた回数のほうがずっと多いでしょう。

 メリュジーヌはフェルマータを避けています。メリュジーヌはフェルマータを恐れています。メリュジーヌは心の底からフェルマータを愛しています。フェルマータに触れたがっています。抱きしめたがっています。抱きしめられたがっています。メリュジーヌには、自分を制御できる自信がありません。

 外性器が子宮を持ち上げます。揺さぶります。頚管粘液を引きずり出します。「おっ、おっ、おやか、た……、さまっ、も……、申し、わけッ、もッ、もうッ、気をやって、しまいそ……っ、で、す……っ」

「だァめ、あたしがいくまで、我慢」

 サウレは喉を晒してシーツを握り締めました。「くっ、くふッ……、ふ、ふーッ、ふーッ、ふー……ッ」瞼の裏で星々がちらついています。瞬きに飲み込まれそうになります。「はぁっ、はあっはっ、はっ、はッ、はッ、はッ、すみませっ、お屋形さッ、も、むりっ……、たえ、られなっ」

 メリュジーヌは下唇を舐めました。「ちゃんと呼んでくれたら、いっていいわよ」メリュジーヌは腰をゆすり続けています。

「そっ、そんな――」

「呼んでくれなきゃ、いつまで経っても許可しないわよ?」

 星々が踊り狂います。幻惑されます。記憶を唱えます。「ゆるし……ッ、ゆるしてえッ、お、母さま――ッ!」

 扉がノックされます。咳払いする音が聞こえます。「あの、お屋形さま、お連れいたしました」メイドのユハです。

 サウレの時間が止まります。メリュジーヌの腰が止まります。「入ってちょうだい」

 ユハは顔をしかめています。ユハの背後には、フェルマータがいます。フェルマータと視線がぶつかります。虹色の虹彩。堰き止めていたものが弾け飛びます。サウレの時間が吹き飛びます。

「――ッ、――ッ、――ッ!」サウレの腰が跳ね上がります。メリュジーヌを締め上げます。底のない穴へ落ちながら。フェルマータに観られながら。最も深いオーガズムに全身を打ちのめされます。

 メリュジーヌが性器を引き抜きました。「ありがとう、もう下がっていいわ、ユハ」

「は、い……」ユハの時間も止まっていました。ユハの声は震えていました。ユハは最初から最後まで、サウレを見つめていました。瞬きひとつせず。

 フェルマータも立ち尽くしていました。サウレの痴態を眺めていました。耕された沃野を眺めていました。

 メリュジーヌは朦朧としているサウレを抱き起しました。後ろから拘束し、フェルマータに見せつけるように脚を開かせました。交尾の臭気が晶気に染みわたります。

「おいで」メリュジーヌは言いました。「――フェルマータ」

 飢えた幼竜はよろめきながらやってきました。サウレの股の間に向かって、まっすぐに。

 フェルマータが顔を寄せました。陰毛の匂いを嗅ぎました。その下の襞に舌を伸ばしました。噛みました。鼻を押し付けました。熟れた鋼鉄のありかを探りました。

 サウレはのたうちました。「んえぁッ!? そんなッ、おじょ、さまっ、あッ、ああッ、あッ」

 メリュジーヌが暴れる肢体を抑え込みます。顎を掴んで振り向かせ、唇を重ねます。口腔をねぶります。フェルマータも無心で舌を動かしはじめます。

「んんんーッ! んーッ、んーッ! んんーッ!」星々が充満します。何度も、何度も、立て続けに追い詰められます。

 湧き出でる鋼鉄が粘膜のなかで擦れあいます。全身の毛穴が開きます。汗と潮を噴きます。鋼鉄とともに吸い出されます。

 フェルマータの牙が鋼鉄だけを砕きます。どんな麻薬よりなお強烈な喪失感が襲います。鋼鉄だけがすり潰されます。腹を食い破られる激痛よりなお鮮烈な恍惚に見舞われます。

 内から外から、多幸感が分泌されます。愛液と唾液がすっかり飲み干されるまでのあいだ、ずっと。

 

 

 

 

 

 

「こうして同じベッドに三人並んで、ゆっくり過ごせる日が来るとは、夢にも思わなかった」メリュジーヌの指が、サウレの腕のなかで眠るフェルマータの髪を梳かしました。「効果はてきめんだったみたいね?」

 サウレは鼻を鳴らしました。「あんなやり方、褒められたものではありません。教育にもよくありませんし――」

「いいえ、やっぱり、効果的だったわ」メリュジーヌは笑いました。「おまえが昔みたいに、あたしに小言を並べてくれるなんて、ね」

 サウレは唇を噛みました。「……わかっていらっしゃったんですか、お嬢さまに、召し上がっていただけると」

「この子がわかってたのよ、本能でね。あたしたちはみんな――同じ血に狂い、同じ種を絶やすもの、だから」メリュジーヌはフェルマータの髪に口づけました。「絶対に妬いてくれると思った。実際、あたしもかなり妬けたから」

 フェルマータは鋼鉄を求めています。鋼鉄に宿る雷火の一粒を欲しています。その魂の残り香は、エグレのものかもしれません。サウレのものかもしれません。誰のものでもないかもしれません。

 フェルマータに記憶はありません。過去はありません。フェルマータが初めて咀嚼したのはエグレの子宮でした。自らの工程を己が極に巻き込み砕きながら、晶気の下へ這い出てきたのです。根源こそ最初にくべられていたのです。

 メリュジーヌは記憶を求めています。ありもしなかった記憶を欲しています。存在しえなかった過去をつくりなおそうとしています。血族すべての存在しうる未来を潰してでも。

 サウレは――

「……わたしは――」

「おまえは、あたしの娘よ。誰にも渡さないし、どこにも行かせはしない」メリュジーヌはサウレの手を握り締めました。メリュジーヌの声は震えていました。「ばかなことはやめてちょうだい、後生だから」

 サウレは笑いました。メリュジーヌの頭を胸に抱き寄せました。撫でました。なだめるように。サウレはささやきます。「心配なさらないでください。わたしはどこにも行きません。お二人とも、ずっとお側で、わたしがお守りしますから」

 メリュジーヌは笑いました。「まるであたしの母親ね」

 サウレにはもう、耐えられる自信がありませんでした。満たされていたのは、サウレだけでしたから。

 

 

 


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