夢とこそいふべかりけれ世の中にうつつあるものと思ひけるかな
——実感が無かった。
「あっ、んっ」
何処かまだ幼さを残した高い少女の淫靡な嬌声が響く。
——何処か遠い。自分の意思で行なっている事を第三者視点で客観的に見ているような感覚がある。
まだ若い男は四つん這いになった少女の肢体を後ろから突きながら荒い息を吐いている。
——自分の事なのにずっと他人事。ふと思った、本当に私には自我があるのだろうか、と。
ググッと少女の膣内で男の肉棒がハリと硬さを増していく。射精の前兆、男の腰使いも絶頂に向けて激しいものになる。奥を激しく突かれて喘ぎながら少女もこのセックスの終わりを悟る。
あぁっ!っと何処か情け無い声を出して男は少女の最奥で精液を漏らした。腰を思い切り少女に押し付けたまま、快楽の奔流に体を震わせながら排泄するように射精を続けた。少女は熱に浮かされた眼をしたまま熱い息を吐きながらお腹の中の熱を感じていた。
——考えても考えても、答えの出ない問。それに囚われ続けていた。
射精を終えて一呼吸置いて男は肉棒を抜いた、ニュルンと役目を果たして、萎え始めてお辞儀した亀頭が糸を引いて膣口から吐き出された。膣内の最奥、子宮口付近で吐き出されたゼリーのように濃厚な精液は逆流してくる事も無かった。ただ、荒らされたばかりの女性器から愛液がいく筋も溢れて、シーツを濡らした。
男はまだ息も整わぬまま少女の正面に回り込むと、先は精液がこびり付いて、全体が少女の水っぽい愛液に濡れたままの生臭い半勃ちの肉棒を突き出した。少女は躊躇いなくそれを舌で絡めてから口の中に咥え込んだ。たっぷりと唾液を出して、舌を這わせて全体を綺麗にする。
——ただ、こうして快楽に溺れている間だけは自分が自己に一番近づける気がする。これもキュレネ派の快楽主義の変形と言えるのか?まぁ、我ながらどうしようもないなぁ、と少女は思った。
暗い部屋の中、セックスを終えた男女は裸のまま二人でベットの上でしばらく横になっていた。男は眠っているのか目をつぶっている。少女は何処か虚ろな瞳を真っ直ぐに中空に向けたままボンヤリとした様子だった。
やがて少女がもそもそと身じろぎをしてベットから身を起こす。テッシュを数枚取り、淫液などで濡れた股間や内腿を拭うと立ち上がった。
先程までの乱れ具合から反して、そういった一動作や仕草がひとつひとつ女性的な淑やかさを感じさせる不思議な雰囲気の少女だった。訓練や躾により得た立ち居振る舞いというより天性の華を感じさせる。
少女はまだ十代後半といったところだろう。背中まで届く艶のある癖のない黒髪。顔立ちは整っているがまだ少しのあどけなさが残る、綺麗というより可愛いと言われるタイプだろうが表情に乏しい。眼はガラス細工のように澄みすぎて、何処か人間味がなく底知れぬ深みを感じさせた。
身長は150㎝台前半か、比較的小柄だが、体系はスレンダーではなく、肉感豊かな女性的な身体だった。何処か幼気な顔立ちに反して大きな乳房は、若々しいハリもあるのか形も綺麗なものだ。安産型というべき大きめのお尻をしているが、腰のくびれにやはりまだ成熟し切らぬ幼さを少し残している。
メリハリのある身体でありながら、優しい曲線美を描く姿は十代後半という年齢ならではか。所作は淑やか、顔立ちも可愛らしく、身体つきも美しい。そんな少女にはややそぐわない部位もまたあった。
それは女性器。良く使い込まれているのだとわかる大きめのクリトリスに黒ずんだ小陰唇が大きくはみ出している様はグロテスクな花びらを思い起こさせた。端的に言ってしまえば下品である。
そこから後ろの肛門も、くすんだ色のアナルは穴と言うより縦に走った亀裂のようになっている。相当遊ばなければこうはならない、開発されているのが一目でわかってしまう。この少女はどうやらアナルも趣味らしい。
少女の名は葉月真奈と言った。
「今日は」
立ち上がった少女に寝ているのかとも思われた男が瞑目したまま話しかけてきた。若さの割に鈍色の渋い声色。
「泊まっていくのか?」
「ううん」
それに真奈が返す、風鈴のように涼やかで綺麗な声だが口調には抑揚というものがない。
「今日は帰るね」
「そうか」
それで会話は打ち切られた。真奈は脱ぎ散らされた制服を拾って着直した。鏡を見ながらやや乱れた部分を整えて身支度を終える。
「ばいばい」
「あぁ」
夜もすでに更けていたが、男は送るとは申し出なかった。男もわざわざそんな事をするほど思い入れのある関係性でもないし、そもそもそんな事を申し出たところで真奈は断る事を理解していた。お互い身体は許しても相手には一定以上に踏み込まない、そんな距離感。
真奈はアパートの一室から出ると、一息ついて帰路を歩き出した。
………
……
…
「ただいま」
自宅の玄関を潜り真奈は帰宅の挨拶をする。帰ってくる返事はない。誰もいない訳じゃあない。玄関入ってすぐ横のリビングに両親はいるはずだ、明かりも灯っておりテレビの音が聞こえるのだから。
返礼など返ってこない事は分かっていた真奈は気にもせず、そのまま階段を上がり自室へ真っ直ぐ向かう。
——別に両親が悪いという事はない。両親共に愛してくれていた、心配もしてくれた、良い両親だと真奈は思う。
しかし、放蕩の日々を長く繰り返し、幾ら諭そうとも聞かず、娘が自分達では全く手のつけられないモノに育ってしまった事を悟った時両親は諦めたようだった。
だから親が悪い訳ではない。悪いのは私。そう真奈は理解していた、理解していたが。
——根っこのところで解せないものが真奈にはあった。いきなり一人存在していた自分に親が当たり前のような顔をしている。その事に驚いた。
その親として存在する人が私を愛する。これはどういう事か考えた。まず当たり前にわかるのは親にとって私は自分の子供だから愛する。単純な事だ、自分の子供と、自分の子供から『自分』をとった子供は違う。
子供だからという理由で愛するのではない。なら自分の子供から『子供』を取ったら?残るのは自分。つまり愛するのは自分だから。
自己愛。彼らは
——誰かの親がただそこにいた、その人に愛は感じなかった。つまり親である人と同じく私には愛がない、自己愛しかない十人並みのつまらない私である事に気づいた。それだけだ。
一般常識的には私はロクでもない子供なのだろうな、と思いながら真奈は着替えを取る。男のところからシャワーも浴びずに帰ってきたのでお風呂に入ろうと思った。
「あ、」
ふと、その時真奈は下腹部に冷たいものが走るのを感じた。
真奈はトイレに向かい、ショーツを下ろす。まだ漏れてなかった事を確認すると便座の上に座って股を開く。
手を伸ばしくちり、と指先で湿り気を帯びた膣口を弄る。中指の先を挿入し少し膣口を広げてスペースを作ると、こぽりと中から白濁液が出てきてトロトロと便器の中に落ちていった。
精液が濃い人に膣内出しされると粘度が高い液は膣内で滞留してるのだが、時間が経ってから粘性が落ちるのか変なタイミングで精液が逆流してきて下着を汚してしまう事が良くあった。最近はこうしてタイミングを見計らいトイレで排出する事も覚えた。
濡れた指を舐めとり、真奈なちいさく息を吐いた。
………
……
…
近代哲学の父、デカルトが遺した極めて有名な命題だ。誰でも一度は聞いたことはあるだろう。
デカルトは誰にも疑い得ない真理を探究した。その為に取った手段が方法的懐疑だった。つまり全てを疑う、疑って疑って疑う事で、どんなに疑っても疑い得ない真理を見つけようとした。
目の前のりんごは確かに実在するのか?わからない。世界は確かに存在するのか?わからない。今私が見えいる現実は実在していると言えるのではないか?いや、夢を見ているだけかも知れない。夢は現実ではない。
そうして疑っていた時に彼は気がつく。
例え今が夢の中だとしても、これは夢ではないか?と疑う思惟としての私だけはどうしようもなく在る。——我思う、故に我あり
これがコギト命題と言われ、デカルトが哲学の第一原理としたものだ。
——昼の学校、何時もの授業中、教師の方を見て、その言葉を聞きつつ、合間に真奈は黒板の板書をノートに写す。一見、真面目に授業を受けている風だった。
しかし、実際には教師の教えは雑音程度に右から左へと流し、ただ淡々と板書と同じ文字を写しているだけで、それがなんと書いてあるのかさえ彼女は認識していない。そうして彼女はただ頭の中でとりとめもなく考えていた。
真奈は思う。デカルトはツメが甘いと。
思っているモノが確かにある。ここまでは分かる。だが、思っているモノ=私、とどうしてなるのか。
考えるという精神の作用が私である必然性が全くないではないか。
つまり、この命題には思う、という精神の思惟の作用が実体である。という点に巧妙に『私』という語を挿入するというトリックがあるのだ。
彼はもっと疑いを進める余地があった筈だ。
そしてもう一つ、彼はこの命題の根拠に神を置いてしまったのだ。つまり多くの科学者や哲学者が行った困った時の神頼み。
説明しきれぬ部分は神を持ち出す。神頼みを徹底して廃したカントとはデカルトは違うのだ。神に頼らず、神の存在証明でも証明出来ぬと論じたカントは、実は神殺しで有名なニーチェより先に神に致命傷を与えていたと言える。
デカルトは神——完全者が虚偽や不完全性の由来になるのは矛盾であるとして、コギト命題は真だと結論した。まさにツメが甘い。徹底して疑うというなら、何故彼は疑っている私は在ることだけは疑い得ない——と、神が欺いている。という風に疑わなかったのか。
真奈は故に思う、私は誰なのか?と。わからない。
ある日、全てがわからないことがわかった時、真奈は全てを失なった——あるいは、全てを獲た——。授業を受けている私は何処に?授業が行われている世界はいつ?
なにやら勝手に授業を受けている誰だかわからない私とやらを遠い場所で客観的に見ているような気がする。
これは真っ当な考え方で言うと離人症と言われる現象であると真奈は理解していた。
こうなる事は必然である。私は私である必然性すら失っているのだから。
とどのつまり、考えるというモノを突き詰めるとある時
きっと哲学研究家や、教養としての哲学好きとは違う、哲学という陥穽に落ちた本物。本も名も残さなかった幾多の哲人がそこに消えていったのだろう。
………
……
…
ふと戻ってきた時、真奈は教室で一人自分の席に座っていた。窓の外は夕焼けに染まっており、終業からだいぶ経っているらしいと分かった、もはや教室に自分の他には誰もいない。
どうも私(私?)は授業が終わっても放課後席についてボンヤリ、あるいは何か?をしていたらしいと真奈は思った。クラスメイトは残っている真奈に声をかけなかったのか?かけなかったのかも知れないし、真奈は何かしらの会話をしていたのかも知れない。どちらにせよ真奈には関係のない事だ。
今日はどうするかと真奈は思った。現実感が遠いのはいつもの事だが、誰か適当な男に連絡をするか、それとも真っ直ぐ帰るか、あるいは誰かに見咎められるまで教室で本でも読んでいるか?
さて自分はどうするのだろうと真奈は見ていた。どうもボンヤリしているままだ、何もしないならもう帰った方がよいかと思いつつも彼女はまだ動かない。
漸く動いたのは真奈ではなく教室の扉だった。真奈が漫然とそちらに眼を向けると、教室に入ったところで目を丸くして真奈を見ている少年がいた。おそらく誰も居ないと思っていたら一人席についている真奈に驚いたのだろう。
彼は……クラスメイトだった、名前までは覚えないが。多分忘れものか何かの用事かで教室に戻って来たのだろう。
特に思うところも無く真奈は視線を切った。クラスメイトの男子も特に何も言わず、気を取り直して教室の中を進み、おそらく自分の席の机の中を弄り始めた。やはり忘れものか探し物なのだろう。
そんな男子を尻目に真奈はおもむろに立ち上がった、どうも今日は遊びにいかず、帰ることにしたらしい。
「なぁ、葉月」
真奈が教室を去ろうとした時ふいに男子から声をかけられた。たまたま遭遇しただけの自分に何用かあるのかと思いつつ立ち止まる。彼は自分の机から視線を上げて真奈を見ていた。
「何?」
「あー、その、な」
問い返す真奈に対して、男子は何か言おうとして、言いづらそうに口籠った。視線も泳ぐ、どうにも言いにくい事らしい。
「ゆっていいよ」
「……これは、ちょっと知り合いに聞いただけなんだけどさ」
真奈がそう促すと彼は一つ息を吐いてから、そう前置きして話始めた。
「お前、結構遊んでるって……というか、誰とでもヤるって言ってる奴がいて、な、ちょっと……」
男子は思い切ったように言った。確かにクラスメイトに言うには口のはばかる内容だ、それだけにその口調には強い躊躇と——少しの期待が見えていた。
「うん」
そんな噂になってるのかと、他人事のように思いつつ真奈は一つ首肯し。
「そうだよ」
儚げで温かみのある微笑を浮かべて肯定した。特に間違ってはおらず、否定する理由もない。
なんて事ないという笑みすら浮かべて認めた真奈に、男子は流石にたじろいだ様子だった。
「な、なら、さ……」
「したいの?」
真奈の優しげな微笑に色気が混じった。淑やかな立ち居振る舞いをしていた少女が一瞬でメスの空気を纏い、問いかけた。
男子がゴクリと一つ喉を鳴らした。
予定変更。今日も少し遊んでいくことになりそうだ。
………
……
…
「ん……」
真奈は男子を強く抱きしめてキスをした。積極的に舌先で彼の唇をなぞり、僅かに開いた口の間隙に舌を滑り込ませる。
男子は、あまりに躊躇ない真奈の行動に、驚き、完全に後手に回っていた。ただ身を硬くしてその攻めを消極的に受ける。
真奈が顔を離すと、彼我の舌先の間に唾液が橋掛り、重力に引かれてぷつりと切れた。
「おい、こんな場所で」
「誰か来たら隠れれば大丈夫だよ」
男子は少し焦ったように言う。真奈は大胆不敵、場所も移動せずに教室で情事を始めたのだ。しかし、もうスイッチが入ったという様子で自分の制服の前をはだきつつ真奈はなんて事ないように言った。
「隠れればって……」
何処に?彼はそう言いたげだった。教室の後方で堂々と、人が近付いて来たのが分かったとしても扉を開けるまでに隠れる時間も無いだろうし、そもそも上手く隠れられそうな場所もない。
もしかしたら今にも残っている者が居ないか見回りにくる教師がやってくるとも限らない。真奈の考え無しにしか見えぬ行動に彼はすっかり狼狽していた。
「はい」
「っ!」
しかしそんな風に気が散っていた男子はほぼ強制的に意識を引き戻された。真奈に手を取られ、いつのまにか制服の前を開きブラジャーも上にズラして剥き出しにされた豊かな乳房にその手を埋められた。手が埋まるような柔かさと、それに相反するようなパツっとしたハリのある感触に引き込まれた。
「どう?おっぱい」
「いや……なんか触ってるだけで結構気持ちいい」
「よかった、私結構大きいし、みんな喜んでくれるんだ」
自分自身の胸に男子の手を埋めたまま、慈愛を滲ませる笑みを浮かべて真奈は言った。にぎにぎ、と彼の手を揉み込むように握って、他人の身体の感触を確かめる。他人に触れられてる乳房の感覚がある。
そうしてやっと、自我が自己と重なるような感覚があった。いつも遠い現実感が戻ってくる。その時現実感と共に違和感にも気づいたが、真奈は顔に出さなかった為男子がそれに気づく事は無かった。
いや、どちらにせよ彼は気付かなかっただろう。何故なら真剣な表情で胸に釘付けの様子だった。真奈の乳房は大きくも形が良い美しいシルエットだったが、くすんだ肌色をした大きめの乳首に乳輪の面積も大きく、やや下品だ。それが彼女の胸をただ綺麗なだけで終わらない淫猥さを醸し出していた。
もっとも胸だけではない。総じて葉月真奈という少女の肉体は多きな美しさの中に反するように少しの品のなさを併せ持ち、それがどうしようもなく男を狂わせる淫らさを生み出しているのだ。
優雅な物腰の中で誘蛾の光を放つ。それに引き寄せられた男子はもう片方の手も持ち上げて、両手を使い左右の胸を揉む。薄っすらと汗をかき始めて、両の胸の間から女の匂いが立ち昇る。
クス、とごく小さく笑って両の胸を捏ねるのに夢中になっている彼に真奈はスッと身を寄せる。
びくりと男子の身体が驚いたように震えた。真奈は顔を寄せてわざと耳元でチュッとリップ音を一つ立てた。
「ン……」
「お、おぉ?」
ぞくっとしたものが背筋を走り彼は思わず声を出していた。真奈が舌先を彼の耳にねっとりと這わせていた。耳たぶを舐め、耳の内側を隈なく舌先でなぞり、尖らせた舌を耳腔の入口に挿入し、唇で耳の縁を甘噛みする。
寒気にも似た快楽が男子の背骨を降りていった。独特の感覚だが、これは気持ちが良い事に気づいた。
「っ!」
真奈に口元を寄せられて、舌で愛撫される感触に気を取られていた時、不意に来た次の衝撃に彼は前のめりになった。
彼自身気づかぬウチに、極度の興奮と感じる快楽に学生服のズボンの前を大きく硬くなかったペニスが突き上げていた。そこを真奈の小さな手がおもむろにに撫でたのだ、ただそれだけだったが、年若い少年にとってペニスへの刺激ほど端的でかつ、分かりやすい快楽もないだろう。
「大きくなってるね」
「あ、あっ!」
クスクスと愛らしくも魔的に笑う真奈の言葉に、男子は意味のある言葉が返せなかった。完全に真奈に翻弄されているが無理からぬところだろう。彼の女性経験が如何程かは分からぬが、例え多少女慣れしているものでもこの年頃で女を手玉に取れるような男は少ないだろう。
そして仮に、そのような男でもこの少女を手に負えるかと言えば難しいだろう。まずもって経験則からして違うし、加えて言えば真奈は天然で男を惑わす天性のようなものを持っていた。年若くしてちょっとした大淫婦なのだ。
そんな彼女はズボンの前からペニスの形を確かめるように手でなぞり。敏感な先っぽを揉み込むように愛撫した。
「は、づき」
男子は必死な顔で真奈な肩を掴んだ、ズボンの中で肉棒に快楽がグングン流れ込む感覚に、もう少しで明確な射精の前兆になる事を感じ、危うい思いで出した制止の合図だった。
「うん」
果たして、真奈は意図をちゃんと理解して手を止めた。
「脱ごっか」
そして口元に微笑を湛えたまま、顔は紅潮しているが、反して、冷たく澄み切ったままの超然とした眼で男子を見つめて言った。
——こんな事をしているものまた、私への自己愛に過ぎぬのだろう、ふと真奈はそう思った。
真奈はしゃがむと、手早く彼の制服のズボンを脱がせる。無論、彼女は自分の学校の制服を相手にした事など数知れず。あっさりと下着と一緒にズボンを下ろした。窮屈なズボンの中から解放されたペニスがピンと、腹に付きそうなほどの屹立を見せた。少し蒸れたような雄の匂いを真奈は楽しむ。
大きさは平均的なものだろう。だが、鉄のような硬さと熱はこの若い少年ならではの持ち味だ。ぷくり、と切っ先から先走り液が少量分泌された。
男子も既に教室で下半身を露出しているという状況の異様さや危険性は頭から飛んでいるようだ。ただ、互いにの体制からの真奈の奉仕への期待があった。
少年は無意識に理解していた。
——いみじくもショーペンハウアーは言った。自己愛はエロスであり、同情はアガペーであると。つまりは真実愛は同情、同情であらざるいかなる愛も自己愛だと。
真奈は笑みを浮かべたままフッ、と小さくしかし鋭く息を亀頭に吹きかけた。男子の肉棒は先程の愛撫から解放されてインターバルを与えられた事で少し昂りが落ち着いていたが、それだけで再び性感の火が付いた。
「あっ」
チュッ、と真奈は挨拶のように鈴口にキスをした、少しの先走りも舐めとってしまう。その刺激に彼は小さく声を漏らした、まるで女のように喘がされる事に男子は小さな羞恥を感じ口をつむぐ。
「〜〜ッ!」
しかし、次の攻め手にピチャりと小さく唾液の音を立てつつ尖らせた舌先で鈴口をほじくるように舐め回して来た。最初からかなり鮮烈な刺激を与える舌技に少年は声を出しそうになるのを必死に耐えた。しかし腰は半分砕け、前のめりになって彼は縋るように真奈の頭に手を置いていた。
「ん、チュッ」
「それ……気持ちいい」
そんな彼を表情を下から上目遣いに確認しながら、真奈はすぐに攻めを変える。肉棒の竿にたっぷり唾液を絡めつつ舌を這わせてつー、となぞる。亀頭への攻めに比べればマイルドな性感は男子をぬるま湯に浸かっているような心地よさを与えた。
真奈は肉棒には手を添えず、両手は彼の両の太腿に置き、器用に口先だけでフェラをしていた。合間に片手が男子の内腿を撫でている。皮膚の薄い場所に触れてごく優しい刺激を与える愛撫。かつ、腿の筋肉の張りや強張り方を感じる事で、どれくらいの刺激を感じ、あるいは射精が近いかを感じ取るセンサーとしての意味合いもあった。
「あっあぁ」
今度は裏筋に口付けをして舌先で激しめに愛撫する、さらにカリ首をくるりとなぞった。強弱の緩急をつけた見事な舌技に男子は耐えることを諦め声を上げた。気持ちいいのだ、正直快楽が強すぎて少し辛いくらいだ。鈴口からトプトプと先走りが漏れて肉棒を垂れていく、それを真奈は舐めとった。
「チュ、じゅる」
ピチャリと、真奈は一旦舌で亀頭全体に唾液を塗した後、先っぽをごく浅く咥えて鈴口から先走りを吸った。しかも舌が鈴口の下を激しく刺激する。奥から引っこ抜かれるような快楽!
「まっ!もう出そう!」
男子は尻餅を付きそうなほどに腰が引けて、もう明確な射精感を感じ始めている事を訴えた。真奈は言われるまでもなく、太腿に置いた手からそれは感じ取っていた。フェラチオが始まったばかりだが、これは彼が早いというより、真奈が巧いと言うべきだろう。
「らひていーよ」
真奈は舌が忙しいので文字通り舌ったらずにそう言った。彼女は長引かせるのではなく、このままトドメを刺しに行く事にしたようだ。
それまで控えめにしか開かなかった口を初めて開けて、ぱくりと竿の中程までしっかり咥えた。あらかじめたっぷり分泌していた熱い唾液の沼に男子のペニスは浸かり、口内で包まれる。と真奈は一気にフィニッシュへと決める為の攻めを行う。じゅるるる、と唾液を巻き込んで強く肉棒に吸い付きながら激しく頭を前後に振り扱き立てる。その間歯に当てないように、舌は口内を出入りする亀頭から竿に螺旋に絡めて、上顎の柔らかい部分でも亀頭を刺激する。
「うわぁっ!」
ほんの一瞬だった、まだ僅かに射精への余裕があったと思っていた男子は、真奈のフィニッシュパターンに襲われたペニスは本人すら認識出来ぬスピードであっという間に暴発した、凄まじい快楽と共に爆発的な勢いで精液を真奈の口中で吐き出す。彼の体は前のめりのままびくんびくんと射精のサイクルとともに全身が跳ねた。
射精が始まると真奈は激しい口淫のスピードを緩やかにして、少し優しめの刺激で激しく跳ねるペニスを愛撫し、なるべく気持ち良い射精が出来るようアシストした。ビュルビュルと口内に精液を撒き散らす勢いがやがて弱まり、最後に数回しゃくりあげてトロトロと漏らすようにして長々とした射精は止まった。仕上げに真奈は吸い付きながら顔を引いていき、亀頭だけ咥えたところでチュルリと尿道に残った精液の残滓を吸い出して、ちゅぽっ、と音を立てて口からペニスを抜いた。
「あ……」
男子は目の前に星が飛んでいた。唐突に完全に腰砕けとなりすとん、とその場で尻餅をついた。眼は焦点が定かではない。無理もない、彼はここまで気持ちいい射精は初めてだった。貯蔵していた精液を一気に全部絞られるような大量の射精に会陰の奥が鈍痛を感じている程だ。
真奈は口中でくちくちと精液を唾液に混ぜてこくりこくりと何回かに分けて飲み下した。ほぅ、と一つ息を吐く。
「ご馳走様」
クスリと微笑を浮かべて言った真奈に、返礼はなかった。男子は荒い息を吐き快楽の余韻を落ち着かせる事に集中しているようだ。その股間で一発で全てを持っていかれたペニスが萎え始めている。
そんな男子の前に這い蹲るようにして股間に潜り真奈は萎えかけて芯を失ったペニスをまたぱくりと咥える。口内で舌を使い表面に少し付着していた精液を舐めとった。ピクリと彼の肩が震えたが先程の口淫とは違い、気持ち良いがイッたばかりの性器にも優しいソフトな感触。
口を離すと彼女はポケットから出したハンカチで自身の唾液に濡れたペニスを手ずから優しくぬぐい、労わるように綺麗にした。
「気持ちよかった?」
ポンポンとペニスの水気を取りながら真奈は聞いた。少し呼吸が整ってきた男子はゆっくりと口を開いた。
「めちゃくちゃ……良かった」
「またしようね」
そう微笑しながら言って、ぬぐい終わったハンカチをポケットにしまった。そのまま前を開きっぱなしだった服をつくろい、皺を伸ばして整える。
そうして真奈は立ち上がると自身の席から荷物を取り、笑顔でばいばい、と男子に手を振って、あっさり教室から出て行った。
後にはズボンを下ろし、床に座り込んだまま呆然とした様子の男子が残された。
教室を出ると真奈は上腹部を抑えて、早足になっていた。
精液を飲み込んだ辺りから胃に感じていた異物感がだんだん明確な不快感として形を成していた。
………
……
…
「けほ、けほ」
便器の前で座り込み、真奈は小さく咽いでいた。そうして胃の異物感、不快感が消えた事を確認すると少量のトイレットペーパーを取って口を拭い、それを便器に捨てて今しがた戻した吐瀉物と共に流した。
……言うまでもなく、普段の彼女は飲精くらいで気分を悪くしたりはしない。ただ、あの男子と触れ合い離人感が薄れた辺りで気がついたのだが、どうも今日はずっと体調がおかしかったらしい。
軽くずっと胸のムカつきがあった、体に倦怠感もある。だが、その割には今日、というか最近だが、割と食欲が旺盛になっていたような気がする。体調が悪くても、苦しい私を見ている私は別にちっとも苦しくないのでそこら辺無頓着になっていた。
しかし、今回たかが精液程度の異物で胃が狂いだしてしまったようだ。実際、フェラで終わらせる気は最初は無かったのだが、体が重いから予定を変更してフェラで全部搾り取って切り上げる事にしたのだ。
真奈は無表情に眼を下に向け、下腹部に手を当てていた。
——流石に、予感はあった。
………
……
…
——良く聞かれる問いがある。哲学が一体なんの役に立つのか。
これに対する答えや反論は色々あるだろう、哲学が学問諸学に与えた強い影響、歴史的な影響。日常的に役立たせられる論理や弁証法、そう言ったものは間違いない。
だが真奈は笑う。その問いは彼女からすれば愚問というものだ。
学問ですらないと真奈は考える。カントもかの哲学史に残る名著、純粋理性批判で述べているではないか、哲学は決して学習せられ得ない。理性に関する事柄を哲学的に考える事が学ばれ得る。と。
学習する事も出来ぬものが、そもそも学問であるはずが無いではないか。哲学などおおよそ癖、いやむしろ
死に至る病。あるいは
………
……
…
「お邪魔します」
夕刻。学校を終えた後、一人の男の家に真奈はお邪魔していた。男に迎え入れられて、リビングへと通される。真奈は勝手知ったるという風に、リビングと繋がったダイニングキッチンへと向かい買い物袋を適当な所に下ろした。
男は真奈がたまに遊ぶ相手のうちの一人だ。まだ二十代前半だが、子供を持つ家族向けと思われる一軒家に一人暮らししていた。何故彼は一人では持て余しそうなこんな家に住んでいるのか、その経緯や理由は真奈は知らない。男の家族などの情報すら知らないのだ。別に家族ぐるみの付き合いをするような仲ではないから当然と言えば当然だが、それにしても男の親、兄弟などの話を聞いた事は真奈は一度もなかった。もっともそれはお互い様ではあるが。
「お腹すいた?」
「いや」
真奈がいつもの微笑を湛えて聞くと、男はふるふると首を振った。確かに夕食には少し早いか。真奈がそう思ったところで男が後ろからぎゅっと抱き締めてきた。片腕は制服の上から真奈の胸を揉み、真奈の腰を硬いものが突き上げてきた。
どうやら食欲よりも先に、と言う様子だ。
「お部屋、行こうか」
真奈は小さく笑って、男の手の上に自分の手を重ねて言った。
………
……
…
寝室のベッドの上で真奈は制服から下着やソックスまで脱ぎ、生まれたままの姿で淑やかに座って男を待っていた。あまり染めたり脱色の経験はないのだろう、傷みとは無縁な細くて繊細そうな黒髪がさらり、と背中に流れるのが和的な美しさを感じさせた。彼女は胸がもっと小さければ和服などがとても似合っただろう。
遅れて男も全て服を脱ぎ捨て、几帳面に畳むとベッドの上に乗ってきた。彼は言葉が少ない。普段からあまり表情も変わらずに何処か寂しげな眼をしている。内面を汲むのが難しい男だった。ただ、こうして交わる時は一切の衣服を付けないお互い裸を好む。その股間に眼を向けると平均より大きめの肉棒は充分なほど勃起していた。
「濡らしてくれる?」
少し考え、真奈は股を開き腰を突き出して、秘部を指で開いて露わにして軽くおねだりした。今日は少しして欲しい気分だった。
真奈の使い込まれて、黒ずんだビラビラが大きい女性器。良く花に例えられるが、彼女のそれはグロテスクで毒々しいラフレシアを思わせる。だが、同時に頭が痛くなる程に官能的な蠱惑な薫りを放つイランイランのようでもあった。
男は露わにされた秘部に顔を近づけていった。どうやら愛撫の手段に口を選択したようだ。ふと真奈は考える、先にシャワーを浴びるべきだったか?無論綺麗にするように心がけているが、一日分の蒸れはある。
別にそんな事で羞恥を感じる程真奈は初心ではない。彼女が相手してきた中には変態だって少なくない。そんな一人のリクエストに応えて一週間風呂に入らず、下着も変えなかったという経験すらある。
男が真奈の股間に口を寄せるとむっとした匂いが鼻についた。酸っぱいニュアンスのある生臭いものにメス臭さが混じる。それは、男を惑わせ狂わすような性臭だ。
その匂いに誘われるように男は舌を伸ばして小陰唇を掻き分けて紅い肉を舐める。少し濡れ始めていた性器は、しょっぱさと酸味に混じるいやらしいメスの味がした。
「ん、あっ」
やや控えな喘ぎを真奈は漏らす。男はビラビラをなぞったり、クリトリスを吸い付き、舌先を膣に挿入し浅い所を刺激してくる。何度もセックスはしてきた仲だ、男も真奈のツボは心得ており、的確な愛撫で真奈を昂ぶらせた。すぐに愛液は溢れ出た。男が舐めとるより多く後から後から湧き出てシーツの染みを大きくしていく。彼女は濡れやすい体質であった、愛液は粘性に乏しくサラサラしているが、とにかく多量に分泌されるので、そこもまた男を目で楽しませ、興奮させる。
事実、真奈に奉仕を施しながら男のペニスもまた先っぽから先走りを漏らし、糸を引いて垂らしてシーツに小さな染みを作っていた。無論真奈のそれに及ぶべくもないが。
頃合い良しと真奈は見た。
「いいよ」
「挿れて」
男は顔を上げた。ぐい、と口元を手で拭い、体をゆっくりと起こす。手を真奈の足に添える。意図を理解した真奈は挿入しやすいように足をさらに開き腰の位置を調整した。男はふと緩慢な動作で時計を見て時刻を確認した。
それらは実は全て男のすぐに射精してしまいそうな昂りを落ち着かせる為の時間稼ぎだ。真奈という少女には魔性がある。昂りすぎたまま挿入するのは危険だと彼は良く理解していた。
少し落ち着いた男は、そのままなるべく冷静さを保ったまま、ペニスの切っ先をひくひくと蠢く真奈の膣口に合わせた。
「んっ、」
ピクリと真奈の体が期待に一つ跳ねる。男がゆっくりと腰を押し出すと何の抵抗もなくペニスを真奈の膣は貪欲に飲み込んだ。
「あ、あぁ……っ」
真奈はその挿入間に心地良さげに小さく声を出した。男は逆だ、必死に歯を食いしばり奥へと肉棒を送る。真奈を相手にする男にとってこの挿入の瞬間が難関だ。
愛液をたっぷりと含んだ膣内は少し挿れただけで奥へ奥へと吸い込むようにうねる。その際膣内のヒダヒダが絡みついてくる。その挿入感は油断すれば挿れただけで持っていかれかねないのだ。
だから男は最奥まで挿入すると、そこで止まりインターバルを挟み一気に昂ぶった性感を落ち着かせる。
真奈もそれを理解しているので、締め付けたりしないように下半身を弛緩させてゆっくり呼吸しつつ男を安心させるようによしよし、と頭を優しく撫でつつ、膣内で男にインターバルを与える。実は真奈がその気なら相手が動かずとも膣口、膣内の締め付けやうねりをコントロールして射精に持っていく事も出来た。
しかし、すぐ終わらせても面白くはない。一息ついた男が慎重にといった様子で、一旦ペニスをゆるりとカリ首近くまで引き抜き、今度は竿半ばまで挿入し直す。そうして、浅いところから膣半ば辺りでゆっくりと腰を使い挿抜しはじめた。
「あんっ、ん、あっ」
膣口を優しめに刺激してくる緩やかなピストン運動に真奈は甘く、控えめに喘ぐ。男は男で、真剣だ。ピストン運動をする肉棒に膣内に詰まったヒダヒダがまるで一つ一つが生き物のように絡みついてくる。まるで中で大量の舌で舐められているような極上の快楽。しかも強い締め付け、適度な締め、弛緩、と膣内の肉がグネグネと蠕動して侵入したペニスを搾り取ろうとするのだ。
とんでもない名器だった。真奈と言う少女の最大の武器であり、言いようによっては短所でもあった。真奈の性器は男の自信をへし折ってしまいかねないのだ。別に早漏と自覚の無かった男が彼女を相手にして三擦り半と持たずに暴発させてしまい、プライドを失った男は何人もいた。
しかし、始末におけないのはそんな真奈と言う少女の魔性だ。そうして傷ついた男を慈愛を持って、その名器で再び包む。そうして男を溺れさせてしまうのだ。
事実、今まさに真奈を相手している男も浅いところをゆっくりと往復しているだけで、着実に追い込まれていた。駄目か、と男は思う。この少女相手に最初の一発はまず持たない。彼女が来る前に数日溜めて、数発は残弾を様子して望まないとお話しにならないのだ。
小さく呻きながら、男は最奥まで挿入して腰を止めた。真奈の最奥は僅かに緩いスペースとなっていて、そこに亀頭を納めるのが与えられる快楽の少ない、インターバルを取る為の僅かな隙だった。
「出ちゃいそう?」
男の体の強張りを見て、微笑し真奈は男の頭を撫でながら言った。
「いいよ、全部、出して」
そう言って真奈は男に口付けた、舌を伸ばして男の口内に侵入して、口腔内を刺激した後、男の舌を絡めて、吸い付く。男も腹をくくり口でも激しく繋がったまま腰を回して最奥を切っ先でかき回す、少し硬い子宮口を亀頭が擦り、その刺激に真奈の体が小さく震える。
そして入り口から最奥まで、勢いよく挿抜を始めた。射精する為の動きだ。僅か一回の往復で、性感は最大に昂ぶる。気持ちいい。二回、射精感が一気に膨れ上がる。三回、精液が登ってくる。
「あぁあ!」
射精の爆発的快楽に男が呻いた、四回のピストンで射精に至り、男は精液を膣内に吐き出しながらペニスを往復させた。何も考えられなくなるような悦楽。
「あ、ん」
にゅぽ、と長々とした射精を終えたペニスを男は引き抜いた。挿入してから数分も経っていなかったが、あっさり持っていかれ、荒い息を吐いている。しかし、そのペニスはまだ硬さを保ったままだ。まだ足りない。もっとあの快楽を味わいたい。そんな欲求が股間から突き上げてきた。
「よい、しょ、と」
そこで身体を起こした真奈が男の身体を押し倒し、馬乗りになると、片手でペニスを捉えて自ら腰を落としてペニスを再び膣に飲み込んでしまった。
「あ、はぁ、あ」
ふるふる、と小さく震えて挿入感を楽しんでいる様子の彼女は濡れた瞳で男を見下ろした。攻守交代という訳らしい。
まだまだこの二人のお楽しみは始まったばかりか。
………
……
…
あれから何回交接していただろう。もう既に暗くなった部屋にぴちゃ、ちゅぷ。と小さな音が立っている。
男は荒い息を吐き、ベッドの上で大の字になっていた。その股間に真奈が顔を埋めている。
真奈はもう全ての精を吐き切って完全に萎えたペニスを口に含んでいた。性感を与えるのが目的ではない。愛液や先走り汁、精液で汚れたペニスを綺麗にしていた。
ひちゃり、と音を立てて這わせていた舌を離す。掃除を終えると、真奈はベッドを降りて脱ぎ捨てていた着衣を着出した。男はまだグロッキーだ。真奈にはまだまだ余力がありそうだがこれは仕方ない。言い方は悪いが彼我の実力差の問題なのだ。
「お腹空いたでしょ?ご飯作るね」
衣服を着なおし、整えると真奈は言った。
「真奈」
ふとベッドの上で大の字のまま遠い目をしていた男が口を開いた。
「ありがとう」
「いーよ」
クスリと笑って真奈は一言返し、寝室を出て食事を作りに行った。
………
……
…
——人が生きて存在する。というのはどういう事だろうか。
一つ言えるのは、人は死ぬからこそ生きている。という事だ。死、という生への否定体があり始めて生きた現存在、人間が成り立つ。
言わば、植物の種は、芽となり種である事を否定されて始めて種であった事が証明される。芽もまた、木となり芽として否定される。
人間もまた、土に還り人間である事を否定された時始めて人間であったと言える。仮にだが、
まずもって死なない人間というのは居ない。厳密には、居ないとされているし、おそらくいた事は無いはずだ。
例外を挙げるとすれば、虚構の世界のキャラクターとしての不死存在、実在の人物ではない。
——いまだ生を知らず、いずくんぞ死を知らん。
真奈は自分が人間かすら知り得ない。
言えることは、ただ生きて、死ぬ。それだけだろう。
………
……
…
深夜を過ぎて明け方も近い時間に真奈はベッドから起き出した。
横で寝ていた男は静かな寝息を立て安らかに眠っている。真奈は彼を起こさないように着替えだけ持ち、寝室のドアを静かに開けた。
ふと振り返り眠っている男を見る。彼が真奈の最期の男となった事に意味はない。彼女は自身とは遥かに遠く隔たった他人から目線を切ると寝室を出て行った。
寝間着として来ていた男の大きなシャツから、制服に着替えると男の家を出て、夜道を歩き出した。ここに来た時の一切の手荷物は置いて来て着の身着のままだ。もう真奈には何も必要ない。
ぐっ、ぱ、と真奈は手を握り開いた。いつもの離人感が既に消えて、明確な現実感をここに来て始めて手にしていた。
やっと本当に真奈は全てを失った。
と、まだ一つ。スカートのポケットに何か入っている事に気がつき、それをつまみ出した。
使用済みの妊娠検査薬だった。こんな所にしまったっけと思いつつ、真奈にはもう必要もないものなので、判定窓に陽性反応が出ているそれを歩きながら道に捨てた。
——生まれつき絶えず外部から突き動かされている私達が、唯一自らだけで発した意思。自由意思で行える事はこの世に二つだけある。
しばらく歩いて真奈は一棟のマンションに行き着いた。十階建のさして大きくもない建物だ。
——ひとつはいうまでもなく古くから決まっている。自殺だ。
強制に支えられた生というものに対して私が証明出来る自由意思の一つ。
真奈は監視カメラがある正面から入るのを避けて駐車場側に回ってからマンションのエレベーターを使わずに階段を登り始めた。別にカメラに映ってしまっても特に支障はないのだが、なるべく何も残したくはないし、出来るだけ誰にも見出されたくなかった。一段一段を踏みしめるように、コツコツと音を立てて階段を真奈は登る。
——ではもう一つは?……それは子供を作らぬ事である。
真奈が思うに、それこそ躓きの石。私は私達の自由意思に思い及ばぬままにぼんやりと子供をつくる事こそが今まで続いてきた人間の過誤だ。
自己が他者を作り出す。それも自己を自己たらしめる自己の否定なのかも知れない。だが、真奈はまっぴらごめんだ。自己たらしめんという証明への利用の為に他者を生み出すなんて。
そも、子供とは、他の人々の思想の受け継ぎ手にはなっても、決して
最上階。屋上に続く階段は柵に塞がれて屋上への出入りは禁じられている。だが、このマンションは管理が甘くなっているようだ。鍵が壊れかけていて、力ずくで施錠を外せる事を真奈は知っていた。どうやらまだ直されてはいないようだ。
ガシャリ、と音を立てて鍵を外すと、柵を開けてさらに屋上への階段を上っていく。
ただ、一つ。真奈が他の人々と違い、自由意思を持つ事が出来た、その理由は一つ。死に至る病、もしくは決して死には至れぬ病を侵された事。つまりは
出入り禁止の屋上は落下防止の柵も無かった。真奈は屋上の縁に立った。気持ちの良い風が彼女の髪をなびかせた。一歩先には目も眩むような遥か下のアスファルトの硬い地面が見える。
「万有の真相は唯一言にして悉す 曰く不可解」
ふと、頭に思い出された、真奈は有名な一節を諳んじた。
既に巌頭に立つに及んで胸中何等の不安あるなし
はじめて知る 大なる悲観は大なる楽観に一致するを
あぁ、と悟った。この句を遺した藤村操。
私には何も分からなかったという事しか分からなかった。これ無知の知ならぬ、無知の無知なり。
真奈の目の前の空が朝焼けに染まっていた。赤い、赤い、曙光。
あぁ、結局、実在としての人が生きるとはなんだったのだろう?ふと、反対命題が浮かんだ
この命題を真奈は言い直そう——思うモノ在り、それ我と限らず
私はもう私である必要ですらない。
故にこれは決して
朝日の登る中、真奈はふわりと体を前に倒した。最後まで澄み切った眼を瞑る事も無く、重力に引かれ頭から堕ちる。
十階の高さから下の地面までを彼女が落下して頭を粉々に砕くまで、あっという間だった。よく聞くようにスローモーションにもならず、走馬灯も見ない中、彼女は最後まで問いを発していた。
——ねぇ?
——結局私は誰なの?
さてはて、ここで死んだのは果たして誰だったのだろう?