「ただいま〜」
帰ってくることの無いおかえりを聞き、靴を脱ぐ。
「翼〜?」
まだ帰ってきていない最愛の人が居るかどうかを確認する。
「まぁ、そうよね」
全て分かりきっていた事だ。これがマリア・カデンツァヴナ・イヴの日常。マリアはその後小さく息を吐くと、風呂掃除を夕飯の支度を始めた。
・・・・・・
「......」
翼とはうまくいっていると思う。一緒にいても苦しくない。趣味も大体合う。持ちつ持たれつの関係を作れていると思う。煮込む鍋の具材を見ながら、最近の自分達を思い出す。一緒に掃除をしたり、一緒に出掛けたり、一緒に食事をしたり。それでも、マリアには足りなかった。一緒に居ること、それは良い。でも、自分が翼にもっと触れたいと言うことだけは、当の本人には気づいて貰えない。
「.....明日はどっちもオフよね」
自分の唇をなぞる。前に深いキスをしたのはいつだろうか。
「ただいま〜」
あれこれ考えていたら最愛の人が帰ってきた。トテトテと歩いてきてその蒼い髪と凛々しい顔を覗かせる。
「あら、早かったわね」
「あぁ、取材が意外と早く済んでな」
「へぇ、よかったじゃない」
グルグルと鍋の具材を回すマリアを見つめる。柔らかになびくピンクの髪、それはまるで猫じゃらしのように。翼はその誘いに抗いきれず、マリアの髪を絡め取り、キスを交わす。
「ちょっと、まだ料理してるからっ.....っ!」
翼の腕が、自分の体に絡みつくように抱きついてきた。ぎゅうと、体を密着させるくらい。当然、息もかかるし、体の至る所が触れ合っている。
「翼、ちょっと...」
「あぶないぞ、動くな」
「っ...」
耳元で囁く。その凛とした声と、少し熱っぽい吐息混じりに。
「なに...こんな急に...んっ」
「いやなに、衝動というものだろう」
翼の片方の手は繋いだままで、空いた手はマリアの服の中に入れ、腹部を撫でている。無遠慮でこういうことを仕掛けてくる翼に呆れて、マリアは火を止めた。
「なんだ、もういいのか?」
「もう、あなたのせいでしょう。このままじゃ料理どころじゃないわよ」
「ふふっ、そうだな」
分かっていたかのように微笑む翼に見てマリアは息を飲む。そこから負けじとマリアは翼を抱き寄せる。
「ん?どうした?」
「っ....」
こんな風に煽られることは慣れてはいるが、やはり、この剣。この美しい顔を寄せられるとついひよってしまう。見ていられない。直視出来ない。目を合わせたら、自分の心が読まれそうで。翼はマリアがネコだということに気づいているからだ。
「そういえば最近、シテル時は目をあまり合わせてくれないな」
「それはっ....その....」
「理由ぐらい、いいだろう」
「ん......」
理由をいえと言うのに舌を絡めてくる。こっちが抱き寄せたのに、それを逆手にとられてしまう。いつの間には翼はマリアの胸に手を当てている。下着の上から撫でるように胸の形を変える。時々漏れる甘い声に翼も少し当てられている。お互いの目が酔ったように垂れ下がってきた。抱き寄せる腕も強くなる。
「んっ...ふ...」
口内を舌が舐め回し、離しては求め、求めては離れる。それの繰り返し。ただ、それを繰り返すだけなのに、それでも、足りなくなる。
じっくり味わっているのに。
何度も。
何度も。
何故なんだろう。足りない。
ずっとこうしていないと、
何処かに行ってしまいそうで。
繋がりが切れそうで。
独りになりそうで。
それでも、彼女を求め過ぎないように、彼女の目を見ないようにしていた。
「っ....」
大きな音を立てて、二人は倒れた。体勢としてはマリアが翼を押し倒した。
「マリア?」
翼にどんな酷い傷があるのかは知らないけど、自分をこんなに狂わせる貴方を、傷つけたくはないなんて矛盾を想い。頬を撫で、涙を浮かべ、行かないでと、嫌わないでと、声に出さずに、彼女には伝えたかった。自分にはそんな勇気はない。だから、抱き締めれば伝わると想った。だが、翼は大丈夫と、自分を慰める。それはまるで、傷を深く抉られるような。貴方は気づいて貰えないと、自分に訴えかけられるような。だから、マリアは翼にキスをする。しつこく、染み込ませるように。忘れられないように。
「ん....んんっ.....」
翼が少し苦しそうに声を上げる。それに高揚と昂り、幸福感を感じて、自分を嫌悪する。
翼は可愛いし、綺麗だ。自分は十分それを知っている。自分も翼とはそれなりに一緒にいたのだから。だが、口を開けば奏の話をする事が増えた。自分に飽きたのだろうか。でも、それなら、抱きついてきたりはしない。衝動とやらで、求めてはこない。
それでも、基準はいつも、奏、奏、奏。
「貴方は、私を....見てくれてないの?」
ふと言葉して出てしまった。
翼は急な質問に首を傾げる。
ハッと我に返り、体を起こし、ごめんと口を拭い顔を逸らす。言ってしまった、言わなくてよかったのに、このまましていれば忘れられたのに、冷や汗と心が焦る。自分らしくないセリフ。翼との会話で今まで言ったことのないセリフ。口を拭う手が止まり、そのまま二人は止まってしまった。
「そんなことない...と言えば良いのか?」
首を縦には振れなかった。疑問形なのだから、繋いだ手はそのままに、眉にはシワがよる。こんな顔をしたくない。
なんで疑問形なの?
なんですぐにイエスと言えないの?
なんで呆れたように声を出すの?
なんで......私じゃだめなの?
声には出さない。出せない。関係を壊したくない。これ以上喋ったら自分と翼との関係を壊してしまいそうで。
沈黙が続く中、自分の愚かしさと弱さに本当に涙が出てきた。ごめんと声で謝った。止まらない涙を水を救うように、翼がマリアを包む。
「少し、落ち着こう」
そんなこと出来るわけないでしょう。ぶん殴ってやろうかと思ったけれど、優しさの方が欲しくて、かまって欲しくて、翼を抱きしめ返す。マリアの涙を肩で受け止め、翼小さく息を吐く。ため息のような。安堵のような。呆れてしまったような。
マリアの様子がおかしいとは思っていたけれど、こんなに思い詰めていたとは。耳元で聞こえるマリアの嗚咽と泣き声。背中を撫でて安心させる。だが、鼓動のリズムが悪い。正直何故マリアがこんなになっているのか分からない。自分の鈍感さを呪った。
マリアにどんな酷い傷があるのか知らないが、こんなに不安定になるのだから、自分が悪いのだろう。ため息が零れる。すると、それを察したのか、マリアが翼の肩から顔を離した。その顔は涙でグシャグシャだ。それも、愛おしくて、微笑んでしまう。
「台無しだぞ。その顔」
「わかってるわよ」
袖口でマリアの顔を拭う。
傷心にはちょうど良い人肌の温もり。台所でする事ではないのだが、それでも、今はこれでいい。これがいい。
マリアはそう想い、翼を求める。
だが、翼は笑ってマリアをお姫様抱っこで抱き上げる。
「ここでは、ダメだ。場所を変えよう」
マリアの額に自分の額を合わせ宥めた後、寝室へ運んだ。
ベッドへマリアを下ろす。軋むベッドの音と二人の荒い息。すぐに互いに飛びつき、お互いの唇を貪る。手を繋ぎ、指を絡め、互いの傷口を舐めるように。
それでも、足りない。翼は無我夢中でマリアの首筋に噛みついた。
「いっ...!」
予告なしの突然の事にマリアの体は痛みで跳ね上がった。歯型を刷り込まれ、噛んだ場所を再度、舌で癒す。仕上げに、ごめんと、抱き締める。顔は見ない。怒っているだろうから。翼はそんな自分に自己嫌悪して、マリアの体に自分を刻む。恐る恐る、マリアの顔を覗くと、当然不機嫌の顔だ。痛かったか?と表情で伝えると、言うまでもなく痛かったようだ。
苦笑して、誤魔化す。マリアは不機嫌のそうだが、すぐに笑顔に戻り、嬉しそうに噛み跡を撫でる。
「酷いわ、翼」
「全く。なんで嬉しそうなんだ」
呆れ気味にキスをする。
「ん、なんでかしらね」
笑って誤魔化す。
貴方が傷つけてくれたから。そう言ったら貴方はどんな顔をするのだろう。
「貴方は色悪よ」
「....それは男に使う言葉じゃないか?」
「え?そうなの?」
翼はやれやれと首を振った。
「マリアにはまだ学ぶ事が沢山あるな」
「何よ、覚えたてなんだからいいでしょう」
「どこで覚えたんだ。そんな言葉」
「本よ、ほ....んっ」
言葉を途中で遮る。他愛もない会話だが、そんなものはいい。どうせあとでも出来る。
スルスルとマリアのスカートの中に手を入れ、その大きな魅力を揉みしだく。
力を加えて形を変えたり、そのままその曲線を撫でてみたり。その度に漏れるマリアの声は自分が欲しかったもの。短い息と、深い呼吸。
そして、モノホシソウナ彼女の目を見て、翼の体にもゾクゾクと快感が走る。
「マリアも、衝動には抗えないということだ」
「何よ...それ....あっ」
膝で執拗にマリアの秘裂を刺激する。足を閉じようとしているが、そんなことはさせない。無理矢理自分の体をマリアの内股に入れ、マリア足をこじ開ける。
自分の足にマリアの足の体重がかかる興奮。ご開帳させられて、恥ずかしがっているマリアの顔をみて翼はいてもたってもいられない。
「貴方!今日はグイグイ来るわね。何かあったの?」
「それはこちらの台詞だ。マリア。さっきの台詞はなんだ」
「え....?」
頬をふくらませた翼がこちらを見ている。だがまだ察せられたくないのでマリアは顔を背ける。
「貴方には、関係ないでしょ」
「むっ.....」
眉をひそめると、翼はマリアの秘裂の入口を指でなぞる。
「ァんっ!」
突然大きな声を出したのでマリアは慌てて口を自分で塞ぎ、涙目になる。そんな怯えた子犬のような表情のマリアに、翼はしっかりと欲情する。
得意げに舌で唇を舐め、今度はなぞるのではなく指で秘裂を擦りだす。
「やぁっ...翼....それ、やだっ...!」
「私に触られるのが嫌なのか?」
「違っ、そうじゃなくて....あっ....」
ひときは強く『そこ』を押す。
「ひぁ!?......っ....」
「『当たり』だな」
マリアは自分でも驚くぐらい良い場所を当てられた。
妖しく笑う翼、マリアで濡れた手を離し、熱の篭った吐息と濡れた瞳でマリアを見据える。
自分で口を塞ぎ、力なく首を横に振るマリア見て、ゾクゾクと背中に快感が走る。
「っはは、なんだ、随分らしく無くなってきたな」
おそらく今自分は笑っているだろう。分かっている翼はしっかりとマリアの目を見る。
マリアは相変わらず怯えている。腕で顔を隠しているが、翼はそのままにさせ、行為を続ける。
「ちょっと、翼っ....だから、やめてって.....」
歯を食いしばって声を我慢しているマリア。
「我慢するな。どうせ、私しか聞いてない」
「だから...っんぅ」
「私にだけ、聞かせてくれるのだろう?」
舐めるようにマリアの顔を見る翼に、ついにマリアは折れ、翼の手を握る。
「あっ.....っふ....んんっ.....」
諦めて、声を出す。もう隠さない。翼の前でだけはホントの自分でいたいから。
腕で顔を隠しても、恥ずかしくて枕に顔を埋めても、翼は自分を見てくれる。
「これは....?」
「ぁ....あああぁっ.....」
翼が指を上にあげると、マリアの腰もその指の動きに合わせて上に持ち上がっていく。
「相変わらず、これが効くんだな」
「上の方...グリグリされるの....好き...」
翼はふっと口許を緩める。
「こうか?」
「っんぁぁぁ♡」
マリアの体が大きく痙攣する。
あまりの快感に、マリアの顔にはハテナが浮かんでいるように見える。
「そうか、ここは攻めたこと無かったな」
「?....???」
「女の弱点というやつだ。ほら、少し強くするぞ」
その後も指でグリグリと押し付けられる。
「っあぁ!?つ、翼それ、強いぃ!」
指を曲げる度にマリアの体も跳ね上がる。
玩具のように、自分の思い通りに動くマリアを見て、翼は少し楽しくなってしまった。
「マリア、もう少し付き合ってくれ」
「は?私もうげんか....いぃ!?」
そこからはただ単純にマリアを虐め始めた。
ただひたすらに。ずっと。歌姫マリアの喘ぐ声を聞きながら、自分が満足するまで。
・・・・・・
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!」
翼が指を奥まで押し込むと、マリアが体を大きく痙攣させて、縮こまるように体を収縮させる。
「〜〜っはぁ!....はぁ....はぁ....はぁ.....」
弾けるように体を広げる。ビクビクと、脈打つマリアの体を見て、翼も頬が緩んだままだった。
散々自分を好き勝手にされたマリアは翼にまた不満そうな顔をして近づけた。翼も不思議そうに小首を傾げるが、直ぐに翼の唇はマリアに塞がれた。
「やりすぎよ。翼」
「なんだ、今日は頑張ったんだぞ.....んぅ」
そこから、翼に覆い被さるマリアはやり返しのようにひたすら翼の唇を貪り始める。
その青く撫でるような髪も、綺麗な桃色の唇も、細く力強いその腕も、今はマリアのものだ。
とりあえず満足したので、顔を離すと蕩けきった翼の顔を見て、頬を撫でる。実に女性らしい。誰もが見たら恋に落ちるような。そんな妖艶な表情。
「んぅ.....んんっ....っは....はンっ.....」
ひたすらにキスの嵐。もう何が何だか分からなくなるくらいに。
自分達が本当に溶け合ってしまいそうな。
ただ、ひたすらに、ずっと。
自分のことを見てくれる。見てもらえる。今この瞬間は。
「?」
翼の頬に水滴が垂れてきた。その垂れてきた方を覗くと、当然そこにはマリアがいる。
「マリア....?」
また、ぐしゃぐしゃになった泣き顔のマリア。
今度はそのまま抱きついてきた。
「うん....」
「......全く。困った奴だ」
ピンクの柔らかな髪を撫でて、マリアを慰めた。
・・・・・・
「お、起きたか。おはよう、マリア」
「翼....なんでベランダに」
モーニングコーヒーを持ってきたマリアが目を丸くする。
「朝日が綺麗でな。少し見蕩れていた」
「ん.....」
風でなびく髪を少しかきあげると、マリアも朝日を見つめた。
「ホントね。綺麗....」
翼の横にコーヒーを置き、自分のカップのコーヒーを少し飲む。
「前にバイクで海岸に連れて行って貰った時...あったでしょ?」
「ん?あぁ、あの時も朝日を見に行ったのだったな」
「その時に、翼。泣いてたの覚えてる?」
「なっ!?み、見ていたのか?」
「勿論よ。貴方の顔は綺麗なんだから、そっちもみたくなるの」
「むぅ....」
「理由を聞かなかっただけありがたいと思いなさい」
「確かに、それもそうか......」
「......」
「......」
数秒の沈黙。が、翼がフッと口元を緩めて話し始めた。
「あの時は、奏と見た朝日を思い出してな」
「天羽奏と...?」
「あぁ、無事にライブが終わって、ホテルで一緒に起きた時に綺麗な朝日が私達を照らしていたんだ。その時に奏が、『私たちの第一歩だ〜!』って言い出したものだったからなんだか可笑しくって。笑いながら涙を流してしまったのだ」
「ふ〜ん.....」
『やっぱり』
心で呟く。少し頬を膨らませ、コーヒーを飲む。
ついで、また翼が発した。
「だが.....今は、マリアがいる」
「え.....?」
思いがけない言葉だった。そんなことを言われるとは思っていなかった。嬉しさと驚きで目が覚めてしまうほどに。
「私も、一人では生きていけない人間という事だな。私は、マリアに会えて幸せよ」
翼が素直に身を寄せてくる。二人は猫のように顔を擦り合わせると、マリアがキスを仕掛けてきた。
「ん....」
それは深くない。挨拶のようなキス。少し苦いコーヒーの味。
「だったら、今度は私のことをもっと見てほしいわ。翼」
マリアらしい笑顔で言われてしまってはこちらも答えるしかあるまい。と翼もとびきりの笑顔で答えた。
「あぁ、私もマリアの全てが見たい。見せて欲しい」
お互いに笑い合う。
そんな二人を朝日が照らす。
身を寄せ合い、絡み合った指は、もう離れることはない。
(だったら、私は、天羽奏の分まで......)
終わり。。。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
機動戦士ガンダムThunderboltの「色悪」という曲を聞くと、より内容がわかりやすいかも知れません。
感想等お待ちしております。
他の作品も良かったら見ていってください。