ひたすら雪乃がセックスするので、八幡は困ってしまう。
 雪ノ下家の女は漏れなくセックスをする。
 しかし八幡の本命は雪乃だけ。

 比企谷八幡の生涯を掛けた恋愛観は、『本物』であったのだろうか?

1 / 1
神が書いたような文章。


もしも八幡が色々と強ければ?

「おっ、雪乃じゃーん」

 

 雪ノ下雪乃に声をかけてきた男は、控えめに言って柄が悪かった。

 浅黒い茶髪に、両耳に3つずつのピアス。

 半袖からこれみよがしに見せたタトゥー。

 隣にいた八幡は男に対して苦手意識、もっと正直に言えば生物としてのより上位者に相対する恐怖に支配された。

 

「だ、誰なんだこの人…」

 

 ビビる八幡の問いに雪乃は答えない。

 答えられない。

 再び昔に戻りたくは無かったから。

 

 …だから代わりに、その男が答えた。

 

 

「俺? 雪乃の元セフレだよ」

 

 男はフレンドリーに笑ったが、それでも八幡には恐ろしかった。

 

「セ、セフレ…?」

 

 思わず八幡が問い詰めた相手は、男ではなく雪乃だった。

 強面のチャラ男に対して問い詰める根性は、八幡には存在しない。

 

 雪乃は俯いて黙ったままだった。

 

「なんつーか、セフレというか肉奴隷と飼い主様みたいなもんだ。

雪乃がガキの頃から目を付けてたら、気が付いたら喰ってたわ。まあ、今もガキだけどな。

…で、文句あるか?」

 

 八幡には文句など言えるはずも無かった。

 黙って時間を過ごすだけしか、臆病な彼には出来ない。

 

「なら良かったわ。

ケチ付けないのなら(・・・・・・・・)何もしねえよ。見逃してやるから帰りな」

 

 それは、文句があるなら容赦なく何かしらをされるという事だった。

 八幡は恐怖で何も言うことが出来ずに愛想笑いを浮かべるだけだった。

 

「…いいのよ、比企谷君。彼が言ってるのは冗談だから」

 

 雪乃は俯いたままそう言った。

 

「よし雪乃。久し振りの再会だしラブホ行こうぜ?

何ならカズキ達と一緒にやってた時みたいに屋外でも俺は良いけどよ」

 

 チャラ男は、雪乃の肩を抱くと、八幡に「じゃあな」と笑って去っていった。

 

「何? あの冴えないの彼氏?」

「…知り合いよ」

 

 そんな会話が八幡にも聞こえてきた。

 

 気になって堪らなくなった八幡が後でこっそり付いていってみると、そこはやはりラブホテルだった。

 

 

 八幡がその付近をウロウロしていると、そのラブホテルに柄の悪い男達が数名集まってきていた。

 明らかにカタギじゃない者もいたし、中には外国籍の男もいた。

 

「アリピーなん?ハグレ先輩が言ってたホテルって」

 

「このラグジュアリーピーチをアリピーって略すのは、八木さんだけっすよ。

俺らも使うっすけどラグピーって呼んでますね。

それにしても調教済のお嬢様と乱交させてくれるって、ハグレ先輩ぱねーっす」

 

 

 

「おいボブ、お前すぐ中出ししたがるからヤるの最後なw」

 

 彼らはそんな話をしながらラブホテル:ラグジュアリーピーチに入っていった。

 

 

 八幡が離れてこっそりホテルを伺っていて、かなりの時間が過ぎた。

 数時間が経って、ようやく男達が出て来た。

 一緒にいた女性が雪乃かどうかははっきりわからなかった。

 何故ならラブホテルの前に大型車が止まり、大勢が車に乗り込んだ事しか八幡には確認出来なかったから。

 

 

 

 その日から、雪ノ下雪乃は学校には来なくなった。

 

 

 雪乃が学校に来なくなってから一週間が経った。

 八幡は雪乃のマンションに向かった。

 チャイムを押しても、ノックをしても呼び掛けても、雪乃が出てくる事は無かった。

 しかし、それでも確かに部屋の明かりはしっかりついていた。

 雪乃は、間違いなく部屋にいたのだ。

 八幡は少しの間マンションから離れた場所にいた。

 

 一時間程すると、あの時の柄の悪い男達が雪乃の住むマンションから出て来た。

 

 それから暫くして、雪乃もマンションから出て来た。

 身だしなみも特に荒れたり汚れた所は無い様に見えたが、何も無かったと考えるのは難しかった。

 

 八幡は雪乃に近付いて声をかけようか迷っていると、雪乃の方から八幡を見付けて近付いてきた。

 

「比企谷君、何かよう?」

 

「いや、そのなんていうか、アイツらって…」

 

 八幡が歯切れ悪く問うと、雪乃はサッパリとしたように答えた。

 

「このマンションはもう引っ越すから、知り合いに手伝って貰っていただけ。

学校を休んでいたのも、それが理由よ。

私も引っ越しで忙しいから。

それじゃあね比企谷君」

 

 

 そう言って、雪乃はどこかへ行った。

 その方向は男達が去った方向と同じだった。

 

 次の日からも、やはり雪乃は学校には来なかった。

 3日後、八幡が雪乃のマンションに訪れると、チャイムを押しても返事は無かった。

 夜になっても明かりは付かず、もはや其処には誰も居ないのだと教えられた。

 

 

 

 八幡はその週の土曜日、雪乃の実家に向かった。

 雪乃の家族なら、あの男達も何とかできるのではと考えたのだ。

 

 そう考えて雪乃の実家に向かったのだが、雪乃の実家には、ラブホテルで男達と恐らく雪乃も乗ったあの車があった。

 あの男達がいると思うと、八幡にはそれ以上近づく勇気は出なかった。

 だが、それでも八幡ではどうもできないので、雪乃を救うなら雪乃の実家に頼るほかは無かった。

 それに、決定的な場面は八幡は未だ見ていない。

 全てが勘違いだった可能性もあるのだ。

 

 雪乃をセフレと言っていた男は言い間違えた可能性も嘘を付いた可能性も、八幡が聞き間違えた可能性もある。

 ラブホテルから男達と出て来たのは雪乃では無いのかもしれない。

 雪乃のマンションから男達が出て来た件については、雪乃を冗談でセフレ呼びする程度の知り合いかも知れない。

 

 八幡はそういった想像で、心に理論武装ならぬ、妄想武装のギプスを嵌めた。

 

 だが、家の中から聞こえた声に、八幡の心は折れた。

 ギプスの効果なんてなかった。

 

「雪乃の姉ちゃん、雪乃の母ちゃんよりも緩くね?」

「ボブの使った後だからだろ、母親の方はウチのオジキに回すとして…ボブ中出しすんなって言ったろ、おい雪乃、取りあえず洗って来いよ。一応尻穴もな」

「ユキノオレノオンナ、モッテカエル。ハラマセフリービッチサイコー」

「…もう雪乃ちゃん、ボブにあげてもいいんじゃね?」

 

 八幡は、そこから帰ろうとした。

 声だけで、もう八幡は恐怖した。

 屈強で恐れを知らぬ男達に、そして本物の事実を知る事に──────

 

 足が後ろに下がろうとしていた八幡は、中から出て来た男に殴られて捕まえられて、見せ付けられた(・・・・・・・)それからの事は覚えていない。

 

 

 

 悪夢のような日が終わってもやはり雪乃は学校には来なかった。

 そして数カ月、担任教師が冬休み前にこう告げたのだ。

 

「皆も不安だっただろうが、雪ノ下の事だ。

国際結婚をする事になって海外へ行くそうだ」

 

 そう告げた教師の顔は苦々しく歪んでおり、事情を理解しているようだった。

 八幡は、敢えて詳しい話を聞かなかった。

 

 周りは、国際結婚の字面の華やかさに浮きだっているようだったが、実情はそうではなかった。

 

 中には心無い推測を噂する下世話な者もいたが、それが嘘だとも間違いだとも八幡は否定出来なかった。

 

 雪ノ下家の女は、全て強い男達に奪われてしまった。

 八幡は間違えてしまったのだ。

 彼は何もしなかった。

 彼は何も出来なかった。

 強い力と心を持っていれば良かった。

 いや、強い男に生まれなかった時点で、敗北は決まっていたのだ。

 何でもなせる男として生を受けなかったから、八幡には何も成せなかった。

 仕方が無いのだ。

 比企谷八幡は、強靭な膂力も天才的な格闘センスも特別な能力も持ち合わせていない。

 だから何も出来ないように生まれて、何も成せずに生きていくしかなかった。

 

 もし、あの強い男達がいなければ、八幡が雪乃と恋人になる可能性もあっただろう。

 その可能性は低くなかったはずだった。

 

 だが、急に八幡の世界に割り込むように入って来た、強い男達によって全ては奪われた。

 本来の主人公であったはずの八幡が手に入れるはずの全ては、八幡の世界にクロスして入って来た強者に全て奪われてしまった。

 

 より強い方が手に入れるのは当たり前の事だった。

 八幡が雪乃と生きる未来は、八幡より強い男達に当然の如く掻き消された。

 

 弱い人間は、諦めるほかは無かった。

 

 この後、八幡は最後まで何かをやり遂げることなく生きて、そして死んだ。

 最後まで、雪ノ下雪乃の事を後悔しながら…。

 

 

 あの事件から暫くして、八幡は徐々にあの日を思い出していた。

 目を閉じれば浮かんでくる。

 夢を見ると映し出される。

 八幡はあの日の出来事のせいで不眠症になった。

 

 ボブと呼ばれた男に尻の穴に肉棒を串刺しにされて、首をしめられながら持ち上げられて、秘所から白濁液を垂れ流して、八幡の方を写していない瞳で視線を向ける雪乃。

 その背後には、「ありがとうございます。ありがとうございます」と言いながら、歳下の男にいいようにされる雪乃の母と、二人に挟まれて嬲られるという漢字を体現した姉、陽乃。

 

 それら二人が霞むくらいに、雪乃が散々男達に犯されて、玩具にされて、これからはもはや八幡には手の届かない性奴隷として生きていくしか無い事を見せ付けられたのは辛かった。

 

「お前、あの時のか。

俺言ったじゃん、雪乃は既に俺が喰ったって」

 

 浅黒い茶髪の男は、雪乃に己を咥えさせながらそう言った。

 

 

 

 悪夢に悩まされ、起きていてもあの日の幻聴が聴こえてくる。

 八幡の力無い正義感は、あの日何も出来なかった八幡を責め続けた。

 比企谷八幡が動かなかったせいで、雪乃は終わってしまったのだと。

 

 社会人になっても、仕事も手に付かず、誰かと付き合う事どころか、異性に声をかけることも出来ず、力の強い男には不必要に怯え、それを察知されてやたらとカモにされた。

 

 あの浅黒い茶髪一人によって、八幡は全く面白みのない人生を送ることになった。

 彼があの日、弱いながらもリスクも恐怖も投げ捨て、それでも雪乃を救うという選択肢は、本当に、本当に無かったのだろうか?

 

 そんな選択肢など無かったと諦めつつも、その選択肢を選んだ未来を想像しては、いつも八幡は後悔した。

 

 仮に、最初から雪乃を全力で八幡が護っていたらどうだっただろうか?

 少なくとも、どうせ駄目だったという理性と、弱いながらも抵抗していればという正義感と、もし俺が彼らより強かったらという妄想とに苦しめられる事は無かっただろう。

 

 どのみち失敗した可能性はとても高いが、それが100%ではなかったかもしれない。

 もし、あの時勇気を出せば、もし、最初に雪乃は俺のものだと言えば……

 もしかすれば、雪乃は八幡の横で笑っていたラブコメ選択肢がどこかにあったのかもしれない。

 恐らくボブ達に強要されて、雪乃が送ってきた結婚式の写真を見る事も無かったのかも知れない。

 写真の裏に書いてあったURLを検索して、結婚の二次会で乱される雪乃を見せられる事も無かったかもしれない。

 

 

 

 そんな後悔をしながら、比企谷八幡は息を引き取った。

 

 そんな比企谷八幡の遺言はこうだった。

 

 

 「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」




感想評価お気に入り推薦が溢れて溺れる未来が見える見える。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(必須:30文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。