※この作品はR-18です。

「大和の愛から逃げ続けたらどうなるのか?」   作:なおちー

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提督が真顔で辞表を書き始めた。

季節は10月の半ばを過ぎ、さすがに日中に半袖姿で外を歩く人は

いなくなった。朝は小鳥が元気に鳴くようになり、

涼しい風が吹き荒れる。風の強い日は、それはもう海が荒れたものだ。

 

 

早朝。鹿島が提督の寝室の扉を開く。

あれから二週間、提督はどの艦娘とも寝なくなったので一人だ。

0527。提督はいつもの起床時間の直前で、まだ深い眠りについていた。

 

鹿島は丁寧にカーテンを開くが、まだ外は薄暗い。

提督の目覚まし時計がそろそろ鳴るかなと思ったら、

提督がむくりと半身をベッドから起こした。

 

そしてパジャマ代わりの長袖の肌着を脱いで、

自分で白のタンクトップを着始めた。鹿島は目を見開いた。

あの提督が、自分で服を着ているのだ。

 

よく見ると提督の顔は、依然見たあの美男子の顔に戻っている。

障害の様子は全くなく、整った魅力的な唇がそこにある。

鼻が曲がってもいない。さらに腕がしっかりと両方ある。

 

「悪いが俺の世話をするのは今日で最後にしてくれないか。

 俺はな、もうお前らの相手をするのが疲れちまった。

 神と新しい契約をしたんだ」

 

――俺が二度と艦娘の指揮をとらない代償として、元の体に戻してくれってな。

 

「今まで色々としてくれてありがとうな。そしてさようなら」

 

提督は朝一で衣類の入ったドラムバッグを肩にかけ、

そのまま玄関から出ていこうとしていた。

 

鹿島は提督の背中にしがみつくが、うっとおしそうに

どかされる。それでも鹿島は諦めずに、また提督の背中にくっつく。

提督が怒声を上げるが、まだあきらめない。

 

ついに提督が鹿島の髪をひっぱり、ビンタまでした。

それでも鹿島は提督にしがみついた。

 

提督は、もう注意するのも疲れたので、鹿島を引きずりながら

鎮守府の庭を歩いた。門まであともう少しなのだが、弓道場にいた

翔鶴が目ざとく発見し、提督に駆けよって血相を変える。

 

「その大荷物はどうしたんですか? 

 旅行ってわけじゃなさそうですし、

 まさか出ていこうとしているんですか?」

 

提督は答えず、鹿島を引き釣りながら歩き出した。

なんともシュールな光景だが、翔鶴からしたら全然笑えない。

 

翔鶴は女のカンで彼が本気で仕事を辞めようとしていることを悟った。

 

「提督!! ちょっと止まってくださいよ!!

 少しでいいですから訳を話してください!!

 提督は今怒ってるから、冷静さを失っているから、

 本心じゃないんですよね!! 

 本当にわたしたちを捨てるわけじゃないですよね……」

 

「そのまさかだよ。翔鶴」

 

提督の整った顔を久しぶりに見た翔鶴は、こんな時なのに

うっとりしてしまう。彼の瞳は美しい琥珀色をしていて、

どんな女性でも一目で虜にしてしまうほど美しかった。

怒っているその顔すら、翔鶴にとっては芸術品のように感じられた。

 

「おい翔鶴。俺の後ろにしがみついてる鹿島をどかせ」

 

「えっ」

 

「どかせと言ったんだ」

 

「は、はいっ。すぐどかします!!」

 

翔鶴は遠慮なく鹿島を蹴飛ばした。

 

「じゃあな」

 

と言い、提督は全力で疾走した。

 

彼は一瞬で門の外へと走り去り、

翔鶴がすぐに追いかけても後姿さえ見えなかった。

 

 

「ていとくぅぅぅぅ!!」

 

 

翔鶴は涙を流しながら、横須賀中を駆け回ることになる。

この悲しみはすぐに鎮守府内に知れ渡った。

 

 

大和、由良、秋月、間宮は食堂に集まり、今後のことを考えた。

最初の妻となった大和は、皆を諭すようにこう言う。

 

「わたしたちの夫は、たまにこう言う時があるから。

 こっちから探しに行くより、ほとぼりが冷めるのを待った方がいいわ。

 アフガンに逃げた時だってちゃんと帰ってくれたでしょう?」

 

しかし納得できなかったのは榛名を初め、一航戦や二航戦の面々だ。

彼女らは艦載機を飛ばして直ちに捜索を開始するが、半日かけても見つからない。

 

実は彼は逃げてなどいなかった。街を歩いても山に登っても上空の飛行機に

見つかるのは分かりきっている。だから鎮守府から一番近い場所にある

喫茶店に入っていた。読書や書き物をするのに最適な閉鎖的なお店であり、

できるだけ目立たない席に座り、ノートパソコンを開いていた。

 

新幹線チケットの予約を取るのだ。まずは神奈川を超えて

東海地方まで逃げてから、再就職先を探そうと思っていた。

だが最近はストレスがたまりすぎたので仕事のことを忘れて遊びたいと思った。

 

とりあえず熱海あたりを観光するかと思ったが、富士の樹海も悪くない。

今の気分なら樹海の方がいい。自殺するわけでなく一般観光用の遊歩道を

歩くだけだ。提督は今までに色々なことがあったが、死ぬつもりなど全くない。

むしろ第二の人生を歩みたいと思っていた。

 

彼を癒してくれる恋人も欲しかった。もちろん艦娘以外で。

 

「相席してもよろしいですか?」

 

涼しげな声が聞こえた。提督の良く知っている艦娘の声だ。

 

「おまえ……」

 

「こんなところにいたんですね」

 

「翔鶴はどうやって俺がここにいるとわか……

 いや、もうどうでもいい。

 俺は提督を辞めたってことは理解してるんだよな?」

 

「大本営に辞表が受理されてなければ、

 まだ辞めたことにはならないのでは」

 

「今回はそういう問題じゃないんだ。俺は神と契約しちまったんだ。

 大好きな鎮守府での生活を完全に捨て去る代わりに、元の体を

 手に入れた。だからな、もうどうしようもないんだ。

 俺は二度とお前たちの提督に戻ることはできないんだよ」

 

「そうでしょうか?

 神様とまた新しい契約を結べいいのではないですか」

 

「簡単に言ってくれるな」

 

「できるかできないかで言えば、たぶんできますよね。

 違いますか? 私が今こうして現生に蘇っているように、

 神の奇跡に限界などない。そうですよね? 違いますか? ねえ?」

 

翔鶴が涙を流しながら訴える。

この独特の圧迫感。病んだ艦娘に特有のものだ。

提督が今までの生活で幾度となく味わった恐怖。

 

「私があれだけ提督の介護をしてあげたのを忘れたのですか?

 別に感謝してほしかったわけではありません。でも提督が私たちを

 捨てて出ていくのって、あまりにも勝手が過ぎませんか。私が

 提督の子を身ごもっていることを知ってて、それでも逃げるって言うんですか?」

 

翔鶴から放たれるプレッシャーによってお店のレジスターに

電流が走って故障してしまい、騒ぎになる。翔鶴の銀色の髪は

重力に反して逆立っており、もはや一触即発の状態となった。

 

提督はここで下手に翔鶴を突き放すよりも、

むしろ味方になってくれた方が逃げるのに有利ではないかと考えた。

 

「ならお前も艦娘を辞めちまえ」

 

「え?」

 

「俺も翔鶴も、今この瞬間からただの一般人になるんだ。

 俺は34歳の男。無職。お前も無職。年は何歳だか知らんが、

 見た目的に20歳くらいか? いっそ俺と結婚でもするか」

 

「け、けっこん!?」

 

「ああ。結婚して本当の夫婦になってから再就職先でも探すか。

 あまりお店で言うことじゃないが、俺はそれなりに貯金がある。

 今まで使う暇もなくて貯め込んでいたから、ざっと400万くらいかな」

 

「そんなにお金があるんですか。そ、それより結婚って」

 

「俺な。お前の顔がすげー好みなんだよ。それに俺の介護を一番頑張って

 くれたのは翔鶴だったもんな。家事も全部できるし努力家で頭も良いし、

 まあ妻にするのに不満はないよ。カッコカリじゃなくて市役所に提出する

 タイプの、マジの結婚をするか」

 

自らの位置情報を知らせるスマホは海の中に投げ捨ててある。

今頃大和からの連絡がすごかったことだろう。

 

提督は大和との間に結んだのは

カッコカリの契約であり、他の妻とも同じだ。

 

しかし実の娘(大和。母と同じ名前)までいるのに、

翔鶴と本当に結婚するなど不誠実だと思われるだろうが、

病んだ艦娘同士で血みどろの殺し合いまで見せられているのだ。

倫理観や常識など、とうに破綻していた。

 

「俺は翔鶴が好きだ。俺と結婚しろよ。プロポーズの返事はどうした」

 

「は、はい!! 喜んでお受けします!!」

 

翔鶴は対面側の席から、提督の真横に座り直し、彼に密着した。

 

いつもの展開だと、そろそろ空母艦載機がお店を襲撃する頃だと思われた。

だが意外なことに何も起きなかった。上空にプロペラ機の轟音が

鳴ってはいるがこの店には爆弾が落とされる様子はない。

また榛名や由良がお店に主砲弾を撃ち込むこともなかった。

 

お昼時だったので、ふたりはお店自慢のカツサンドを食べた。

提督の食欲はすごかった。副食に大きなコロッケを二つも頼み、

サラダも食べたがまだ足りないので、バターロールを三つ頼んでから

エスプレッソを飲む。

 

さすがにお金がもったいないので食後のデザートはふたりで

一つのパフェを半分にして食べた。そうしたら、翔鶴がパンケーキを

食べたそうにメニューをチラ見していたので提督が注文してあげた。

翔鶴は急な提督捜索のため持ち合わせがない。当然提督が支払う。

 

食後、口元を上品に紙ナプキンでふきとる翔鶴。

提督はその姿を見て無性に翔鶴が抱きたくなってしまった。

 

「顔色が優れないようですが……大丈夫ですか?」

 

「最近色々とたまっていてな。ついイライラが顔にでちまうんだ」

 

とりあえず、夜になるまでこのお店にいることにした。

日中の外に出たら高い確率で艦載機に見つかる。

空母の弱点は夜間だ。それは戦艦や巡洋艦も変わらない。

 

それにしても提督は翔鶴が抱きたくて仕方なかった。

初めてこの艦娘を見た時から好きになっていた。

 

妹の瑞鶴は子供っぽくて好みではなかったが、

翔鶴は顔立ちからスタイルまですべてが好みだった。

特に胸の形と大きさが素晴らしかった。

 

それを知らない翔鶴は、まさか提督が自分を捨てて逃げる算段でも

立ててるんじゃないかと疑心暗鬼になる。障害者の時ならともかく、

今の提督は惚れ惚れするほど美しい男だ。月を照らす太陽のような男だった。

 

彼は自分をおじさんだと言うが、顔立ちも若くて筋肉質で

余計な贅肉がないから、むしろ20代に見える。経緯はどうであれ、

翔鶴は彼からプロポーズされたことで完全に高揚していた。

 

 

「あの!! すみませんが、私の連れの男性がここに来ませんでしたか!!」

 

 

榛名の声だった。とっさに翔鶴が自らと提督をテーブルの下に隠す。

レジの前にいる女性店員は、榛名から提督の顔写真を見せられて

思い当たる節があったものの、ニコニコと笑いながら

「そのようなお客様は見ておりません」と答えた。

 

「そうですか!! すみませんでした失礼します!!」

 

榛名は憤慨して出て行った。

 

提督は命を救われた。

 

なぜ女店員が都合の良い受け答えをしたのかと言うと、提督は顔が良いから

入店した時からお店の注目を浴びていたのだ。そして提督が大胆にも

店内でプロポーズをしてたのを目撃した。だから榛名が恋敵かなにかと

勘違いして、若い新婚さんのために気を使ってくれたのだ。

 

実は榛名がここでしっかりと店内を見回していれば、

テーブルの下に不自然に隠れている男女が見つかったはずなのだが、

現実とはなんとも残酷なものだ。

 

 

提督は夜になってから一番近くにあるラブホテルに移動した。

最短時間(2時間)の利用料金を払い、翔鶴の体を味わった。

 

「ああんっ……提督っ……!! 愛してますっ!!」

 

翔鶴はいつもより激しく乱れ、ホテル中に響くほどの喘ぎ声をあげた。

提督は赤城と一週間近くも相手してたから、翔鶴の体を見るのは

久しぶりだった。肌が透き通るように白くて、銀色の長髪が輝いている。

 

妊娠をしてもうすぐ3か月経つのだが、お腹にほとんど変化がない。

翔鶴は全身がくまなく鍛えられているから、腹筋の強さで

まだお腹が出てこないのだろうと提督は思った。

彼女に引き締まった太もも、細いウエストが提督をさらに興奮させる。

 

翔鶴は提督の上にまたがり、熱い口づけをした。

 

「愛しているよ翔鶴」と提督が真剣なまなざしで言うと、

翔鶴のアソコがまた濡れる。翔鶴をベッドに押し倒し、

彼女の乳房の間にペニスを乱暴に押し込む。

翔鶴は自分の胸をもんで強く挟み、提督がイクのを手伝ってあげた。

 

「うっ……」提督が翔鶴の頭をつかみながら発射した。

翔鶴の鼻を中心に白い液体が飛び散った。

 

翔鶴は、精液を指でからめとり、愛おしそうに舐めとる。

その姿にますます興奮した提督は、翔鶴の顔もふかずに

股を開かせ、愛液でいっぱいになったそこに舌をはわせた。

 

「あん……くすぐったい……」

 

割れ目をしっかりと開くと翔鶴が顔を真っ赤にして目をそらすが、

提督はその部分をしっかりと観察した。エッチな液体でテカテカと

花びらの内側が輝いている。提督は指を押し込み、すぐに取り出して

翔鶴の味を堪能した。とても美味しくはないが、濃厚でエッチな味がした。

 

「じらさないでぇ。早く入れてください」

 

「わかったよ。もう妊娠してるから中で出すのを遠慮する必要もないしな」

 

「わ、私は実は妊娠してないんです」

 

「えっ? だっておまえ、7月くらいに妊娠したって」

 

「あれは、妻全員で口裏を合わせた嘘なんです。

 あんなに一度に全員が妊娠するわけないじゃないですか。

 榛名さんだけは本気にして焦ってましたけど」

 

「そういえば榛名は自分だけ妊娠できないって騒いでたな。

 なんで榛名にだけ秘密にしたんだ?」

 

「さあ、理由はないですよ。たぶん榛名さんにだけ

 連絡がいかなかったんじゃないですか」

 

それって仲間外れにしただけだろ、と提督は突っ込みたいのを

我慢した。榛名はアフガン拉致事件の実行犯だから妻の間でも

下の扱いだったのだろう。女同士の見えざる上下関係である。

 

提督はペニスを挿入し、激しく動き始めた。

 

「あっ……すっ……すごいっ……こんなに激しいなんてっ……」

 

「片腕の時とは動きが違って当然だ。あーお前の中、暖かくて

 締まりが良くて最高だな。すぐにでも出ちゃいそうだ」

 

「ていとくっ!! すぐに……んっ……出してくださいっ!! 

 遠慮せず……んっ……翔鶴の中に、全部出しちゃってください!!」

 

提督は翔鶴を起き上がらせ、正面から抱き合ってキスをした。

その間も挿入は続けらている。翔鶴は提督にまたがって

自分から体を上下に動かし、荒い息を吐き続けた。

 

互いに好みの顔が目の前にあるので興奮の絶頂にあった。

「あ……あーーっ。だめっ……」先に翔鶴の方が達してしまうが、

提督が出すまでは休むわけにはいかない。一度ペニスを抜くと、

翔鶴の秘所からドバッと溜まっていた愛液がこぼれる。

 

提督は翔鶴の女の部分にまたペニスを挿入し、奥まで付く。

子宮を意識しながらどんどん奥まで付いてあげた。

 

「んっ……んっ…………提督は……まだイかないんですかっ……」

 

「さっきたくさん出したばっかりだからな。もう少し時間がかかるんだよ」

 

翔鶴が提督の首の後ろに手を回し、力なく彼に寄っかかっている。

ギンギンになったペニスは奥まで入れたままの状態で。

疲れた二人はその状態で動くのをやめ、舌を絡めさせた。

 

提督が翔鶴の歯の裏を舐めとり、たっぷり出てきた唾液を

舌でとって飲み込む。翔鶴の方も提督の唾液を吸い続けた。

たまに鼻同士がぶつかると、少し角度を変えてからまたキスをした。

 

「本当は……おまえと喫茶店で食事してる時から、

 こうしたくてたまらなかったんだ」

 

「そうだったんですか? 私は提督が怒ってるように見えたから

 不安だったんですよ。翔鶴といるのが嫌なんじゃないかって」

 

「そんなわけあるか。嫌いな奴にプロポーズなんてするかよ」

 

「それを聞いて安心しました」

 

「あ……出る」

 

「えっ!! あっ……すごい……生暖かいのが、入ってきます……」

 

他のどの艦娘とやった時よりもたくさんの量が出た。

二度目とは思ないほどの量で、匂いもいつもより濃かった。

 

翔鶴が提督の上から立ち上がると、精液が股の間からこぼれた。

翔鶴は鼻を突く精液独特の匂いに嫌な顔一つせず、

満面の笑みで提督にこう言った。

 

「今回は本当に妊娠したかもしれませんね」

 

「もし妊娠したら、ちゃんと生んでくれよな」

 

「もちろんですよ。愛する旦那様の子ですから」

 

翔鶴の笑みの中に、薄暗い感情が込められているのを提督は察した。

暗に、ここまでして逃げたらどうなるか分かっているのかと

言っている気がした。もちろん気のせいだと信じたいが、

翔鶴を本気で怒らせたら赤城の太ももを矢で刺すほど凶暴だ。

 

いつまでもホテルにいたら艦娘に見つかる恐れがあるため、

シャワーでお互いの体を綺麗にした後、

すぐにタクシー会社に電話をした。

 

深夜のタクシーだ。深夜料金は距離と時間の両方に2割増しの

料金がかかるため、信じらないほど割高となる。

 

ホテルから出た後は、周囲を警戒する。

 

提督はチェックの青いポロシャツに濃紺のジーンズ姿。

変装用に大きな丸眼鏡をしている。もちろん伊達だ。

 

翔鶴は首元の開いたベージュのセーターに、赤いロングスカートと

外見通りの清楚な姿。変装のためウール素材の探偵帽を深くかぶる。

 

外に出てからも、翔鶴は汗ばむほど提督の手を握り続けている。

彼を信じてあげたいが、たくさんの前科があるので

脱走する可能性がないとは言い切れないのだ。

 

翔鶴にとって怖いのは、提督に捨てられることだ。

空母艦載機の攻撃で飛行甲板を燃やされることよりも、

その方が100倍も恐ろしいことだった。

 

提督はそんな翔鶴の気持ちを察し、

耳元で「愛しているよ」とささやいた。

翔鶴が耳まで真っ赤に染まり、満面の笑みになる。

 

とまあこんな具合なので、この二人は

世間的には普通のカップルに見えることだろう。

夜間なので相当な視力がないと二人の正体に気づかないはずだ。

 

 

「お客様。どこに行きますか?」

 

「静岡県の方へ走り続けてくれ」

 

「静岡ですか……。となると高速で?」

 

「そうだ」

 

「ここから50キロ以上離れた場所となると、

 弊社ではご案内できない決まりとなっております」

 

「そうか。じゃあちょっと考えさせてくれ。

 これからどうするか悩んでるんだ」

 

「分かりました。タクシーはこのままにしておきますので、

 ご自由にお考え下さい」

 

提督は、タクシーを使って県外に逃げようと思っていた。

電車や新幹線などの公共交通機関では、艦娘のスパイ網に

引っかかる可能性が高いので避けたかった。

 

だが様子がおかしいことに翔鶴が気づいた。

 

「あの運転手の男性、どこかで会ったような気が」

 

運転手は、携帯で誰かと通話している。

緊急の案件なのか、ずいぶんと早口で顔つきが険しい。

その男の正体は、横須賀にいた陸軍の憲兵だった。

 

榛名らが、提督がタクシー会社を利用する可能性を

考慮し、運転手として派遣された刺客だった。

ちなみに彼の子供は横須賀鎮守府に人質として

軟禁される形で脅迫されていた。

 

このように、町のいたるところに艦娘によって

派遣されたスパイ網が形成されていたのだった。

 

 

「そこのあなた。どこの誰と連絡をとっているのですか」

 

「な……うわああああ!! やめろおお!!」

 

翔鶴は携帯を握りしめて粉砕した。

ついでに憲兵をジャイアントスイングして7キロ先まで

吹き飛ばしてやった。憲兵は、たままた道路を通行中の

トラックに激突して吹き飛んだが、提督夫妻にはどうでもいいことだ。

 

「よくやってくれたぞ翔鶴。この車に乗って逃げちまおうか」

 

「提督は運転はできるのですか?」

 

「18の時に免許を取ったが、すっかりペーパードライバーだな。

 まあ一応マニュアルの免許を持ってるし、オートマなら楽勝だろ」

 

奪ったタクシーは高速道路を走った。

久しぶりの運転で、しかも夜間で視界が制限される。

永遠と道なりに続く高速道路の街灯が、

なんとも無機質で非現実的なものに映る。

 

たまにタクシーの無線が鳴るので「本日も晴天なり」と言って電源を切った。

翔鶴がくすくすと笑う。のろのろと走るタクシーの横を、大型トラックが

難題も通り過ぎていく。ターボエンジンをふかしてかっ飛ばす軽自動車もいた。

 

時計は21時過ぎを指す。平日だ。改めて、

こんな時間でも高速を利用する人間がけっこういることに驚く。

 

時速80キロを維持して提督はアクセルを踏み続ける。

運転はもう一年以上していないのに高速道路である。

砲雷撃戦の経験のある提督でさえ、戦闘とは違う恐怖に冷や汗をかいた。

 

助手席に座る翔鶴が、彼を落ち着かせるために

優しく声をかけてあげた。

 

「この時間なら交通量が少ないですから、

 一番左側を走っていれば大丈夫ですよ。

 疲れたらパーキングに寄って休憩しましょう」

 

「ありがとう。君は全然焦らなくて助かるよ」

 

彼の妻は鎮守府で生まれ育った艦娘にしては高速道路の

知識があることに驚いたが、あえてその点は突っ込まないでおいた。

 

「私だって焦っていますよ。今この瞬間に上空から爆撃されたら

 本当に死んでしまいます。でもこういう時こそ冷静にならないと

 いけませんよ。緊急時に焦るなって提督がいつも

 おっしゃっていたじゃないですか」

 

「そうだったかな。……はは。今の俺はもう提督じゃないからな。

 今の俺より翔鶴の方がよっぽど立派だよ」

 

「いえ!! そんなことはありませんよ」

 

「プロポーズしておいてあれだが、本当に俺でいいのか?

 働き慣れた鎮守府を辞めて見知らぬ土地で新しい生活を

 するっていうのは、全然楽なことじゃないんだぞ」

 

「確かに私は世間を知りません。でも提督と一緒なら、

 どこへでも着ていきますよ。それこそ世界の果てまでも」

 

その思いが本当に揺らぐことはないだろうか。

提督はそう思いながらハンドルを握った。

 

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