ピーコックに残存する勢力はイムヤ達の報告以上で、
基地航空隊だけでも500を超え、正規空母2隻、軽空母5隻を
主力に総勢70隻の大艦隊が存在した。
空母の数よりも軽巡洋艦と駆逐艦の数が圧倒的に多い。
これは攻撃用の機動艦隊というよりは、
基地航空隊を主力とした防空艦隊とも呼べる戦力だ。
そこへまずアウトレンジから一撃を加えるために、
赤城を旗艦とした機動艦隊を展開。
この部隊は史実の第一機動艦隊の縮小版であり、
一航戦と二航戦、それに翔鶴を加えた正規空母5隻。
それを横須賀の大和以下の艦艇が護衛する。
敵もレーダーで赤城艦隊を補足し、直ちに迎撃態勢を取る。
まずは準備のできた基地航空隊から、次々に戦闘機や爆撃機が滑走路を走る。
この時点で赤城艦隊の先制攻撃は完全に失敗しているのだが、
敵にとっておかしなことが起きた。
大気圏上から飛来する落下物。
音もなく飛来するそれは、横須賀から発射された巡行型のミサイルだった。
赤城と加賀が、死んだ後の世界で神から授かった秘密兵器だった。
同盟国ドイツが持っていたV2ロケット弾を改良したもので、
飛距離と命中精度が大幅に上昇している。
V2改と命名されたそれは、段数は700発とそれなりだが、
神から授かった割は故障が多発し、上空で自爆、発射台ごと
爆発するなどしてほとんどが使い物にならない。
結局敵陣に飛来したのは半分以下の200発程度だった。
敵にとっては音速で接近する謎の物体が突如したので
迎撃ができない。対空機銃の照準が合わず、ミサイルが通過するのを
眺めているだけだった。離陸直前だった基地航空隊の飛行機が破壊され、
その誘爆を受けて後続の飛行機にも火が上がる。
深海棲艦側は、艦娘からの空爆は当面はないと油断したのか、
ほとんどの飛行機を滑走路付近に整列させたいたのが裏目に出た。
ミサイルの先制攻撃で100機以上の飛行機が損傷するか破壊された。
撃破数よりも敵に与えた心理状態が大きく、基地は大混乱に陥った。
主要な滑走路、基地施設、石油タンクも大炎上している。
特に石油タンクは数日間は燃え続けそうな勢いだった。
黒煙が一面を覆い、もはや航空部隊が出撃するどころではない。
その間に赤城を旗艦とした空母艦隊から飛び立った第一次攻撃隊、
160機が敵空母艦隊に襲い掛かる。
新型の流星、彗星を主力とした航続距離の長い
攻撃機で敵の間合いの外から攻撃を仕掛けた。
史実ではマリアナ沖海戦で失敗した戦術なのだが、
今回は練度の高い一航戦と二航戦のパイロットを中心に実施する。
今回の目的は敵空母の撃滅である。
ピーコック基地航空隊の壊滅は目的としていない。
敵の80を超える戦闘機部隊が空母上空を旋回している。
F6Fヘルキャットの群れである。
赤城艦隊の護衛の零戦52型と空中戦になる。
敵は旋回性能を生かした格闘戦に持ち込んでくる。
防弾性は特に優れており、エンジンの馬力にも優れる。
だが零戦を使いこなす熟練パイロットの技量で機体性能の不利を補う。
無数の飛行機が、空を乱舞する。
赤城、加賀の制空隊が中心となり、惜しみなく20ミリ機銃を放つ。
敵機を次々に炎上させ、翼から煙を吐かせ、燃料を噴出させ、海へ落としていく。
空母へ逃げようとする敵機には無理な追撃を行ずに、すぐに次の敵を見つけた。
この空戦の結果は、キルレシオで1対5と大勝利だった。
敵の防空網を無傷で突破できたのは艦爆連合の8割といったところだが、
十分すぎる数だった。
空母戦に限定すれば、結果は大勝利だった。
正規空母一隻 中破。
軽空母二隻 撃沈
軽空母一隻 大破炎上、のちに駆逐艦の魚雷で自沈処分。
軽巡洋艦一隻 大破
駆逐艦一隻 撃沈
赤城艦隊の飛行機の損害は、撃墜が6機、損傷が7機と少ない。
敵側の対空砲火は熾烈を極めたが、艦載機がほとんど損害を得ずに
これほどの大戦果を挙げたのは、新型の攻撃機を使用した成果である。
敵空母艦隊は、攻撃用の戦力である爆撃機と雷撃機を出撃する前に
撤退を開始した。反撃のチャンスはあったはずだが、攻撃を諦めたのだ。
「前進ね」
加賀が敵基地を指した。
敵機動艦隊は基地を離れた。それはもういい。
残ったのは敵基地である。
今回の空爆の目的は、敵の基地の占領ではない。
基地を占領するだけの戦力を横須賀艦隊は持ち合わせていない。
あくまで敵の次なる攻勢を防ぐための空爆である。
そのためには徹底的に爆弾を落として叩きのめす必要がある。
戦いとは心理戦が重要なのだ。
赤城艦隊は最大船速で敵基地へと接近しながら、
攻撃隊の収容を終え、攻撃機には爆装させた。
艦載機を次々に発艦させる。
途中で10機程度の群れの敵戦闘機の迎撃が何度かあった。
どれも散発的なもので、零戦隊の迎撃と秋月と大和を主体とした
対空射撃で十分に撃退できた。
由良に至近弾があったが、被害はそれだけだった。
「敵基地との距離が縮まったから、そろそろ本気出していいかな?」
飛龍にだけは特別な攻撃機を積んでいた。
橘花改、そして流星である。
いずれも攻撃時の最高速度が650キロを超えるだけでなく、
航続距離にも優れた新型の艦上攻撃機である。
二航戦の熟練搭乗員が操縦した。
この新型機は、本来なら赤城と加賀に積むべきものだが、
史実のミッドウェイで孤軍奮闘した飛龍を
評価して彼女に搭載することを許可した。
第一航空戦隊の熾烈なる空爆により、ピーコックは火の海とされた。
真珠湾の二の舞である。好きなだけ爆弾を落とした飛龍攻撃隊の妖精達は、
それはもう楽しそうに島を飛び去ったものだ。
敵艦隊がいないのをいいことに、大胆にも
大和と榛名以下の艦隊が島に接近して艦砲射撃を開始する。
大和の46センチ砲、榛名の35.6センチ砲が火を噴く。
空を轟音が飛び去り、巨砲が島に落下する。
破壊された飛行機のプロペラが、宙へ浮く。
翼の残骸が木に引っかかる。
対空射撃陣地はがれきの山と化す。
もはや敵は戦意を失うが、まだ由良や秋月らが砲撃を続ける。
最後は赤城が得意の20センチ砲を使って島を攻撃する。
空母なのに砲撃戦を好むのは彼女だけである。
大和は1600発、榛名は1000発以上の弾薬を使った。
もはやピーコック島は焼却炉のようなものであり、
基地ではなくなった。由良から飛び立った水上偵察機の妖精が、
これ以上の空爆は弾薬と燃料の無駄だと進言した。
「まさに鎧袖一触ね」
「油断はいけませんよ。加賀さん」
「わかっているわ。言ってみただけよ」
加賀がその定型句を口にした五分後だった。
翔鶴の足元に突然魚雷が命中し、彼女の体の半分が海に沈んだ。
「敵潜水艦を確認!!」
由良が叫ぶ。
秋月が雷撃戦を展開し、すぐに潜水艦を補足し、追い回す。
由良と共に爆雷を次々に投下する。
敵は潜航し息をひそめるが、これを逃がすほど横須賀艦隊の練度は低くない。
由良の爆雷が命中し、敵の爆発で水中が盛り上がった。
実は敵の潜水艦は3隻いたのだが、残りの2隻は逃げてしまった。
「ちっ……」
加賀が忌々しそうな顔で舌打ちした理由は、
空爆に夢中で敵の潜水艦の接近に気づかなかったことが一つ。
敵艦隊は撤退する中で潜水艦だけを反撃に使ったのだ。
もちろん潜水艦は全滅する覚悟で。
もう一つは、翔鶴が足を負傷したこと。
彼女は今回の作戦で、船の損害をゼロする自信があった。
神から授かったミサイル弾の先制攻撃、それに自分たち航空戦隊の技量。
飛龍に搭載した新型攻撃機を組み合わせれば『完勝』できたはずだった。
「これでは提督はおそらく……」
赤城が爪を噛む。
母港に帰還すると、提督は翔鶴に駆けよって抱きしめた。
赤城が目を細めながら戦果を報告するが、提督は
「おまえらなら勝つのは当たり前じゃないか」
と冷たいことを言う。
提督は、無敵の一航戦や二航戦より、未熟な五航戦の方が心配なのだ。
「て、提督。そんなに心配されなくても、
私の傷はそこまで深くはありませ…」
「いいから、はやく入渠するんだ!!
おまえの足には魚雷が命中したんだぞ!!」
翔鶴は涙を流した。この人は、一時は妻たちを嫌って家出まがいのことも
したが、やはり海軍提督なのだ。戦いで傷ついた艦娘を自分の娘のように
大切にしてくれる。提督の脳内にも、翔鶴に介護された時の記憶が
鮮明に残っているから恩返しの意味もあった。
「提督、ありがとうございます。愛しています。早く傷を治しますね」
「ああ。また元気になったら一緒にご飯を食べような」
赤城が、舌打ちをする。
提督は聞こえないふりをした。
翔鶴は先輩方の殺気を背中に感じるが、知らん顔をするしかない。
「榛名も大丈夫だったか!?」
「は、はい!? 私ですか!! 榛名はもちろん大丈夫です!!」
提督は榛名のことも、ぎゅっと抱きしめた。
榛名は二航戦に痛めつけられた傷が癒えていない。
左手の薬指は根元から切断され、右目の周りの青あざは今も残る。
折られた歯は入れ歯になった。
左の肩は、肩より高い位置に上がらなくなってしまった。
かつて太平洋戦争を通じて最も活躍した艦の一隻であるこの艦娘は、
たとえ不利な状態でも戦いにおいては愚痴の一つもこぼさず、
対空迎撃戦と艦砲射撃に参加した。
確かに今次作戦は空爆のため空母艦隊が主力ではあるが、
はっきり言って榛名の状態は戦えるものではない。
「俺はずっと榛名がちゃんと生きて帰ってこれるか心配だったんだ。
命中弾が一つもなくて本当に良かった」
「ああ……提督。榛名は嬉しいです。
榛名はもう死んでもいいくらいに幸せです」
提督の胸板に顔を預ける榛名。彼女の長くてしなやかな髪をなでる提督。
二航戦からの殺意の視線は、もはや熱すら感じるほどに凶悪なものとなったが、
榛名には関係がない。今はこの瞬間を誰にも邪魔されたくなかった。
提督の心は、戦果とは裏腹に一航戦と二航戦の心から離れていった。
この一件が、赤城の心に致命的なダメージを与えることになる。