提督が「おーい赤城」と呼ぶと、赤城は5秒以内に姿を現せて
提督の身の回りのお世話をしてれるようになった。片腕になった
提督は服を着るのにも難儀するので、介助が必要なのだだ。
「それは私の仕事なのですが……」
と鹿島が不快そうな顔をするが、
「まあまあ」
と提督がなだめる。
赤城が提督の腕を取り、ニコニコしながら食堂に続く廊下を歩く。
「今日は朝から晴れてますね」
「ちょっと日差しが強すぎるよな。
10月の頭なのに最高気温が30度を超えるそうだ」
「せっかくの休日ですから、少しお外を散歩でもしましょうか。
お昼時はあれですけど、早朝なら気持ちいと思いますよ」
「そうだな。赤城がそういうなら、そうしよう。
ただし、朝ご飯を食べてからな」
「はい!!」
食堂にはほとんどのメンバーがそろっていた。
翔鶴や加賀、二航戦の二人は不快そうな顔を隠そうともしない。
榛名や由良も同じだ。
皆が同じことを想っていた。
なぜ、あいつだけが提督を独占しているのかと。
実は理由はちゃんとある。
提督は赤城の最近のヒステリーは、提督からの愛が
不足していたからだとして、しばらくの間は妻の交代制を
中止して、赤城とすごすようにしたからだ。
加賀が、提督の判断だから従いなさいとみんなに命じたが、
しかし加賀とて毎日彼らのイチャラブを見せつけられると
気持ちの良いものではない。
ここにいる艦娘は、提督のことを病的なまでに愛しているから、
誰か一人が提督を独占することを絶対に許さない。それを誰よりも
理解しているはずの提督が、赤城をエコヒイキしてしまっている。
これでは別の火種を産むだけであり、何の解決にもならない。
むしろ事態を悪化させるだけなのではないかと、全員がそう思っていた。
特に飛龍は「赤城先輩も加賀先輩と同じですね。一航戦は
提督に媚を売る雌犬」と面と向かって毒を吐いたが、
赤城は笑ってやりすごした。あの赤城が、である。
自分は提督に愛されている。彼は自分をちゃんと見てくれる。
それだけで赤城はこんなにも晴れやかな気持ちになるのである。
「赤城。箸が進んでないぞ? 食欲ないのか?」
「私はこれだけで満足なんです。
あなたこそもっと食べないと栄養が付きませんよ?」
赤城は優越感に浸っていた。他の妻からの
明らかな嫉妬の視線を感じるが、特に翔鶴からの視線が気持ちよかった。
赤城は艦娘一の大食いなのに提督におかずを分けてあげて、
自分は少量のご飯とみそ汁、デザートしか食べない。
別に食欲がないわけでもないし体調も万全だが、提督の横の席に
座っていられるだけでウキウキして仕方なかった。
『大食いのデブのくせに』『提督の前だから小食のふりを?』
ほら来たと赤城は思った。どこからか陰口が聞こえたのだ。
彼女はここ最近の素行の悪さのせいで、妻全員に憎まれていた。
皆の憎しみは相当に深く、赤城に自分から話しかける艦娘は
加賀以外には存在しない。
『黒髪のデブ』
『雷撃機の損失率高いし、一航戦の割に強くない』
『前は私らを奴隷にしたくせに、何あの顔は』
『あいつ、よく見るとブスじゃない?』
横須賀鎮守府の食堂の風景は、現実世界の日本の会社の食堂と同様である。
女が複数集まると、必ず悪口陰口嫉妬が生まれる。まさに脳みそが腐っている。
赤城と提督が仲良しになってからたったの1週間でこれである。
(余談になるが、筆者はこの設定でもなお艦娘のことを愛している。
艦娘に限らず人間とは、醜く愚かな部分まで含めて
愛すべき存在だと思っているからだ)
赤城がおかずを食べないのは、大食いと言われたことを気にしているからだ。
日々の鍛錬は怠っていないのだが、確かに最近は肉付きが良くなってきた。
提督は気にしなくて良い、そのままの方が可愛いと言ってくれるが、
乙女なのでやはり気になってしまう。
食後、提督と腕組みし、彼に全体重を預けるようにして
玄関まで歩く赤城。ふと視線を感じたので横目で後ろを見ると、
またいた。榛名である。金剛型戦艦の三番艦は、赤城を恐れて
直接文句を言わない代わりに、こうしてストーカーまがいのことをしてくる。
榛名は廊下の隅に隠れ、ふたりの様子をうらやましそうに見つめている。
提督は妻の中でも榛名のことが特に好きだったが、赤城に気を使って
『三人で一緒に出掛けよう』とは言わない。
提督と赤城は海岸沿いの散歩道を歩くことにした。立派な石造りの
歩道が永遠と続く。南国をイメージしたヤシの木が道沿いに植えられていた。
「提督。そこのベンチに座りましょう」
赤城は歩き始めて10分もしないうちにそう言った。
提督も腰を掛ける。赤城は提督のたくましい肩に頭を預け、
いつまでもそうしていた。ターバンをかぶった提督が、日差しのまぶしさに
目を細める。本日は風もなく良い日だ。陽光が海をキラキラと輝かせる。
「あっ」
提督がしまったと口をふさぐ。つい見てしまったのだ。
ヤシの木の陰に隠れていた艦娘を。
「また榛名ですか?」
「やっぱり、わかっちゃうのか?」
「あんなの見つけてくださいって言ってるようなものですよ。
太平洋の海で敵艦隊を索敵することに比べたら、ですけどね」
榛名の背中から黒い煙が立ち込めている気がした。
おそらく気のせいではないのだろう。それほど怒っていながらも
赤城が怖くて声をかけることもできないのが提督には少し可愛く思えた。
「気にすることないですよ。無視しましょう」
「あ、ああ……」
「今まで提督を困らせるようなことことばかり言って、すみませんでした」
「え? ああ、またそのことか。だから、俺はもう赤城を許しているって」
「今でも自分のことが許せないんです。
どうしてみんなにあんなひどいことをしてしまったんだろうって」
赤城の指には結婚(カッコカリ)指輪がある。赤城だけでなく
他の艦娘全員にもつけてある。例の離婚式はなかったことにして、
皆が平等に妻になることにした。だが、提督は赤城だけを特別扱いしている。
打算がなかったわけじゃない。赤城は怒らせたら一番やっかいな
存在だと知ってからは、彼女の気が済むまでお姫様扱いしてやるつもりだった。
最近では二航戦の飛龍あたりが爆発しそうなので、まもなく向こうの相手も
必要になるだろうが、まずは赤城だ。この大型空母は、艦載機の練度において
世界最強のため、本気で怒らせたら血みどろの戦争になってしまう。
「提督がしたくなったら、いつしてくれてもいいんですよ?」
素直になった赤城は、それはもう可愛かった。
長くて触り心地の良い黒髪は、
提督の手のひらで溶けてしまいそうに柔らかい。
艦娘の中でこれほど髪の手入れをしているのは赤城だけだった。
提督は赤城の髪に触れる度に、心が温まるのを感じていた。
「好きなだけ触ってください。
私は提督の指の感触、すごく好きです」
遠くで榛名が、自分の髪を一生懸命にとかしている。
提督は少しおかしくて笑いそうになる。
赤城は軽蔑した目で榛名を一瞬だけ見た。
グイイイン、と独特の音を響かせて、
自転車の群れがベンチの前を通り過ぎる。
日本ではどこにでもいるロードバイクの群れだ。
運動用のサングラスをしてジョギングをする30代くらいの男性。
犬の散歩をする老婆。いろいろな人が散歩道を行きかう。
海の地平線の先に、客船らしき大型船の煙突が見える。
ここにいる人たちは、頭に包帯を巻いた提督を誰も気にしない。
提督はこうして休みの日に鎮守府の外の世界を見るたびに思う。
鎮守府とは、あまりにも狭い世間に過ぎないのだと。
提督の視線は、ついミニスカートからはみ出ている赤城の
太ももにいってしまう。赤城と毎日夜を共にしているのに、
外の世界で健康的な足を目にすると、つい興奮してしまう。
赤城は提督の手を取り、スカートを少しまくって太ももを触らせた。
さすがに往来がある場所なので、何気なく太ももに手を置いた状態で
止まりはしたが、提督の心臓の鼓動が早まる。
赤城の方にも打算はあった。
提督はどうやら大型空母の大人っぽい体つきが大好きなようなので、
彼が求めている時は絶対に断らないようにしていた。
たとえ生理の時でも挿入以外の行為は全力で応じてくれた。
提督は翔鶴のことが大好きなようだが、翔鶴よりも身長が高くて
提督好みの黒髪の自分なら負けない自信があった。
赤城は提督に軽くキスをした。
「うふふ。続きは鎮守府に帰ってからしましょうね?」
「あ、ああ。ごめんな人前なのに」
「たくさん、しましょうね?」
「ああ。愛しているよ」
「私も愛しています。あなた」
ヒュンと、何かが飛んできて赤城の毛先を吹き飛ばした。
弓がヤシの木に刺さる。よく見ると海に翔鶴が浮いていて、
赤城を狙って弓を構えていた。困ったことに、隣には飛龍と蒼龍もいる。
飛龍が何かを言おうとしたが、蒼龍がそれを制して、海から移動して
ベンチまで歩いてきた。威圧するように提督と赤城の前に立ち、こう言った。
「私は必至で止めたんだけどさ、もうみんな、我慢の限界みたいだよ。
ぶっちゃけ私もそろそろ切れる三秒前くらいには来てる」
提督は、それだけでいろいろと察してしまう。
確かにみんなの見てる前で赤城だけとイチャラブしていたらこうなる。
翔鶴は以前のような殺意に満ちた恐ろしい目つきをしているし、
飛龍は瞳が真っ赤に染まり、頭の日の丸のハチマキをきつく縛り直している。
あの動作は、敵の正規空母を倒す時の動作だ。つまり本気だ。
「ってわけでさ、赤城先輩が二度と提督の隣にいられなくなるくらいに
ぶっ殺してあげたいんだよね。ちょっと危ないから提督はどいててくれる?」
いくら赤城が最強でも、日本を代表する三隻の空母を
相手にして勝てるわけがない。
「ふざけないで。私は絶対に彼の横を譲ったりしないから。
何よその目は? 後輩のくせに偉そうに。来るならかかってきなさいよ。
私は数の不利なんて気にするほどヤワじゃないんだよ」
赤城がベンチから立ち上がり、両手を握りしめる。本気の殺気だ。
さすがに歴戦の空母の蒼龍でさえ、その気合いにひるんだ。
ヒュンと、翔鶴の弓がまた飛んできて、赤城の左の腕をかする。
出血したので提督が騒ぐが、赤城は提督を冷静に制した。
「あの、二航戦のお二方に許していただけるなら、
榛名も参加してもいいですか?」
榛名が、赤城の真後ろに陣取った。
彼女は全力で赤城の艦載機を打ち落とす、むしろその前に
飛行甲板に36センチの主砲を叩きこんで発艦不能にすると真顔で宣言した。
さらに鹿島も陸地から姿を現した。普段の涼しげな瞳は消え去り、
深海魚を思わせる凶悪な目をしていた。大和から借りたらしい
46センチの主砲弾を両手で大事そうに抱えている。
これを持ったまま突撃し、赤城の飛行甲板に直接ぶち込むと言う。
「鹿島も赤城さんには死んでほしいと思っているんですよ。
もう赤城さんがお亡くなりになった後のお墓まで用意してありますから。
ちなみに死んだ後はみんなで宴会をしますからね」
こちらも本気だった。
「そんな脅しに一航戦の私が屈すると思ったか……?
ザコどもめ。貴様らが何人集まろうが烏合の衆と知れ!!」
赤城の気合いもすさまじい。だが提督はこう思った。
(武器はどうするんだ?)
赤城は私服だ。フード付きのカーディガンにロングスカートという、
全体的にひらひらした印象のフェミニンな衣装。ここには胴着も弓もない。
「安心して。赤城さんには私がいるじゃない」
「加賀さん……」
どこからか現れた加賀は、赤城に弓を手渡した。
これで一航戦の二人が協力して戦う体制が整った。
それにしてもここにいる艦娘が少し多すぎて提督は驚いた。
赤城と二人だけで散歩するはずが、
こんなにも多くの艦娘につけられていたのだ。
やはり彼の私生活は心の落ち着く暇がない。
「死になさいよデブスゥ!!」
鹿島が、つっこんできた。
赤城は摩擦で地面が焦げるほどの速さでステップを踏み、
彼女の攻撃を交わしただけでなく、すれ違いざまに膝蹴りを放つ。
鹿島は膝をつき、呼吸ができない苦しみと戦っていた。
赤城はとどめに彼女の脇腹を蹴り上げ、当分の間は戦闘不能にさせた。
「隙だらけですよ赤城さん」
今度は榛名の主砲弾が飛んできた。
加賀がとっさに赤城を突き飛ばして回避させた。
弾は背後にあった病院の一階部分に命中し、大爆発した。
硝煙が立ち上がり、ガレキとガラスの破片が周囲に散らばる。
ついに民間の施設にまで影響が出てしまったが、今はそれどころではない。
彼我の距離は近い。加賀は榛名に接近戦を挑むが、力量はほぼ互角。
太平洋戦争を終盤まで戦い抜いた榛名のフットワークは相当に軽く、
腕力では加賀が勝るが、速さで榛名の方が上だった。
提督には、彼女らの拳による攻防を視認することさえ困難だった。
「やるじゃない榛名。それに目つきがすごく怖い。
提督の前ではその顔しないんでしょう?」
「そういう加賀さんこそ、提督に従順なふりをするのが
得意ですからお互い様じゃないですか。
本当は前から榛名の事を殺したいと思っていたんでしょう。
ならちょうどいいですから、ここで決着を付けましょうか」
人間離れしたタフさに定評のあった現役時代の提督でさえ、
ここまでの体術をするのは不可能だった。
上空を零戦52型、烈風の大編隊が舞う。
蒼龍達が発艦させたものだ。
(今回の戦いでは燃料節約のため菊花は使用しなかった)
攻撃機の彗星がそれに続いて赤城を狙う。
軽く50を超える第一次攻撃隊は、榛名と格闘戦をする加賀を
無視して赤城に集中攻撃を食らわせるつもりだった。
「一航戦の実力を甘く見るな!!」
赤城から飛び立ったのは、彼女らの戦闘機より性能に優れる烈風改だった。
鹿島の妨害がった赤城には、戦闘機を全機発艦させる時間的余裕もなく、
飛び立つことができたのはたったの8機。これでは少なすぎた。
特設、蒼龍空母艦隊は、戦闘機を40機以上展開していたから、
戦闘機の数の上で5倍の優越がある。おまけに赤城は陸上にいるから、
海の上と違って機敏な艦隊運動ができない。陸上砲台のようなものだ。
赤城隊と、蒼龍艦隊の艦上機との間で格闘戦が始まる。
さすがに数の暴力には勝てない。赤城隊は半数が一瞬で撃破された。
残された4機は、ついには敵の戦闘機に突撃して相手の翼を叩き折る。
赤城の戦闘機部隊は7分で全滅した。
そのあと、彗星や旧式の九九式艦爆の群れが赤城の上空に飛来する。
赤城は対空機銃と得意の20センチ砲を斉射するが、敵は50機以上の群れ。
水平爆撃をして赤城に爆弾を命中させる。
赤城は身を挺して飛行甲板を守るが、敵はそこを集中して狙ってくる。
赤城は最強だが、飛行機さえ飛ばせなくなればどうということはない。
赤城の背中に爆弾が3発も落ち、吹き飛ぶ。そこへ容赦なく次の爆撃機が降る
赤城はまだ倒れるわけにはいかないと、震える手で大地に手を突いた。
歯を食いしばるが、血を吐いた。爆弾を食らった影響なのか、
歯の奥がむずかゆいと思ったら歯が折れていた。折れた歯を吐きだした。
さすがにひとりではどうしようもない。
そこで猛烈な爆撃の最中、なんとか相方を確認するが、
「加賀さん……?」
加賀は、翔鶴と榛名によってボコボコに殴られていた。
実は赤城は三隻に空母と戦っているつもりだったが、
実際に相手にしているのは二航戦だけあった。
翔鶴は赤城を攻撃するようにみせかけて単身で陸に上がり、榛名の格闘戦に加わった。
翔鶴は面白がって艤装を使わなかった。
うつ伏せに倒れた加賀に翔鶴が馬乗りになっており、
加賀の前髪をつかんで持ち上げている。ブチブチと加賀の髪が毛先から
抜けかかる音がする。奴隷にされたことを根に持つ翔鶴には快感だ。
そこで榛名が容赦なくパンチを食らわせて、加賀の美しい顔を変形させていく。
戦艦榛名の握力は半端ではなく、一撃食らわせる度に提督のように
顔面を変形させるほどの破壊力を持つが、加賀は元戦艦のため耐久力が高いため
そこまではいかなかった。だが、加賀は生まれてからこんなにも
痛いパンチを食らったことがなかったため、榛名に対して本気で恐怖した。
「はるな……。私が……悪かったわ。私の負けよ。もうやめてちょうだい」
「あれれぇ。この程度のお仕置きで弱気になっちゃったんですか?
いつもの強気な最強の一航戦様はどこに行ったんですか。
ねえ翔鶴さんもそう思いますよね?」
翔鶴はにっこりと笑い、加賀の左腕を固めて、肩の関節を外そうとした。
「いっ……!? や、やめっ。本当に関節が外れちゃうわ!!」
「許してほしかったら、ちゃんと謝ってくださいよ。
私たちを奴隷にして離婚式までさせたことを謝ってくださいよ」
「その件ならとっくに謝ってるじゃない!!
私は赤城さんに反対してまで離婚式を取り消したのよ!!」
「その割には今日は赤城さんをかばってますよね。
赤城さんに弓まで渡して、なんのつもりなんですか?
結局加賀先輩は私たちの邪魔をしたってことですよね?」
「あ、赤城さーん!! 無事だったら私を助けてえええ!!」
加賀の叫びもむなしく、全身に大やけどを負った赤城は、
大往生し、飛龍に足蹴にされていた。長い黒髪を飛龍が
忌まわしそうに踏む。蒼龍が唾を吐き、赤城の頬を汚す。
普段の優しい蒼龍なら絶対にしない下劣な行為だった。
提督はこの惨状を今まで黙って見守っていたが、
無言で赤城の体を抱きしめ、涙を流した。
「提督、お仕置きの邪魔だからどいてよ」
と飛龍が言うが、提督は答えない。
蒼龍が深くため息を吐き、その場から移動して加賀の現場に言った。
加賀は翔鶴の前で土下座させられ、頭を足蹴にされていた。
蒼龍が翔鶴の耳元で何事かささやき、縄を用意して加賀を後ろ手に縛り付けた。
縛るのは榛名が手伝ってくれたのですんなりできた。
飛龍は「邪魔だから」と言って提督を軽く突き飛ばし、赤城も後ろ手に縛った。
赤城と加賀を横に並べて、手ぬぐいで目隠しをする。
そして拳銃を取り出し、二人を銃殺刑にすると言った。
艤装を外された一航戦の二人は、今では普通の女の子と変わらない。
拳銃で頭を撃ち抜かれたら、本当に絶命してしまう。
提督が必死にわめくが、
「提督が、こいつらのことばっかり特別扱いするのが許せない」
と蒼龍と飛龍が言う。当初の約束では一航戦と二航戦で提督と仲良く
暮らしつつ、榛名を中心とした裏切り者は抹殺するはずだったが、
加賀はどの約束も守ってくれなかった。
飛龍は加賀を恨み、蒼龍は提督と仲良しの赤城を恨んだ。
同時に二人は榛名を殺したいほど憎んでいたから、
「二航戦の私たちが人殺しをするのは気が引ける。お前が代わりにやれ」
「はい!! 喜んでやります!!」
榛名が引きつった笑みで拳銃を受け取る。
実はこの時点で制裁側に回った艦娘は、ある程度冷静になっていた。
実は赤城にお仕置きしたいと言い出したのは飛龍だったのだが、
殺すとまでは言ってなかった。事の成り行きで文字通り殺してやろうと
思ったわけだが、実際にやるとなると怖くなった。
蒼龍は飛龍の付き添い。翔鶴も似たようなものだ。
榛名と鹿島は現地での協力者であり、計画にそもそも参加していない。
まさか本当に殺すのかと榛名の奥歯が噛み合わなくなる。
そもそも、提督は過去に一度死んだ一航戦の二人を
あれだけ想い続けていたのだ。こんなことをしても
最悪の結末になることは目に見えている。
「なあおまえら……教えてくれ。なぜなんだ?
なぜ最後はこうなってしまうんだ?
俺が悪いのか? 俺が赤城とイチャイチャしてたのが
そんなにもお前らの気に障ったのか? なあ教えてくれよ!!」
提督は心から願った。暴走した娘達を止める力が自分に宿ればよいと。
戦いで片腕を失い、鍛錬もしていない彼はあまりにも無力の存在だった。
「い、いえ、榛名はその……飛龍さんに頼まれたので!!」
「ならやめろよおお!! なんでお前は拳銃を持ってるんだよ!!」
「で、ですから……。榛名の意志ではなくて、ですね」
榛名は飛龍の方をチラチラと見る。飛龍は気まずそうに眼をそらす。
なるほど。この流れなら殺さなくていいのではないかと思い始めた。
提督が急に吐血した赤城にさらにショックを受け、
片腕だけで後ろ手の縄をほどこうとする。どうにも縄がきつくてほどけない。
提督が、少しでも彼女の苦痛が収まればよいと思い、
ハンカチで彼女の血だらけの顔をふいてあげた。
赤城は目を閉じながら泣いていた。
修羅場でも二人の間に甘いムードが流れる。
「死ね」
そこへ、翔鶴が握りしめた弓を赤城の太ももに刺してしまう。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!
いたい!! うわあああああ!!」
ドクドクドクと患部から血が噴き出ていく。矢じりのついた
弓は簡単には抜けないようになっている。応急措置を取らないと
赤城は二度と歩けない体になってしまう。
「なぜなんだ翔鶴!! おまえはなぜここまで残酷になれるんだ!!
お前は障碍者になった俺をあんなにも献身的に介護してくれたじゃないか!!
そんなお前がなぜ赤城をここまで痛めつけられるんだ!!」
「正直、自分でもよくわからないんです。提督の介護は……別に感謝されるほどの
ことじゃありませんよ。愛する人を大切に思うのは当然のことですから。
でも赤城みたいに提督に愛されようと必死になってる女を見るとイライラして
つい殺したくなっちゃうんです。女なんてこんなものですよ」
翔鶴はせめてもの情けとして、赤城をすぐ近くにある病院に連れていくと言った。
だが、病院は榛名の主砲弾を受けて一階部分がひどいことになっている。
もう何がどうしていいやら、提督は分かりかねていた。
そこへ大和や由良たちが駆けつけて、醜い争いは終わりになった。
赤城は病院にはいかせず、艦娘らしくドッグに入居して治すことにした。
そうしたら普通に傷が癒えた。加賀も同じだ。
二人は2週間以上の期間をかけて完治した。
提督が二人の無事を見て安堵するとともに、
いい加減この鎮守府を出ていこうと決心するのだった。