暖かい風呂に久しぶりに浸かり、身体を十分に温めて浴室を後にした。今日の天気は変だった。朝は晴れていて空気の澄んだ秋晴れ、かと思えば昼は蝉は鳴かないまでも夏のような暑さ、夕方は再び秋らしい涼しさになったが、仕事を終わらせここへ来る時には雪が降りだした。傘も持ってなければそんな厚着をしてなかった俺は身体の芯まで冷えてしまい飯よりも風呂に入ることにした。季節外れの雪に銀時も慌てて湯たんぽを出したらしい。
銀時の用意してくれた服に着替えリビングへと向かう。テレビに夢中でこちらには気がついてはないみたいで時折テレビに対して相槌を打っている。ゆらりゆらりと揺れる髪が『綿雪みたいだな』と思った。
「綿雪みたいだな」
ソファに座りテレビを観ていた銀時が顔だけこちらに向ける。
「何が?」
『髪の話』と言うと納得したように目線をテレビに戻した。もう知り合ってからの付き合いは長いが恋人しての付き合いはまだ浅く最初はかなり恥ずかしく手間取ったがなんとか初お泊まりを獲得。しかも明日はこいつの誕生日で……。プレゼントもかなり悩んだ。ケーキはいつも食べてるしどうせなら特別な物を用意したかったがあまり思い付かず結局ケーキとなったわけだが、『ありがとう』というとものの数分で銀時の胃の中に消えていった。
「今度さぁ、ここ行きたい」
番組が終わり天気予報が流れてる。落ち着く音楽と共に高級旅館の映像が流れる。普段テレビを観ない時間帯だがおそらく毎日この時間にこれが流れて気になっていたのだろう。
「来年のお前の誕生日なら考えなくもないけど…」
「ほんとに?お前と温泉なんて楽しみすぎるんだけど〃〃〃」
「おぅ〃〃〃楽しみにしとけや」
顔を赤くし喜ぶ銀時を見てこちらまで恥ずかしくなる。
木々が黄色や赤に染まり始めた頃、ちょうど10月10日を真ん中にはさんでキャンセルが出たと旅館から連絡が来た。約1年前予約の電話をしたが約3年先まで予約でいっぱいだと断られていた。普通なら他のキャンセル待ちの客に話がいくところを権力を使いなんとか先に回してもらった。そして、旅館からの電話を切り銀時に電話しようと思ったら銀時の方から電話が来た。
あいつには付き合った当初携帯を渡してあった。あいつからの連絡なんて初めてでいつもよりテンション高めで電話に出た。けど、電話口の声は銀時ではなく聞き覚えのある声だった。それが部下の山崎と気づくのに時間がかかる。何か話しているが、うまく聞き取れず泣いていると気づいたのは電話を切った後だった。
『旦那がなくなりました。』
なんとか聞き取れたのはこの部分だけ。なくなったってどういう事なのか全く理解できなかった。
10月4日永眠。
銀時と出会ったのは、解剖室でだった。冷たい金属の上に裸で寝かされていた。顔には所々切り傷があるが致命傷ではない。ただ目を閉じて横たわっている銀時を見て死んだのだとやっと理解できた。
「ぎん?……何寝てんだよ。起きろよ。なぁ…」
解剖台にしがみつき、嗚咽しながら泣いた。吐きもした。仕事で幾度となく遺体は見ているのにこの時初めて遺体を見て吐いた。
死因は、大量出血。階段から突き落とされその下のアパート建設に使っていた鉄筋に刺さったことが原因だった。暫くは意識があったようで『突き落とされた』と話したらしい。犯人と思われる人物も逮捕できてるが、直接的には捜査に参加はできなかった。犯人が人間だと言うことと俺が被害者の恋人だと言うことで少し事情を聞かれただけだった。
全てが解決したのは、夏になってからだった。裁判で犯人は懲役20年と言われた。動機は逆恨み。犯人は、ある女性をストーカーしていた。直接的ではなかった為警察は動けなかった。仕事帰りをつけたり、無言電話、盗撮写真をポストに入れたり、そんなことはせずただ視線を感じると言うもの。そこで女性は銀時を頼った。銀時はすぐに犯人を割り出し注意、この時銀時は犯人が持っていた女性の写真を全て消去させた。
元々、天体観測が趣味だった犯人はある日星を見ようとしたが雲が出てきて見ることができなくなり望遠鏡を下に向けると女性を発見。以降は女性ばかり見ていたらしい。
遠くからの視線に気づく、女性と銀時には驚いた。
銀時が亡くなってからもうひとつ失くなったものがある。この日本から四季がなくなった。
まるで旅行を決めたあの日のように不安定な天気になった。しかし、最近気がついたことがある。俺が銀時の事を思うと雪が降る。なぜだかは知らないが必ずそうなる。
今日は、墓参りに来ていた。朝から降り始めた雪はかなり積もっている。桜が好きな銀時の為に大きな桜の木がある霊園に墓を建てた。
「銀、もう終わったから……そっちに行っていいか?」
ずっと銀時に会いたいと思ってた。けど、最後まで見届けたいとも思た。もう、未練なんてない。銀時の傍でずっと笑っていたい。肩に雪が積もる。俺は、墓石に背中を預け自分の腹を刺した。形見分けとして貰った銀時の着流しが血で染まってく。不思議と痛みは感じない。喜びの方が大きかった。
完