『●月■日時点において、特務警備隊2名を含む刀使10名の犠牲者を出した特殊荒魂群を凶禍「女郎蜘蛛」と呼称、その因子の討滅に特祭隊の総力を上げるものとする』

特別祭祀機動隊本部長 真庭紗南

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特務警備隊第三席・荒魂出産記録 ~苗床となった禁忌を宿せし刀使~

 とある山中で地元の人間が行方不明になった。

 直後に行われた捜索の結果、本人と思われる無惨な遺体が発見されたという知らせを受けた特別祭祀機動隊が現地に刀使の派遣を決定したのが一週間前。

 ほどなく現地入りした中等部の刀使が三人。彼女らは到着後、早速荒魂捜索のために山に入ったが、その日の晩になっても誰一人帰ってくることはなかった。

 その事実を受けて後続として派遣された夜見の任務は討伐ではなく、その優れた索敵能力によって敵の居場所の特定することだった。

 広大な山中に身をひそめる荒魂を早急に発見するには夜見の使役する蝶型荒魂の力が不可欠。ただ夜見の力はたとえ同じ刀使であっても、大っぴらにすることができないため、編成中の討伐部隊より先に単独で現地に先行して赴いていた。

 戦闘が目的ではないのだから危険を冒す必要はないと判断し、最初は麓から蝶型荒魂を飛ばして反応を見るのみだった。だが目標と思しき荒魂を感知した直後、蝶型との共鳴が途切れてしまった。

 

(どうやら派遣した蝶は全てやられてしまったようですね)

 

 共鳴があまりに唐突に切れたため、詳しい座標を特定する暇もなかった。

 対処の早さを含めて標的はかなり面倒なタイプの荒魂のようだ。

 

 夜見は熟考の末、山の中に直接足を踏み込むことを決めた。

 山狩りを行うにしても今の特祭隊が派遣できる刀使の数だけでは捜索力に限界がある。ならばこの荒魂の力を一目を気にせず使えるうちにもう少し敵の位置を詳しく把握した方が任務を確実にこなせる、そう判断した。

 

 

 ────山に入って2時間。

 夜見は何度か蝶を飛ばしながら山中を捜索した。

 小さな反応はいくつか見つかった。それを虱潰しにすべく惜しまず足を運んでいく。

 

「────!」

 

 また使役する蝶型荒魂との共鳴反応が途切れたのを感じた。夜見は愛刀・水神切兼光の刃を左腕につけようとして手を止める。

 

(一度ノロを補充しておきましょう)

 

御刀を一旦鞘に収め、制服のポケットから取り出した琥珀色のアンプルを慣れた手つきで首筋に刺し、新しい蝶を生成するためのノロを補充する。

 

(厄介な敵がいるのは間違いない。しかし──)

 

 夜見はファインダーを手に持ったまま片手で兼光を抜き、草陰から飛び出してきた小さな影を一刀の元に斬り捨てた。

 べちゃりと地面に落ちた影の正体は手の平に乗る程度の大きさの蜘蛛の姿をした荒魂だった。

 

(先程から現れるのは小物ばかり)

 

 祓った荒魂がノロに還るのを確認して再びファインダーの画面に視線を戻しながら山道を歩く。

 しばらく獣道を進んでいると、道筋が途切れ、先には背の高い草むらが広がっていた。

 

(視界が悪い)

 

 警戒を強めつつ進んでいると、突然辺りに不快な高周波音が響いた。

 

「むっ」

 

 ファインダーの感度を上げるといつの間にか無数の反応が夜見の周囲を囲んでいた。

 

「本命の登場ですか」

 

 夜見は躊躇いなく刀で左腕に傷を入れ、傷口から琥珀色の蝶の群れを生成した。

 

「■■■■──ッ!」

 

 いの一番に飛びかかってきた小蜘蛛型荒魂を斬る。それを皮切りに四方から小蜘蛛型が飛び跳ねて迫ってくるが、夜見は顔色ひとつ変えずに対処する。

 夜見の背後に飛びかかった小蜘蛛が周囲に展開していた蝶の群れに行く手を阻まれ、体中をズタズタにされて地に墜ちた。

 

「物量で勝てると思っているのですか?」

 

 夜見は自身の使役する蝶の群れに背中を守らせながら小蜘蛛型を一体一体順々に斬っていく。

 

「これで二十……っ!」

 

 周囲を囲む敵が目に見えて減ってきた。それにつれて未だ継戦中の夜見にも少し余裕が出てくる。

 ──余裕が出てくると同時に夜見の中で疑問が生じた。

 

(敵が、弱すぎる……?)

 

 群れの物量は確かに厄介だが、一体一体の力は大したことはない。

 先に山に入った刀使は未熟といえど三人いたのだ。そのうえ、夜見が偵察に放った蝶も詳細な居場所を探知する前に素早く潰さている。

 こいつらにそんな真似ができるとは思えない。

 

(恐らく親玉というべき存在が別にいる──)

 

 夜見が敵のボスの反応がファインダーに映っていないか、画面を確認しようとしたその時。

 白い何かがパラパラと宙を舞い落ちているのに気づく。

 

「雪……? いや、違──」

「■■■■────ッッ!!」

 

 小蜘蛛型の鳴き声とは明らかに異なるボリュームの怪音が背後で響き、振り返ろうとしたその瞬間、べちゃりと顔面に何かがぶつかり、視界が真っ白に覆われた。

 

「しま……ッ!」

 

 手で顔の付着物を払い除けようとするが、粘性で糸状のソレは絡みついてなかなか剥がせない。

 視界を塞がれた無防備な状態のところを、いきなり何者かに片足を引っ張られ、夜見はその場で転倒してしまった。

 

「ん、んぐぅ……っ!」

 

 受け身も取れずに地面に倒れ込み、御刀を取り落とす。写シは解けてしまったが、痛み自体は大したことない。元々夜見の痛覚は冥加の影響で、常人に比べて鈍感だ。

 すぐさま御刀を拾おうとするが、今度は両方の足をまとめて掴まれ、地面を引きずられる。

 

(くぅ……っ、一体、何が……ッ!?)

 

 抵抗しようにも御刀が傍にない。荒魂の力は夜見の素の腕力で引き剥がせるようなものではない。

 

(せめて、視界が開ければ……ッ!)

 

 凹凸だらけの山道上で石や木の根が顔に擦れ、意識を乱される。

 そうこうしている間に夜見の体は鬱蒼とした草むらの中へとズルズル引き摺り込まれていった……。

 

 

 下半身を引き摺る何かとの数分間に及ぶ格闘の末、足を引っ張る力が止まった。

 体が、突然持ち上げられ、宙に放り出される。

 一瞬の浮遊感から落下の重力を感じ始めるまでの間に、夜見は地面に叩きつけられることを覚悟し衝撃に備えるが、夜見の体を受け止めたのはトランポリンの様な柔らかい感覚。

 

「げほっ、ごほっ!」

(運が良かった……? ともかく顔にへばりついたものをなんとかしなければ……)

 

 身体の負傷はさほど問題ではないが、呼吸が既に限界だった。顔を粘糸に塞がれて以降、ほとんど呼吸ができていない。

 

「うっ……ぐぅ……ぶばぁ……」

 

 絡みついていた糸は、顔を振り、口内に進入したのを噛みちぎるうちに溶けて崩れかけていく。元々溶けやすい性質だったらしく、ベトベトになりながらもなんとか窒息を免れた。

 

「はぁ、ふぅ……こ、これは……」

 

 回復した視界に入ってきたのは網のように張り巡ららせた巨大な蜘蛛の巣。

 夜見の体は巣の中に絡み囚われていた。いつの間にか手は体ごと糸でグルグルに巻かれている。

 

「ここは……うっ!」

 

 鼻をつくような異臭に促されて視界を見渡すと、巣のあちらこちらに夜見の蝶や行方不明者の遺体、野山の獣の死骸など哀れな獲物がいくつも絡めとられていた。

 中でも夜見の視線を釘付けにするものがあった。巣の中央を挟んで夜見とは反対側に位置するソレは、切り傷と痣だらけの浅黒い肌を一糸纏わぬ状態で晒す三人の少女だった。

 焦点の定まらない瞳は完全に生気を失い、ショッキングなことには彼女たちの下半身──女性器はまるで何か異物をねじ込まれたかのようにだらしなく開いていた。

 彼女らが囚われた網の下には服というより布の切れ端といった方が適切なほどボロボロの美濃関指定の制服が落ちていた。

 変わり果ててはいたが、彼女らの容姿と所属は出発前にデータで確認した未帰還の三人の刀使と一致した。

 

「生きて、いたのですか……」

 

 生存は絶望視していたが、まさかこんな無惨な姿で生かされているとは流石に思いもしなかった。

 ほとほと虫の息の様子の三人は到底「よかった」などとは声かけられる状態ではない(そもそも声をかけても耳に入るのか怪しいところだが)。

 

「■■■■────ッ!」

 

 耳障りな鳴き声に反応して、目線を下げて窪みとなった巣の中央を見下ろすと、夜見を捕らえた犯人にして、この巣の主である人間の胴体ほどの大きさの大蜘蛛型の荒魂がこちらに頭を向けていた。

 

「これが親玉……」

 

 夜見は四肢を動かして脱出しようとするが、粘性の糸が夜見の体中にべっとりと絡みついていて離れない。

 

(目の前にこの荒魂もいる以上、現状の脱出は不可能……。ならば今は敵の観察に徹して隙を窺いましょう。持ち帰る情報は多い方がいいでしょうし)

 

 そう考え敵を観察しようと視線を向けると、大蜘蛛型は口から何か夜見に向かって放った。

 

(これは──、糸ではないっ!?)

 

 支給されて間もない真っ白な制服にべっとりと付着したのは半透明の粘液だった。

 

「──ッ、服が!?」

 

 粘液には溶解性があるようで、最低限の防刃機能もある厚い生地を溶かし始めた。

 肌を包む制服がみるみるうちに形を崩し、雪のように白い素肌が露出する。

 蜘蛛は食事前に獲物を消化液で溶かしてから口に入れる。この荒魂が姿を模した生物の習性を真似ているならこれから行われるのは食事だろう。

 つまり自分はこれから肉を溶かされ、無惨に殺された後、荒魂の餌になるのだ。

 死への恐怖はさほど湧かなかった。死ぬ覚悟ならとうにしているし、実際一度死にかけた身だ。ただ、大恩ある主にもう尽くせないこと、親衛隊──いや特務警備隊の仲間たちに別れを伝えられないことが心残りではあったが。

 しかし、大蜘蛛型は予想に反する挙動を取った。

 衣服を狙うばかりで夜見の素肌には粘液をかけてこない。それどころか溶けた衣服から肌に消化液が落ちないよう長細い脚で拭う仕草すらしていた。まるで獲物を傷つけないよう気を払っているかのように。

 

(何が、したいのでしょうか……?)

 

 履物としての形状を維持できなくなった白いロングブーツが足から離れて地面に落ちた。

 

「紫様から頂いた、ブーツが……っ!」

 

 前の持ち主から二代に渡って刀使に仕えてきた大切な装備の無惨な最期に、夜見は自身の命の危険を差し置いて怒りを覚えるが、さりとて身動きの取れない状態では命を捨てて一矢報いることすらできない。

 

(言いようにされるのを……見ている、だけとは……!)

 

 悔しさに微かに唇を噛むが、その間にも大蜘蛛型による剥がし作業はさらに進む。

 下腹部から膝までをカバーするスカートは今や腰蓑以下の布面積しか残っておらず、穴だらけになって破れたストッキングの下から白い素肌を惜しげもなく晒している。

 

「く────っ!」

 

 さしもの夜見も羞恥心から両腿を密着させて内股になる。

 そこに蜘蛛型が二本の前脚を器用に使って無理やり開脚させようとする。

 

「やめなさ……っ、ぐぅっ!?」

 

 抵抗を試みるも糸に絡め取られた状態では踏ん張りが効かず、夜見の足は股間を大きく開かせられてしまう。

 無機質に紅く光る八つ目の単眼が、無防備に開いた股間を凝視する。

 

(荒魂に性欲があるとは思えませんが、一体何を考えて……?)

 

 全く読めない不気味な目線に夜見は微かに恐怖感を覚える。かつて主に「お前は何を考えているかわからず気持ち悪い」と罵られたことがあるが、その気持ちを今更ながら少し理解できた気がした。

 

(とはいえ、すぐに殺す気がないのだとすればチャンスですね……。このまま時間を費やしてくれれば……)

 

 そんな夜見の打算を読んでいたかのように大蜘蛛型がゆっくりと前に移動し始めた。

 カサカサと多脚が粘性のない縦糸の上を器用に歩き、夜見の下半身にグロテスクな体が乗り上げた。

 

「──ッ、ぐぅっ!」

 

 下半身にのしかかる巨体の重量に夜見は微かに呻きを漏らした。

 大蜘蛛は夜見の顔のすぐ前まで頭を前進させると、丸く膨らんだ腹部を夜見の下半身の上に下ろした。

 

「んっ……」

 

 大蜘蛛型は大きな卵型の腹部を夜見の股にぴったりと密着させる。

 腹部の尻が閉じた秘裂の隙間を何度も執拗に擦る。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 荒魂の体が有する重量と熱を直接体に感じさせられ、呼吸がやや荒くなる。

 

(これではまるで……動物が交尾でもするかのような、体勢……んっ!)

 

 下半身が微かな異物感を感じ取った。場所は性器、その内側。

 ボロボロに破れた下着の隙間から何かが膣内に侵入したのだ。

 

「ん、あ……? ん……っ!?」

 

 膣内に侵入した異物感の正体は長細い管だった。純潔の証である膜を傷つけずに入口を通り抜けるほど細いその管は、膣肉をほじりながら膣内へと掘り進んでいく。

 

「ん……んん……ッ! ッぅ!」

 

 膣壁を引っ掻かかれるようなチクチクした感覚が夜見を何度も何度も襲う。

 

「ん、い……っ、ッ! これは……ッ、一体……ぃ、何を……!?」

 

 この荒魂の目的は一体何なのか。

 その疑問の答えとしては、先ほど夜見が感じたことは当たっていた。

 大蜘蛛型の目的は正しく生殖だった。膣内に侵入した長細い管の正体は生殖器官だった。 だが本来蜘蛛に雌の体内深くで交尾する器官など存在しない。夜見の体内を小突く細管は、この荒魂が生物の生殖機能を模倣するなかために試行錯誤した結果作りだした器官だった。

 

 大蜘蛛がノロから変じ、この世に生まれ落ちたのは偶然ではなかった。

 “彼”は、人間から『女神』と呼ばれて恐れられたとある強大な力と知性を持つ大荒魂によって生み出された。

 その大荒魂の名を『イチキシマヒメ』と言い、神と称される彼女は彼女自身の、そして荒魂という種族の存在意義を模索していた。

 イチキシマヒメはその可能性の一つとして、荒魂も他の生き物と同様に子を産み、世代を重ねるという生命のサイクルを成すことができないかに興味を持った。

 そこで彼女は自身のノロを分かち、他の生き物を模倣して生殖機能の再現を行うよう、生み出した荒魂の本能に自身の意思を刻んだ。

 ──それがこの大蜘蛛型だった。

 大蜘蛛型は、生みの親の意思に従い、他の生物を何度も取り込み、その生殖機能の分析と模倣を試した。

 だが荒魂は本来ノロの結合によって生まれる存在だ。自身の体を構成するノロを分ければ個体を増やすことは容易だが、そうすれば自身は弱体化し、せっかく得た知能を、自我を失ってしまう。そして生み出された子も世代を重ねるごとに弱体化し、いずれ消滅してしまう。

 その課題をクリアする方法がどうしても見つからなかった。

 そんな時、彼の縄張りに姿を現したのが、刀使という存在だった。

 彼女らの体内に溢れる神力を糧にすれば、負の神性を宿すノロを増幅し、強力な子孫を生み出すことができる。そう考えた大蜘蛛は生け捕りにし刀使と交尾することにした。

 

 

 細管は膣道を掻き分け、奥へ奥へと進む。

 その度に膣肉が深く抉られ、痛みが徐々に鋭く、強くなっていく。

 

「ふっ……くぅ……! んく……んっ……!」

 

 夜見は唇を真一文字に結んで耐える。耐えながらひたすら大蜘蛛型の動きを観察し、状況を打開する瞬間が訪れるのを待ち続ける。

 

(もう、相当奥まできてる……っ、生殖の真似事をしているなら、当たり前、ですか……っ)

 

 夜見は常人ならパニックになるような事態の中で、逆に冷静さを取り戻していた。与えられた制服やブーツを破損された時は少々感情的になったが、所詮出来損ないの自分には過ぎた品だったというだけのこと。出来損ないならばせめて役立たずに成り下がらないように今の状況でできることを果たしみせなければ。

 

「んぐぅ……ッ!」

(幸い、痛みには慣れていますしね……)

 

 常人ならば悲鳴を上げるだろう、何度も膣内を激しく刺し貫くような痛みにも、夜見は表情を崩すことなく耐えている。

 ノロの過剰投与による痛覚の鈍化に加え、敵に囚われ拷問を受けた際の訓練もある程度受けている。この荒魂がひと思いに獲物を殺さぬ性質なのは好都合だ。

 

「■■■■────ッ!」

 

 大蜘蛛型が鳴き声を上げて管を鋭く突くと、管先は最奥、子宮の入り口まで達した。大蜘蛛が求めているのは、刀使の体で最も神力を濃く蓄える場所──すなわちいずれ次世代の命を育む神聖な場所──子宮であった。

 長細く尖った先端が入り口を探してツンツン周りの膣壁をつつく。

 

「ふ──ッ!? んく……っ、んぅ──っ!」

 

 細管の先端が子宮口の隙間に潜り込み、とうとう内部に達した。

 目当ての場所に行きついた管は早速生殖器として機能し始める。

 

「ん……ッ!? あ、あつ゛ぅッ!?」

 

 突然、子宮が熱さに悲鳴を上げた。

 中の管から“何か熱いモノ”が放出されている。

 まるで内臓が爛れるような、体の内側から直接熱湯をぶっかけられた、そう形容するしかない感覚に襲われる。

 

「や、焼けるぅ……ッ!? んあぁーーッ!! 熱゛い゛ぃッ!!」

 

 極細のスプリンクラーから噴射される熱湯は、本来新たな命を育むための神聖な場所を痛めつけ、焼いていく。

 

「くぅ、うぅ……と、まら、なぃ……ッ!?」

 

 鶏の卵ほどの広さの空間はあっという間に満たした謎の液体はベタベタの粘液だった。

 容量限界まで発射され続けたソレは、夜見の下腹部を僅かに押し上げるほど溜まり、子宮内からチャプチャプと水音を響かせる。

 

(この粘り気、この熱……っ、もしや、これは、の、ノロぉ……ッ!?)

 

 夜見の予想は当たっていた。

 だが加工されたアンプルのノロとは全く違う。つい今まで生きた荒魂の体の一部だったノ“生の”ロは、容器にされた子宮壁が悲鳴を上げるほどの強い熱を帯びていた。

 

「はッ、は……ッ、ぐぅぅ……ッ、熱゛ぅ……ッ!」

 

 まるで剥き出しの神経を休みなく痛めつけられ続けるような感覚。痛覚が鈍化しているなど嘘のように、痛覚の信号が下半身中をめちゃくちゃに暴れまわる。

 

「くぅぅ……ぐぅ、あ゛あ゛ぁッ!! は、離……ッ!!」

 

 痛みに悶える夜見の四肢を、大蜘蛛は八本の脚で抱きしめるようにがっちりと押さえつけ、固定する。

 

「ほ、お゛ぉ……お、あ゛……耐えな、ければぁ……っ、耐え……ッ!」

 

 この苦悶は永遠に続くのかと気が遠くなり始めたその時、新たな違和感が生じた。いや、違和感という表現は正確ではないのかもしれない。夜見はこの感覚を何度も体験したことがあった。

 

「なっ……この、感覚は……っ!」

 

 それは迅移や八幡力を使った直後の感覚に似ていた。

 刀使の異能の力を使った直後に起こる感覚──それは刀使たちが身に宿す神力の消費だ。

 つまり、胎内を占拠するノロは、夜見から刀使の力のエネルギーである神力を吸い取りたのだ。

 

「あ、あの方がくれた力にッ、触るなぁぁッ!!」

 

 その瞬間、苦痛も恐怖も使命すらも全て吹き飛んだ。

 夜見は糸に拘束された腕を無理やり剥がし、無我夢中で暴れて大蜘蛛を引き剥がそうとする。

 

「このッ、このッ! このぉッ!!」

 

 当然人間の力ではビクともしないが、それならばと血が滲むほどの握った拳でひたすら殴りつける。荒魂は御刀が無ければ祓えないなどという当たり前の事実さえ頭から飛んでいた。

 

「は──ッ、は──ぁ……ふッ、ぁ、離しなさい……ッ! 離せぇッ!」

 

 大蜘蛛型は夜見の必死の抵抗を無視し、もう用は済んだとばかりに悠然と生殖器と体を離す。

 

「いや……力が、吸われて……っ」

 

 下腹部の子宮があるあたりを手で押さえた。

 神力を吸い込んだノロが子宮内で活性化している。

 内側から身を焼かれる熱さは、いつの間にかノロの内側に篭った熱がじわりと漏れ出るようなものに変質していた。

 

「うぅ……ッ!?」

 

 当然夜見は自分の身の内で何が起きているか目で確認する術などない。

 だが胎内で起こるその感覚を夜見は経験としてよく知っていた。

 それは刀使の中で夜見だけがえた異能、夜見しか体験したことことがない感覚。

 血液に取り込んだノロが自傷による出血をトリガーに荒魂化するときの共鳴反応──ノロのスペクトラム化だった。

 

(そんな、ではノロを放出、いや射精された目的は──)

 

 脳が考えうるかぎり最低の光景を想像する。自傷による荒魂の生成などという常人なら目を背けたくなるような行為に手を染める夜見ですら、ただただ「悍ましい」としか思えない最低の光景が。

 答え合わせの時間はすぐにやってきた。

 子宮内のソレは、凝固して粘液状から半固形状に、膨張し、再び凝固して異形(あらだま)の輪郭を象っていく。

 

「あ、あっ……あぁ……うそ、そんな、そんなぁ……っ!」

 

 夜見はようやく全て理解した。先ほど何匹も斬った子蜘蛛は、あの三人の刀使の少女たちが生んだものであるのだと。

 

「ひ……っ!」

 

 背中をゾクゾクと悪寒が走った。

 本来我が子を育むはずの場所で、何かが胎動するのを、確かに感じた。

 ガサガサと脚を這わせる感触──虫が体を這う感触といえば、山手に住む人間ならそう珍しい体験ではないだろう。

 だが今、夜見が受容している生理的不快感はそんなものとは比べ物にならない。八本の脚が蠢くその感触は、子宮壁越しに伝わってきているのだから。

 

「ぐ、あ゛ぁぁ……ッ!! んぎぃ……ッ!」

 

 不快感はすぐに痛みに塗り潰された。

 ギチギチとこじ開けられるような痛みが子宮の入口で生じた。

 異形は自身の生まれた部屋の戸をこじ開け、外に出ようとしていた。

 

(人の力を奪って……っ、生れ落ちようなどと……っ、コレを絶対に外に出すわけにはいかない……ッ!)

 

 出てくるのを拒んでその後どうするのか、などと考える余裕などない。

 刀使としての矜持が、「ヒト」の雌としての本能が、ただただ異形の出産を激しく拒絶しているのだ。

 

「んぐぅ……ッ!! ぐぎぃぃ……ッ! ンッ、ふぅぅぅ……ッ!!」

 

 鋭い激痛が走る。荒魂は既に子宮口から膣道に移動しつつあった。

 夜見は下半身にあらんかぎりの力を振り絞って膣肉を締め、赤ん坊の行く手を阻む。

 

「ぐう゛ぅ……ッ! 行かせはしません……ッ、刀使の、わたしの、ちからぁ、にが、さないッ!!」

 

 恐らく親蜘蛛と同じ姿をしているのだろう荒魂の赤子は、固く締まった膣肉を長細い脚で掻き分け、小さな前顎で噛みほぐし、産道を少しずつ進んでいく。

 

「んぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ーーッッ!!!」

 

 チクチク刺さる小さな痛みと、肉襞が捲れ上がるような激痛が少しずつ出口へ移動しているのがはっきり伝わってきた。

 

「ん、ンン、グギィ゛ぃぃ~~ッッ!! ハッ、ハッ、ハァッ、行かせ、な、いぃ……ッ」

 

 夜見の必死の抵抗とは裏腹に、出産のときは、もうそこまで近づいていた。

 膣内からミヂミヂッと嫌な音が立ち、純潔が内側から食い破られ、赤茶けた頭の醜い子蜘蛛が膣口をこじ開けて顔を出す。

 

「あ、あ゛ひ ぃ……ッ!」

 

 生まれたての我が子の、異形の八つ目と視線が合うと、子蜘蛛は親よりも甲高い不快な産声を上げた。

 

「で、出てこないでぇッ!! この、このぉ……っ!!」

 

 夜見は陣痛すら意に介さず、大声で吼えながら我が子を手で膣内に押し戻そうとする。彼女にとって、今胎内から生れでてこようとしているモノは我が子などではない。自分から刀使の力を勝手に掠め取ろうとする盗人なのだ。

 だが生まれたての赤ん坊に見えても、荒魂は荒魂。人間の腕など前脚を使って自力で払いのけてしまう。

 

「来ないで、こないでッ、出て、こないで、ぇ……ッ、────う゛ッ!?」

 

 そして、出産はまだ終わってなどいなかった。

 子蜘蛛が未だ夜見の膣道に居座る下半身に力を入れる。

 

「う、あ、あ……ッ、あ゛か゛ あ゛ぁ゛~~ッッ!!」

 

 膣肉がいっしょにまろび出たのかと錯覚するほどの激痛とともに、子蜘蛛の、頭よりさらに一回り太い腹が膣口から這い出てきた。

 

「んごぉ゛ぉ゛ぉ゛~~~~ッッ!!!」

 

 堪らず夜見の口から絶叫が飛び出す。

 

「お、おごォッ、オエぇッ、グぅ……ッ! ぐっ、へぇ……ッ! はぁ、はぁ……ッ!」

 

 腹まで外に出てしまうと、流石に激痛はピークを過ぎ、反動なのか、全身を虚脱感が襲った。

 神力を据われる感覚はいつの間にか消えており、異形の子の産道にされた子宮から性器までを繋ぐ肉道がズキズキと疼いて余韻を残すが、先ほどまでのお産の苦痛に比べれば何十倍もマシに思えた。

 余裕が出ると同時に、目の前の自分が生んだ子蜘蛛の姿が目に入る。

 夜見の体液と、ノロで全身を濡らし、早くも元気に這い回る悍ましい盗人の姿が。

 

「はぁ……ッ、はぁ……ッ、ぁぁ………も、戻れぇッ!!」

 

 夜見は、子蜘蛛の腹を手で掴むと、無理やり股間に押し付けた。

 

「戻れッ、戻れッ、戻ってぇ……ッ!」

 

 半狂乱になりながら子蜘蛛の頭を必死に血まみれの膣口に捻じ込む。

 それは傍目には正気を失っているようにみえるが、『刀使である』ということに何より(それこそ己の生き死により)執着する夜見にとっては奪われた『刀使である』ための大切なものを取り返す行為に他ならなかった。

 ──たとえそれがもう既に無意味な行為であっても。

 

「この、このッ、んぅ……ッ!?」

 

 だが出産は一度で終わりではなかった。子宮内に半分ほど残ったノロが結合し、すぐにまた新たな子蜘蛛が胎動を始めた。

 

「もう、やめ……ッ、んぎいぃぃぃッ!!」

 

 再び陣痛が強まり、夜見の口から絶叫が上がる。

 

「あ、ぎゃあぁぁーーーーッッ!!!」

 

 子蜘蛛が顔を出すのは初回よりずっと早かった。

 ぴっちりと閉じていた夜見の秘裂は、一度目の出産でぱっくりと開いてしまっていたからだ。

 

「お、ぎィィ~~ッッ!! ン、ひぃぃぃ………ッ!! ひぎぃッ!」

 

 夜見の抵抗を跳ね返し、二匹目が尻まで外に産まれ落ちた。

 ──と同時に、絶叫が止んだ。

 

「…………っ、…………ぁ」

 

 親蜘蛛が脚で夜見を突くが、反応がない。

 激痛と喪失感のショックの中、夜見は既に意識を手放していた。

 

 目を開けると、そこは病室のベッドの上だった。

 ここは昨年の年末の戦いで死にかけた体を癒した場所。

 夜見にもう一度やり直そうと言ってくれた仲間とリハビリに励んだ思い出の場所。 

 そして、「あの人」と初めて向き合う機会を得た場所。

 この場所には幸福が詰まっていた。

 刀使になると志して上京して以来、恐らく一番沢山の幸福が。

 

 ぼーっと上半身だけ身を起こしていると、次々と見舞いの者が来てくれた。

 親衛隊の仲間たち、紫様、そして「あの人」……。

 申し訳なくなるほど皆夜見の身を心配してくれた。

 ──同時にこれが、夢なのだと悟った。

 

 ベッドから降りようにも体は石のように重く、動かない。

 無理に動こうとすると、下半身から激痛が走った。

「ああ、やはり、そうなのですね……」

 ベッドに真っ黒な穴が開き、夜見の体が沈んでいく。

 

「ああ……あぁ……っ! 帰り、たい……っ、帰らせ……っ」

 

 その言葉が最後まで終わらないうちに夜見の視界はプツリと切断された。

 

「は……っ」

 

 今度こそ本当に目覚めた夜見は、自身の体に起きた信じがたい変化に目を剥いた。

 腹が、臨月を迎えた妊婦のようにぷっくりと膨らんでいた。

 

「あ……あぁ……っ!? なにが、お、おき……」

 

 夜見と同様繁殖の母体に使われていたであろう刀使たちの腹はこれほど極端に膨らんではいなかった。

 当たり前だ。人間はノロで妊娠などするはずがないのだから。さきほどの子蜘蛛にしても、本来そこにいるはずのない異物である荒魂が無理やり産道を這い出てきたにすぎない。見た目だけなぞったところで出産とは程遠い悍ましい行為だ。

 だが──夜見の体はこの短時間の間に、まるで荒魂の母体となるために作り替わったかのように変化していた。

 それは彼女が体をノロに浸食された冥加刀使だからこそ起こった現象だった。

 夜見の中のノロが、大蜘蛛型のノロに呼応して、短時間の内に、宿主の体を母体として相応しい形に作り替えたのだ。

 

「あ、あぁ……う、そ……このお腹ぁ……、全てがノロ……? これでは……っ」

 

 続く言葉は口から出てこなかった。

 夜見はこう言いたかったのだ、「これが全て生まれてくるのならば、耐えられるわけがない」と。

 

 その時、蜘蛛の口から数本の糸が飛び出した。

 

「────んッ」

 

 飛び出した糸が夜見の生肌にちくりと刺さった。正確には刺さったのは糸の先端に伸びる細い針だ。その糸は対象を絡めとるためのものではなかった。

 

「ん、あぁ……!?」

 

 突如、体内に何かが流れ込んでくる感覚が生じた。

 針は首筋や腕の血管を正確に撃ち抜いていた。

 刺さった箇所から体内に何かが流れ込む感覚。

 

(──っ、この針は……!)

 

 そこで気づいた。この針の正体は、自分がいつもノロを打ち込んでいるものと同じ注射のための針であることに。

 自身の体に何をされたのかという疑問を抱く暇もなく、陣痛が始まる。

 熱を帯びた下腹部が疼き、蜘蛛の形を得た荒魂が八本の脚でガサガサと不快な音を立てて胎動する。

 

(ま、またさっきのように……っ!)

 

 先程と同じではない。膨張し、拡張した子宮の中で蠢く蟲の数は一匹ではなかった。カタチを得、自我を得た無数の荒魂たちが夜見の胎内でカサカサ、ゴソゴソ、ガサガサと不気味に蠢いていた。

 

「ひぃ、そんな、一遍にぃ……っ!」

 

 そこで違和感を覚えた。

 火傷箇所に蟲の脚が擦れてヒリヒリ疼く不快感──その中に甘い感覚が混ざっているのを感じた。

 

(痛みが和らいでいるぅ……!? でも、何故……?)

 

 ゴンゴンと子宮の入口を子蜘蛛の頭が小突く。先ほど味わったお産の激痛を思い出し、夜見は思わず生唾を呑んだ。

 その時、ドクンドクンッと心臓の脈動のペースが上がる。

 先程打ち込まれたノロが溶け込んだ血液は既に全身を巡り、出産で疲弊した身体を無理やり活性化させていた。

 

「あ、はぁっ!? ひぃ……ッ♥ あ、あつぅ!? からだが……っ、熱くなってぇ♥」

 

 神経が勘違いを起こしている。

 痛みと快楽を取り違えている。

 夜見を苦しめていた全てが反転する。

 

「んごぉぉっ♥ んぎぃぃっっ♥♥」

 

 お産が始まった。

 夜見の口から悲鳴が漏れる。

 だがそれは先ほどまでと同じ苦痛によるものではない。

 甘い、甘い、悲鳴のような嬌声が人気のない山中に響き渡る。

 

「ん、んんぅ♥ んほぉぉぉんッ♥♥ なぜぇ、どうして、へぇぇっ♥♥ んふぅ♥ ほおぅ♥ おほぉぉぉんッ♥♥」

 

 子蜘蛛たちが行儀よく一匹ずつ出てくるなどということがあるはずもなく、拡張した産道を何匹もの子蜘蛛が雪崩を打って進む。

 気を失うほどの痛みが全て快感に変換され、夜見は歓喜の絶叫を無理やり上げさせられる。

 

「だめぇ、だめぇ♥ でるぅ、でるぅ、でるぅぅ♥♥ あらだまぁ、出てひま、ふぅぅ~~ッッ♥♥♥」

 

 既に開ききった膣口からボコッ、ボコッと子蜘蛛たちの顔が次々と顔を出す。

 

「はふッ♥ はふッ♥ ほふッ♥ 出はぁぁ~~ッッ♥♥♥ はッ、はッ、はッ♥ あらふぁふぁ♥ でふぁ、ふあぁぁ~~~~ッッ♥♥♥♥」

 

 夜見にもはや出産への忌避感を感じる余裕などなく、暴力的なまでに押し寄せる快楽の白波に重たくなった体をぶるりと震わせ、激しく絶頂した。

 

「ンンッ♥♥ ンんんぅぅーーーッ♥♥♥ んほぉ……ッ♥ ま、まらぁ……くるぅ……♥」

 

 二、三匹産んだところで、脳を狂わすほどの快楽は止まらない。

 夜見の腹はまだまだ大きく、その何倍もの荒魂が宿っていた。

 

「おひゅうぅぅ♥♥ おほぉぉッ♥♥ ほッ♥ ほッ♥ ほッ♥ ほひィィーーーッッ♥♥♥」

 

 子蜘蛛が産道を這うたび、腹が小刻みに震え、豊かな乳房がぷるりと揺れ動く。

 絶え間なく電流を流されるように、全身を快感が流れ続けている。

 快楽で脳は真っ白に塗りつぶされ、神経だけでなく血管まで快楽を流させる回路に変えられたのかとすら錯覚する。

 

「オ、オッ♥ おひゅうぅぅぅ♥♥ うまれりゅの、とまら、なヒぃぃ~~♥♥♥ ひゃめぇ、こわれりゅぅ~~ッッ♥♥」

 

 幾度も、幾度もの絶頂を繰り返し、長い、長い、出産がようやく終わった。

 夜見の瞳孔は開ききり、だらしなく涎を垂らし、酸欠の魚のようにパクパク震える口からは切なげな余韻が漏れ出ている。

 産んだ子蜘蛛の数は10を超していた。その全てが元気に夜見の目の前を這い回っている。

 

(は…………ッ♥ は…………ぁ♥ お、お、おわ、た、ぁ…………?)

 

 力なく巣の糸の上で伸びている夜見を親蜘蛛がじっとりと見つめる。

 

「ひぃ……ッ!?」

 

 まったく感情の読めないその空洞のような瞳は、既に夜見にとって完全な恐怖の対象となっていた。

 大蜘蛛型は、口を開けると、二本の針を夜見に撃ち込んだ。

 狙いは胸の双丘の登頂、薄ピンク色の乳首だった。

 

「んくぅ!」

 

 いつもの注射ならほとんど感じないはずの痛みははっきりとした快感に変換された。

 

(くあぁ……♥ 感覚自体が、強まって……ふぁっ!?)

 

 乳首に刺し込まれた針の先端から乳腺にノロが流し込まれる。快楽神経が集中する敏感な部位を刺激しながら強い熱を帯びた液体が逆流していく。

 

(だめ、胸ぇ……っ、中がぁっ、痒い……っ♥)

 

 思わず上半身をくねらせる。冥加に手を出して以来、触覚が鈍化していた夜見は、これほどの痒みを感じたのは久しぶりであった。乳腺を通じてノリが乳房中に行き渡っていくと、むず痒さも大きくなっていった。

 

「ふあっ、はぁ♥ ひぃぃっ♥」

 

 突然、違和感が逆流し始めた。乳肉が内側から外に向かって張り詰めるような、そう表現するしかない圧迫感。

 

(胸が、張ってぇ……まるで、大きく、なろうと……している、みたいに……)

 

 夜見の感覚は錯覚などではなかった。

 ドクンッと一際大きな脈動が全身を走った。

 ──その瞬間、揺れる乳房が本当に膨らんだ。

 

「う、そ……?」

 

 厚みにして数ミリ程度だろうか。まるで空気を吹きいれた風船のように夜見のバストが少しずつ膨らんでいく。

 

「む、胸がぁ!? 何が、起きて……!?」

 

 夜見は思わず驚愕の声を上げる。

 アンプルの過剰摂取で荒魂に身体を侵食された感覚とはまるで異なる。他者に乗っ取られ変化するのではなく、自身の身体が自身の体のまま別の何かに変化していくような奇妙な感覚。

 

(……ッ!)

 

 ノロの注入は終わっていない。乳腺からバスト全体に沁み渡ったノロはさらに強く夜見の身体に作用していく。

 胸の肉風船が、ポンプで空気を送られたかのように規則正しく膨張していき、最終的にはバストは10㎝以上──カップで計るなら4サイズ以上、厚みを増すまでに成長した。

 

「う、あ、あぁ……♥」

 

 乳腺内を満たすノロが脈動し始める。先ほどと同様に夜見の体から刀使の神力を吸い上げ始めたのだ。

 

「ひぃ、ひぃんっ♥」

 

 夜見の上半身が切なく震え、肥大化したバストがぶるりと揺れた。

 ノロに仕込まれた淫毒に狂わされた身体は既に搾取される感触にすら悦びを覚えるようになっていた。

 

「や、やぁ……ッ!」

 

 ひとしきり神力を搾り取られた夜見の周りに先ほど自身が産んだ子蜘蛛たちが集まってきていた。

 

「今度は……なに、が……ぁッ、ふぅぅっ!?」

 

 突然乳腺が詰まったような閉塞感が胸を襲う。

 

「ふ、う、ぅ……っ、わたしの、むねぇ、ぱ、パンパンに、詰まってぇ……ッ!?」

 

 ノロの注入はとうに止まっている。中身が増えたのならばそれは夜見の体の中から分泌さる以外にない。

 

「おぉ、おぉ、お゛お゛ぉ……ッ、でるッ! 出てくるぅ♥ 射精てきてしまッ♥ あッ♥ あ゛ぁ゛──ッ♥」

 

 急激に増大した内側からの圧力に押し出され、乳首に刺さった針糸が抜けた。

 ──その瞬間、栓が弾けたように、勢いよく琥珀色の液体が乳首から噴き出した。

 

「は、ひぃぃぃ~~っっ♥♥」

 

 噴射の瞬間、乳首に集まった強い快楽刺激で、夜見は気をやった。

 

「はっ、はぁ♥ これはぁ……ぼ、ぼにゅう……? はひぃぃッ♥♥」

 

 子蜘蛛たちが樹液に集まる羽虫めいて夜見の乳房に群がりだす。

 

(私の、胸から、何故、母乳が……!? いや、これはノロぉッ!?)

 

 噴き出した液体は、夜見の神力をたっぷりと吸ったノロと乳腺から分泌された母乳がブレンドされたものだった。

 

「きゃひっ♥」

 

 夜見の口から素っ頓狂な悲鳴が漏れた。原因は勿論、胸だ。肥大した乳房にぺたりと八本脚で張り付く異形の赤ん坊が、母乳を垂らす乳首に前顎を引っかけた。

 

「ひぃぃぃんっ♥」

 

 子蜘蛛が乳首に口をつけ、ぴちゃぴちゃと母乳を吸い始めた。

 夜見が血液中に投与したノロを基に荒魂を生成するという特異な能力を得たのは、彼女の神力がノロの負の神性と相性が良かったからだとされている。

 未だ結合したノロの量が少ない子蜘蛛たちは、荒魂としての本能──孤独や喪失感を満たすために同じ負の神性を有するノロと結合したいという欲求──に飢えていた。そんな彼らにとって、自分たちの神性と相性が良い夜見の神力をたっぷり吸ったノロは、まさに母から与えられる母乳に等しい最良の栄養なのだ。

 

「くひぃ、はぁんっ♥ はぁ、はぁッ♥ 吸ってはぁ……ッ、そんなに、強くぅ、吸ってはぁ……ッ♥♥」

 

 母乳の分泌は徐々に最初の勢いを失っていくが、貪欲な子蜘蛛たちは前顎で乳首を何度も挟んで刺激し、ミルクを催促する。

 

「ひゃ、ひゃ、ひゃ♥ コリコリぃ♥ 乳首ぃ、コリコリぃっ♥♥ とめてぇぇっ♥♥」

 

 コリコリ噛まれるたび、乳首から電流を流されたように脳が白く明滅する。背筋が仰け反った状態で上半身がビクビク震え、デカ乳がブルンブルンと上下に揺れてノロミルクを撒き散らす。振り落とされまいとする子蜘蛛の噛みつく顎の力か強まると、快楽が勢いを増して体内を循環する。

 

 やがて腹を膨らせた子蜘蛛が満足したのか、乳首から口を離して、ポトリと地面に落ちた。

 だが休む暇すら与えられず、すぐに二組目がかぶりつく。夜見が生んだ子蜘蛛は十匹以上いるのだ。

カジカジと刺激するが、母乳の噴き出る勢いは弱くなっている。先程の二匹がほとんど飲み干してしまっていたのだ。

 見かねた親蜘蛛が針糸を子どもたちのミルクの蛇口である乳首に再び刺した。

 

「うぐっ、くひぃぃぃ……ッ♥♥」

 

 ノロが再び乳腺を満たす。生成されたノロミルクが再びホースのように噴き出す。

 そこに子蜘蛛たちがまた群がり出す。

 

「ひゃ、ひゃん♥ も、も、もう……お、お、お……? おや、ぐもぉ……!?」

 

  気が付くと、親蜘蛛が夜見の体にのっそりと張り付いた。

 

(また、ノロを、注ぐぅ、き……ぃ、んぅぅ……っ!?)

 

 夜見の秘所に生殖器官がある腹の尻を器用に密着させる。

 だが、その生殖器官は先ほどのような細管ではなかった。

 まるで人の腕並に太く、ペニスのように肥大化していた。

 

「う、そぉ……こ、これはぁ……?」

 

 大蜘蛛は短期間のうちにさらに交尾に適した体に自身を変化させていた。

 夜見の体が、体内のノロによって作り替えられたように。

 荒魂も、自身を夜見との一対のつがいとして最適化しようとしていたのだ。

 

「やめッ、んぎいぃぃ~~ッッ♥♥♥」

 

 腹の怒張が容赦なく夜見の膣内に叩き込まれた。

 度重なる出産で開ききった膣道を大蜘蛛の肉竿は、機械的な律動で掘り返す。

 

「ひぎぃぃ~~ッッ♥♥ ひぐぅぅぅッ♥♥ おおきッ、お、おっきッ♥ おっぎィぃぃ~~ッッ♥♥♥」

「■■■■~~ッ!!」

 

 大蜘蛛は何やら満足げな唸り声を上げる。

 まるでそれは模索し続け、研究し続けた成果に喜ぶようにも、

 『交尾』の味と悦びを覚えた雄が猛っているようにも見えた。 

 

「う゛ぶぅぅッ♥♥ 激ひッ♥ あらだまぁ、交尾ぃ♥♥ もう、ひやぁッ♥ はぁ゛ーーッ♥♥」

 

 剛直が何度も何度も膣道(さんどう)を蹂躙する。

 その勢いは徐々に深く、膣奥をより力強く掘り進んでいく。

 

 夜見を責めるのは親蜘蛛だけではない。

 乳房では、「親たちばかりズルい」とばかりに子蜘蛛が乳首にかぶりつき、母乳を求める。夜見は異形の親子たちを相手に子作りと子育てを同時並行でさせられているのだ。

 

「んひぃぃ♥ ちくびぃ、ちくびも、らめぇ♥」

 

 子蜘蛛は赤ん坊らしく力任せに乳首を齧り、吸い付くこともあれば、腫れ上がった乳首を甘噛みして「もっともっと」と優しくミルクをねだることもあった。

 

「もう、でましぇ……ッ♥ も、出なひぃ、からぁ♥ んッ♥ ンっ♥ ンんぅ♥────くひぃぃぃッ♥♥ ちゅうしゃぁ、、やめぇぇ~~~~ッッ♥♥♥」

 

 親蜘蛛は子蜘蛛が交替するたび、母体にノロの補充と気つけを兼ねて乳首への注射を繰り返す。母乳の出が良くなれば再び、群がる子蜘蛛たち。その繰り返し。

 授乳より搾乳という表現が相応しい蹂躙だった。

 

快楽地獄の中で夜見の精神は徐々に削られていく。

 

「■■■■~~ァァッ!!」

 

 大蜘蛛が突然咆哮した。

 

「あふぅぅ~~ッッ♥♥ ふ、あぁぁ、あ、ぁ…………っ!」

 

 つがいとして結合していた夜見にはなんとなくわかった。

 限界点が、射精のときが近づいているのだと。

 もはや意識が朦朧としている夜見には抵抗しようという気すら起こらない。

 バチュン、バチュンッと乱暴なピストン運動が早まり、熱が荒魂ペニスの先端に集まり、

 

 ビュルルルルルッッ~~!!!

 

 夜見の子宮に向けて暴発した。

 

「ンごぉぉ………ッッ!! ほひょおぉぉ~~~~ッッ♥♥♥♥」

 

 中身を出し切り、やや収縮していた夜見の子宮は一遍にパンパンに膨れ上がった。

 

「ほぉぉぉんっっ♥♥♥ んほぉぉぉ……ッッ♥♥♥ ヒィッ♥ ヒィッ♥ ヒィンッ♥ ヒィィ~~ッッ♥♥♥」

 

 その強烈な衝撃すら快楽に書き換わり、夜見は目を剥き、口を開き、舌を伸ばしきってアクメをキメた。

 全身の血管が破裂しそうな錯覚を覚えるほど勢いよく循環する快楽に刺激され、乳内に残っていたノロミルクが一気に噴き出し、乳首に掴まっていた子蜘蛛すら弾き落とした。

 

「ほ、ひぃぃぃ~~~~っ♥♥」

 

 交尾を終えた親蜘蛛がようやく身を離す。

 ノロを放出しすぎて弱体化したのか、その体は一回り縮んでいるように見えた。

 だが、もはや夜見にそんな情報は無意味だ。ここには既に先ほどまで脱出を窺っていた刀使などいない。

 いるのは荒魂の母体となり、つがいとなり、苗床となった一人の少女だけ。

 

「は、へぇ……♥ は、へぇ……♥♥」

 

 甘い声で微かに呻く夜見の顔は酷いものだった。

 白い肌は涙と鼻水と涎でぐしょぐしょに汚れ、

 水面(みなも)を覗いたような深い瞳は焦点を失い、

 人形のようだった鉄面皮は無様なイキ顔に塗り替えられていた。

 

(す、び、ば、へぇ、ン………すび、ばへぇ……)

 

 言葉にならぬ声で夜見は何度も何度も繰り返し、誰かに謝り続けていた。

 

 

「真庭本部長、先日の蜘蛛型討伐に関する報告書が出来上がりました」

「ご苦労だったな、獅童。……皐月の件はすまなかった」

「いえ、本部長のせいではありません。人手が足りないのは知っていますし、一人で踏み込んだのは夜見だ」

「そうか。それで皐月の状態はどうだ?」

 真希は暗い表情で被りを振った。

「なら囚われていた他の隊員もダメだな」

「はい。よほど酷い目に遭ったのでしょう。ボクも夜見があれほどまで心身ともにボロボロになるなんて想像もできませんでした」

 

 夜見が山に足を踏み入れた三日後、獅童真希率いる部隊によって大蜘蛛の討伐は成功した。

 夜見を返り討ちにしたかもしれない強力な荒魂の出現。そう知らせを受け、血眼になって探した討伐対象は意外なほど弱くて小さく、呆気なく討伐された。

 その後、周辺で衣服を失い、体は無惨なほどボロボロで、心神喪失状態の夜見たち、行方不明の刀使が大蜘蛛の巣から発見された。

 

「荒魂が生殖行動とは俄かには信じがたいな。ノロを分散させて個体を増やしたところで一体一体の力が弱まるだけだと思うが……」

「はい、ですが既に逃げたと思われる大蜘蛛の子による被害が他で出ている可能性も否定できません。この件は伍箇伝各校と連携しながら調査する必要がありますね」

「ああ、私から先輩たちに頭を下げておく。今日はもう休め」

 

 珍しく気を遣う上司(薫が聞けば仰天するかもしれない)に一礼し、真希は指令室を出た。

 言われたとおり、真っ直ぐ自室に戻る。特務警備隊である真希は、伍箇伝の生徒とは扱いが異なり、学生寮とは別の場所に専用の部屋が与えられている。

 

「クソ……ッ!」

 

 部屋に入るなり、真希は拳を壁に叩きつけた。

 

(何故、夜見が、こんな……っ! せっかくもう一度親衛隊の仲間として帰ってきてくれたというのに……ッ!)

 

 数年前、平城学館で仲間を守れなかったときの無力感を思い出す。今回の件を自分のせいだなどと思うのは流石に思い上がりだろうが、それでもやりきれない思いがあるのは間違いない。

 

「…………気持ちを切り替えなければ」

 

 この特務警備隊の制服に袖を通すときに決めたのだ、皆でやり直すと。

 今更躓いたからといって蹲ることなど許されない。

 

「……シャワーを浴びよう」

 

 帯刀ギミックを外して愛刀の吼丸を立てかけ、一日の疲れと汚れが染み込んだ制服と下着を脱ぐ。

 

(事態はまだ終わっていない。これ以上犠牲を増やさないために、夜見の仇を討つためにも、災禍の芽は必ずボクが摘み取る!)

 

 編み上げを解き、浴室に入ってシャワーのハンドルを回す。

 頭上から降り注ぐ温水が頭皮に心地良く染み込み、沈みきった感情を僅かばかりながら慰めた。

 水滴が瑞々しい生肌に弾かれ、胸の豊かな双丘や締まった腹筋を伝ってポタポタと床に落ちていく。

 ほんのり上気した肌に張り付く水滴や薄く伸びた水跡が照明の光を反射し、真希の長身を艶やかに彩る。

 狭い空間内はシャワーの音に満たされていた。外からの雑音を遮断して無機質に響くその水音は、朝のように乱れた真希の気持ちを落ち着かせてくれた。

 ──ゆえに彼女は気づかなかった。

 浴室の外でガサガサと蠢く異音に。

 異音の主が新たな獲物を求めて潜んでいることに。

 

 

 ──────、──────、

 

 

「ッ、荒だ────、ンンッ!?」

 

 ほどなく浴室内に真希の声がこだました。ブブッと何かが吐き出される音とともに彼女の叫びは言葉にならぬ唸り声に変わる。

 

「ンン──ンおッ────ッ、んぼぉ゛ーーッ!」

 

 カサカサと蟲の蠢く音となにかが刺さる鈍い音が僅かに浴室から漏れ出る。襲撃者の正体は蜘蛛型荒魂──あの大蜘蛛の“子”だった。

 彼は、親がそうしたのと同じように、強い子孫を残すために刀使との交わりを試みる。その行動は彼らが世代を越えて受け継いだ本能によるものだった。

 狭い浴室内で襲われた哀れな獲物に逃げ場などない。その唸り声が悲鳴に変わるのにさほど時間はかからなかった。

 

「■■■■──ッ、●●●●ーーァッ、ほお゛ぉ゛ぉ゛~~ッッ!!」

 

 シャァーーッという無機質なシャワーの水音だけが変わらず一人と一匹の交合の音を遮り続けた。




荒魂に生殖機能持たせるのは原作設定的には難しいですが、色々それっぽい捏造設定を考えてみました。夜見さんは異種姦との親和性高い。

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