「これでとどめっ!」
空に向かって突き上げた馴染みのステッキを振りかざす。その矛先を悪の組織イビル・カンパニーの下っ端に定めると、先端がにわかに明滅を始めた。
「やあっ!」
そしてステッキから放たれたこの光線こそ、対イビル・カンパニーで絶大な効力を発揮する私の必殺技だ。『対象の思考や感情のうち、使い手が消失させたいと強く念じたもの』を消失させてくれるという自分でも恐ろしくなる技だ。
まるで洗脳や催眠のようで、正義の味方の持つ技とは思ってくれないかもだけど。
「うう、お、俺は今までなんてひどいことを……」
先ほどまでの敵愾心が嘘のように、彼は私の前で懺悔の言葉を吐露し始めた。対イビル・カンパニーの例でいえば、邪気や害意といったものを思い浮かべてやればこの通り。
この力は危うい。危ういけれど、悪い人たちの改心に役立つ。それにイビル・カンパニーの存在するこの世界であまり悠長なことを考えている余裕なんてない。
だから今日も私は、年甲斐もない魔法少女然とした赤のコスチュームをはためかせながら、ステッキ片手にひとり荒んだこの町を駆ける!
×××
ある日のことだった。
「B地区に反応あり。これは……四天王クラスの大物だ!」
学校から帰って基地でくつろいでいた私の元に緊急のアラートが鳴り響いた。なんでもイビル・カンパニーの最後の四天王、ディペンダーが現れたらしい。
小走りに司令室に向かうとすでにブルー、グリーン、イエローの3人が集まっていた。
「四天王が相手ってなるとレッドひとりじゃ危険だ。今回は俺とグリーンもついていく。イエローはここに残ってオペレートを頼む」
私たちは普段、単独で敵の撃破にあたる。本当なら私の力で敵の全員を改心させていくべきなんだろうけど、敵が同時多発的に押し寄せてくることもある。そのすべてに私が赴くのは難しいため、いつからかそういった態勢が慣例になっていた。
しかし相手が四天王となれば戦力を集中せざるを得ない。ブルーの意見に異論のあるメンバーはいなかった。
「ええ、サポートは任せて」
「頼りにしてるよ、イエロー」
四天王襲来という不測の事態にも関わらず凛としてモニターと向かい合うイエロー。そんな頼もしい彼女に一声掛けて私たちは敵のいる方角に急いだ。
「やつの能力は未知数だ。気を引き締めていくぞ!」
「それで敵はB地区のどこに?」
『ここは……レッドの中学の近くね』
「っ……」
そういうことを聞いてしまうとどうしても焦りが生まれてしまう。
私たちは正義の味方のつもりでいるけど、それ以前にひとりの人間だ。思い入れのある場所や身近な人たちが傷ついてしまうのは絶対に避けたかった。
「!見えた!」
グリーンがそう言うが早いか、ブルーはひとり前に出て先制攻撃を試みる。敵はまだこちらに気づいていない。どうやら初手は私たちの有利に運びそうだ。
「りゃあっ!!」
ブルーの剛腕が敵の後頭部を捉え、容赦なく重い一撃を見舞う。
あまりの衝撃に敵は勢いよく地面に叩きつけられ、落下地点を中心に土煙が立ち込め始める。
「うっわー……久々に見たけど、相変わらずの力技だよね」
「レッド、これまず技って言えるかも怪しい。やってることほとんど脳筋ゴリラ」
「うるさいぞお前ら」
私は一応感嘆のつもりで呟いたんだけど、後に続いたグリーンの余計な台詞のおかげで揃ってブルーの不興を買ったらしかった。とんだとばっちりだ。
「それよりレッド、今のうちに」
閑話休題。
いくら四天王が相手とはいえブルーのあの一撃をモロに受けて無傷なはずがない。敵の位置こそはっきりしないものの、あの土煙一体に私の光線をぶつけてやれば、もう私たちの勝ちでゲームセット。
「言われなくっても……そりゃっ!」
辺り一面を覆う魔法の光。これでイビル・カンパニーの四天王は全滅したことになる。当然嬉しくはあるけど、最後のひとりが思いのほか呆気なく片付いたせいで、なんだか少し肩透かしかも。
「ま、とにかくやったね!みんなおつかれ!」
「僕は出番なかったから、まったく疲れてないけどね」
「細かいことはいいんだよ、ったく……」
口では捻くれたことを言ってるふたりも、顔にはしっかりと笑みを浮かべている。やれやれ、こういうときの男の子ってほんと素直じゃないんだから。
そんなやりとりもほどほどにディペンダーの回収に降り立つ私たち。もう悪さはしなくなるはずだから後は放っておいても大丈夫なんだけど、四天王にもなれば敵組織の情報をわんさか持ち合わせていることもある。聞き出せるだけ聞き出しておきたい。
ところが、意気揚々と近くまで迫った私たちの表情が一様に翳り出す。
「えっ……」
「こ、これって……」
「ダミー、みたいだな」
そこにはディペンダーの姿なんてなく、彼を模したような人形が転がっているのみ。
やられた!こんなものに引っかかるなんて、なんとも情けない話である。
「うわぁ……」
徒労感がすごい。今ごろディペンダーは私たちの無駄骨を嘲笑っているに違いない。
「イエロー、ディペンダーの探知ってできるか?」
なるほど。諦めるのはまだ早い。もしかしたら本丸はまだ近くにいるかもしれない。そんな可能性に思い至ったらしくブルーが司令室にいるイエローにそう問いかけた。
「……イエロー?」
『ん?ああ、僕…じゃない私か。ごほん、そうね。もうディペンダーは感知できないみたいだから、今日のところは諦めましょう』
おそらくここが分水嶺だった。私たちはもう少し、神経を尖らせておくべきだった。
だけどイエローの返答がぎこちなく、少し間があっただなんてくらいのことをいちいち訝しむだなんて、きっと名探偵にだって不可能なことだった。
『今ごろディペンダーは私たちの無駄骨を嘲笑っているに違いない。』
ーーそうとも。それどころか、へそでお茶を沸かしてすらいたかもしれなかった。
×××
「レッド、ちょっといいかしら」
時刻は夜の帳が下ろされて久しい。お風呂上がりにイエローからそう呼び出され、私は現在イエローの部屋にいる。
今さらな話だけど、『レッド』とか『イエロー』とかいうのはいうまでもなくコードネームだ。
「基地内でくらい普通に呼び合えばいいのに」と前に言ったことがある。そしたらイエローが「あなたは敵の前でうっかり本名漏らしたりしそうだから、用心のためにもこっちで慣らしておきなさい」と返された。ぐうの音も出なかった。
「それで、なに話って?」
そう聞いてはみたけど、話の内容なんて私には既に分かりきっていた。
というのもイエロー、実は仲間のグリーンのことが好きなのだ。だからこうしてしばしば、グリーン攻略のための作戦会議(俗称は女子会)ということで部屋にお呼ばれすることがある。
しかしそうとは分かっていても、このクールな女の子がモジモジさせながら話の内容を打ち明けてくるあのいじらしさを見たいがために、私はついつい知らんぷりを決め込んでしまうのだ。そんなとぼけた私だが、今のところはたぶん相談料ということでなんとか許してもらえている。たぶん。……彼女のあの冷めた瞳に殺意が宿る日も、いつか訪れるかもしれない。調子には乗らないようにしとこう。
ところが今日のイエローはいつもとは違っていやに堂々としていた。そわそわとすることもなく、言葉が上擦りもしない。
「ふふ、そうね。この話にはね、準備が必要なの」
「準備?」
準備というのは、つまり心の準備ということだろうか。なにを今さら改まってという思いと、いつまでも初心だなという思いが浮かぶも、とりあえず私はイエローのいう準備をおとなしく待つことにする。
「これ、何だと思う?」
イエローが自室の棚から取り出したのは、イビル・カンパニーの隊員がいつも身に纏っている髑髏模様の首飾り…イビルの紋章だった。
「何だとって、イビルの紋章でしょ?今さらそれがどうしたの……ていうか、なんでイエローがそんなの部屋に置いてるの?」
まあ、探究心の強いイエローのことだから紋章に並々ならぬ意味合いを見出すことに成功して、なにかあの組織のことで突き止めたことでもあるのかもしれない。
「……」
そう思うのが、普通かもしれない。なのに、私は今この状況にどこか薄気味の悪さを感じていた。
そしてその原因は、すぐに明らかとなる。
「ねえイエロー……どうして、今それを身に着けたの?」
「ふふ……これが、本題に入るための準備だからよ」
私の目の前でイビルの紋章を首に掛けるイエロー。それを見て、私の不安は膨れ上がっていく。
端正な口元を醜く歪ませ、見たこともない邪悪な笑みを浮かべるイエロー。その瞳からは既に、私に対する仲間としての親愛の眼差しは消え失せていた。
「はじめまして、忌まわしいレッドちゃん。僕はイビル・カンパニー四天王、ディペンダーだ。今後とも、末長くよろしく」
イエローの口で、声音で、最悪の現実を突き付けてきた。
「それにしてもこの身体は本当にいい。顔も中々だし、健康的な肌色に女体らしいボディスタイル。発育も良好。こんなところでヒーローごっこしてないで、アイドルでもやったほうが有意義ってもんじゃないか。とにかく、健全な一男子であるところの僕にとって、こいつに憑依できたのはまさしく僥倖といえるだろうね」
そう言いながらイエロー、もといディペンダーは身につけていた寝間着を脱ぎ捨て、その小さく綺麗な少女の手に似合わない乱雑さで自らの胸をがしっと鷲掴んだ。
「ちょっ、なにを!?」
突然の奇行に私は思わず声を荒らげる。
しかしディペンダーはそんな私を意にも介さず、イエローの胸を揉みしだいていく。
これ以上は黙って見ていられない。私はディペンダーを止めるべく一歩前に踏み込んだ。
しかし。
「止まれ!立場を弁えろよ?僕の許可もなく動いたら、僕はこれの舌を噛むぞ?」
「……っ!」
そんな私に対して、ディペンダーはとんでもない脅しをかけてくる。
『やつの能力は未知数だ』
昼頃のブルーの言葉が今さらながらに脳裏を過ぎる。
「ディペンダー……あなたの能力は、他人の身体を乗っ取る『憑依』……」
「はははっ!すごいだろう?ま、普通なら発動にそこそこ苦労する能力なんだけどね。お前らが一斉になってこの基地を空けてくれたおかげで、この身体を乗っ取るくらいはわけなかったさ」
つまり、四天王相手には戦力を集中させるという私たちの行動は目の前のこいつに読まれてしまっていたのだ。そしてひとりこの基地に残ったイエローは、成すすべなくこの男の毒牙に掛けられてしまった。
ディペンダーは自らを…イエローを親指で差して続けた。
「これの名誉のために言っておくけど、僕が乗っ取ってやる直前にさ、すごい勢いでモニターを操作してたんだよ、これ。なんでも?自分以外には解除不能の緊急アラートを仕組んだらしくって?それでこの基地の危機をお前らに伝えようとしてたんだ。自分がヤバい状況だっていうのにさ、逞しい女だったねほんと」
「イエロー……」
「でも結局アラートはお仲間に何も伝えることなく、お前は今こうして僕に逆らえずにいる。どうしてだと思う?」
「え……?」
言われてみればたしかにそうだ。私たちがこの基地に戻ってきてからというもの、そういった類いのメッセージはなにひとつ受け取っていない。
これまで機械の設計や操作でまったくミスしたことのないイエローがこの土壇場でアラートの設定に失敗した?ううん、彼女はそんな人じゃない。
ディペンダーが設定を解除した?違う。イエロー以外に解除できないようにしていたんなら、それをこんなやつがどうこうできるはずがない。
ディペンダーが機械そのものを破壊した?それもない。司令室のコンピューターは戻ってきてからも変わりなく機能していた。
「察しが悪いなあ。答えはここだよ、ここ」
答えの出せない私を馬鹿にしたような軽薄な笑みを浮かべながら、ディペンダーは自らの頭を軽く叩いた。
「この憑依ってやつはね、対象のすべてを乗っ取るんだ。身体はもちろんのこと、その効果は脳にまで及ぶ」
「!!」
「そうだよ。自分以外に解除できないっていうんなら、『自分で解除しちゃえばいい』んだよ。くははっ!」
衝撃だった。イエローの身体に飽き足らず、その脳内までも今やディペンダーの支配下にあるというのだ。憑依のあと、彼女の脳が宿主の命令のままに使役され、アラートの沈め方を明け渡し、そして波風ひとつ立たないいつも通りの基地へと元通りにさせてしまった。
そもそもこいつは、イエローとの付き合いが長い私に違和感を抱かせないくらい、イエローの振る舞いや話し方を完璧にトレースできていた。いくら身体がイエローでも、頭がそのままディペンダーだったなら、どこかできっと齟齬に気づけていた。気づけずにいたのは、つまりそういうことだった。
「……」
悔しい。悔しいのに、イエローという人質の存在が、私に唇を噛みしめることしかさせてくれない。沸々と湧き上がる激情のままに、今すぐこいつをぶっ飛ばしてやりたいのに、それができない。
「だからこうやってさ……ごほん、私の名前は小佐野優衣。コードネームはイエロー。2003年の8月16日生まれ、17歳の女子高生。身長は161cmで、バストはトップが88cmのDカップ。最近ブルーがバイト終わりに持ってくる賄いのお菓子のせいで、体重が54kgまで増えちゃったのがちょっとした悩み。
イビル・カンパニーの人たちから街の平和を守るためにいろんなアイテムを研究開発している私だけど、仲間のみんなとはうまくやれてて、特にレッド…日原千秋ちゃんとは姉妹みたいに仲良し。最近はグリーンとの関係でよく恋の相談にも乗ってもらっているの。ふふっ、私の記憶、次々と敵の手に渡っていっちゃうわね」
「……お前、絶対ろくな死に方しない……!」
「あら、死ぬときはこの娘も一緒よ」
「このっ……!」
平然とそう言ってのけるディペンダー。しかし私はこの握りしめた拳をぶつけてやることもできない。
悪趣味な茶番が終わったかと思えば、イエローの視線は再び彼女の身体に向けられた。
「あー、裸になってみて改めて思うけど、こいつほんとにいい身体してるなあ。見ろよおい、この整った目鼻立ち、小ぶりな顔、傷も染みもない透き通るような白い柔肌、しんなりとした腕と脚、そしてこの……」
ディペンダーの左手が彼女の胸に、右手が彼女の股間に向かい、それぞれをいやらしく弄り出す。
「年頃の女の形のいい胸が、自分自身の手でむにゅって歪んでくこの感じ、たまんないなあ」
「ちょっとっ!それ以上」
「黙って見てなってば。僕は別に今すぐこれを亡骸にしたって構わないんだぞ?」
「っ……!」
彼女の綺麗な乳房が、あられもなく蹂躙されていく。雑に、無骨に、乱暴に、細く小さな女の子の手が、その見た目とは裏腹に、がさつに自身を弄んでいく。
にもかかわらずイエローの身体は外部からの刺激に歓喜し、その悦びを表すかのように乳首をぷっくりと浮き立たせていく。
「んっ……ほら、イエローも喜んでるぞ。ディペンダー様に身体を弄んでいただけて光栄ですってな」
「くっ……!」
「そんで、こっちもいい感じだ……!」
目線を下にやると彼女の大切な…女の子なら全員が大切にするべき秘部は気づけばぐっしょりと濡れていて、彼女の本来の意思に反していつでも異性の性器を抜き差しできるよう準備が進められていた。
「まあ今回は相手もいないし、自分の指で我慢してくれよっ……んふっ!く、はぁ……あんっ……!」
指先の動きが激しさを増し、やがてそれが伝播するように彼女の顔を艶美に染め上げ、そう時間を置かずに彼女の身体は短く痙攣をして動かなくなった。
「…………………………あはぁっ。やっぱいいな、女のオナニーっていうのは。なあ、レッド?」
そんなイエローのあられもない姿に、気づけば私は、涙をぽろぽろと零していた。
「こんなの、ひどすぎる……」
本当の彼女はこんなこと望んでいないはずなのに、身体は当然のように女性の身体としての機能を全うしようとしていた。その心身の乖離が、あんまりにも無情すぎた。
そしてそんな彼女を救えない自分の無力に、私は打ちひしがれていた。
「さて、僕はこれからもう一度この身体でオナニーに勤しむわけだけど」
私の方を見て嫌らしい笑みを浮かべるディペンダー。
「女の快感に少し慣れてしまったことだし、次は今より乱暴に扱ってみようかなぁ。強い刺激でこそより強い快感が得られるだろうし……女の身体はデリケートっていうけど、まあ僕には関係ないよね」
「っ!!そ、それだけは!」
この男がどれだけ女の子の身体について心得ているのかは分からない。ただ、さっきまでの行いを見てあまりそういうことに精通しているわけではなさそうだった。あの無骨な振る舞いがより乱雑さを増して、彼女の身体に傷でも残そうものなら、私はイエローに合わせる顔がなくなってしまう。
「お、お願いします。それだけは、やめて……」
震える声で嘆願する私に、イエローに似つかわしくない爽やかな声でディペンダーはこう返した。
「そうかそうか。それならレッド、お前がこの身体をいじれ」
「え……」
「性的にもてなすんだよ。ご奉仕だご奉仕。胸揉みしだいてマンコ舐って、僕を満足させてみろ。お仲間の身体、傷つけられたくないんだろう?」
「……」
「どうした?できないんならやっぱり僕が」
「や、やりますっ!やりますから……!」
おずおずと前に出る私を、ディペンダーはいやらしい笑みで歓待した。ところが。
「いや待て。お前、女が男に侍るんだぞ?普通は裸体を晒すだろう」
「えっ……?」
「ほら、脱げ」
「い、いや……」
「脱げっつったら脱ぐんだよ!これの身体がどうなってもいいのか!?」
今すぐこいつをぶん殴ってやりたかった。けれどそれができない私と、そんな私の足元を見るディペンダー。
私はやつに従うほかなかった。
パジャマを脱いで下着一枚の状態になる。
「へえ。お前もなかなかいい身体つきをしてたんだね。これだけでも十分なオカズになりそうだ」
「……」
そう言いながら私の背後に回り、私のショーツを下ろし、ブラのホックを外す。
成す術もなく、私は生まれたままの姿になった。
「健康的な程よい肉付き。透明感のある色白の柔肌。成熟に近づきつつまだまだあどけなさを残すその身体。身長も胸もこれには及ばないけど、ザ・女の子って感じだね。いやまったく素晴らしいなぁ」
「っ……」
私の顔は、怒りと羞恥で真っ赤に腫れ上がっていただろう。
「しかしこのようないたいけな少女に慰めてもらえるとなると……見なよ、イエローも乳首を立たせて興奮しているよ」
「っ〜〜!!」
「ほら、始めろ」
悔しさと羞恥になんとか堪えながら、私はイエローの胸を揉み、股間の奥に指をやり、徐々にその身体を昂らせていく。愛液は漏れ出し、彼女の表情には苦悶が浮かび始めた。
指圧に深く沈んでく乳房。私の指を本来挿入されるべきものと誤解して快感を発してくクリトリス。
イエローの綺麗な身体が私なんかの手で汚されていくことに罪悪感がとめどなく押し寄せてくる。けど、今は耐え忍ぶしかなかった。
(ごめんね、イエロー。もう少しだけ辛抱してて……)
かつてなにかで読んだことがある。女性のエクスタシーは男性のそれより数段と高いらしいのだ。もしそれが事実だとしたら、精神では男のディペンダーがイエローの身体に満足するのは意外とすぐかもしれない。
「ぅひぃっ!?」
そんな微かな期待を抱きながらディペンダーを慰めていると、私の身体が突如として跳ね上がった。誰かに、というかディペンダーに脇腹を摘まれたらしかった。
「な、なにをっ……!」
「くははっ。いやなに、レッドは昔から脇腹が弱いからさ。ついからかってやりたくなったんだ」
思わず身を捩り後ずさる私に、事もなげにそう言うディペンダー。彼のイエローに対する冒涜は、留まることを知らなかった。
「ちなみにこの身体は乳首のやや下と、言うまでもないがクリトリスがこいつの知る限り有効な性感帯らしい。普段の自慰でもよく使う箇所だ。ぜひお前の手で弄り回してやってくれ」
「……もう、いや……ぐすっ……」
「おや?」
「うわあああぁぁぁんっ!!」
私の頭は既に許容できない量の負感情に限界を迎えていた。気づけば私は敵を目の前にみっともない泣き声をあげていた。
「なんで、なんで……うぅっ……ぐすっ……」
夢かなにかであってほしい。今ここですべて投げ捨てても、明日にはいつもと変わらない日常が戻ってくるんじゃないかって、そう思いたかった。
「……レッド」
そんな私の震えの止まらない肩に、ぽんと柔らかな手が添えられた。
「レッド。もう大丈夫よ、レッド」
その優しい声音が、暖かな眼差しが、私にありもしない幻想を見せた。
「……え?まさか、イエロー……なの?」
「そうよ、私。ごめんね、心配かけちゃって」
いつも通りの話し口調。私の好きだったイエローが、擦り減った精神に安らぎを与えてくれる。
「イエローっ!よかったよぉっ!!ぐすっ……」
そんな私を優しく抱き締めてくれるイエロー。心地よく、落ち着ける、いつもと変わらないイエローの抱擁。
「ほら、いい加減泣き止みなさい。これから私、あなたに大事な話をしないとなんだから」
「ひっく……大事な、話?」
額をコツンと突き合わせ、あやすように話しかけてくるイエロー。
そんな彼女に、いつまでもみっともない姿を見せていたくなくて、私は目尻を拭って彼女と目を合わせた。
「ね、レッド。私と一緒に、イビル・カンパニーの傘下に加わりましょう?」
「………………………へ?」
「イビル・カンパニーは素晴らしいのよ。悪を助け正義を挫く。あんな素敵な場所は他にないわ」
「え?え?」
しかし幻想というものは、どこまでいったって泡沫と変わらない。結局私は、まだ現実を直視できずにいるだけだった。ディペンダーだと頭では理解できていても、目の前に映るイエローの虚像に縋りついてしまった。
なんて、情けないんだろう。正義の味方?レッド?なんてことはない。なんてことはなかった。私はただの、ひとりの臆病な女の子だった。それ以外の、何者でもなかった。
「レッド。イビルにはね、あなたの力が必要なの」
「……」
「あなたのその『思考や感情を消す力』は、使い方次第で善にも悪にもなれるからよ。だから……」
イエローの首に掛かったイビルの紋章が黒く輝き出す。イビルの人が能力を使う前触れだ。
「っ……!」
しまった。気が動転していて、ディペンダーの初動から出遅れた。でも、これならまだ回避は間に合うーー
「動いたら舌噛んでこれを殺す!」
さっきも聞かされた安い脅し文句。
でも、ここでディペンダーを捕まえておかないと被害は広まる一方だ。
私がやられるわけにはいかない。そのための犠牲に目を瞑ってでも、私は今動かなきゃいけなかった。
イエローなら、きっとそうしろって言ったはずだから。私のことはいいから、無念を晴らしてほしいって。そう言ったに違いないからーー。
「いい子ね、レッド。あなたは本当に優しくて、狂おしいほど無様な子」
そこまで考えが及んでなお、私の足は床から張り付いて離れなかった。
首飾りから放たれた闇の光が、私の身体に入り込んできた。
「……あ、い、いやっ、なにこれ!なにかがっ!なにかが私に入り込……ん、んうぅぅぅっ……ぅああああああああああぁぁぁ……
ふぅ。さて、あとはイエローの中で眠るこいつの魂から『正義の心』と、さしあたって僕への敵愾心でも消失させてあげれば、とりあえずゲームセットかな……うわ、こいつの憎悪、すごいことになってるなあ。僕までなんだかむかむかしてきたよ。ま、恨まないでほしいね。今まで散々僕たちの邪魔をしてきたんだからさ、これでおあいこってやつだ。
それじゃあお前のその心、お前自身の力でさよならさせてやるよ。じゃあね正義の味方。そしてよろしく……イビルカンパニー新四天王のひとり、『ダークレッド』……くはははっ!!」
×××
「もうじき全てが我が手に落ちる」
イビル・カンパニーのボスはそう呟いてから自ら各部隊の指揮を取り始めた。そんな全体が慌ただしく動き出すなか、ある4人の男女は彼の側に佇んだままでいる。左からディペンダー、ダークグリーン、ダークブルー、そしてダークレッドだ。
「お前たち…特にダークレッドは今日まで本当に役に立ってくれた」
ボスがそう労いの言葉を掛けると、高校生くらいの年頃の少女が彼の前に跪いた。
「もったいないお言葉。不肖ダークレッド。この先もボスの手となり足となり、我が全霊をもってイビル・カンパニーの発展に尽くしてご覧に入れましょう」
年齢に似合わない恭しい応対をしてみせるダークレッドと呼ばれる少女。ボスはそんな彼女の口元に手をやり、指先でその唇を摘んだ。やがてそれを自らの元に引き寄せ、一言。
「褒美だ」
まるで恋する乙女のように顔を紅潮させるダークレッド。そんな彼女とボスとの唇が重なり、彼の口から送り出される逞しい舌の侵入を許すと、彼女の表情に一層の艶かしさが宿った。
胸を揉まれ、股を弄られ。短い逢瀬ではあったが、しかし恍惚としたダークレッドはそれ以上を求めなかった。
「名残惜しく思いますが、続きはボスの世界征服が成ったときにでも」
ここで情欲に溺れているわけにもいかない。イビル・カンパニーのためにはどうするのが最善か。ダークレッドは自ら至福のひとときの中断を申し入れ、それがますますボスを上機嫌にさせた。
「配下として節度を弁え、能力も申し分ない。本当にいい拾い物をしたものだ……ではお前たちの任務を説明しよう。ここが1番の難所だが、我が四天王であればなんの造作もないだろう。頼りにしているぞ」
「「「はっ!」」」
命を受け、イビル・カンパニー新四天王が満を持して作戦へと取り掛かった。
「つかぬことをお伺いしますが」
目標地点に向かう途中、唐突にダークブルーが口を開いた。
「うん?いいよ。まだ時間は余ってるからね」
「ありがとうございます。ダークレッドの能力についてなのですが、私の記憶では彼女は思考や感情を消滅させることしかできなかったはず。ディペンダー様はいったいどのようにして私たちにイビルやボスへの忠誠心を植えつけられたのですか?」
なにを聞くのかと思えば、随分と今さらな話だった。
「ああ、そういえば話したこともなかったかもね。じゃあダークレッド、説明してあげて」
「はっ」
少し面倒だったけど、ディペンダー様のご命令とあれば仕方がない。なにより今の私は、ボスとの営みを確約されてすっかり上機嫌だった。なんだって聞いてあげれる気分ですらいる。
「ええっと、ディペンダー様が私たちの元アジトを襲撃してくださった当時の話はもうしたよね?」
「ああ、ディペンダー様がイエローの身体を経由してお前に乗り移ったんだったよな」
「そう。そしてそこからがディペンダー様の素晴らしい着眼点だったの。私の消失させる力は、もう一段階先があるんじゃないかってディペンダー様はお考えになられた」
「実際に乗り移ってみて感じたんだよね。以前の君はその力を恐れるあまり、無意識にブレーキを掛けていたことに。だから僕がそのブレーキをぶっ壊して、力を極地に至らせた」
「それが消失と対になる新しい力、生成だったの」
一見相反する効果でこそあるけど、その実意味合いは180度反転させただけのものだから、原理的にはそれほど不思議でもない。まあ原理でいったらそもそも能力ってなに?どうやって発現してるの?ってなるけど。
「あとはそれを使ってイエローの中で眠ってたレッドの魂に色々産みつけたり元の感情を消したりして、それから憑依を元に戻せばこの通り」
「ダークレッドの出来上がりというわけですね。なるほど、勉強になりました」
そんな話をしているうちに、いよいよ敵拠点が見えてきた。
「心を歪ませたこの僕を恨んでいるかい?」
不意にそうお尋ねになるディペンダー様。そのお口元はにやつかれていて、まるで悪戯を企む人間のよう。
「はあ、ご質問の意図がよく分かりませんが、感謝こそすれ、私がディペンダー様を恨ましく思うことなどあるはずないじゃないですか。かつての燻っていた私を導いていただけて、本当の私を必要としてくださるボスやイビルのために今この力を振るえる……私にとってこれほどの幸せはありません」
「昔憑依したときに覗いちゃったんだけど、お前の幸せは人々が明るい笑顔を見せてくれることじゃなかったっけ?」
「人々のところがボスやイビルの皆様に置き換わっただけです。些事です」
「些事か」
「ええ」
そんなやりとりをしていると、隣のダークブルーがごほんとひとつ咳払いをした。なにか話したいことがあるらしい。長話ししちゃってごめんね?
「ところで、今回ディペンダー様が直々にご出陣されるのには何か理由があるのですか?」
あ、それは私も少し気がかりだったことだ。なにせ今から乗り込むのは敵の最重要拠点。今日は各地で最終決戦が繰り広げられているけど、その中でもここは1番の難所。つまり1番危ない場所というわけだ。私たちもいるし心配はないけど、万一を考えたらディペンダー様にいてほしい場所ではない。
「理由?もちろんあるよ。僕もたまには身体を動かさないとだからさ。ほら、女の子の身体ってちょっとだらけるだけですぐ贅肉が付くから。見てこれ」
そういってお腹を摘むも、私には正直贅肉が付いてるようには見えない。締まるところは締まって、出るところは出る。以前となにひとつ変わらない抜群のプロポーションだと思うけど。まあディペンダー様がそう仰るのであれば、私たちはただ従うのみ。いざとなれば身命を賭して、お守りいたしてみせましょう。
「よし、じゃあいくか」
「「「はっ!」」」
今日も私は、年甲斐もない魔法少女然とした黒のコスチュームをはためかせながら、ステッキ片手に人々を絶望の色に染め上げていく!
×××
「よろしいのですか?イエローの身体を手放してしまって」
すべてが終わりを迎えたその日の晩、ディペンダー様と私は幽閉されているイエローの元に赴いていた。
ディペンダー様は現在、敵軍の司令官だった女性の身体に憑依している。当然イエローの身体にはその女性の精神が居着いているけど、言うまでもなくその心は私の力で浄化済みだ。イエローの身体になった彼女は問題なく私たちに従って、後ろをついてきてくれている。
「ああ。イエローの身体も確かに良かったけど、この身体には負けるね。ほんとすごいよこの身体。男の浪漫が詰まってる。元のこいつはこれで今まで男っ気もなく勉強の虫だったらしいから信じられない。これからはこの僕がしっかり有効活用させてもらうからね」
とても嬉しそうにそう仰るディペンダー様。
「それに、気が向いたらまた使わせてもらえばいいだけの話でしょ」
「……なるほど。それもそうですね」
というわけで、これからディペンダー様の精神は司令官の身体に、司令官の精神は元のディペンダー様の身体に、イエローの精神は元通りイエローの身体に宿ることになる。
「ディペンダー!レッドを返しなさいっ!!」
到着するやいなや、ディペンダー様に噛み付いてくるイエロー。その威勢はこうして手足を縛られた今も衰えることなく、彼女生来のメンタルの強さを感じさせる。ただ、ディペンダー様のお声で言われると、その口調はなかなか違和感あるんだよね。
そんな敵愾心マックスの彼女にディペンダー様がご説明を始めた。
「そのディペンダーは今はこっちね。あれはもう抜け殻みたいなものだよ」
「……あなた、また他人の身体を乗っ取ったの?なんて下劣な……!」
「下劣とはひどい。今日はせっかくいいニュースを持ってきてあげたのになあ」
「……いいニュース?」
正直に言うと、私はこのふたりの対談があまり好きじゃない。私の心は既にイビルの皆様をはじめ、ボスやディペンダー様に捧げている。だけど、イエローとは変わらず友達でいたい。だから、このふたりの仲違いは、見ていて心が痛むのだ。
「イエロー、お前の身体を元に戻してやる」
「っ!……どういう、風の吹き回し?」
「どうもなにも、お前のよりいい身体が手に入ったってだけ。この女に感謝しなよ」
そして訝しむイエローに対して、ディペンダー様は歪んだ笑みを浮かべた。
「ただ、いい加減お前の癇癪芸にも飽きてきたことだし、こうしているとダークレッドも悲しむんだ。だから、これを機にそろそろお前も変えてやろうと思う」
「え……」
「!ディペンダー様、それって!」
「ああ、彼女も僕らの仲間に加えてあげよう」
それを聞いて私は跳ね上がった。だってそれって、すっごく幸せなことだ!ディペンダー様が私のことを気に留めてくださっていたというのも、たまらなく嬉しい!
私はイエローに満面の笑みを向けた。
「やったねイエロー!これでまた私たち、ずっと一緒にいられるよ!これからはイビル・カンパニーのために、仲良く頑張っていこうねっ!」
「そ、そんな……」
けれどどうしたことだろう。当のイエローは憮然とした表情だ。
ああ、なるほど。責任感の強い彼女のことだから、きっとこう悩んでいるに違いない。
「大丈夫。イエローの頭脳なら絶対イビルの皆様のお役に立てるよ。きっとボスにだって気に入っていただける。だから心配しなくても大丈夫だよ!」
自分が新しい環境でうまくやっていけるか不安な気持ちは分かる。だけど絶対大丈夫。長年一緒にやってきた私が、たぶんそのことを誰よりも理解していた。
「れ、レッド!いい加減に目を覚ましなさい!!あなた、自分がなにをしようと……なにをさせられようとしているのか分かってるの!?」
途端に激情を発し出すイエロー。ただ、私には言ってる意味がよく分からなかった。
「何度説明すれば分かるんだい?こいつはもはや思考や感情っていう根本の部分がレッドじゃないんだって。今のこいつは、『ダークレッド』なんだって。ないものはない。あるものはある。目を覚ますとかの話じゃあないんだよ」
ふたりはなんだか小難しい話をしているみたいだから、私はとりあえず紋章とステッキに想いを込め、力の蓄積を始めることにする。
「レッド!あなたは操られているの!私たちの本当の敵はイビル・カンパニー!目の前にいるディペンダーなのよっ!!」
「案ずるなよ。こいつのステッキが振り下ろされた頃には、めでたくお前もその本当の敵とやらの仲間入りだ。お前もこいつと同じく本心から僕達に忠誠を誓うことになる……くくっ、くはははぁっ!!」
「ダメぇっ!レッドぉぉぉっ!!!」
ああ、イエローの悲痛な叫び声が聞こえる。
「準備……オッケーですっ!」
「よし、やれ」
これ以上イエローを悲しませたくない。なんていったって彼女は、笑顔が似合う可愛らしい女の子。
「えぃりゃあっっっ!!!」
大好きな友達の門出に相応しい一撃を。
そう思いながら私は今までで1番想いの込もった渾身の一撃を彼女にお見舞いしてあげた。
土煙が収まっていく。見ると、そこにはなんの屈託もない晴れ晴れとした友達の顔があった。
目が合うと、どちらからともなく笑い声がこぼれた。思えばこんななんてことのないワンシーンも、随分と久しぶりだった気がする。
私たちは一頻り笑い合って、それから私はこう言った。
「それじゃあ改めまして……ようこそイビル・カンパニーへ!歓迎するよ、ダークイエローっ!」
友達の復活と組織の栄光に胸を高鳴らせながら、これまで以上に頑張っていこうと、私は心からそう思った。