カーテンを閉め切った部屋の中、背中の向こうに相手の気配を感じる。
ベッドの枕側に座って、壁を見つめながら、服を脱いでいく。一枚くらい残した方がそそるか、と思ったものの、結局は全部脱いでしまった。
異常なまでに心臓が跳ねまわっている。戦っているときよりもすごい。これからの行為を想像すると、準備運動の必要などないほど、身体がヒートアップしていく。
振り向いたらどうなってしまうのか、という恐れと緊張。そしてそれとは矛盾した、はやく、はやく、という疼きに、板挟みにされる。
もうこれ以上、我慢はできない。する必要もない。
「……ミゼル。いいかな」
「う、うん」
互いに固い声。
僕は身体を隠さずに、同じくベッドにいるはずのミゼルにむかって、振り返った。
「っ―――」
お互い、似たような表情だったと思う。ミゼルは僕の裸を見て、顔を真っ赤にして、息を呑んでいた。
ミゼルの姿は……顔立ちは少年らしくまだ幼さが抜けきっていないのに、身体付きはけっこうゴツゴツで、引き締まっていた。脱ぐとすごいってやつだ。ギャップがある。
僕の、アスリカの身体は、後ろで突っ立っている魔法使いだからか、ミゼルと比べれば筋肉質には見えない。ただ着痩せするタイプであり、しめつけの無くなった状態だと胸はかなり豊満だ。現にミゼルの目は、さらけ出したおっぱいに釘付けになっていた。あっちも、脱ぐとすごい、と思っていることだろう。
さて。
僕は、男の裸なんぞに興味はない。当たり前だ。
でも。あの硬そうな身体と、この柔らかい身体で、思い切り抱き合ってみたら。……どんな感触がするだろうか。
「ミゼル……」
僕は両手を広げて、相手の目を見て、名前を呼んだ。
意図はすぐに伝わった、ベッドの上、互いの距離が縮まっていく。それはやがて、ゼロになった。
互いの胴体の間で、むぎゅっと胸が押しつぶされる。
……気持ちいい。
身じろぎして、擦り付けるようにすると、もっと気持ち良かった。
「ん……」
ずっとそうしていると、体温が同調して、いつの間にかお互い、どろどろに汗が出ていて、このままではひとつに溶け合ってしまいそうだった。
いや、それでいいんだ。これから僕たちはひとつになる。ミゼルの荒い息と獣じみた目を見れば、このあとのことは明白だ。
「み、ミゼル。……いいよ……」
耳元で、堰を切ってやる。
とん、と肩を押されて、僕は仰向けに寝かされた。
そこまでは優しかった。
見上げると、二本の腕で、僕を逃がさない檻を作ったミゼルが、堪え切れないと言った様子でこちらを見つめていた。
……こうして、押し倒されているにもかかわらず。僕は、優越感を覚えた。
しかし。
「あ、ま、待って。キスは嫌だよ。気持ち悪いから」
顔がどんどん近づいてきたので、僕は釘を刺した。言葉通り、それはごめんこうむる。
「……ッッ!!」
「んむぅっ!?」
ちゃんと言ったのに。
僕に支配されるはずのミゼルは、まったく、言うことを聞かなかった。
“唇を奪われる”とはまさにこのことだ。気持ちが悪い。自分の柔らかい唇に、相手が夢中になっているのが分かってしまう。
僕は細い腕で、ミゼルを押し返そうとがんばった。なのに、どうしてか、力が抜けていく。
「や、やめ……ふううっ!?」
下の方から、信じられない刺激が駆け上がってきて、僕はベッドの上で仰け反りそうになった。それを、ミゼルが押さえつけてくる。
……大事なところを、さわられている。いじられてる。男のときとは比べ物にならないくらい敏感なうえに、自分で触るときの刺激とも違う。身体の内側に、“気持ちいい”が侵入してくる。
口も塞がれて、動けなくて、快楽を逃せなくなって。僕はミゼルにいいようにされて、びくびくと震えることしかできない。彼の手が動くと、僕の喉から女みたいな声がする。楽器みたいに。自分の意志じゃない。
支配、されている。
そうやって、しばらく相手の好きなことをされて。全身がほんのり紅くなって、涙が勝手に出てきたころ。
やっと、ミゼルは小休止を入れた。手を止め、僕の顔をじっと見て、荒い息を聴いている。
自分の女だとでも思っていそうだ。
……いい気になるんじゃない。
隙をついて手を出し、べん、と相手を倒した。
ミゼルの顔に胸を押し付け、しょうもないチンコを握ってやる。
そのまま男のオナニーのときみたいにこすってやると、情けない反応をしてくれた。
「おや、きもちいいですか~? あはは。ほら。射精しろ、無駄撃ちしろっ」
動きを激しくしていくと、いよいよ暴発しそうになったので、ぱっと手を放す。
「おっと。だめー。残念でした」
煽りはしたものの、ここで萎えられても困るんだ。
けっこうお互い、もう繋がりたくてしょうがないと思う。いよいよ、本番だ。
最初は、向こうから無理やりされたかったのだが、リードされるのもしゃくなのだとわかった。
仰向けのミゼルに跨る。僕がおまえを、気持ちよくしてやる。光栄に思ってほしい。
屹立したソレ……まあ、ちんこ。それを自分の下腹部にあててみると、けっこうデカくて、大丈夫かな、と思った。
「………」
切なそうにしている碧眼と、アイコンタクトをとって、僕は腰を浮かせる。
童貞かつ精神的に処女なので、もたもたしながら、入れる場所を探した。
……ちゅぷ。
たぶん性器同士がキスしたっぽいので、腰を下ろしていった。
「……ふうっ。ふぅう〜っ、んぅ〜〜っ」
息苦しくなる圧迫感がやってきて、あと、内側のだいじな肉とソレが擦れて、妙な声が出た。
そしてやがて。奥に、こん、とあたった。
「かふっ!? は、はいった……?」
ふしぎだ。さぞ、痛かったり、気持ち悪かったりするんだろうなって思ったのに。
頭がバチバチして、心臓がどくどくいって、勝手に、息が上がってる。
「あ、う……」
頭のてっぺんまで貫かれているような感じがする。ちょっとでも身じろぎしたら、知らない感覚にぞぞっとおそわれる。身体の内側を擦られるなんて、こわい。
自分でこうしたはずなのに。僕は、串刺しにされて、動けずにいた。
「んぶっ!? んえっ、あっ、あっ、んぅっ……!」
我慢できなくなったのか、下のやつが動き出した。
おい、ふざけるな。こっちは、入れてるだけのやつとは、感じるものが違いすぎる。だめだ。こんなの、フェアじゃないじゃないか。
内側がえぐられて、へんなところに先っぽがあたる。そこを突かれるたびに、自分のじゃないみたいな声が出てきた。
「あっ! やめ……トントンするなあっ」
ミゼルはそこを見つけたようで、執拗に擦ったり、突いたりしてくる。じんじんとおなかが疼いて、それが全身に広がって、脳みそにまた集まってくる。
鼻血が出そうだ、と思った。顔がつんと熱いからだ。耳も。喉も。下のきもちいいのが、ガンガンと頭に送り込まれてきて、おかしくなる。
アスリカの身体、ぜんぜんだめだ。よわすぎる。
「ふああっ! んう、はあっ、はあっ、う……」
力が入らなくなって、体力の限界で。僕は背筋を伸ばしていられなくて、ミゼルに覆いかぶさった。
そのまま休ませてほしい。
……って、思ったのに。
今度は、無理やり抱きかかえられて、壁際に下ろされて、手をつかされる。
下半身をひっぱられて、お尻を突き出す姿勢にさせられた。
こ、これは。
ふつうに恥ずかしい。
ていうか……
「ふううううっ!? あ、やめ、うあ、あうっ!」
後ろから入れてきて、犬みたいに腰を振られる。
いやだ。人間じゃないみたい。それに、さっきとは違うところにあたって。
足にも腕にもちからが入らないのに、無理やり立たされて、犯される。いやな気持ちなのに、快楽と多幸感が脳みそを殴ってきて、ヘンだ。
「はっ、はっ、っあ! んっ、あう」
「アスリカ、ごめんは?」
「ご、ごめんなさいぃいっ!! いぃいぃ、いっ!」
嬌声で謝ると、謝っているのに、もっと激しくされた。
……身体が。もう。
もうだめだ。ここまで来たら、認めてしまう。
このアスリカの身体は、ミゼルに屈服させられた。
屈辱であると同時に、それはやっぱり、すごく、いいと思った。
もうこの身体はミゼルのもの。あんなに、罵って、蔑んでいたやつに、アスリカ・フェリアーナは後ろから犯されてる。
そして。
「んあああっ!? あ、熱……」
中に、何か熱いものが注がれた。
どくん、どくんと僕のお腹の中に、何かが吐き出されてる。
ああ。やりやがった。
取り返しがつかない。
………。
僕は、うれしくて、笑った。
うすうすと、これを期待していた。アスリカのこれまでとこれからが、台無しになるこの瞬間。
それを自覚して、ついに。僕の身体は、果てた。
「ふあ、あう……っ……っ!」
びくびくと、声を押し殺して、静かにイった。
もう立てなくて、床にうずくまる。それを、ミゼルが、抱き上げてくれた。
「……あ、ありがと……」
やさしくベッドに寝かされて、僕は、ミゼルに甘えるアスリカを、心から演じた。
“ミゼルと結ばれるアスリカ”になること。それ自体が気持ちいい。加えて、身体が覚える快楽。
乗っ取った女になりきって、そいつの身体で、誰かに愛される。たぶん、最高のセックスだと思う。
息を整えたら、僕はまた、ミゼルに手をのばして、続きをねだった。
「ミゼルぅ……」
盛大に射精して、ふつうなら終わりのはず。
でもミゼルは、まだ元気だった。たぶん、出会ってから今日までの長い間ぶん、溜まってるものがあるんだろう。
それから僕らふたりは。日が沈んで日付が変わっても、猿みたいに下品に求め合って。
次の日の朝まで、どろどろにお互いを汚し合った。
▼
「熱ぅっ……」
もう数えてないけど、何発目かの射精を中で受けた。
現実の男にはない絶倫だ。これも異世界ファンタジー要素である。
「バカ、できたらどうするんだ……」
ついそんなことを口走った。今さらである。
やってしまったものはしょうがない。アスリカという女の子は、ちょうど冒険者盛りの若い時期に、大きなお腹を抱えて生きていくことになるわけだ。
それって、破滅だろうか。破滅かもしれない。でも……どうだろう。
僕は、ミゼルを責める言葉を吐きながら――、自分のお腹を優しく撫でて、笑った。
「ぼ、僕がたくさん働くから……あ、朝だね。さ、さっそく仕事しなきゃ」
半日以上もヤって正気に戻ったのか、ミゼルは久しぶりに人語を発した。
赤いのか青いのかわからない顔であたふたと服を着ていき、仕事に行くなどと言う。
「ま、待って」
僕は、それを呼び止めた。
……だって。まだ、元気そうだ。
「おね、おねがいが、あります。……ミゼル、さま」
敬称をつけて、おもいきり、へりくだる顔をつくって。
全裸のまま、ベッドに跪いて。
うやうやしく、深々と、あたまを下げた。
「もっと、気持ちよくしてください……」
まだ、まだ。もっと。
この身体を、犯してほしい。ずっと待ってたんだ。半日じゃ足りない。だから。
顔をわずかにあげて、ちら、と、彼の表情を確かめる。
……音が聞こえたわけではないが。ごくりと、喉が動いているのが見えて。僕はくちびるを舐めた。
「あッ、ミゼル様……♡」
そうして。そのあともずっと、僕はアスリカの身体で、嬌声をあげ続けた。