※「艦ママエロ合同」に寄稿した作品のサンプルです。
一応、普段書いているパースさんと提督夫婦の、数年後のお話となっております。
気になった方はぜひ!
艦ママエロ合同に寄稿いたしました、パースさんのいちゃらぶえっち小説です。
――私には今、二つの愛が、宿っている。
「ママー!」
保育園の門をくぐった途端、一際元気に満ち溢れた声が私の耳に届いた。澄んだ青空みたいな響きに、私はたまらず破顔する。小さな体で飛び跳ね、艶やかな黒髪を振り乱して手を振る我が子に、私も腕を一杯に伸ばして振り返した。
「せんせー!はるちゃんママお迎えきたよー!」
私の娘――
ふわりと春の香りがする。小さく柔らかな温もりを確かめると、どうにも頬が緩んでしまう。抱き締めた幼子が愛おしくて仕方ない。
「おかえり。今日は何をしたの?」
「おままごと!それから絵本読んで、お絵描きして、お昼ご飯食べて、お砂遊びして、それから、」
言葉を覚えてから、波留はとにかくよくしゃべる。あのねあのねと、休むことなく。今日も一日の出来事を、まるで機関銃みたいに私へ報告してきた。その一つ一つに頷く。波留の、菫色の瞳が幾度も輝いた。
「いっぱい遊んだのね」
「うんっ。いーっぱい、遊んだよ!楽しかった!」
「そう。ふふ、それは何よりね」
抱き締めた愛娘の頭を撫でる。あの人に似た艶やかな黒髪に触れる。波留は頬を林檎色に染めて、太陽すら霞むような笑顔で頷いた。
丁度その時、園舎から波留の先生が出てきた。両手に波留の荷物を持った先生は、おどけた表情で頬を膨らませる。
「もう、波留ちゃん。荷物は自分で取りに来る約束でしょう?」
「えへへ……ごめんなさい。ありがとう、先生」
「うん、可愛いから許します。次は忘れないんだよ?」
「はーい」
私の腕を離れ、ぺこりと頭を下げる波留。保育園に通い出して、随分、しっかりしてきたと思う。以前は私が抱えていた荷物も、今では「自分で持つ」の一点張りだ。
波留に荷物を渡した先生が、今度は私を見た。
「パースさん、今日はお迎えが早かったので。波留ちゃんもはしゃいじゃったみたいです」
フォローを入れて、「ねー?」と波留に同意を求める先生。それに、波留は照れた笑いを浮かべて、さっきよりも殊勝に、こくりと小さく頷いた。確かに、今日はいつもよりお迎えが早い。波留のことだけでなく、そんなところまで見ていてくれるなんて、いい先生に出会ったわ。
「ありがとうございます、先生。今日はね、パパも早く帰って来れるから。三人で、お寿司でも食べに行こうって、話をしてたの」
「あら、そうだったんですか。家族水入らずでお寿司なんて、いいですね。波留ちゃんもはしゃいじゃうわけです」
よかったねと、先生が波留の頭を撫でる。波留はまた満面の笑みを浮かべて、「お寿司ー!」と歓声を上げた。
見送ってくれた先生とお友達に手を振って、保育園を後にする。波留の小さな手を取り、波留の歩調に合わせて、波留の軽やかな声に耳を傾け、我が家を目指した。
流行りの歌を二人で口ずさんでいると、ふと、波留が足を止めた。まあるい瞳の見つめる先に、私も目を向ける。鬱蒼とした木々に囲まれたそこには、小さな神社がある。普段人のいる様子はなく、ただ微かな木漏れ日に照らされる、とても静かな場所。そこは、波留のお気に入りの場所でもあった。
「ねえ、ママ。神社さん寄ってもいい?」
「ええ、もちろん」
私が頷くと、パッと波留の表情が明るくなる。小さな体のどこにそんな力があるのか、繋いだ手にぐいぐいと引っ張られるまま、二人で境内に入った。
手水所で手を清め、鳥居をくぐる。波留はもう、慣れたものだ。最近は毎日のように通っていて、何かを熱心にお願いしている。
お賽銭を投げ、鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼。ぎゅっと目を瞑り、小さな手を合わせて、今日も波留は一生懸命にお願い事をしている。
――ねえ、神様。どうかこの子のお願いを、叶えてください。
私はというと、そんなことを願っていた。
「――うん、これでよしっ」
たっぷり一分ほど手を合わせた波留が、満足そうに頷いた。私も顔を上げて、また手を繋ぎ、家路につく。
「ねえ、波留?」
「なあに、ママ?」
「波留はいつも、何をお願いしているの?」
「……神様へのお願い事は、言っちゃいけないんだよ?」
口元に人差し指を当てて、秘密のポーズをする波留。ふふ、そんなこと、一体どこで憶えてくるのか。吹雪か大淀辺りが教えたのかもしれない。
「内緒話でもだめ?」
「えー、うーん、ナイショ話かぁ……」
うんうん悩む波留の目が、夕焼け空と私の間を行ったり来たりする。薄い紫の瞳に夕焼けの茜色が差して、あたかも宝石のようにキラキラと輝いていた。その煌めきに心を奪われ、頬の締まりをなくしてしまう。
むむむ、と真剣な表情を作った波留が、念押しするように人差し指を小さな唇に添えた。
「特別だよ?誰にも言っちゃダメだからね?」
「パパは?」
「パパはいいよ」
私に負けず劣らず、あの人のことが大好きな波留だった。
波留が私の手を引く。耳を貸してと、私に身を屈めることも求めた。それに頷いて、私は膝を折り、波留の口元に顔の高さを合わせた。
「あのね――」
小さな手で口元を覆いながら、波留はお願いの内容を口にした。耳をくすぐる軽やかな声が語るのはあまりにも可愛らしいお願いで、私はやっぱり頬を綻ばせて、その言葉に頷くしかなかった。
一通り語り終えた波留の口が離れる。目線の揃った娘の瞳を、私は見つめ返した。菫色の小さな瞳が揺れている。
「叶うかな?」
「――ええ。きっと、叶うわ」
群青を宿す黒髪を一撫で。波留はぱちくりと瞬きをして、「そうかな」と桜色の微笑みを零した。
電気ケトルのスイッチが落ちる頃、リビングの扉が開いた。寝る前のお茶にしようと、ティーセットを用意していた私は、キッチンからその扉の方を振り向く。
「波留、寝たよ」
心持ち静かな口調でリビングに入ってきたのは、波留のパパで、私の旦那様――私の愛しい提督。波留の寝室で、彼女にねだられるまま寝物語を聞かせていた彼へ、私は微笑みかける。
「随分楽しそうに話していたじゃない」
「今日一日あったことを話してもらってたんだ。――途中で寝ちゃったから、続きは明日かな」
パパ大好きっ子の波留を、提督も溺愛している。娘を見る目は、いつも締まりがなくて、だらしがない。まあ、きっと私も似たようなものだから、人のことは言えないのだけれど。二人揃って、立派な親馬鹿だ。
適温にしたお湯をポットに注ぐ。今夜はいつもと嗜好を変えて、ハーブティーにしてみた。穏やかな香りを漂わせるのは、カモミール。心を落ち着ける効果があるというし、寝る前には丁度いい。艦娘だった頃から私のお気に入りだ。
花の香りのお茶と、二人お揃いのカップを持ってリビングへ。ティーセットを置いて、カップにお茶を注ぐ。ふわりと包み込まれるような香りが、三人掛けソファの前に漂った。
「今夜は、カモミールかな?」
「ええ。最近、紅茶ばかりだったから。――はい、あなた」
ミニテーブルの上に、カップとソーサを差し出す。ありがとう、と受け取った提督が、早速花茶に口をつけた。そのすぐ隣に、私もゆっくりと腰を降ろす。
「――暖かい。パースの淹れるお茶は、いつも美味しいね」
「ふふ、ありがとう。でも、あなたの淹れてくれるお茶も、私は好きよ」
答えて、私も自分のカップを手にした。柔らかな香りが鼻孔をくすぐる。薄い黄色の液体に口づける。ほのかな温もりが舌の上を流れた。
しばらく、二人で静かにカップを傾けていた。ぽつりぽつりと他愛もない話をする。保育園の話だとか、基地の話だとか、明日のご飯の話だとか、週末のお出掛けの話だとか。
こうして穏やかに過ぎる時間は、二人で過ごした執務室の一時から、あまり変わっていない。
「ねえ、あなた」
カモミールティーをほとんど飲み終えたところで、私は改めて提督に切り出した。カップの中身を空にした提督が、どうしたと私に尋ねる。
「相談があるの。とても大事な相談よ」
「……ああ、わかった。それで、どんな相談?」
ふぅと、一度小さく息を吸う。星の瞬きを宿す瞳に、視線を合わせた。
「……波留がね、弟か妹が欲しいらしいの」
保育園からの帰り道、鈴の音色に似た声が告げたお願いの内容を、思い出す。
――「弟か妹をください、ってお願いしてたの」
保育園に通いだした頃から、兄弟姉妹のいるお友達を見ては、「お兄ちゃんいいなー」とか「妹かわいいなー」とか、そんなことを言うようになっていた。先生やママさんたちも、「結構そういう子はいますよ」と言っていた。波留も、そういうお年頃なのかもしれない。
私の相談を、ある程度察してくれたのだろう。提督は二、三と瞬きをして、手にしていたティーカップを置いた。「おいで」と言われている気がして、私は遠慮なく、彼の肩に頭を預ける。何だか今日は、とことんまで甘えたい気分だ。
「弟か妹が欲しい、か」
「ええ。――あの子の望むことは、私、できるだけ叶えてあげたいわ」
「うん」
小さく頷く提督に、さらに身を寄せる。大きな左手に、私の右手を重ねる。提督の手が、優しい力加減で、私の手を包んだ。
「それに、私も、その……二人目が、欲しいわ。波留ももうすぐ四つだし……いい頃合いだと、思うの」
そこまで告げて、改めてすぐ側の提督を見上げた。私を見つめる目と、真っ直ぐに目が合う。
提督が眦を下げる。柔らかな光を帯びる瞳に、一瞬別の煌めきが宿った。
提督の指が、私の指と絡む。それと同時に、小さな口づけが額に触れた。
「俺も、二人目が欲しいよ。パースと、子供、作りたい」
告げられた言葉に、私も頬を緩めて頷いた。
お姫様抱っこで運んでくれた提督を、そのまま力任せにベッドへと引きずり込んだ。二人分の重さを受け止め軋むスプリング。慌てた様子の彼には構わず、その首を両腕で絡め取って、強引に唇を重ねる。触れたところから流れ込む熱を、随分と懐かしく感じた。
キスは、よくする。毎日する。朝起きた時。出勤前。料理中。お買い物帰り。波留を寝かせた後。お風呂上り。就寝前。理由なんて特にない。時折、堪らなく愛おしくなって、つい、提督へ口づけてしまう。照れて笑う彼が可愛らしくて、またしたいと思ってしまう。提督も同じように、私にキスをしてくれる。
ついさっきもキスをした。帰宅した提督を、飛び跳ねて喜ぶ波留と共に出迎えて、その唇に触れた。
けれど、今私の唇を伝う熱は、そのどれとも違う。
「んっ」
観念したように、提督は強く唇を押し付けてきた。感触が鮮明になる。さっきまで嗜んでいたカモミールティーの香りが、一層強くなった。だというのに、心は落ち着くどころか、心臓が痛いくらいに高鳴っていく。送り出された血液が、入り込んだ彼の熱を全身へと運んでいく。
息は継げない。お互いの唇はぴたりと繋がって、隙間なく一つになっている。息をする合間がない。薄くなる一方の酸素を求めて、鼻息が荒くなる。その所作も久しぶりで、あまりうまくはいっていなかった。
先に耐えかねた提督が、下唇を離して息をする。それに合わせて、私も新鮮な空気を吸い込んだ。冷えた空気に驚く。たった一度唇を重ねただけなのに、お互いの唇も、吐息も、熱く湿っていた。まだ舌をまぐわせてもいないのに、呼気が荒い。
二人して、スイッチが入ったのはわかりきっていた。
唇を離すことなく、二度目のキスをする。提督の下唇を甘噛みすると、ぶるりと彼が震える。頭の下へ回った腕に、ほんの一瞬力が籠る。
提督もまた、私の上唇を甘噛みする。甘やかな刺激が脳を痺れさせる。一瞬、視界がぶれて霞む。彼を絡め取る腕に、つい力が入る。
しばらく、甘噛みの応酬になった。数秒の間隔で息を継いでは、ゆっくりと相手の唇を蹂躙する。息を絡ませ、水音を響かせ、熱を与えて、その柔らかで敏感な部分を責め立てる。何度も、何度も、飽きることなく繰り返す。時折漏れる媚薬のような声と、甘美な響きの吐息に、心音が一段も二段も高鳴った。
差し出した舌先が触れる頃には、お互いの唇が、お互いの唾液でしとどに濡れていた。つっと、冷たいのか熱いのかわからないものが頬を伝う。それに構うことはなく、彼の蠢くものを求めた。
唇とは全く違う感触。弾力があって、触れれば押し返される。なにより、それだけで意志を持っているように、縦横に動く。それを追いかけ、絡めて、交わり、まぐわう。
「ぅ……んぅっ」
舌の感触は、随分久しぶりだった。触れるのも、触れられるのも、ここしばらくはない。だから、そこがとても繊細で、敏感で、快楽と悦楽をもたらすものであることを、失念していた。
触れ合った舌がくすぐったい。思わぬ感触に驚いて、一瞬舌を引っ込める。つがいを失った提督は、代わりにやや尖った先端で唇を撫ぜた。ざらりとした表面が、甘噛みの刺激に蕩かされ感覚の過敏になった上唇を、殊更優しく扱う。先程の甘噛みと対照的で、ともすればもどかしいほどの触れ方。
「あなた……」
息継ぎの間に、提督を呼ぶ。唇を転がす彼の舌に、改めて私の舌を伸ばした。
蠢くものが、再び触れる。触れたところから快感が走る。折角吸った空気が、鼻から漏れていく。触れれば触れるだけ、頭の奥底にあった快楽の記憶を呼び起こされる。甘い刺激に思考がぼやける。絡めれて交わり、二人の唾液を交換した。林檎のように甘く微かに酸味のあるカモミールの味がする。
繋がった唇の間で、私たちの舌がまぐわう。一度触れてしまえば、離れがたかった。夢中で舌を絡め、唇を吸い上げる。くぐもった声がいくつも漏れた。それが、もう、どちらの声なのかわからない。
舌を離すことなく息をする方法を、体が憶えている。提督とタイミングを探りながら、酸欠気味の体に、新鮮な空気を送り込んだ。吸い込んだ息に、愛しい人の香りが混じっている。それがまた、頭をくらくらとさせた。管理職とはいえ、現役軍人らしい逞しい腕に抱かれ、あなたの香りに沈んでいく。
お互いの唇と舌を散々貪って、ようやく、繋がりを解いた。最後まで名残惜しむように、舌先を触れ合わせる。二人分の唾液が混じり合って、夜露のような橋を架けた。
「パース、激しすぎ。息が、できなかった」
顔を真っ赤に染めて、提督が苦笑している。上下する肩の動きと、小刻みに漏れる深い息。荒い呼吸に、汗が一滴。
「ごめんなさい。でも、待ちきれなかったの。息のことなんて、すっかり頭になかったわ」
答える私の息も上がっている。肺一杯に吸い込む空気が、冷たくて心地よい。新鮮な酸素を体中へ巡らせながら、焼けるように熱くなった頬を緩める。その頬に、提督の指が触れた。
指の背が頬を撫でる。二度三度と、きっと今頃赤身のように染まっている私の顔を、その表面だけを掬い取るように微かな感触で上下する。唇に舌先が触れるのと同じくらい、くすぐったい。そわりと肌を伝う感覚に耐え切れず、大きな手のひらに顔を預けた。ごつごつと角ばって少し硬い、しかし私を包み込んで温かい感触に、全てを委ねる。そのまま、上がった息を整えた。
私の頬を、まるでお餅でも扱うみたいに、提督が軽く摘まむ。伸して、つねって、捏ねて、弄ぶ。
「ふぁあに、あなふぁ」
尋ねる声が、おかしな響きになる。それに笑顔だけを寄越して、提督はなおも私のほっぺを弄り続ける。しばらく、彼にされるがままになっていた。
一分くらい、そうしていただろうか。提督は頬を伸ばす指の動きを止めて、また微笑んだ。
「やっぱり、似てるね」
「?何の話?」
「パースのほっぺ、柔らかい。波留と同じだ」
愛おしそうに呟く柔らかな声に、激しい衝動が沸き起こった。
絡めたままだった腕に、再度力を込めた。引き寄せれば、提督の顔が近づく。
「パースっ……っ!」
驚いた表情。見開かれた両の瞳一杯に、私が映っていた。あなたが触れる金の髪。あなたを見つめる紫の瞳。暗がりの中に映り込む私は、少し、不満げな表情をしていた。
今夜三度目のキス。また強引に、有無など言わせず、提督の唇を奪った。私の名前を呼びかけて半開きの口に、私の舌を差し込む。そのまま、彼のベロを絡めて引きずり出した。私の唾液を押し付ける。
唇を強く吸う。ほんの少し歯を立てて甘噛みする。くぐもった声と痙攣。息を吸いたいのか、逃げようとする提督の頭を、決して離さない。唇を繋げ、舌を絡ませたまま、わたしはゆっくりと二十秒を数えた。
「……ぷはっ」
二十秒が経って、少し腕の力を緩める。頭を離した提督が、真っ赤な顔で苦し気に息を吸う。揺れる瞳が、私に何かを訴えかける。けれど、言葉を継がせる気はない。彼が息を吸ったこと、私の肺が酸素で満たされたことを確認して、また唇を合わせた。今度はさらに遠慮なく、彼を吸い上げる。魂すらも私のものにするつもりで、口づける。
文字通り、これは口吸い。あなたの全てを、私が吸い取っていく。
「んっ、ふわぁっ」
「パース、待っ」
待ったの声に、傾ける耳はない。余計な言葉を全て私の口で塞ぐ。今は、私だけを、見ていればいい。私だけを感じていればいい。そんな、どうしようもなく子供じみた願望を、彼にぶつけて甘えている。
折角整えた息が、また乱れている。お互いに何度も身じろぎを繰り返したせいで、服もベッドもひどい有様だ。そしてきっと、今の私の表情も、とてもお見せできるものではないはずだ。
結局、息の上がる限界まで、唇を触れ合わせていた。途切れた白濁の橋が、ぽたりと私の首筋に零れた。肩で息をする彼と私。向き合ってなお、お互いに言葉は継げない。
「パース、どう、したんだ」
絶え絶えの呼吸の間に、提督が尋ねる。優しい指先が私の乱れた髪を梳く。
自分でもわかるくらい、頬へ一杯に空気を送ってみせた。それを見た提督が、さらに髪を触る手つきを柔らかくした。どうしたのと、また優しい声が問いかける。
「だって、あなたが、波留の名前を出すんだもの」
提督が二、三と瞬きをする。いまいちわかっていない様子の彼の顔へ、手を伸ばした。人差し指で、たった今まで繋がっていた彼の口に触れる。
「今は、私とえっちしてるのよ。私以外の名前を呼ばないで」
……ああ、私、娘に嫉妬している。世界で一番可愛い、世界で一番大切な、世界で一番幸せになってほしい、娘に嫉妬している。
でも。でもね、あなた。
「あなた、最近、波留のことばかりだもの。波留のことばかり可愛がってるもの。……私だって、構ってほしいわ。私だって、可愛がってほしいわ。私だって、甘えたいわ」
それは、わかってほしい。一番愛しいあなただから、わかってほしい。
ねえ、甘えているわ。こんなに面倒くさいことを言えるのは、あなただけ。世界であなただけを信じていて、あなたにだけ甘えたいと思うわ。
「……私だって、可愛いもん」
信じられないくらい、拗ねて子供っぽい声が出た。キスで蕩けて真っ赤な顔を見られるより、今唇を尖らせている顔を見られる方がよっぽど気恥しい。けれど、私が話している間、真っ直ぐに見つめていてくれた美しい瞳から、目を逸らすことはできなかった。
温かな指が、慈しむ加減で頬を撫でた。薄い唇が額へキスを落とす。
「ごめん、パース。そんなつもりはなかったんだ。寂しくさせていたなら、許してほしい」
「……いいえ、いいのよ。私も、面倒くさいことを言って、ごめんなさい」
提督は首を振る。柔らかな手つきが、なおも私の頬を撫でる。
「もちろん、波留は大事だよ。愛しい娘だ。世界で一番可愛いし、世界で一番大切だし、世界で一番幸せになってほしい。でもね、パース。俺の手で幸せにしたいのは、パースだけなんだ。俺と一緒に、幸せになってほしいのは、世界で一人、パースだけなんだ」
こんなわがままを言うのは君にだけだと、提督は気恥ずかしそうに、けれど真剣に私へ語りかける。
……ああ、そうなのね。あなたも私に甘えている。私だけを信じていて、私だけに、そのわがままを教えてくれる。私にだけ、「俺と幸せになってくれ」と、そう甘えている。
その温もりが愛おしい。
自然と頬が綻んだ。あなたを見ると、微笑まずにはいられない。私だけのあなた。私の愛しい人。私が幸せにしたい人。
あなただけに、甘えている。
あなただけを、甘やかしている。
「ねえ、あなた。私、あなたにはたくさん甘えるわ。だから、あなたも私にたくさん甘えて。私が、甘やかすのが大好きなの、あなたはよく知っているでしょう」
「――ああ、知ってる。君が、甘えるのが上手なことも、甘やかすのが得意なことも、よく知ってるよ。俺も、パースに甘えるのも、甘やかすのも、大好きだ」
「ええ、ええ。ふふっ、ねえ、そうしましょう。私たちはパパとママだけれど、旦那さんと奥さんでもあるのよ。甘えていいの。甘やかしていいの。そうやって、生きていくんだもの」
そう言って、二人で笑い合った。不思議なくらい穏やかに、当たり前のように柔らかに、掛け替えのない愛おしさで、笑っていた。提督の瞳には、私だけが映っている。そしてきっと、私の瞳には彼だけがいる。
もう一度、今度はゆっくり、彼を抱き寄せる。首へ絡めた腕に、少しずつ力を入れていく。提督も、頬を撫でて髪をひと掬いし、その鍛えられた腕を私の頭の下へ差し入れた。
「ねえ、キスして。今度はゆっくり、あなたを感じたい」
「――ああ、わかった」
微笑む王子様に全てを委ねて、私は目を閉じた。
柔らかなものが、探るように私の唇へ触れた。ぶつかりそうな勢いで重ねたさっきまでとは打って変わって、その先端から徐々に馴染ませる。穏やかに、緩やかに、二人の熱が混じり合った。
唇を交わらせる。それが初めてみたいに、丁寧に、慎重に、キスを交わす。誓いの口づけと同じ、時間はゆっくりと過ぎていて、静寂の中に私と提督だけがいた。
世界には、私と提督の二人だけ。心細くもあり、頼もしくもある。ゆっくりと唇を開いて息継ぎをしながら、腕を解いた。私を抱く彼の腕に、手を這わせる。がっしりとした二の腕が、彼が男の人なのだと再認識させる。
愛しい人の腕の中で、ただ唇を重ねる時間に、幸福を感じている。
キスをすればするほど、提督との境界が曖昧になった。お互いの呼吸が頭にこだまして、不思議な旋律を奏でる。意識がゆっくりと溶かされる感覚。それは酸素が薄いからなのか、それとも別の理由があるのか。ただ感じるのは、触れたところから提督の想いが流れ込んでくるということ。重ねた唇から、私の愛しさが彼へと伝わっていくということ。
あなたに私を、私にあなたを、少しずつ少しずつ、溶かしていく。
「……ぷはぁ」
要望通りの長いキス。胸が一杯になるくらい、提督を感じることができた。思考はすっかり蕩けている。体はすっかり火照っている。
それでも、まだ、あなたが欲しい。
私を見下ろす目が、怪しい光を帯びた。
本編もこのままいちゃらぶです。家に備えたお砂糖は全てぶち込みました。
気になる方はぜひ、「艦ママエロ合同」をよろしくお願いいたします。他にも多数の素敵な作家さん方が参加されております。