※この作品はR-18です。

ゴブリンガービッジ~恋人が苗床廃人になったので格安娼婦に仕立て上げます~   作:幻闇

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6話 小鬼の生ゴミ~Sideアッシュ~☆

 大陸東部の湾に面した貿易都市ミルガーナ。

 この都市は大きく湾曲した入り江の内側に位置し、指輪を飾る宝石にも例えられる東部辺境随一の貿易の要だ。

 

 朝は入港した貿易船で賑わい、昼の間も年中お祭り騒ぎでもしているかの様に毎日どこかしらで催し物が開かれている。都市は堅牢な城壁と、精強無比で知られる辺境伯軍によって守られ、名の知れた野盗団や迷宮から溢れ出したモンスターパレードすらも寄せ付けぬ、難攻不落の城塞都市という側面もあった。

 

 金と人の集まる所には当然、それを狙う悪人や魔物共が集まって来る。帝国の要地であるこの都市が如何に大事に思われているのかは、守護の任に着く一兵卒一人一人に至るまで最新鋭の武装を支給されているのを見れば一目瞭然だろう。

 

 

 だが、華やかで活気あふれるこの都市であっても、陰の部分は存在する。

 わかりやすく路地裏にある寂れた場末の酒場。光を厭い、影に住まう裏を生きる人間達の憩いの場になってるんだろう。

 

 そんな酒場の中でも、とりわけ陰鬱で鬱屈とした雰囲気を纏う酒場。いや、店の問題では無いか。ここ最近常連になった冒険者の男……その男一人が放つ昏いオーラ――その男の所為でこの店は残り少ない普通の客にも敬遠されてしまっている様だ、まあ俺の事なんだが。

 

「冒険者殿、酒は命の水とはいえ、過ぎるとお身体に障りますぞ」

「この程度で酔いはしない……マスター、もう一瓶頼む」

「ドワーフでも無い人種にしては凄まじい酒豪ぶりですな。お持ちしましょう」

「ありがたい」

 

 これでもそこそこの冒険者だ。蓄えは沢山あるし、こないだのゴブリンパレードの阻止と戦利品を売った金でかなりの大金が稼げた。

 

 マスターが持ってきた酒瓶を早速開けてグラスに注ぎ、一息に熱い酒精を飲み干す。焼け付くような喉の灼熱感が溜らなく心地よい。

 だが、その一瞬の酩酊感の後に訪れるのは……重く、昏く、責め苛む様な自責と後悔の嵐そのものだ。

 

 叩きつける様にグラスを置いて、唇が破れる程に噛み締め、掌に指の爪が皮膚を抉って食い込む。クソ野郎……クソ野郎……大事な恋人を護る事すら出来ぬ無力なゴミめ……お前の所為でユナは……ユナは……あ(・)ん(・)な(・)姿(・)に……ちくしょう……ちくしょう――

 

 心の中にいくつもの言い訳が浮かんでくる。

 

 なんとか街まで逃げ帰りギルドに報告したその場で、帝都を挟んだ大陸の反対側、西部辺境区で発生した魔神皇(デーモンロード)が指揮するデーモンパレードの話を聞かされた。

 大陸中の腕利き冒険者達はそちらにかかりきりでマトモな戦力など残っていない事、ゴブリンとはいえエンペラーが住まう新たなダンジョンという危険地帯に向かえる冒険者など存在しない事、耳に入って来る説明は絶望的な物しか無かった。

 

 向こうの騒乱が治まり次第、冒険者を呼び戻して討伐チームを組むとの事だったが……結局それに要した時間は実に五か月、焦りとユナへの想いで心が引き裂かれそうな日々だった。

 

 

 焦燥に心身を灼かれながらも他の討伐依頼をこなしたり、冒険者が少なくなった隙を狙った野盗団を殲滅したり、ダンジョンの偵察やマッピングを行う日々。

 経験を重ね、遂にはファイターとして位階7にまで達した俺は、ユナを奴等に奪われてから五か月後に、集められた冒険者達で結成された討伐部隊のリーダーとして抜擢された。

 

 俺という位階7の剣士に位階5~6の近接職が五人、他にも同程度の実力のプリーストやウィザード、エルフの精霊術師(エレメンタラー)や、暗黒魔法によって敵意を己に集中させて仲間を護る事に特化した重装の暗黒騎士(ダークナイト)等、錚々たるメンバーが揃っていたし、罠やダンジョンのマップも俺が事前に作成した物をパーティで共有したのだ。

 

 ユナが囚われたダンジョンは結局、単階層の広大なものだった。

 道中は何も問題は無かったのだが、探索の末、ゴブリン集落に辿り着いた俺達はその陣容の厚さに驚愕した。

 

 

 ついこの間の出来事だ、まだ鮮明に覚えている。集められる範囲で最高のメンバーを揃えたし、あとは殲滅してやるだけだ……って思ってたんだがな。

 

 ユナを人質にされる心配はなかった。あいつらゴブリンは母胎を集落の奥に隠し、戦の肉盾になど使わないのだ。生殖に特化した本能のままに、貴重な苗床が死ぬよりは自分が死んででも敵を殺す。そういった種族なのだ。

 

 思い出す……思い出していく……昏く重い、開けたくない記憶の扉が開き、忌まわしい記憶が、どろどろと溢れ出していく。

 

 

ーーーーーーーーー 

 

 

「なんて規模だ……あの時の倍くらいに集落が膨れあがっている」

 

 ユナと二人で無限回廊の罠から抜け出した時に確認した、大規模な上位ゴブリン達の集落。

 だが、俺の目の前に広がるのはそんな当時の俺達を嘲笑うかのように増築され、もはや野戦陣地か簡易な砦かと思われる程に作られた巨大集落だった。

 

 広大な広間に通じる通路の陰で待機する仲間達に進軍停止の合図を行い、通路の壁に身を隠しながら広間を覗き込む。上位ゴブリン達の姿が明らかに多い……これは、まず間違いなくユナの不幸な頑張りの成果なのだろう。

 

 このまま放置して居れば、ユナという上質の母胎を所有する彼等は瞬く間に数を増やして迷宮から溢れ出し、エンペラー率いるゴブリンパレードという最悪の事態を引き起こしていたのは間違いない。

 

 

「此処で殲滅するしかないな。ゴブリン共を根斬りにしてエンペラーを討ち取る。エンペラーは俺に任せてくれ」

「あいよ! アンタはエンペラーとお嬢ちゃんの救出に集中しな! 露払いはまかせとけや、あのお嬢ちゃんにはタダマンさせて貰った恩があっからよぉ」

「あんたまさか……、そういえばそこのドワーフ神官にも見覚えがあるぞ!」

「ブレーヴァスじゃ、我らもあれから位階を上げてのお……そこそこ役に立てるぞい」

「しゃあ! お前ら気合いれてけよ! アッシュの兄貴をエンペラーのとこまで送り届けるぞ!」

 

 

 気焔万丈の戦士達に向けて、戦女神アテナの加護を授かるべくブレーヴァスの勇壮な戦の詩(ウォーソング)が朗々と歌われ始める。

 

「人生とはすなわち戦いなり、おお! 闘争こそ真理、戦こそ誉れ……聞け! 猛々しき戦の女神よ! 此処に勇者つどい、戦いに臨まん。我らに加護あれ。鋼の意思を、燃え滾る勇気を賜れよ!」

 

 他のプリーストやエレメンタラーからも様々な支援の奇跡や魔法が掛けられた戦士達が、通路から巨大広場に飛び出して周囲の上位ゴブリン達を鎧袖一触に薙ぎ払っていく。

 

 年季のいった風貌の面傷も勇壮な暗黒騎士は、流石といった危なげのない戦い方だ。一刀のもとにゴブリングレートを斬り捨てると、振り向いて翳した掌から暗黒闘気の奔流を放ち、回り込んで後衛を狙おうとしていたゴブリンアサシンを吹き飛ばしている。

 それぞれに屠ったゴブリン達に一瞥もくれずに集落内から湧き出してくる敵を相手に戦う戦士達、ここは彼等に任せておいて問題なさそうだな。

 

 

 俺は、俺を信じて待ってくれている筈の最愛の女の許に向かう為に、仲間達によって拓かれた血路を進んでいく。

 

「邪魔だ……俺の道を遮るものはすべて斬る」

 

「ニンゲンメェ!! ヨクモカゾクヲ!! コロシテヤル!!」

「ニンゲン! ユルサナイ!」

「メスワタサナイ! ワレラノメス!」

 

 耳障りな金切声を上げながら、武器を構えて突っ込んでくる上位ゴブリン共。

 愛剣のかみそり刃(レザーエッジ)を無造作に振るい、汚ない血の華を咲かせながら奴等の本陣に突っ込んでいく。お前らに俺は止められない、俺とユナを阻む愛の試練にすら成れない。

 

 ただ無意味に、無様に死んでいけ。

 

「ギィィィィ!! ジィ……ネェェェ!!」

 

 広場の奥、ひと際大きな建物の門を守護する様に立ちはだかった二匹のゴブリングレート。先程まで殺してきた個体よりも一回り小さい彼等が、人間で言えば少年といった年頃であろう事は想像に難くないが……関係ない、敵ならば殺す。

 

「死ね」

 

――ヒュパッ

 

「ギャアアアアア…………カァサン――」

「ぐっ……なんだこれは――ぐううううううッ!! 心臓を鷲掴みにされた様なこの痛みと悪寒は……があああああッ!!」

 

 少年兵であろうゴブリングレート達を纏めて斬り捨てた瞬間に、俺の心臓に激痛が走った。死の抱擁そのものの様な冷たい悪寒に包まれ――それは唐突に治まる。

 

 呪いか何かか? それほどの使い手には見えなかったが……。

 先程斬り殺したゴブリンの少年兵を見れば完全に事切れている。死んだ瞬間に解けたのだろうか……でも何故、そしてアイツの最後の言葉……何と言っていた? たしかカァサン――母さんだと?

 

 脳裏に一つの記憶が蘇る。

 一年近く前の寝取らせ遊びで戯れに行った契約。例え誰が相手の子だったとしてもユナの子を愛するという愛神の名の許に行われた契約……つまり、今殺したのが……ユナの子……?

 

「ぐっ……おぶっ……おぼッ……おげえええええ」

 

 胃の中身を全てぶちまけてしまう程の、例えようのない気持ち悪さ。増えたゴブリンはユナが産んだのだろうと頭では解ってはいた。だが……契約による痛みが俺の精神に干渉しているのか、例えようもない不快感と罪悪感が俺の心を覆い尽くしていく。

 

「お゛え゛え゛え゛え゛…………おっぶ……げぼっ……」

 

 吐く物など無いというのに、えずきが止まらない……吐き出された胃液が口内を、喉を、食道を灼く不快感に抗う様に、高く振り上げた拳を己の腹に叩き込む。

 

「がッ――はッ……暴れんじゃねぇクソ胃袋、黙って治まってろ……関係ない、関係ない! ユナを助ける為なら、例えユナの子でも殺す!!」

 

 呼吸と心を落ち着けて、集落の中でも一際大きく、異質な建物の扉を開ける。

 飾り気のない石造りの館はいくら上位といってもゴブリンが作れる様なモノでは無い。恐らくダンジョンがゴブリンの為に用意した物だろう。

 

 シンプルな外観に違わずシンプルな内装だ。

 まるで王様みたいに奥の玉座でふんぞり返っているエンペラー。皇帝だから間違っちゃいないか。そしてその前には完全武装のジェネラルが3匹と少年兵が10体……ハハッ……何匹産まされてんだよ、ユナ。

 

 神との契約は誓約であり絶対だ。ペナルティの内容はそこまで激しくはない為、死んだりする事はなさそうだが、先程の激痛を殺す度に味わいながら10体のゴブリンを殺すのは少しばかりきついな……――そう思った時。

 

「兄貴ィ! 助太刀にきたぜぇ! 露払いはまかせてくれや!」

 

 確か、ゴルドリーオだったか。俺の二倍くらいチンポがデカい獅人族の若者だ。金色の体毛が血に塗れ幾つもの斬り傷がある。激戦を制してここまで来てくれたのだろう……なぜ兄貴呼ばわりなのかは解らないが。

 

「アッシュ殿! 援護いたしますぞ! 此処に勇者つどい、戦いに臨まん。我らに加護あれ――」

 

 続いて姿を現したブレーヴァスの勇壮な戦の詩(ウォーソング)が響き渡る。腹の底から湧き上がる熱い闘志が、翳りかけた俺の意思を鍛え上げていく。

 

「カッコいい所持ってくんじゃねぇゴルディ! リーダーは俺だぞ!」

「ユナちゃん救出できたら、また抱かせてくれよな! 旦那ァ!」

 

 クライトン、ゴエモン……。思い出してみれば、集ってくれた面々は彼等を始め、皆ユナを抱いた事のある者ばかりだ。穴兄弟のよしみってやつか? だからゴルドリーオは兄貴って呼んでたのか? まぁどちらにせよ、ありがたい事に変わりは無い。

 

「ゴアアアアアッ!! 部分獣化(パーシャルビースト)!!」

 

 半獣化したゴルドリーオが雄叫びを上げてゴブリングレート達に襲い掛かっていく。

 皇帝の近衛だけあるのだろう。血に飢えた猛獣と化したゴルドリーオの突撃を大盾で凌ぎつつ反撃していくグレート達。だが、ゴルドリーオの陰に隠れて素早く背後に回り込んだゴエモンの致命の一撃が、クライトンの狙いすましたクロスボウの一撃が、猛獣に気を取られたゴブリン達に突き刺さる。

 

「ギィィィィ! ワレラガアルジノモト! イカセン!」

「お前らの相手は俺だ。あの時の借りを返して貰うぞ」

 

 

 グレート達の相手をクライトンのパーティに任せ、エンペラーの直衛についているジェネラル三匹を相手取る。ユナを奪われた五か月前、三匹を相手にして致命傷を避けるので手一杯だったあの時とは違う。

 

 頼もしい仲間のお陰で、背後を気にする必要も無い。ユナを助け出す為に血反吐を吐いても生き延びて、死線を越えて来たんだ。

 

「戦技(アビリティ)――全力解放(オーバードライヴ)」

 

 肉体と防具を覆う闘気の硬度を引き上げる戦技、オーラバリア。

 武器に纏わせた闘気によって剣身そのものを闘気の刃で覆う戦技、オーラソード。

 脳髄を中心とした人体を網羅する神経系、血管系、リンパ系、全ての循環器系を闘気で強化して身体能力を向上させる戦技、オーラバトラー。

 

 通常は一種類のみを発動させる戦技を三つ同時に発動させる。

 効果時間は5分程度しか持たず、戦技が解ければ反動で一週間はマトモに動けなくなるが、ユナの救出と天秤に掛けるまでも無い。

 

「ガアアアアアッ!!」

 

 全力解放の反動で、全身が砕け散る様な激痛が襲ってくる。だが、それ以上に魂を灼き焦がす様な憎悪と憤怒が、エンペラーとジェネラルを目の前にして溢れ出す。

 

 

――ドンッ! ドガガガガガガガガッ!

 

 全力で走る俺の足元で、石造りの床が脆いガラスの様に砕け散っていく。

 闘気で覆った魔剣の刃を構え、身体を回転させながらジェネラル達を纏めて薙ぎ払う。

 俺の覇気に圧されてか、受け身になったジェネラル達がそれぞれに盾を構えて防御を固めている――が、意味は無い。

 

――ズシャアアッ!

 

 闘気を籠めたかみそり刃(レイザーエッジ)の斬撃で、構えた盾ごと三匹のジェネラルをぶった斬る。

 それなりの闘気を消耗するが、どのみち全力解放を使った俺が動ける時間は少ない。

 上下二つに分断され、信じられないといった顔で斃れていくジェネラル達の背後で、驚愕の表情を浮かべているエンペラー。

 

 次は貴様だ……。

 

「バカナァッ! ワガセイエイタチガッ! バケモノメェッ!!」

「やっと貴様を殺せる……五か月間何度も貴様を殺す夢を見たぞ……エンペラー!!」

 

――ギィン!!

 

 辛うじてエンペラーの抜剣が間に合い防がれはしたものの、その表情に余裕の色は無い。

 だがそれはこちらも同じか。流石はゴブリン族を束ねる長だけはある。闘気を籠めたレイザーエッジの斬撃でも斬れない剣という事はあちらもそれなりの魔剣という事だろう。

 

――ガァン!! バギィン!! ギンッ!!

 

 金属同士がぶつかり合う耳障りな軋み音を響かせながら、エンペラーと切り結び続ける。

 背後では未だ、クライトンらとユナの子たるゴブリングレート達の戦いが続いている様だが、ゴルドリーオの野太い咆哮の調子で彼等が優勢な事が解る。

 

 ならば俺はコイツに集中するだけだ。武器は互角、今は実力も拮抗しているだろう。だが、あと数分も持たずに全力解放が切れてマトモに動けなくなってしまえば俺に勝ち目はない。

 

「ソノチカラ、イツマデモモツマイ! ジキニハイカモアツマッテコヨウ! マモリニテッシ、チカラツキタキサマトモドモ、ソコノザコドモヲホウムッテクレルワ!!」

 

 醜い面を醜悪に歪め、守勢に回ったエンペラーがニタリと嗤う。流石にバレているか……全力解放の時間制限。

 

 武器も実力も拮抗している。

 こちらには時間制限がある。

 俺が崩れてしまえば、クライトン達の実力ではコイツに敵わない。

 

 正に背水の陣という奴だろう。どのみちここで、ユナを救出できなければ俺は死んだも同然なのだ。鍛えられた冒険者の女でも半年以上持った記録は無い。これ以上の面子を集めて再度討伐に向かうとしても、その頃にはユナはこの世に居ないだろう。

 

「良く動く口だ……弱い奴ほどよく咆えるというがな」

 

――ギィン!! バギンッ!!

 

 大振りの攻撃で奴の攻撃を誘う……チッ、乗って来ないか。

 あまり得意じゃあないんだがな。口での挑発は。

 

「フンッ! ソノテニハノランゾ……ニンゲンメ」

「思ったより冷静だな。まぁどのみち貴様を殺す事に変わりはない。絶対に殺す。何があろうとも、例え殺され様とも、魂魄のみとなっても必ず殺す」

 

 打つ手はもう無い。闘気も体力も残り少なく、レイザーエッジの特殊効果を発動させる為の余力も無い。

 

「ヌグッ……ナントイウサツイダ……――グオッ」

 

 だが、漆黒に塗り潰された殺意だけは、汲めども尽きぬ無限の泉の如く湧き上がってくるのだ。

 

「殺す……貴様を殺す……」

 

 殺意を乗せた刃を叩きつける。何度防がれようと構わない。この命尽きる前に届かせればいい。

 袈裟懸けに斬り下ろす。返す刃で切り上げる。バックラーを叩きつけ、捻じ込む様にレイザーエッジを突き込む。

 

 全てが防がれるが、剣は何よりも雄弁に使い手の心情を反映する。

 エンペラーの感情に恐怖という揺らぎが生まれたのを俺は確かに感じた。

 

――ギィン!! ガラァン!!

 

「ナンナノダコイツハ……ゼツメイノキキニ、シヘイトナッタカ」

「俺は死なん。貴様を殺してユナを救う」

 

 全力解放はもってあと十数秒だろう。後は無い。

 だが関係ない。

 殺す殺す殺す殺す殺す殺して――返して貰う。

 

 研ぎ澄まされた殺意を乗せた刃の一振りを受け止め、僅かに怯んだ様子を見せたエンペラー。

 

 レイザーエッジを大上段に振りかぶるには十分な隙だ。

 

「死ね」

 

――ガギィン!!!

 

「グヌゥオオオオオ!!」

 

 跳躍して叩きつけたレイザーエッジの刃を、柄と刀身を捧げ持つ様にして受け止めたエンペラー。

 

 ギリギリと拮抗する刃の鬩ぎ合いの向こうで、エンペラーが刃を受け止められた安心感からかニヤリと歪んだ笑みを浮かべた瞬間に、俺は左手のバックラーをレイザーエッジの刀身に思い切り叩きつけ――

 

――バガァン!!! ズシャ……

 

 にやけた笑みから一転、驚愕の表情を張り付けたまま、喉元までレイザーエッジの刀身を喰い込ませてゴポリと血泡を吐き出したエンペラー。

 

「ガフッ……ナンダド……」

 

 残された力を振り絞り、斃れていくエンペラーの胸板を蹴りつけて着地する。

 クライトン達の方も勝負は決した様だ。四人とも傷だらけになってはいるがこちらを向いて親指を立て、早く行けとでも言う様にサインを送っている。

 

 ユナは恐らくここの奥の部屋だろう、今助けに行くからな……長い間、待たせてしまってすまない。

 仲間達に断りを入れ、玉座の後ろから奥に続く通路にすすむ。全力解放の反動で、鉛を詰め込まれたように重い身体を引き摺るようにして――俺はユナの待っている筈の部屋に入った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 飲み干したグラスに酒瓶を傾けて注ごうとして……からっぽになってる事に気付いた俺。

 

「む、もう空か……マスター会計を頼む。頼んでいた物は出来ているか?」

「へいへい、ちゃんと出来てるよ。オレ様特製のほかほかで食べやすく消化にも良いシチュードリアだ。ライスも柔らかく煮込んであるからな、ちゃんと食わせてやれよ」

「心遣い感謝する。釣りはいらん」

 

 無造作にカウンターに大銀貨を一枚置くと、マスターが大袈裟に溜息をついてしまい込む。

 最初の頃は多すぎだ、受け取れないだのと五月蠅かったが、俺の所為で客も少ないのは解ってるしな。迷惑料込だからといって無理矢理に握らせたものだ。

 

 マスター特製のシチュードリアを手に持って、長期で借りた部屋へと上がる。

 部屋へと上がる階段を一段ずつ登る度に、重く陰鬱な気持ちが襲ってくる。俺はユナを助け出した、それは間違いない。だが……ユナは……。

 

 

 遅すぎたのだ。単純に、ただそれだけの事だったのだ。命はあった、そう、生きてくれてはいたのだ。

 部屋の扉の前まで来たというのに、足が床に貼り付いた様に動かない。だが受け入れなければならない。それが、遅すぎた俺への罰なのだから――

 

 

 部屋の鍵を開けてただいまと言葉を掛ける……当然返事は来ない。

 

 ダブルベッドに横になっているユナの傍らに腰掛けて、世界と引き換えでも惜しくない程に愛している女の顔を眺める。

 

「調子はどうだ? 痛い所は無いか? とりあえずメシだ。マスター特製のシチュードリアだぞ。これ好きだもんな」

「あー……うー……」

 

 完全に心を壊してしまったユナ……こんな状態では、癒しの奇跡も効果を及ぼさない。生きる気力を利用する癒しの奇跡は心を失ってしまった者には効かないのだ。

 

 すっかり赤子の様になってしまったユナの介護を淡々と行う。

 温められたままのシチュードリアを手に持ち、親鳥からエサを貰うヒナの如き様相のユナの口元に、覚ましたシチュードリアをスプーンですくって食べさせてやる。

 

 これでもだいぶ良くなってきてはいるのだ。心はわからんが肉体の傷は大分癒えて来たしな。救出した当初はそれはもう酷くて惨い有様だったのだから。

 

 食事を食べさせた後は、暖かい湯を張った桶を用意して身体を綺麗に拭いてやる。

 

 夜着を脱がせると、雪の様に白く形の良い二つの大きな果実がこぼれる様にまろびでてきて、思わずゴクリと唾を呑みこむ。散々見慣れたユナのデカ乳だってのに、赤ん坊みたいになったユナのそれを見ると、何か良くない事をしている様な妙な罪悪感を感じてしまうのだ。

 

「おっぱいは綺麗に治ってきたなぁ、ユナ。助けた時はボロボロだったもんな……乳首も千切れかけてたし、噛み痕だらけで紫色に腫れ上がってたもんな。魔法は効かなくても薬はよく効いてるみたいだ」

 

 話し掛けながら丁寧に、ちゃんと片方ずつ持ち上げて裏側までしっかり拭いてやる。胸が大きいと蒸れて大変だって良く愚痴ってたのを聞いてたからな。

 ユナからの返事は勿論無い。虚ろな瞳を彷徨わせながら白痴染みた声を時折り漏らすだけだ。最初は声すら出せなかった事を思えば確実に良くなってきているのだろう……俺がそう信じたいだけなのかもしれないが。

 

 上半身が終われば次は下半身だ。

 

 俺の趣味でパイパンになっているせいで、醜く変形し、破壊されてしまったユナの大事な部分が否応にも露わになっている。

 クリトリスは以前の三倍程に肥大してしまい、包皮に収まりきらない剥き身の赤黒い陰核がビクビクと震えている。その下の極上の名器だったオマンコは、ドス黒く染まってビラビラになった大陰唇の間に空いた、空虚で巨大な空洞と化していた。

 閉じようとしても閉じない開きっぱなしの醜い肉穴からは時折り子宮口がはみ出し、常に分泌される愛液がだらだらと零れ、朝夕の二回オムツを取り換えなければならない程である。

 

 こんな状態のユナとセックスする事など出来ないので確かめてはいないが、見た目通り締まりも何もない只の穴なのだろう。寝取らせ遊びでガバガバになってしまう事はあったが、そんなレベルでは無く拡張されたオマンコは、俺のチンポをいれても肉壁に擦る事さえ難しそうだった。

 

 見た目だけでは無い、深刻なのはその内部。女のカラダでもっとも重要な器官である子宮……ユナがそこに受けたダメージは深刻なレベルを超えてもはや致命傷に等しかったのだ。

 

 救出後、すぐに治療院に連れて行った時の治療士の言葉が蘇る。

 

『この精神状態では癒しの奇跡は望めませんね……。女性器は酷い有様でした。意図的に壊そうとしたのか、引き摺り出されて叩き潰された形跡が子宮に見て取れます。辛うじて治療が間に合いましたので、治るとは思いますが……100匹近く産まされたのでしょう、ゴブリン族との長期間の生殖によって卵巣も子宮も彼等専用に変異しています。もはや人の男性との間には子を為す事は不可能かと』

 

 傷そのものは癒えた。千切れた八の字筋はまだ治っておらず、オマンコとアナルは開きっぱなしではあったが、救出当時の様に毎晩血と膿を垂れ流す様な事は無くなった。

 

 だが、子宮と卵巣はゴブリン専用の生殖器と化し、人にとっては用を為さぬただの肉袋と化していたのだ。

 ゴブリンの苗床となり、廃人と化した女は、冒険者の間でこう呼ばれている。

 

――ゴブリンガービッジ(小鬼の生ゴミ)。

 

 物言わず、ただ生きるだけの、子を為す事も出来ぬ肉の塊。

 場合によっては、その尊厳を守るために介錯される事すら珍しくない程なのだ。

 勿論ユナにそんな事をするつもりは無い。たとえこのまま治らなかったとしても、残りの人生の全てを捧げて面倒を見るつもりだ。

 

 彼女を失う事はつまり、俺の死と同義なのだから。

 

「ちゃんと拭いたぞ。ガバマンコの中も隅々まで綺麗にしたからな。一回くらいはイッたか? ユナ。気持ち良かったか? クライトン達にされてからお気に入りだったものな……フィストファック。内側から腹をボコボコにしてやると気が狂ったみたいに喘いでたよな。やってほしいか?」

 

 ユナの反応は無い。

 

 治療師曰く、心を治すには俺が頑張るしかないのだと。

 ましてユナは愛神のプリースト、俺の愛がゴブリン達の凌辱によって受けた心の傷を上回れば、ユナは心を取り戻せるかもしれないと。

 

 最初は意気込んで頑張った物だが、一切の反応を見せないユナを介護していると、たまに空しくなる。本当に治るのか? そんな猜疑心がムクムクと湧き上がってくる。

 俺はそんな感情をねじ伏せて、一生面倒見るんだから関係ないと、例え治らなかったとしてもユナは大事な女だ……俺はユナ一人いれば良い。そんな風に自分に言い聞かせる様に自問自答を繰り返す。

 

 全身を拭いた後は傷の治りを早める薬を塗る。

 乳房や手足などの傷はほぼ治ったが、酷使され続けていた陰部や肛門は未だ完全には癒えていないのだ。名の有る錬金術工房の薬でそれなりに値は張るが、これでもそれなりの蓄えはある。

 

「綺麗になったな。今日は新しい夜着も買ってきたんだ、きっとユナに似合うぞ、今着せてやる」

 

 先程脱がせた夜着は宿の洗濯に出して、新しく買ってきた新品の夜着をユナに着せる。色々透けているやつだ。ユナにはエロい夜着が似合う。綺麗に治ったデカ乳の乳首がツンと勃っているのがとてもいやらしい。

 

「たまらんな。見えてるとつい指でコリコリしたくなってしまう。こんな風にコリコリッと……乳首を苛めてやるぞ」

 

 ユナが元気だった頃にエロい下着を付けさせては二人で愉しんだ思い出が蘇る。

 あいつはいつも、小悪魔みたいな笑顔で着てくれて、その後燃え上がると可愛らしい喘ぎ声でもっと激しくしてくれと俺にねだるんだ。

 

「どうしたユナ……物足りないのか? これ以上激しくしたら乳首が千切れてしまうぞ……どうしてほしいんだ? チンポ欲しいか? …………ぐぅ……ユナぁ……おっぱい潰れそうだぞぉ……ぢぐびもぉ……壊れぢまうぞ……ふぐっ……なんか……言ってくれ……可愛い声を聞かせでぐれ……うっぐぅっ……」

 

 夜着の上からユナの乳を鷲掴みにして乳首を弄繰り回している視界がぼやけて滲む。

 喉の奥からせり上がる灼熱の塊と共に、大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちる。

 情けない鳴き声でユナに縋りついてみても、あの頃の様に頭を撫でては貰えない。

 

 顔を上げて、ユナの顔を覗き込んでも、そこにあるのは虚無でしかない。

 瞳は何者も映さず、口は意味のある言葉を話せず、聞いた事を理解できる意識も無い。

 

 俺はそんな白痴と化したユナの唇に自らの唇を合わせてキスをすると、力のない身体を押し倒す様にベッドに転がり込んで……そのまま抱き締める。

 かならず元に戻してやるという堅い決意と共に、俺はユナを二度と離すまいと抱き締めたまま、眠りについた。

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