しまむらに断られたい安達の6,000字。一応R-18指定にしておきます。
『A.L.N.』とは同じテーマの別の話で、重複する描写もあります。

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Regret

 試してはならないと、神は言ったそうだ。

 薄暗くて人気のない場所に、しまむらと二人で座っている。ここは田舎だから、そういう場所はたくさんあって、人といることが得意ではない私としまむらは、自然とそういう場所を知っている。

 何を話すでもなく、並んで座って夕日を見つめている。いや、夕日を見つめているのはしまむらだけで、私はそんなしまむらの横顔をじっと見つめている。

 私の右手はしまむらの左手を握っている。もちろん私から頼んで握らせてもらったのだ。これまでに何度もしまむらと手を繋いでいるが、一度としてしまむらの方から私の手を取ってくれたことはない。

 もちろん、恥ずかしいからそうしないというわけではない。したくないわけではないと思うが、したいとも思わないという辺りが正解だろう。もし前者なら、頼んでも断るだろう。

 いや、実際のところはどうなのだろう。

 しまむらは断らない。手を繋ぎたい。頭を撫でて欲しい。膝に頭を乗せたい。家に行きたい。両足の間に入りたい。色々なことを頼み、そのたびにしまむらは不思議そうに、あるいは迷惑そうに「なんで?」と聞いた。

 しかし、私がその理由を言うと、それがどんなに取ってつけたような理由であったとしても、しまむらは「まあ、いっか」と言ってそれを許してくれる。その時その時で、関係以上の要求もしてきたと思うが、しまむらに断られたことは一度としてない。

 必ずしも、してもいいことばかりではなかっただろう。されたくないこともあったはずだ。にも関わらず、絶対に断らないのは、しまむらにとって「嫌だ」と否定するのは、渋々するよりも苦痛で面倒なことなのだ。

 それは私に対してだけではない。しまむらは色々な友達からの誘いや要求も、同じように断らない。それは心を許していない証拠だ。妹や母親に対してははっきりと物を言うし、不満や要求も口にする。家族だからと言えばそれまでだが、私はしまむらとそういう仲になりたい。

 穴が空くほど見つめていたら、しまむらが「んー」と可愛らしく唸ってから、困ったように眉をへにゃっと曲げた。

「何?」

 心境は困惑40%、面倒臭さ60%といったところだろうか。そこに好奇心が10%でもあれば嬉しいが、しまむらは私に興味がない。きっと今、私が何を考えているかとか、そんなことはどうでもいいのだろう。

 しまむらは一体、どうして私と一緒にいるのだろう。時々そう思う。そして、一瞬で答えに辿り着く。私が一緒に帰ろうと誘うからだ。しまむらから誘ってくれたり、メールをくれたり、電話をくれたり、約束をしたり、そういうことはほとんどない。一切ないとは言わないが、私が明らかにそうして欲しいと要求した時くらいしかない。

 一方通行の寂しい関係。それでも私はしまむらと一緒にいたい。惚れた弱みというやつか、それともしまむらの方が遥かにヒエラルキーが上位だからか。だって、私から声をかけなければ、しまむらからは声をかけてくれないのだから、私が積極的になるしかないではないか。

 時々虚しくなる。いつの間にか日が沈み、紺からオレンジのグラデーションに染まる空に目をやって、そっとため息をついた。しまむらが怪訝そうな顔で首をひねる。そんな仕草もやっぱり可愛くて、私はどうしようもなくこの友達が好きなのだと実感する。

 しまむらはどうなのだろう。本当のところ、私のことをどれくらい友達だと思ってくれているのだろう。もしかしたら一番なのかもしれない。私にとっては紙よりも薄い関係に思えるが、しまむらにとってはこれでも深い方なのかもしれない。

 しまむらに断られたい。家族に対してするように、ネガティブな感情を叩きつけて欲しい。マゾなのかと言われそうだが、そういうことではなく、しまむらが感情をあらわに出来るような、心を許せる仲になりたい。

 試してはならない。たとえ神様がそう言ったとしても、私はしまむらを、私たちの関係を試したい。

「肩、抱いていい?」

 静かにそう聞くと、少しだけ沈黙があってから、しまむらが苦笑いを浮かべて私を見た。

「なんで?」

 いつも通りの反応。予想通りで驚きもない。

「風が、少し冷たいから」

 理由はなんでもいい。あまり風は吹いていないし、そんなに冷たくもないが、私がそうと言えばそうなのだ。しまむらは理由が知りたいのではなく、自主的に思い留まらせるために「なんで?」と聞いているように思う。さすがにそれは穿った見方をし過ぎだろうか。

「まあ、いいけど」

 しまむらがそう言いながら、少しだけ私の方に体を傾けた。その肩を右手で抱き寄せると、その温もりと肌の柔らかさに鼓動が速くなった。しまむらが私の肩に頭を乗せる。ふわりといい香りが私の鼻腔をくすぐった。

「安達はよくわからないことをねだるねぇ」

 しまむらがそう言いながら、薄くまぶたを閉じてくすっと笑った。

 何を考えているのかさっぱりわからない。そっと髪を撫でると、しまむらは気持ち良さそうに吐息を零した。

 これは嫌々ではないのだろうか。楽しそうにも見えるが、喜んでしているわけではないのだろう。何故なら、最初の反応が「なんで?」だからだ。最初から「いいよ」とはにかみながら言ってくれたら、私もそう思うことができるが、嫌そうに「なんで?」から入るしまむらが、実は喜んでいるなどと、どうして思えるだろう。

 穏やかな時間が流れていく。いつもならきっと、こうして肩を抱けただけで満足しただろう。いつもこうして、関係以上の要求をして、しまむらがそれを許してくれることで仲が深まってきた。しかし今日は、目的が違う。しまむらに断らせたいのだ。

「しまむら」

 呼びかける声が硬くなった。しまむらは先程と変わらず、「んー?」とやる気のない声で言った。私はごくりと息を呑んで、意を決して口を開いた。

「太もも、触っていい?」

「……なんで?」

 困惑20%、不快度80%といったところだろうか。至近距離で私を見て、実に迷惑そうに眉を曲げた。

 引けと表情で訴えているのだろうか。しかし、私は向けられている表情よりも、距離の近さに胸が高鳴って顔が熱くなった。思わず視線を落とすと、しまむらの白い太ももが瞳に飛び込んできた。

「白くて、綺麗だから」

「白くて綺麗だと触りたいの?」

「美味しそうなケーキがあったら食べたくなるでしょ? それと同じ」

「同じかー……」

 しまむらが腕を組んで、わざとらしくうーんと唸った。答えはわかっている。「ちょっとそれはさすがに」と言われることを期待していたが、しまむらはやはりそうは言わなかった。

「まあ、いっか」

 いいわけがないだろう。頼んだことを承諾してもらえて、こんなにも寂しくなることがあるだろうか。

 右手で肩を抱き寄せたまま、左手をしまむらの太ももの上に置いた。少しひんやりしているが、人の温もりも感じる。不思議な感覚だ。そっと指先を滑らせると、その滑らかな肌触りに鼓動がますます速くなった。脈拍のギネス記録に挑戦できそうだ。

 太ももの内側に手を潜り込ませると、しまむらが侵入を拒むようにぴったりと膝を合わせた。構わずに太ももの内側を撫でながら、短いスカートの中に滑り込ませた。だんだん肌が熱くなってくる。表面がしっとりしてきたのは、私の手の汗だろうか。

 指先が下着に触れる。むにっと柔らかな肉を指で押しながら、私はいい香りのするしまむらの髪に顔をうずめた。

「何がしたいの?」

 しまむらが感情のこもらない言った。怒っているように聞こえたのは、私が怒って欲しいからだろうか。

「しまむらを全身で感じたい」

「なんで?」

「気持ちいいから」

 実に独りよがりな理由だ。しまむらの方にわずかのメリットもない。

 ただそれは、膝枕がしたいとか、髪を撫でて欲しいという要求だって同じだ。しまむらが私のことを好きではない以上、何をしたってしまむらの方にはメリットがない。極論を言えば、一緒にいることすら、しまむらには成り行き以上のものはないのだ。

 腋の下から右腕を入れて、しまむらの胸に触れた。ブラジャー越しでもわかるとろけるような柔らかさ。少し乱暴に揉むと、しまむらが手に力を込めて私の腰をグッと引き寄せた。

 次は何を頼もうか。何か頼まなくては、しまむらは断れない。胸を揉んでいいか頼むべきだっただろうか。もしかしたら私は、当初の目的を忘れて、今や断られたくなくなっているのではないか。

 お腹の方から下着の中に手を入れると、じょりっと硬い毛の感触がした。さらに奥へ突き進むと、指先に感じる湿度が一気に上がった。梅雨の季節に、冷房の効いた電車から駅に降りた時のような感じだ。いや、全然違うか。

 髪に顔をうずめて荒い呼吸をしていたら、しまむらが顔を上げて目が合った。少しだけ赤く充血して、涙の膜で潤んでいる。我慢するようにきゅっと引き結んだ唇が可愛い。全部可愛い。

「キスしていい?」

 これで終わりだ。右手を服の裾から中に入れて、少しだけ汗ばんだお腹を撫でた。左手は今や完全にしまむらの股間に辿り着き、わずかに湿った合わせ目をなぞっている。

「なんで?」

 そう聞いたしまむらの息が顔にかかる。もしここで、「好きだから」と言ったらどうなるだろう。いつだって、私はそれを伝えることができた。けれど、決して口にして来なかった。言ってしまったら、関係が終わってしまいそうな気がしたから。

 どうせしまむらは断らない。それならもう、「やめて」と拒絶されるまで続けよう。

 しまむらの唇を塞ぐと、腕の中でしまむらの体が小さく震えた。唇が柔らかい。触れ合う頬や鼻先が気持ち良くて、私は頭がくらくらした。

「しまむら、しまむら……」

 うわごとのようにそう繰り返しながら、しまむらの唇をむさぼる。舌を入れて口の中を舐め回すと、しまむらがたどたどしく舌を絡めてくれた。

 服の中に入れていた手を胸まで上げて、乱暴にブラジャーを鎖骨の方に押しやった。片方の胸を手の平で包み込む。片手ではぎりぎり覆えないくらいの大きさだ。

 だんだんしまむらの呼吸が荒くなる。まさか気持ちいいからではないだろう。うっすらと目を開けると、何かに堪えるように顔をしかめていた。

 早く「やめて」と言って欲しい。しまむらはそれを言えるようにならなくてはいけない。ここにいるのがいつも私とは限らない。好きでもない相手から求められて、はっきりと断れないのは色々とまずい。

 無理やり太ももを開かせるように左手の拳を奥まで入れて、指先を揃えて脚の付け根を撫で回した。ぬるぬると滑りが良くなってきたのも、生理的なものであって、決して気持ちいいからではないだろう。全身は怯えたように硬直したままだし、表情からも安らぎはまるで見出だせない。

 空はいつの間にか赤みを失い、辺りにも夜の帳が下りる。時々どこかで車の走り去る音がする他には、風の音しかしない。だから、私たちの吐息と、布の擦れる音、いくつかの水気のある音がよく響いた。

 しまむらは両手を私の背中に回して、先程よりは幾分体の力を抜いて私のキスに応じている。表情からも険しさが消え、ジョギングをした後のように脱力した様子で荒い息を吐いている。

 下着の中はぐちょぐちょになって、敏感なところに触れると、しまむらの体が小刻みに震えた。時々「ん……」と小さな声を漏らす。その声は麻薬のように私の脳を痺れさせ、だんだん意識が遠退いてきた。

 どこに落とせばいいのだろう。もっと早く「やめて」と言われるはずだった。腕が疲れてきた。もう30分はこうしている。このまま私が疲れてやめてしまったら、また何も変わらない。

 中指をぬるりと中に入れると、しまむらが「あぅ……」と可愛らしく呻いて私の体にしがみついた。熱くて柔らかな肉が指全体に絡みつく。下手に動かすと、爪で傷付けてしまいそうだ。

 関節を曲げるように指を動かすと、ぴちゃぴちゃとイヤらしい音がした。

「はぁ、はぁ……」

 しまむらが苦しそうに喘ぐ。唾液を塗り付けるようにうなじを舐めながら、中指に添えるように人差し指を突き立てた。

 入口は狭く、とてもではないが入りそうにない。それでも無理やりねじ込むと、しまむらが私の肩を掴んで眉間に皺を寄せた。

「痛っ……痛いっ!」

 痛いというのは、やめてと同義だろうか。指を2本揃えて、勢いよく根元まで突き入れると、しまむらは獣のような叫びを上げて、私の腕の中で大きく首を振った。

「痛い! 安達、痛い……」

 反射的にしまむらが私から逃げようとする。その体を地面に組み敷いて、乱暴に掻き回した。もがくしまむらを押さえつけ、無理やりキスをする。胸を鷲づかみにして、左手を大きく動かすと、しまむらが泣きながら悲鳴を上げた。

「痛い痛い! もう嫌! やめて! やめてっ!」

 その悲痛な叫び声に、私は電池が切れたように動きを止めた。慌てて下着から手を引き抜くと、しまむらが呻ぎ声を上げて、横たわったまま体をくの字に折り曲げた。苦しそうにお腹を押さえて、細い肩を震わせる。

 左手を見ると、指先が真っ赤に染まっていた。そのギラギラした赤色に、私は思わず一歩後ずさりした。

 足元では、よほど痛いのか、しまむらが歯を食いしばって泣いている。体を動かすたびに制服が土で汚れる。

 これが私の求めていたゴールなのか。私は思わず口を押えて、呆然と立ち尽くした。

 私は一体何をしようとしていたのだ。1分前の拒絶が、私への信頼と愛情の高まりだと、何をどう解釈したらそう思えるのか。

「私、間違えた」

 汚れていない方の手でしまむらの肩に触れると、乱暴に払い除けられた。その衝撃によろめいて、私は何歩か後ずさりした後、いたたまれなくなって思わず駆け出した。

 私は間違えた。

 私はただ、しまむらと仲良くなりたいだけだった。

 なんでも応えてくれるしまむらがもし断ったら、それこそが信頼の証だとそう思った。

 だから私は、しまむらが嫌がりそうなことをした。

 好きな子にちょっかいをかける男子小学生みたいだ。いや、ちょっかいとは、こんなふうに手が血まみれになるものだろうか。

 膝枕の延長だった。私がしたいことは全部、しまむらもしてもいいと思えることだと思っていた。ナイフでお腹を刺したいと言えば、しまむらは「嫌だ」と言ったはずだ。だから結局、断らないということは、しまむらもして欲しいのだと勘違いしていた。

 私は、どこかで間違えた。

 家に帰るとすぐに、しまむらにメールを送った。『ごめんなさい』と何度も送った。しかし、まるで安否を伝えるように1通だけ既読になった後は、もう既読すらつくことはなかった。

 次の日から、私は毎日体育館の2階で、膝を抱えて座っていた。もはやしまむらのいる教室になど行けるはずがなく、私にできることは、いつかしまむらがここにやって来て、私を教室に連れ戻してくれるのを待つことだけだった。

 もちろん、そんな日が来るはずがない。仲が良かった時でさえ、しまむらが自分から私のところに来てくれたことなどなかった。

 時々足音がして、そのたびに違う生徒が居心地悪そうに私を見て帰っていく。

 今日もコツコツと階段を上って来る音がする。私は違うとわかっていても、心のどこかでしまむらではないかと期待する。

 情けない私は、もう自分からは動けない。だから、どうかその足音がしまむらのものであって欲しい。

 私はただ、そう願い続けるのだった。

 


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