回帰推論*4
ぼんやりしていた。気づいたときには、もう遅かった。
「――母さんってどんなセックスするの?」
どうしてそんなこと訊いちゃったんだろう? んーん、理由はわかってる――ぴかりがあんなこと言ったからだ。あれさえなければ、あたしは絶対にこんなばかな真似しなかったはず。でもまさか、ほんとに声に出しちゃうなんて。
「どどどっどどうしてそんなこここと訊くの……?」
ぐつぐつカレーを煮込んでいた母さんが尋常じゃないどもり方をするので、あたしは慌ててとりつくろった。
「いッ、いや、ほら、だって、ほら、気になるじゃん? 自分がどんなプレイで生まれたのか、なんて――」
あほか。なにを口走ってるのあたし。自分で言ってて意味不明だった。墓穴のなかに墓穴を掘ってく感じ。
「しょッ、しょーこ、おかーさんのこと、そんな目で見てたの……? もッ、もしかして、毎晩毎晩母さんのことを思いながら、おっ、おなにーとか、してるの……?」
母さんの小学生みたいな幼い顔がさーっと青ざめる。わが子が恐ろしくてたまんないというまなざし。あたしは母さんの脳の構造が恐ろしくてたまんなかった。
「ちーがーうって! 母さんのことは好きだけど、ほんと、そんなんじゃないって! 母さんはさ、ほら、あたしを産んでくれたんだから、いうなれば神様みたいなもんだよ? まさしく神まんこだよ神まんこ。いやらしい目で見るわけないって」
「えェ♥ やだ、もう、しょーこったら♥ おとーさんにもそんなこと言われたことないのに♥」
急にくねくねしはじめた母さんを見て、ため息をつくあたし。
あーも、めんどくさ――あたしはうっとうしさといらだちを晴らしたくて、ダイニングを出て玄関に。サンダルを履いてると、トンでた母さんが顔を覗かせた。
「しょーこ? もうすぐお夕飯できるんだけど――」
「ぴかりんとこ。できたら電話して」
うちを出て三秒。隣の山本家のチャイムを鳴らす。五秒で飛び出てきたのは、高校を卒業して半年経つというのに未だに黒髪を貫きとおす巨乳の女子大生――あたしよりよっつ上の、いとこのぴかり。
「しょーこちゃん♥ また来てくれたんだ♥ 入って入って♥」
つい三○分前まで全裸で抱きあってたのに、まるで一○○年ぶりの再会みたいなとろけた表情。黒目がちな瞳のなかにはハートまで見える。
用も聞かずに手を取って、あたしを二階の部屋に連れ込むぴかり。あたしはキッチンの様子をうかがう間もなかった。
ぴかりはあたしを部屋に入れると、にこにこしながら後ろ手にドアを閉めがちゃりと鍵をかけた。最近ではその重い錠の音を耳にするだけでも、内腿がじんわり汗をかく。
「どうしたの? 忘れもの? それともお……ひかりのことが恋しくなっちゃった?♥」
「まァ、そんなとこ」
大嘘だ。生まれてから一五年間で一度もそんなこと思ったことはない。
あたしがベッドに身を投げ出すと、ぴかりは犬みたいにすり寄ってきた。今すぐやりたいやりまくりたいって発情顔で。
ぴかりはかわいい。腹立つくらい、美人だ。いかにもな清純系で、肌はろうそくみたいにまっしろ、母親の法子さんに似ておっぱいもおっきいし、服のセンスもいい。愛嬌があるし、なによりばかだから、めちゃくちゃモテる。
でも変態だ。ドがつくほど変態だ。しかもロリコンで、男には完全に興味がない。さらに言うなら近親相姦が大好物で、とどめを刺すなら、性犯罪者。まさしく悪魔。
あたしの処女を奪ったのは、ぴかりだった。白くて長くてきれいな左の中指に、やられた。中学の入学式のちょっと前、山本家に初めて制服を見せに来たとき、ぴかりはあたしの制服姿に自分の性欲を抑えきれなかったのだ。
女同士でセックスできるなんてあたしは知らなかったし、想像もしていなかったから、押し倒されて、ぱんつをずりおろされ、あっちこっち舐められまくって、わけわかんなくなったまま、指を突っ込まれて、犯されまくった。もう二年前も昔の話だ。
ぴかりはあたしから見てものーたりんな子で、国立を落ちて滑り止めで受けてたしょーもない私立に通ってるおばかちゃんだったけど、なぜかセックスだけは無駄にうまい。それまでオナニーもウリの言葉の意味も知らなかった純粋な女の子を、一晩で一○回はイカせたのだ。っていうか一○回より先は覚えてないだけなんだけど――すくなくとも、市内規模で一番レズセックスがうまいと思う。誇っていいかどうかは、べつとして。
ただ、一○回イカせようと一○億万回イカせようと犯罪は犯罪だ。あたしはぴかりを脅してやった。二回目からは、おこづかいをくれるようになった。おっぱい見せたら五○○円、ぱんつを下ろせば一○○○円、おしっこ飲ませたら三○○○円、舐め舐めさせたら五○○○円、てな感じで。
当時高二のぴかりは中学校にあがりたての子にゆすられて、あっという間に財布をすっからかんにした。ぴかりは、ばらされたくないのと、あたしとやりたいがために、ろくに勉強もせずにバイトばかりするようになった。ますますばかになった。あたしは演繹法の意味を学んだ。ぴかりよりも先に。
ぴかりのことはきらいじゃない。倫理観がまったく存在しないことをのぞけば、かわいいし、あったかくてやわらかいし、いい匂いがするし、おばかだし、ひと懐っこい犬みたいだし、意外と一途だし、かわいいとか好きとか愛してるとかちゃんと言ってくれるし、処女っぽいナリして超変態で淫乱レズなとこも、あたしのおまんこを舐めたいがためにせっせと働いてお金を稼いでくるとことかも、今一瞬だけを必死に生きてるって感じがして、ぶっちゃけなんか気に入ってる。そんだけ思われて、まァ、悪い気はしないし。
ぴかりのセックスだって、優しくてきもちよくって、思いっきり甘えさせてくれて、お姫さまみたいに扱われて、ちやほやされるから、わりと好きだ。マンネリにならないようにいろいろ工夫してくれるし、それなりに楽しくて、まァ、ハマったといえばハマった。やると絶対わけわかんなくなって腰砕けになるぐらいイカされまくるから、からだの相性もいいんだと思う。
だから今もこうしてやらせてあげてる。女同士だから妊娠の心配はないしね。でもあたしはほんとのとこ、ぴかりとやりたくてやってるわけでもなければ、お金もそんなにいらない。あたしがほしいものは、ほかにある――。
「ねえねえしょーこちゃん♥ 知ってる? きょうだいって、えっちも似てるんだって」
あたしが母さんにばかな質問をする半時間前。ぴかりはあたしのおっぱいに吸い付き、自慢の中指であたしのGスポットをぐりぐりしながら、そんなことを言った。
「いとこだと、どれぐらい似てるのかなあ♥」
あたしはぴかり以外としたことはない。あたしのからだにセックスを教えこんだのはぴかりなんだから、まったくおなじセックスをするに決まってる。
正直どうでもいい――いつもなら頭のなかではそう思うはずだった。ぴかりがくちにすることは、ぴかりが学校で小耳にはさんできた、ほんとかどうかもわかんないウワサばっかりだから、話半分でちょうどいい。
でもそのときは違った。胸がきゅっと締め付けられる気がした。おへその下がずきずきした。あそこから愛液がどばっとでた。よくなったときの声が出た。法子さん譲りのぴかりの長いまつげを見た。
「ぅんっ、ぅくっ、……おやこ、だと、……どう、なの……っ」
「えェ、どうなんだろ♥ きょうだいより、似てるのかな♥」
追い打ちをかけられた。ぴかりは嬉しそうだった。あたしのぞくぞくは止まんなかった。ふと何気なく思っただけなのに、その考えはどんどん膨らんでって、あたしはかなり感じていた。遠回しだけど、思考を誘導されたみたいで、見透かされてるような気もして、それもまた、たまんなくぞくぞくした。
一回イッとこ――あたしは目をつむり、自分のあそこの感覚に集中した。想像は際限なく加速していった。ぴかりが耳元でささやいた。ぞくぞくが白くはじけた。
「えへへ♥ しょーこちゃんのなか、すっごくきゅんきゅんしてきたよお♥ もうイキそ?♥ もうイキたい?♥ ひかりの指で、もうイッちゃう?♥」
「んっ、んっ、んっ、いくっ、いくっ、からっ、んっ、ちゅーしてっ、ちゅー――んぐうっ」
顎を上げた。熱くてふわふわの唇が押し付けられた。舌を吸い出された。絡められた。リップの匂いがした。
「んっ、んふっ、ぅっく、ぅううん――っ! んーッ! ――ッ!」
くっと背中を反らせて、ぴかりの指をどろどろにしながら締め上げた。かなり深めにイッて、おしりの下に敷いていたタオルをびちゃびちゃにした。それから五分ほど放心して、あたしは一度家に帰った。母さんにばかな質問をした。
――で、今に至る。ベッドの上のタオルは、片付けられていた。
「どうしたの? またしたくなっちゃった?♥」
「んーん。もうすぐカレーできるみたいだし、いい」
「そっかあ……」
しょんぼりとぴかりが肩を落とす。かと思いきや、ぱっと顔を輝かせて、机のひきだしからちっちゃくてどぎついピンク色の小瓶を持ってきた。
「あのね、あのね、実は、ネットで買った、びやく、っていうのかな? えっちがすっごくきもちよくなる薬がね、一昨日届いたの。ごはんのあと、これ使ってえっちしてみない? ばーじんでもケダモノになっちゃうんだって♥」
「え、こわ……あぶないやつじゃないの?」
「ううん、だいじょうぶだよお。ちゃんと、ひかりで試してみたから。高かった分、もう、ほんとにほんとに、すっごいんだよお♥」
「んじゃ、なんでさっき使わなかったの?」
「効き目がすごくて、半日ぐらいキマっちゃうんだあ♥ だから週末までとっといたの。ね、ね、今日はお泊りしよ♥ 朝までえっちしまくろ♥♥」
「はあ……」
自分の欲望に対して素直すぎるというかなんというか。毎度のことすぎて、あたしは言葉を失った。あたしはぴかりに対して、もっとああしてほしいこうしてほしいという要望はない。ぴかりはいつだってやりすぎるぐらいだから。
ぴかりの手から小瓶を取り上げ、ラベルを読んだ。たぶん英語ってことだけわかる。解読不能。意味不明。
「これ、どうやって使うの?」
「んっとねえ、この蓋のスポイトで、一滴だけ舌に垂らすの」
「ふゥん……」
蓋を開けて、少し匂いを嗅ぐ。無臭。ばーじんでもケダモノ、ねェ。にわかには信じられない。じゃァ、ケダモノに使ったら、どうなるんだろ?
「味はするの?」
「ちょっとだけ甘かったかなあ? 苦くはなかったから、ぜったい危なくないよお」
山に入って毒キノコとか食べて悶え苦しんで死ぬのはきっとこういう子なんだろうなあと思いながら、あたしは蓋を閉めた。
「あ、そーだ。あたしからも、ぴかりのために用意したものがあるんだ」
「えッ!? なになに!?」
「目閉じて、くち開けて?」
「えェ、なにかなあ♥ おいしいもの?」
ぴかりは何の疑問も抱くことなく素直に、あたしを数えきれないぐらいイカせた長くて赤い舌をべーっと突き出した。あたしはそこに、スポイトで吸った薬液を一滴落とした。つもりだったけど、ちから加減を間違って二、三滴ぼたぼたっと落ちた。もっと落としたかも。ぴかりは大きな目をまんまるにしてくちを閉じた。もう遅いよ、おばかちゃん。
「えッ!? あ♥ あっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ♥ うそっ♥ これ♥」
効果はてきめんだった。みるみるうちにぴかりの頬は真っ赤に染まり、目じりがとろんと垂れ下がり、焦点があやしくなった。発情期の犬みたいに舌を突き出して、息を荒げて、触れてもないのに、ぴかりはイキそうになっていた。ケダモノはケダモノになった。
「すげえ……」
あたしは素でそう言っていた。ぴかりがブラウスのボタンを外しながら迫ってきた。
「はっ♥ はっ♥ あっつ♥ はっ♥ しょーこちゃん♥ あ♥ やば♥ やばい♥ あ♥ しよ♥ ね♥ しよ♥ しよしよ♥ えっちしよ♥♥」
あたしはひらりとかわして、鳴ってもないケータイを取り出した。
「あ、電話だ。カレーできたっぽい。じゃ、またねー、ぴかり」
小瓶をポケットに忍ばせ、逃げるようにして部屋をあとにした。
階段を降りながら、あたしは珍しくぴかりに感謝していた。いいものを手に入れた。これは結構使えるかもしんない――。
「ひかりー、ごはんできたわよー」
階段を降りる足音を聞いてか、キッチンからぴかりを呼ぶ声が。あたしはキッチンに顔を覗かせた。空きっ腹にきゅんきゅんくる匂い。肉じゃがだ。
「わー、おいしそう!」
「あら? ひかりかと思ったら、鉦子ちゃんだったのね」
肉じゃがをお皿に盛り付けていたあたしの叔母――法子さんが整った顔をほころばせた。あたしの頬も自然と緩む。
「お邪魔してまーす。もう帰るけど」
「そうなの。残念ね。食べていけばいいのに」
「んーん。あたしも、そうしたいけど、もうすぐカレーできるっぽいから。食べないと母さん泣くし」
法子さんの料理は、めちゃくちゃうまい。カレーしかおいしくつくれない母さんとは大違いだ。
料理だけじゃなかった。法子さんと母さんは姉妹であることを疑ってしまうぐらい、全然似ていない。芸能人みたいにきれいな目鼻立ちに、めりはりのついたからだ――背はすらっと高い。くわえて、清楚でしっかりしていて雰囲気も落ち着いていて頼りがいがあるし、すごく育ちもよさそうで――まさに理想のおとなそのものって感じ。顔つきもからだつきも頭んなかも小学生並みの母さんとは、えらい差だった。
正直このひとからあのふしだらと堕落の権化、悪魔みたいなぴかりが生まれてきたのさえ、疑わしい。きっと、ぴかりは倫理感を法子さんの子宮に置いてきちゃったんだ。あたしにとって母さんが神まんこなら、さしずめ法子さんは悪魔んこかな、なーんて。悪い冗談。
「よかったら、詰めたげましょうか?」
「えッ!? いいの!?」
「うちのひとからさっき電話がかかってきて、会社のひとと飲みに行くことになったから、朝帰りらしいのよ。もっとはやく教えてくれたらいいのにね? ――あ、でも、肉じゃがとカレーじゃ、いろいろとかぶりすぎちゃってるから、もらっても困るかしら」
「そんなことない! 持って帰る持って帰る!」
あたしのはしゃぎっぷりを見て、ただの肉じゃがよ? と法子さんが口元に手を当てて笑った。なんだか安心する、あたしの好きな、法子さんの笑い方。心臓が、とくとくする。
これは、チャンスかも。
母さんと法子さんは仲がいい。しょっちゅうふたりででかけてるみたいだし、家族ぐるみでも頻繁に遊びに行ったりする。家もお隣さんだ。
法子さんには赤ん坊の頃からお世話になってて、よくおしめも替えてもらってたらしい。そういえば、お箸の持ち方とか、電車の乗り方とかを教えてくれたのだって、法子さんだった気がする。昔っからぴかりの部屋に入り浸ってほとんど毎日顔を合わせてるから、もはや親戚っていうよりも、家族っぽい。
んーん、家族というよりも、法子さんはあたしにとって、ふたりめの母親みたいなものだった。むしろ母さんよりも頼って、慕ってたぐらい。法子さんには、その日あったことはなんでも話した。学校であったこととか、友達のこととか、なにして遊んだとか、しょーもないこともぜんぶ。法子さんは、そのぜんぶをちゃんと聞いてくれた。笑ってくれて、怒ってくれて、悲しんでくれた。ぴかりのとこに遊びに行ってたのも、実際のとこ――法子さんに会いたかったからだ。二年前までは。
皮肉だなあ、と思う。それまで純粋に、家族として、大好きだったのに。それ以上でも、それ以下でもなかったのに。
はっきりといつから、とはわかんないけど、少なくとも、セックスを覚えてから、あたしのきもちはじわじわ、濃く強く深くなっていた。妙に意識するようになっていた。その感情と衝動の意味も、そのうち悟った。
あたしは、法子さんと、やりたいんだ。やりたくてやりたくて、しかたないんだ。たとえ関係が壊れてしまっても。触りたい。触られたい。髪に手に肌に唇におっぱいに。きれいなあのひとをよごしてみたい。よごされてみたい。ひとりじめしたい。されてみたい。ぐちゃぐちゃにしたい。されたい。
今あるのは、そういう想い――そういう願い。
ぴかりと寝るのも、ぴかりが法子さんに似てるだけにすぎない。親子なんだから、半分は法子さんなんだと自分に言い聞かせて、ぴかりの指を、匂いを、体温を、法子さんのそれに投影してるだけ。半分だけのセックス。にせもののセックスだ。
ゆがんでる。ゆがめられた。悪魔ぴかりに。
でも恨んでない。こんなに強く強く強く、四六時中だって、あのひとのことを想えることは、たぶん悪いことじゃない気がするし。
――ぴかりはたぶん、そんなあたしのきもちを察している。ぴかりはおばかだけど、わりかし目ざとく、気がまわる。ぴかりはあたしのからだを求めてやまない。ぴかりはあたしのことが好きで、大好きで、あたしを世界で一番愛している。でも、付き合ってほしいとか、愛してほしいとか、そういうことは一度だって言わなかった。
ぴかりはあたしのからだだけが目的なの? あたしと寝たいだけなの?
んーん、そんなことはない。ぴかりは本気だ。ぴかりは、あたしの姉さんみたいなもの。一五年も一緒にいる。ぴかりのきもちぐらい、わかる。ぴかりが、あたしのきもちをわかってるように。
だから、ぴかりはあたしのこころまで求められない。ぴかりはあたしのからだだけで満足しようとしている。絶対に振り向かないって、知ってるから。絶対にかなわないって、知ってるから。一番欲しいのは、あたしのこころのくせに。
一度ぐらい、試してみたらいいのに、と思う。あたしに、真正面からきもちをぶつけてみたらいいのに、と思う。あたしがなんてこたえるのか――あたしも気になるし。
ぴかりは、そのぐらいには、ビビリで、意気地がないのに、どうしてだかあたしをあきらめたりしない。あたしのために、ぴかりは髪も染めなければ、法子さんと同じリップをして、キスしてくれる。あたしがぴかりを法子さんとダブらせられるように。にせもののセックスに、没頭できるように。法子さんを演じてくれる。
ほとほと報われない子だ。悲恋だな、って、ときどきかわいそうになる。
でも――あたしだって、まだあきらめたくないんだ。そういうとこ、血筋なのかも。
カレーが満たされたお鍋は、ふたつに増殖していた。テレビゲームのバグみたいに。
「おかーさん、カレー作りすぎちゃった……」
うーん、さすがあたしの母さんだ。
「なかなかいい感じにとろとろにできなくてえ、お水とルーを入れて調整してたんだけど……」
なかなか電話がかかってこないからおかしいなあとちょっぴり気にかかってたけど、まさかこんな出来事になってたとはね。
「母さん、いい加減学習しよう?」
「だってえ、しょーこ、この前さらさらなのは好きじゃないって――」
「限度があるでしょ……」
あたしはしょっちゅう、母さんは実はぴかりの母さんなんじゃないかと思うことがある。見た目は全然だけど、中身のほうはかなーり共通点がある。ぴかりは母さんの姪なんだし、何パーかはおなじ血が入ってるから、そういう遺伝子があるのかもだけど。
そんなわけで、カレーと肉じゃがを食べシャワーを浴びて、一番かわいい下着を履き、爪にきっちりやすりをかけたあと、あたしはお鍋を持って、みたび山本家の前に立っていた。もともとなにか理由を見つけて戻ってくるつもりだったから、カレーはたいへん都合がよかった。
もう十月だから、シャツ一枚だと少し肌寒い――チャイムを鳴らすと、出迎えてくれたのは、パジャマを着たお風呂上りっぽい法子さんだった。髪がまだちょっと濡れてて、やたら色っぽい。
法子さんは、あたしが持ってるお鍋に気づくと、にやにやした。
「あら? ……もしかしなくとも、カレーね?」
「あたり。さっきのお返し」
「でも、かなり多いわね」
「母さんが作りすぎちゃったから。とろとろにしたかったんだって」
「とろとろになったのかしら?」
「途中でルーがなくなったから、さらさらだよ」
「うーん、さすがわたしのお姉ちゃんね」
法子さんは口元に手を当てて笑うと、あたしから鍋を受け取って、このままじゃ釣り合わないからお返しのお返しにココアでもつくったげましょうか、とあたしを居間に通した。ぴかりも法子さんも叔父さんも、普段ココアなんて飲まないけど、あたしが好きだから、法子さんが買い置きしておいてくれてるんだ。
キッチンで牛乳を温めながら、法子さんがソファでくつろいでいたあたしにたずねた。
「鉦子ちゃん、ひかりの様子、おかしくなかったかしら?」
「なんで?」
「急に食欲がなくなったとか言って、ごはんも食べずに部屋から出てこなくなっちゃったの。おかげで、ひとりで寂しく食べたのよ?」
「……夕方はふつーだったけど」
ごめん、法子さん、あたしのせい。今頃めちゃくちゃオナってるんだろなあ、ぴかり。お風呂から出たら、ケータイにすっごい数の履歴入ってたし。今行ったら本気で朝までやられそう。
法子さんが両手にカップを持って、あたしの隣に座った。
「はい、どうぞ」
「ありがとー。あ、肉じゃが、すっごいおいしかった。ごちそうさま」
「おそまつさまでした。ひかりが残した分もあるわよ?」
「……法子さん、あたしを豚にする気なの?」
「お姉ちゃんのこどもなら、どれだけ食べても太らないはずだわ」
「それってもう成長しなくなるってこと?」
「かもね」
「えェー! うれしくないッ!」
法子さんは口元に手を当てて笑った。あたしはコーヒーテーブルの上にカップを置いた。
「でも、法子さんも全然痩せてるじゃん」
「今はね。わたしがひかりぐらいのときは、もっとふっくらしてたわよ」
「……ほんと? 写真とか、残ってないの?」
「あるにはあるけど、見てもおもしろくないわよ」
どうしても見たいとせっつくと、法子さんが、高校のときのアルバムがあったはずだから、と席を外した。
うまくいった――あたしは小瓶の薬液を、ココアに一滴落としてかきまぜた。やってしまってから、唐突にそわそわする。不安が押し寄せる。あれ、法子さん、今日生理じゃないよね? トイレで確認しておけばよかった。汗が出る。妄想と欲望が、現実に近づいてくるのがわかる。
法子さんが戻ってくる。深呼吸して、自分を落ち着ける。ふたりでアルバムを広げる。
「これ、法子さん!? うわァ、わかッ!」
高校の卒業式の写真らしかった。ブレザーを着て、卒業証書が入った筒を持った法子さんはとんでもなくきれいでかわいいんだけど……ぴかりにそっくりで、ちょっぴり複雑。
そして法子さんの隣には、あたしに瓜二つな、小学生高学年みたいな容姿の女の子。もちろん、この時代にあたしはこの世にいないから――。
「母さん、全ッ然変わってない……」
「そうかしら? 今もかわいいけど、このときのほうが、ずっとかわいいわよ」
法子さんが懐かしそうに目を細める。このひとも、結構シスコン入ってるからなァ、と苦笑いしていると。
法子さんがココアに手を伸ばした。あたしはからだをこわばらせた。
そのあとも、なにか話した気がする。昔のことを。でも内容は、あんまし思い出せない。法子さんがココアをくちに運ぶことにしか、注意できなかった。
媚薬が人体にどんな効果をもたらすのか、事前にぴかりでビフォーアフターを確認しておいたのはよかったかも、とあたしは自分で自分を褒めてやりたかった。法子さんにどれぐらい薬が効いてるのか、あたしには手に取るようにわかったから。
法子さんの色白の首筋が、じわじわピンク色に染まってく。おしっこを我慢してるみたいにもじもじ太ももを擦りあわせ、呼吸がこころなしか浅く速いものに。少し汗が滲みはじめたみたいで、口数も減った。
色っぽいなんてもんじゃない。エロすぎる。しかも、あの媚薬が法子さんのなかで暴れまわってるんだ考えると、こっちがむらむらしすぎてどうにかなりそうだった。
緊張か興奮か、あんまり脳みそが働かなくなっていた。もう、やることしか頭になかった。このあとのことを想像しただけでぱんつがじんわり湿った。そのくせ喉はカラカラで、あたしはぬるくなったココアを飲み干した。
「なんだか、暑いわね……アイスにすべきだったかしら」
「……だねェ、もう一○月なんだけど」
あたしはぴかりのおさがりのシャツを胸元でぱたぱたさせた。ブラをつけてないので、ばっちり見えてるはず。実際視線を感じて、肌が火照る。法子さんは耳まで真っ赤。
「法子さん、なんか顔赤いけど、熱でもあるの?」
「えッ!? あ――ええ、だいじょうぶ……」
ぼんやりして、なんだか受け答えも気のない感じ。かなり効いてきてるみたいだった。あたしは身を乗り出した。思い切って法子さんの前髪をかきあげたところへ、あたしのおでこをくっつけた。ぴかりとおなじシャンプーの匂いがする――肺が甘くなる。内臓が溶けた。
「――ッ!? しょ、鉦子、ちゃん……?」
「……んー、わかんないね」
しっとりして、熱い。額から額へ伝わる体温で、脳がぐつぐつ茹であがりそう。鼻がぶつかる。ちょっと首を動かせば、唇が触れあう距離。心臓がばっくんばっくん爆発してる。法子さんが身を引こうとする。あたしはおでこをくっつけたまま、もたれかかった。法子さんが体勢を崩し、あたしが法子さんを押し倒すかたちになる。
法子さんの上にのっかかったまま、無言で見つめあった。法子さんの瞳は潤んで、きらきらしていた。あたしの下の成熟しきったおとなのからだは、あたしが知っているどんなものより熱くて、柔らかくて、とてつもない引力をもっていた。
一瞬、ぴかりとダブる。いつもみたいに甘えたくなるきもちが押し寄せる。おなかの奥がずきずきうずく。痛いぐらいに。あー……、もうだめ。あたしは顔を寄せた。
法子さんは避けなかった。止めもしなかった。
はじめはためらいがちに触れ、拒まれないとわかると、かるくついばむ。唇が溶けて、そのままくっつくかと思った。いつものリップの匂い――でも、ぴかりのよりも、ずっとふわふわであつあつだった。なんなのこれ。なんでこんなに、やらかいの?
唇に吸い取られたみたいに、全身から急激にちからが抜けてく。法子さんに体重をかけてしまう。法子さんのおとなの身体は四三キロを優しく受け止める。唇の間から、生温かい息が漏れる。どちらのものかはわからない。たぶんどっちも。
法子さんの下唇を食む。舌を挿し込む。溶岩みたいにどろどろで、やけどしそう。舌を探る。焦ったせいで、前歯がかちんとぶつかる。舌が触れあう。ココアの味がする。
息苦しくなって、くちを離した。くらくらする。普段の姿からはとうてい想像できない、見るからにぽわぽわ欲情した表情で、法子さんがたずねた。
「鉦子、ちゃ、どうし、て――」
「好き」
「え……」
「好きなの」
「なに、を、いって」
「法子さんのことが、好きなの」
「好きって、そんな――だ、め……ッ! んんっ!」
もう引き返せなかった。引き返すつもりもなかった。勢いで想いを告げてしまったそのくちで、かたちばかりの拒絶をつむぐくちをふさいだ。
「……ひゃめ、んっ……やめ、んっ……ぁ……だ……ん……、め」
「すき……ひゅきっ……、んちゅっ……す……き……ちゅ」
キスの合間、法子さんがだめと言うたび、あたしは塗りつぶすように好きと言った。あたしも法子さんも、ほかの言葉をどこかに置き忘れてしまったみたいに、ただそれだけを繰り返す。繰り返すにつれ、法子さんの瞳がとろけてく。あたしのきもちは張り裂けそうになる。でも、法子さんのほうがはやかった。あたしが爆発する前に、瞳は引き返せないところまで堕ちていた。あと一押し。耳元でささやいた。
「……法子さん、ベッド、いこ」
法子さんは吐息を漏らしてぶるるっと身震い。ちょっとした沈黙。法子さんの首はかすかに、縦に振れたように見えた。
法子さんと叔父さんの寝室に入ったのは久しぶりだった。たしか、ずっと前にぴかりとかくれんぼしたとき以来。よく、このダブルベッドの下に隠れてた。ふと、このベッドの上で、ぴかりがつくられたんだ、と思った矢先、腰に手をまわされて、抱き寄せられた。
法子さんのほうから、キスされた。今までで一番熱烈に。唇をむさぼられ、上顎のくすぐったいところとか、舌の裏側とかをねっとりとねぶられる。くぐもった声が出まくる。歯は当たらなかった。不意打ちだった。え、ちょっとなにこれうますぎる――あっという間に足腰が立たなくなる。
脱力しきったあたしを抱き留めて、法子さんが艶っぽい笑みを浮かべた。
「ちゃんと立たないと、ベッドまで行けないわよ」
「ぅ、うん……」
手を引かれて、ベッドのふちに座らされる。何度も軽くくちづけながら、法子さんがパジャマのボタンをぷちぷち外しはじめた。なめらかな白い肌が露わになればなるほど、あたしの心臓の音がうるさくなる。あたしの視界を、おっきくておいしそうな肉まんふたつが埋め尽くす。かたちは誰かさんのにそっくりで、見慣れたものだけど、ボリュームはひとまわりは違った。
思わず伸ばしかけた手をとられ、ベッドに押し倒される。頭の上で手を押さえつけられる。法子さんは下も脱ぎすて、一糸まとわぬ姿になる。ほれぼれするような肉感的なくびれ。あそこがむずむずする。
法子さんはあたしの隣に寝そべると、再び濃厚なキスであたしの理性をぐちゃぐちゃにしつつ、シャツの下に手を忍ばせてきた。
「んひぅッ……、ぅんッ、んむぅっ、ぃ……っ、んふぅ……っ!」
脇腹をひっかかれ、あばらの間をくすぐられ、腋の下をつつかれ、背筋と肩甲骨をなぞられ、居間での威勢はどこにいったのやら、あたしはただ法子さんの指先の動きにびくびく反応するだけしかできず、全身で感じながらも戸惑うばかり。うそ、やば、もう、スイッチ入る――あたしは、いろいろと手遅れになったことを悟った。どうして、どうしてこんなに――。
「ぷあっ、はっ、あっ、のり……こ、さ……ぴゃッ、はぁンッ!」
額、両瞼、鼻、頬、耳の下、鎖骨、肩と順番に唇がはいずりまわる。ぞくぞくとふわふわが交互に脳を満たして、押し倒されてから三分ぐらいしか経ってないはずなのに、あたしはがんがんにトリップしてしまっていた。あたしが法子さんを好きだったからとか、そういう問題じゃなかった。どうしてこんなに――法子さんは、あたしの弱点を知ってるんだろ?
寝室に移動してからの法子さんの雰囲気は、一変していた。居間ではあたしに流されるがままの受け身だったはずなのに、今やあたしのよくなるところをはじめから知ってたみたいに的確に、そしてあたしもぴかりも知らなかった、よりぞわぞわする新たな性感帯を掘り当てては目覚めさせてく、ぴかりが乗り移ったと言われてもうのみにしちゃいそうな攻めっぷりだった。
んーん、ぴかりどころじゃない。それ以上だ。ぴかりはただあたしを欲して、襲って、きもちいいのを与えてくれるだけ。法子さんのは、なんていうか、こっちに有無を言わせない感じ――悪い子をおしおきして、こてんぱんに打ち負かして、服従させる感じ。ぴかりと似てるけど、根本的なとこで違う、あたしの理性を剥ぎおとして完全に書き換えちゃうようなやり方。親子でセックスが似てるってのは、三○パーぐらい、正解だった。でも、レベルが違いすぎた。
その支配的なセックスは、どうやらあたしにはぴったりだったみたいで、下半身にはこれっぽっちも触れてないのに、もういつでもイケるってぐらい、とろっとろにほぐれていた。でも、きっと、そんなあたしの状態すら――法子さんは見透かしてたんだ。法子さんは突然身を起こし、絶頂の期待に打ち震えるあたしのからだから、指を離した。
「……すっかり汗だくね。脱がせたげる」
汗で皮膚に張り付いていたシャツを引きはがされ、ショートパンツも、ぐっしょり濡れたぱんつごと下ろされる。完全にイクときの体勢だったあたしは、ぐったりされるがまま。
あたしのじゅくじゅくに出来上がったそこを見て、法子さんがほほ笑んだ。
「あら、まだ、生えてないのね。つるつるでかわい」
恥ずかしさと、褒めてもらえた嬉しさで、かっと耳が熱くなる。まさか、法子さんの娘に脱毛されてるんだけど、とは、くちが裂けても言えなかった。
下腹部に、じんわりあったかい手のひらが添えられる。内腿と、あそこのすぐ上の間を、触れるか触れないかの絶妙なタッチで、法子さんの指が往復しはじめた。一瞬冷めかかっていた性欲が、再び燃え上がった。内臓全部が、かゆくてかゆくてたまんなくなる。
あたしはもっと激しくしてほしくて、クリトリスを法子さんの指にこすりつけようとくねくねお尻をゆすったけど、法子さんはぱっと手を離し、絶対に、あたしが自分から刺激を得ることを認めなかった。そのくせ、熱が鎮まりかけるとまたゆっくりゆっくり頂きに押し上げ、あたしの感度をより濃く練り込んでいく。
あそこが切なくて泣いてるみたいにとめどなく愛液をこぼし、シーツにしみをつくって、お尻を冷やした。
「はっ♥ はっ♥ はっ♥ あ♥ はぁあっ♥ はああ♥ ふーっ♥ ふーっ♥ ふーっ♥」
間違いなく今までで一番きもちいいセックスなはずなのに、どうあってもイカせてくれない。目の前に、きっと人生最高の絶頂をぶらさげられたまま、おあずけを食らって、絶頂管理されて。こころが折れない、わけがなかった。
「これで一○回、イキかけたわね。どう、鉦子ちゃん? きもちいい?」
「きっ、きもちいぃ、きもちいいからあ……いかへっ、いかへてよお……ッ!」
舌がもつれて、自分でもなに言ってんのか――法子さんはそんなあたしの髪を梳き、耳たぶをかじってささやいた。
「鉦子ちゃんのことは、実の娘のように接してきたのに――こんなにえっちではしたない子になっちゃったなんて、がっかりね」
「ぁ――」
背筋をぞくぞくが走り抜ける。頭のなかで、光がばちばち弾けた。
「――鉦子ちゃん。ひかりと、してるんでしょ」
「……ッ!? のりこ、さ……ん、どうして、知って――」
「かわいい娘たちのことだもの。なんでも知ってるわよ? ねェ、鉦子ちゃん、ひかりのことが好きなの?」
「……べ、べつに……ぴっ、ぴかりが、あたしを好きなだけ……ッ」
「鉦子ちゃんは、ひかりを好きじゃないの?」
「きっ、きらい、じゃ、ない……」
「きらいじゃないだけで、えっちできちゃうのね?」
「ッ、ち、が、ちょ、ちょっとは、好き、だけど……」
「なら、ひかりに悪いとは思わないの? ひかりとえっちしておいて、その気にさせてるくせに――その母親を襲うなんて。ほんとに淫乱な子なのね、鉦子ちゃん」
母親みたいに慕ってて、ずっとずっと好きだったひとに、耳元であたしの本性を突き付けられ、失望され、さげすまされて、なじられるたびに、頭が白く白く染まってく。自分がとてつもなくみだらで、地球上で一番最低の存在になった気分で――。
「はああぁああぁぁ……♥♥♥」
同時に、ひどい安堵。なんて心地よさ。喜ばしくさえあった。自分がどういう人間なのか、教えてくれたのが、認めてくれたのが、このひとでほんとうによかった――。
「いんらん、だから……いんらんッ、だからあッ! イカせてえッ! イカせてッ、イカせてッ、イカせてえッ! イキたいイキたいイキたいのおッ!」
欲望を吐き出すとともに、あたしのこころを守っていた大事ななにかが、一気に吹き飛んでく感じ。まだイッてないのに、イッたあとのようなあったかいけだるさが、頭のてっぺんから足のつま先までを満たしていた。こころがどうしようもなく、きもちよくて、たまんなかった。
「悪い子――でも、正直に告白して、きちんとおねだりできたんだから、ごほうびセックス、してあげなくちゃいけないわね?」
法子さんが身を起こした。あたしの上に覆いかぶさってくる。法子さんのおっぱいが、あたしのおっぱいでつぶれる。ぴかりのような押し返してくるみたいな弾力はないけど、おっぱいのなかにそのままずぶずぶ飲み込まれそうになる柔軟さ。汗ばんだ素肌同士が触れあう。皮膚の下の、脂肪のやわらかさを押しつけあう。互いの体温を交換しあう。足を絡めあう。ふわふわのからだに、抱きしめられる。境界が、なくなる。ぞくぞく。ぞわぞわ。どろどろ。
「はあ♥ あ♥ なに♥ これ♥ う、そ♥ これ♥ あッ、おちるッ!?♥ あたし、きえちゃ♥ きえちゃうッ!?♥ あ♥ とけちゃ♥ とける♥ とけてる♥ うそ♥ とけてるぅ……ッ♥」
気のせいじゃない、皮膚とか、筋肉とか、骨とか、内臓とか、脳みそとかいろいろ、絶対、溶けてる――溶けて、とろけて、液体になって、法子さんと、まざっちゃってる。あたしは、本気でそう思った。
最初は、困惑した。セックスのしすぎで、あたしの神経が壊れちゃったんじゃないか、なんて。
理解は、すぐできた。イッてるんだ、これ――肌と、こころで同時にイッてるんだ。感度が限界まで研ぎ澄まされた肌をすりあわせ、包まれてるだけで、ゆっっっっっっくり、なっがーーーーーーーくイッてるんだ。まるで――肌でするセックス。
「んうう……♥ んむう……♥♥ ぅう……♥♥♥」
またキス。穏やかすぎて、そして優しすぎる絶頂のなか、あやして、甘やかすみたいに、舌を吸われ、もてあそばれる。尋常じゃない幸福感だった。これ以上ないぐらいのごほうびに、あたしはイキながら、ぼろぼろ涙を流していた。こんなの、絶対ハマっちゃう。中毒になっちゃう。
本気で一生このままでいたかった。だれにも邪魔されず、ずっとこうして過ごしていられるなら、きっとなにもかも投げ出すのに――あたしのそんな願いは、あっさり悪魔に阻まれた。
「はっ、はっ、お母、さん……? なに、はっ、してるの――」
ドアの隙間から、ぴかりが覗いていた。素っ裸で、肩で息をして、自分の股間をくちゃくちゃまさぐりながら。
「あら、修羅場になっちゃったわね?」
とんでもないハレンチな姿の娘に、とんでもない場面を目撃されたというのに、法子さんはいつもの落ち着いた態度を崩さない。反対に、ぴかりは今にも泣きそうな目。
「しょ、しょーこちゃんも、いるの……? ふたりで、はだかで、なにしてるの……?」
「仲良くしてたのよ。ふたりっきりで、うわきセックスしながら」
法子さんがそう告げると、ぴかりはぶるるっと身震いして、床をびちゃびちゃにした。あたしにはわかる。イッたんだ。ぴかりはぐずった。
「お母さあん……ずるい、ずるいよお……ひかりだけ、仲間外れなんて……」
法子さんはからだを起こし、あたしを後ろから抱きすくめるような体勢になった。ぴかりのうるうる涙を溜めた目には、あたしの緩みきった裸体が、あますところなく映っているはず。法子さんの生温かい息が耳にかかる。
「どうする、鉦子ちゃん? ひかりも、混ぜたげましょうか?」
今のぴかりは、捨てられた犬そのものだった。その姿は、なんだかすごくかわいくて、かわいそうで――あたしにひどい罪悪感を与えた。無性に抱きしめて、頭を撫でてあげたかった。ぴかりにこんなことを思ったの、はじめてだ。
「いい、よ……おいで、ぴかり」
「――ッ! しょーこ、ちゃん……ッ♥♥♥」
ぴかりが飛びついてきた。首にかじりついて、真っ先に唇を奪われる。あァ、この子、ほんとにあたしのこと好きなんだなって思いながら、あたしはキスに応じる。
「しょーこちゃん♥ んちゅっ♥ すき♥ んっんっ♥ しょーこちゃん♥ ちゅっ♥ すきすき♥」
あたしの唇をがっつき、むさぼりつつ、名前と好きを交互に連呼するぴかり。あたしを想ってやまないまっすぐなきもちがぶつかってくる。法子さんとのセックスで溶けて無防備になったこころに、直接響いてうずかせる。からだの芯に染みつき根を張ってた絶頂のなごりに共鳴する。くらくらきゅんきゅんする。
「ぴか、んう……っ、す、き……あたし、も……んっ、すき……」
ぴかりの好き好き攻撃に、あたしまでつられてしまう。でも、べつにうそじゃなかった。今のぴかりは、結構すき、かも――。
あたしが初めて好きだと言ってあげたからか、ぴかりはそれだけで立てつづけに達してるようだった。ぷしゅぷしゅ潮さえ吹いて、がくがくなまっちろい太ももを痙攣させてる。やたらと愛おしさが沸き起こってくる。今のぴかり……なんでこんなかわいいの?
「はあああ♥ ほんとっ?♥ いくっ♥ はあっ♥ しょーこちゃん♥ ほんとにぴかりのこと♥ あっあっあっいくっ♥ すきっ?♥」
「ん……っ、ほんと、だって……すき、だよ、ぴかり……すき」
手足をもつれあいさせ、口づけしあい、そうでなければ名前を呼びあい、もしくは好きだと互いを求めあった。さっきまでのただ一方的に与えられるしあわせとは違って、欲して、欲せられることの充実感が、あたしを衝き動かして夢中にさせた。
ぴかりの背中を撫でていた法子さんが、あたしに提案した。
「……ねェ、鉦子ちゃん。ひかりには悪いことしちゃったし――ふたりで、ごめんなさいセックス、してあげましょうか」
ぴかりにしたいとか、してあげようとか、正直これまで一度も思わなかった。そりゃァ、たまに、してほしいって言われて、あそこを手で触ってあげたりはしたけど、ぴかりはいっつも勝手にしてくれるし、するほうがいいのかと思ってたから。今は、ただひたすら――あたしを欲してくれるぴかりに、きもちよくなってほしかった。喜んでほしかった。あたしはうなずいた。
ぴかりと場所を入れ替えた。顎、喉、デコルテ、胸の谷間と口づけていき、すべすべしたおなかの、かわいらしいおへそをぺろりと舐めあげる。
「ぴゃわッ!? はあっ♥ いっ、ひぃっ♥ しょーこちゃ♥ あ♥」
ぴかりはそのつど、面白いぐらいにからだをぴくぴく跳ねさせた。こんなに感じやすかったんだ、この子。
ぴかりのあそこに到着する。ぴかりのそこを、こんな間近で見るのは初めてだった。毛は丁寧に整えられていて、その下のお肉は、外見とおなじようにいかにも未経験ぽいのに、だらだら涎をこぼしててらてら光り、ものほしそうにひくついていた。純粋に、きれいだと思った。それに、おいしそう――むしゃぶりつきたくなるような衝動にかられるも、がまんがまん。ふーっとそこに息を吹きかけ、期待させておいて、太ももに吸いつく。痕が残るぐらい。というより、痕をつけたかった。あたしの痕を。ぴかりに。
「はっ♥ しょーこ、ちゃっ♥ そんな、とこ――ッ♥♥♥」
それがよっぽど嬉しかったのか、ぴかりはやっぱりイク。薬、ちょっと飲ませすぎちゃったかも、といまさら反省。おわびとばかりに痕をいっぱいつけてやる。ぴかりが高い声で鳴きまくる。かわいい。でも、ちょっとうるさいかも――。
ぴかりのおっぱいをやわやわ揉んでいた法子さんも、おなじことを思ったのかもしれない。ご近所さんにいやらしい声が聞こえちゃうわよ、とぴかりに耳打ちすると、ぴかりの顎に手を添えて、ひゃんひゃんわめくくちをふさぎ、舌を絡めはじめた。
美人な法子さんと、かわいいぴかりがディープキスをしている――親子なのに、とてつもなくエロい感じに、ねっとり、たっぷりと。その光景に、あたしはがつんと後頭部を殴られたような気がした。むらむらが最高潮になると同時、むかむかも沸騰した。たぶん――妬いてる。
こころのなかで台風が吹き荒れてた。興奮と嫉妬で頭がどうにかなりそうだった。でも、ふたりの邪魔はしたくなかった。ふたりが、あまりにきれいすぎたから。
感情の行き場をなくしたあたしは、自分の股ぐらに手を突っ込んだ。ふたりが舌を吸いあうのをおかずにしながら、粘膜をかきまわした。法子さんが、そんなあたしを横目で見た。見つつ、さらに激しく舌を動かしながら、ぴかりの乳首を指の腹で転がし、引っ張った。ぴかりは腰をくねらせた。あたしが痕をつけたからか、実の母親とキスしてるからか、本格的にどろどろになってきたあそこが目の前で踊る。あー……、もうだめ。あたしはぴかりの股間に顔をうずめ、そこに吸い付いた。
「んにゅうッ!? んっんっんんんっ!?♥ ひょーほ、ひゃんっ!?♥」
ぴかりがもごもごあたしを呼びながら、あたしのクンニに身もだえした。ぴかりのと比べたら、断然へたっぴだったはずだ。だって、初めてだったんだもん。なのに、ぴかりは敏感に反応してみせた。それが、たまんなくあたしを喜ばせる。
いつもぴかりがしてくれてたクンニを思い起こす。たしか、こうやってやさしく包皮の上からクリトリスを唇ではさみながら、舌で先端をつっついて――。
「おっ♥ おぉおんッ♥♥ んむっ♥ んむっ♥ んむぅううっ♥」
ぴかりの乱れっぷりに気をよくしたあたしは、覚えているかぎりの、つまりぴかりがあたしのからだに覚えさせた口技を披露してみせた。決して押し付けた舌だけは離さず、愛おしさをこめて、ひたすらやさしく、まとわりつくみたいに、愛撫した。
ぐずぐずに熟し切った膣内に、指を挿し込む。ぷっくり膨らんだGスポットを一発で探り当て、こりこり、とんとん、ぐりぐり。
「んぐーっ♥ んぶっ、んぐっ、んぐ♥ ん゙ん゙ん゙っ♥♥」
ぴかりがかっくんかっくん腰を揺らして暴れる。さすがにちょっと笑える。でもそういうとこも、かわいい。鼻を折られないように気を付けながら、クリトリスの皮をむいてやる。甘くとろかすみたいに吸引する。かわいがる。Gスポットへの刺激と交互に。安心してがっつりイケるように、空いたほうの手も繋いだげる。ぎゅっと握りしめられる。
あたしの――あたしの、かわいい悪魔。もっと見たい。もっともっと、狂わせたい。
「――っ♥ ――っ♥♥ ――っ♥♥♥」
背骨が折れるんじゃないかってぐらい、ぴかりは仰け反った。はたから見ててもわかる、一番深い絶頂。なんだかはじめて、本当の意味でぴかりをきもちよくしてあげられた気分。達成感と充実感に、心臓がとくとくする。
そんなあたしをにこにこ眺めてた法子さんが、あたしにたずねた。
「鉦子ちゃん、ちゃんとごめんなさい、できたかしら?」
「え……、ぅ、うん……」
「じゃァ、今度は――三人で、なかなおり、しなくちゃね。今日は……お泊りするでしょ?」
シーツを取り換え寝室を片付けてからぴかりの部屋に移動し、母さんに泊まるって電話して、そのあとはもう、くんずほぐれつ入り乱れた。
あそことおしりを同時に舐められたりほじくりかえされたり、左右からふたりに延々ささやかれ言葉攻めだけでイカせられまくったり、あたしとぴかりで法子さんにご奉仕したり、ぴかりを小一時間焦らしまくってやったと思えば気絶するまで容赦なく攻めたてたり、とにかくもう、叔父さんが帰ってくる一時間前まで、一晩中やりっぱなしだった。つまり、はからずも、ぴかりの思惑通りになっちゃったってわけだ。
ぴかりと法子さんに足の指の間まで舐められてイッたとき――あたしはなんとなく察した。ぴかりと法子さんは、たぶんずっと以前からこういう関係だったんだ。ぴかりのセックスのうまさにも納得がいく。ぴかりがそうであるように、法子さんも――近親相姦好きなんだ。
不思議と、親子でするなんてきもちわるいとかは思わなかった。そうでなければ、こうやって法子さんともできなかったし……ま、あたしもきっと同類なんだ。
おなじ血が好きな、血筋。からだの相性もばっちりで、最ッ高にきもちいいし、それでいいじゃん、なんて。真っ先にへばって、法子さんの膝枕ですやすや眠る、愛くるしいぴかりの寝顔を見つめながら、そんなことを思った。
汗が冷えてきた。ぱんつ、どこやったっけ――カーペットの上にほっぽりだしたパジャマを漁っていると、爪に硬いものがぶつかった。ぴかりからパクった媚薬の小瓶だ。
高かったみたいだし、もう十分楽しめたし、返してやるか。あたしはぴかりの机のひきだしを引いた。なかには、空っぽの小瓶がずらり。
あれ? ぴかり、ほんとは前から使ってたんだ……でも、この量は――。
ぴかりの髪を梳かしていた法子さんが言った。
「ねェ、鉦子ちゃん。――4Pに興味ないかしら?」
あたしは帰納法の意味を学んだ――もちろん、ぴかりよりも先に。