原作:アークナイツ
タグ:R-18 残酷な描写 ウルサスの子供たち ウルサス学生自治団 イースチナ(アークナイツ) ズィマー(アークナイツ) ロサ(アークナイツ) グム(アークナイツ)
・この作品は「アークナイツ」の二次創作であり、原作ゲーム様とは関係ありません。
・残酷な描写を含みます。
・上記の描写を含みますが、特定のキャラクターを貶めたり侮辱する意図は一切ありません。
・可能な限りキャラクター設定と原作シナリオに忠実に書いたつもりですが、ミス等あるかもしれません。その場合にはご指摘いただけるとありがたいです。
・筆者は日本語版プレイヤーであり、中国語版シナリオは確認できていません。
・オリジナルキャラクターが登場します。
以上のこと、ご承知おきください。
また、先に「ウルサスの子供たち」のイベントシナリオをすべて読んでから読むことをお勧めします。
一年前のあの日、私たちは故郷のすべてを失った。チェルノボーグは蹂躙され、市民たちは虐殺された。自分の父母が――運が良ければ一瞬で、運が悪ければ長く苦しんで――なぶり殺しにされただろうということは、誰もが知っていた。
安全な場所にいたはずの学生たちのほとんどは、私たち自身の手によって命を落とした。閉鎖がパニックを、食糧の絶対的な不足が飢餓を生んだ。独占は憎しみを生み、憎しみが猜疑心を駆り立て、対立は恐怖を煽り、襲撃と闘争が至るところで繰り返された。食糧の不足は、人口の減少によって一時的に緩和され、すぐに元に戻った。
危険を冒してでも、生存の糧を得なければならなかった。法はなく、数と暴力が狭い校内に勢力を定め、強者がわずかな延命の権利を勝ち取り続ける。あるいは確率の女神に愛された者が。
私はおそらく後者だと思う。世渡りが上手いわけでも、闘争に長けているわけでもなかったから。現に、私についてきた者のほとんどは死んだのだ。ある者は愚かさのために、ある者は不注意のために、ある者は私がためらったがゆえに。
蹂躙者たちが去ったとの噂が校内を駆け巡ったとき、生き残っていたのは数えるほどだった。恐る恐る外に出てみると、そこは少し種類が違うだけの地獄で、だから私たちは、より外を目指すしかなかった。
小高い丘から、変わり果てた故郷に最後の別れを告げたとき、私たちの隊には十六人が所属していた。皆が共にこの都市を脱出してきたわけではない。いくつかの集団と、幾人かの個人が、それぞれに都市を去り、偶然に出会ったのだ。出自はバラバラだった。貴族の子も、役人の子も、平民の子も、貧民の子もいた。けれど、生き残ってしまったという罪の意識が、私たちを結び付けていた。いまここに生きている者で潔白の者はいない。直接手を下したにせよ、そうでないにせよ、血にまみれた食糧を口にしていない者などいないのだ。私たちの血肉は罪でできている。
誰もが罪びとだった。裁かれる見込みはなく、誰もが過去に呪われていた。立ち止まる弱さも、自分を終わらせる強さもなかった罪びとだった。
燃え上がる都市に背を向けて、私たちは凍土に向かって歩き出すことにした。他にどうしようもなかったから。蹂躙と天災を生き延びた人々は、わずかな資源を奪い合うのに余念がなく、私たち子供に分け前を切り取る力はなかった。学校では負け知らずのソニアでさえ、徒党を組み武装した大人たちの集団と一人で相対して勝ち続けることは難しい。
地学教室から持ち出した地図を広げて、私は説明した。
「チェルノボーグの現在位置はここです。南西に直進すれば、帝国領の四つの移動都市の軌道と交差することになります。チェルノボーグの報を受けて、他の都市がどう動いたのかはわかりませんが……運が良ければ、そのうちのどれかに遭遇できるかもしれません」
「期間は」とイワンが聞いた。「どれくらい、かかるんだ」
「一つ目の軌道までは十日前後です。しかし……」
誰も口を開かなかった。地図上の赤いラインが、この上なく雄弁に私たちの向かう苦難を物語っていたから。
それでも、チェルノボーグを出たとき、私たちの誰もがあの学校で見た以上の地獄などないと思っていた。
幻想はすぐに打ち砕かれた。凍土の乾燥した地表には、動物はおろか草の一本さえなく、持ち出すことのできた食糧はわずかだった。缶詰は最初の一週間で尽き、それからは日に二回、傷んだパンを半分口にするのが精いっぱいだった。三週間目の初めの日に崩壊した集落で麦を見つけたので、それからは二日に一回、泥水で煮た麦粥も食べることができるようになった。誰もが飢えていたが、余分に食べれば死を早めるだけだとわかっていた。言うまでもなく、食糧をめぐって争おうという者はいなかった。
初めのころこそ、夜になれば誰かのすすり泣きや、悪夢に怯える悲鳴が聞こえたものだったが、数週間もすれば、誰も何も言わなくなった。
都市に守られて育った私たちに、凍土は容赦なく牙をむいた。飢え。渇き。疲労が癒えることはなくとも、ただ死なないためだけに眠り、残りの時間はひたすら歩いた。
景色は代わり映えせず、どこも荒涼とした地獄だった。ときおり人工物が見えることはあったが、ほとんどが放棄された古い時代の集落跡だった。
チェルノボーグを去ってから四週間ほど経ったある日、右手側に人工物の影を見た。私たちはのろのろと決を採り、進路を逸れて探索に向かうことにした。結果は見事にハズレだった。二百年以上前に打ち棄てられたのであろうその集落には、生き物も食糧もなかった。役に立つものは何もなく、私たちは無駄足を踏んだ。
「僕らはこうして貴重な一日を失ったわけだ。これで死ぬかもしれない」と、アンドレイが突然怒鳴り始めた。
「全員で決めたことだ。上手くいかなかったからといって、後から蒸し返すべきじゃない」とユーリィが返答し、アンドレイは一瞬ひるんだように見えた。しかしすぐさま盛り返して、
「馬鹿に投票権を与える民主主義は絶対に失敗する。僕はわかってたんだ」
そこまで言うとアンドレイは、どこに隠していたのか、赤錆だらけになった火かき棒の残骸を取り出した。
「時間が足りなくなった。口減らしをしなくちゃならない。愚かさの代償は払うべきだろう? 違うか?」
賛成に票を入れた者のうち、いちばん小さいエミーリャが標的になった。アンドレイが火かき棒を振り上げ、振り下ろすより早く、ソニアが彼を殴りつけた。一声唸って彼は地面に倒れこみ、そのまま死んだ。
その晩は集落跡で眠り、翌朝、元のルートに私たちは向かった。
オアシスというには惨めにすぎる、湿った地面を見つけることもあった。くぼみにたまったわずかな汚水をなめるように飲むと、舌と喉が激しく痛んだ。それでも飲まずにはいられなかった。水はわずかで、節約した分だけ命が伸びる。やがて栄養失調のために口の粘膜はボロボロになり、歯茎からは血が垂れた。それでも、地面に水があれば這いつくばって飲んだ。
晴れた夜には気温は零下にもなり、いくら身を寄せ合っても、冷たい夜風がやせ細った体から体温を吹き去っていった。何人かが低体温症で死んだ。眠るということは、二度と目覚めないかもしれない恐怖との戦いでもあった。
凍える夜のあとには遮るもののない日射がやってくる。寒暖差は体力を消耗させ、直射日光は肌を痛めつけた。はじめはささくれが、続いて手足の至るところにあかぎれができた。皮膚が剥げ落ち、私たちの衣服は泥と垢とにまみれてすさまじいにおいを放った。覆うことのできない皮膚は陽に焼け、泥を塗ったような色になった。
私たちの隊は女性が多かったので、月のもののときには悲惨なことになった。経血がズボンに染み込み、乾くと、刃物のようになって内腿を裂くのだ。幸運にも誰かが死ねば、そのズボンと交換することができた。
歩くことができなくなった者は、まだ余力のある者が担いだ。そして大半が、数日以内に命を落とした。羨ましく思う気持ちがなかったと言えば嘘になる。彼らは罪を問われることのないところへ行ったのだから。
チェルノボーグを離れて六週間で、十人が命を落とした。体力が尽きた者もいた。病気に侵された者もいた。鉱石病が急速に悪化した者もいた。気力が尽き、心を失くした者もいた。そういう者は、暴れ出す前に、ソニアが手にかけた。仕方のないことだった。私たちはすでにあの食糧を口にしてしまっていたのだから。
死者のうち、最初の三人は装備を剥ぎ取って土に埋めた。赤ら鼻のアンドレイ、文学同好会のニーナ、おかっぱのソフィア。続く六人はただ凍土の真ん中に置き去りにした。そばかすのライサ、丸眼鏡のエミーリャ、ホッケー部のユーリィ、銀髪のイワン、おさげのエレーナ、それから……思い出すことができない。あの大人しくて小心者の少女は誰だっただろう。
隊列の前の方で、あるいは後ろの方で、誰かが倒れる気配を、私は感じ取れるようになっていた。その日も、太陽が西に傾きかけたころ、一人が自分の身体を手放した。十人目はのっぽのダーリャだった。
まだ温かい彼女の亡骸を見下ろしながら、ナターリアはつぶやいた。
「私たちは残り六人。食糧はどんなに切り詰めてもあと十日分。最寄りの都市に出会えるかもしれない場所まで、まだ二週間半はかかる」
ぽつりぽつりと絞り出すように紡がれた言葉の意味するところは明瞭だった。そうして、それにあえて反対できるような意志も、資格も、誰一人持ち合わせていなかった。永遠のように長い沈黙が去って、ソニアがナターリアに掴みかかったとき、だから口を開く者は誰もいなかった。
「どういうつもりだ。言ってみろ」
誰も望んでなどいなかったと思う。けれど、ソニアは、言わずにはいられなかったのだ。そのことを私は理解できる。
「わかるでしょう。それとも、私に言わせたいの? それが貴女からの罰?」
「アタシは、どういうつもりかって、訊いてるんだ」
サッと手を挙げて、彼女を制止したのは半ば無意識だった。
「アンナ、何を」
「……言わなくていいです。私が言います」
うつろな視線が集まるのを感じた。誰もが飢え、痩せこけていて、眼だけが爛々と光っていた。いまから私が言うことを、全員が知っていた。それでも口にしなくてはならないのだ。明確に。忘れないために。
「彼女の身体を食べれば、私たち六人だけなら、四日は稼げます。手持ちの食料と合わせれば、三番めの軌道まで保つかもしれません。だから」
その時の自分の姿を私は知らないはずだ。記憶の中では、私はダーリャの亡骸を前に、痩せこけた頬に不釣り合いなほど生気に満ちた眼で、言葉を吐き出している。
「解体します。食べるために」
のろのろとした動きで、数人が刃物を取り出した。私も背嚢を下ろし、奥にしまった小さなナイフを取り出そうとした。
ソニアが錆のついたサバイバルナイフを取り出し、正中線にそって刃を入れた。こちらを見ることなく、一心不乱に、手際よくダーリャだったものを解体していった。私はそれを黙って見ていた。何もせず、黙って見ていたのだ。
皮と肉の間に刃が通る。皮が剥がれるうちにすさまじい臭気が襲い、吐き気がこみ上げる。胃液くらいしか残っていないのに、と、そのことがやけに可笑しく感じる。胴体にぶら下がった彼女の頭が空虚な眼でこちらを見ており、私はそこで、ようやく身体の震えを自覚した。けれど目を逸らすわけにはいかない。義務を果たさなければならない。
そうして、切れ味の悪くなったナイフで、肉のあまり残っていない身体を裂き、私たちは持ち去ったのだった。剥ぎ取られた皮のつくる空洞がどうにも寒々しくて、いたたまれなく感じたのを鮮明に覚えている。
内臓や骨はそのままにしておこうとしたが、半狂乱になった仲間の二人がそれを食べてしまった。パキパキと骨を砕く音、ズルズルと液体を吸い出す音が耳に残っている。もともと私たちの中でも特に年少で、成長期真っ盛りの二人だった。数時間後、片方が激しい腹痛を訴え、それから一晩苦しんで死んだ。死ぬ間際、ゆっくりと白む空の下で、最期に彼は何かを言おうとしたが、それは果たされなかった。警戒して、彼の遺体には手をつけないことにした。
もう一人は生き残った。幸運だったとも、不幸だったとも、私は言わない。
大地は残酷だった。けれども、それが一切の差別なく、ただ確率によって降り注ぐということに、私は少し安堵してもいた。少なくとも、そこに誰かの意志はないから。誰かの悪意はないから。誰かの罪はないから。
それからまた歩いた。ひたすらに。長い昼は黙して歩き、長い夜は身を寄せ合って耐えた。そのころには、どうして歩いているのかもわからなくなっていたけれど、歩くのをやめることはどうしてもできなかった。
ダーリャを解体してから一週間後、私たちはロドス・アイランドの巡察隊に発見され、保護された。泣いている者もいたが、私は涙を流すことができなかった。ロドスのロゴが記された毛布に包まり、数か月ぶりのまともな食事をゆっくり咀嚼しながら、私は荒野に置き去りにしたダーリャの死体のことを考えていた。
ダーリャだったものを私たちは埋めたのだった。
私はそのことを知っている。ダーリャだったものが、凍土の固い土の下に、押し込められていることを知っている。
隣の座席で眠るソニアが、小さくうめき声を上げるのを私は聞いた。