「好色淫乱な武蔵が鈴木君を救う話」の続きです。ヒロインの一人「竹内みき」に(私なりの)救いの手を差し伸べてみました。
誰かが書いてくれるのを待とうと思っていましたが、話を思いついたので結局自分で書くことにしました。
※2021/05/03 18:49 書き忘れていたことがあったので、一部修正を入れました。

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性格の悪い金剛が竹内みきを救う話

「佐藤君のハーレム」は、ついに学校や地域社会に知られるところとなった。

その後、学校や地域社会でどんなことが起こったか。

 

一言で言うと「大騒ぎ」だった。

それこそ、文章一つに纏めることはできないほどの「大騒ぎ」になった。

この「大騒ぎ」によって多くの…主に、ハーレムにいた女の子たちの人生が狂うことになった。

 

そして竹内みきの人生も狂い始めていた。

 

佐藤とは当然引き離されることになった。

クラスでの居場所どころが、学校での居場所も失った。

それでいて鈴木から差し伸べられた手も、取ることができないでいた…。

 

 

平日、午前中の公園。どこの公園であるかはわからない。

竹内みきはそこにいた。説明を要するような理由はない。

学校に居場所がなかったから。ただそれだけであった。

 

何をするでもなくただ項垂れるみき。

そんなみきの傍に、一人の女が近づいてきた。

 

両サイドにシニヨンを結った茶色のロングヘア。

(水色のロングジャケット、白いシャツ、ジーンズという装い。)

にこやかな笑顔とともに、この女はみきに声をかけた。

 

「Hellow!アナタ、この辺のschool girlじゃありマセンね?サボり、というやつデスか?」

「…………。」

「Oh!Forgive my rudeness(失礼しました).ワタシは…金剛、といいマス。アナタは?」

「…竹内、みき…です。」

 

答える気力もなかったし、答える必要もなかったはずだが、みきは「金剛」の問いに答えた。

本当に、つい、答えてしまった。

 

「OK.Miss みき、デスね…。」

「金剛」はこの後少し間を開けたが、みきは気づかなかった。

「金剛」は言葉を続けた。

 

「ホントウなら、学校に戻りナサイとか、家に帰りナサイとか言わなければならないのデショウが、そう言われただけでそうするぐらいナラ、最初からこんな所には居マセンよネ?どうデス?学校なり家なりに戻る気分になるまで、ワタシの家でお茶でも飲んで行きまセンカ?」

 

「金剛」の申出には不審な点があったが、みきにはそれを気にするような心理的余裕はなかった。

みきは「金剛」に誘われるまま、「金剛」の家に赴いた。

 

「金剛」の家は2階建ての一軒家だった。

よく見るとプレハブ住宅であることもわかるし、「金剛」の他少なくとも三人の同居人がいることもわかる。

…しかし、勿論みきにはそこまで観察する余裕はなかった。

みきは一階のキッチン・ダイニングに通された。

みきがダイニングのテーブルに着くと、「金剛」はすぐにティーポットと、ティーカップを二人分持ってきた。

「金剛」の手で、ティーカップに熱い紅茶が注がれた。

 

「ささドウゾ、お召し上がりクダサイ。」

勧められるまま、みきは紅茶に口を付ける。

(…美味しい…そういえば、今まであんまりお茶の味なんて気にしたことなかったけど…。)

 

「フフフ、お気に召したようデスね。…ところで、Miss みき?アナタは何だって公園であんなに項垂れていたのデスか?」

「…………。」

「マア、もう一杯ドウゾ。」

「金剛」は自分の紅茶を一口すると、はもう一度みきのティーカップに紅茶を注いだ。

 

「話すだけでもずいぶん楽になるって、聞いたことアリマセンか?これは実に真理デスよ。」

「…………。」

「確かニ、根本的な解決にはならないでショウ。でも話したからって、今より状況が悪くなることもアリマセン。騙されたと思って…アナタのお話、ワタシに聞かせてクダサイ。」

 

実は本当に騙されていたのだが、それに気づかぬまま、みきはこれまでの経緯を「金剛」に話し始めた。

 

十二年もの間、幼馴染の鈴木を想い続けていたこと。

その間、何の進展もなかったこと。

自分が鈴木に選ばれる資格など無いことに気付いたこと。

転校生の佐藤が、そんな自分を慰めてくれたこと。

そして佐藤を受け容れたこと。

 

佐藤たちとの時間が自分には快く、楽しかったこと。

 

そうしている間に、突然現れた艦娘「黒鉄武蔵」に鈴木を奪われたこと。

その「黒鉄武蔵」から「お前は鈴木に取り憑く死神だ」と罵倒されたこと。

 

それから間もなく鈴木と佐藤が戦い始めたこと。

その戦いの末、佐藤と自分たちが破滅を迎えてしまったこと…。

 

みきは全て、「金剛」に話した。

 

「そうデスか…すると、体育倉庫で佐藤君たちとシテいるところを鈴木君に見られてから、鈴木君を避けるようになったのデスね?」

「はい…やっぱり、どうしても気まずくなってしまって…。」

「その時から、もう鈴木君のことは顧みなくなったのデスね?」

「え…?」

「アナタに去られて死にそうになっている鈴木君を気にすることもなく、アナタは佐藤君との sex に夢中になっていたのデスね?」

「…こ…金剛、さん…?」

「十二年間、幼馴染の鈴木君を想い続けた純情一途な girl は、もうどこにも居ないのデスね?」

「………。」

「そして今ココに居るのは、sex が好きで好きで堪らない、ふしだらな whore(アバズレ) だというわけデスね?」

「…金剛さん!」

 

みきは思わず声を荒げた。

「金剛」の表情と口調はどこまでも穏やかであったが、「金剛」が放った言葉には明らかな敵意があった。

みきにしてみれば、全く謂れの無い敵意。みきは当然、「金剛」に抗議した。

「な…何なんですか?なんでそんなこと言うんですか?どうしてそんな風に言われなくちゃならないんですか?あなたは優しい人だと思って話したのに…信じてたのに…!」

 

抗議を受けた金剛は、どこまでも穏やかな表情と口調で返した。

「アナタはココがどこなのか、ワタシが何者なのか、わかっていマスか?」

「ここが…どこか…?。」

「ココは海神警備・岩川台営業所デス。そしてワタシは艦娘『黒鉄(くろがね)金剛』デス。」

「艦娘…黒鉄…って…。」

「Yes. アナタを『死神』と呼んで罵倒した『黒鉄武蔵』は、ワタシの同僚にして friend デス。」

 

「………ッ!」

「ココは武蔵の勤め先でもあり、家でもありマス。いわばアナタは今、敵地の真只中に迷い込んでいるのデス。」

 

 

「そして今、アナタの話を聞かせてもらいましたが、ワタシもアナタのこと、好きにはなれマセン。と言うか、ワタシもアナタが嫌いになりマシタ。」

「…だ…だから、どうして…そんなこと…。」

「今の話で理解や共感が得られると思っていたのデスカ?今の話、ワタシには全く理解できマセンし、共感する気にもなれませんデシタ。」

 

 

「Miss みき。アナタは本当に鈴木君と結ばれたいと思っていたのデスか?」

「なんでそんなこと聞くんですか?ずっと、ずっとそう思っていましたよ!でも、でも…。」

「ワタシにはどうもそうは思えまセンね。アナタが鈴木君を諦めた理由は何でしたカ?」

「それは…鈴木くんが、さくらちゃんにもやよいちゃんにも優しいのが嫌で…鈴木くんが二人を振ってくれるのを期待してる自分に気付いて…こんな卑怯者は鈴木くんには選んでもらえないって思えたから…。」

「アナタが自分を『卑怯者』だと思ったこと、鈴木君には話しましたカ?」

「…!は、話せるわけないじゃないですか!」

「じゃあ鈴木君は、理(・)由(・)も(・)事(・)情(・)も(・)何(・)も(・)わ(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)ま(・)ま(・)、全(・)く(・)突(・)然(・)イ(・)キ(・)ナ(・)リ(・)に(・)、佐藤君のものになってしまったアナタの姿を見せ付けられることになったわけデスね。」

「………!」

 

「Miss みき、改めて問いマスが、アナタは本当に鈴木君のことが好きだったのデスか?アナタが鈴木君にしたことは、卑怯を通り越して残酷・残虐ですらありマス。好きな人に、好きだった人にする仕打ちとは、とても思えマセンよ?」

「そんな…私…そんなつもりじゃ…。」

「アナタは自分のことを『卑怯者』と思ったから、鈴木君を諦めたと言いましたガ…。」

金剛は溜めて、続けた。

「…それなら卑怯な自分の、ありのままの姿を鈴木君に曝け出して、佐藤君ではなく鈴木君に『卑怯だなんて思わない』と言わせても良かったデスよね。鈴木君は優しいから、きっとそう言ったことデショウ。卑怯者なら、自分が卑怯者だと自覚できたのなら、鈴木君の優しさに付け込むことぐらい、どうってことはないデショウ?」

「それは…。」

「あるいはいっそのこと、抜け駆けして鈴木君と一挙に having sex に持ち込んでも良かったかもしれマセンね。卑怯者のアナタなら、そしてあっさり佐藤君に『初めて』をあげてしまうようなアナタなら、これもどうってことはないデショウ?」

「………!」

「ワタシから見ればアナタは、好きな人、好きだった人には残酷・残虐で、自分の目的…自分自身にも誠実ではない人間デス。人間としては最低の部類に入っていマス。」

 

「アーサー・リンチですら見方によっては格好良かったのに、アナタには彼ほどの格好良さもありマセン。アナタは卑怯者としてすら中途半端デス。」

金剛はそう言ったが「アーサー・リンチ」などと言われても、みきには何のことかわからなかった。

 

「もう一度言いマスが、今のアナタは sex が好きで好きでたまらない、ふしだらな whore デス。」

「わ…私、そんなのじゃ…。」

「佐藤君との sex は気持ち良かったデショウ?鈴木君が死にかけていても、気にならない程に。」

「………!」

「ハーレムでの乱交は楽しかったデショウ?鈴木君が武蔵に奪われても、気が付かない程に。」

「あ…あ……。」

「アナタがどれだけ否定しても後悔しても、今のアナタは、かつての想い人である鈴木君より、佐藤君との sex を選んだ whore なのデス。」

みきは頭を抱え、テーブルに突っ伏した。

 

金剛はさらに追撃した。

「そしてアナタは whore としてもダメです。中途半端デス。」

「やめて…聞きたくない…やめて…。」

みきは弱弱しく哀願したが、金剛に容赦はなかった。

「アナタから鈴木君を奪った武蔵ですが…武蔵も whore デス。誰とでも寝るような艦娘(おんな)デス。」

「………。」

「デスが、武蔵は死にかけていた鈴木君を救いマシタ。(別に sex だけで救ったわけではアリマセンが。)対してアナタはどうですカ?アナタは鈴木君を死なせかけマシタよね?」

「………。」

「同じ whore デモ、武蔵は人間や艦娘を癒し、慰める whore デス。アナタは人を、それも選りにも選ってかつての想い人を傷つけ、苦しめる whore デス。」

 

紅茶を一口して、金剛はさらに続けた。

「アナタは鈴木君とも sex しようとは思わなかったのデスか?」

みきは首を振った。

「何故デスか?」

「…だって…私…もう佐藤君と…佐藤君の…。」

「だからアナタは whore としても中途半端でダメなのデス。」

 

 

「sex は、互いに親愛の情を伝え合うための方法デス。人間にとって、そして艦娘にとっても、とても大切な営みデス。」

「………。」

「デスから sex はもっと身近で、気軽な営みであるべきデス。」

「…え……。」

「ワタシは、自分が好きになった人間や艦娘との sex を拒んだりしまセン。自分を好いてくれる人間や艦娘との sex を躊躇ったりしまセン。」

「え………。」

「だからワタシは、提督とも sex しマスし、武蔵とも sex しマス。比叡などは、ワタシの wife(嫁) デス。」

「……!」

「提督の baby は絶対に産んでみせマス。比叡の想い…ワタシの baby が欲しいという想いにも必ず応えてみせマス。武蔵も孕ませたいところデスが…ライバルが多すぎマスね。」

「な…何なんですか!私のこと、ふしだらとか、アバズレとか言っておいて!あ…あなただって、あなただってセックス好きの淫乱艦娘じゃないですか!」

「Yes. そうですヨ。ワタシは、ワタシが好きな人間や艦娘はみな受け容れマスし、ワタシを好いてくれる人間や艦娘もみな受け容れマス。大(・)切(・)な(・)相(・)手(・)を(・)蚊(・)帳(・)の(・)外(・)に(・)置(・)い(・)て(・)、仲(・)間(・)外(・)れ(・)に(・)し(・)て(・)、絶(・)望(・)さ(・)せ(・)て(・)、死(・)な(・)せ(・)か(・)け(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)真(・)似(・)は(・)絶(・)対(・)に(・)し(・)マ(・)セ(・)ン(・)。」

「…………!」

 

みきは沈黙させられた。みきは「囲師必闕」という言葉を知らなかったようだ。

みきは金剛に一矢報いるつもりだったようだが、結局、金剛が見せた隙に誘き寄せられ、叩き潰されてしまう形になった。

金剛は穏やかな表情と口調のまま、それでいて容赦なくみきに止めを刺した。

「アナタは sex 好きの whore に成り果てていながら、選りにも選って想いを寄せていた鈴木君を仲間外れにして、絶望させ、死なせかけたのデス。アナタは whore としても、中途半端でダメな whore デス。」

 

「…それで、Miss みき?アナタはこれからどうするつもりなのデスか?」

「どう…って…。」

「アナタの、アナタたちの佐藤君はもういマセン。学校にもアナタたちの居場所はアリマセン。」

「………。」

「鈴木君の手を取りマスか?」

みきは首を振った。

「では、新しい男でも探しマスか?」

みきは力なく首を振った。

「…鈴木君と佐藤君が戦ったとき、鈴木君に策を授けていたのはワタシだったのデスが…。」

そこでみきは金剛に目を向けたが…。

「佐藤君の仇デモ討ちマスか?…デスが、今のアナタに出来ることなどありマスか?」

…何もない。みきは目を伏せた。

「武蔵は鈴木君に生きる力と戦う知恵を授けマシタが、佐藤君がアナタに与えたものは penis と semen(精液) という麻薬だけだったようデスね。」

 

金剛はみきの「これまで」が無意味なものであったことを、今のみきに「これから」がないことを、現実として示した。

みきは全く反論できなかった。

今のみきにあるのは、快楽漬けにされすっかり駄目になってしまった自分と、空虚な未来だけ。

駄目になったみきには、認めざるを得ないことでもあった。

 

紅茶を一口して、金剛は再び話し始めた。

「…デスが、それでもアナタは生きていかねばなりマセン。」

「………?」

「whore としての生き方から抜け出すにシテも、whore としての生き方を極めるにシテも、アナタは生きていかねばなりマセン。」

「…何ですか…それ…私に…救いの手でも差し伸べてる…つもり…なんですか…。」

「つもりジャありマセン。差し伸べているのデス。」

「え…なんで…金剛さん…私のこと、嫌いなんじゃ…。」

「Yes. 嫌いデスよ。デスが、今のアナタは『要救助者』デス。」

 

「嫌いダカラ、というのは要救助者を見捨てる理由にはなりマセン。ワタシも第六駆逐隊(おちびちゃんたち)には軽蔑されたくありマセンし、ネ。」

「こんな私を…助けるって…言うんですか…?でも、どうやって…。」

「ワタシが見るに、アナタが抱えている最大の問題は、アナタが自分自身に対して誠実でないことデス。」

 

「そもそもアナタが自分自身に対して誠実であったナラ、せめて鈴木君と結ばれるというアナタの目的に対して最初から誠実であったなら、アナタが whore に成り果ててしまうこと自体なかったデショウ。アナタは十二年間も鈴木君と一緒にいマシタ。Miss さくらと Miss やよいが鈴木君と知り合ったのは高校生になってからでしたヨね?鈴木君と知り合ってから高校に上がるまでの間、アナタは何をしていたのデスか。」

「それは…。」

「鈴木くんは私と結婚するの!とか、鈴木くんには私がいるんだから!とか、冗談や軽口という体裁ででも、そういうことを鈴木くんや周囲の人に言ったことはありマスか。」

「…ありません…恥ずかしくって…。」

「そこがまず不誠実デス。」

 

「…そして高校に上がっテ、Miss さくらや Miss やよいといったライバルが現れても、アナタは鈴木君から好意を告げられることを待ち続けたのデスね。」

「はい…。」

「そこもまた不誠実デス。待ち続けているうちにライバルまで現れてしまったのでは、待つというやり方が通用しなくなっているのは明らかデス。そんな時はやり方をガラリと変えてしまわなければなりマセン。」

 

「鼻にかけるようなことを言ってしまいマスが…ワタシはココに顕現して、すぐ提督に fall in love しました。提督と sex したくてしたくて、堪らなくなりマシタ。」

「………。」

「どうしても提督と sex したくて、ワタシは一年半もの間、空回りし続けマシタ。ワタシがそれとなく提督との sex を望んでいることを仄めかしても、提督は『自分はイイ男じゃないから』と遠慮して、全く応えてくれマセンでしタ。ワタシには、イイ男じゃなくても提督が好き、提督と sex したいという実(まこと)が、確かにあるというノニ…。」

「………。」

「そうこうしているうちにちょっとした事件が起きて、ワタシは気づきました。提督には『sex したいとそれとなく仄めかす』なんて回りくどいことをしていたのではダメだ、と。」

 

「そこでワタシは提督にハッキリ言ったのデス。『ワタシはどうしても提督と sex がしたいのデス』とネ。(本当はモット直截的で、露骨で、ドギツイ言い方デシタが。)」

「…!」

「それで漸くワタシは提督と結ばれマシタ。あのときの ecstasy は今でも忘れられマセン。」

 

金剛は話を締めにかかった。

「自分自身に誠実であるには、自分自身の目的に誠実でなければナリマセン。目的に誠実であるということは…目的を果たす方法を、常に追求し続けるということでもアリマス。」

 

「目的と問題と、できれば方法があれば、人生において迷うことはない。上手く行くという保証はどこにもないが、それでも迷うことはない。」

「…格言みたいですけど…誰の言葉ですか?」

「提督の言葉デス。似たようなことを言っている偉人は居るかもしれマセンが、ワタシは提督から聞きマシタ。…アナタにはこの言葉が教えるところを修得してもらいマス。」

 

「自分がどうしたいのか、どうすべきなのかを知り、それを妨げる問題を見据え、それを乗り越える方法を追求する術を、アナタには身に付けてもらいマス。そうすることで、自分がしたいこと、しなければならないことに誠実になってもらいマス。自分自身に誠実になってもらいマス。…これが、ワタシからアナタに差し伸べる『手』デス。」

 

「………お茶、冷めてしまいマスよ?」

みきに紅茶を勧めて、金剛は話を締めた。ティーポットの紅茶は、まだ温かかった。

 

 

その後。

みきは金剛の所に「入り浸る」ようになった。

金剛の「授業」を受けはじめたのだが、「授業内容」の高度さは、みきの予想をはるかに上回っていた。

その高度な内容が自分の頭に確りと定着して行くことにも、みきは驚かされた。

 

みきは学校を辞めることにした。

みきが金剛の所に「入り浸っている」ことは、みきの両親も、みきの担任も把握していた。

学校を辞めて金剛の所に「入り浸る」というのは良くないのではないかと両親と担任は考え、みきを伴って金剛を訪ねた。

「…みきさんは問題を抱えて、しかも学校には居場所がなくなっています。しかし、失礼ながら先生もご両親も、みきさんがこういう状況にあることに対して、適切に対応することは困難であるようにお見受けします。例えば…。」

金剛は、学校も家族もみきを救うには無力であることを、一つ一つ事実・実例をあげながら論証した。

金剛の口調も表現も穏当なものであったが、両親も担任も、金剛が展開する論理にただただ圧倒されていた。

教師としての無力さを突き付けられる形になった担任は、泣き出してしまった。

 

…両親も担任も、金剛を信頼することにした。そしてみきは、正式に学校を辞めた。

(このことは鈴木を泣かせた。「自分はみきを救えなかった」と思ったのだ。)

 

 

金剛の許(もと)で、みきは着実に「自分自身に対して誠実に生きる術」を身に付けていった。

 

…そして鈴木たちが学校を卒業するころ、みきは実家を出て、金剛の許(もと)を離れていった。

自分の生きる道が定まったということだった。その道を行くために、みきは旅立って行った。

 

みきがどこへ行ったのか、金剛は知らない。

両親には行き先を伝えていたようだが、金剛はあえて問い合わせることもしなかった。

 

 

「お前が竹内さんに関わっていたとはな。」

鈴木と今生の別れを済ませた武蔵は岩川台営業所に戻ると、何となく「竹内みきはどうなったのだろうか」と金剛に言ってみた。

金剛が武蔵の問いに答えると、武蔵は少し驚いた様子を見せた。金剛から回答があるとは思っていなかったのだ。

 

金剛がみきに「生きる術」を授けていた時、武蔵は仕事…任務で頻繁に海外に赴いていた。

岩川台営業所に帰還することも度々あったが、武蔵とみきが顔を会わせることは、ただの一度も無かった。

 

「どうして言ってくれなかったんだ、とは言わないのデスね?」

「まあ、私も聞かなかったしな。今ここで急に彼女のことが気になったのは、不思議な因縁というやつなのだろう。」

 

武蔵は続けて金剛に問うた。

「…それで、竹内さんがその後どうなったかまでは、お前も知らないんだな?」

「Yes. ワタシは今でも彼女が嫌いデス。彼女がどこでどんな生き方をしようが、ワタシの知ったこっちゃアリマセン。デスが…。」

「ですが…?」

「…どこでどんな生き方をしていようが、彼女はもう『大丈夫』デスよ。これだけは、断言出来マス。」

 

「…そうか…『大丈夫』か…。お前がそう断言するのなら、その通りなのだろう。私から見れば時間もかかったし、間も空いてしまったが、これでようやく一区切りついた、と言ったところだな。」

 

 

…そしてみきと金剛と会うことは、二度となかった。


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