もうタイトルがなにもかもだいたいのあらずじです。

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 「あっ……あっ……」

 

 夜深くの連れ込み宿に嬌声が響き出した。女の発する誰かに聞かせるためというわけでもなく、自分を押し殺し高めるためだけの雰囲気作りのためだけの声。マニュアルのような定番とかしたルーティーン。金銭のやり取りを介した契約の結果の一場面。そこに愛などという高尚なものはなくただその場しのぎの欲求を満たすためだけの男女の行いだった。

 

 女から見た男の顔はどこか真剣で妙に嫌いになれなかった。その場限りの一夜だけの関係のはずだ。朝日を一緒に見るということもなく出すものを出せば終わり。それだけの関係。深い関係になるつもりなど毛頭ない。でも次に会ったらもう一度買われて見るのも悪くない。行為の最中だが女はなんとなくそう思った。相性がいい……ということでもないのかもしれないが……。それでもこんなことはめったに無い……。

 

 

 

 

 

 「あっ……」

 

 嬌声は続く。

 

 やがてベッドの横のランプは油を減らし、光は勢いを失って行った。すでに街に人通りはなく静まり返った宿に淡々と声が響く。男の真剣な表情は変わらない。

 

 あれからどれほどの時間が立ったのだろうか。必死の表情で腰を降る男。体を動かしたせいで滴る汗。寝具が軋む音。股を開いて男に触れられている自分。自分は何をしているのだろう。女はそう思った。目の前には腰をふる男。こいつは一体何なんだ。荘厳な儀式の一端でもあるかのように真面目な目つきで腰を振っている。一定のテンポ、一定のリズム……。もしかしてこの男は絡繰じかけなんじゃないだろうか。何となくそう思った。

 こんなとりとめのない思いが浮かんだせいなのか、目を合わせるのもなんとなく申し訳ない気がして女は男の向こうの天井に焦点をあわせる。

 金をもらったんだそれくらいはしてやろうといわんばかりの喘ぎを入れている女。気がつくと自分も絡繰じかけの合いの手のような声を入れているだけではないか……?などと思ってしまったが、真面目な顔で腰をふる男をぼんやりとした視界で捉えると真実味を帯びてくるような気がした。

 早く時間が過ぎてほしい。早く終わってほしい。これじゃ次はないな。この部屋の天井の角のところシミがある……。女はそう思った。

 

 

 

 

 

 「……」

 

 それからさらにしばらくの時が過ぎた。女からすれば普段はとっくに仕事が終わっているような時間だ。そのはずなのに女の目の前にいるのは未だ真面目な顔で腰を打ち付ける男。

 女は段々とこの男が不気味に思えてきた。

 もしかすると自分が何か間違いでもしてしまったのか……?そんなはずはない。今までと特段変わったことをしているわけでもない。女の懸念は晴れない。

 

 「……あっ」

 

 ときより思い出したかのように女は声を出す。もうすでにバカバカしくなっている自分に女は気付いた。快楽などとは程遠い。さっさと終われ……。ただそれだけしかなかった。

 ふと男の方に目をやると未だに腰を振っている。

 女はだんだんと擦れてきて痛みすら感じてきた。それでも男の真剣な表情を見てしまうとなにか言い出すのは間違いな気もしてくるのだ。なにかの修行の一端か?と思わないでもないが。

 もし自分の顔に小銭を入れる穴が空いていてそこに硬貨が入るたびに喘ぐのはいかがなものか……。そんなことを女は考えていた。

 男はまだ腰を振り続けている……。

 

 

 

 

 

 「……」

 

 いつになったら終わるのだ。悪いのは自分ではないだろう。この腰を振ってるこいつだろう。女からすればもうどうでも良かった。あれからどれほどの時間が過ぎた?声をかけろとは言わないがせめて申し訳ない表情の一つくらいできないものなのか。女はもう怒りつつあった。

 それでもなお腰を振り続ける男。男は気付いているのか、いないのか。

 声を出すことももう料金分はこなした。最低限のサービスをしてやらんと言い切るレベルの残高も女の中には残っていなかった。

 長時間の酷使で痛む女の体。それでもなおメトロノームのように腰を振り続ける男。

 ぜんまい仕掛けでももっと多少の強弱があって生きているような振る舞いをするのではないだろうか。女から見た男はもはやあまりに異質だった。

 なんでこんな男に買われてもいいなどと思ってしまったのだ。自己嫌悪。自己嫌悪。自己嫌悪。

 女の見る男の表情は変わらぬようなもので、多少上がる息もそれ体動かしてるから息切れしてるんだろと思わなくもない。

 こいつもしかして最新の有酸素運動でもしているんじゃないか……?そういう健康法でもあるんじゃないか……?と女が感じてしまうほどに淡々と振られる男の腰。

 

 「はぁ……」

 

 女から漏れる息。けっしてポジティブなものではない。ただのため息だった。

 

 

 

 

 

 それからさらに数分は過ぎた。ついにランプの油は底をつき、申し訳程度に照らしていた光もついに消えた。

 窓から入るかすかな月明かり。相手の表情もわからぬほどに暗い部屋。きしむベッド。狂気の如く一定のテンポで刻まれる肉と肉のぶつかり合う音。

 女には見えていないが男は依然として真面目な顔で腰を振っている。

 しかしもう女には限界だった。

 もう女にはどうでも良くなった。

女は思った。この男は気持ち悪い、と。

 

 肉の発する音をかき分けるように大きな声で女は言った。

 

 

 

 

 

 「まだイけないの!?もう遅いんだけど!?」

 

 

 

 男の腰が止まった。

 

 

 


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