グラブルのカリオストロが書きたくてやった。後悔はしていない。

次のお話のためにR-18タグをつけました。つまり、そういうことです。

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第1話

 朝の日差しが、曇りひとつないガラスから部屋へと差し込み、机に突っ伏すようにして目を閉じている一人の少女の顔に光を当てた。

 

 外は快晴。まさに何をするにしても日和である。

 

 ところが、ムクリと身体を机から引き剥がすようにして起こした少女の表情はそうではない。

 

「あー……クソ、やっちまったぜ……」

 

 多くの団員が寝泊まりする騎空艇グランサイファーの中で、研究室も兼ねた部屋を割り当てられている金髪の美少女から、その可憐な姿に釣り合わない、乱雑な言葉が漏れた。

 

 少女のいる部屋は少女の見た目に相応しく、ファンシーな小物やぬいぐるみが所々に雑然と置かれ、日頃から可愛さの研究のために使う大きな姿見が鎮座している。

 

 ところが、打って変わって机上に目を向けると不思議なほど整理整頓されてはいるが、束ねられた書類や本の側に酒瓶が数本倒れ、トレードマークと言える髪飾りすらもなんらかの液体で汚れていた。

 

 部屋の惨状とも言える光景は、痛む頭を自作の酔い覚ましポーションで治し、冷静に机の上を見る少女に昨晩の醜態を嫌でも思い出させた。

 

 腰まで届く艶やかな金髪をぴょこぴょこと揺らしながら、机に向かって真剣な面持ちで座る少女の可愛らしい顔には、悩みの深さと同じ程度の谷間が眉間に厳しく刻まれていた。

 

 机に突っ伏して寝ていたせいで、乱れた赤いリボンとフリルがふんだんにあしらわれた服の裾を片手で伸ばしながら、少女はもう片方の手で頭を抱えたくなるほどの憂いを含んだ声を吐き出した。

 

「酔った勢いとは言え、これを一晩で作っちまうとは……さすが、世界で一番可愛くて天才のオレ様……我ながら恐ろしすぎるぜ……」

 

 すっかり酔いが醒めた少女——カリオストロは、机上に置かれた赤く、不思議な光を放つ石を、自らの白くて細い指で摘み上げると一つ小さな溜息を溢した。

 

「しっかし、どうすんだ……こんな賢者の石なんて作っちまって……」

 

 賢者の石——。

 

 錬金術の大原則である「等価交換の法則」を無視して、あらゆる物を生み出す力を持つ石のことである。

 

 金銀財宝、万病を癒し不老不死を得るエトセトラエトセトラ。

 

 偉大な錬金術師であろうと、対価無くしてそれらを得られるものではない。ところが、この賢者の石は、対価無くそれらを得ることができる。

 

 そんな賢者の石を追い求める愚かな人間が、この石ころ一つに払ってきた犠牲は少なくない。

 

 本来であれば黒化から白化、翠化、黄化、赤化——と。時間をかけて、様々なプロセスを踏んで作られる筈なのだが、悩ましげな表情を浮かべる自称天才錬金術師の酔った勢いは、その様々なプロセスを一晩で終えてしまったらしい。

 

「処分するのも一手間だな……誰か欲のない奴に渡すってのも手だが……うーん」

 

 賢者の石を処分する方法は2つ。願いを込めて何かを錬成させるか、物理的に破壊する事。

 

 尤も、物理的に破壊してしまうと、石の内包している大きなエネルギーが暴発し、島一つを容易く吹き飛ばし、破壊してしまう。

 

 となれば、一番被害が出ない方法は願いを叶える事、となるのだが、カリオストロは「真祖」と呼ばれる錬金術の第一人者。すでに不老不死と言えるプリティーでキューティーな身体を持ち、特に叶える望みはない。

 

 欲深い者に渡せば、安定している世界の理を崩壊させかねないため、あくまで欲のない者に些末な願いを叶えさせる他はない。

 

 欲のなさと言う観点から言えば、空飛ぶトカゲや青い髪の少女が一番に頭に浮かぶが、その選択肢を即座に捨て去る。

 

 空飛ぶとかげ——ビィは林檎のこととなると周りが見えなくなる傾向があり、賢者の石を使ってグランサイファーが溢れるほどの林檎を錬成するに違いないだろうし、ビィよりも旺盛な食欲のある青い髪の少女——ルリアなんて言わずもがな、だ。

 

「……グランにでも聞いてみるか……」

 

 カリオストロが次いで浮かんだのは無欲の権化と言える少年の名。

 

 騎空団を束ねる団長である少年は、きっと賢者の石をもらったところで困ったように笑いながら些末な願い事をするだろう。

 

 それも自分に対して使うのではなく、他人の幸せを願うような——。

 

 クスリ、とカリオストロは、数多くの修羅場を潜っていると言うのに、未だ純朴さの残る少年の事を思い出して笑みを浮かべた。

 

 そうだ、それが一番良い。アイツもたまには「欲」といった物を知る良い機会だ。

 

 そうと決めたカリオストロは、手にした賢者の石を大事そうに部屋にあった一番高価そうな布で包むと、善は急げ、と自分のへやから飛び出すのであった。

 

————

————

 

 「だんちょう」と拙い文字で書かれたプレートの下がる部屋の前に立ったカリオストロは、自分の服装や身なりが乱れていないことを確認し、すぅっと大きく息を吸い込み扉のノブに手を掛けた。

 

「おーい、団長!」

 

 バン、と勢い良く開けられた扉の音に、部屋の主は身体をびくりと跳ねさせた。

 

「どうしたんだい? あ、おはようカリオストロ、今日は一段と可愛いね」

 

 多くの団員を纏めている騎空団の団長だというのに、部屋の主——グランの私物は驚くほど少ない。

 簡素なベッドと簡素な机。机の上には本が数冊。

 

 入り口に近いところに置いてあるドレッサーには、普段から使う剣や籠手といった装備が無造作に置かれている。

 

 読みかけだった星の民に関する本を閉じ、クッションも敷かれていない椅子に腰掛けながら正面からカリオストロの姿を捉えたグランは、部屋に突然やってきた理由を訝しんだ。

 

「バッカじゃねーの? オレ様が可愛いのはいつもの事だろう? そんなことよりも、だ……団長」

 

 カリオストロの服は、普段と変わらない。可愛らしさを前面に押し出すリボン付きの物。

 

 そんな、可愛らしい姿の真祖と呼ばれる錬金術師が、突然グランの部屋に押しかけてきた事はこれまでに何回かある。

 

 それは大体、錬金術に使う素材を集めるお願いという名の要求であったり、可愛さの追求に余念がない美少女——元は男だ——への賛辞を求められたり、と様々な理由があるのだが。

 

 今回は少し、いや、かなりいつもとは声色が違う事に勘付いたグランは、どんな無理難題を吹っ掛けられるのかと身構えた。

 

「……あー、えっと、わかった! シャンプー変えた? いつもとは少し香りが違うし……あ、それとリボンの結び方を変えたとか!」

 

「ちっげーよ! あー、えっと、その、だな……」

 

 いつもであれば、容姿を賛美し、普段と違う所に気が付いたりすると、目の前の美少女は不敵な笑みを浮かべながら機嫌を上昇させる。

 

 ところが、否定の言葉とともに所在なげに片手で自らの髪をくるくるといじり回し、どことなく歯切れの悪いカリオストロの様子に、グランはこれまでとは比べ物にならないくらいの厄介事なのだろうと見切りを付けた。

 

 出入口は一つしかない。自由への逃げ道はカリオストロによってしっかりと塞がれている。

 

 万事休す——と言う言葉がグランの脳裏に浮かび、2人の間にどことなく気まずい沈黙が横たわった。

 

「……実は……さ、昨日……いや、今日か……酔っちまった勢いで、とんでもない物を作っちまってな……」

 

「……とんでもない物……?」

 

 カリオストロが真剣な時は、普段のぶりっ子っぷりはなりを潜める。

 

 故に、カリオストロが言う「とんでもない物」が、これまで以上に厄介な物である事は予想がついた。

 

 おずおずと、カリオストロが手に大事そうに持っていた高価そうな布に包まれた何かをグランの机の上に置き、勿体ぶるように、ゆっくりと布を取り払った。

 

「こ、これ! どうしたの!?」

 

 まず目に飛び込んできたのは、血の色のように赤い鉱石だった。

 

 赤い鉱石を見て、これまでカリオストロと共に戦った最近の出来事が脳裏に浮かぶ。

 

 ある時は研究所で、ある時は遺跡で、またある時は、島に住む2人の少女——一人はホムンクルスだが——を救うために。

 

 赤い鉱石——賢者の石とは切っても切れない因縁めいた物がある。それが今、グランの机の上に置かれていた。

 

「実はな、昨日酔っちまった勢いで……」

 

 カリオストロの説明——という名ばかりの言い訳を聞き終えたグランは、思わず頭を抱えてしまった。

 

「で、賢者の石で願いを叶えるために、僕に白羽の矢が立ったって訳?」

「……そうだ……オレ様も、グランサイファーを沈めたくないしな」

 

 ルリアとビィが、爆発炎上真っ只中なグランサイファーを背景にリンゴとパイを口いっぱいに頬張る情景が頭に浮かび、グランの部屋に、気まずい雰囲気が流れた。

 

「はぁ……」

 

 沈黙が二人の間を流れ、グランは深いため息を吐いた。

 

 カリオストロをして、「無欲の権化」と評価される少年であったが、彼は彼なりに欲深いことを自覚している。

 

 ——だが困った事に、その事をカリオストロは知らない。

 

 胸の奥深くで、たしかに存在しているマグマのようにドロドロとした感情を、グランが抱き続けているなんてことは——。

 

 ふわふわな髪の毛、ぱっちり二重の瞳。

 つんと上を向いた鼻は可愛らしく、ぷっくりとした唇は薄いピンク色。

 

 10代半ばにも見える少女が着ているのは、フリルがふんだんにあしらわれた、赤と白を基調とする大きなリボンのついたドレス。

 

 どこからどう見ても美少女なのだが、カリオストロは「元男」だからとグランの部屋によく入り浸っていた。

 

 しかし、グランとて男——それも、若い女性が多く所属している騎空団で禁欲を強いられているお盛んな年頃の——である。

 

 団長としてそれなりの部屋を充てがわれているとは言え、それでも手狭な個室に「元男」と称する美少女と2人きりになれば、誰でも否応無く、意識せざるを得ないだろう。

 

 「元男」だと言うのに、ふんわりと鼻を掠める甘い匂い。

 思わず手を伸ばしたくなる、ぷにぷにと柔らかそうな肌。

 

 カリオストロという一個体を構成する全ての要素が、グランにある種の我慢を強いていた。

 

 それは、年頃の男であれば誰でも持っている劣情。団長が団員に向けてはいけないモノ。

 

 つまるところ、グランはカリオストロの事を異性として意識していたのだ。

 

 だのに、カリオストロがするのはこの所業である。

 

 もちろん、自分が彼女に信頼を寄せられていると言うことは理解できるし、少しばかりの自尊心をくすぐられた。

 

 だが、グランの今まで積み重ねていた我慢は何のためだったのか。

 

 賢者の石さえあれば、目の前の錬金人形——カリオストロに、自分の子供を孕ませる事ができる。

 

 悠久の時を生きる少女に、一緒の時を歩んでもらえる。

 

 さまざまな感情が。さまざまな思惑がグランを襲い、その感情の全てを吹き飛ばすようにグランは大きくため息をついた。

 

「あのさ……カリオストロ……」

 

 グランの願い。そんなものは決まっている。しかし、それを口にするのは憚られた。

 

「いや……えっと……」

 

 逡巡。そして沈黙。

 

 グランの様子がいつもと違う事に気が付いたのか、目の前にいる少女は訝しげな視線を向けた。

 

「なんだよ団長。なんか……目が怖いぞ? あ、きゃはっ⭐︎ 団長さんはー、もしかしてー、カリオストロの事好きになっちゃったの?⭐︎」

 

 まさに小悪魔的、挑発的な物言いだった。

 だから、グランは悪くない。純情な気持ちを抱く少年に、不遜な言動をしたカリオストロが圧倒的に悪い。

 

 カリオストロの言葉を聞いた瞬間、プツン——、と神経のどこかが切れる音がグランには聞こえ、グランはカリオストロの手首を掴み自身のベッドへと引き倒した。

 

「きゃっ! ってーな、この……!」

「……そうだよ!」

 

 肯定の言葉に、再び二人の間に沈黙が横たわった。

 予想外な言葉を聞いたカリオストロの行動が、全て止まる。

 

 ニヤニヤ、という言葉が似合う不遜な笑みを浮かべていた口元は強ばり、心なしかヒクヒクと小さく動いていたが、目は口以上に物を言う。

 

 瞬き一つせずグランを見つめる瞳は、アメジストのような色。

 だが、その瞳はフルフルと確かに揺れていて、動揺しているのが見て取れる。

 

 グランはカリオストロの綺麗な瞳に吸い込まれるような感覚を覚えながら、負けじと瞳を見つめ返す。

 

「……は?」

 

 沈黙を破ったのは、カリオストロの方だった。

 

「おい……だんちょ……いや、グラン。本気で言ってんのか?」

 

 その声は、心底呆れた——と言うような、声色だった。

 手首を掴まれて、ベッドに倒されているというのに、元男の美少女錬金術師は至って冷静だった。

 

 グランは居心地悪く、その言葉に小さく頷く。

 

「……あー……はぁ……」

 

 今まで何度も肩を並べて戦ってきた団長が、力なく肩を落とす姿に、カリオストロは不思議と罪悪感を覚えた。

 

 カリオストロは美少女である。

 それは天地がひっくり返っても、誰もが肯定するだろう。

 

 そして、その容姿を保ちながら、年頃の少年の部屋に入り浸っていたのだから、グランがそう言った思いを抱くということは理解できる。なにせ、自分自身も男だったのだ。

 

 だからと言って、カリオストロは数千年の時を生きている錬金人形であり、片やグランは普通の少年だった。

 

 グランは先に死んでしまうだろうし、それに錬金人形の身体は不老不死。

 つまり、子孫を残す必要もなく、その予定もない。

 

 その事実をグランは知っているはずなのに、それでも異性として意識しているという事に、カリオストロはどこか優越感に近い感情を抱いていた。

 

「あのさ……グランは俺様の事が好きなんだな?」

「……うん」

 

 子供のように、言葉少なく肯定する声。

 

 しかし、グランの声はどちらかと言えば「言ってしまった。困らせたくなかったのに」という色の表情を見せ、カリオストロは何故かモヤモヤとした感情が腹に溜まる。

 

 カリオストロ自身、グランに対して悪い感情を持っていない。いや、むしろ好意を抱いていると言っても良い。

 

 若くして、今や大きな規模となった騎空団をまとめ上げる人望。

 魔物との戦いから、小規模の戦争までをも戦い、それで生き残っている武勇。

 

 そんなグランに惹かれて、騎空団に身を置いている女性団員も多い。

 

 少し手を伸ばせば、引く手数多——いや、最早食べ放題と言ってもいいだろう。

 

 そんな少年の色を残す青年が、「元男」の自分に対して好意を抱いているのだ。

 

 悪い感情を抱くはずはない。

 

「いつからだ……?」

「分からない……けど」

 

 グランはポツリ、ポツリと話し始めた。

 いつの間にか、カリオストロの事を好きになっていた経緯。

 そして、いつも通りとも言えるカリオストロへの賛辞。

 

 言葉を聞くたびに、心臓がトクン、トクン、と脈打ち、心臓から流れた血流がカリオストロの頬を赤く染める。

 

 いつも言われて慣れているとは言え、グランの気持ちを理解して聴くと、いつもと同じ言葉が違ったニュアンスを含んでいる事を改めて自覚した。

 

「……はぁ……」

 

 掴まれた手は振り解けそうにない。グランのズボンは、この気まずい雰囲気だと言うのに、年相応の若さとも言うべきか、高くテントを張っている。

 

 元男だからこそわかる、グランの情熱。

 無防備な姿を見せている、想いを寄せる相手を目の前にした男の本能。

 

 それを見たカリオストロの喉は知らずのうちにゴクリ——と鳴り、何故か胸が高鳴った。

 

「……グランは、どうしたい?」

 

 カリオストロの言葉に、グランは面食らった。

 

 想定もしていなかった答え。

 

 何故ならば、カリオストロの言うそれは——。

 

「オレ様も……おま……グランの事は、嫌いじゃない……し……それに、ソレ……キツイだろ? だから、性欲処理ならしてやる……勘違いすんじゃねーぞ? あくまで処理だ。ったく、このままだと一般の女子団員に盛られても困るからな」

 

 それに——、とカリオストロは決定的な言葉を口にした。

 

「まだ、赤ちゃ……んとか、オレ様にはよくわからねーし、その、覚悟が決まってない……と言うか……覚悟が決まったら……言うから」

 

 グランの好意を寄せる言葉への返答は、カリオストロのある意味直球な言葉が答えだった。

 

 カリオストロは、自分の下腹が何故かキュウ♡ と蠢くのを感じながら、特別製のボディに何故子宮を作ってしまったのか後悔するのだった。

 


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